実道実験による走光型誘導システムの 追従挙動への影響分析
藤田 英将
1・塩見 康博
2・井料 美帆
3・小根山 裕之
4山本 浩司
5・高橋 秀喜
61学生会員 立命館大学大学院 理工学研究科 環境都市専攻 (〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1)
E-mail:[email protected]
2正会員 立命館大学 E-mail:[email protected]
3正会員 東京大学生産技術研究所 E-mail: [email protected]
4正会員 首都大学東京大学院 E-mail: [email protected]
5正会員 中日本高速道路株式会社 E-mail: [email protected]
6正会員 中日本高速道路株式会社 E-mail: [email protected]
高速道路サグ部における速度低下対策として,路側に設置された走光型視覚誘導システムが有効である ことが近年報告されており,それによる交通容量の増大効果も確認されている.しかしながら,その詳細 なメカニズムについてはこれまでに明らかにはされていない.また,個人属性の影響が大きいものの,自 由走行時における高速域に対する速度抑制効果,あるいは低速域における速度回復効果についても報告さ れているが,追従走行する車両に対する走光型視覚誘導システムの影響は把握されていない.本研究では,
圏央道小倉山トンネルを対象とした追従走行実験を通して,視覚誘導システムの有無が追従車両の走行特 性に与える影響を明らかとすることを目的とする.これにより,当該システムが交通流の円滑化,あるい は衝突危険性の提言に及ぼす効果について考察を行う.
Key Words : moving light guide system, variance analysis, car-following behavior
1. はじめに
日本の都市間高速道路における渋滞の約6割が上 り坂・サグ部をボトルネックとして発生している.
これらの箇所の渋滞発生要因として,上り坂部でド ライバーが気づかずに速度低下してしまい,車間距 離が短くなった後続車両がブレーキを踏んでしまい,
徐々に後続車両にブレーキが伝播し渋滞が発生する と考えられている.そのため,サグ部の渋滞発生箇 所の対策として,渋滞前の速度低下抑制や,渋滞発 生後の速度回復など,ドライバーの速度維持・回復 に働きかけ,交通を円滑化する対策が求められてい る.これらの渋滞箇所は道路拡幅等のハード的対策 が困難であることが多く,既存インフラを有効活用 するソフト的対策が求められている.
本稿では,ソフト的対策として走光型視線誘導シ ステムに着目する.走光型視線誘導システムとは,
高速道路沿いに設置したLEDを順番に点滅させるこ とで車と並走する光を出現させ,ドライバーの速度
感覚をコントロールし,長い下り坂での速度超過の 防止や,上り坂・サグ部での速度の回復を促す効果 を期待するシステムである.このシステムは,速度 超過が発生しやすい箇所への速度超過抑制対策とし ては導入された例もあり,一定の効果を挙げている.
また,サグ部等における速度制御対策としては,自 由走行車両への速度調整の効果が実験を通して確認 されている1) 2).その一方で,前方車両に追従して いる車両に対して同システムが及ぼす影響について はこれまでに明らかにされていない.特に,サグ部 での交通容量の改善を図るためには,自由走行車両 の速度低下抑制による車群分散効果に加えて,追従 挙動の円滑化・安定化を促すことが必要である.そ のため,効果的な視線誘導システムを運用するため にも,追従挙動への影響を把握する意義は少なくな い.
そこで本稿では,実道走行実験により,走光型視 線誘導システムが追従車両の走行特性に及ぼす影響 を検証する.実験条件としては,同システムのオン
/オフ,および先行車両速度の 75km/h/85km/h を 考慮した.
本稿の構成は以下のとおりである.第 1 章では背 景・目的を述べた.第2章では,実道追従実験の概 要と取得データの概要を述べる.第3章ではカルマ ンスムージングによる取得データの一次処理方法に ついて記述する.第4章では追従挙動の比較分析を,
車間距離,追従モデルのパラメータ,安全性指標を 求めて分散分析で行う.最後に,第5章では本研究 の成果,今後の課題をまとめる.
2. 実道追従実験と取得データの概要
(1) 実道追従実験の概要
実道実験に当たって,図1に示している圏央道の
圏央厚木 IC〜高尾山ICを実験対象の区間に設定し
た.当該区間中,小倉山トンネル内にサグが存在し,
走光型視線誘導システムが導入されている.実験は,
2014年11月28日(金)~12月3日(水),ならびに12 月6日(土)~12月9日(火)の10:00~16:30の時間 帯で10日間行った.
