過塩素化フェノール類およびその誘導体の応用―殺
虫効力―
著者
隈元 実忠
雑誌名
鹿児島大学工学部研究報告
巻
1
ページ
111-116
別言語のタイトル
APPLICATION OF PERCHLORINATED PHENOLS AND
THEIR DERIVATIVES―INSECTICIDAL EFFECT―
過塩素化フェノール類およびその誘導体の応用―殺
虫効力―
著者
隈元 実忠
雑誌名
鹿児島大学工学部研究報告
巻
1
ページ
111-116
別言語のタイトル
APPLICATION OF PERCHLORINATED PHENOLS AND
THEIR DERIVATIVES―INSECTICIDAL EFFECT―
過 塩 素 化フェ
ノ ー ル 類お よ び そ の誘 導 体 の応 用
−殺
虫
効
力−
隈
元
実
忠*
APPLICATION OF PERCHLORINATED PHENOLS AND THEIR DERIVATIVES - INSECTICIDAL EFFECT Sanetada KUMAMOTO
As a part of research work on the application of perchlorinated phenols, the author of this paper had his experiments on insecticidal effect of several scores of newly prepared chemical compounds. Against two-brooded rice borers, no significant effect could be observed, while against larvae of houseflies, a series of chemical compounds excellently effective was found.
Among derivatives of perchlorinated phenols of o-quinonoid type, cyclopentadiene adducts sand their chlorohydrin esters were revealed to have particularly excellent insecticidal effect, while perchlorinated phenols too were found as effective as BHC on the market. Received June 5, 1961. 1.緒 言 有 機 含 塩 素 化 合 物 が 殺 虫剤 と して 登 場 して か ら,20 余 年 を 経 過 した にす ぎ な い が,DDT,BHC,環 状 ジエ ン系 塩 素 化 合 物(ク ロ ルデ ン系) 1)など のす ぐれ た殺 虫 剤 が発 見 さ れ た. 著 者 は,ポ リハ ロゲ ン化フェ ノー ル 類 お よ び そ の誘 導 体 の合 成 に関 す る基 礎 的研 究 を 進 め,フェ ノー ル, ク レゾ ール 類,キ シ レノ ー ル類 か らえ られ る過 塩 素 化 フェ ノー ル 類 は,各 々環 の 構 造 が 異 る4種 類 の過 塩 素 化 物,す な わ ち2,4-ま た は2,5-シ ク ロヘ キサ ジエ ン-1-オ ン環 お よ び3-ま た は2-シ ク ロヘ キ セ ン-1-オ ン 環 の い つ れ か に 帰 属 す る1こと を 明 らか に した2),ま た,こ れ らの環 の構 造 の異 る過 塩 素 化 物 の 中 で,2,4-シ ク ロヘ キ サ ジ エ ン-1-オ ン環 の 過 塩 素 化 フェ ノー ル 類(O-キ ノ イ ド型)が 反応 性 が大 き く,ア ル コー ル 類,メ ル カプ タ ン類,無 水 マ レイ ン酸,シ ク ロペ ン タ ジ エ ン,ピ リジ ン塩 基 類 な ど と の反 応 3)∼6)によ つ て, 各 種 の誘 導 体 を 合 成 した.そ の ほか,シ ク ロペ ンタ ジ エ ン付 加 物 の誘 導 体 を 合成 し,数10種 類 の 新 しい含 塩 素 化合 物 を え た. *応 用 化 学 教 室 さ て,過 塩 素 化フェ ノ ー ル 類 の 応 用 と し て,殺 虫 剤 を 目 的 と して 試 験 さ れ た 化 合 物 は2,3,4,4,5,6-ヘ キ サ ク ロ ル-2,5-シ ク ロ ヘ キ サ ジ エ ン-1-オ ン だ け で, しか も 比 較 的 近 年 の こ と で あ る.す な わ ち,1944年, M.C.Swingleら 7)に よ つ て,葉 喰 い 、昆 虫 類 に 対 す る 効 力 が 試 験 さ れ た の が 最 初 で あ る.そ の 後,ノ ミ 8), シ ラ ミ 9),ダ ニ 類 10) 11)に 対 して,そ の ほ か 一 般 に 殺 虫 剤 と して の 効 力 が 試 験 さ れ 12)∼18),そ の 殺 虫 効 力 が 認 め ら れ た.