宅地建物取引業者をめぐる諸判例(十一)
その他のタイトル Cases on the Real Estate Brokers (11)
著者 明石 三郎
雑誌名 關西大學法學論集
巻 45
号 4
ページ 946‑1014
発行年 1995‑10‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00024586
︻ 判
決 ︼
X
は
Yに土地建物を売渡すこととし︑仲介業者の媒介によって交渉を重ね︑
X︑
Yがそれぞれ代金額を記載した売却証明
害︑買付証明書を相手方に交付し︑国土利用計画法の手続後に売買契約の細目について協議した上で売買契約書を作成することと
していた︒そしてこれに基づき︑国土法の届出がされたところ︑行政庁から国土法に基づく不勧告通知がなされた︒
Xは
Yに 売 買
契約の作成を求めたが︑
Yがこれに応じないため︑
Yの債務不履行を理由として︑売買契約を解除したうえ︑
Yに対し損害賠償を
請 求
し た
︒
書及び売却証明書を授受した昭和六三年八月二五日までに︑本件不動産の主要な売買条件について概ね合意に達してはいたものの︑
細目についてはなお協議の余地を残し︑これについては国土利用計画法二四条一項又は三項の規定に基づく墨田区長の勧告又は不
勧告の通知を受けた後に協議を尽くして︑後日これに基づいて売買契約書を作成することを当初から予定していたものであること︑ ︻
事 実
︼
事例買付証明書及び売却証明書の作成・交付があったにすぎない場合において土地建物の売買契約の成立を否定した
﹁以上のような事実関係に照らして︑先ず︑本件不動産の売買契約の成否について検討すると︑原告と被告は︑買付証明
向
明 宅地建物取引業者をめぐる諸判例
g︹資料︺
関 法
第四五巻第四号
石 九四︵九四六︶
郎
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口 は︑いずれも理由がない︒
九 五
もともと︑買付証明書又は売却︵売渡︶証明︵承諾︶書は︑不動産取引業者が不動産取引に介在する場合において︑仲介の受託者
たる不動産取引業者の交渉を円滑に進めるため︑委託者又は相手方が買付若しくは売渡しの意向を有することを明らかにする趣旨
一般的にはそれが売買の申込又は承諾の確定的な意思表示であるとは考えられていないこと︵甲
第三号証によれば︑原告が作成して被告に交付した前記の売却証明書には︑﹁本証の有効期限は昭和六三年一 0 月三一日までとす
る︒﹂との記載があることを認めることができ︑それが右にみたような通常の例に漏れないものであることを窺わせる︒︶︑さらに︑
本件土地は︑国土利用計画法二七条の二の規定にいわゆる監視区域に所在し︑その売買等については同法二三条一項の規定に基づ
<墨田区長に対する届出を必要とするものであって︑右の届出をしないで本件土地の売買契約を締結し又はその予約をした者に対
しては同法四七条一号の定める罰則の適用があるものであることなどに照らすと︑本件不動産の売買条件等をめぐる原︑被告間の
口頭によるやりとりや前記の買付証明書及び売却証明書の授受は︑当時における原告又は被告の当該条件による売渡し又は買付の
単なる意向の表明であるか︑その時点の当事者間における交渉の一応の結果を確認的に書面化したものに過ぎないものと解するの
が相当であって︑これを本件不動産の売買契約の確定的な申込又は承諾の意思表示であるとすることはできないものというべきで
あるし︑前項に認定した事実関係をもっては未だ原︑被告間において本件不動産の売買契約の成約をみたことを認めるには足りず︑
他にはこれを認めるに足りる証拠はない︒
したがって︑右売買契約が成立したことを前提として債務不履行による損害賠償を求める原告の第一次的請求及び第二次的請求
また︑原告は︑被告が契約締結の過程において信義則に違反し又はその所為が不法行為を構成すると主張するけれども︑先に認
定したとおりの本件不動産の売買契約の締結交渉の一連の過程における被告の所為は︑契約過程における諾否の意思決定の場面に
おける対応として取引通念上許容される範囲を逸脱するものとはいえず︑そこに信義則に違反して原告の期待的利益を不当に侵害
したとか︑他の取引希望者との交渉︑契約締結の可能性を不当に制約したものと目すべき点を見いだすことはできず︑それが不法 で作成されるのが通例であって
︵ 九
四 七
︶
第四五巻第四号
︵九
四八
︶
行為
を構
成す
るも
のと
いう
べき
余地
もな
いか
ら︑
不法
行為
によ
る損
害賠
償を
求め
る原
告の
第三
次的
請求
及び
第四
次的
請求
も︑
いず
れも
失当
であ
ある
︒﹂
︵東
京地
判平
二・
︱ニ
・ニ
六金
融・
商事
八八
八号
ニニ
頁︶
不動産の売買について︑先づ両当事者間で売主が売渡承諾書︑買主が買付証明書を出して交換し︑後日本契
約書を作成すると合意したが︑結局契約書作成に至らなかった場合に︑果して売買が成立したと認めうるか否かが争
われた例が多い︒特に最近は国土利用計画法二三条との関係で先ず右文書の交換をして知事の不勧告通知があった後
に本契約書を作成するとしておきながら︑不勧告通知があったのに売買契約書作成を拒むこともある︒判例では︑国
土利用計画法と関係し︑または無関係に売買成立を否認した例が幾つかある︒①東京地判昭和五九・︱ニ・︱二判タ
五四八号一五九頁、②東京地判昭和六五・――-•二九判夕六七五号一七四頁、③大阪高判平成ニ・四・ニ六判時一三八
三号一三一頁︑④名古屋地判平成四・一0・ニ八金融・商事九一八号三五頁などであるが事実関係は異る︒①は目的
家屋上の借家人の立退確約書が得られなかったため︑②は買主の金融がえられなったため︑③は買付証明書発行が虚
偽の意思表示だったため︑④は国土利用計画法にもとづく不勧告通知がある前の契約は禁じられているため︑などそ
