意識に与える影響
著者 杉本 龍勇
出版者 法政大学スポーツ研究センター
雑誌名 法政大学スポーツ研究センター紀要
巻 38
ページ 55‑67
発行年 2020‑03‑31
URL http://doi.org/10.15002/00023601
1.緒言
現在の大学スポーツは大きな転換期に差し掛かっており,
従来のスタイルやマネジメントからの変化が求められている。
2019年3月1日付けで大学スポーツ協会(以下UNIVASと称 する)が設立され,「大学スポーツの振興により,『卓越性を 有する人材』を育成し,大学ブランドの強化及び競技力向上 を図る。もって,我が国の地域・経済・社会の更なる発展に 貢献する」という理念(UNIVAS,設立理念)の下,今後の大 学スポーツの在り方に対する変革がスタートした。こうした 背景から,従来の大学スポーツの存在意義は変わっていくこ とが予想される。これにより,各大学体育会の存在意義や役 割も変化していくと思われる。これまでの体育会は,大学に おける任意団体の組織であることが主流であり,所属する学 生および指導者,そしてその卒業生によって任意の活動とし てマネジメントされてきた。しかし,前述のUNIVASの設立 により,大学スポーツ全体が目指すべき方向性が提示され,
このため,各大学の直接的な管轄下に置かれるといった組織 の変改が始まっている。こうした背景により,UNIVASの理 念だけでなく,各大学の理念に基づいた活動を求められるよ うになってきている。
UNIVAS設立以前から,大学スポーツは様々な役割を担っ てきた。近年目立つのは, 体育会の競技面での活躍を通じて大 学の認知度を高め,ブランド力を向上させる役割である。こ の役割は前述のUNIVASの理念にも含まれているが,入試広 報の一環として大学の認知度を高め,受験者数を増加させる ことや,在校生や卒業生の大学への帰属意識や愛着を向上さ せることを目的としている。在校生が自校を誇りに思う項目 として,「オリンピック選手の輩出」「プロ選手の輩出」ある いは「部活が強くて有名」などが挙げられるケースも見受け
られる(元根,2018)。この体育会の活躍を活用したマーケ ティング戦略において,競技成績に優れた高校生に対する入 試に力を注ぐ大学も多くあり,推薦入試制度などによって優 れた競技力を有する生徒の募集を積極的に行う様子も伺える。
また同時に,体育会強化の一環として施設の充実を図ったり,
運営コストを負担したり,また優れた指導者の招聘にも積極 的に取り組むなど,経済的な支援を行う様子も多く見られる。
マイナビフレッシャーズの調査(2015)によれば,「出身大 学への母校愛がある」と回答した者が母校愛を感じるシチュ エーションとして,「母校が話題になっていると反応してしま う」「母校の人が活躍しているとうれしくなる」「母校の名前 を新聞などでみるとうれしくなって切り抜いてしまう」といっ たことを挙げている。こうしたことを踏まえると,体育会が 優れた競技成績を収め,これに関する情報が発信され,在校 生ならびに卒業生に周知されることによって,彼らの大学へ の帰属意識や愛着を向上させる可能性があると考えられる。
体育会の競技力強化が結実して優れた競技成績を収めること ができた場合,その結果はマスメディアによって発信される 機会が増加する傾向にある。また,現代社会においては情報 化が進み,ウェブやSNSなどによっても多くの情報が拡散さ れるが,スポーツに関する情報も同じようにSNSによって多 く発信されている。過去と比べ,情報入手のツールが多様化 し,かつスマートフォンの普及によって,場所や時間を問わ ずに容易に情報にアクセスできる環境に変化している。この 環境において,体育会の優れた活躍が在校生ならびに卒業生 の大学への帰属意識を高めることに貢献するためには,積極 的な情報発信が必要であり,より能動的に大学側から情報発 信をすることが求められる。また同時に,情報が的確に在校 生ならびに卒業生に届くことが重要であり,そうした情報が
在校生の大学スポーツに対する評価が大学への帰属意識に与える影響
Influence of assessment of activities of college sports club on identification of student with university
杉 本 龍 勇(法政大学経済学部)
Tatsuo Sugimoto
Abstract
The purpose of this paper is Investigation how assessment of college sports influences on identification of students with own university. Questionnaire date were gathered from university students, who attend subjects of sports. Finding of linear regression analysis revealed that 2 factors have influence on be deeply interested in college sports of own belonging university and could be satisfied with admission in belonging university. One is students is frequently related with sport activities. Another ones is brand value of own belonging university.