ま た,白 ア リ駆 除 剤 と して も 16)∼18),有 効 な 薬 剤 で あ る と報 告 さ れ て い る.し か し,そ の 他 の 過 塩 素 化フェ ノ ー ル 類 の 殺 虫 効 力 に つ い て は,全 く報 告 さ れ て い な い. そ こ で,さ き に の べ た 数10種 類 の 過 塩 素 化 フ ェ ノ ー ル 類 お よ び そ の 誘 導 体 の 殺 虫 効 力 を 二 化 メ イ 虫(壮 令)と イ エ バ エ(終 令 幼 虫)に つ い て 実 施 し,イ エ バ エ 終 令 幼 虫 に対 して,優 れ た 殺 虫 効 力 を 示 す 一 連 の 化 合 物 を 見 出 した. 2.実 験 2・1.供 試 化 合 物 の 化 学 構 造 と そ の 性 状 供 試 化 合 物 はA,B,2つ の グ ル ー プ に 分 け て,試 験 に 供 し た.A-グ ル ー プ は,フェ ノ ー ル,o-,m-,
112 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第1号 P-ク レ ゾ ー ル,1,3,5-キ シ レ ノ ー ル,1,2,5-キ シ レ ノ ー ル か ら 合 成 さ れ た 過 塩 素 化フェ ノ ー ル 類 で,2,4 -シ ク ロ ヘ キ サ ジ ェ ン-1-オ ン,2,5-シ ク ロ ヘ キ サ ジ エ ン-1-オ ン,3-シ ク ロ ヘ キ セ ン-1-オ ン,2-シ ク ロ ヘ キ セ ン-1-オ ンの 中の,いづ れ か の 環 構 造 を もつ てい る 過 塩 素化 物 で あ る.B-グ ル ープ はo-キ ノイ ド型 過 塩 素 化フェ ノ ー ル類 の 誘 導 体 で,ア ル コー ル類,ピ リジ ン塩 基 類,シ ク ロペ ン タジ エ ン との 反 応 に よ つ て合 成 表1A-グ ル ー プ 化 合 物 の 化 学 構 造 と そ の 性 状 − 過 塩 素 化 フ ェ ノ ー ル 類−
隈 元:過 塩 素 化 フ ェ ノ ー ル 類 お よ び そ の 誘 導 体 の 応 用 113 さ れ た.特 に,Diels-Alder反 応 に よ るo-キ ノ イ ド 型 過 塩 素 化 フ エ ノ ー ル 類 の シ ク ロ ペ ン タ ジ エ ン 付 加 物 は,現 在,殺 虫 剤 と し て 使 用 さ れ て い る ク ロ ル デ ン 系 化合 物 1)に 類 似 した 化学 構 造 を もつ て い る ことか ら, シ ク ロペ ン タ ジエ ン付 加 物 の各 種 誘 導 体 の 中 に は殺 虫 効 力 の特 にす ぐれ た 化 合 物 が見 出 され るの で は な いか 表2B-グ ル ー プ 化 合 物 の 化 学 構 造 と そ の 性 状 −O-キ ノ イ ド型 過 塩 素 化 フ ェ ノ ー ル 類 の 誘 導 体−
ll4 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第1号 と 予想 して,ハ ロゲ ン化,ク ロル ヒ ドリンエ ー テ ル 化,ク ロル ヒ ドリン エ ステ ル化 19)などの 反応 に よ つ て 合 成 した シ クロ ペ ン タ ジエ ン付 加 物 の 誘 導 体 も含 む. これ らの 供 試 化 合 物 の 化 学 構 造(推 定 構 造 式 を 含 む)お よび そ の性 状 を グル ー プ に分 けて,表1にA-グ ルー プ を,表2にB-けて,表1にA-グ ル ー プを 示 す. 2・2.殺 虫 効 力 試験 対 象 害 虫 は水 稲 害 虫 の 代 表 的 な もの と して,二 化 メ イ虫(越 冬 壮 令 幼 虫)を,厚 生 関係 害 虫 と して イ エ バ エ終 令 幼 虫 を使 用 して,殺 虫効 力 を試 験 した.供 試 化 合 物 は,す べ て 有 効 成 分5%の 乳 剤 に調 製 し,使 用 に 際 して適 当 な濃 度 に稀 釈 して試 験 に供 した. 2・2・1.殺 虫効 力 試 験 方 法 越 冬 二 化 メイ虫 壮 令 幼 虫 お よ び イ エバ エ終 令 幼 虫 に 対 す る致 死 効 力検 定 方 法 は 次 の通 りで あ る. 越 冬 二 化 メイ虫 壮 令 幼 虫 に対 す る致 死 効 力 検 定 方 法 :供 用 され た二 化 メ イ虫壮 令 幼 虫 の体 駆 は平 均52.5 mgの 個体 で,正 常 な 発 育 を とげ た個 体(70∼100mg) よ り,や や 小型 の もので あ る. まず,5%乳 剤 と して,あ らか じめ調 製 され たA, B,グ ル ープ の 供試 化 合 物 は,そ れ ぞ れ 水 で 稀 釈 し て,0.1%液 お よ び0.05%液 とす る.一 方,径7cmの 表3A,B-グ ル ー プ 化 合 物 の 二 化 メイ 虫,イ エ バ エ 幼 虫 に 対 す る 致 死 幼力 (註)*供 試 虫 数 は0.1%稀 釈 液 で は20匹,0.05%液 で は32匹 で あ る.
