第2章 地下空洞による地表面の
2.1 地下空洞による陥没と沈下
2.1.1 わが国の地下空洞の現状
わが国には石炭・亜炭鉱山廃坑,金属鉱山
地下壕のような人工的な地下空洞や,鍾乳洞,火山洞などの自然形成の地下空洞,さらに は廃棄トンネルや廃棄埋設管などの地中構造物の空間が至る所に多数放置されており,掘 削による土被り厚の減少,盛土による載荷荷重の増加および地下水低下などのような地表 の改変あるいは空洞・空間の劣化や老朽化,さらに地震のような外力の影響が原因で,地 表面や地上施設に陥没および沈下・傾斜のような災害が頻繁に発生している.このような 災害は施設の被害のみならず,ときに人命に重大な危害を与える大惨事に発展する危険性 をはらんでいる.また,空洞が形成された直後に陥没や沈下を生じるばかりではなく,長 年月経過した後にも発生し,さらに発生前の兆候もほとんどなく予知はきわめて難しい.
(1) 各種地下空洞
上記地下空洞のうち,石炭・亜炭鉱山,金属鉱山および非金属鉱山は,国の基幹産業を 支える鉱物資源の源泉として,かつては通商産業省,現在では経済産業省の所管産業とし て指導および保護され,特に明治維新以来,大いに国の近代化に貢献してきた.しかし,
1960年代以降,鉱業は衰退の一途をたどることになった.なかでも石炭鉱山や金属鉱山は,
政府の経済政策の結果,休廃止される鉱山が多数発生することとなった.この背景には,
特に石炭産業の場合,石油へのエネルギー源の依存割合の転換と海外からの安い石炭の輸 入増により,石炭産業は日本経済にとっても有益な産業ではなくなったことが挙げられる.
このような政策のもとに,かつてのわが国の近代化を支えた鉱業は徐々に縮小され,あと には十分な手当てのなされていない廃坑が残された.表-2.1に国内の鉱種別の鉱山数を示 す.
この他に,地下採石場や特殊地下壕など もそれぞれ当時の産業や軍事を目的に採掘 された空洞が現代において遺物となって残 されている.
以下,国内でみられる各種地下空洞の現 状について述べる.
鉱 種 稼行鉱山数 休廃止鉱山数 石炭・亜炭 16 51
金 属 68 322 非金属 188 148 (注)露天採掘等の鉱山を含む.
2004年12月末現在
(鉱山保安統計年報より)
陥没・沈下と既存の対策技術
廃坑,非金属鉱山廃坑,地下採石場跡および
表-2.1 鉱種別鉱山数1)
(2) 石炭・亜炭鉱山廃坑
石炭は無煙炭,瀝青炭,亜瀝青炭および亜炭(褐炭)に分類される.このうち無煙炭・
瀝青炭・亜瀝青炭は埋蔵量も多く,鉱山も大規模なものが多い.一方,亜炭は最も炭化度 の低い鉱物で,年代が若く比較的地表から浅いところに分布しているため,戦前・戦中・
戦後から昭和 40 年代にかけて,無煙炭・瀝青炭ほど規模は大きくないが,各地で盛んに 採掘された.石炭の炭種と物理的性質を表-2.2に示す.
長
壁式採炭方 た
は柱房式と し
ながら坑道 く
つも枝状に 採
m
程度以上あ ま
た, ,
露天方式で 図
表-2.2 石炭の炭種と物理的性質2)
亜 炭 瀝 青 炭 無 煙 炭 真 比 重 0.8~1.5 1.2~1.7 1.5~1.8 見 か け の 比 重 0.55~0.75 0.75~0.80 ―――
着 火 点 ( ℃ ) 250~300 300~400 400~450 発熱量(Cal/純炭kg) 5,500~7,500 7,500~8,800 8,200~8,500
石炭層での石炭の採掘は,炭壁に沿って切削機械を移動させながら全面的に採掘する 式という方法で主に行われていた.一方,亜炭鉱山の採掘は,主に残柱式ま いう手作業の採掘方式で行われていた.残柱式は一定間隔に柱状に亜炭を残 から採掘空間を広げていく方法である.これに対して,柱房式は坑道からい 採掘室(柱房)を作っていく方法である.残柱式と柱房式のいずれの方法で 掘するかは,主として炭層の厚さによって使い分けられていた.採掘炭層の厚さが 1.5 れば残柱式が,1.5m程度以下であれば柱房式が採用されることが多かった.