キーワード:大学スポーツ,体育会への関心度,大学への帰属意識
Key words : College sports, Identification of students with university, Interest in college sports
在校生や卒業生に届いた場合,彼らの大学への帰属意識なら びに愛着の醸成に何らかの影響を与えることが予想される。
こうした帰属意識や愛着の向上などを目的として多くの大学 が体育会を強化していることは先にも述べたが,こうした目 的は必ずしも果たされているとは言い難い。様々な情報があ ふれ出ている現状や,多種多様なスポーツ種目が実施されて いる環境において,その競技成績の多くが膨大な情報の中に 埋もれてしまっている可能性もある。また,体育会の活動に 対する認知度についても,大学や体育会側の期待と在校生や 卒業生,そして社会における実情と乖離していることもある だろう。つまり,多くの人が大学スポーツに関して認知して いない,あるいは興味が無いという可能性も否定できない。
こうした状況であれば,大学のブランド価値向上に対する体 育会の役割は期待通りの効果を果たすことは難しい。したがっ て,体育会の競技力強化が大学への帰属意識を高める可能性 について検証する必要であり,これに関する知見を集めるこ とで,体育会が期待される役割を果たすことにつながるもの と考えられる。
そこで本研究では,在学生の体育会に対する認知度や興味 などを把握し,それらが大学への帰属意識や愛着に対してど のような影響を与えるかについて検証することを目的とする。
2.研究方法
調査対象は私立A大学の在学生で,基礎教育課程の体育関 連科目(実技を中心とした演習)を受講する一年生とした。
そして,2019年度の春学期終盤ならびに秋学期初旬における 体育関連科目の授業内にてアンケート調査を実施した。
調査項目は「性別」「入学経路」「スポーツ実施に対する関 心」「スポーツ観戦に対する関心」「スポーツ実施の状況」「ス ポーツ実施の得意・不得意」「入学動機」など,デモグラ フィックプロフィールやスポーツ,入学などに関する23項目,
そして「体育会活動に対する興味」「体育会学生とのコミュニ
ケーション」「応援したい体育会」など,体育会に関する10 項目とした。
分析方法は,度数分布および回帰分析を使用した。回帰分 析においては,「体育会の活躍と大学入学への満足度」「体育 会の活躍は周囲への自慢になるか」を従属変数とした。独立 変数については,従属変数以外の質問項目を因子分析によっ てスポーツや体育会に関するデモグラフィックプロフィールの 項目群と大学入学に関する項目群の2つグループに分類し,
各グループによる重回帰分析を行った。またこの際,独立変 数間の相関については,共線性の診断を行い,強い相関のあ る独立変数については除外し,再度分析を行った。
サンプル数は4197,有効回答数は3653(87.0%)であった。
なお,分析使用ソフトはIBM SPSS ver.25を用いた。
3.結果及び考察
3 − 1.調査対象者の個人的特性およびスポーツに関する特徴 先ずは性別であるが,約60%が男性,約40%が女性となっ ている(図1)。次にスポーツ実施に関する状況であるが,中 学時代に運動部活動に所属していた割合が80%,高校時代の 運動部活動への所属は62%となっており,平成28年度の運動 部活動の加入率(中学校:65.2%,高校:41.9%)(スポーツ 庁,2017)よりも高い値を示している(図2,図3)。これは,
調査対象者の性別構成において男性が多いことが影響を与え ていると思われる。次に一年以上実施を継続したスポーツの 有無についてであるが,82%が「ある」と回答しており,ス ポーツ実施に関して一定の経験があることが示された(図4)。
スポーツ実施に対する興味について,「大変興味がある」は
38%,「まあまあ興味がある」は37%と回答しており,スポー
ツ実施にある程度興味を持っている者は75%程度を越える高 い値を示し,スポーツ実施に対する需要が大きいことを示し ている(図5)。またスポーツ観戦に対する興味についても,
「大変興味がある」は33%,「まあまあ興味がある」は38%と
39.3
60.7
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0
女性 男性
(%)
20.1
79.9
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
いいえ はい
(%)
図 1:性別 図 2:中学時代の運動部活動所属
38.2
61.8
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0
いいえ はい
38.2 36.3
11.2 10.1 4.2 0.0
10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 (%)
11.3
88.7
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
ない ある
33.2 38.1
10.2 12.6 6.0 0.0
10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 (%) 図 3:高校時代の運動部活動所属
図 5:スポーツ実施に対する興味
図 4:一年以上実施を継続したスポーツの有無
図 6:スポーツ観戦に対する興味
6.5 13.0
27.2 20.5
32.9
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 (%)
9.8 33.6
27.2 17.1
12.3
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 (%)
図 7:現在のスポーツ実施状況 図 8:スポーツをすることは得意か?
