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けてメーカーと消費者との接点を探る

著者 野田 朗子

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 2

ページ 69‑92

発行年 2000‑12‑20

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004720

(2)

環境配慮型製品のマーケティング戦略

―普及に向けてメーカーと消費者との接点を探る―

野 田  朗 子

あらまし

 現在、消費者の環境配慮行動は、ゴミ分別収集 など廃棄行動では実行されつつあるが、購入・消 費行動では、まだ環境意識が行動に結びついて いない。モノに囲まれた生活を捨てられない現 状を直視すれば、従来型の製品から環境配慮型 製品へとシフトするためには、メーカーが消費 者に受け入れられる環境配慮型製品をつくるこ とが普及への近道であると考える。そこで本論 文では、欧米のようなグリーン・コンシューマー が育っていない日本の市場において、現在の企 業・行政によるグリーン購入から一般消費者へ 環境配慮型製品を普及させるために、営利組織 であるメーカーのマーケティング戦略を考察す る。現在の環境マーケティング論の問題点を指 摘したうえで、製品コンセプトを重視し、消費者 の情報処理能力の有限性に着目する。財本来の ニーズと環境配慮を両立するコンセプトによっ て価格高を可能にするという仮説を検証するた め、メーカーに調査を行い、これからの環境配慮 型製品に求められるマーケティング戦略を明ら かにする。

1. はじめに

 私たちの生活を見回してみると、ほとんど全 てのモノがお金と引き換えに買ってきた製品で ある。購買していないモノは皆無に等しいこと に気付くだろう。モノによって生活が成り立っ ている現代において、持続可能な物質生活を維

持していくためには、従来型の製品を環境に配 慮した製品(以下、「環境配慮型製品」という)に 替えていくことが必要不可欠である。

 それでは、どうすれば従来型の製品から環境 配慮型製品へとシフトするのだろうか。これに は、消費者、企業、行政それぞれのアプローチが 考えられるが、本稿では、環境配慮型製品を①日 本の市場において②一般消費者へ普及させるた めに③企業の立場から④マーケティング戦略を 考えることにする。4点の問題設定に限定した 理由について、以下に簡単に述べる。

 ① 日本の市場

 欧米では、マクドナルドの例に見られるよう に環境に悪いと思われる製品をボイコットする など、グリーン・コンシューマーの消費者運動に よって環境配慮型製品が成長したが、日本はそ のような消費者運動がおこるような市民文化は あまり発展していない。欧米のグリーン・マーケ ティングは、熱心なグリーン・コンシューマーの 存在を前提に語られている。そこで本稿では、欧 米とは消費者像の異なる日本の市場でのマーケ ティング戦略を考える。

 ② 一般消費者1

 現在の環境配慮型製品市場は企業・行政のグ リーン購入によって成り立っている。環境配慮 型製品の普及のためには、これを一般生活者に ターゲットを広げることが本稿の課題である。

 ③企業の立場から

 本稿では、現状の環境配慮型製品市場におい て、普及推進の鍵を握るのは、それをつくるメー カー自身であると考え、環境配慮型製品のマー ケティング戦略を考える。モノに囲まれて満足

  1消費者より広い概念として「生活者」があるが、本稿では環境配慮型製品の購買・使用を目的としているので、消費者に統一する。

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を得ている現在の生活を捨てられないことを直 視すれば、消費者を変えるには長い年月がかか り、難しい。そこで消費者の現状を見据え、メー カーが現在の消費者にも受け入れられる環境配 慮型製品をつくることが、普及への一番の近道 であると筆者は考える。それが現在の環境配慮 型製品市場で速攻性のある戦略になり得るだろ う2。したがって、消費者の環境意識の根本にあ る環境倫理については本稿では触れない。

 企業は営利組織である。環境配慮型製品をつ くるのが営利を追求する企業である以上、環境 配慮型製品が多くの消費者に買われ、収益がで なければ長続きはしない。これまでの企業イ メージアップのための環境配慮型製品では普及 には結びつかない。利潤を考えなければいくら でも、より環境負荷を低減する環境配慮型製品 がつくれるであろう。経済と環境を両立させる 戦略が必要である。

 ④マーケティング戦略

 どのようにすれば製品の環境負荷が効果的に 削減できるのか、というライフサイクルアセス メント(LCA)やエコ・デザインなどのハードの アプローチではなく、ソフトのアプローチとし てどのような環境配慮型製品を作れば消費者に 受け入れられるのかという消費者との接点から マーケティング戦略を考えていく。

 ここで、本稿の指す環境配慮型製品とは、財の 目的は別にあるが、従来と比較して環境への負 荷の少ない最終消費財に限定しておく。主に消 費者が直接環境に影響を与える使用段階におい て環境負荷を低減する環境配慮型製品に着目し たい。なぜなら、私たちの最も身の回りにある製 品であり、生活の意識を変える可能性が大きい からである。また、消費財メーカーが取引先の生 産財メーカーに対して環境取り組みを要請する

ことが期待できる。

2. 環境配慮型製品市場の現状 2.1 市場環境

 企業の環境取り組みを本格化させるきっかけ となった 1992 年のリオデジャネイロでの国連環 境開発会議(地球サミット)で合意された「環境 と開発に関するリオ宣言」の第8原則や、環境基 本法の第 24 条「環境への負荷の低減に資する製 品等の利用の促進」(1993年施行)などによって、

具体的な施策が講じられており、環境整備が図 られつつある。製品に関して何らかの環境対策 を行っている企業が年々増加しているが、なぜ企 業は環境配慮型製品市場に参入するのだろうか。

企業が環境面に配慮する必要性、その優位性3に ついてKen Peattieの指摘した8つの理由4から整 理すると、以下の点があげられる。①消費者ニー ズがある②新しい市場の開拓③競争優位を生み 出す④コスト削減効果⑤リスク・マネージメン ト⑥社内の勤労意欲の向上⑦世論の企業責任の 追求である。

 特に環境配慮型製品をつくる原動力としては、

消費者の環境意識の高まりと、特定家庭用機器 再商品化法、再生資源利用促進法、改正省エネル ギー法、容器包装リサイクル法などの法律によ る規制5、ひいては世界的な環境基準を技術ブ レークスルーによっていち早くクリアする国際 競争力を獲得すること、主にこの三つの要因が 大きいと考えられる。