一部では長壁方式(石炭採掘とは異なる区画の長い採掘方式),坑道方式(たぬき掘り)
も採掘されていた3).
-2.1に亜炭廃坑の採掘方式の概念図を示す.
(a) 残柱式 (b) 注房式
坑道 残柱 坑道 柱房
(3) 金属鉱山廃坑
わが国の金属鉱山では,長年月にわたる採掘の結果,鉱山が休止または廃止した後でも,
坑道の坑口や鉱さいの堆積場等の蓄積鉱害源が残存し,坑内からの排水による重金属や酸 性坑水等による鉱害が発生している.特に,宮崎県土呂久鉱山(スズ,ヒ素,銅,亜鉛)
と健 安法 山に おけ らの て,
われ 用を 図-2.1 亜炭廃坑の採掘方式の概念図(その2)3)
切 羽 長
通気坑道 通気坑道
平面図
のヒ素などによる鉱毒水や岩手県松尾鉱山(硫黄)の強酸性水による周辺環境の汚染 康被害で知られるような鉱害問題が顕在化し,深刻な社会問題となっている.鉱山保 においては,このような鉱害の発生を未然に防止するため,稼行鉱山および休廃止鉱 おいて鉱害対策工事を行うことが義務づけられている.しかしながら,休廃止鉱山に る鉱害対策は生産活動が終了した後に行われるため,余分な出費となる.また,これ 休廃止鉱山は他に転用もできず交換価値も有していない.これに対する対策方法とし 坑道または坑口などにコンクリート製のプラグを施工して排水をせき止めることも行 るが,強酸性の排水に対する耐性がないことから極めて困難な場合が多く,多大な費 投入して水処理を続けることしかないなど,有効な手段が見出せていない.
(c) 坑道方式(たぬき掘り)
炭層 側面図
(d) 長壁式
(4) 地下採石場跡
全国の特定の地域には建材などに用いるために岩石を地下から採掘した採石場跡がある.
代表的なのは栃木県宇都宮市の大谷石採石場で,一部では現在も稼動しているが,付近に は採掘を終えた大規模な地下空洞が多数残存する.その総容量は約1,800万m3もあるとい われている.他に福井市足羽山のしゃく谷石の地下採石場跡や静岡県伊豆長岡町地下採石 場跡がある.大谷石採石場跡では1990年と1991年に大規模な陥没が発生した.また,し ゃく谷石採石場跡では2005年に地表の共同墓地で大きな陥没事故が発生した.
写真-2.2 大谷石採石場跡内部状況4)
(5) 地下壕
地下壕はその目的により規模や形態も変化する.そのうち,比較的規模が大きいものが 特殊地下壕とよばれる戦時中の軍事工場や司令本部が避難した地下壕である.鉱山廃坑や 地下採石場跡などと同様に,長い年月を経て突然陥没することがある.図-2.2および写真 -2.4に特殊地下壕の例を示す.
国土交通省,農林水産省および林野庁は,2005年4月に鹿児島市で発生した地下壕内で の中学生死亡事故を受けて,防災上の見地から地下壕の危険解消を計画的に推進するため,
全国に現存する地下壕の実態調査を行い,中間取りまとめ結果を発表した.この調査で新 たに見つかった地下壕は 6,296箇所で,これに2001 年度調査で存在を把握していた 5,003
図-2.2 特殊地下壕平面図(鹿屋市)6)
写真-2.4 特殊地下壕内部状況(鹿屋市)6)
箇所のうち現在までに埋め戻し等により減少した 1,019 箇所を除いた残存地下壕を加えた
総数は10,280箇所となった.また,新たに見つかった地下壕のうち危険またはその可能性
があると判定されたものは 766 箇所で,これに 2001 年度調査で危険とされた地下壕 777 箇所のうち埋め戻し等で危険の解消がなされた515箇所を除き,その後危険と判定された
182 -2.3
に都道府県 関東・
東海地域( 鹿児
島)に多く
なお, 亡する
事故が発生
箇所を加えると,現在危険またはその可能性があるものは1,210箇所となった7).表 別地下壕残存状況を示す.表より,特殊地下壕は全国に分布しているが,
千葉,神奈川,静岡),中国地域(広島)、九州地域(長崎,熊本,大分,
,特に鹿児島県に集中している.
2000 年 6 月,鹿児島県鹿屋市で道路が陥没し,女性が車ごと転落して死 している.