回答しており,スポーツ実施と同様に,こちらも大きな需要 が存在することがわかる(図6)。しかし,現在のスポーツ実 施状況に関しては,週1回以上を実施してる者の割合が47%
に留まっている(図7)。このような状況は,2016年および 2017年における調査と比較しても大きな変化はなく(杉本ほ か,2018),調査対象である年齢層におけるスポーツ実施率は 特に高いとは言い難い。しかしスポーツ実施に対する興味を 踏まえてこの状況を考えてみると,スポーツ実施に対する大 きな潜在需要があることが予想できる。こうした背景にはい くつかのスポーツ実施対する阻害要因があると思われるが,
その一つとして,スポーツ実施において得意,不得意が関係 していると思われる。スポーツ実施の得意・不得意に関する 質問では,44%が「得意」と回答しており(図8),スポーツ 実施の現状にこの状況が反映しているのではないだろうか。
スポーツに関する情報入手であるが,22%が「よく見聞きす
る」,41%が「まあまあ見聞きする」と回答し,比較的多くの 者が日頃スポーツ情報に触れていることが示された(図9)。
またスポーツに関する会話をする頻度については,「よく話を する」と「まあまあ話をする」を合わせた回答が51%となり,
スポーツに関する情報入手のポイントよりも低い値を示して
いる(図10)。この結果から,情報には触れているものの,そ
の情報に対する関心度があまり高くない者が一定の割合を占 めていると思われる。
3 − 2.入学に関する特徴
全体的な傾向として,当該大学への入学に関しては非常に 積極的な動機を持っている者がそれほど多くないことが示さ れた。「浪人してでも入りたい大学か」「第一希望の大学か」
「第一希望の学部が存在するか」などの質問項目では,いずれ も「大変当てはまる」「まあまあ当てはまる」と回答した者の 3.3 6.6
19.1 19.2 51.8
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 (%)
22.1 40.7
13.3 18.0 5.9 0.0
10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 (%)
10.6 10.2 13.7 18.8 46.6
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 (%)
15.8 35.0
16.3 22.4
10.5
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 (%)
図 11:入学動機(浪人してでも入学希望有り)
図 9:スポーツ情報の入手頻度
図 12:入学動機(学部は問わず第一希望の大学)
図 10:スポーツに関する会話頻度
19.8 19.5
15.6 13.9 31.2
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0
10.0
26.1 26.8 17.0
20.1
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 (%)
3.2 5.8
14.8 18.5 57.7
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0
11.3 34.1
24.0
13.8 16.9
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 (%) 図 13:入学動機(第一希望の学部が有り)
図 15:入学動機(自身の学業レベルに最適)
図 14:入学動機(教えを請いたい教員が在籍)
図 16:入学動機(知名度がある大学だから)
12.9
27.7 26.5
13.4 19.5
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 (%)
5.0 14.9
25.5 20.5
34.1
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 (%)
図 17:入学動機(自分が望む最低限のレベルに達しているから) 図 18:入学動機(家族や知人のススメ)
値が50%以下となっている(図11,図12,図13)。また,家 族や知人からの勧めの影響を受けて入学を動機付けられた者 の値も小さく,20%以下となっている(図18,図19)。これ らの背景から,入学決定時においてそれほどの憧れや愛着を 持っている者が少なく,あまり能動的に入学してきたとはい えないことが示唆された。
しかし,入学後の大学に対する満足度は「大変当てはまる」