れぞれ事情は異る︒本来わが民法上は売買は諾成契約であって本契約書作成をまたないで成立しうるのが原則である︒
したがって︑売渡承諾書と買付証明書を交換するとき︑売買代金額︑目的物︑引渡方法等重要事項について一致して
おれば︑細部事項については︑それが要素ないし条件となっていない以上は売買の成立を認めるべきであろう︒右証
明書の交換が何等の拘束力を持たないとするのは妥当でなく︑少くも双方は売買成立に向けて誠実に努力すべき信義
則上の義務を負うと解すべきである︒特に価額の急速な上昇または下降の傾向がある世情のもとにあっては︑思惑売
りや思惑買いのために右証明書を交換しておきながら都合が悪くなれば売買不成立を主張することを許す結果となり ︳評
釈︼
関法
九六
︻ 判
決 ︼
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口 くなったのだから返還を要しないと主張した︒ か
ね な い
︒ 本 件 で は 主 要 な 売 買 条 件 に つ い て は 概 ね 合 意 に 達 し て い た の で あ る か ら
︑ 当 事 者 は 細 目 に つ い て 誠 実 に 協 土
地 売 買 契 約 の 成 立 を 認 め た 事 例
九 七
被告
Y医師は
Aを通じて自己所有不動産を売却することとした︒原告 x
︵ 宅
建 業
者 ︶
は
A
の 紹 介 で
Yの不動産の買受けを
検討することとなり︑
X
Y
両者は
Aを介して価格の調整に入ったが︑
Y売 の
却 希
望 価
格 は
一 ︳
一 億
円 以
上 で
あ り
︑
X
の買受希望価格は
二 億 六 000 万円であったので進展がみられなかった︒その後︑
XYA三 者
会 談
の 結
果 ︑
X
が
Yヘ ニ
000 万円交付し︑確定的な
売買代金は決まらないまま︑右金額を売却代金三億一 000 万円の手付金として受領した旨の
Yの領収書が
Xへ交付された︒しか
しその後この売買の話は原告
Xの解除によってこわれた︒右金員の授受の趣旨をめぐって本訴が提起された︒
X
はこれを
Yに対する貸金であるとして本訴を起したのに対し︑
Yは領収書記載のとおり手付金だとし︑
Xが本不動産を買わな
﹁右領収書が取り交わされた経緯並びに原告︑被告及び証人吉田の供述を総合して考えると︑原告
Xと被告
Yとの間の二
000 万円の授受に関する事実関係については︑次のように認定するのが相当である︒
すなわち︑原告と被告及び
Aが 平 成 二 年 一 一月一四日に会談した結果︑かねて金額面では二億六 000 万円とする原告の希望と
三億円以上とする被告の希望との間に開きはあったが︑両者が売買契約を締結すること自体には異論がなかったため︑売買代金の 調整については棚上げにしたまま︑原告と被告は︑この場で売買契約を成立させることについて合意した︒その際︑売買代金額の
調整︑残代金の支払方法︑契約書の作成等は︑
Aが両者の間に入るなどして更に調整することとし︑売買契約の手付金として︑
Aがあらかじめ原告に用意させていた二 000 万円の小切手を被告に交付した︒その際︑被告は︑原告に対し︑被告の相当と考える
売買代金額を記載した領収書を提出したが︑原告は︑被告との間の売買の話を取り持った
Aへの遠慮もあって︑特段の異論を述べ
︻ 事
実 ︼
(158)
議すべき義務をみとめるべきでなかったかと思われる︒
︵ 九
四 九
︶
闘 ︻
評釈
︼
があ
る以
上︑
認め
られ
るも
のと
いう
べき
であ
る︒
Jと
を考
える
と︑
この
こと
は︑
第四五巻第四号
︵九
五〇
︶
このように認定すると︑原告と被告の間の本件物件の売買契約については︑売買代金の額につき確定的な両者の意思の合致がな
いまま売買契約が締結され︑手付金の授受がなされたことになる︒売買代金の額がいくらになるかが売買契約の重要な要素である
一見奇異に見えるが︑右認定のように︑売買代金の額に関する売主と買主の意見の相違は後日調整
することとし︑それを前提に売買契約を締結し︑手付金を授受すること自体は︑両当事者の間に売買契約を確定的に締結する意思
したがって︑原告が被告に交付した二
00 0万円は︑本件物件の売買契約に係る手付金と認めるのが相当である︒
以上のとおりであるから︑原告の本訴請求は理由がなく︑棄却を免れない︒﹂︵東京地判平五・ーニ・ニ四判夕八五五号ニニ
0
頁 ︶
不動産の売買代金が確定しないままで売買が成立するか︑本来︑売買代金は売買契約の要素であるが︑売買
契約時に決っていなくとも後日決まる可能性があれば売買は有効に成立する︒たとえば︑﹁履行時の時価による﹂と
される如きである︒本件はそこまで決ってもいない︒ただ被告が提出した領収書に﹁代金三億一000万円の手附﹂
とされていて原告もこれを争っていないところをみると︑少くも売買はこれで成立しているとみてよいのではなかろ
うか︒特に本件では経緯をみると︑双方ともに︑兎も角も売買は成立させる意思のもとに手附を交付したとみられる︒
売買がこわれた経緯について判然としないものがある︒単に原告が解除したというにすぎない︒特に原告の債務不履
行等責むべき理由はないものと思える︒判決の結論は妥当である︒
不動産取引に関して取り交わされた覚書において︑当事者が国土利用計画法ニ︱︱一条一項の届出をすることを予定
し︑同法に基づく勧告があったときはこれに従って売買代金を変更する旨が合意され︑かつ︑後日売買契約書の
るこ
とな
く︑
この
領収
書を
その
まま
受け
取っ
た︒
関法
九八
︻ 判
決 ︼
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口 有 に な っ た と き は ︑
Yに 売
り 渡
し ︑
Y
はこれを買い受ける︒②
Yは本件土地を現状有姿のまま坪当り五五万五 000 円で買受ける
ものとする︒但し国土法による届出の際︑不勧告通知があれば売買代金はそのままとし︑勧告があればその価格に従う︒③売買対