 従来、エコロジーとエコノミーは、トレードオ フ関係にあるという見解が一般的であった。そ こへ、「適切な環境基準の設定こそが、製品価値

  2このような視点に立ったのは、筆者自身の経験に基づくところが大きい。筆者は緑に囲まれた京都市北部で生まれ育ち、今でい う「環境教育」として意識されたものではなかったが、自然に様々な喜びを教わり、現在の筆者の価値観に大きな影響を与えて いる。しかし、そんな筆者でも、消費者として行動するときは、「もったいない」「モノを大切にしよう」という意識は働いても、

「この製品は環境負荷を低減するか」「環境にやさしいのか」という基準で製品を選ぶことはなかなかできない。大切な自然を守 りたいという気持ちはあっても、モノを買うときにそれを思い出すことは極めて難しいと実感したからである。ある程度環境意 識が高くても難しいのだから、そうでない一般的な消費者に製品購買において環境の価値を訴えるのは本当に難しいであろう。 在の「地球にやさしい〜」というキャッチフレーズに代表されるような、表面的な感情に訴える環境配慮型製品にこのような矛 盾と困難性を感じて、もっと現実的な戦略への変換が必要なのではないかと考えたからである。

  3製品での環境対応を含めた環境経営の優位性は、日本企業でもようやく環境経営の偏差値の高い企業ほど株式の時価総額も高い、

という相関関係を示すようになり、環境対策を市場も評価する時代になったといえる。日本経済新聞社と日経リサーチによる第 3 回「環境経営度調査」日経産業新聞 1999 年 12 月 16 日朝刊。

  4[Ken Peattie92,pp.46-47]

  5環境法に関する文献は多いので、ここでは割愛する。環境配慮型製品に関わる法律については、例えば、[永田 98]に詳しい。

(4)

の向上や原価削減のためのイノベーションの契 機となる」と説いたのが M・E・Porter である6。 環境改善は資源の生産性を向上させるとして、

市場原理にできない環境規制がイノベーション を生む、と規制の必要性を訴えている。一方で、

Noah Walley や Bradley Whitehead は、このような PorterやAlbert Gore副大統領らが主張する「環境 とビジネスの双方が勝利を得る Win-Win 構造」

はまれなケースであると批判し、膨大にかかる 環境コストを把握し、株主の価値つまり利益の みに焦点を当てることによって、優先順位を決 めることが必要であると主張している7。  筆者も Walley らが指摘するように、今後さら に複雑になる環境問題に対して規制が厳しくな り、企業の環境支出はさらに増大すると考える。

だからこそ、いち早くイノベーションの契機と 捉えて積極的に経営戦略に取り込む方が得策に なる。つまり、環境配慮型製品においても、費用 対効果を考えながらどう市場戦略をとっていく のか、という現実的な戦略が必要である。本稿で は、Porter や、Schmidt Bllek8、Weizsacker9らのい う資源効率性(Eco-Efficiency)を高めることか ら競争優位が図れるということだけではなく、

マーケティングからのアプローチによっても環 境配慮によって競争優位が図れることを、明ら かにしたい。

2.2 需要側にみる環境配慮型製品市場 の問題点

 それでは、既存の製品から環境配慮型製品へ の代替において、どのようなことが障害になっ ているのだろうか。本節では、現在、環境配慮型 製品市場の大部分を占める企業・行政を顧客と した BtoB(Business to Business)市場10から、一 般消費者市場BtoC(Business to Consumer)へ拡大す るために、まず消費者の環境意識を探ることで 需要側を捉えることにする。

 個人としての生活者では、環境問題への関心 は高いが具体的な行動に結びつかない、ひいて は環境配慮型製品を買わない、という意識と行 動のギャップが存在するといわれる。

 それでは、消費者は製品を購入する際にどの くらい環境を考慮しているのだろうか。電通リ サーチの調査によると、「製品購買時に環境を損 なわないか」を意識する消費者は、日用品で 20.3%、耐久品で 16% となっており、2割弱に過 ぎないことがわかる11。言い換えると、現状では 8割以上の消費者が環境問題を意識せずに購買 行動を行っているということになる。

 しかし、環境問題への関心はかなり高まって きているといわれる。世論調査12によると、地球 環境問題に関心がある人は8割にのぼる。しか し、環境問題に対する行動面を尋ねると、環境保 全のために「労力は惜しまない」(26.9%)、「生活 の水準を落としても構わない」(16.7%)、「必要な 費用は課されても構わない」(13.8%)と具体的な

  6[Porter95,pp120-134]

  7[Walley94,pp46-50]ポーターとこの論文をめぐっての論争は、[グレーノ 94]に詳しい。

  8[ブレーク 97]

  9[ワイツゼッカー 98]

10現在、環境配慮型製品の購入先は大半が、グリーン購入ネットワーク(Green Purchasing Network:GPN、1996 年 2 月設立)会員で ある企業や行政機関となっている。1998 年 1 月での会員の内訳は、企業 750 社、行政機関 200、民間団体 150 で、約 1100 団体と なっている。GPN は、多くの環境配慮型製品が次々と市場に登場しているにもかかわらず、再生コピー紙などの一部の製品を除 いて売上が伸び悩んでいることから、環境に配慮した購入行動が進まない要因として上位二つにあげられる、情報の不足と高価 格の問題に着目し、購入ガイドラインやガイドブック作成によって情報面で支援し、大口ユーザーとして市場拡大による価格の 低下を狙って設立されたものである。

  近年、企業、地方自治体の ISO(国際標準化機構)14001 取得の増加などを背景に、会員数、対象品目とも増加している。しか し、日経リサーチが全国の都道府県市、東京 23 区を対象に 1999 年 8 月に行った「自治体環境市場調査」では、備品購入の基準に環 境配慮を規定しているのは、都道府県では 57.4%、市ではわずか 14.1%にとどまっているなど、高価格が主な原因となって、

思ったほどグリーン購入は進んでいない。

  しかし、営利目的でない行政機関は、多少高くても環境配慮型製品を買い支えることで、導入・成長期にある環境保全型製品 市場を育成するべきである。行政の大口需要によってメーカーがコストダウン、技術革新を図り、価格低下につなげることがで きれば、企業のグリーン購入も進む。二つの大口需要のスケールメリットによって従来の製品と同じ価格帯にまで下がれば、一 般消費者にも受け入れられる。この好循環を生むために行政機関の役割は大きいといえる。

11資料[電通リサーチ 97]

12資料[総理府 98]

