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下咽頭・頸部食道癌 日 時:昭和39年7月10日

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(東女医大論旨35巻第1号頁 80−90  昭和40年1月)

〔症例検討会〕

下咽頭・頸部食道癌

  日 時:昭和39年7月10日

 場 所:東京女子医科大学第一臨床講堂

(発言老)

司会耳鼻咽喉科:岩本彦之嚥教授    放射線科=重田帝子講師

   外  科:太田八重子助教授

   受 持 医:野原カズ子・中西 宜子・印南美津枝    丈   責=印南美津枝

(受付 昭和39年7月20日)

 岩本:初めに受持医から症例を述べていただき

ましよう.

 野原:症例の概略を申しあげます.

 症例1

 患者=浜○勝0 54才6 初診=昭36年11月15日  主訴:嗅声,咽頭痛および乾燥感.

 家族歴=父胃癌,従弟食道癌.

 既往歴:7〜8年前より喘息.

 現病歴:昭和36年10月18日頃より主訴が起こり,熱い 飲物をのむと塞まるような感じがする.食物も咽頭へ引 っかかるような気がする.他医を受診し本院へ紹介され

た.

 初診時所見:

喉頭;左声帯に腫瘍を認め,左声帯固定.

耳・咽頭;異常なし.鼻;鼻中隔宴曲.頚部リンパ節;

腫脹なし.

 入院時検査成績(11月17日入院)

腫瘍試切標本の病理成績;単純癌 ワ氏反応 陰性,胸部レ線所見=著変なし.

血沈=30分7,1時間14,2時間32皿mH20.

血液一般検査:Hb 96%, W 8200, R 423×IO4.血液 像;正常,血液型;B型.

尿検査:正常

 手術所見=(11月21日手術)

術式は頚部廓清術併用喉頭全禅尼術ならびに下咽頭,頚 部食道の部分切除を同時に行なう.頚部廓清組織内には 母指頭大リンパ節腫脹を1個認めた.

 喉頭全智出術を行なう際,喉頭後壁を剥離するに,腫 瘍様のderbな腫脹があり,食道壁へ浸潤していた:.こ のため下咽頭,食道を約5c皿除去し,下咽頭,食道,気 管を前頚部に開放し,創面を皮膚で被い縫合す.

 治療および経過:

胃ゾンデにより食道痩より流動食を与える.この際,咳 のため食物が逆流し気管へ流入し,喘息様発作を起こし

写真1 症例1皮膚棒作成

Clinico.Pathological Conference (38) Carcinoma of the hypopharynx and cervical esophagus.

(2)

写真2 症例1皮膚棒壊死となり脱落 たが約1時間後にAnfallはおさまり正常になった.

 患者は神経質になり,毎食後喘息様発作を起こすよう になった,輸血1日400〜500cc,リンゲル1000ccを毎

日行なう.12月4日 右前胸部へ皮膚棒形成.タト科へ依 頼して心窩部へ胃痩を作成す.胃痩より流動食を与える 様になってから喘息様発作は起こらなくな?た.

 12月25日 右前胸部皮膚棒を食道入口部へ移植.

 昭和37年1月18日 皮膚棒下端を下咽頭開口部上方へ 移植.1月24日 皮膚棒はNekroseとなり脱落す(写 真2).

写真3 症例1。Gluck Soerensen氏法後,食道完成

灘難三

馨難灘ttt,・

写真4 症例1.食道完成後の側面

 1月31日〜3月20日食道:欠損部に人工食道を考案して 一時的に使用する

(人工血管研究所および歯科へ依頼す).

 3月27日Gluck SQerense11三法を行ない,4月2日 完全に抜糸完了(写真3,4).

 4月4日 牛乳50cc嚥下させて見ると,もれる事なく 非常によく嚥下できた.以後少しずつ経口的に流動食を 摂る.

5月13日 胃痩を閉鎖するため外科へ転科し,5月27日 全治退院,経過良好.食道造影は異常なし.

 昭38年1月23日 右顎下リンパ節腫脹,このためにリ ンパ節を捌出.病理検査で癌転移を認める.その後現在 に至るまで異常なし.食事は術前と同様常食をとり,異 常はない.

 症例2

 患者:安○敏0 63才♂.初診:昭37年8月6日  主訴:嚥下時の異常感,時々局所的な痛み,

 家族歴:特記することはない.

 既往歴:昭15年頃扁桃周囲膿瘍, 多発性神経炎に罹

患.

 現病歴:3週間前より主訴があり,他医に咽頭炎とい われ治療したが治癒しないので来院.