象の土地の面積は︑実測によるものとし︑最終残金の支払時に精算するものとする︒④
Yと
Xとの本覚書による提供期間は︑平成
二年七月末日までとする︒⑤その他の条件については︑
Y及び x らが協議の上定めるものとする︒
② そ の
後 x らは遺産分割の結果︑本件土地所有権を取得し︑本件土地につき x らへの所有権移転登記も完了した︒国土法の手
続に必要な X ら側の書類も
Yに送付した︒ところがその後
Yは銀行からの融資が難しい状況にあることを理由に合意の実行を翌年
に延期したい旨を
Xらに申入れた︒そこで
Xと
Yは協議し︑売買契約締結期限を平成三年三月末日を目途とするなどという協定書
も作ったりしたが︑その後も
Yは覚書や協定書の合意の実行の延期や代金額の値引を要求し︑最終的には右合意の履行はできない
ので解約したい旨申入れたので︑
Xらにおいて右合意を解除し︑売買契約の不履行による損害賠償を請求した︒
Yは覚書の取り交
わしによっては売買契約は成立していない等と抗弁して争った︒
﹁覚書による合意︵本件合意︶の法的性質
売買は︑売主がある財産権を買主に移転することを約し︑買主がこれにその代金を支払うことを約することによってその効力を
生ずるものである︒当事者は︑これ以外の事項についても合意をすることはあるが︑当事者がこれらの事項を売買の要素としない
限りは︑この点の合意が成立していない段階においても︑売買が成立したものということができる︒
そして︑覚書においては︑売買の対象は本件土地であり︑その代金は坪当たり五五万五 000 円であることが合意されているの
︻ 事
実 ︼
m
作成が予定されていた場合において︑右届出や売買契約書の作成に至らなくても︑右覚書の合意内容によって売 買契約の成立が認められた事例
九 九
x ら
は
Y
︵建築設計施行会社︶との間で次の内容の覚書を取交わした︒① x らは本件土地が遺産相続の結果 x らの所
︵ 九
五 一
︶
を意味することになるが︑前記のとおり︑覚書の内容は︑これによって売買契約が成立したものとみざるをえないような具体的か
りヽ
不動産の売買契約については通常契約書が作成されるが︑当事者が契約書の作成によって契約を成立させるものとする意思で
あった場合は格別︑常に契約書作成の時点で契約が成立するというものではないことは明らかである︒本件においても︑契約書の
本件土地の売買については︑国土利用計画法に基づく届出が必要であり︑当事者双方がこの届出をすることを予定していたこと
は前記認定の事実から明らかである︒そして︑国土利用計画法二三条一項は︑土地売買等の契約を締結しようとする場合には︑当
事者は︑所定の事項を都道府県知事に届け出なければならないと定め︑同条三項は︑この届出をした者は︑その届出をした日から
起算して六週間を経過する日までの間︑その届出に係る土地売買等の契約を締結してはならないと定めており︑同法四八条は︑右
二三条三項の規定に違反して土地売買等の契約を締結した者に対する罰則を定めている︒したがって︑右届出の後に売買契約を締
結するのが本来あるべき姿ではあるが︑本件においては︑
たことを窺わせる証拠はない︒覚書によって売買契約が成立したと認めることは︑
一審被告も不動産に関する専門業者であるにもかかわらず︑本件土地の売買については国土利用計画法の規制を無視したこと を有していたことを認めるに足りる証拠はない︒ 作成が予定されていたものと推認されるが︑ い ︶ ︒ 覚書には﹁その他の条件については︑ であるから︑これによって売買契約が成立したものということができる︒ 関法
第四五巻第四号
一審原告らの代理人として弁護士が関与してお 一審原告ら又は一審被告ら又は一審
︵ 九
五 二
︶
一審被告及び一審原告らが協議の上定める﹂旨の条項があり︑売買の対象と代金以外の事
項については後日さらに協議して合意することが予定されているが︑ 一審原告ら及び一審被告がこれらの事項をも売買の要素とす
る意思であったことを認めるに足りる証拠はない︵その点についての合意が成立しない限り︑
被告が売買契約を締結するかどうかを最終的に決定することができないというような事項があったことは証拠上窺うことができな
一審原告ら及び一審被告が契約書の作成によって初めて契約を成立させるという意思
一審原告ら及び一審被告が︑右届出後に売買契約を締結する意思であっ
10
0
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口
と は
で き
な い
︶ ︒
ものではない︒
10
つ確定的なものであって︑右届出がされていないということは︑売買契約が覚書によって成立したと認めるについて︑妨げとなる 売買代金は国土利用計画法に基づく勧告に従って変更することになっているが︑どのような金額に変更されるかは確定している のであるから︑このことによって代金額が不確定であるということにはならない︒また︑協定書においては︑経済状況などによっ て代金額を変更することができる旨定められているが︑当事者双方が協議の上︑その合意によって変更することができるというの であるから︑このような約定があるからといって︑代金額が確定していないということにはならない︵いったん合意した事項を当 事者の合意によって変更することができることは当然のことであって︑この点をとらえて契約内容が確定していないなどというこ 覚書の後に協定書が作成されているが︑協定書の内容は︑覚書の合意を確認するとともに︑その他の事項についての合意をして いるのであるから︑既に覚書によって売買契約が成立している旨の判断と何ら矛盾するものではない︒
なお︑協定書には﹁売買契約締結期限﹂についての条項があるが︑︿証拠略﹀によれば︑これは︑覚書においては合意されてい ない契約のその他の条項について協議の上決定して契約書を作成する期限を意味するものであることが認められるから︑この記載 によって直ちに協定書作成の時点以後に売買契約を締結することが予定されていたものと推認することはできない︒協定書には