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問題になるにつれ、「そう思う」人は少なくなる13。  数値の上では高い日本人の環境意識とは、具 体的に環境問題の何に関心を持っているのだろ うか。国立環境研究所が行った「日独の消費者意 識調査」14では、興味深い結果が出ている。日本 人がドイツ人よりも特に高い関心を示している のは、「化学物質の多用による身体への悪影響」

「地球温暖化による気候変動」「家庭ごみの処理」

である。反対にドイツ人が日本人よりも高い関 心を持っている問題は、「熱帯林の減少」「酸性雨 による被害」「湖や河川・海洋の汚染」「レクリ エーション施設の建設による自然破壊」「交通に よる騒音の増大」である。ドイツが自分たちの周 りにある生活環境、とりわけ自然環境に危機感 を感じているのに対し、日本はマスコミに熱心 に取り上げられた環境問題に関心を寄せている ことがわかる。環境意識の中で、生活と環境問題 が直接結びついていない日本の実態が明らかである。

 環境に配慮した行動の中でも、製品に関わる 行動をみていくと、特にドイツと日本の差が大 きいのは「使い捨て容器に入った飲み物の購入 を控える」「プラスチックトレイの使われていな い食品を選ぶ」「包装がより簡素な製品を選ぶ」

といった容器包装に関わる行動であることがわ

かる。これは、ドイツでは DSD(Duales System Deutschland AG:包装廃棄物の共同回収組織)な どのごみの収集システムが整っており、家庭系 ごみも製品価格に転嫁されたり、行政による回 収でも有料となっているので、直接生活者の負 担となって経済的なインセンティブが働いてい ることが大きいと考えられる。容器包装以外で 差が大きかったのは、「ノートや便箋は再生原料 で作られた製品を選ぶ」(日本12.3%、ドイツ37.8

%)と、「消費電力量の少ない電化製品を選ぶ」

(日本 22.6%、ドイツ 45.2%)である。容器包装 だけでなく、製品そのものが環境負荷を低減し ている製品に対しても実践されていることがわ かる。唯一といっていいほど差がほとんどな かったのは、やはり「食品添加物や農薬を使用し ていない食品を買う」という行動である。自分自 身の健康に直接関わる問題であり、食品添加物 や環境ホルモン等はマスコミに非常によく取り 上げられるので、知識や関心が高いといえる。

 しかし、ドイツの環境配慮型製品の象徴とも 言える「ブルーエンジェルマークがついた製品を 優先して買う」ことを「いつも実行している」人は 15.9%、また「同種類製品なら高くても環境に配 慮した製品」をいつも選んでいるのは 14.8%と

13資料[環境庁 99]

14資料[寄本 99]

(出所)国立環境研究所『日独の消費者意識調査』

図1 日独の購買行動の違い いつも実行している だいたい実行している

使い捨て容器に入った飲み物の購入を考える(日本)

(ドイツ)

ノートや便箋は再生原料で作られた製品を選ぶ(日本)

(ドイツ)

プラスチックトレイの使われていない食器を選ぶ(日本)

(ドイツ)

消費電力量の少ない電化製品を選ぶ(日本)

(ドイツ)

トイレットペーパーは再生原料の製品を選ぶ(日本)

(ドイツ)

詰め替え容器に入った商品を選ぶ(日本)

(ドイツ)

シャンプーや洗剤等は合成製品より天然素材(日本)

(ドイツ)

食添加物や農薬を使用していない食品を買う(日本)

(ドイツ)

あまり実行していない 全く実行していない 無回答

(6)

思ったよりも低い数字となっている。このこと から、モラルの高いといわれるドイツ人であっ ても、ごみを少なくする製品や省エネ製品など、

自分たちの生活に直接メリットのある製品でな ければ買う人は少ないといえる。つまり、モラル が高くても生活者は「環境にやさしい」ことだけで 高い製品を買わないといえるのではないだろうか。

 欧米ではグリーン・コンシューマリズムに よって、環境に配慮した製品が積極的に買われ るようになった。消費者はそれだけでなく、企業 に環境の負荷が少なくなるように製造、流通す るよう求めた。グリーン・コンシューマーリズム は、環境に悪いと思われる製品をボイコットす る不買運動(exit)、抗議する告発(voice)、環境 にやさしい製品を買い支える(loyalty)という3 つの行動に代表される15。このような消費者主導 によって環境配慮型社会に変えていこうとする グリーン・コンシューマリズムは、1989 年イギ リスでは Elkingthon John の "The Green Consumer Guide"16, アメリカでは CEP が "Shopping  for  a Better World"17という本を出したことで一気に世 界中に広がった。市民社会の発達した欧米では グリーン・コンシューマーが需要を生み出し、企 業を動かしたのである。

 それでは、日本の消費者運動はどのような活 動をしているのであろうか。例えば、神奈川県の 消費者団体に行った調査18を見てみると、「調査 活動」「意見の表明」「講演会・見学会の開催」「パ ンフレットなどの発行」といういずれの活動内容 においても「環境問題」が最も多く取り扱われて いる。また、関心度も「食の問題」「福祉・高齢 者問題」を抜いてトップである。しかし、具体的 に環境問題に関する活動内容をみると、「ゴミ問 題・ゴミ減量」「リサイクル・回収」「身近な環境」

が中心で、「環境にやさしい買物・製品知識」は あまり取り上げられていない。消費者団体に属

している人は、一般消費者よりも消費者意識が 高いと思われるが、積極的に消費者主導の形で 循環型社会を作っていこうという認識はない。

それは活動内容の「意見の表明」に至っては、ど の項目よりも「活動していない」と答える団体が 最も多いことに顕著に表れている19

 どちらかといえば、日本では企業が環境配慮 型製品を作っているにもかかわらず、それがあ まり売れないというのが現状である。極端にい うならば、消費者運動に期待できない日本では、

欧米のように需要者が供給者を動かすのではな く、供給者が需要者を動かさなければいけない。

 このようなヨーロッパの環境先進国といわれ る国と日本の現状が異なる背景の一つには、幼 い時からの環境への価値観を形成している教育 体制による効果の蓄積がある。ドイツにおいて は、意識的に「環境教育」という科目が存在して いるわけではないが、初等教育段階(7〜 10 歳)

