早稲田大学大学院 創造理工学研究科
博 士 論 文 概 要
論 文 題 目 中山間地域における 地域マネジメントのための 外部人材の活用に関する研究
The Utilization of the Outside Supporter
for the Management Process of Community Activities in the Mountainous Areas
申 請 者
野田 満
Mitsuru NODA
建築学専攻 都市計画研究
2015 年 12 月
1
バブル経済崩壊を経て、現代社会への問題意識の高まりから、とりわけ若年層 を中心に自己実現の舞台を農山村に求める動きが芽生え、「田園回帰」や「向村 離都」として社会的関心を集めている。他方で中山間地域における地域づくりは 転換期を迎えつつあり、国の支援もハードからソフトへ、財政的支援から人的支 援へと舵が切られつつある。こうした今日の状況にあって、地域外の人間を「外 部人材」として登用し、当該地域で活用していく取り組みが、中山間地域の地域 づくりの一手法として着目されつつある。しかしながら、元来は「地域外の人間」
であり「一定の任期を有する」という特徴を持つ外部人材を地域の裁量で効果的 に活用していくことは容易ではなく、多くの地域で試行錯誤している状況にある。
他方で、1970 年代以降長きにわたり地域づくりの旗幟として存在してきた「内 発的発展」の限界が近年議論され始めている。内発・外発の相互作用によって地 域の自律を図る「共発的発展」や、外発力の的確な認識・活用と併せ、地域の自 治能力の向上を図る「ネオ内発的発展」の下、地域の自治能力を高めていくこと が求められている。また 2000 年代中葉に始まった人口減少を契機に、わが国は 縮減社会に差し掛かったといわれている。これに伴い、成熟した社会を形成して いく為のソフトランディングが求められるようになり、そのひとつとして、広域 的な社会関係資本の構築による、国土レベルにおけるリダンダンシーの確保が課 題として浮かび上がっている。一方で、縮減社会における課題の根底を成すのは 人的資源の減少であり、今後「より少数の人的資源によって」「より多くの地域 を」持続させる為の方法論を地域が備えていくことが重要となる。
以上の現状認識を踏まえ、本論文は地域づくり活動及びそれに係る財源、意思 決定機関を併せた地域づくり体制を一定の方向性に導く行為を「地域マネジメン ト」として定義付け、中山間地域の課題解決ならびに縮減社会における国土保全 を図っていく為の、外部人材の活用における要点を導くことを目的としている。
その上で前述の社会状況に鑑み、1)外部人材を「交流・協働」のみならず「自 治」の一翼を担う存在としても位置づけていくために、外部人材の地域への関与 を促進させていくこと、2)任期を終えた外部人材の定住を必ずしも第一義とせ ず、当該地域及び転出先となる複数地域間の人的資源のシェアを見据え、任期を 終えた外部人材の転出を許容することの 2 点を前提として設定している。
本論文は 7 章で構成される。
1 章「研究の視座」では、研究の背景と目的、用語の定義、研究の視座と枠組 み等、研究の前提の整理を行い、「地域マネジメントのための外部人材の活用」
の仮説的枠組みを示した。
2 章「議論の系譜と研究の意義」では、国土利用計画における中山間地域の位 置づけ、及び中山間地域を対象とした政策、地域外の人間による中山間地域支援 の系譜を整理した上で、関連研究の潮流における本論文の位置づけを示した。具 体的には、これまで論じられてきた都市農村交流や移住促進の領域の延長上にあ りながらも、広域ネットワークの議論を再度結びつけ、定住人口の獲得のみを第
一義とした従前の地域振興の姿勢から脱却し、中山間地域のみに留まらない縮減 社会への先駆的対応としての本研究の意義を示した。
3 章では、人的支援を初めて導入する地域を想定した「地域内組織による外部 人材の活用」として、宮崎県西臼杵郡高千穂町における「地域づくりインターン」
を中心とした人的支援の導入を通した地域づくりを取り上げ、一貫性ある地域づ くり活動プロセスの推進(論点 1)、及び転出した外部人材を伴う社会関係資本 の広域化(論点 2)に着目し、事例分析を行った。その結果、1)地域づくりに向 けた足掛かりを模索しながら、その継続によって転出した外部人材とのネットワ ークを構築していく段階、2)また地域づくりに向けた一定の方向性を見出し、転 出した外部人材の支援を受けながら実践を図っていく段階、3)更に地域づくりの 一定の成果が生まれると共に、地域内の連携が生まれ、転出した外部人材のネッ トワークを戦略的に活用していく段階の 3 段階にわたる地域づくりのプロセス が確認された。また、転出した外部人材の地域に対する潜在的意向を分析した結 果「交流維持層」「間接的貢献層」「直接的貢献層」「消極的層」「卒業層」に分類 された。うち「間接的貢献層」「直接的貢献層」は地域づくり活動への協力を積 極的に行っている層であるが、地域との関わりが途切れている外部人材であって も、地域貢献への意欲を持つ潜在層が存在していることが分かった。