﹁事前調査及び調整﹂という記載もあるが︑これも直ちに契約締結前の調査及び調整を意味するものということはできない︵︿証 拠略﹀によれば︑﹁事前﹂というのは︑契約書の作成の前を意味するものであることが認められる︶︒
覚書が﹁覚書﹂と題されており︑﹁契約書﹂という表題ではないからといって︑当事者の意思がこれによって契約を成立させる
意思ではなかったということはできない︒
さらに︑前記認定の事実によれば︑
一審原告らは︑売買契約の早期の締結及び履行を希望していたことは明らかであって︑この 事実も︑覚書によって売買契約が成立したとの判断を裏付けるものである︒また︑前記認定の覚書作成後協定書作成に至る経緯は
︵ 九 五 ︱
︱ ‑ ︶
︻評
釈︼
うな義務を履行しなかったのであるから 第四五巻第四号
右判断と矛盾するものではないし︑協定書の内容が右判断の妨げになるものではないことも以上述べたとおりである︒⁝⁝そして︑
前記認定のとおり︑当事者双方は︑協定書によって︑平成三年三月末日までには覚書には定められていない事項について協議の上 合意を成立させる義務を負っていたものであるところ︑右事実によれば︑
る ︒
﹂ 原
告
X
らの損害賠償請求は︱二五二万九三六 0
円並びにその利息について理由がある︒︵東京翡判平六・ニ・ニ三判時一四九
二 号
九 二
頁 ︶
︵ 九
五 四
︶ 一審原告らが平成三年︱二月一七日にした売買契約の解除は有効であるというべきであ
本判決において注意すべきことは︑①売買は目的物と代金額とが定められた以上は︑その余の事項を後日協
議して決めることになっていても︑それを要素とする合意がない場合は︑既に売買は成立したと認めること︒②売買
契約書を作成することが予定されていても契約書作成が売買成立の要件とされていないときは合意のあった時点で売
買が成立する︒③国土法による届出前になされた売買の覚書であってもそれによって契約が成立したと認めうる︒④
代金額は国土法による勧告があればそれによって変更されるが︑だからといって代金額が不確定だとはいえない︒⑤
覚書の後に協定書が作成されているが︑協定書は覚書の内容を確認したものにすぎないから︑覚書によって売買は成
立したとする︒⑥協定書に﹁売買契約締結期限﹂の語があるが︑これは覚書に含まれていない事項について協議決定
して契約書を作成することを意味するにすぎない︒⑦﹁覚書﹂の語は契約書でないとはいえない︒⑧原告らは契約書
作成を催告したのに被告が応じなかったのだから原告らの解除は有効だとする︒
私は従来︑売買契約は本来合意のみで成立するので契約の要素たる目的物と代金額が決定しておれば︑細部につい
て協議する旨定められていても︑それが条件ないし要素となっていない以上は︑既に売買の成立を認めるべきである 関法
一 審
被 告
は
一 審 原 告 ら の 催 告 に も か か わ ら ず ︑ こ の よ
10
︻ 判
決 ︼
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口
旨を主張してきた
︵拙著・不動産仲介契約論一九六頁以下参照︶︒正式の契約書を国土法による不勧告通知後に作成 する旨合意していたとしても︑契約書作成前の覚書で成立を認めるべきだと主張した︒それは地価の変動のあるとき は契約書が作成されていないことを理由に悪用される可能性があると考える︒本判決はこれに答える判示をしたもの として評価したい︒また国土法届出前の覚書による合意によって売買成立を認めたことも特異といえよう︒﹁覚書﹂
を﹁売買契約書﹂に準ずべきものとしたのも当然である︒私は全面的に本判旨に賛意を表したい︒
不動産売買契約締結のための準備が進められた段階において売主が契約締結を拒否したことが信義則上の注意義
x
︵ 宅
建 業
者 ・
原 告
・ 控
訴 人
︶ は
︑
Y
ら三名からその共有にかかる本件不動産を代金三六億円余で買受ける手筈となり︑
ノンバングから手数料を負担し︑四四億円を借りて支払の用意をし︑登記申請のため司法害に手数料を支払うなどした︒しかし
Y
らが権利証を所持していなかったため保証書による所有権移転登記手続を進める途中で
Yらが翻意し︑このため売買契約書への署
名や代金の支払いに至らずに終った︒
Xは ︑
Y
らとの間に売買契約が成立したと主張し︑共有持分移転登記を請求した︒第一審で
は︑売買契約は成立していないとして棄却された︒
Xは控訴し︑新に予備的請求として︑
Yらの契約は準備段階における信義則上
の注意義務違反による損害賠償として七六五三万円余の支払を求めた︒
﹁ 控
訴 人
X
は︑本件における保証書による所有権移転登記申請がなされたことは︑契約に基づく債務の履行行為そのもの
であり︑契約は成立している旨主張するが︑右申請のみでは所有権移転登記申請が受付けられたことにはならず︑登記義務者の確 認申出書の提出により申請が受付けられたとみなされる︵不動産登記法四四条︑四四条の二︶のであるから︑右申請行為を直ちに 債務の履行行為とみることはできず︑前記のとおり︑本件においては︑未だ売買契約は成立していないというべきである︒
したがって︑本件売買契約が成立したことを前提とする控訴人の共有持分権移転登記手続申請及び本件各土地の引渡し請求は︑ ︻
事 実
︼ 務に違反し︑不法行為となるとした事例
(160)
I O
I ︱ ︱
︵ 九
五 五
︶
第 四 五 巻 第 四 号
前記 1 日に認定した事実によれば︑売買契約は成立するには至っていなかったが︑その過程には︑次のような事実が存在す
る︒すなわち︑ m 売買物件が本件各土地であること︑その売買代金が坪当たり三
00
万円であること︑それを売買代金は坪当たり
ニ 八
0 万円とし︑坪当たり二 0 万円は仲介業者のコンサルタント料名目とすること︑売買代金︵右コンサルタント料を含む︒以下
