九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
二色素系電気光学材料:合成と光学特性の評価
賈, 越
https://doi.org/10.15017/1398547
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名:賈 越
論文題名:
Binary Chromophore Electro-Optic Materials: Synthesis and Optical Characterizations
(二色素系電気光学材料:合成と光学特性の評価)区 分:甲
論 文 内 容 の 要 旨
電気光学ポリマーは、光―光変換や電気-光変換など光を媒体とした光変調器及びスイッチへ の応用が期待されている。これは電気光学ポリマーが無機材料に比べて非常に高い光学特性を持 つことに起因している。近年、電気光学ポリマーを用いた電気光学特性の応用が世界的に活発化 しており、特に情報通信分野における超高速・低消費電力素子の開発が進められている。これら の光デバイスは、電気光学効果(ポッケルス効果)を応用するものであり、高速変調では 100Gbps 以上の超高速技術が可能となってきている。この様な優れた材料・デバイス応用への展望は、有 電気光学ポリマー中に導入した電気光学色素が持つπ電子共役構造が大きな分極特性を示し、高 いポッケルス効果を有することに起因している。特にポリマー材料を用いた電気光学材料の開発 は、光導波路デバイスやその他の微小光デバイスへの応用に有効であり、電気光学定数(r33)が 100pm/V を超える材料開発は極めて重要となっている。この様な高性能電気光学ポリマーは、無 機系材料の代表的であるニオブ酸リチウムの光学特性(r33=32pm/V)を大きく超えるレベルにあ り、さらに光学的観点から材料開発を進めることで高性能化を達成することが求められている。
本論文では、高い電気光学特性を有する電気光学色素の合成に加えて、色素を導入するポリマー ホストの重要性に着眼し、高い色素導入率と電気光学特性を兼ね備えた電気光学ポリマーを合成 することを目的としている。一般的なポリマーの例としては、ポリメチルメタクリレートやポリ カーボネートなどの光透明性の高い物質を電気光学色素を分散するポリマーホストを挙げること ができる。しかし、これらのポリマーホストは電気光学色素の凝集など高濃度における光学特性 において改善点がある。本論文では、高い電気光学特性の達成をポリマー側鎖を制御した二色素 系電気光学ポリマーの開発を行い、さらに電気光学色素導入率を高める目的で、側鎖制御したポ リマーブラシの合成を行い、光学特性の評価を行った。
本論文は、第 1 章から第6章で構成されている。第 1 章では研究の背景と目的を述べて、電気 光学ポリマーの光導波路を使った光変調器応用について述べている。また、電気光学ポリマーの 光学特性の評価方法に付いても基本的な手法と原理を述べている。
第 2 章では、二色素系電気光学ポリマーの合成について、アゾベンゼンを用いたサイドチェイ
ン型ポリマーの応用について詳細を検討した結果を示している。高い電気光学特性を示す色素は π電子共役構造を有しており、特に電子ドナー性基とアクセプター性基によって大きく分極され た構造が必要となる。ポリマーホスト中では、この様な色素は強く凝集する傾向を持ち導入濃度 を高くできない問題があった。本章で合成したアゾベンゼン導入のサイドチェイン型ポリマーは π電子系の分極特性を持つため、電気光学色素との相溶性が高く 25%程度の濃度まで色素濃度を 高めることができ、電気光学定数として r33=63pm/V が得ることを明らかにした。
第 3 章では、第 2 章で合成したサイドチェイン型ポリマーの電気光学特性をさらに高めるため、
ポリマーブラシ型の二色素型電気光学ポリマーの合成と光学特性の評価を行った。ポリマーブラ シとしてポリメチルメタクリレートを主鎖とし、アゾベンゼン基を持つブラシ側鎖の合成を行っ た。分子量、分子量分散、ガラス転移温度、及び分解温度などのポリマー物性について詳細を評 価し、電気光学特性についてはアゾベンゼン基の導入率に対する効果について検討を行った。そ の結果、導入率 5%の時に二色素型電気光学ポリマーとして r33=58pm/V が得られることを明らかに した。
第 4 章では、第 3 章で合成したアゾベンゼン型ポリマーブラシのガラス転移温度が低い点を改 善し、より高い電気光学色素の電場配向条件を得るためにポリノルボルネンを主鎖とするポリマ ーブラシの合成を行った。得られたポリマーブラシのガラス転移温度は 120~130℃であり、その 結果、より高い温度で効率的に電場配向を行える材料特性を得た。二色素型電気光学ポリマーと しての光学特性を評価したところ、最高で r33=94pm/V の高い電気光学特性を得ることができた。
また、導入する電気光学色素の種類による光学特性の違いも観察され、ポリマーブラシと電気光 学色素の相関性についても明らかにした。
第 5 章では、ポリマーブラシに導入したアゾベンゼン基の電子特性と電気光学色素の相関性に ついて詳細を調べるため、アゾベンゼン基末端をメトキシ、シアノ、及びニトロ基で置換した誘 導体の合成を行った。各アゾベンゼン基を持つポリマーブラシについて、電気光学色素の導入率 と電気光学特性の詳細について検討を行ったところ、メトキシアゾベンゼン基をポリマーブラシ として使った時に、色素導入率が最も高く、かつ r33=94pm/V の高い電気光学特性を得ることを明 らかにした。
第 5 章では、本論文を統括している。