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装置の設置場所と燻蒸回数
燻蒸とは気化した専用の薬剤を図書資料に浸透 させ、殺虫、殺カビ、殺卵をすることです。図書 館にはそのための燻蒸装置(燻蒸庫)が、中央図 書館1階北西隅の荷受室付近の、地下1階に設置さ れています。多くの図書館員にもあまりなじみの ない場所かもしれませんが、消毒室という名称で、
広さは縦6.5m、横2.3mで約15㎡です。その中に減 圧式燻蒸装置(大きさ約1.13m3)が1台備え付け られており、1度にダンボール箱にして8−10箱 程度処理することができます。大学内で唯一の装 置なので、学内の他箇所からの燻蒸依頼を引き受 けることもあります。燻蒸回数は、開館以来2010 年12月までの20年間で258回行われており、平均し て、単純計算すると月1回の割合で燻蒸を行って いることになります。私は、開館時から断続的で はありますが、燻蒸作業を行ってきました。
燻蒸の必要性について
現在の図書館は全館空調が行われ、大きな温 度・湿度の変化がないのがあたりまえになってい ます。特に4階特別資料室事務所に隣接する貴重 書庫は24時間空調で、ちなみに昨年12月17日は温 度21度、湿度51%で終日ほぼ一定していました。
このような環境では、あらたに虫やカビが発生す る心配はありませんが、図書館で受け入れる図書 資料にはさまざまな環境の下に置かれていたもの
があります。特に高温多湿の環境の中にあったり、
水をかぶった図書は虫菌害をうけやすく、受け入 れた本を開くと虫がうろうろしていたり、水で紙 がくっついてその間にカビがはえている、という 状態で図書館に持ち込まれる場合があります。そ のままにしておくと、虫が紙を食べ、カビが紙を 変質させて破壊し、本の文字が読めない状態にな ってしまいます。このような状態をくいとめ、虫 菌害の被害のさらなる拡大を防ぐために、燻蒸作 業がどうしても必要になってきます。特別資料室 で購入したり、寄贈を受けた図書は、原則として 燻蒸作業を施すことにしています。
燻蒸方法と具体的作業
文化財の燻蒸方法には燻蒸環境を減圧しないで 密閉して行う常圧燻蒸法と、減圧して行う減圧燻 蒸法があります。特別資料室では、書庫の燻蒸の ような大規模な場合は、専門業者に頼んで必要箇 所を密閉して常圧燻蒸をしますが、日常私たちが 図書館の消毒室で行っているのは、燻蒸庫内を減 圧して行う減圧燻蒸です。
ここで、エキヒュームSという薬剤を使用した 現在の燻蒸作業を具体的に説明しましょう。
① 薬剤が気化しやすいように気化器の温度を あげ、資料を燻蒸庫に入れる→②真空ポンプ で燻蒸庫内を減圧する→③エキヒュームSの 入ったガスボンベから、手順に従って必要量 を庫内に送入する→④そのまま24時間滅菌
早稲田大学図書館における燻蒸作業について
久 保 尾 俊 郎(特別資料室)
消毒室
虫に食べられた本
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(殺虫)する→⑤12時間かけて排気する。この 際、庫内のガスは無毒化されて排気される→
⑥全工程が完了したら、専用のガス検知器に より庫内のガス残留濃度の測定を行い、安全 性が確認できたら、資料を取り出し終了する。
以上が全工程で3日間の作業になります。なお この作業中、特に燻蒸庫の扉を開けるときには、
必ずガスマスクを装着します。
薬剤について
この燻蒸作業で使用する薬剤は、虫、カビを殺 すわけですから人間にも悪影響を与えかねない毒 ガスを発生します。この20年間で3種類の薬剤を 使用してきました。
最初はエキボン(臭化メチル、酸化エチレンの 混合剤)で、この薬剤の使用が長く続きました。
しかし、その使用がオゾン層を破壊するというこ とから国際的に禁止になり、エキボンは2004年12 月末で燻蒸作業での使用が禁止されました。そこ で一時、ヨウ化メチルを主要原料とするアイオガ ードを採用しましたが、業者が薬剤の製造をやめ たこともあって、現在のエキヒュームS(酸化エ チレン、テトラフロロエタンの混合剤)を2009年 11月より使用しています。
実際に使用してみても、この3種の薬剤には違 いがありました。エキボンは発生するガスに臭い があり、燻蒸終了後のダンボールのふたを開ける と、無毒ですが刺激臭を感じることがありました。
アイオガードは、エキボンに比べ気化速度がおそ くてなかなか庫内にガスが入らず、おまけに燻蒸 を行うたびに庫内の壁や扉の内側にサビがつきま した。現在のエキヒュームSは臭いもなくサビも 出ません。
私の経験と今後の燻蒸体制
最初に書いたように、私は1991年の現中央図書 館開館時より燻蒸を担当してきました。しかしこ の燻蒸作業を行うようになったきっかけは、業務 命令で行うようになったというより、国宝、重要 文化財をふくむ30万冊に及ぶ貴重な文化財といっ てもよい古書資料の保管に心を砕いている先輩た ちの姿を見て、その必要性を感じ、それを引き継 いで、おのずから燻蒸作業を担当するようになっ たと思います。
毒ガスを使用するので、薬剤の正確な知識を身 につける必要があり、文化財虫害研究所の文化財 防 虫 防 菌 処 理 実 務 講 習 会 に 数 年 お き に 参 加 し 、 1993年3月に文化財虫菌害防除作業主任者認定証 を取得しました。
実際の燻蒸作業は、私のように数十回の経験を 持つものでも、いつも多少の緊張感があります。
しかし、燻蒸を終えて庫内から資料を出す時、虫 菌害のない図書を新たに貴重書庫に入れることが できるという安心感、緊張感のある作業をし終え たという達成感が常にともないます。
図書館の燻蒸は、文化財といってもよい古書を 含む図書資料を、いつまでも価値あるものとして 保存し、利用者に提供していくために行われてい ます。そのことを館内外の多くの方々に理解して いただき、今後も、人材育成を含むしっかりとし た燻蒸体制が続いていくことが望まれていると思 います。
ガスマスクとガス検知器(北川式検知器)
燻蒸の終了