単位:箇所数
都道府県名 都道府県下の 地下壕
うち危険また はその可能性 がある地下壕
都道府県名 都道府県下の 地下壕
うち危険また はその可能性 がある地下壕
北海道 29 8 滋賀県 9 3
青森県 33 6 京都府 129 51
岩手県 26 8 大阪府 19 5
宮城県 64 6 兵庫県 72 27
秋田県 7 3 奈良県 9 0
山形県 63 7 和歌山県 37 9
福島県 16 5 鳥取県 34 8
茨城県 54 17 島根県 27 0
栃木県 46 8 岡山県 27 6
群馬県 10 3 広島県 614 34
埼玉県 24 1 山口県 330 56
千葉県 387 82 徳島県 17 4
東京都 163 7 香川県 58 11
神奈川県 517 25 愛媛県 45 16
新潟県 7 1 高知県 52 32
富山県 12 1 福岡県 113 32
石川県 18 6 佐賀県 140 30
福井県 94 28 長埼県 738 83
山梨県 50 14 熊本県 655 20
長野県 38 19 大分県 586 25
岐阜県 68 7 宮崎県 744 105
静岡県 477 109 鹿児島県 3,149 187
愛知県 171 31 沖縄県 248 43
三重県 54 21 合計 10,280 1,210
表-2.3 都道府県別地下壕残存状況7)
(6) 鍾乳洞
海底で サンゴ などによってできた 石灰岩 が地殻変動によって地上に隆起したところで は,石灰岩の主成分である炭酸カルシウムが二酸化炭素の溶解した地表水や地下水によく 溶けて激しく浸食され,その内部に多くの空洞を生じるようになる.結果として,表面に は溶けた石灰岩の残りが突出し,内部には空洞を生じ,あちこちでその空洞に通じるドリ ーネが形成される.全国にはおよそ1,500箇所の鍾乳洞があるといわれている.鍾乳洞は 大きな地殻変動による隆起や沈降,断層運動によってできた石灰岩中の割れ目を通じて,
二酸化炭素を含んだ弱酸性の雨水や地下水が流れ込み,長い年月をかけて石灰中を侵食し て形成された空洞である.地下水位の低下にともなって陥没することがある8).
(7) 火山洞
火山洞とは,表面が冷却・固結している溶岩流の中央部に形成されるトンネル状の空洞 で,大きなものは直径10m以上にも達し,長さ数kmにも及ぶものがある.玄武岩のよう な流動性に富む溶岩は,この中央部を満たして流れ,溶岩流の先端部に流出するが,溶岩 流が完全に固結した後にその一部がトンネル状の空洞となって残る.著名な例としては富 士の風穴がある8).
(8) 風化洞
風化洞とは,岩石が受ける温度差・浸透水による内部浸食などによって形成された洞窟 である.岩石の層理・節理などに支配されて形成されるが,比較的小規模なものが多い.
その存在は日本では緑色凝灰岩地帯などで確認されている8).
(9) 地中構造物などの空間
廃棄されたトンネルや埋設管などの老朽化した施設は,建設当時の構造または施工上の 欠陥,劣化による構造体の崩壊および地下水の進入にともなう地盤からの砂分の流出で空 隙ができるなどして,地表に陥没などの影響が現れることがある.これらは所在や内部の 大きさがはっきりしたものが多く,対策の計画も立てやすい.
2.1.2 陥没・沈下現象の発生形態
石炭鉱山では地表沈下による鉱害の現象を大まかに浅所陥没と盆状沈下に分けている.
浅所陥没とは,地表から浅い位置に残存している石炭鉱山廃坑の空洞天端が崩壊し,それ が上方に次々と拡大して,地表面が急激に陥落する現象である.この現象は石炭や亜炭鉱 山廃坑のみならず,様々な地下空洞でもみられる.盆状沈下とは,石炭鉱山のように長壁 式で採掘された空洞を崩落して閉塞することにより比較的広い範囲で盆状に発生する沈下 をいう.または,残柱式採掘方式の廃坑の残柱が崩壊し,次々と隣接した残柱に崩壊が拡 大することによってもこれに類した現象がみられる10).これらの石炭鉱害を模式的に示す と図‐2.3のようになる.
空洞残存地域で陥没の危険性が大きいと考えられる箇所は次のような条件下にある場合 であると考えられる11).