 初診時所見:

喉頭;梨状陥凹の後壁中央部に乳頭状の腫瘍があり,表 面潰瘍を形成.

耳,鼻,咽頭に異常なし.

 入院時検査成績(8月10日)

81

(3)

内科一般検査:正常.胸部X−P=正常 血液一般検査:正常

ワ氏反応陰性

 手術:8月14日,側咽頭切開術による下咽頭部分的切 除術施行.

経過:経過良好で9月6日退院.現在まで異常なし.

 症例3

 患者:二〇賢0 61才♂ 初診:昭37年11月13日  主訴:申言,咽喉頭痛.

 家族歴:姉は子宮癌一姉の娘に乳癌あり.

 既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴=昭37年7月7日頃より主訴あり.最近やせて

きた.

 初診時所見=

喉頭;左声帯に白苔があり,やや潰瘍状.試切の結果単 純癌と判明.耳,鼻,咽頭,異常なし.

 入院時所見:(11月20日)

内科的一般検査:正常.血液一般検:査:正常.

肝機能,腎機能,EKG,謄波などいずれも特別な所見

はない.

手術;工1月26日施行.術式:喉頭蔵開術。

治療および経過:経過良好にて昭38年1月28日退院.

60Co照射療法を行なう.

再入三時所見:(昭38年4月7日)

右側回状陥凹内側壁に潰瘍状腫瘍を認め,病理検査の結

:果髄様癌と決定.食道造影は正常.

 再手術:(昭38年4月11日)咽喉頭,頚部食道捌出術 を施行.

 治療および経過:4月20日 気管開口部より約1cm上 方に食道旗を生じた.4月23日,下咽頭に塵孔形成が起 こり,そのため胃ゾンデにて流動食を続ける.5月23 日,下咽頭三三は自然閉鎖した.6月24日,食道塵孔閉 鎖術を行なう.昭38年7月5日全治退院.退院時,錠剤 は食道入口につかえ嚥下不能.食事は家族と同じものを 食べるが2時間ぐらいかかる.6カ月後,固い物はのみ

こめないがお茶と一緒だと飲める.食事時間は1時間ぐ らいでできるようになった.

 中西:

 症例4

 患者:石○栄0 59才♀主婦.初診:昭38年7月26日  主訴:嚥下痛

 家族歴:母,肺結核で死亡.

 既往歴:14〜20才 両側結核性頚部リンパ節炎でX線 およびRa照射を受けた.

 現病歴:昭37年le月頃左側嚥下痛あり,某耳鼻科医に 受診したが,異常なしといわれて放置していた.昭和38 年6月10日頃より嚥下痛が増強し,某耳鼻科に左声帯炎 と診断され治療を受け,1週間で急性炎症は消退した が,主訴は同程度にあり,嘆声も起こってきた.この 時町医の食道造影では異常はないといわれた.

 初診時所見:耳,鼻に特別異常を認めず,咽頭は粘膜 発赤し,口蓋扁桃は埋没し少数の扁桃栓子を認む.披裂 部は発赤腫脹し,下咽頭後壁は腫瘍状で潰瘍を認めた.

頚リンパ節腫脹を認めず,

 入院時検査成績:

血液一般検査:Hb 69%, R 322×104, W 2600,血液 像:正常.血液型:AB型.

血清理化学的検査:正常.胸部X線で,右第1日間に石 灰沈着を認む.

食道直達鏡検査i:下咽頭後壁および一部左側壁にかけ て,披裂部の高さから下方約3cmにわたって腫瘍を認め

た.

 手術:8月1日.下咽頭,頚部食道癌で腫瘍捌出後,

喉頭:気管利用による一次的食道再建術施行.

捌出標本の病理組織学的所見:扁平上皮癌,

 治療および経過:術後鼻腔栄養を行ない,抗生物質,

強心剤,補液を行なう.8月10日食道痩を生じ,ここよ り膿汁および食物を流出する.

8月16日再手術施行,前回の切開部を開いてみるに,気 管は壊死となり,食道縫合部は全く離開していた.

壊死部分を除去し,甲状一輪状軟骨を除去して,軟部組 織でRohrとし,食道も周囲より剥離挙上して,皮膚に:

縫合し,喉頭端も皮膚に縫合した.8月21日再び縫合部 に食道厘を生じた.9月10日前胸部に皮膚棒形成.10月 8日皮膚棒移動および食道端下部を形成.

11月25日食道再建術完了.39年1月7日退院.昭39年7 月現在健康である.