実験中,先行車両(車種はプリウスα)はオートク ルーズにより一定の速度を維持するよう設定し,実 験計画者が運転を行う.被験者には後続の実験車両 の運転を要請し,データを収集する.被験者は首都 大学東京の学生のうち,運転免許を所有し,高速道 路の走行経験のある 10名を対象とした. 1日 1人 のペースで当該コースを走行する実験を実施し,被 験者1人あたり4周してもらい,4パターンの走行 条件で走行データを収集した.
(2) 取得データの概要
追従挙動を比較分析するに当たって,先行車両の収 集したデータは,車軸パルスからの車速,3 軸加速 度データ,GPSによる衛星時刻,トンネル坑口の通 過時刻である.実験車両である追従車両から収集し たデータは,レーザー距離計による車間距離,車軸 パルスからの車速,3 軸加速度データ,GPSによる 衛星時刻である.また,個人属性の影響も考えられ るため,実験終了後に運転頻度等のアンケートに答 えてもらった.
走行条件は順序による効果をなくすため,表-1に
記載のとおり,被験者によって実験条件の順序をラ ンダムに設定した.ただし,実験時にデータの取得 に失敗したケースも存在し,データが欠損している ケースを表中には×印により示している.また,詳 細は後述するが,取得されたデータには外れ値が多 く含まれ,その除去が適切にできなかったケースに ついて,表中には※印で示している.
3. データの一次処理
取得されたデータには,偶然誤差の他,レーザー 距離計が前方車両以外の物体(トンネル壁面など)
を照準することによる誤差が含まれる.本章では,
これらの誤差を除去するための一次処理方法につい て述べる.
(1) データの圧縮
車軸パルスによる車速データは0.02秒間隔で取得 され,レーザー距離計は0.06秒間隔で取得されてい る.そのためレーザー距離計のデータ取得間隔に整 合するよう整理した.その上で,カルマンスムージ ングなどの処理速度を上げるため,データを 0.3秒
相模原八王子トンネル 3.57km
小倉山トンネル 2.1km
愛川トンネル 2.72km
上依知第一 トンネル 0.652km 城山トンネル
0.42km
上依知第二 トンネル 0.265km
厚木PA (外回り)
厚木PA (内回り) 高尾山IC
圏央厚木IC
図-1 実道実験対象区間
表-1 実験条件と取得データ
×:欠損(21走行分)
※:外れ値の除去が不十分(10走行分)
速度 光刺激 外回り 内回り 速度 光刺激 外回り 内回り 速度 光刺激 外回り 内回り 速度 光刺激 外回り 内回り
1 11月28日 75 km/h なし ○ ○ 85 km/h なし ※ × 85 km/h あり ※ ○ 75 km/h あり ○ ○
2 11月29日 85 km/h なし ○ ○ 75 km/h なし × × 85 km/h あり ○ ○ 75 km/h あり ○ ○
3 11月30日 85 km/h なし ○ × 75 km/h なし ○ ○ 85 km/h あり ○ ○ 75 km/h あり ○ ○
4 12月1日 85 km/h なし ※ ○ 75 km/h なし ○ ○ 85 km/h あり ※ ○ 75 km/h あり ○ ※
5 12月2日 75 km/h なし ○ × 85 km/h なし ○ ○ 75 km/h あり ※ ○ 85 km/h あり ※ ○
6 12月3日 85 km/h あり ○ ○ 75 km/h あり ○ ○ 75 km/h なし × × 85 km/h なし ○ ※
7 12月6日 75 km/h あり ○ ○ 85 km/h あり ○ ○ 75 km/h なし ○ ○ 85 km/h なし ○ ×
8 12月7日 75 km/h あり × × 85 km/h あり × × 85 km/h なし × × 75 km/h なし × ×
9 12月8日 85 km/h あり × × 75 km/h あり × × 75 km/h なし ○ ○ 85 km/h なし ○ ○
10 12月9日 75 km/h あり ※ ○ 85 km/h あり ※ ○ 75 km/h なし ○ ○ 85 km/h なし ○ ×
ID 実験日 1週目 2週目 3週目 4週目
間隔に圧縮した.また,以降で分析には,小倉山ト ンネル内を走行しているデータのみを使用し,トン ネル抗口通過時刻を0とするよう基準化している.
(2) 外れ値の除去
圧縮されたデータから,外れ値を除去するため,
各値の時間差分値に対してグラプス検定を実施し,
5%有意水準にて外れ値を検出した.そして,当該 の値については前後6秒間の平均値を外挿し,その 上でさらに外れ値の検出を行う.上述の所作を,外 れ値が検出されなくなるまで繰り返し実施し,外れ 値を除去した.