1) 土被り厚が薄い
2) 空洞上部粘土層厚が薄い 3) 空洞上部地山の強度が低い 4) 空洞幅が広い
陥没危険度については,一般には空洞の形状や地山強度などが正確に把握できないこと から,特に,土被り厚で判断することが多い.図-2.4は北九州地方の石炭鉱山廃坑を対象 にした陥没危険度と空洞深度および空洞幅との関係図で,発生事例をもとに,最も空洞幅 が小さく,採掘深度の大きいもので浅所陥没を生じた場合として実線で示した上限値を考 え,陥没対策を処置すべき範囲を破線で表している.これにより,空洞幅の 3 倍程度の土 被り厚がない場合が対策を施す必要があるとされている10),11).
図-2.3 浅所陥没と盆状沈下9),10)
川本13),14)は,亜炭廃坑の安定性や地表面の陥没および沈下のメカニズムについては,こ れまでにいくつか提案されてきているものの,必ずしも十分に解明されているとはいえな いとして,それは,亜炭層周辺の地質の複雑さ,空洞の大きさおよびその位置などの把握 が十分でないことに加えて,対象とする亜炭採掘空洞の危険度の認識が低く,安全性評価 のための調査試験が十分に行われてきていないこと,したがって,空洞を含む地盤状態や 岩盤特性に対するデータがきわめて少ないことなどが挙げられるとしている.
川本は次のように,亜炭廃坑のような空洞地盤において浅所陥没が発生する空洞の限界 深度を土質力学の分野で適用されていた計算法を組み合わせて求めている.
図-2.5のように空洞天盤上部の緩み領域(崩壊領域)を三角形の領域と考え,この領 域が地表面に達する場合に浅所陥没が発生すると仮定した.土塊の釣り合い状態を考え れば,深さzの水平断面における鉛直応力σVは次のように与えられる.
0 5 10 15 20 25 30 35
0 1 2 3 4 5
空洞幅2b(m)
空洞の地表下深度Z(m)
処置すべき 範囲 陥没発生の可能性
のある範囲
注1. 実線・・・発生事例中から最も空洞幅が小さく採掘深度の大きいものと考えれば,これが浅所 陥没の上限を示している.
注2. 点線・・・浅所陥没の可能性のある範囲をただ一律に全面的にその対策とすることは,被覆岩 石の性質や,風化の程度,造成団地の立地条件から考えて,不必要なことである.そこで載荷 による影響範囲を考え,その範囲内は浅所陥没の発生する確率が高いので,対策を立てること にすればよい.その範囲は空洞幅の3倍の天盤厚までである.(産炭地域地盤等調査報告書)
( ) ( )
⎭ ⎬
⎫
⎩ ⎨
⎧ + + +
= α α
φ φ α α
φ φ γ α
σ sin cos
sin - sin
sin cos 1 sin
2 z
V 2
( ) ( ) ( ) }
⎩⎨
⎧ ⎟
⎠
⎜ ⎞
⎝
⎛ +
+ + +
α φ α φ
φ φ α
α
φ φ
- α
2 2
sin -sin sin 1
cos cos - 1 cos tan
sin
cos
c sin (3.1)
式(3.1)でσV = 0となるような崩壊面の傾斜角αを求めると,浅所陥没を生じない限 界深度 D が求められる.いくつかの地盤条件に対して限界深さを求めると,図-2.6(a),
図-2.4 陥没危険度と空洞深度・空洞幅との関係12)
(b),(c)のようになるとしている.ここに,たとえば,地盤の内部摩擦角がφ=20°で 粘着力がc=3.0tf・m2の場合に,2b=3.0mの空洞を掘削するとすれば,図-2.6(b)より,限 界深度はD=4.8mとなる.
Z
2b Z A
B α
図-2.5 崩落土塊の釣り合い状態13),14)
図-2.6 浅所陥没発生限界深さ14)
(a) φ=10° (b) φ=20°
(c) φ=30°
江崎15)は,石炭鉱山廃坑の浅所陥没の統計から,浅所陥没を発生した箇所の平均空洞深
度は,約 12.1mであるとし,深度 30mになるとほとんど発生しないが,例外的に 50mま
で発生した例もあるとしている(図-2.7).また,梅雨などの降雨量の多い季節に頻発する としている(図-2.8).しかし,発生の時期の予測は困難であるとしながらも,北部九州の 産炭地域の145の炭鉱の情報をもとに,採掘時から空洞が陥没するまでの期間(経過年数)
を統計的に検討した結果を図-2.9として示した.図-2.9では,(A):炭鉱の閉山時,(B):
炭鉱の開山時,(C):炭鉱の開山時期と閉山時期の中間に分類し,過去に発生した陥没まで の経過年数を正規確率紙上に落としたものである.これによると,採掘時期を(A)とした場 合,採掘終了後約 25年で90%,約40年で99.99%の確率で陥没が発生することになる.
