︿論
説﹀
平 等 原 則 の ド グ マ ー テ ィ ク
︱ ︱
判例 法理 の分 析と 再構 築の 可能 性︱
︱
渡 辺 康 行
一 は じ め に 二 平等 原則 に関 する 判例 の基 本的 立場 三 平等 判例 の展 開 四 基本 判例 の射 程外 の平 等判 決 五 判例 法理 の再 検討 六 結び に代 えて 一
は じ め に 平等 は、 多様 な局 面を 含む 難し い問 題領 域で ある
。そ のた め、 これ まで にも 膨大 な研 究が なさ れて きた
。そ のな かで 本稿 は、 日本 の平 等判 例を 分析 する こと をさ しあ たり の目 的と して いる
。平 等判 例を 網羅 的に 整理 する 研究 と して は、 一九 八〇 年代 にお ける 野中 俊彦 の
( )
著作
、お よび その
( )
補遺 があ る。 また
、そ の後 の研 究と して
、一 九九
〇年
1
2
代前 半の 三並 敏克 の研
( )
究や
、日 本国 憲法 施行 五〇 年の 時点 でな され た常 本照 樹に よる 一連 の整 理が 重要 で
( )
ある
。し
3
4
かし
、こ の業 績か らも すで に十 数年 以上 が経 過し
、新 たな 重要 判例 が蓄 積さ れて いる なか で、 もう 一度 判例 を整 理 し直 すこ とに も、 最低 限の 意義 はあ るだ ろう
。な お本 稿で は、 素材 を基 本的 には 最高 裁判 決に 限定 する
。ま た平 等 判例 につ いて 網羅 的研 究を 行お うと する もの では なく
、私 人間 にお ける 平等 の問 題も 扱わ ない
。 日本 にお ける 平等 原則 に関 する 憲法 解釈 学的 研究 は、 アメ リカ 憲法 学か らの 大き な影 響を 受け てな され て
( )
きた
。
5
前示 した よう な従 来の 判例 整理 も、 アメ リカ 型の 違憲 審査 基準 論を 下敷 きと して なさ れた もの であ る。 その ため
、 判例 分析 に際 して 判例 の基 礎に ある 論理 とは 異質 な物 差し によ って 計ろ うと する きら いが あっ た。 本稿 は、 その こ とを 反省 する 見地 から
、判 例動 向を でき るだ け内 在的 に整 理し 直そ うと する
。従 来、 判例 を整 理す る仕 方と して は、 区別 事由 によ るも のと
、区 別が なさ れる 権利 に着 目す るも のが 考え られ てき た。 しか し本 稿は
、む しろ 判決 が 実際 に採 って いる 審査 手法 の考 察に 関心 を寄 せる こと から
、ま ずは 判決 相互 の系 譜関 係に 着目 して みた い。 最近 の憲 法学 にお ける 関心 事の 一つ は、 アメ リカ 型違 憲審 査基 準論 の意 義の 問い 直し であ ろう
。新 しい 学説 動向 は、 防御 権︵ およ び防 御権 的に 構成 でき る権 利︶ につ いて は三 段階 審査 や比 例原 則に よる 審査 手法 を提
( )
唱し
、ま た権
6
利の 実現 が立 法者 によ る制 度構 築に 依存 する 権利 につ いて も裁 判に よる 統制 手法 を準 備し よう とし て
( )
いる
。本 稿は
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こう した 問題 関心 の一 環と して
、平 等原 則に 関し ても
、判 例分 析を 踏ま えた 上で
、新 たな ドグ マー ティ クを 構築 す る可 能性 を模 索し よう とす るも ので
( )
ある
。平 等原 則に つい ては
、固 有の 保護 領域 が存 在し ない こと から
、別 異取 扱
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いが ある こと を確 認し
、そ れが 正当 化さ れう るか どう かに つい て判 断す ると いう 二段 階の 審査 が提 唱さ れて
( )
いる
。
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この こと につ いて も後 で触 れる よう に重 要な 異論 はあ るが