 印南:

 症例5

 患者:湯○喜0 56才♀.初診昭38年6月28日.

 主訴:慶声,体重減少.

 家族歴:叔母が肝癌で死亡.

 既往歴:19才 気管支カタル,半年で治癒.20才 肺 門リンパ節炎,40才 肺浸潤,半年で治癒.43才 結核 性中心性網脈絡炎.

44才 肺結核,SM 50{・60本, PAS使用.

47才 流感→気管支炎→喉頭結核.

48才 甲状腺腫で右摘出.

52才流感よりシュープをおこし,SM, PAS, INAH併

(4)

用.右胸部帯状庖疹.

55才(昭38年5月20日頃より)嗅声.

 現病歴:昭38年2月気管支鏡検:査を受け,その後町 勢,喀疾がひどく,5月より慶声,嚥下痛あり,左耳に 放散す.コーラ等しみて飲めない.

 初診時局所所見=耳鼻に特別異常を認めず.咽頭粘膜 発赤,喉頭蓋は右半分欠損,被裂部は癸赤強く,食道入 口部にポリープ様腫瘍を認めた.

 入院時検査成績:(6月28日)

血液検査:Hb 93%, R 503×104,W10700.

白血球種類は,N64%,EO%, B1%,M3%,1 y 32%.血沈は30分5,60分18mmH、0.

ワ氏反応陰性.

尿検査=タンパク(一),ウロピリノーゲン(十),糖

(一),B.S.P 45分14%

EKG正常

胸部X線所見:右肺門部に陰影を認めたが,活動性病変

なし.

結核菌;塗抹培養とも陰性.

食道鏡検査;食道入口部にTumorを認めた.

食道透視;頚部食道に陰影欠損を認めた,

 手術所見=38年7月1日,喉頭・下咽頭・頚部食道摘 出術および(予防的)両側頚部廓清術施行.腫瘍は輪状 軟骨後部癌で,右側後壁に及んでいたため,食道は約4 cm長さに切除し,下端を引きあげて下咽頭断端に縫合し

た.

 病理組織学的診断:基底細胞癌

 治療および経過:術後,鼻腔ゾンデにて栄養,抗生物 質,強肝剤投与,補液を行なう.

7月3日 咳鍬とともに食物逆流し,直ちに創面を開い たところ,食道後壁縫合部より唾液の流出を認めたの で,縫合を横断して下咽頭口は二層に縫合閉鎖し,食道 断端は皮膚に縫合し,外方に開放した.

8月20日 Gluck−Soerensen氏法にて頚部食道形成術施

行.

9月6日 術創に痕孔を生ず.

10月8日 再びGluck−Soerensen氏法にて頚部食道形 成術施行.

10月15日 同様痩孔を生じ壊死となる.

11月28日 左胸部に皮膚棒作成(写真5).

昭和39年1月9日,皮膚棒を側頚部に移動.

2月4日 皮膚棒を気管口と食道厘口間に移動(写真

6, 7).

結核菌検査=3月11日 膿様喀瘍より結核菌塗抹 G4

写真5 症例5 皮膚棒作成

taww・kg

写真6 症例5 皮膚棒を気管口と食道口の間に移    動.下咽頭口は次第にせまくなる.

号,培養(十).

      4月  結核菌塗抹 G4号,培養(十)

      5月   〃   0, 〃 (一)

      6月   〃 、 O, 〃 (一)、

 3月以来内科へ依頼して結核治療牽行なっている.

現在まで食事は食道撰より胃ゾンデにて行ない,栄養状 態は良好である.

一 83

(5)

難騨 灘1

写真7 症例5.下川口口完全に閉鎖(ケ・イド体質)

 症例6

 患者:山○鉄○郎 77才6 無職.初診:昭39年3月 16日

 主訴=嚥下痛

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:67才 肋膜炎.70才 左白内障.

 現病歴:昭38年10月頃より頚部の異物感および次第に 増強する嚥下痛があり,39年2月末頃より嚥下痛は高度

となり,灼熱感があった.嗅声はない.

 入院時所見=耳・鼻・咽喉頭には異常なく,食道直達 鏡検査で食道入口部に腫瘍を認め,試切で扁平上皮癌を 証明した.頚部リンパ節腫脹はない.

 入院時検査成績

血液一般検査:Hb 103%, R 516×IO4, W 7100,血 液像異常なし,血液型0型.

尿検査:異常なし.

ワ氏反応陽性

血沈値=30分4,1時間8,2時間22mmH,O.