(3) カルマンスムージング
最後に,カルマンスムージングによるデータ処理 を行う.取得されたデータは時刻 tにおける先行車 両速度 vLt,追従車両速度 vFt,車間距離 δtであり,
取得時間間隔をtとすると,下式のような関係性を 有する.
(1) そこで,式(2)の通り,システム方程式を定義する.
(2)
ただし,は誤差ベクトルを表す.また,観測方程 式を式(3)の通り定義する.
(3)
ただし,は誤差ベクトルを表す.
これらの状態方程式に対し,カルマンスムージン グを適用する.その際,誤差項については,経験的 に=(6.7*10-3, 6.7*10-3, 6.7*10-3),=(2.7*10-3, 2.2*104, 1.0)と与えた.
図-2にカルマンスムージングを適用した結果の例 を示す.これより,追従車速度の元データは離散的 な値で得られていたものが,連続的でなめらかなデ ータにスムージングされていることが分かる.また,
車間距離に関する外れ値も適切に除去されているこ とが読み取れる.一方で,適切に外れ値を除去する ことができなかった例を図-3に示す.これより,60 秒を過ぎたあたりで車間距離の外れ値を除去するこ とができておらず,その結果として追従車両速度が 乱れ,観測値とも大きくずれていることが確認でき る.これは,レーダー距離計が前方車両以外の物体 を照準し,そこから正しく前方車両を照準し直すま でにデータが連続的に推移することによる.そのた め,上述の手法では適切に外れ値を除去することが できず,結果としてこの車間距離に整合するように 追従車速度がスムージングされているものと考えら れる.表-1中の※印で記したケースは,すべて外れ 値除去・スムージングが適切にできなかったケース
図-2 カルマンスムージングの適用例
図-3 カルマンスムージングの適用例(失敗例)
であり,以降では分析対象外とした.
4. 追従挙動の比較分析
本研究の最終目的である,視線誘導システムのあ り・なしによる追従挙動の差異を求めるために,分 散分析による検証を行った.以下に比較分析を行う 際に用いた各指標の概要についてと,各項目による 分散分析の結果を記す.
(1) 車間距離
走光型視覚誘導システムにより,追従車両のドラ イバーは前方車両との車間距離の変化を認知しやす くなる可能性がある.そのことを検証するため,前 方車両との車間距離を分析対象とする.その際,各 走行ケースの,平均車間距離,最小車間距離,最大 車間距離,車間距離の標準偏差を分析指標とした.
(2) 追従挙動モデルパラメータ
式(4)で示すように,相対速度と車間距離を説明 変数とした線形回帰式である Helly モデル 3)を用い ることとした.
1 3
1
( ) ( )
)
(
x t x t T
t
x
F L F
(4)
32
( ) ( )
x
Lt x
Ft
ẍF(t)は追従車の加速度,ẋLは先行車の速度,ẋFは追 従車の速度,xLは先行車の位置,xFは追従車の位置,
β1は車間距離項係数,β2は相対速度項係数,β3は定 数項,Tは反応遅れ時間を表す.β3をβ1で除した値 は,追従車ドライバーの希望車間距離と解釈される.
そこで,反応遅れ時間,車間距離項係数,相対速 度項係数,および希望者間距離を分析指標として設
定した.
(3) 安全性指標
視覚誘導システムが衝突危険性へ及ぼす影響を評 価するため,客観的コンフリクト評価指標である PICUD(急減速時追突危険指標),TTC(Time to colli- sion)を分析対象とする.
PICUDはもしも2台の車両がその時点での速度と
進行方向を保持すると仮定した場合に,2 車両の衝 突までに要する時間でコンフリクトの程度を評価す る指標であり,式(5)で示される.
TTCは,もしも2台の車両がその時点での速度と 進行方向を保持すると仮定した場合に,2 車両の追 突までに要する時間でのコンフリクトの程度を評価 する指標で,式(6)に示される.
a
t V V a s
PICUD V
2 2
2 2 2
0 2
1 (5)
V1:前方車の減速開始時の速度
V2:前方車の減速時における後続車の速度 a :減速時の加速度(-3.3m/s2と仮定)
s0 :前方車の減速開始時の車間距離
Δt :前方車のブレーキ開始時から 後続車のブレーキ開始までの時間 反応遅れ時間(1.5sと仮定)
f l
f l r
r
c v v
x x v
t x (6)
xr:車間距離 vr:相対速度
xl,xf:前方車,後続車の位置
vl,vf:前方車,後続車の速度
(4) 分析結果
車間距離の値から導き出される平均車間距離,
最小車間距離,最大車間距離,車間距離標準偏差,
(1)に示した追従モデルのパラメータである反応遅 れ時間,車間距離項係数,相対速度項係数,希望車 間距離,(2)に示したPICUDとTTCの値を従属変数 とし,被験者 ID と視線誘導システムのあり・なし を要因とする分散分析の結果を表-2~表-11,図-4~
図-13に示す.