同じ︶と所有権移転登記とを平成元年一 0
月 ︱
‑ 0
日︵当初︶に一括決済すること等︑契約の重要な部分についての合意が成立して
いたこと︑②その過程において︑控訴人
Xは不動産売渡に対する請書を︑被控訴人
の仲介業者は不動産買受け申込みに対する請 y l
書をそれぞれ作成し︑当事者双方で国土利用計画法二三条による届出をし︑控訴人においては︑売買代金支払いのため国内信販と
融資契約をして︑被控訴人側の指示どおりに国内信販に用途別に区分した小切手を用意させて︑決済場所に持参させていたこと︑
③当初の決済日前日になって︑被控訴人らが本件各土地の権利証がないことに気付いたこと︑そこで︑控訴人と被控訴人側の仲介
業者との間で︑保証書による所有権移転登記手続をし︑控訴人は売買代金を予定どおり当初の決済日に支払うが︑売買代金保全の
ため本件各土地に抵当権を設定することを了解していたところ︑当日になって︑被控訴人
は︑弁護士に相談し︑担保提供するこ
Y Iとは保証人となる可能性があると弁護士が言うので署名押印できないとの理由で︑抵当権設定契約書及びそのための委任状への署
名押印を断ったこと︑しかし︑被控訴人らとしては︑売買代金を全額受領するのであるから︑売主としての権利はすべて満足され︑
本件各土地についての抵当権設定により何ら不利益は被らないと思われるのに︑抵当権設定を断るのは不可解であること︑④それ
はともかくとして︑今度は︑保証書により所有権移転登記申請をし︑その場合の売主に法務局から送付される確認申出書の交付と
売買代金支払いとを一括決済することとし︑右決済日を確認申出書が売主に到着するであろう日の翌日と決め︑持分移転登記申請
用の委任状に被控訴人らの署名押印を得て︑既に保証書による所有権移転登記申請をしたこと︑その際には︑本件各土地上の滅失
した建物についての滅失登記手続︑現存する倉庫等の所有権の帰属等についても話し合いをしたこと︑第二回目の決済期日の午前
(
一 ) 当審における予備的請求について いずれも理由がない︒ 関法
10
四
︵
九
五
六
︳評
釈︼
宅地建物取引業者をめぐる諸判例
E(福岡高判平五•六・三〇判夕八四八号―一三五頁) 中には︑右滅失登記のための書類も控訴人に届けられたことは︑前示のとおりである︒
1 0
五 このような事実経過からすれば︑控訴人としては︑右交渉の結果に沿った契約の成立を期待し︑そのための準備を進めることは. 当然であり︑契約締結の準備がこのような段階にまで至った場合には︑被控訴人らとしても控訴人らとしても控訴人の期待を侵害 しないよう誠実に契約の成立に努めるべき信義則上の注意義務があると解するのが相当である︒被控訴人らが︑正当な理由がなく 控訴人との契約締結を拒否した場合には︑控訴人に対する不法行為が成立するというべきである︒そして︑被控訴人らは︑控訴人 と予め定めた期日における契約の締結に応じなかったのであって︑正当な理由についてこれを認めるに足りる証拠はない︒被控訴 人らの右行為は︑控訴人の有する契約締結の利益を侵害した点に違法があり︑しかも︑前記認定したところによれば︑右違法行為 について︑被控訴人らに故意が少なくとも過失があったというべきである︒したがって︑被控訴人らは︑右不法行為によって被っ た控訴人の損害を賠償すべきである︒そこで控訴人 X の損害︑手数料︑印紙代等二︑九五六万︱一八六円の賠償請求が認められた
本件も後記國圏の判例と同様に︑契約準備段階における契約締結の拒否を信義則違反として不法行為の成立
を認めたものである︒ 一審においては原告が売買契約の成立を主張したのに対してこれを否認され︑二審においても
同様であったが︑二審における予備的請求として信義則違反の不法行為による損害賠償が認められたものである︒し
かし本件の場合︑二審判決は︑目的物︑代金額が確定し︑保証書による登記申請までなされているのに︑登記申請で
は
Xの債務履行にはならぬとの理由で未だ売買の成立に至っていないと判示している︒この判示によれば︑登記の完
成
11
債務の履行に至らぬかぎり契約の成立は認められない趣旨と思われるが︑これには賛成しえない︒履行の前の段 階で売買契約の成立は認められるべきである︒本件の場合は売買契約の成立を認めてよい事例と思われる︒被告
Y
は
売買成立後の履行を拒んだものと見るべきであろう︒判決も契約準備段階における契約締結の拒否だとして原告
X
を
︵ 九
五 七
︶
2 000 万円を交付したことは︑前記一 2 因で認定のとおりであるところ︑抗弁 2 の事実は当事者間に争いがない︒
しかしながら︑前記一 2 において認定したところによれば︑①原告と被告らは︑平成元年一 0 月二五日︑本件売買契約に基
づき︑双方が協力して国土法二三条の届出をなし︑②次いで︑原告は︑同年︱一月︳︱‑日︑本件売買契約に基づき︑本件山林の売渡
ー原告
Xが︑平成元年︱二月五日︑本件売買契約に基づき︑被告らに対し︑手付けとして金二 000 万円︑中間金として金一 もあるので︑念のために判断しておくこととする︶︒ 成元年︱二月五日にはじめて成立したとの事実を前提としているが︑同年一 0 月二四日成立の本件売買に対する抗弁と解する余地
︻ 判
決 ︼
X
は不動産取引を業とする会社であるが︑平成元年一 0 月二四日
Yら か
ら ︑
Y
ら
の 共
有 に
か か
る 兵
庫 県
︳ ︱
‑ 田
市 の
山 林
を ︑
代金一億八七一八万円で買受けた︒同月二五日には︑国土法に基づく届出をして︑
知書﹂を受領したので︑手附金二 000 万 円 と 中 間 金 一 0
00
万円を
Yへ 支
払 っ
た ︒
X
は
Yらに対し︑右山林について所有権移転
登記手続を求めた︒これに対し︑
Yら は 平 成 二 年 三 月 ︑
Xに対し︑手附契約に基づき右売買契約を解除する旨の意思表示をすると
ともに︑右手附金の倍額に相当する四 000 万円を提供し供託したことにより右売買契約は解除された旨主張した︒