血清理化学的検査:異常なし.

E.K.Gl異常なし,

 手術:昭39年3月26日咽喉頭斗出術施行.

腫瘍は左側鱗状陥凹にあり,この部より輪状軟骨後部に 進展していた.

 治療および経過:術後,鼻腔栄養を行ない,抗生物 質,強肝剤,ビタミン剤投与および補液を行なう.

4月6日 手術創から膿汁の流出あり.

4月10日 手術創に食道厘を生じた.

4月14日 再手術施行,食道厘を上下に拡大して皮下組 織の壊死部分を除去,食道前壁は壊死となり消失してい た.食道壁を皮膚に縫合した(写真8).術後,胃ゾンデ を挿入しここより流動食を投与する.

5月12日 この頃より尿量:減少を来し,顔面,下腿に浮

写真8 症例6.咽喉頭別出術後69日目

腫を認む,

尿検査でタンパクを証明.

尿沈渣:扁平上皮     腎上皮     白血球     赤血球     穎粒円柱

血清N.P.N 78.5 mg/dlとなり,

elonephritisと診断され,ペレストンN,オルパランの 静注を開始した.

6月4日 Gluck−Soerensen氏法にて頚部食道形成術施 行(写真9).この頃より貧血が高度となる.(Hb 53

2〜3コ/1視野 4〜5コ/1 〃 10〜20コ/1  〃 5〜10コ/1 〃 1〜2コ/数〃

      内科にてNephropy一

写真9 症例6.GluckLSoerensen氏法にて食道形     成完成

%, R 214 ×104 )

7月7日 現在通過障害なく,食道形成術は成功した が,依然として貧血および尿タンパクが認められるの で,内科へ転科した.

 岩本:どうもありがとうございました.

 それでは次に放射線科の重田講師に,そこに供

(6)

回目てあるレ線写真を解説して頂きます.

 重田=これは第4例の術前とられた食道造影で す(写真10,11).焼腹像ばかりのものであります が,食道造影は撮影時期が難しく,特に食道入口

写真10 症例4.術前正面

写真11 症例4.術前側面

部の造影というのは非常に難しくてよく失敗しま す.速すぎますとまだ被検老がBariumを飲み込 んでいなかったり,逞すぎますと頸部食道は通り すぎて,Bariumが殆んどなかったりします.こ の写真も食道上部は充分造影されていません.そ れでよい食道造影をとるのにはBariumの濃度

というものを考えなければいけません.通常食道 造影の結合は胃や腸を検査する揚合よりはやや濃 いものを使用します.しかしあまり濃すぎますと,

特に強い狡窄のあるような揚合にはかえって患者 の苦痛が非常に大きい.またReliefを充分出す ことはできない.やはり患者さんの訴えをよく聞 き,全身状態をみましてその被検老に合った濃度 のものを用いなくてはならない訳です.このケー スではもうちよつと濃くして頸部食道を充分出す べきだったと思いますが,ここからの喉頭蓋谷か らちよつと下,あるいは油状陥凹のすぐ下部,

この辺のあたりが非常に不規則になっていて充分 造影ができなかったということです.それから辺 縁もやはり左の方は非常に不規則で,右を廻わっ てバリウムが下に落ちているということが透視時 カルテに記載してありますから,このレ線像では 充分造影されていないのではっきりしませんが,

これでも辺縁が不規則です.この揚合仰臥位にし て頭を少し下げまして撮った方がよかったと思い ます.このレ心像で下の方に非常に細かい波がみ られます.こういう羽合には食道壁にIn且1trati−

on,あるいはVarixがあるのではないかとか,

いろいろ考えられますが,この揚合Schleimhaut も正常で,通過障害などの異常も認められないこ とから,小さなPeristaltikがでているのだと 解釈してよろしいと思います.

 写真12は同じ人の術後ですが,上部は代用した 食道になると思います.ここで少し折れ曲ってお

りますが,狭窄などの通過障害はなくて,大変き れいに食道が形成されています.心腹像に加えて 側面の造影像をとると,太さや通過状態の観察が 一層確実にわかると思います.それからこちらの

:方のReliefは非常にきれいに出ております.

 次は第6例の患者の術後の写真です(写真13,

14).ここからここまでが手術によって作られた食 道だろうと思います.非常によく拡大しており通 過障害はみられません.これで正常のPeristaltik はこの辺から出ているということがわかります.

なお手術によって形成された食道は,その部分の

85 一

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写真12 症例4.術後正面

写真14 症例6.術後側面

写真13 症例6.術後正面

粘膜像が正常と変っていることは当然のことで

す.