から、日本の小学校でいう理科や社会、国語、家 庭科といった諸科目の内容を包括する独特の合 科的教育の中に、環境教育の発想が歴史的に生 き続けている。1970 年代初めから、このような 各学習の相互関連性、体験性、科学性を重視した 教育が行われており、現実の生活の解明を目的 として環境問題も組み込まれている20。日本人の 多くが知識として環境問題を捉えているのに対 し、ドイツ等では幼い時からの教育によって自 分の生活を営む中で環境問題を体験として捉え ており、モノを買うという日常生活の行動のな かでも自然と環境問題が想起されるのであろう。

 日本でもそのような環境教育がようやく行わ れつつあるが、その効果が発揮されるのは数十 年という長い年月が必要である。環境教育の成 果がでるまで待つわけにはいかない。しかも、環 境教育が浸透しているドイツであっても、高く ても環境配慮型製品を常に買う人は少ない。そ

15A.O.Hirschman は、組織行動論から一般的な市場における退出(exit)と告発(voice)のオプションの選択について詳細に分析し ている。[Hirschman70]

16この本は、製品、企業、スーパーマーケットを環境の視点から評価し、「4つ星」「5 つ星」といったランク付けを行っている。60 万部以上売れ、この本の評価によってスーパーマーケットの売上ランキングが変わるほどの影響を与えた。

17この本は、①環境問題に積極的に取り組んでいるか②環境保全・社会福祉事業などに寄付をしているか③地域社会に貢献してい るか④男女平等に雇用しているか⑤雇用で人種差別をしていないか⑥従業員家族の福祉対策を実施しているか⑦職場の労働環境

⑧企業の情報開示の 8 項目と武器製造、動物実験の有無から、企業を 5 段階評価している。

18[田井 98]

19近年、日本でも徐々に環境にやさしい買い物をキャンペーンで訴えたりする運動ネットワークやNPO等の活動が起こりつつある。

日本経済新聞 1999 年 10 月 12 日夕刊。

20ヨーロッパ先進諸国では、1987 年 EC(欧州共同体)理事会によって「ヨーロッパ環境年(The European Year of Environment:EYE) と定められ、加盟 12 カ国は、環境の保護・改善をテーマとした広範な取り組みのなかで、教育政策も規定している。[加藤 91、310- 343 ページ]

(7)

れでは、現在の日本の状況において消費者の環 境意識を高めるアプローチのほかに、どのよう な方策が考えられるのだろうか。欧米のように 消費者運動に期待できない日本では、消費者に 環境配慮型製品を購買・使用してもらうために 企業はどのような戦略をとり得るのか。そこで、

製品のマーケティング戦略が問われてくるのだ が、次章ではこれまで展開されてきた環境マー ケティング論の問題点を指摘し、これからの環 境配慮型製品市場で成功する製品戦略について 筆者の仮説を展開する。

3.環境配慮型製品のマーケティングのあり方 3.1 これまでの環境マーケティング論  グリーン・マーケティング(green marketing)

という言葉は、1980 年後半以降からビジネスの 専門用語のひとつになったといわれる21。三上

[1982]によると、グリーン・マーケティングは、

70 年代のマーケティングの概念が拡張するなか でソーシャル・マーケティング(social marketing) の概念から派生した。三上は、Lazer[1973]の ソーシャル・マーケティングの考え方22を受けて

「ソーシャル・マーケティングとは、利益を得て 消費者の満足を提供するといった従来のマーケ ティングから、非消費者を含む生活者(消費者・

市民)の利益、さらには社会全体との利益と調和 し、また資源・エネルギー・生態系といった環境 との間の調和まで達成しながら、企業としての 適正な利潤を確保すべきマーケティングである」

と定義している23。このように、生活者主義とい う形で社会的責任論が登場し、マーケティング でも環境に配慮していこうとする考え方は、オ イルショックや公害問題の影響を受けて、70 年

代半ばから欧米だけでなく日本でも既に登場し ている。しかし、具体的なマーケティング論とし て展開されたのは90年代に入ってからであろう。

 グリーン・マーケティングにおいてよく紹介 される K.Peattie[1992]は、"Green Marketing" と いう一冊の本のなかで、グリーン・マーケティン グを「利益を得てかつ持続可能な方法で、顧客と 社会の要求を確認し、予期し、満足させることに 責任を持つマネジメントのプロセス」と定義し ている24。企業と環境問題の関わり、グリーン・

マーケティングに対するコンセプト、グリーン・

コンシューマー、グリーン・マーケティング・

ミックスについて、全般にわたり簡潔にまとめ られている。K.Peattie は、グリーン・マーケティ ングであっても基本的に伝統的なマーケティン グのプロセスと大きな違いはない25としながら、

どのようなグリーンの要素を考慮しなければな らないか問題提起している。しかし、欧州でのグ リーン・コンシューマーの圧力に応えた形での マーケティング戦略であり、グリーン・コン シューマリズムが前提となっている。

 日本でも、同年に三上を中心とする環境主義 マーケティング研究会[1992]が、『環境主義マー ケティング』26という本をまとめ、スモール・マー ケティングであるオルターナティブ・マーケ ティング27として環境主義マーケティングを捉え ている。そのバックグラウンドの環境保全と企 業との関わりに大半を割き、後半で製品開発、包 装、リサイクリングとチャネル対応について大 まかに書かれている。

 大橋[1994]は、『環境マーケティング戦略』の なかで、マッカーシーが制御できない変数とし た、文化的環境と社会的環境、政治的環境、法律 的環境、経済的環境、企業の諸資源、企業の諸目 的の6つの変数も環境マーケティングが制御でき る、コントロールしていかなければならない変

21[Peattie92,preface vi]

22Lazer は「ソーシャル・マーケティングは社会的な成果を高めるためのマーケティングの知識、概念、技術の使用とマーケティン グ政策、意思決定、行為の社会的影響の双方に関心を持つマーケティング研究の一分野である。それ故、ソーシャルマーケティ ングの視点はマネジリアル・マーケティングをより広くしたものである」と述べており、コトラーのマネジリアル・マーケティ ングを非営利組織へ適用拡大した意味での social marketing と異なる。[Lazer73,p.4]

23[三上 82、206 ページ]

24[Peattie92,p.11]

25[Peattie92,p.100]

26[環境主義マーケティング研究会 92]

27三上は、現代の先進工業国におけるマーケティングを、量志向的、資源多消費型、開発優先型であり、ビッグ・マーケティング として捉えるのに対し、オルターナティブ・マーケティングを質志向的、資源節約型、環境保全型である「もう一つのマーケティ ング」として提示した。[三上 81、14 ページ]