また,(B)とした場合,70年経過後に90%,100年後に99.5%の確率で発生する.(C)とし た場合では,45年経過後に90%,70年経過後に99.99%の発生をみることになるとしてい る.
図-2.7 浅所陥没が発生した深度と経過年数15)
図-2.8 浅所陥没と降雨量の関係15)
図-2.9 浅所陥没が発生するまでの期間の推定15)
以下,写真-2.5~写真 2.9に地下空洞による被害事例を示す.
写真-2.5は1990年の坂本地区の陥没(面積7,500m2)および1991 年の瓦作地区の陥没
(面積17,500m2)の様子である.この地区では,それ以前からも立て続けに大きな陥没が
発生したことから,周辺に地震計が設置されて観測システムにより継続して地下の変動が 監視されている.横山ら17)は大谷石採掘場跡の陥没のメカニズムについて検討し,事故の あった箇所の空洞は残柱の断面積が小さく応力の大きな残柱から逐次クリープ破壊し,そ の後支持を失った天盤が曲げ破壊を起こして崩落したとし,地球潮汐応力が陥没のトリガ ーの1つになり得るとしている.
写真-2.6は,2005年8月に福井市小山谷町足羽山の共同墓地で地下の採石場跡の崩壊で 発生した陥没の状況である.陥没穴は直径および深さとも最大で約30mである.陥没箇所 の地下で採石が行われた年代は記録が残っていないほど古い.その後の調査により,現場 は地下水が集まりやすい地形および地層であるために,乾湿の影響で空洞の天盤を構成す る凝灰岩の劣化も進んでいたと推察され,そこに数日前からの降雨による地下水の地盤内 への浸透が契機となって空洞天盤が崩壊したのが原因とみられている.
写真-2.7は鹿児島県鹿屋市の特殊地下壕による陥没で,このうちの(a)は2000年6月初 旬の豪雨で道路が幅10m,長さ30m,深さ7mにわたって突然陥没し,人身事故を引き起 こした事故現場の様子である.
写真-2.8 は 2006 年 7 月に三重県津市のみがき砂採掘場跡の上の民家脇の道路が直径
30m,深さ3mの大きさで陥没した現場の様子である.その後の調査で,現地は谷を8mの
高さに盛土した造成地で,降雨による地下水が集まりやすい地形・地層であったことがわ かった.
写真-2.9は2003年7月26日の宮城県北部地震の影響で,宮城県矢本町(現,東松島市)
の亜炭廃坑が陥没や噴砂を起こしたときの状況である.地震では宮城県北部の鳴瀬町およ び矢本町などで震度6を超える揺れが生じ,建物の被害,斜面崩壊,液状化等による被害 等が発生した.この矢本町の亜炭廃坑による陥没は,町全域にわたる32箇所で発生した.
このように,放置された空洞はこれを構成する柱,壁および天盤などの劣化の進行やク リープ破壊,さらに地下水の変動などの影響で,長期間経過後でも突然崩壊することがあ る.その際,空洞の一部の部位でも臨界点を超えて破壊すると全体がいちどきに崩壊する と考えられる.また,一定規模以上の地震が襲来すると,空洞残存地区の各所で広域に被 害が発生する.
なお,東海地方の亜炭廃坑による被害事例は第3章において示す.
写真-2.5 大谷石採石場跡による陥没16)
(栃木県宇都宮市大谷町)
(a) 坂本地区の陥没(2次)(1990年3月29日) (b) 瓦作地区の陥没(1991年4月29日)
(a) 陥没穴全体 (b) 陥没穴周辺
写真-2.6 しゃく谷石採石場跡による陥没18)
(福井県福井市小山谷町足羽山,2005年8月16日)
(a) 道路の陥没 (b) 藪地の陥没 写真-2.7 特殊地下壕による陥没
(鹿児島県鹿屋市)
写真-2.8 みがき砂採掘場跡による陥没
(三重県津市,2006年7月9日)
(a) 陥没直後19) (b) 陥没穴の埋め立て後と民家への被害
写真-2.9 宮城県北部地震での亜炭廃坑による陥没20)
(宮城県矢本町(現,東松島市),2003年7月26日)
(a) 陥没穴 (b) 陥没穴と噴砂
2.1.3 海外における鉱山廃坑と地盤変状
産業革命以降,先進国において鉱業は大変活発であったが,わが国と同様に,近年は縮 小され,資源を採掘した廃坑が各地に残っている.現在,大半の鉱山は閉山されているが,
様々な鉱害が発生している.各国の鉱山で発生している鉱害問題は次のように概括的に分 類される.