 岩本=只今お話し願ったのは6例とも下咽頭・

頸部食道癌であります.これらの例でもわかるよ うに,頸部食道癌の初期症状は,食道のつまる感 じ,ひっかかる感じ,異物感,嚥下痛などが主な ものであります.胸部食道癌では嚥下痛は末期で ないと起こりません. しかし頸部食道癌のとき は,嚥下痛が初めから強度であることが特徴であ

ります.この人達は,自覚症状が起こってから1 ヵ月ないし9カ月の間に受診しているから割合早

く受診しており,それだけ予後がよいものばかり であります.

 次に注目すべきことは,これらの例でもわかる ように,頸部食道癌の揚合は,手術から治るまで の期間が非常に長くかかるということでありま す.この6例中一一ts早く治ったのは第2例の人で すが,これは部分的切除で,1カ月足らずで退院 できたと思いますが,他は3カ月から6カ月,第 5例はもう1年以上にもなりますが,まだ全然食 道再建の成功の見込みがたたないのであります。

しかしこの例は非常に元気で,胃ゾンデで食物を 摂っていますが,もう一回食道再建手術を行なっ てみようと思います.これなどは特別の例です.

普通はやはり食道癌の手術ですと,6カ月ぐらい かかるということを予め患者の家族に言っておい た方が良いと思います.このように非常に長くか かるという事が問題点です.

 次にこの6例の手術法をみますと,いろいろな 方法が行なわれているということを注意して欲し いと思います.一つの方法だけ知っているのでは 食道癌は治せないということがあるという事で

(8)

す.否,癌は治せても食道が再建できないので す.癌をとることはわけないのですが,癌ととも に食道を何cmか切除した揚油,この欠損した食道 を再びつくるということが非常に問題になるわけ であります.例えば,第1例では最初に皮膚棒に よる食道:再建術を試みてみましたがこれは失敗し ています,そこで次にGluck Soerensen氏法に 切換え,これで成功しています.これは簡単なほ

うです.第3例は重複癌で,喉頭癌と下咽頭・頸 部食道癌が半年の間隔でおこっています・喉頭癌

の方はCarcin・ma simplex単純癌,食道癌の 方はCarcinoma medullare髄様癌です・喉頭癌 の方は左声門癌で,喉頭戴開術によって治ったの ですが,半年後に右側梨状陥凹に腫瘍を認めたの で,咽喉頭・頸部食道別言術を行なっています.

ところが術後咽頭痕,食道痩を形成したので,何 回も何回もその閉鎖手術を行なってやっと治癒し

ました.非常に苦労した例です.

 第4例では癌別出後,喉頭と気管を利用して食 道再建を試みたのですが失敗しました.気管が全

部Nekroseになってしまったので,再びWunde

を開いて喉頭端,食道端を皮膚に縫合し,それが 治った後,こんどは皮膚棒で食道再建を行ないう

まく成功しました.

 第5例は2回ともGluck−Soerensen話法で食

道再建術を行なっていますが,共に失敗しており

ます.第6例は91attにうまくいった例です.

 このように食道再建術は一つの方法で失敗した ら又別の:方法で行なうという具合にいろいろ変え て根気よくやらねばなりません.一方法で失敗し たからだめだとあきらめてはいけません.最:後ま で根気よくやらねばならぬということを痛感しま

した.次に今話したような食道再建術手術はもち ろん,原発腫瘍を完全に別出するということが前 提になるわけであります.

 原発腫瘍の別郭には色々の方法があります.標 準的に行なわれている方法として,まず①喉頭全 別出術4式によって一緒に腫瘍もとってしまう方 法があります.これは特別な場合,例えば梨状陪 凹や輪状軟骨後部の癌に適用でき,喉頭全:刷出術 そのもので捌出できます.このときは一次縫合が

できますから,まあ比較的簡単です.②もっと簡 単なのは側咽頭切開術lateral pharyngotomy による:方法で,これは非常に小さい限局性のせい

ぜい大豆ぐらいのTumorに行なわれます.腫

瘍を周囲健康部と共に切除して,一次的にすぐ縫 合してしまいますから,後で食道を再建する必要 はありません.このような部分的切除で治る例は 非常に稀で,私が今日まで手術した下咽頭・頸部 食道癌例の40例のうち,2例しかありません.③ 次に下咽頭・頸部食道の後壁に生じた癌で,喉頭 気管に浸潤のない揚含には,下咽頭と頸部食道だ けを全別して,喉頭気管は保存し,之を食道再 建に利用することができます.④次に喉頭,下咽 頭,頸部食道に広く漫潤した癌では,下咽頭と喉 頭と頸部食道の全部を捌出しなければなりませ ん.原発藁の捌出は以上の4つのグループに分け られます.どの手術法を行なうかによって,次の 段階である下咽頭頸部食道の再建Reconstraction 法が大体決められます.