(8)

数と主張している28。環境マーケティングとし て、ドイツ・オーストリア・フランスの法制度や 企業のリサイクルの取組、ゴミのシステムにつ いて取りあげ、日本の事例も企業の全体的な環 境取組の紹介に留まり、マーケティングの中心 である製品戦略については詳しく分析されてい ない。

 斎藤[1993]は、有機農作物のグリーン・マー ケティングを取り上げ、生産者・企業・行政の「三 位一体」の関係が相互作用し、「地球を守る人類 のひとつの大きな営為となりうる」としている。

この三位一体のエコロジカル運動の可能性は、

消費者・市民を主人公としたグリーン・コンシュー マリズムにかかっていると結論付けている29。  このような学術研究者による環境マーケティ ング論は、環境マーケティングの概念を広く捉 えすぎたり、具体性に欠けるものが多いが、実務 家の私的会合「マーケティング・メイラム」に よって書かれた『エコロジカル・マーケティン グ』は、企業の立場からしっかり現実を見据えた マーケティング論が展開されており、興味深い。

企業の環境対応を分類した上で、製品開発では プラスの製品開発(環境対応型製品を開発して 自社ブランドのマーケット・ポジションをアッ プする方向)とマイナスの製品開発(既存の自社 ブランドのマーケット・ポジションを悪化させ ないように危機管理として行う環境対応型製品 の開発)にわけ30、それぞれの企業でのエコ・マー ケティングの展開事例を挙げている。1991 年以 前という時期を考えると非常によく分析されて いるが、それから市場環境も変わって企業の環 境対応は新たな局面を迎え、環境配慮型製品も 多く誕生している。

 以上の先行研究を見ると、環境配慮型製品の マーケティング戦略としてのグリーン・マーケ ティングは、企業の環境対策として全般に捉え られることが多く、個々のメーカーによる事例 の紹介はあっても、製品戦略についてその方向 性や問題点について深く分析したものは少な かった。

 そのなかでも、マーケティングでよく用いら れるマッカーシーのマーケティング・ミックス、

4 P を基本にして環境マーケティングを語るこ とが多い。環境マーケティングにおけるマーケ ティング・ミックスと従来のそれとの違いは、も う少し細かく分けた6 P について整理して考え ると、次のようなものがあげられる。

①Product:LCAの考え方からエコデザインす る製品作り(リユース、リサイクル、リペ ア、メンテナンス等を考慮した設計)

② Packaging:一次包装、二次包装、陳列用 包装、輸送用包装のなかで(特に二次包 装、輸送用包装)の簡易化が必要である。

環境に配慮した包装として、リユース可 能、リサイクル可能、生分解可能、使用材 料の量的削減、分散防止、焼却可能、廃棄 表示などの用件が考えられる31。しかし、

パッケージは製品属性を構成する重要な 要素でもあり、製品差別化、流通の効率 化、便宜性を考慮すると一概に簡略化す ればよいとはいえない。

③ Price:外部不経済としての社会的費用に なっている環境コストを価格に上乗せす ることで内部化する。

④Place:卸・小売業者の協力によるクローズ ド・ループ・システムを作り出すための バックワード・チャネル(回収システム)

の構築。

⑤ Physical Distribution:グリーン・ロジス ティックスとしてのサプライ・チェーン・

マネジメントの活用。輸送方法の低公害 化(トラックを低公害車にしたり、多頻度 少量配送の見直し等)。

⑥ Promotion: 環境広告など

 このように一見しただけでも、環境マーケ ティングの範囲は多岐にわたる。上述した先行 研究でもマーケティング・ミックスを全般に語 ることで、分析が表面的なものに終わっている といえる。それでは、環境配慮型製品が消費者に 受け入れられるためには、マーケティング戦略 のどの部分に着目することが有効なのだろうか。

28[大橋94、36-41ページ] しかし、法律的環境などは製品やサービスをとりまく市場環境ではあっても、マーケティングがコントロー ルできる変数ではないし、法律的環境などを考えることは従来のマーケティングでも当然考慮されてきたことである。

29[斉藤 93、174-183 ページ]

30[マーケティング・メイラム 91、84-90 ページ]

31[環境主義マーケティング研究会 92、171-175 ページ]

(9)

 新製品開発プロセスは、①アイデアを創出し、

②スクリーニングにかけ、③そのアイデアを消 費者の言葉で表現した製品コンセプトを開発・

テストし、④事業収益分析が行われ価格や売上 高などのマーケティング・ミックスが見積もら れる。⑤製品コンセプトに十分な事業機会が見 出せれば試作品開発し、⑥マーケット・テストが 行われ、⑦最終的なマーケティング戦略が決定 され、市場に導入される32。この新製品開発過程 で、コンセプト開発がその後のマーケティング 戦略を決定するといっても過言ではない。そこ で、本論では、環境配慮型製品が既存の製品から シフトし普及するために、プロダクトそのもの、

製品戦略の最も根幹である製品コンセプトを中 核に据え、環境配慮型製品が売れるためにはど のようなコンセプトで製品開発を行い、いかに 消費者に伝えるか、分析していくことにする。

 環境マーケティングの中でも、環境広告、環境 ラベルに関する研究は進んでいる。しかし、タイ プⅠのエコラベルは、様々なマークの氾濫に よってあまり製品の選択基準になっていないと いう調査結果もある。タイプⅡの環境広告は、

「グリーン・ウォッシング」といわれる消費者の 誤解を招く環境広告が多いという問題がある33。 ISOで規格が決まりつつあり、信頼のおける情報 として消費者が購買にあたって参考にできる基 準づくりは大変重要である。しかし、環境ラベル は製品情報伝達手段であり、製品選択の際に参 考とするものであっても、環境意識を購買にか りたてるmotivationにはならないと考える。それ は信頼性の高いといわれる環境ラベル、ブルー エンジェルがあるドイツでも「この製品は環境 にやさしいから高い」と情報を与えても2割の人 しか買っていないことからも明らかである。つ まり、環境ラベルは十分条件であっても必要十 分条件ではないと考える。勿論、市場が成熟して くれば環境ラベルは、非常に重要な役割を果た すであろうが、現在の日本の環境配慮型製品市

場においては、出来上がった環境配慮型製品の 情報の伝え方について具体的な手法を論じる前 に、消費者生活の中で環境に配慮することが得 だ、というきっかけを与えるための製品戦略を、