と「まあまあ当てはまる」を合わせた値が57%となり,入学 時の評価よりも改善されているものと考えられる。こうした ことから,入学後の大学への愛着は大学入学時よりも強まっ ていると予想される。
3 − 3.体育会に対する評価
体育会に対する興味を抱いている者は31%に留まり,関心 はあまり高くないことが示された(図21)。また,体育会の活
躍が入学満足度に与える影響も大きくなく,興味を抱いてい る者と同じような値(28%)をとなった(図22)。そして,
「体育会の活躍は自慢できるか否か」についても29%と低く
(図23),こうしたことから,全般的には体育会の活躍が大学
への帰属意識の向上に影響を与えているとは考えにくいこと が示唆された。この2つの項目「体育会に対する興味」「体育 会の活躍と入学への満足度の相関」については,2016年およ び2017年の調査結果と比較しても大きな変化はなく,体育会 に対する興味においては,31.1%(2016年)と31.5%(2017 年),体育会の活躍と入学満足度の相関においても,26.2%
(2016年),24.5%(2017年)といった値を示しており(杉本 ほか,2018),こうしたことから,体育会に対する興味や体育 会の活躍が入学満足度に与える影響は小さいことがある程度 恒常的な状況であると予測される。
そして,体育会所属学生とのコミュニケーションを希望し 9.7
21.0 24.0 19.5
25.8
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 (%)
4.1 7.9 15.2 12.1 60.7
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 (%)
7.8
19.9 31.7
18.7 21.8
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 (%)
19.4 37.8
27.0
8.1 7.7 0.0
5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 (%)
図 21:体育会への興味
図 19:入学動機(出身者の親族によるススメ)
図 22:体育会の活躍と入学満足度との相関 図 20:大学入学への満足度
ている学生は28%であり,また体育会所属学生とのコミュ ケーション頻度の現状についても「あまりない」が32%,
「まったくない」が45%と回答しており,体育会に興味を抱く 者も少なく,また興味を持たせるきっかけとなるコミュニケー ションの機会も少ないことが明らかとなった。こうしたこと を反映してか,体育会の試合観戦経験についても,「ない」と 回答した者が83%となり,在校生にとって,体育会は身近な 存在ではないことが示された(図27)。これらの結果を踏まえ れば,前述の様に,大学への帰属意識の醸成に対する体育会 影響は大きくないことが予測される。
しかし,体育会に対する関心は低いものの,活躍を期待し てる体育会に関しては「特にない」と回答した者は27.6%に 留まり,また観戦したい体育会の試合に関しては30.4%が「特 にない」と回答している。つまり,興味や関心はそれほど強 くはないが,体育会の存在についてはある程度は認知してい るものと思われる。これらの項目については2016年および 2.2 2.3
16.1 59.5
19.9
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 (%)
82.9
17.1
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
ない ある
(%)
8.7 22.3
34.1
16.4 18.4
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
3.5 7.1 12.0 32.2
45.2
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 (%)
10.0 18.7
32.9
19.8 18.7
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 (%)
図 25:活躍していると思う体育会の数
図 27:体育会の試合観戦経験の有無 図 23:体育会の活躍は周囲に誇示できる
図 26:体育会学生とのコミュニケーション頻度 図 24:体育会学生とのコミュニケーションを希望
27.6 0.1
0.3 0.1
0.2 0.0 0.0 0.2
0.4 0.1 0.1
1.0 0.3
0.5
9.6 2.2
4.7 0.1
0.2 1.7 0.0 0.1