 食道のReconstractionは一次的に行なう場合 と二次的に行なう野合とあります.

 一次的食道再建術というのは原発藁の早出と同 時に食道を再建する方法で,上に述べたように喉 頭気管を利用してこれを食道に使うというのはこ れに入ります.下咽頭と頸部食道だけ別出して喉 頭気管を残し,これを食道の断端につなげば食道 になるわけであります.今一つの一次的食道再建 術として人工食道を使用する:方法があります.こ の方法は外国では盛んに行なわれていますが,わ れわれはまだ行なったことがありません.例えば Plastic tubeを使って上方は咽頭断端に,下方 は食道断端に縫いつけて,欠損部をこのtubeで

補うわけであります.しかしFiste1を作り易

く,なかなかうまく行かないようです.

 次に二次的食道再建術というのは,原病期を別 出して,その割出創が完:全に治癒したのち,すな わち大体2カ月ぐらい経ってから食道を作る:方法 であります.これにはGluck・Soerensen氏法と いって頸部の皮膚を使って皮膚管より成る食道を つくる方法と,頸部以外の,例えば前胸部に作っ た皮膚棒を移動して食道欠損部に持って来て,こ

87 一

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「れで食道を再建する方法と,この2つが代表的な

:方法であります.

 話を前に戻しますが,喉頭気管を食道に代用さ せる一次式食道再建術の続合,喉頭という所は本 来非常に過敏で,ちよつと異物が入ってもすぐ猛 烈に咳が出てきますが,そういう過敏な部位に食 物を通過させて,果してうまくいくかどうか大変 心配しましたが,生体の適応性というか順応性と いうものはうまくできているもので,本来の食道 がなくなって喉頭が食道になって食物が通るよう になると,咳は一つも起らないのでありまして,

不思議なものです.この方法は手術も簡単でうま くいった場合には非常に具合が宜しいのであっ て,私が食道癌の手術を行なって,こ番治癒率の よいのはこの方法で手術した例です.しかしこの

:方法は下咽頭,食道後壁にある癌に対してだけし か適応がありません.喉頭と食道,下咽頭が全部

、Tumorの浸潤を受けている揚合は,喉頭も一緒 にとらねばなりません.これに対して一次的食道

再建を行なう場合には,その欠損部にTubeを はめこみ,Tubeのまわりに大腿から採ったチ

Lルシェ氏皮弁をまきつけておき,その上を筋膜 や筋肉で被うわけです.この際皮弁をなるべく周 囲組織に密着させるように工夫します.皮弁が Nekroseになると,元も子もなくなり相当の危 険度を持つように思います.

 次はGluck−Soerensen氏の方法で,前頸部に 下から気管口,食道口,咽頭口が並んでいます.

そこで咽頭口,食道口を含めてスライドのような 矩形のSchnittをおき,皮下を剥離して気転し て,皮膚管による食道を作ります.創面はどうす

るかというと,顎下部から大きなLappenを作

って,これを移動させて創面を被うのであります.

皮膚管ですから食物は嚥下圧と重力でこの部を下 に下るわけです.本来の食道まで達すると,あと はPeristaltikによって胃に送られるわけであり

ます.次に皮膚棒による食道再建術のときは,前胸 部に皮膚棒をつくります.次でその一端を切断し て気管口と食道口の間に移植し,更に他端を咽頭 ロの上部に移植します.そして創がすっかり治癒 してから両側面を頸部皮膚と縫合して閉鎖します

と,やはり皮膚管の食道ができ上るわけです.こ ういうようにいろいろな方法があるわけです.い ろいろな方法があるので,失敗したらその次の別 な方法をやって,結局治してゆきます.それなら わが国において下咽頭・頸部食道癌患者は年間ど れくらいあるものでしょうか,これについて昭和 35年以降毎年登録制をとっていますので大体の数 は分ります.すなわち統計的にみますと,昭和35 年度が80例,36年度が172例,昭和37年度が172 例,昭和38年度が160例で,大体1年間に170例 ぐらいの下咽頭・頸部食道癌が治療をうけている わけです.治癒率は喉頭癌に比べると非常に悪う ございます.手術によった場合,昭和37年度の患 者の生存率は42%です.まだ5年経っていません からこれから再発するのがあるかもしれません.