まず,車間距離の平均に関しては,視線誘導シス テムにより,車間距離が縮まる傾向があり,車頭時 間の低下に繋がり,交通容量の改善に繋がるのでは ないかと考えられる.最大値に関しても,視覚誘導 システムが有意に働いており,最大車間距離が低下 しているという傾向は,緩慢な追従の注意喚起の効 果があると期待できる.他の値に関しては,最小車 間距離,車間距離標準偏差,共に低下の傾向がある が,10%有意水準において非有意であった.
次に,追従モデルのパラメータの値については,
相対速度項係数と希望車間距離は視線誘導システム のあり・なしで明確な傾向は観測されなかった.反
応遅れ時間は反応時間の減少,車間距離項係数は反 応強度が向上の傾向が見られるも10%有意水準にお いて非有意であった.そして,PICUDと TTC の安 全性指標については,共に有意な差は見受けられな かった.
5. おわりに
本研究では,実道実験により,先行車両と追従車 両を用い,走光型視線誘導システムが追従車両の走 行特性に及ぼす影響の検証を目的とし,そのため,
当該システムの有無による差異を車間距離,追従パ ラメータ,安全性指標によって分散分析を行い比較 検証し,交通流の円滑化,あるいは衝突危険性の提 言に及ぼす効果について,考察を行った.
その結果,最大車間距離・平均車間距離は視線誘 導システムによる縮小する傾向があるといえ,交通 容量改善傾向にあると示された.安全性指標は,
PICUD に負値をとり危険側の判定,TTC は十分大
きく安全側の判定をとった要因として,車間距離が 小さくなるため,PICUD 上は負値となったが,前 方車との速度差は小さく,TTCは安全側の判定とな ったと考えられ,追従実験という特殊な環境下での 影響と考えられる.今後は,本稿の場合,サグ部全 体の走行データをまとめて分析しているので,サグ 部の上りと下りにわけて,視線誘導システムの効果 を明確に検証することが求められている.
謝辞
本研究の遂行にあたり,立命館大学卒業生の吉野 尚史氏に多大な協力を賜った.ここに記して謝意を 表します.
参考文献
1) 吉村敏志・萩原武司・野呂好幸・松尾武;発光 体を用いた速度抑制手法の開発と効果検証,第 31 回 交 通 工 学 研 究 発 表 会 論 文 集,23,pp.115- 121,2011
2) 亀岡弘之・山本浩司・高橋秀喜;光刺激によっ て起因した感覚を利用した渋滞等対策,光ライ アンス,25,pp.10-15,2014
3) W. HELLEY: Simulation of bottlenecks in single- lane traffic flow. Theory of Traffic Flow, pp.207-238, 1959.
車間距離標準偏差 [m]
最大車間距離 [m] 最小車間距離 [m] 最小車間距離 [m]
平均車間距離 [m ]
表-2 平均車間距離の分散分析結果
図-4 平均車間距離の多重比較結果 図-5 最小車間距離の多重比較結果 表-3 最小車間距離の分散分析結果
図-6 最大車間距離の多重比較結果 表-4 最大車間距離の分散分析結果
図-7 車間距離標準偏差の多重比較結果 表-5 車間距離標準偏差の分散分析結果
車間距離項 [1/ s
2]
相対速度項 [1/ s]
表-6 反応遅れ時間の分散分析結果
図-8 反応遅れ時間の多重比較結果 図-9 車間距離項の多重比較結果 表-7 車間距離項の分散分析結果
図-10 相対速度項の多重比較結果 表-8 相対速度項の分散分析結果
図-11 希望車間距離の多重比較結果 表-9 希望者間距離の分散分析結果
反応遅れ時間 [ 秒 ]
50 40 20 10
60 30
希望者間距離 [m]
EFFECT OF LIGHT-EMITTING DEVICE ON CAR-FOLLOWING BEHAVIOR:
RXPERIMENTAL ANALYSIS
Eisuke FUJITA, Yasuhiro SHIOMI, Miho IRYO, Hiroyuki ONEYAMA, Koji YAMAMOTO and Hideki TAKAHASHI
図-12 TTCの多重比較結果 図-13 PICUDの多重比較結果 表-11 PICUDの分散分析結果 表-10 TTCの分散分析結果