24.0 1.0
2.0 0.6
0.8 0.1
0.3 0.2
1.4
16.2 0.2
0.3 0.2
0.4 2.7
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0
特になし 少林寺拳法 弓道 ゴルフ ボート 射撃 ワンダーフォーゲル 航空 剣道 重量挙げ 柔道 バドミントン 空手 フェンシング 陸上 ラグビー バスケットボール ヨット ホッケー バレーボール 馬術 準硬式野球 硬式野球 ソフトテニス テニス 卓球 ハンドボール 相撲 スケート スキー 水泳 サッカー 自動車 自転車 山岳 ボクシング アメフト
(%) 図 28:活躍して欲しい体育会(1 つのクラブのみを選択)
30.4 0.1
0.2 0.0 0.2 0.1 0.1 0.4 0.0 0.1 0.1
1.1 0.2 0.3
7.5 2.6
5.3 0.1
0.1 1.7 0.1 0.1
24.0 1.0
1.8 0.5 0.9 0.1 0.2 0.1
1.0
15.9 0.2
0.3 0.1 0.4
2.9
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0
特になし 少林寺拳法 弓道 ゴルフ ボート 射撃 航空 剣道 レスリング 重量挙げ 柔道 バドミントン 空手 フェンシング 陸上 ラグビー バスケットボール ヨット ホッケー バレーボール 馬術 準硬式野球 硬式野球 ソフトテニス 硬式テニス 卓球 ハンドボール 相撲 スケート スキー 水泳 サッカー 自動車 自転車 山岳 ボクシング アメフト
(%) 図 29:観戦したい体育会の試合(1 つの体育会のみ選択)
2017年の調査結果よりも改善しており,無関心層が減少して いることも明らかとなった(杉本ほか,2018)。こうしたこと から,多くの者がライト層として体育会の活躍に目を向けて いると考えられる。
3 − 4.体育会の活躍が入学満足度に与える影響
重回帰分析の結果であるが,表1の通りとなっている。入 学への満足度に対し,男子学生の方が体育会の活躍によって 正の影響を受けやすいことが見られた。そして,スポーツ実 施や観戦に対する興味が強まるケースやスポーツに関する会 話頻度が向上すると,体育会が活躍することによって入学満
足度が高まることが示唆された。つまり,スポーツ全般に対 する関心が高さが体育会の活動に対する関心を導き,そして その関心の影響によって体育会が活躍することによって大学 に対する愛着や帰属意識が醸成され,入学に対する満足度が 高まるのではないだろうか。
体育会の認知度に関する項目において,体育会の活動に対 する認知度が向上することや体育会所属学生とのコミュニ ケーション頻度が高くなること,また体育会の試合観戦経験 が有ると,体育会が活躍することによって入学満足度が高ま る傾向が示された。したがって,学生生活において体育会の 存在が身近になると,体育会の活躍が入学満足度に対してポ
表 1:体育会の活躍と入学満足度の相関①(スポーツに関するデモグラフィックプロフィール)
B β t 値
(定数) 0.800 9.335
性別 -0.373 -0.149*** -9.449
中学時代の運動部所属 -0.013 -0.004 -0.222
高校時代の運動部所属 -0.008 -0.003 -0.177
一年以上継続したスポーツの有無 0.013 0.003 0.176
スポーツ実施に対する興味 0.060 0.055* 2.531
スポーツ観戦に対する興味 0.070 0.069** 3.253
現在のスポーツ実施状況 0.027 0.027 1.614
スポーツ実施は得意か? 0.022 0.021 1.055
スポーツ関連情報の入手頻度 0.011 0.010 0.481
スポーツに関する会話頻度 0.120 0.123*** 5.608 活躍していると思う体育会の数 0.343 0.225*** 14.438 体育会学生との関わりの程度 0.177 0.156*** 9.517 体育会の試合を現地観戦したことがあるか 0.271 0.083*** 5.095
現地観戦の経験回数 0.001 0.007 0.460
表 2:体育会の活躍と入学満足度の相関②(入学に関連する)
B β t 値
(定数) 1.284 15.064