昭和35年に手術した例では,生存率は15.7%にす ぎません.放封線療法の成績はもっと悪く,生存 率は100人に7人しか治らないということになり

ます.いずれにしても治癒率が非常に悪く,平均 してみると23%ぐらいである.しかし,今から10 年前には放射線で頸部食道癌が治ったというよう

なことは聞いたこともありませんでした。

 それが現在たとえ7%でも放射線だけで治った 例があるということは非常な進歩です.もちろん 手術の成績も段々よくなり,20%から40%の間に 治癒率がなりました.放射線のみで治るなら非常 に結構だと思っています.現在頸部食道癌の手術 は,耳鼻咽喉科の人が主にやっており,外科の人 は割合少ないです.千葉大学の中山教授,東北大 学の桂外科でやっていますが,他には余り行なう 人がありません.喉頭全摘をたいてい一.緒にしな くてはいけないので,手術手技が面倒なので,外 科の人はあまりやらないのだと思います.食道癌 全体の頻度からいいますと,頸部食道癌はそう多 いものではありません.むしろ下部食道の癌が相 当多いようです.そういう胸部,腹部食道癌の治 療はどういうようにするかというζとを,外科の 太田助教授にお話ししていただきたいと思いま

す.

 太田=食道癌の患者は非常に栄養状態が悪いの で,手術後吻合不全をおこしやすい.特に胸部の

(10)

食道癌の揚合では吻合不全というのは非常に困ま ります,そこで,その点に主眼点がおかれ,手術法 もいろいろ改良されてきています.胸部食道癌は その部位によりまして,上部,中部,下部の食道癌

とに分けられております.上中部食道癌を例にと りますと,大体手術を2回に分けて行ないます.

場合によっては,患者の栄養状態が非常に悪い時 には,3度に分けて行ないます.2度に分けてし ますときは,まず開胸しまして癌の部分を広範囲 に切除します.そして食道の上の断端は鎖骨の上 縁で皮膚に出しておきます.下の方に影面をつく

りまして,そして食道の断端と胃痩の間にゴム管 を入れます.そして食べさせるわけです.1ヵ月位 後に第2度目の手術をします.鎖骨上縁に出して おいた食道の断端と胃を吻合します.胃は持ち上 げるため一部門血管を結紮しますので血液循環の 充分なところを使うように,胃で管をつくり,食 道の断端と吻含をします.一般に吻合は胸腔尚又 は胸腔外紙含の2:方法があります.若し縫合不全 をおこしますと,胸腔内吻合の場合は膿胸を起こ します.膿胸をおこしますと,ほぼその50%が致 命的なものになります.胸腔内でしないで,胸壁 の前でこれを吻合しますと,これは胸骨の前面の 皮下を剥離しまして胃管を通し,食道の断端と吻 合しますが,この方法では縫合不全を起こしまし ても皮下の膿血形成ですから,これが原因で死亡 することにはなりません.そのため後者の方法が 多くとられております.いずれの場合でも,胃管 の方に血流が豊富であれば縫合不全は起り難いの で,もし胃管の断端の動脈血の供給が不完全と思 われる場合は,最近は小血管外科が非常に発達し てまいりまして,細い一血管を吻合する技術も進歩 し,又は1血管吻合器ができておりますので,これ らの使用により頸部の動脈と胃管の端の短胃動脈 や,脾動脈とを吻合して,血流をよくすることも あります.それからこの胃管とつなぎますと,稀 れに逆流性の食道炎:をおこすことがありますの で,それを防ぐために空腸をもち上げまして吻合 することがあります.この際には,空腸の一部分 を切離し,血管をつけたまま上にもち上げ,食道 と胃との間に吻合をします.人によっては空腸で

はなくて,結腸,特に右半分の結腸とか,S字状 結腸を利用することもあります.報告者によって は有董でなく遊離腸管を用いている揚合もありま す.もちろんこの際には動脈と静脈の各々の一血管 吻合が行なわれねばなりません.なお胸壁前吻合 ではなくて,胸骨のすぐ下面,つまり肋膜をひら かないで,前縦隔でこれらのものを吻合する方法 もあります.このように吻合方法が種々工夫され ております.また最近では,手術前に放射線をか けて,60Coとかレントゲン線の2,000〜3,000 r を照射しておいてから手術をするというやり方を 千葉の中山外科では唱道されております.