1) 地盤変状(陥没,沈下)
2) 酸性水の鉱山排水 3) ガス放出と地下爆発 4) 地下火災
ここに,地下火災とは石炭・亜炭鉱山などで,採掘作業の偶然またはミスあるいは自然 発火の結果として坑内の石炭や亜炭が燃焼する現象で,火災がひどくなると坑内の崩落に より地表面の沈下を引き起こすことがある.近年,石炭・亜炭鉱山がすべて閉山された日 本では一般に馴染みが薄くなったが,米国では 40 年前に発生した地下火災が現在まで続 いている例もある.
このような様々な鉱害問題が世界各地で発生して人的および物的に甚大な被害を与えて いるが,これまで各国で行われている廃鉱山の調査,観測および対策などの安全上の方策 に関する情報が統括的に収集および展開されてこなかった.そこで,これを重視したISRM
(International Society for Rock Mechanics)ではmine-closure sub committeeを設立し,Post
Mining Managementのガイドラインを作成するなど,国際的に取り組む活動が行われる
ようになり,Post Mining問題に対する施策の積極的な展開が期待されている.
以下,フランスの Louraine地域の代表的な Moyeuvre 旧鉄鉱山と鉱害問題(陥没・沈 下・汚染)を例として示す.この旧鉄鉱山は1881年に採掘を開始し,1930年代に閉山に 至ったところである.鉱山位置と鉱山周辺の地形図を図-2.10および図-2.11に示す.この 鉱山の鉄鉱層は3層に分類され,全体として厚さは約15mである.土被り厚は5~120m の間に変化し,石灰質泥岩で構成されている.図-2.10 に示した柱状地質図は Louraine 地域における代表的な地質図である.鉄鉱層は,図-2.12 に示すように,段丘崖に坑口を 設け,そのまま鉄鉱層の分布に沿った緩い勾配で柱房式を主体として広範囲に採掘された.
立ち入ることができる範囲の坑内の様子を写真-2.10 に示す.採掘方式は柱房式を主体 としながらもところにより天端を残柱で支えている箇所もある.坑道の幅は3m程度でそ の高さは3~4mである.坑道の両側に長さが30m程度,幅が5~6m程度の柱房室を掘削 することで鉄鉱が採集された.鉱山全体は残柱やずりで形成した石積壁で支えられている が,主坑道では天端の落盤防止に鉄棒も利用されている.このようななかで,柱房室の幅 が6mを超える箇所では大規模な落盤や残柱の剥離による不安定現象が多数みられ,これ
がやがて周囲に連続的に拡大すると大きな空隙や緩みとして上方に伝播し,地表に陥没や 沈下となって現れるものと考えられる.
旧鉱山のそばでは河川に合流する鉱山排水の水位を制御するための施設が建設され,リ アルタイムで計測が行われている.また,同地点で陥没の危険性が高い地域では住宅が移 転されている.休鉱山の地上の Roncourt 村では,鉱山内の落盤や崩壊の予兆を観測する 振動計測や地表面沈下にともなう住宅建物の変位計測や亀裂観察が行われている.
図-2.10 Louraine地域の鉱層の分布と柱状地質図
図-2.12 Moyeuvre旧鉱山の坑内配置図 坑道(入坑可能)
地上家屋等 柱房
坑口 坑道
(入坑不可能)
写真-2.10 Moyeuvre(Tranchepre坑)旧鉱山内部と周辺地上施設の被害
(a) 坑道 (b) 残柱
(c) 天端で開口したクラック (d) 落盤した岩塊 (e) 剥離して細った残柱
(f) 沈下による住宅の被害 (g) 沈下による住宅地の被害
2.2 既存の空洞対策技術の適用性
2.2.1 各種対策技術の適用性
空洞対策工法は事前対策と事後対策に分けられる.事前対策は地下に空洞がある地域に 施設を建設する場合,空洞に起因する影響として,施設の沈下や傾斜などの被害を予防す る方法である.対策方法には構造物の軽量化または基礎面の接地圧の低減を図る方法や基 礎を補強するような構造物に対策を施す影響低減の方法と,空洞の掘削・埋め戻しによる 方法またはスラリー状の固化物を空洞内に流し込んで固化させるスラリー埋め戻し方法の ような空洞に対策を施すことで被害原因を除去する方法がある.これに対して,事後対策 は,空洞が存在する地盤上に施設が建設され,その後に被害が発生した場合,陥没穴を土 砂やモルタルなどで埋め戻すとともに,施設を更新するかまたは補強する方法である.