入試経路(指定校推薦ダミー) 0.193 0.060*** 3.410 入試経路(付属校推薦ダミー) 0.079 0.023 1.282 入試経路(その他の推薦入試ダミー) 0.313 0.045** 2.819 入試経路(編入転学部ダミー) -0.158 -0.011 -0.712 入試経路(留学生入試ダミー) -0.446 -0.040 -2.577 入学動機(浪人してでも入学希望有り) 0.135 0.124*** 7.002 入学動機(学部は問わず、第一希望) 0.127 0.144*** 7.194 入学動機(第一希望の学部が有り) 0.023 0.029 1.632 入学動機(教えを請いたい教員が居た) 0.081 0.073*** 4.078 入学動機(自身のレベルに適応) 0.008 0.008 0.363 入学動機(知名度がある大学だから) 0.086 0.089*** 3.850 入学動機(自身が望む最低限の基準にある) 0.005 0.006 0.256 入学動機(家族や知人のススメ) 0.072 0.073*** 3.969 入学動機(親族に出身者おり、勧められた) 0.095 0.092*** 5.381
次は入試に関する状況が体育会の活躍と入学満足度の相関 に与える影響について見たい。分析結果は表2の通りである。
入試経路が指定校推薦とその他の推薦の場合,入学動機にお いて,「浪人してでも入学したい」や「第一希望の大学」「教 えを請いたい教員が在籍している」といったように,入学に 対する優先度が高く,強い動機を有することで,体育会の活 躍と入学満足度の関係が因果的になることが考えられる。ま た,知名度の高さや周囲の人からの勧めによる影響において も有意差を確認することができた。つまり,口コミによる説 得や知名度の高さによって大学に対するイメージが向上し,
度に因果関係が強くなると予想される。
3 − 5.体育会の活躍と自己顕示の関係
「体育会の活動が自慢になるか」ということに対し,スポー ツ実施や観戦に対する興味,スポーツに関する会話頻度にお いて有意差が確認できた(表3)。こうしたことから,スポー ツ全般に対する価値観が高まることによって,体育会の活躍 に対する価値観も向上すると考えられる。また,活躍してい る体育会の認知や体育会所属学生とのコミュニケーション頻 度,体育会の試合観戦経験においても有意差が明らかとなっ
表 3:体育会の活躍は自慢になる①(スポーツに関連する属性)
B β t 値
(定数) 1.209 13.997
性別 -0.411 -0.166*** -10.315
中学時代の運動部所属 0.000 0.000 -0.003
高校時代の運動部所属 -0.042 -0.017 -0.946
一年以上継続したスポーツの有無 -0.018 0.005 -0.248 スポーツ実施に対する興味 0.070 0.066** 2.930
スポーツ観戦に対する興味 0.056 0.055* 2.553
現在のスポーツ実施状況 0.027 0.028 1.603
スポーツ実施は得意か? -0.008 -0.008 -0.379
スポーツ関連情報の入手頻度 0.026 0.026 1.158
スポーツに関する会話頻度 0.095 0.098*** 4.384 活躍していると思う体育会の数 0.341 0.228*** 14.269 体育会学生との関わりの程度 0.140 0.126*** 7.499 体育会の試合を現地観戦したことがあるか 0.243 0.076*** 4.532
現地観戦の経験回数 0.001 0.005 0.300
表 4:体育会の活躍は自慢になる②(入学に関する属性)
B β t 値
(定数) 1.472
入試経路(指定校推薦ダミー) 0.147 0.047** 2.610 入試経路(付属校推薦ダミー) 0.114 0.033 1.851 入試経路(その他の推薦入試ダミー) 0.159 0.024 1.441 入試経路(編入転学部ダミー) -0.121 -0.009 -0.543 入試経路(留学生入試ダミー) -0.431 -0.040 -2.498 入学動機(浪人してでも入学希望有り) 0.102 0.095*** 5.293 入学動機(学部は問わず、第一希望) 0.117 0.135*** 6.622 入学動機(第一希望の学部が有り) 0.061 0.078*** 4.286 入学動機(教えを請いたい教員が居た) 0.069 0.063** 3.476 入学動機(自身のレベルに適応) 0.009 0.009 0.429 入学動機(知名度がある大学だから) 0.101 0.106*** 4.561 入学動機(自身が望む最低限の基準にある) 0.003 0.003 0.141 入学動機(家族や知人のススメ) 0.066 0.068*** 3.647 入学動機(親族に出身者おり、勧められた) 0.053 0.052** 3.009
た(表3)。したがって,体育会活動に対する認知度の向上や 体育会との接触が密になることによってその存在感が高まり,
在校生自身の価値感の中でも重要度が向上すると思われる。