Xは︑右売買
契 約
に 基
づ き
︑
X
と
Yら双方が協力して右山林の測量を実施したほか︑中間金一 0
00
万円を支払うなどして契約の履行に着手し
て い
る か
ら ︑
Y
らの契約解除は無効であるなどと反論した︒
﹁ そ
こ で
︑ 被
告
Y
らの抗弁について判断する︵もっとも︑被告らの抗弁は︑原告と被告ら間の本件山林の売買契約が︑平
︻ 事
実 ︼ 中間金を支払ったときは︑買主の契約の履行の着手があったと認められた事例 山林の売買において︑買主と売主が共同で国土利用計画法二三条一項の届出をし︑買主が右山林の実測を実施し︑
圃
点は疑問に思う︒
関 法
第四五巻第四号
︱ 一
月 =
一 日
に 実
測 し
︑
︱二月五日に﹁不勧告通
1 0
六
︵ 九
五 八
︶
救済したのは結論としては賛成であるが︑原告がこの予備的請求をしなかったら救われなかったわけであるが︑この
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口
違反すれば罰則の適用がある
︻評釈
︼
1 0
七 価格算定の基礎となる本件山林の実測を︑原告の全額費用負担のもとに実施し︑③次いで︑原告は︑兵庫県知事の不勧告通知受領 後の平成元年︱二月五日︑被告らに対し︑本件売買契約に基づく中間金一 000 万円を支払ったこと︑以上の事実が認められる︒
そして︑証人
A︑ 同
B の各証言によると︑本件売買契約においては︑手付けの授受が︑契約締結時の平成元年一 0 月二四日では
なく︑兵庫県知事からの不勧告通知が届いた後である同年ご一月五日になされているのは︑国土法を考慮して︑不勧告通知までは
手付けの授受を控えたためという特殊事情があったことが認められるから︑本件のように︑手付けの授受が遅れて︑国土法の届出
が先になった場合においても︑売主と買主が連署のうえ︑国土法二三条の規定に基づく届出をなしたときには︑特段の事情が認め
られない限ぎり契約の履行に着手したものと解してさしつかえがなく︑右特段の事情も認められない本件においては︑前記①ない
し③の事実が存在する以上︑原告は︑民法五五七条一項にいわゆる契約の履行に着手したものと解するのが相当である︒
よって︑原告の再抗弁 1 は理由があるから︑被告らの手付け交付による解除権留保の抗弁は失当である︒
そうすると︑被告らに対し︑本件山林について平成元年一 0 月二四日売買を原因とする所有権移転登記手続を求める原告の請求
は︑その余の点につき判断するまでもなく正当として認容されるべきである︒﹂︵神戸地判平四・ニ・ニ八判夕七九九号一九四頁︶ 3
判決は︑売主
Y
らの手附解除の主張を認めなかった︒妥当と思われる︒中間金一
00
0
万円は手附解除︵平
成 二
年 一
一 一
月 ︶
のニヵ月以上前に支払われているわけであるが︑中間金の支払は契約の一部履行であって履行の着手以
上である︒ただ興味深いのは︑判決が︑
X
Y
が共同で連署し︑国土利用計画法ニ︱︱一条の届出をしたことが履行の着手
だとしていることである︒本来国土利用計画法ニ︱︱一条によれば︑その適用のある土地については︑売買の届出をして︑
六週間を経過するか︑または不勧告通知が来るまでの間は売買契約を締結してはならないこととなっている︒これに
︵四八条︶︒そうすると右に違反してなした売買契約は無効なのか︑それとも罰則の適 用はあるものの私法上は有効なのか︒規則区域︵今日未だこれは存在しない︶に関する同法一四条三項︵私法上無効
︵ 九
五 九
︶
﹁右事実を踏まえて検討を加えるに︑本件協定成立に至る経緯及ぴ本件協定の内容を考慮すれば︑本件協定は︑国土利用
計画法所定の届出後︑不勧告通知が出ることを前提として︑改めて本件不動産に関する売買契約を締結するよう努めることを合意 ︻ 判 決 ︼
買締結の不当破棄︶に当るとして︑損害賠償を請求した︒ 第四五巻第四号
一般の監視区域内では二三条三項違反の売買契約は私法上は有効と解されるのでないか
︵東京地判手元・七・ニ八判時一三五四号一︱一頁︑同平
ニ・―二·二六金融・商事八八八号ニニ頁、名古屋地判平四• 10 ・ニ八金融・商事九一八号三五頁参照︶︒しかる
に本判決は︑国土法二三条の届出をしたときは︑契約の履行の着手があったと認めている︒しかしいずれにしてもこ
の解釈は行過ぎでないかと思われる︒私はせいぜい︑不勧告通知前の契約は︑その通知があることを停止条件とする
契約として有効とみるべきでないかと考える︒それにしても︑本件の場合は︑不勧告通知のあった後に手附や中間金
の支払をしているので︑それからニヵ月以上後に手附解除しても︑それは無効と解すべきである︒結局判決は妥当と
考 え
る ︒
売買契約の締結を正当な理由なく拒否したことが信義則上の義務に違反し不法行為を構成するとされた事例
Y
︵ 建
設 業
者 ︶
は ︑
設 計
業 者
A
からワンルームマンションの専有卸︵売主が土地上に建物を建築しこれを一括して売買す
る も
の ︶
買 受
を 打
診 さ
れ ︑
X
︵ 商
事 会
社 ︶
に 交
渉 し
た が
︑
X
との間で︑売主を x
︑ 買
主 を
Y
とする右取引の協定を締結した︒その
協 定 で ︑ 売 買 代 金 額 ︑ 支 払 方 法 の ほ か ︑
X
Y
は建築確認下付後︑国土法の届出を行い︑その不勧告通知受領後一 0 日 以 内 に 本 契 約
を 締 結 で き る よ う に 努 め る こ と が 定 め ら れ た ︒
Xは 土 地 に つ い て 所 有 者 か ら 所 有 権 移 転 登 記 を 受 け ︑
Aとの間で建築設計の業務委
託契約を締結し︑建築確認も得たが︑その直後
Yは ︑
X
に対し︑ワンルームマンションの市況が悪化したことなどを理由にして売
買 契 約 締 結 の 意 思 が な い こ と を 通 知 し た ︒
Xは
Yに 対
し ︑
Y