以下,各種対策工法一般の特徴,効果および課題について述べる.
(1) 構造物の軽量・低接地圧化による方法
この方法は,空洞上に構造物が建設されることによる荷重増加を極力小さくするもので ある.その手段として,構造物に軽い材料を用いて軽量化する方法,階層を低くして軽量 化する方法および基礎面積を拡大するなどして基礎面からの荷重分散を図る方法などがあ る.構造物の配置や大きさなどの計画面での自由度が高い場合に有効である.空洞への荷 重増加の影響が小さくなり,被害発生の確率や被害が発生した場合の被害程度を低く抑え ることができるが,空洞自体がそのまま残存するため,根本的な解決にはなりえない.ま た,大規模な空洞上に立地する場合などでは,効果が期待できないこともある.この方法 を既存の構造物に適用するのは,施工上の制約などがあり,比較的困難である.また事前 処置であっても,空洞形状や構造物との正確な位置関係を事前に把握し,基礎の一部が陥 没や沈下によって支持を失った場合の機能支障の影響などを検討する必要がある.
(2) 基礎の補強
空洞対策としての基礎の補強には,空洞への荷重増を防止するために,基礎を杭基礎と して,空洞下の支持層まで延長した杭とする方法や,基礎下の地盤に陥没や沈下が発生し ても沈下および傾斜の影響を極力低減するためにフーチングまたは地中梁の高剛性化を図 る方法である.また,道路の場合では,合成の大きい連続鉄筋コンクリート舗装とした例 がある.杭基礎延長の場合は,特に地震時に空洞中の杭部分が破損することが懸念される.
フーチングや地中梁の高剛性化は,一般に被害程度を比較的小さく抑えることができるが,
大規模な空洞上に立地する場合には効果が期待できない.いずれも,空洞自体がそのまま
存在するため,根本的な解決にはなりえないと考えられる.構造物の軽量・低接地圧化に よる方法と同様に,既存の構造物に適用するのは,施工上の制約により比較的困難である.
また,空洞形状や構造物との正確な位置関係を事前に把握し,機能支障の影響などを検討 する必要がある.
(3) 掘削・埋め戻しによる方法
この方法は地上から掘削して空洞を掘り出し,砕石や土砂等で埋め戻す方法で,直接空 洞形状と埋め戻しの施工が確認できるため,確実性が高い.空洞が浅く規模が小さい場合 に有効で,陥没・沈下の原因となる空洞を排除できるため,確実な効果が期待できる.空 洞が深い場合,掘削が大規模なものとなり,莫大な費用が必要になる.
(4) スラリー埋め戻しによる方法
スラリー埋め戻しによる方法は,地表面からボーリング孔などを通じてスラリー状の固 化物を空洞内に注入し,空洞内を充てんして固化させる方法である.注入する固化物には,
充てん材,流動化処理土,気泡混合土およびセメントベントナイトなど各種のものがある.
掘削をともなわないため,空洞が深い場合でも安全に施工ができる.適度の流動性を有す るスラリー固化物を使用し,注入圧力や流量管理を適切に行うことで確実な埋め戻しを行 うことができ,陥没・沈下の原因となる空洞を排除できる根本的な対策方法といえる.課 題としては,使用する材料やスラリーの製造設備の選定と施工方法について,事前に十分 な検討が必要なことが挙げられる.また,スラリーの注入中は,地盤内に圧力が伝播し,
周辺の構造物が隆起や傾斜しないような圧力の管理を慎重に行う必要がある.
2.2.2 スラリー埋め戻し工法の適用性
前節で述べたように,スラリー埋め戻し工法は抜本的に空洞対策を行うことができ,ま た対象とする空洞の深さや規模についての適用範囲も広い.スラリー埋め戻し工法に使用 する材料には各種のものがあるが,主にその材料の違いによってさらにいくつかの工法に 分類される.