次に,「体育会の活躍が自慢になるか」に対する入学に関連 する状況の影響についてである。分析結果は表4の通りにな る。「指定校推薦による入学」や「浪人してでも入りたい」「第 一希望の大学」「第一希望の学部がある」「教えを請いたい教 員が在籍している」「知名度がある大学」「家族や知人による 勧め」「親族内の卒業生による勧め」において有意差が明らか となった。こうしたことから,入学に対して優先度が高くな る傾向が強まったり,知名度の高さといったブランド力に対 する価値感,そして周囲の人からの説得力が強くなると,体 育会の活躍に対する価値感を高め,そして在校生自身にとっ て自慢の存在になると予想される。
4.まとめ
本稿では,体育会の活躍が在校生の大学に対する帰属意識 や愛着に与える影響について検証した。その結果として,在 校生においては,体育会の存在自体がそれほど認知されてい ないことや,体育会学生とのコミュニケーションもそれほど 取れていないことが明らかとなった。こうした状況は,在学 生に向けた大学のブランド力向上に対するマーケティング ツールとしての機能が果たされていないことを示している。
在校生および卒業生に対するマーケティング戦略として,ブ ランド力の向上を図るのであれば,先ずは体育会の認知度を 向上させ、現在よりもその存在を身近にすることが必要であ ろう。体育会に対する認知度は低く,また関与度も低い現状 ではあるが,70%前後の学生が活躍を期待したり,あるいは試 合観戦に対する希望を持っていることから,カジュアルなス タイルでの関与を希望するライト層が多いことが推測できる。
こうしたライト層は潜在需要として捉えることができ,こう した層への働きかけ方によっては,現状よりも認知度や興味 などを改善することは可能であろう。したがって,体育会に 関するプロモーションにおいては,ライト層に情報が伝わる ような工夫を施すことが必要と思われる。
また,スポーツ実施やスポーツ観戦に対して興味を持って いる学生が多く存在することが示され,こうした興味が強ま ると,体育会の活躍と入学への満足度の因果関係があること,
そして体育会の活躍が自身の自慢となり得ることが明らかに なった。またスポーツに関する情報に接触する頻度が高いこ
とや,約50%がスポーツに関する会話も高い頻度で行ってい
るといった状況が示され,そしてこれらの頻度が高まること によって体育会の活躍と入学への満足度の因果関係が強まる こと,そして体育会の活躍が自身の自慢となり得ることが予 想される。このような結果を踏まえると,スポーツ全般に対 する関心度を高め,それらの情報に触れる機会を増やす施策 を講じることによって,体育会の活躍が入学満足度を高める 効果があると考えられ,学生自身の中での体育会の活躍に対 する愛着や価値感を高める可能性が高くなると推測される。
またこれら以外にも,入学に対するモチベーションの影響も 確認された。大学入学に対して好意的な姿勢を有し,その好 意が強まることで体育会の活躍と大学入学への満足度の因果 関係が強まること,そして体育会の活躍に関する価値感が個々 の在校生の中で高まることが明らかとなった。このようなこ とを踏まえると,大学自体に対するブランド価値を向上させ ることが必要であり,その価値が体育会の活動に対する価値 感も向上させるといった相関関係があると言えるのではない だろうか。したがって,大学のブランド価値向上のためのツー ルとして捉えられている体育会の強化であるが,大学自体の ブランド価値からも影響を受けていると思われ,体育会の強 化はそれ以外の大学のブランド価値向上方策との相互作用を 考慮して進めていくことが重要であると予想される。
これらのことを踏まえると,大学が体育会活動をブランド 価値向上のツールとして有効活用するのであれば,競技力の 向上だけに注力するのではなく,包括的な対策が不可欠であ ると言える。体育会への認知度や興味を抱かせるためには,
スポーツ全般に対する関心度を高めることが必要であり,ス ポーツ実施や観戦に対する興味を強めることやスポーツに関 する情報に多く触れる機会を設けることも重要となってくる。
こうしたことを大学側から施すのであれば,スポーツ関連授 業を活用することも一つの有効手段ではないだろうか。実技 は行うことはもちろん,スポーツに関する様々な知識を提供 し,学生にスポーツに対してより高い関心を持ってもらうこ とも必要となると思われる。また,体育会やそこに所属する 学生とその他の学生が接触する機会を創出し,その頻度や密 度を向上させることも求められる。このためには,授業参加 に工夫を施すことが必要であり、体育会学生の授業への積極 的参加を促し,その他の学生とのコミュケーションを促進す ることが不可欠な条件だと考えられる。そのためには,授業 参加とトレーニング時間の確保の両立に対する環境整備や,