まず考える必要があると感じたからである。

 そこで次節では、まず消費者は製品をどのよ うな基準で選び、どうやって購入を決定してい るのか、消費者行動分析から製品属性のどのよ うな点を重視すればよいのか、明らかにする。

3.2 消費者の製品購入基準と情報処理 プロセス

3.2.1 消費者の製品購入基準

 消費者が購入するときの基準は製品によって異 なる。そこでここでは、製品の基本価値の耐久性を 基準に、消費財のなかで耐久財と非耐久財34でどの ように購入基準が異なるのか見ていくことにする。

 その観点から、電通リサーチが 1997 年と 1998 年に行った調査35を参照すると、「製品購入時の 重視ポイント」は、「日用品」では、「価格」、「健 康・安全」、「商品機能」、「素材」、「環境」の順に 重視している。一方、「耐久品」では、「商品機能」、

「価格」、「デザイン」、「健康・安全」、「環境」の 順に重視している。いずれも「環境を損なわない か」という基準は、5番目となっている。興味深 いのが、この環境重視度は、97 年から 98 年にか けて日用品、耐久品ともに低下していることで ある。97 年の調査で「現状」に比べて「今後の 重視点」が大幅に伸びていたにもかかわらずで ある。このことは、意識の上では環境を損なわな いような製品を購入しなければいけないと思い つつも、実際の購入では実行していない現状を 裏付けている。また、1997年は京都での COP3 開 催の直前であり、連日のマスコミの報道に環境 意識を煽られていた背景も大きいと考えられる。

32[コトラー 96、252-308 ページ]

33グリーン・ウォッシングとは、誤解を招く環境広告主張を指す。環境に関する情報が曖昧であったり、情報漏れ、不正確である ような広告。[Carlson93]は、アメリカでよく読まれている 18 の雑誌広告に掲載された環境広告を調査した結果、70% はこのような 誤解を招く要素のある環境広告であったという。

34耐久財とは、「長期間使用される有形の製品。購買頻度が低いため、相対的に高価格であり、高い粗利益が設定される。また、よ り多くの人的販売が必要とされ、保証や配送等の支援サービスも要請される」

 一方、非耐久財は「1 回あるいは数回の使用で消費される有形の製品であり、食料品や日用雑貨品などがこれに含まれる。購入 頻度が高くなるために、相対的に低価格であり、低マージンの販売、再購買を促進するためのプロモーションが必要となる」[コ トラー 96、414-415 ページ][日本マーケティング協会 95、122 ページ]を参照。

35資料[電通リサーチ 97・98]

(10)

3.2.2 消費者の情報処理プロセス  このように、「環境にやさしいことを考えて製 品を購入するか」という抽象的かつ環境につい ての単独の質問では高い増加率を示すことが多 いが、日常生活を想定させ限られた予算など 様々な制約条件のなかで総合的に考える質問に なると、シビアな現状が浮かび上がってくる。

 それは、消費者がなぜ製品を買うのかという問 題に関わってくる。Kotlerは、製品とは「あるニー ズを充足する興味、所有、使用、消費のために、

市場に提供されうる全てのモノを指す。それは、

物理的財、サービス、人間、組織、アイデアを縫 合している。それは、提供物(offer)、価値のパッ ケージ(value package)、便益の幅(benefit bunble)

とも呼ばれる」と定義している36。消費者が製品 を買うまでのプロセスは、消費者の中でまず

「ニーズ」が生まれ、そのニーズが「欲求」となって 表れ、欲求は買うことができるとき「需要」となる

37。例えば、「衣服を洗いたい」というニーズが、

「洗濯機が欲しい」という具体的な欲求に変わり、

予算やその欲求を満たす製品があったとき需要に つながる。つまり、製品はニーズを具現化するも

のである。このニーズを外形的に表現するのが

「製品属性」であり、その消費者が知覚した製品 属性に対するベネフィットや満足が「製品価値」

である。製品属性は、成分、品質、スタイル、ブ ランド、パッケージ、付帯サービスなどによって 構成される。製品価値は、基本価値、便宜価値、

感覚価値、観念価値によって判断される38。  消費行動は、「消費者の生活課題の解決のため に行われれる」ものである39。つまり、消費者は 環境保全のために製品を買う前に、その財本来の ニーズを満たすものかどうか、まず判断して製品 を購入しており、環境という要素が付け加えられ ているに過ぎない。このような消費者の情報処理 プロセスをもう少し詳しく見ていくことにする。

 なぜ消費者の「環境に配慮しているか」という 購入基準は低い位置付けになるのか。それは消 費者の情報処理能力には限界があることから裏 付けられると筆者は考察する。G.A.Miler[1959]に よると、人間が「短期記憶」の中に貯蔵し一度に 処理できるのは、「7±2チャンク(chunk)」程 度の情報であるといわれている40。人間は処理能 力を超えるような量、内容の情報に直面すると、

(出所)電通リサーチ『グリーン・コンシューマー意識調査 1998』

図2 製品購入時の重視ポイント

36[コトラー 83、434 ページ]

37[コトラー 95、6-8 ページ]

38[日本マーケティング協会 95、120-121 ページ]

39[井関 75]

40チャンクとは情報を体系化した固まりのことを指し、ビット数の少ない複数のチャンクからより大きいチャンクへと「再符号化」

(recoding)し、より上位のチャンクを情報処理の対象とすることによって処理能力の限界を克服しているという。[ミラー 72、13- 44 ページ]

耐久品(自動車・家電・パソコンなど) 日用品(食料品・化粧品・洗剤など)

商品機能が優れているか 価格が適当か デザインはよいか 健康・安全への配慮がなされているか 環境を損なわないか どんな素材を使っているか どんな製造方法をとっているか 一つもない

(11)

「情報過負荷」と呼ばれる状況に陥り、その意思 決定に混乱が生じるともいわれる(N.K.Malhotra [1982])41。消費者は、製品の購買に際し複数の 課題に直面するので、結果として有限の処理能 力を複数の課題間でどのように配分するかが重 要になってくる。

 J.R.Bettman[1979]を中心に展開された消費者情 報処理のモデル42では、情報処理機構としての

「短期記憶」と「長期記憶」を中核に、「問題認識」

「情報取得」「情報統合」という3つのプロセスか ら構築される。問題認識プロセスの中で、消費者 は情報処理能力が有限であるので、課題に優先 順位を与え、「目標階層」によって処理能力の配 分を行う。この目標階層とは、最終目標を頂点に 手段―目的連鎖によって階層化された一連の下 位目標群であり、この最終目標は複数の下位目 標を達成することによって実現される43。  例えば、自動車を買おうと思っている消費者 は、限られた予算の中で効用の最も高くなる自 動車を選択するという最終目標を達成するため に、「車両の大きさ」「色・デザイン」「乗り心地」