以上を踏ま え、人的支援を初めて導入する地域において、外部人材の活用による地域づくり を進めていく為には、まず地域づくりの初動の段階で外部人材との交流や提案に 基づきながらも、一定の取捨選択を重ねながら地域づくり活動の方向性を集約化 していくこと、更に地域づくりを継続していく段階で、徐々に受入主体を中心と した地域内のネットワークの構築を図りながら、拠点となる空間づくりへの展開 および地域ビジネスの創出といった長期的な目標設定の下、具体的な地域づくり 活動を進めていくことが重要であること(論点 1)が明らかになった。また、転 出した外部人材のうち、地域との関わりを継続している層のみならず、地域との 関わりが途絶えている層についても、地域への関与を積極的に働きかけ、地域づ くりの担い手として位置づけていくことの可能性(論点 2)を見出した。
4 章では、人的支援を初めて導入する地域、及び人的支援を導入して複数年を 経過した地域の両方を想定した「地域外コーディネート組織による外部人材の活 用」として、人的支援「緑のふるさと協力隊」及びそのコーディネート組織であ る特定非営利活動法人地球緑化センターのマッチング及びサポートを介した地 域づくりを取り上げ、転出した外部人材を伴う社会関係資本の広域化(論点 2)、
及びコーディネート組織による活用体制の成熟化(論点 3)に着目し、事例分析 を行った。その結果、活用体制が未成熟であり、外部人材の使途も不明瞭な段階、
また活用体制が概ね確立し、それに応じた外部人材を求める段階、更に自立した 活用体制を擁し、外部人材を選ばない段階の 3 段階にわたる地域づくりのプロセ スが確認された。またそうした段階によって、コーディネート組織によるマッチ ングへの意向やサポートの必要性が異なること、また地域と恒常的に関わるコー
3
ディネート組織の潜在的な有用性と課題が明らかになった。以上を踏まえ、外部 人材の活用による地域づくりを進めていく上で、まず初動の段階で、コーディネ ート組織のマッチングによる一定水準に基づく外部人材の供給や、活用体制の立 ち上げのサポートを受け、地域の負担を軽減することが有用であること、また継 続の段階においては、コーディネート組織が地域振興の方向性や現行制度に適合 するよう地域の活用体制を見直し続けることや、外部人材の自力登用に向けた自 立の促進が求められること(論点 3)が明らかになった。また非常時に対するフ ォローや、情報を幅広く蓄積し、その共有にあたること、また地域と転出した外 部人材とのネットワークの紐帯となり、その維持に努めることが、コーディネー ト組織の役割として位置づけられること(論点 2)を示した。
5 章では、人的支援の導入複数年を経て転出した外部人材が一定数存在してい る地域を想定した「財源・意思決定機関の担い手としての外部人材の活用」とし て、任意の自治体に寄付を行うことで、寄付額に相当する税額控除が受けられる ふるさと納税制度、及び当制度による寄付金を財源とした、寄付者と住民からな る意思決定機関「池田町まちづくり自治委員会」を取り上げ、転出した外部人材 を伴う社会関係資本の広域化(論点 2)、及び地域の自治能力の向上(論点 4)に 着目し、事例分析を行った。その結果、財源・意思決定ともに地域外の担い手に よる地域づくり体制の下で地域づくりが進められる段階、また地域外からの寄付 金を財源としながらも、住民が主体的に意思決定を担う地域づくり体制が構築さ れている段階の 2 段階にわたる地域づくりのプロセスが確認された。また地域づ くり体制の内発化の背景として、任期を終えた外部人材を含めた町外委員を中心 とした意思決定機関による地域づくり活動の創出を重視した姿勢を維持によっ て、地域づくり活動の経験を得た地域住民が意思決定機関の担い手として育成さ れてきたことが明らかになった。以上を踏まえ、人的支援の導入複数年を経て、
転出した外部人材が一定数存在している地域において、任期を終えた外部人材の 活用による地域づくりを進め、地域づくり体制の内発化を図るためには、彼らの 協力による初動の下、地域内への事業の認知や、事業のノウハウの蓄積・共有と いった、地域外の協力者を中心とした人員構成が抱える弱みを地域内で補いなが ら、住民を主体とした体制へと緩やかにシフトさせていくことが重要であること
(論点 4)、その継続段階にあっては地域づくり活動の成功体験を積み重ねなが ら、住民を主体とした体制構築を第一義としながらも地域外の担い手が支援して いく仕組みを整えていくこと(論点 3)が重要であることが明らかになった。
6 章では「地域マネジメントのための外部人材の活用」として、これまでに得 られた知見の統合を踏まえ、4 つの論点「一貫性ある地域づくり活動プロセスの 推進」「転出した外部人材を伴う社会関係資本の広域化」「コーディネート組織 による活用体制の成熟化」「地域の自治能力の向上」に沿って、地域マネジメン トのための外部人材の活用における要点を提示した。
最後に 7 章「研究の総括」で、各章の要約及び今後の研究課題を示した。
No.1