これに関する体育会の指導者との意思疎通も重要となる。ま た,大学のブランド価値全般の影響も大きく,この価値が高 いことによって体育会の活躍に対する関心度も向上し,それ が入学への満足度を高めることに貢献する。そして,体育会 の活躍が学生にとって自慢になるかどうかは,大学に対する 帰属意識の醸成にも繋がる可能性がある。林(2017)は,大 学の誇りとして体育会を捉えることは大学への帰属意識に正 の相関を持つことを明らかにした7)。この点を考慮すれば,
体育会の活躍が学生にとって自慢のネタとなるのであれば,
大学への帰属意識にもポジティブな影響を与えることが予測 される。ここまで述べたように,体育会の競技力向上のみが 大学がブランド価値を向上させるのではなく,包括的な施策 を通じて体育会の活躍を活かすことが必要だろう。
しかしながら,本稿にはいくつかの課題がある。本研究で の対象者は新入生を中心としており,在校生全体の状況を反 映しているものではない。また大学のブランド価値は在校生 だけでなく,卒業生はもちろんのこと,大学との関与がない 人からも評価されるものである。したがって,調査の対象者
である。また大学への帰属意識についても多様な尺度を用い て多角的に分析する必要がある。これらのことを考慮しなが ら今後の研究を進め,体育会の有効的な役割に対する理解を 深めていきたい。
引用・参考文献
1) 一般社団法人 大学スポーツ協会(UNIVAS)(2020) 設 立理念. https://www.univas.jp/about/
2) 元根朋美(2018) 学生の誇りにつながる自校教育の内容 選定に向けて① -学生が自慢したいと思う大学像の調査研 究-.人間環境科学,25:47-60.
3) マイナビフレッシャーズ(2015) 多い?少ない?出身大 学に母校愛を感じる人は3割以上!「校歌が着うた」「後 輩はひいきする」.https://gakumado.mynavi.jp/freshers/
articles/13572
4) スポーツ庁(2017)「運動部活動の現状について」.運動部
活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議
(第1回)資料2:2. https://www.mext.go.jp/sports/b_
menu/shingi/013_index/shir yo/__icsFiles/afieldfi le/2017/08/17/1386194_02.pdf
5) 杉本龍勇・伊藤マモル・泉重樹(2018)調査報告「学生の
体育会活動に対する意識調査」.法政大学スポーツ研究セ ンター紀要,36:40.
6) 杉本龍勇・伊藤マモル・泉重樹(2018)調査報告「学生の
体育会活動に対する意識調査」.法政大学スポーツ研究セ ンター紀要,36:44.
7) 杉本龍勇・伊藤マモル・泉重樹(2018)調査報告「学生の
体育会活動に対する意識調査」.法政大学スポーツ研究セ ンター紀要,36:47-48.
・ 乾真寛(2011) 福岡大学のスポーツ科学部におけるカレッ ジスポーツ強化の取り組み. 専修大学社会体育研究所報 Annual Report
・ 佐々木勝(2005) 企業がスポーツチームを持つべきか. 日本労働研究雑誌
・ 杉本龍勇・伊藤マモル・泉重樹(2017) 学生における体育 会活動に対する意識調査. 法政大学スポーツ研究センター紀 要,35
・ 増井俊之(2005) 本棚通信:控え目なグループコミュニ ケーション. インタラクション2005論文集,135-142.
・ 水口充・中村聡史(2006) コミュ自慢-物理タグを介した コミュニケーションと情報アクセスの拡張の提案. 情報処理 学会研究報告
・ Kunkel.T., Hill B. and Funk.D. (2013) Brand architecture, drivers of consumer involvement, and brand loyalty with professional sports leagues and teams. Journal of sports management, 27:177-192.
・ Ernener K., Gulberk G.S.,Ekrem T. (2008) An Integrative
professional sports. Journal of Brand Management, 15: 336- 357.
・ 寺本高・西尾チヅル(2012) ブランドロイヤルティの形成 におけるブランド・コミットメントの長期効果. 流通研究,
14巻 2_3号:77-79