「安全性」など様々な製品属性の中からどのよう な属性を重視するべきか考え、情報を収集する。

これらの「各下位目標の相対的重要性(最終目標

の達成への貢献度)と複雑性(情報処理の必要 量)」に応じて処理能力を配分していく。この下 位目標の相対的重要性は個人の価値観に大きく 左 右 さ れ る が 、 消 費 者 に と っ て 「 関 与 」

(involvement)の高い課題に関する情報処理に は、より多くの処理能力が配分されることにな る。車を買う消費者のなかで複数の下位目標の うち情報処理能力が多く配分されるのは、順に

「車両の大きさ」、「メーカー」、「色・デザイン」、

「運転のしやすさ」、「乗り心地」、「安全性」であ り、「CO2 が少ない」「環境にやさしい」という目 標があるのは確かだが44、個々の消費者にとって 重要度の低いこれらの目標に限られた情報処理 能力を配分することは難しいといえる。

 さらに、広告などの外部情報を内部へ取り込 み、理解する情報取得プロセスの後、最終的な意 思決定のためにそれらの情報統合を行うが、消 費者は情報処理能力の制約から代替案の比較や 選択にあたって、できるだけ簡略化されたルー ル(「ヒューリスティック」と呼ばれる)に基づ いてどの製品を買うか決定する。このヒューリ スティックの中には、代替案についての全体的 評価を選択の前提としないようなタイプも存在 するのである45。消費者行動論のなかで、従来の

(出所)青木[1992]p. 142、コトラー[1989]p. 194 を整理、作成 図3 消費者の情報処理プロセス

41[中西 84、安部周造「消費者情報処理理論」、121-123 ページ]

42消費者行動研究において、代表的な刺激―反応パラダイムに基づくハワード=シェス・モデルとよく比較されるが、①消費者の 情報処理能力は有限であることをモデル展開の中核に据えている点、②刺激が無くては行動が起きないとする受動的存在と捉え るハワード=シェス・モデルに対し、問題解決行動や目標達成に向かって能動的に行動する消費者を想定している点、③個人差 を重視している点から、より現実的な消費者像を表していると考え、ここではベットマンの情報処理モデルを根拠とした。

43[大澤 92、青木幸弘「消費者情報処理の理論」、141 − 144 ページ]

44資料[GPN98、52 ページ]の「自動車の購入時の観点」に関する調査データより参照。

45例えば、連結型ルール(代替案の各属性について必要最小限満たすべき基準を設定し、1 つでもこの必要条件を満たさない属性を 持つ代替案は、他の属性の値を全く問わず拒絶する)、分離型(一つの属性の値がぬきんでた値をとる代替案を選ぶ)、辞書編纂 型ルール(重要性に基づいて属性を順序づけ、最も重要性の高い属性のみを考慮し、最高点を持つものを選択する)などがあげ られる。

問題認識

(問題認知)

目標階層

(動機つけ)

処理能力の配分

情報取得

(情報検索)

注意 理解

(知覚符号化)

情報統合

(代替案評価)

評価

意志決定(選択)

再構築

購入 消費と

学習

最終目標

内部検索 下位目標群 外部検索

簡略化された ルールで ex)連結型ルール

(12)

多属性態度モデル46は、全体的評価をする線形代 償型ルール47を想定して展開されてきたのである が、それは数ある方法のひとつに過ぎないこと が 1970 年代の消費者情報処理研究によって明ら かにされた48。人の情報処理能力の限界を考える と、多くの属性間の補償関係49を同時に考慮する ことは難しく、非補償型の情報統合が行われる ことが多いと考えられる。

 つまり、製品選択の際に上位にランキングさ れる製品購入基準がいかに重要であり、下位に ランキングされる属性が無視される可能性をは らんでいるといえる。車なら車を買いたいと 思ったきっかけ、問題認識から、最終目標に何ら かの形で環境属性が消費者に負担をかけない簡 単な情報処理によって結びつくことが重要であ る。つまり、いかに重要度の高い目標に環境に関 する項目を消費者の情報処理プロセスの中で食 い込ませるか、関連付けさせるかにかかってい るといえる。

3.2.3 環境意識が行動に結びつかない 原因

 そもそも環境意識はあるにもかかわらず、な ぜ購買時にそれが想起されないのだろうか。社 会心理学の研究から、消費者の環境意識が行動 に結びつかない、食い違う原因として、以下の3 つが挙げられる50。第一に、自分たちの消費行動 と、それがもたらす自然破壊や資源枯渇の結果 の間は、非常に長い因果関係にあり、間接的にし か関連しない場合が多いことである。消費者は、

個々の消費行動が汚染の直接の原因であるとは 実感しにくいのである。これも、消費者はすでに 購買時に他の複数の課題に直面しており、情報 処理能力に余裕がないことが一因と考えられる。

第二に、環境問題についての知識は、抽象的で概 念的な「記述的知識」(knowing that)ばかりで、

環境保全の具体的行動の「手続的知識」(knowing how)が欠けていることが多いことである。消費 者が環境保全の記述的知識をもっていても、環 境にやさしい行動をとりたいと思っていても、

それが具体的にどうすればよいかという手続的 知識と関連付けられていないと、消費の際に実 行できない。第三に、環境保全という共益と消費 による便益享受という私益が対立する社会的ジ レンマの構造をもっていることである。自分が 環境に配慮した行動をとることで環境保全につ ながるとわかっていても、日常生活の快適さや 便利さなどが失われるならば、実行することは 難しくなる。自分一人ぐらい大丈夫、又は一人で 努力しても意味がない、と思えばこれまでの消 費生活を変えることはないのである。

3.3 仮説(環境配慮型製品にはどのよ うな製品コンセプトが有効か)

 消費者が環境配慮型製品の購買の最大の障壁 が、価格が高いことである一方で、企業も環境に より配慮した製品を目指した製品開発に関わる 問題点として、「環境対策のコストアップ分を製 品の価格に上乗せできない」ことをトップに挙 げている51