早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書
氏 名 野田 満 印
(2015 年 11 月 19 日現在)
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
○論文
(査読付)
論文
(査読付)
○論文
(査読付)
論文
(査読付)
論文
(査読付)
講演
講演
講演
講演
講演
住民自治の推進に向けたふるさと納税の活用に関する研究-福井県今立郡池田町「池田町 まちづくり自治制度」におけるまちづくり体制の変遷に着目して-、日本建築学会計画系 論文集、2015.11、野田満・後藤春彦・山崎義人
中山間地域における酪農業の保全に向けた猟区制度の活用の今日的課題-西興部村にお ける鳥獣害と猟区制度の共生について-、都市計画論文集、2015.10、小林大祐・後藤春 彦・山崎義人・野田満
人的支援の効果的活用に向けたコーディネート組織の役割-「緑のふるさと協力隊」にお ける地球緑化センターの実態と課題に着目して-、日本建築学会計画系論文集、2014.11、
野田満・後藤春彦・山崎義人
再祀後の神社の運営に関する基礎的研究-明治末期の神社整理の対象となった和歌山市 の神社の変遷-、都市計画論文集、2014.10、森田椋也・後藤春彦・山崎義人・野田満
「長期未整備都市計画道路」の現状と見直しの方向性に関する基礎的研究-越前市都市計 画道路「大正線」を対象に-、土木計画学研究・論文集、2010.09、高倉淳美・野田満・
加藤式男・川上洋司
地域外協力者の関与・支援による地域組織の立ち上げと住民自治の萌芽-中山間地域にお けるふるさと納税の活用を通したまちづくりの取り組み-、日本建築学会大会(関東)農 村計画部門研究協議会 PD 資料集、2015.09、野田満
中山間地域におけるふるさと納税の活用を契機としたまちづくり体制の構築-福井県今 立郡池田町「池田町まちづくり自治委員会」を事例に-、日本建築学会関東支部研究報告 集、2015.03、野田満・後藤春彦・山崎義人
人的支援における外部人材のための広域プラットフォームの役割に関する考察-「村楽 LLP」の取り組みを通して-、日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、2014.09、野田 満・後藤春彦
未利用地の非地権者による継続的利用に向けた支援体制に関する研究-千葉県柏市カシ ニワ制度における地権者と利用者の意向に着目して-、日本建築学会大会学術講演梗概集
(近畿)、2014.09、内田将大・後藤春彦・野田満
地方都市における神社の再祀とその後の運営に関する研究-和歌山県内の合祀元神社を 対象に-、日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、2014.09、森田椋也・後藤春彦・山 崎義人・野田満
No.2
早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
講演
講演
講演
講演
その他
(寄稿)
その他
(寄稿)
その他
(寄稿)
その他
(寄稿)
受賞
受賞 受賞
水辺空間における地域文脈に根ざした利用行為の変容に関する研究-中央区佃一丁目に おける物的環境変化に着目して-日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、2014.09、青 山春菜・後藤春彦・野田満
農山漁村地域における外部人材の活用実態と意向に関する基礎的研究-「緑のふるさと協 力隊」事業受入自治体を対象に-、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)、2013.08、
野田満・後藤春彦
生活者の視座からの復興まちづくりのプロセス:岩手県下閉伊郡山田町での取り組み、
日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)、2012.09、石黒雅之・後藤春彦・佐藤宏亮・
野田満・ほか多数
生活者の暮らしの記憶から描かれる復興まちづくり-岩手県山田町の漁村集落における 取り組み-、都市計画ポスターセッション、2012.05、谷口綾子・佐藤宏亮・野田満・ほ か多数
連続講座-WORK SHOP-総括シンポジウム 2014 年度企画のまとめと報告、建築雑誌、
2015.06、野田満
地域の多様性を生かすための「地域資源の活用」とは何か、月刊コロンブス、2015.05、
野田満
人的支援の多面的意義と、協働の本質的意義、タマリスク、2015.03、野田満
活動レポート:WORK SHOP-さまざまな分野のワークショップ-、建築雑誌、2014.11、野 田満
日本建築学会関東支部研究発表会:若手優秀研究報告賞、2015.03、野田満・後藤春彦・
山崎義人
日本建築学会農村計画委員会:学術講演若手優秀発表、2014.02、野田満・後藤春彦 都市計画学会都市計画ポスターセッション:優秀ポスター賞、2012.05、谷口綾子・佐藤 宏亮・野田満・ほか多数