の拒絶は︑主位的に売買契約の債務不履行に︑予備的に不法行為︵売
︻ 事
実 ︼
(162)
と思われる︒従来の判例では︑無効と解されるようである とする︶との関係でいえば︑
関 法
1 0 八︵九六
0 )
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口
したがって︑売買契約の成立を前提とする原告の主張は理由がない︒
と こ
ろ で
︑
10
九︵九六
したものであって︑本件協定自体を本件不動産に関する売買契約そのものとみることはできず︑他に右売買契約が成立したことを
一般に︑契約締結の交渉過程において︑契約当事者が︑右契約の締結に向けて緊密な関係に立つに至ったと認められ る場合には︑契約当事者は︑相手の財産等に損害を与えないように配慮すべき信義則上の注意義務を負い︑右注意義務に違反して 損害を与えた場合には︑不法行為を構成し︑その損害を賠償する義務が生じるというべきである︒
これを本件についてみると︑本件協定が成立した段階では︑国土利用計画法の手続が未了のため︑不確定要素は残ってはいるも のの︑本件不動産の売買価格︑支払方法は合意に達している上に︑右協定成立後直ちに原告が本件建物の建築確認申請手続を行う ことが定められていたのであるから︑本件協定の成立により︑原告及び被告は︑本件協定に沿った本件不動産の売買契約の締結に 向けて緊密な関係に立つに至ったと認めるべきである︒したがって︑被告は︑原告に損害を与えないように配慮すべき信義則上の 注意義務を負い︑右注意義務に違反して損害を与えた場合には︑不法行為を構成し︑その損害を賠償する義務があるということが そして︑前記認定事実によれば︑被告は︑不動産への融資に対する金利の引き締め等の規制が行われ始め︑税制の改正の関連の 中でワンルームマンションに対する批判が高まる等︑ワンルームマンションを売る状況が悪化し始めたことを理由として︑本件不 動産の売買契約の締結を拒否したことが認められる︒しかしながら︑右のような状況になったとしても︑ワンルームマンションの 販売が不可能になったわけではなく︑またこのような状況になったことにつき原告には全く責任がない︒そうすると︑原告が本件 協定の内容に沿って︑本件建物建築の準備の一還として︑既に建築事務所に依頼して建築確認申請手続をした後の段階で︑被告が︑
このようなことを理由に一方的に売買契約の締結を拒否することは信義則上の注意義務に違反するといわなければならない︒ で
き る
︒
認めるに足りる証拠はない︒
(163)
合意が認められなかった事例 第四五巻第四号
以上によると︑被告は︑原告に対し︑原告が建築事務所へ支払った設計監理料一九一七万七
0
00
円及
びこ
れに
対す
る平
成二
年
︱二
月ニ
︱日
から
支払
済み
まで
民法
所定
年五
分の
合割
によ
る遅
延損
害金
の支
払義
務が
ある
︒よ
って
︑主
文の
とお
り判
決す
る︒
﹂︵
東
京地判平五·-•一六金融・商事九四
0号三八頁)判夕八四
0号一八一頁)
本件は売主
X
が買主Yとの協定に基づき︑本契約締結へ向けて種々な所作を行ったにかかわらず︑買主Yが市況の悪化を理由に本契約の締結を拒否したものである︒判決はこれをYの信義則違反とした︒かかる場合にこれを
契約締結上の過失とするのが一般であるが︑本判決はこれを不法行為と構成した︒本来︑契約締結上の過失につき︑
これを債務不履行の契約責任とするか︑不法行為責任とするかについては学説や判例上︑異説がある︒かつて本件類
似の上告事件で︑一審では債務不履行責任も不法行為責任も否認され︑二審では︑債務不履行責任︵主位的請求︶を
否定し、不法行為責任(予備的請求)を認容した。最高裁も二審判決を正当とした(最判昭五八•四・一九判夕五〇
一号一三一頁︶︒本件のように売買契約が成立していない段階で契約責任を認めるのには疑問がないではない︒これ
を不法行為責任ないし信義則違反行為とすべきかと思われる︒そして信頼利益の賠償を認めればよい︒場合によって
は履行利益の賠償を認めてもよいであろう︒︵池田清治﹁契約交渉の破棄とその責任︹七・完︺北大法学論集四三巻
一号
一
0一頁︑円谷峻﹁右最判研究﹂︹金融・商事六八七号四六頁︺︶︒判旨に賛成である︒なお同旨の最判がある
︵最判昭五九・九・一八金融・商事七︱一号四二頁︶︒
一︑住宅ローンを予定した不動産売買契約において︑
二︑右売買契約が要素の錯誤により無効とされた事例
︻評
釈︼
関法
ローンが実行されない場合には売買契約を解除できる旨の
︱
10
( 九
六
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口 原告主張の錯誤について検討する︒
︵ 九
六
x
︵ 原
告 ・
買 主
︶ は
Y
︵被告・売主・宅建業者︶との間で︑本件マンションを代金四五
00
万円で買受ける旨の売買契約
を締結し︑中間金等として合計七五 0 万 円 を 支 払 っ た ︒ X は残代金三七五 0 万円のうち一八五 0 万円につき︑住宅金融公庫から融
資を受ける予定であったが︑融資が受けられなかった︒そこで︑
Xは①売買契約において︑公庫の融資を受けられなかったら売買
を解除できる旨の合意があったこと︑②本件マンションは当初から公庫の融資の対象とならない物件であったから︑売買契約は要
素の錯設により無効であるとして︑ Y に対し原状回復請求権または不当利得返還請求権に基づき︑支払済の七五 0 万円の返還を求
めて訴えた︒これに対し︑
Yは売買契約上︑売主たる
Yの責により住宅ローンの融資が受けられない場合に限り︑
XY
双方に解除
権を認めているにすぎないとして︑
X主張の解除権発生合意の存在を否認し︑また︑本件マンションは当初から公庫の融資の対象
となり得ない物件であったから︑
Xに錯誤はなかったと主張した︒
﹁原告の請求原因 3 ︵住宅金融公庫の融資が受けられない場合の解除合意︶についてみるに︑これを認めるに足りる証拠