 つまり、消費者の環境意識の高まりから環境 配慮型製品を製造・販売しなければならないと 認識しながらも、環境配慮したことで高くつく 製品は売れない、という矛盾に悩まされている といえる。いわゆる「外部コストの内部化」問題 である。しかし、現在の段階では将来に向けた先 行投資ということを考えなければ、環境に配慮 した製品づくりはコスト的に高くつくことは事 実である。環境コストを全て企業が負担するの は、不可能であるし、公平性にも欠ける。そこで

46多属性態度モデルは、単一次元で表される消費者の製品に対する感情「好き―嫌い」を、消費者個々に知覚された多次元の属性 間の「評価」(Fishbein モデルでは「良い―悪い」、Bass モデルでは「重要である―重要でない」「信念」(前者は「ありそうだ―

ありそうにない」、後者は「満足―不満足」)によって、態度が決まるとするモデル。[中西 84、小島健司「多属性態度モデルと行 動意図モデル」、27-41 ページ]

47各属性に重要性のウェイトを付け、各属性の評価とその属性の重要性の積和(加重平均)として計算される全体的評価の最も高 い代替案を選択するルール。

48[大澤 92、青木幸弘「消費者情報処理の理論」、145-148 ページ]

49補償関係とは、例えば重視している一つの属性の評価が低くても、他の属性の評価が高ければ総合評価が高くなるということ。人 の情報統合の方法は大別して、このような多属性態度モデルにみられる補償型(脚注 48 参照)と非補償型(脚注 46 参照)に分け られる。[中西 98、19 ページ]

50[広瀬 95、6-10 ページ]

51資料[環境庁 99、261 ページ]

(13)

企業がとれる戦略は、ある程度外部コストを内 部化した価格を消費者に負担してもらいながら、

技術革新によるコストダウンを図り、販売量を 増やし、スケールメリットによって徐々に価格 を下げることである。スケールメリットを享受 するためにも、環境配慮型製品へのシフトとい う面でも、現在の小さなセグメントであるグ リーンコンシューマーだけでは不可能である。

行動には結びついていないがある程度環境問題 に関心のある8割の一般消費者に購買してもらわ なければならない。

 購買層を広げるにはどうすればよいか。市場 の黎明期、発展期において高価格を一般消費者 に許容してもらう必要がある。そこで「環境にや さしい」という付加価値をどのようにすれば認 められるのかが問題となる。

 しかし、環境属性は製品購入基準の下位にラ ンキングされているので、「環境にやさしい」こ とだけを環境ラベルなどで訴えても、環境価値 がそれほど高くない一般消費者にとって環境ラ ベルの情報量すべてを情報処理してくれる可能 性は少ない。このような「本当に、どう、環境に やさしいのか」を伝える詳細な環境ラベルが有 効という考え方は、消費者の合理的な情報処理 能力を過度に想定している。逆に、近年多くみら れる「環境にやさしい」というキャッチ・フレー ズに代表されるような広告は、「認知的評価」よ りも「感情的選好」が重視される消費者を想定 し、説得的コミュニケーション過程における「情 動」や「気分」の影響に期待しすぎていると筆者 は考える。

 そこで、財そのものの価値である基本品質52か らのアプローチ、すなわち消費者の情報処理プ ロセスの中で重要性の高い目標となる本来の使 用価値と環境属性が容易に結びつくような製品 コンセプトが必要になってくる。そうすること で、手続的知識もスムーズに理解され、実行しや すいであろう。何よりも購入した消費者自身が ベネフィットを得るので、その付加価値の分だ け高い価格を支払うことに納得できる。「環境に

もいいし、私も得」と思わせることで、環境問題 の持つ社会的ジレンマ性を解決できる。

 その重要性の高い目標というのは、製品及び 個人の価値観によって全く異なるが、大きく分 類して、非耐久財は製品を購入する際、「価格」、 次いで「健康・安全」、「商品機能」を重視し、耐 久財は「商品機能」、次いで「価格」、「デザイン」

を重視する点に着目する。つまり、非耐久品は特 に「健康・安全」面、耐久品は「商品機能」に対 しては、余分にお金を払う意思があると考える。

そこで環境負荷を低減しながら、その改善にか かった環境コストを、非耐久品では「健康に良 い、安全である」、耐久品では「新しい機能があ る」等の付加価値をつけることで消費者のベネ フィットを明確にし、従来型の製品と環境配慮 型製品との差額分を払ってもらうことを可能に する。このようなコンセプトで製品開発するこ とが必要ではないだろうか。それによってでき た製品は PR する際にも、コンセプトが明確で伝 わりやすいと考えられる。

 端的にいえば、「環境コストによる価格高を品 質・機能の向上によって説明することで環境配 慮型製品は売れる。ゆえに、環境配慮と財そのも のの使用価値を高めるニーズをうまく結びつけ る製品コンセプトで開発する戦略が必要である」

という仮説である。この前提には「消費者は高品 質であれば高価格を受け入れる」と考えるわけ だが、これは製品の相対的品質が第一の戦略変 数として捉えられるPIMS(profit impact of market strategies)研究53でも立証されている。PIMS 研 究では、価格は相対的品質の不可分の変数とし て捉えられ、相対的品質と独立に価格を操作し てもマーケット・シェアが増加する保証はない としている。つまり、環境配慮型製品の価格が低 下しても、使い勝手が悪いなどの品質面に問題 があれば、消費者は購入しないことを示してい る。

 これは、コンジョイント分析の実証研究から も明らかにされつつある。コンジョイント分析 は、マーケティング・リサーチの分野で発展して

52品質とは、市場を媒介として使用価値を具現化したものである。商品学において、品質は「基本品質」と「副次品質」に分けら れる。前者は、実質的、物理的なもので「第一次品質」や「使用品質」とも呼ばれる。物理的・化学的属性要素である自然的属 性(材質・形態・成分など)によって、実質的性能、機能(便宜性、耐久性、快適性など)がもたらされる。後者は、心理的、副 次的、付随的なもので「第二次品質」や「装飾品質」とも呼ばれる。[島田 81、70-80 ページ]

53PIMS プログラムは、収益性と成長性に影響を与える主要な戦略要因を明らかにすることを目的に、長期・短期の業界成長率や市 場シェア、品質レベル、売上に対する研究開発支出など膨大なデータを集め、分析することによって高業績に結びつくマーケティ ング戦略を帰納的に導き出そうとする研究。[大澤 92、新宅純二郎「マーケティング戦略の理論」、286-292 ページ]

参照

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