Form HJ (S→O)
アジア太平洋研究科 博士学位論文要旨
日本における農業法人の 6 次産業化と経営高度化に関する研究
4013S301-1 石戸 修
E.
主指導教員 三友 仁志教授Keywords : 農業法人,6 次産業化,数量化Ⅱ類
収益性を改善し安定した所得や雇用が見込める環境を作ることで、
国内農業の衰退傾向に歯止めを掛けることは喫緊の課題である。しか し、就農者数は大幅な減少傾向にあることに加え、2016年時点の基 幹的農業従事者の平均年齢は66.8歳であるため、今後、近い将来に おいてもリタイアする就農者が多く出ることが見込まれる。それに伴 い耕作放棄地が増加することや、品質の高い作物の生産技術の承継が スムーズに行われないこと、ひいては安定した生産基盤が失われるこ とも懸念される。収益性を改善するために、生産効率を改善して限ら れた農地内での生産量を増やすことや、生産コストの削減を図るとい った従来からの取組みは重要であるといえる。しかし、これらの取組 みのみでは衰退傾向に歯止めを掛けるには至っておらず、さらに、生 産における取組みだけでは付加価値を生み出す機会が限定され、収益 性を改善するための手段が限られるといった課題がある。そのような 状況に対応するために、各経営体レベルで収益獲得機会の拡大を模索 することが求められ、それには、生産した農産物を原料とした商品加 工に取組むことや、独自の販路開拓を通じて、より経済的に見合った 価格での販売を実現するといった取組みが拡がることが期待される。
農業において、これら事業を垂直的に統合する取組みを「6次産業化」
と呼ぶ。
政府も6次産業化を促進する方針を掲げ、農業において自由な経営 展開ができる環境の整備を進めている。一方で、6次産業化を進める 上では課題も指摘されており、地域では人材を含めた資源が不足する ことや、農業経営における管理体制の不備が、促進に向けた制約とな る可能性がある。では、これら促進に向けた方針が示され、その課題 についても指摘される中で、農業経営の現場では、どのような経営体 が、どのように6次産業化を進めているのだろうか。国内の農業は全 国的に展開され、また、幅広い作物がある。それぞれの経営体の特徴 によって事業展開の方法が異なり、6次産業化の取組状況には一定の 傾向がみられる可能性がある。また、加工や販売といった取組みの促 進に伴い経営高度化の必要性が増すと考えられ、この点についても、
経営体の特徴によって取組状況が異なる可能性がある。しかし、これ らの点については十分な実証分析が行われておらず、6次産業化の更 なる促進や、農業における経営高度化について検討する上で、実態の 把握が求められる状況にある。このような背景により、本研究では、
農業法人による 6 次産業化や経営高度化の取組みに関する実証的な 要因分析を通じて、今後これらをさらに促進する上での課題や対策に ついて考察することを目的とする。
本研究では、この目的を達成するために、関連分野の先行研究や現 状分析を踏まえ、①経営体の特徴により6次産業化の取組状況に差が 生じているか、②農業法人における女性の活躍と6次産業化の進展と の間に関連性はあるか、③経営体の属性や経営課題といった要因によ り、ICT活用を通じた経営高度化の取組状況に差が生じているか、と いう3つのリサーチクエスチョンを設定して検証を行った。本研究に おける検証は、農業法人協会による全国的なサーベイ調査に基づいて おり、分析対象が扱う作物や地域といった質的なデータを含む。その ため、主な分析には、質的データの解析に広く利用される数量化Ⅱ類 分析を用いた。
本論文は、序論(第1章)、先行研究(第2章)、農業関連政策と 制度の変遷(第3章)、農業経営に関する現状分析(第4章)、分析 の枠組みと手法(第5章)、農業法人の6次産業化に関する要因分析
(第6章)、農業法人の経営高度化におけるICT活用(第7章)、考 察と結論(第8章)、ヒアリング調査メモ(付録1)、農林水産省によ る農業法人協会への委託調査(付録2)によって構成する。
分析結果からは、6次産業化については、作物分類間で取組状況に 差が生じていることが明らかになった。果樹では6次産業化が進む傾 向にあり、観光農園といったサービスの提供と絡めた展開が図りやす いことが要因として挙げられる。また、販売単位当たりの単価が一定 程度見込めることもあり、最終的な消費者に直接販売しやすいという 点も影響すると考えられる。他方で、肉牛や養豚といった畜産分野で は、他作物と比較して生産を主体とした展開が多い傾向にある。これ らの分野では、最終的な消費者に販売されるまでに、大掛かりな加工 プロセスを経る必要があるといった特徴がある。同じ畜産分野でも、
採卵では6次産業化が進む傾向にあり、卵をそのままの形で販売する ことができることや、多様な商品の原料として使用しやすいという特 徴がみられる。これら農産物の特徴が、実際に事業展開の仕方に影響 すると考えられ、現状における作物分類間での6次産業化の取組状況 の差に繋がっていると捉えられる。
加えて、農業法人における6次産業化の進展状況と、従事者数でみ た女性の関与の増加との間には、一定の関連性がみられた。果樹での 販売や採卵での加工といった分野では、女性の従事が相対的に多い傾 向にある。食や食品加工について女性が有する知識や能力といった点 が求められることが影響すると考えられ、農業における女性の活躍促 進が、今後の6次産業化の促進に向けた有効な対策の一つとなる可能 性がある。
分析結果からは、経営高度化におけるICT活用についても、扱う 作物による影響を受けることが明らかになった。販売方法を含めた事 業展開の仕方が作物によって異なり、それに合わせてICTの活用方 法も異なると考えられる。また、売上高でみた経営規模が拡大すると、
生産、販売、加工、会計、労務といった各部門でICT活用が進む傾 向にあり、規模拡大に伴い管理体制強化の必要性が増すことが影響す ると捉えられる。地域間でのICT活用状況にも差がみられ、これら の要因がICT活用の判断に影響すると考えられる。
これらの分析結果から、農業において、今後より6次産業化や経営 高度化を促進する上での課題や対策は、扱う作物を含めた経営体の特 徴によって異なると捉えられる。独自の加工や販売が難しい分野や、
高い専門性や知識が求められる分野では、より重点的に政策的な支援 を行うといった対応も求められる。また、加工や販売といった事業の 拡大を図る上では、従来よりも多様な能力を有する人材の確保といっ た点で、各経営体レベルでの更なる経営努力も必要になる。農業にお ける6次産業化や経営高度化は発展途上の段階にあり、今後、地域間 で取組状況に差が生じている要因の特定を含め、同分野での更なる研 究の蓄積が求められる。
[主要参考文献]
南石晃明・竹内重吉・篠崎悠里(2013)「農業法人経営における事業 展開,ICT活用および人材育成 -全国アンケート調査分析-」
調査分析-」,『農業情報研究』,第22巻3号,159-173.
梅本雅(2014)「農業経営における規模論の展開」,『農業経営の規模 と企業形態 -農業経営における基本問題-』,農林統計出版,
23-37.