、以 下の 叙述 では 基本 的な 枠組 みと して 論述 を進 めた い。 この 枠組 みを 用い るこ とに よっ て、 従来 の議 論状 況を 明確 に整 理で きる はず であ る。 以下 では
、平 等原 則に 関す る指 導的 判例 の立 場を 確認 した 上で
︵二
︶、 その 後の 判例 の展 開を 追う とと もに
︵三
、︶ 指導 的判 例の 射程 の外 で展 開さ れて いる 平等 判例 につ いて も考 察す る︵ 四︶
。こ の両 者の 区別 は、 基本 判決
を先 例と して 言及 して いる かど うか とい う観 点に よる
。こ うし た整 理は 表層 的な 区別 にと どま るが
、考 察の 糸口 と はな り得 るだ ろう
。そ の上 で、 近年 の研 究業 績を 手掛 かり とし なが ら、 そう した 判例 状況 をど のよ うに 再整 理し
、 評価 し、 再構 築す るこ とが でき るの かを 検討 する
︵五
︶。 この よう な考 察方 法を とる こと から
、本 稿は
、平 等と は何 を意 味す るか とい った 原理 的問 題を 正面 から 論ず るこ とは しな い。 これ はそ うし た法 哲学 的・ 政治 哲学 的な 議論 が不 要だ とい うこ とで はな く、 考察 の方 向性 を異 にし て いる とい うに すぎ
( )
ない
。
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︵
︶ 野中 俊彦
﹁国 民生 活と 平等 の権 利﹂ 阿部 照哉
・野 中俊 彦﹃ 平等 の権 利﹄
︵法 律文 化社
、一 九八 四年
︶一 一三 頁以 下。
︵
︶ 野中 俊彦
﹁平 等権 の判 例・ 補遺
﹂金 沢法 学二 九巻 一・ 二号
︵一 九八 七年
︶四 五七 頁以 下。 そこ では
、﹁ 裁判 所は
﹃合 理性
﹄の 基準 によ って 判断 して おり
、よ ほど の場 合で ない 限り 立法 裁量 の問 題と して 片付 けら れて しま う﹂ とい う状 況の 下で は、
﹁判 例を いく ら整 理し てみ たと ころ で、 そこ から すぐ にな にか 新し い展 望が 開け ると いう もの では ない
﹂、 と慨 嘆さ れて いる
︵四 五八 頁︶
。同 論文 執筆 の時 点で はそ うだ った のか も しれ ない が、 現在 では 必ず しも そう とは いえ ない ので はな いか
、と いう のが 本稿 の問 題意 識で ある
。
︵
︶ 三並 敏克
﹁平 等原 則・ 平等 権︵ 一) (二
︶﹂ 京都 学園 法学 一〇 号︵ 一九 九二 年︶ 一頁 以下
、一 一号
︵一 九九 三年
︶一 頁以 下。
︵
︶ 常本 照樹
﹁平 等権 判例 と司 法審 査﹂ 法学 教室 二〇
〇号
︵一 九九 七年
︶八 七頁 以下
、同
﹁平 等権 判例 の到 達点
﹂法 学教 室二
〇一 号︵ 一九 九七 年︶ 五五 頁以 下、 同﹁ 議員 定数 判決 の構 造﹂ 法学 教室 二一 一号
︵一 九九 八年
︶八 一頁 以下
、同
﹁議 員定 数判 決の 展開
﹂法 学教 室二 一二 号︵ 一九 九八 年︶ 五五 頁以 下。
︵
︶ アメ リカ 型違 憲審 査基 準論 を基 礎と する 平等 論の 到達 点を 示す もの とし て、 芦部 信喜
﹃憲 法学
Ⅲ 人権 各論
︵
︶﹇ 増補 版﹈
﹄︵ 有斐 閣、 二
〇〇
〇年
︶一 頁以 下。 アメ リカ にお ける 平等 審査 に関 する 代表 的研 究書 とし て、 戸松 秀典
﹃平 等原 則と 司法 審査
﹄︵ 有斐 閣、 一九 九〇 年︶ を挙 げて おく
。な お、 永田 秀樹
・松 井幸 夫編 著﹃ 基礎 から 学ぶ 憲法 訴訟
﹄︵ 法律 文化 社、 二〇 一〇 年︶ 一一 七頁 は、
﹁芦 部の 平等 権に 関す る審 査基 準 が一 般に 学説 上支 持さ れて いる とは 思え ない
﹂、 とい う︵ 永田
︶。 この 指摘 は、 芦部 説が 憲法 一四 条一 項後 段列 挙事 由に よる 区別 につ いて
、﹁ 厳 格な 審査
﹂と
﹁厳 格な 合理 性﹂ 基準 を使 い分 けて いる 点に かか わる
。こ うし た学 説間 の争 いは
、本 稿の 関心 事で はな い。
︵
︶ さし あた り、 渡辺 康行
﹁憲 法訴 訟の 現状
︱︱
﹃ピ アノ 判決