︿証拠略﹀︵売買契約書︶には︑﹁契約締結後︑乙の責に帰す住宅金融公庫等住宅ローンの融資が実行されない場合に限り甲乙双
方共第
2 3 条違約損害金の適用を受けないでこの契約を解除することができる︒﹂旨の規定がされており︵第七条七︶︑売買代金の支
払方法として金一八五 0 万円について住宅ローン融資予定額との記載がされているし︑︿証拠略﹀︵重要事項説明書︶には︑﹁売主
の責により住宅ローンが不成立の場合に限り、買主はー中略—本契約を解除することができる。」旨の規定がされているが、この
各条項をもって﹁住宅金融公庫の巖資﹂がされない場合には無条件で解除を許す旨の合意とみることができないことはいうまでも
ない︒そして︑このように書面をもって契約がされた場合には︑原則として書面に記載のもの以外の合意が成立したとみることが
できないことはいうまでもなく︑本件証拠上も︑書面外の合意を認めることはできない︒
したがって︑原告の請求原因 4 口の事実の有無にかかわらず︑解除権の存在を前提とする原告の請求は理由がない︒
は な
い ︒
︻ 判
決 ︼
︻ 事
実 ︼
︻評
釈︼
第四五巻第四号
まず︑原告の請求原因 4 日の事実︵本件不動産が当初から住宅金融公庫の融資を受けられないものであったこと︶は当事者間に
そこで︑この点について原告に錯誤があったかについてみるに︑︿証拠略﹀によれば本件不動産の購入資金計画について原告が
住宅金融公庫からの融資を受けることを前提としていたこと︑被告も︑本件不動産は床面積の点で当初から住宅金融公庫の融資を
受けられない物件であるのに︑原告に対しては住宅金融公庫に提出する図面を操作することによって住宅金融公庫の融資を得るこ
とができるかのような説明をしていたこと︑住宅金融公庫の融資手続は被告の側で代行しておこなう旨の説明をしていたことが各
認められるところ︑これによれば︑原告に錯誤があったことは明らかである︒⁝⁝⁝そこで︑これが契約上表示され︑かつ契約の
重要な要素であるといえるかについてであるが︑本件の売買契約書には︑前記のとおり売買代金の支払方法として金一八五 0 万円
について住宅ローン融資予定額との記載がされており︑︿証拠略﹀によれば︑これが住宅金融公庫の融資を意味するものであった
ことは明らかである︒また︑原告のような給料生活者が自己居住用のマンションを購入する場合︵︿証拠略﹀による︒︶︑他の銀行
融資等に比較して格段に条件の有利な住宅金融公庫の融資を受けることができるか否かが重要であることはいうまでもない︒
したがって︑本件の売買契約は原告において契約の要素について錯誤があるから無効である︒
してみれば︑被告は既に受領している代金を原告に返還すべき義務があるから︑原告の本訴請求は正当として︑これを認容すべ
きである﹂︵東京地判平五・一︱・ニ五判時一五
0
0 号
一 七
五 頁
︶ 住 宅 ロ ー ン が 受 け ら れ る こ と を 予 定 し て 不 動 産 の 売 買 契 約 を す る こ と は 屡 々 見 ら れ る 事 例 で あ る
︒ と こ ろ が 予 定 し た 住 宅 ロ ー ン が 受 け ら れ な い 場 合 は
︑ 売 買 を 解 除 し う る の か
︑ 解 除 条 件 の 成 就 と し て 当 然 売 買 が 無 効 と な る の か
︑ そ れ と も 要 素 の 錯 誤 と し て 当 然 売 買 が 無 効 と な る の か
︒ そ れ は 契 約 内 容 や 事 情 に よ っ て 異 る と い え よ う
︒ 本 件 で は
︑ 買 主
︵ 原 告
︶ は
︑ 契 約 条 項 の 上 か ら 解 除 が 許 さ れ る
︑ 或 い は 錯 誤 に よ り 無 効 だ と 主 張 し た が
︑ 判 決 で は 前 者 が 否
争 い
が な
い ︒ 関法
︵ 九
六 四
︶
宅地建物取引業者をめぐる諸判例口
︵ 九
六 五
定され後者の理由が認められて要素の錯誤により無効だとされた︒前者の否認について思うに︑契約条項の中に﹁売
主の責に帰すべき事由によってローンが受けられなかった場合は解除しうる﹂旨の条項があるが︑本件は売主の責は
ないから右条項を用いえないという判示のようである︒しかし大体︑この条項自体がおかしい︒むしろ兎も角も
﹁ローンが受けられないときは﹂買主の責に帰すべからざる事由でローンが受けられないときは﹂売買契約を解除し
うる︑とすべきものである︒買主が不動文字で誤魔化されたわけであろう︒しかし契約条項の解釈としては判示の結
論はやむをえない︒そこで判決は要素の錯誤によって売買契約を無効とした︒もっとも判示によれば︑被告︵売主︶
は﹁図面を操作することによって公庫の融資を受けられるかのような説明をしていた﹂と述べられているが︑これが
事実とすれば︑融資を受けられない責が売主側にもあるといえないこともないように思われる︒
なお本件と同様な事件において︑融資を受けられなかったことが要素の錯誤となる旨の判決が既に東京高裁におい
前記認定のとおり︑被控訴人らは︑本件土地建物の購入について五
00
万円の財形融資を利用できるものと考え︑これを
前提に︑控訴人の斡旋する銀行から一八五
0
万円の住宅ローンを受けて︑売買代金を支払う予定であったところ︑契約直後に財形融資を受けられないことが判明し︑また︑銀行からも一八五
0
万円以上の住宅ローンを受けることはできないことが判明したものである︒資金的余裕のほとんどない被控訴人らにとって︑財形融資を断られたことが重大な見込み違いであったことは明らかであ
る︒他方︑控訴人としても︑担当者の岡崎や金井が被控訴人らから右の売買代金支払計画を聞いており︑財形融資と銀行の住宅
ローンが予定どおり実現しなければ被控訴人らの代金支払が不能若しくは著しく困難になることは十分理解して本件売買契約を締
結し
たも
のと
推認
され
る︒
てなされているのでここに掲載する︒
~