 死亡率は非常に最近よくなっております.報告 者により死亡率はまちまちですが,これは適応の

とり方にもよるのですが,成績がよろしいところ では手術の死亡率が,中山外科では昨年迄は7%

ぐらい,今年はもっとよいようです.他に死亡率 が高いところで18%,又は20%です.食道癌の患 者は柴養状態が悪いものですから,手術の結果も 縫合不全を起こし易く,これが原因となっての合 併症によって死亡することが多いのであります.

 岩本:今話されたように,食道癌墨壷では栄養 状態が非常に悪いものが多いし,その上術後相当 長期間経口的食事が不能ですから,患者の栄養保 持には注意しなくてはなりません.時には意識的 に,咽頭口を縫合閉鎖して胃痩造設を行ない,そ こから食事を与え,頸部の創面がすっかり治って から,改めて食道再建手術を行なう方法もとられ ています.今入院している1年以上経つたという 患者は,その方法に近い方法をとりました.咽頭 創をSpeichelが流出するから,一次的に閉鎖し 食道端のみ皮膚に縫合して前頸部にあけておきま した.その後8月と10月に閉鎖した咽頭を再び開 いてGluck・Soerensen氏法で食道再建術を行な ったのでありますが,皮弁が壊死に陥ったり,も っと悪いことには開放した咽頭口が次第に縮小し て遂に再び閉鎖してしまったのであります.咽頭 口を相当大きく開いたのに之が閉鎖したのは何故 か,この原因として老えられることは,この例で はケロイド体質が濃厚だつたことによると思われ ます.ご覧のように胸部にも著明なケロイドがあ

.一 89

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りますが(写真10),右前胸部のケロイドは数年前 Herpes Zosterにかかったのがケロイドになっ たもので,左前胸部のは皮膚棒を作った部位がケ

ロイドになったものであります.また頸部の術創 部は薯明なケロイドになっています.そういうわ

けで咽頭を2回開いたのですが,2回とも閉鎖し てしまいました.この次に行なうときはPlastic tubeのようなものをはめこみ,孔が収縮して小 さくならないようにしようと思っております.次 に栄養を改善するのに,Magensonde等を用い て流動食を直接胃内に流し込むだけでは不充分だ

と思います.やはり口の中に入れて,口腔内の酵 素で充分消化力のづいたものを入れないと栄養に ならないのではないかと思います.時には軽い 食物やジェース等を一一ee口に含ませて,それを Magensondeの中にいれて飲ませてみたり,ま あいろいろしてみました.本来輸血は栄養状態を 改善するのに非常に有効で,第1例では随分輸1血 をして,それによって体力がもちこたえたように 思います.しかし最近は,輸血はうっかりできま

せん.というのは70%ぐらい血清肝炎を起こすと いうことで,その上これが肝硬変の原因になるこ

とも聞いていますから,うっかり輸」血ができませ ん.やはり食物を充分に摂らせることが一番大切 で,その他電解質等は静注で補給してやります.

何か御質問がありますか,もしありましたらお答 え致します.

 重田:第4例の術前とつた食道造影像(写真

5,6)をみますと,まだ余り進んだ食道癌の所 見でなく,通過障害も少なく,また範囲も割に限 局されているように思われますが,組織的に変化 の及んでいる範囲はどの程度であったのでしょう か.粘膜下とか筋層内,筋層外というように分け て,どの辺までの侵襲であったのでしょうか.

 岩本=第4例ですね.これは全標本の組織検査 をまだ行なっていませんので,どの程度浸潤して いるかわかりません.

 重田:手術時所見としては,早期癌のような所 見であづたわけですね.

 岩本:ええ,まだ初期です.

 重田=はい,わかりました.この例も先程,先 生のお話にもありましたように頸部食道癌の特徴

として,比較的早くに嚥下痛などがあって早期に 癌が発見された例であるわけですね.

 岩本:そうです.この患者は旅行の帰りに一寸 寄って診てもらおうと軽い気持で受診したので す.それまでは健康でした.頸部食道癌と似た症 状,例えば咽喉になにか塞まった感じがすると訴 える患者は最近非常に多く,特に40才前後の女の 人に多いですが,こういう揚畑鼠にノイローゼと して簡単に片付けないで,諸検査を行なって癌を 除外することが大切です.というのは,下咽頭・

頸部食道癌は,喉頭癌とちがって,此較的若い40 才前後の女性の罹患が多く,全国統計でみまして も160例中女性は59例です.他に御質問がなけれ ばこれで終ります.

参照

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