﹄と
﹃暴 走族 判決
﹄を 素材 とし て︱
︱﹂ 法政 研究 七六 巻一
・二 号︵ 二〇
〇九 年︶ 三三 頁以 下。
︵
︶ さし あた り、 渡辺 康行
﹁立 法者 によ る制 度形 成と その 限界
︱︱ 選挙 制度
、国 家賠 償・ 刑事 補償 制度
、裁 判制 度を 例と して
︱︱
﹂法 政研 究七
六巻 三号
︵二
〇〇 九年
︶二 四九 頁以 下。
︵
︶ ドイ ツな いし ヨー ロッ パ法 にお ける 平等 原則 に関 する 代表 的な 研究 とし て、 井上 典之
﹁平 等保 護の 裁判 的実 現︵ 一)
~( 四・ 完︶
﹂神 戸法 学 雑誌 四五 巻三 号︵ 一九 九五 年︶ 五三 三頁 以下
、四 六巻 一号
︵一 九九 六年
︶一 二七 頁以 下、 四六 巻四 号︵ 一九 九七 年︶ 六九 三頁 以下
、四 八巻 二号
︵一 九九 八年
︶三
〇一 頁以 下、 西原 博史
﹃平 等取 扱の 権利
﹄︵ 成文 堂、 二〇
〇三 年︶
、が ある
。ア メリ カ型 の平 等審 査論 とは 異な る平 等審 査に 関 する こう した 比較 法研 究の 成果 を、 本稿 は参 考と して いる
。
︵
︶ ピエ ロー ト/ シュ リン ク、 永田 秀樹 ほか 訳﹃ 現代 ドイ ツ基 本権
﹄︵ 法律 文化 社、 二〇
〇一 年︶ 一四 八頁 以下
、小 山剛
﹃﹁ 憲法 上の 権利
﹂の 作 法﹄
︵尚 学社
、二
〇〇 九年
︶一
〇五 頁以 下な ど。
︵
︶ 阪本 昌成
﹃憲 法理 論Ⅱ
﹄︵ 成文 堂、 一九 九三 年︶ 九一 頁は
、﹁ われ われ がそ れぞ れ個 別的 で多 様で 異な った 存在 であ るか らこ そ、 それ ぞれ の 相 10 違を アト
・ラ ンダ ムに 抽出 する ので はな く、 ある 目的 にと って 関連 性あ る特 性を 等し く取 り出 して 処遇 すべ し、 とい う規 範的 命題 とし て平 等 概念 は追 い求 めら れた
﹂、 とい う。 類似 の説 明は
、浦 部法 穂﹃ 憲法 学教 室︵ 全訂 第 版︶
﹄︵ 日本 評論 社、 二〇
〇六 年︶ 一〇 一頁
、井 上・ 前掲 註 (
︶・
︵一
︶五 四四 頁、 井上 典之
﹁憲 法に よる 平等 保障 の意 義﹂ 樋口
・上 村・ 戸波
﹇編 集代 表﹈
﹃日 独憲 法学 の創 造力 上巻
栗城 壽夫 先生 古稀 記念
﹄︵ 信山 社、 二〇
〇三 年︶ 四九 一頁 以下 など にも みら れる
。こ れに 対し て通 説的 な考 え方 は、
﹁近 代憲 法上 の﹃ 人格 の平 等﹄
﹂と いう 思想 か ら、 日本 国憲 法上 の﹁ 法の 下の 平等
﹂は 基礎 づけ られ てい ると する
︵佐 藤幸 治﹃ 憲法
﹇第 三版
﹈﹄
﹇青 林書 院、 一九 九五 年﹈ 四六 五~ 四六 六頁
、 本稿 註( )の 本文
︶。 また
、判 例も この 立場 であ ろう
︵例 えば
、後 述す る尊 属傷 害致 死罪 判決
、五
⑵ 判旨
①︶
。ま た近 年で は、
﹁個 人は
、そ れ 116 ぞれ 自分 の考 える とこ ろに 従っ て自 分の 生き 方を 決め
、そ れを 自ら 生き ると いう 点で
、根 源的 に平 等な 存在 であ る﹂ こと が、 有力 に説 かれ てい る。 長谷 部恭 男﹃ 憲法
﹇第 版
﹈﹄
︵新 世社
、二
〇一 一年
︶一 六二 頁。 平等 概念 の捉 え方 は平 等審 査の 個別 的手 法に も反 映す る可 能性 があ るた め、 平等 概念 を正 面か ら論 ずる いと まの ない 本稿 は、 この 点か らも 暫定 的な 考察 にと どま る。
二 平等 原則 に関 する 判例 の基 本的 立場
ઃ
立法 者拘 束・ 後段 例示 説、﹁合 理的 根拠
﹂の 要請
⑴
日本 国憲 法制 定初 期に は、 憲法 一四 条一 項に つい て、 学説 では 立法 者非 拘束︵法 適用 平等
︶説 と立 法者 拘束
︵法 内容 平等
︶説 とい う対 立や
、一 四条 一項 後段 を限 定列 挙と みる か例 示と みる かと いう 対立 があ った
。最 高裁 の初 期の 裁判 例の なか にも
、一 四条 一項 後段 を限 定列 挙と 解す る判 決も あっ たが
、現 在の 判例 は立 法者 拘束
・後 段例 示