表-2.4に代表的なスラリー埋め戻し工法の特徴と適用性をまとめたものを示す.表より,
一般に大中規模の空洞対策には,経済的でスラリーの流動性が高いことから確実な空洞の 埋め戻しが可能な充てん工法は適用性が高いといえる.また,流動化処理工法および気泡 混合土工法は,空洞内に地下水が浸入していない中小規模の空洞に,セメントベントナイ ト工法は小規模の空洞の埋め戻しに適用性がある.
充てん工法 流動化処理工法 気泡混合土工法 セ メ ン ト ベ ン ト ナ イ ト注入工法
概 要
充てん工法は砕石工場等産出の脱 水ケーキに水と固化材を混合して 製造したスラリー状の埋め戻し材 を注入する工法であり,東海地方 の亜炭廃坑の空洞を対象に開発さ れた.
専用プラントで埋め戻し材を製造 し,ボーリング孔より空洞内に注 入する.
流動化処理土は発生土に水を加え た泥水に固化材を混合して流動化 させた安定処理土で,狭小な空間 や締固めの困難な箇所などの埋め 戻し・充填に用いられる.
専用プラントで流動化処理土を製 造し,ボーリング孔より空洞内に 注入する.
気泡混合土は発生土に水を加えた 調整土に固化材を混合して流動化 させ,さらに軽量化のため気泡を 混合して製造したもので,山岳地 や軟弱地盤上での盛土,橋台・擁 壁の裏込め等に用いられる.
専用プラントで気泡混合土を製造 し,ボーリング孔より空洞内に注 入する.
セメントベントナイト注入工法 は,ベントナイトに水とセメント を混合して製造したスラリー状の 埋め戻し材を注入する工法であ り,薬液注入による地盤改良工法 として用いられる.
現地に小規模のプラントを設置 し,グラウトポンプによりボーリ ング孔より空洞内に注入する.
流動性
流動性が高く,空洞内の隅々にま で確実にスラリーを充てんするこ とができる.
流動性は比較的低い.また,発生 土のバラツキにより品質性状が変 化しやすい.
流動性は低い.また,消泡により
品質性状が変化しやすい. 流動性は比較的高い.
材料 品質
単位体積重量 13.5kN/m3前後 13.5 kN/m3以上 10~12kN/m3(エアー量による) 13.5 kN/m3前後 孔径 φ100前後 φ100前後 φ100前後 小口径(φ25~50) 注入孔
孔間隔 20~40m 10~15m 15~20m 5m程度(スラリー製造能力より)
製造 プラント
時間最大製造
能力 100m3/h 60m3/h 60m3/h 6m3/h
注入速度 注入速度が速い. 低流動性のため,注入速度を上げ ることができない.
注入圧 が高 く なると 消泡す るた め,注入速度を上げることができ ない.
注入速度が遅い.
施工性
注 入
空洞条件 比較的狭い空洞にも流動性が高い ため適す.
空洞水がある場合,特殊配合で可 能.
狭い空洞では注入圧が高くなりや すい.
空洞水がある場合,特殊配合で可 能.
特に崩落等狭い空洞に対して緻密 な充填ができる.
使用材料(骨材) 砕石工場発生の脱水ケーキ 発生土 発生土
環境安全性(水質影響) 一般に水質影響は認められない 一般に水質影響は認められない 一般に水質影響は認められない 一般に水質影響は認められない 経 済 性
(直接工事費の比率)
大中規模の工事では安価
(1.0)
小中規模の工事では安価
(1.7)
小中規模の工事では安価
(1.5)
小規模な工事では安価
(5.9)
適用性の高い現場条件
空洞充てん用に開発された工法で あるため,様々な空洞条件に適応 可能.大中規模の空洞埋め戻しに 適す.
開削工事における狭隘部の埋め戻 しに多く用いられる.空洞埋め戻 しでは,水がなく崩落等のない小 中規模の空洞に適す.
軟弱地盤上での盛土や擁壁等の裏 込めに多く用いられる.空洞埋め 戻しでは水のない小中規模空洞に 適す.
薬液注入による地盤改良工法とし て用いられる.空洞埋め戻しでは 小規模で,特に崩落後の処置など 狭い空洞に適す.
表-2.4 代表的なスラリー埋め戻し工法の特徴と適用性
参考文献
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