隈 元:過 塩 素 化 フ ェ ノ ー ル 類 お よ び そ の 誘 導 体 の 応 用 115 腰 高 シ ャ ー レ内 の 各 サ ンプ ル の 稀 釈 液 に1.5分 間 つ つ,二 化 メ イ虫 壮 令 幼 虫 を 浸 漬 して,水 洗 後,並 シャ ー レに 引 き上 げ て,長 さ約3cmの 葉 鞘8本 内に ひ そ ませ て,シ ャ ー レの 蓋 をす る.さ らに25℃ の 定 温 器 内 に放 置 して4日 後 に生 死 を 判 定 す る. イ エバ エ終 令幼 虫 に対 す る致 死 効 力 検 定 方 法:各 サ ン プ ルは,水 で 稀 釈 して 有 効 成 分0.01%液 お よ び 0.005%液 に調 製 す る.径9cmの 並 シ ャー レに,そ れ ぞれイ エバ エ終 令 幼 虫 を30匹づ つ 放 飼 に して,上 記 の 各 稀 釈 液 を3ccづ つ 滴下 して,継 続 浸 漬 させ る. 23℃ の定 温 器 内 に保 管 して,滴 下 処 理24時 間 後 に死 虫 を 調 査 す る. 2・2・2.残 虫 効 力試 験 結 果 供 試 化 合 物 の二 化 メ イ虫 壮 令幼 虫 お よび イエバ エ終 令 幼 虫 に対 す る致死 効 力 を死 虫 率 で あ らわ し,表3に ま とめ て 記載 す る. 3.結 果 お よび 考察 代 表 的 水稲 害 虫 で あ る二 化 メイ虫 に対 して,現 在多 用 され て い る有 機 燐 化 合 物(い わ ゆ るパ ラ チオ ン)を 有 効成 分 とす る ホ リ ドー ル乳 剤 の0.01%液 と 比 較 し て,供 試 化合 物(A,B,グ ル ー プ)の0.1%お よ び 0.05%稀 釈 液(5∼10倍 濃 度)で も,致 死 効 力 は き わ め て弱 く,期 待 す る殺 虫効 力 は認 め られ な い.ま た, 供 試 化 合 物 と 同 一 濃 度 の0.05%稀 釈 液 で 致死 効 力 を 試 験 したBHC乳 剤 の死 虫 率 が25%で あ るが,供 試 化 合 物 中で 最 も 効 力 の あ る(A-14)で も,死 虫率 15.6%で,二 化 メ イ虫 壮 令 幼 虫 に 対 す る殺 虫効 力 は, い つ れ の グ ル ー プの 化 合 物 も期待 で き な い. しか し,最 も一 般 的 な 殺 虫 効 力試 験 に供 され る イエ バ エ終 令 幼 虫 に 対 す る 致 死 効 力 は 見 る べ き もの が あ る.す な わ ち,A-グ ルー プ の過 塩素 化フェ ノー ル 類 は0・01%液(10,000倍 の 稀 釈 液)で,75%か ら100% 近 い死 虫率 を示 し,0.005%液 で は 死 虫 率 は 落 ち て, 30∼50%で あ る.A-グ ル ー プの 中で は,ト リク ロル -1,3,5-キ シ レ ノー ル が最 もす ぐれ て い る.ま た,過 塩 素 化 フ エ ノー ル類 は,いづ れ も大 同小 異 の致 死 効 力 を 示 し,構 造 に よ る致 死 効 力 の 差異 は 判然 と しな い. しか し,大 部 分 の 過 塩 素 化フェ ノー ル類 がBHC乳 剤,ク ロ ン(ペ ン タ ク ロルフェ ノ ー ルが 有 効 成 分)に ヒッ テ キす る効 力 を もつ て い る. B-グ ル ープ はo-キ ノイ ド型 過 塩 素 化フェ ノー ル類 の 誘 導 体 で あ る.(B-8),(B-9)は ピ リジ ニ ウ ム ・ ク ロ ラ イ ドで,殺 虫 効 力 は 期 待 で き な い が,(B-14), (B-15)の シ ク ロ ペ ン タ ジ エ ン 付 加 物 は 過 塩 素 化 フ ェ ノ ー ル 類 と 同 等 の 殺 虫 効力 を 示 して い る.(B-21)∼ (B-46)は シ ク ロ ペ ン タ ジ エ ン 付 加 物 の 誘 導 体 で あ る 。(B-14)を ハ ロ ゲ ン 化 した(B-21),(B-23)で は,か え つ て 殺 虫 効 力 は 低 下 して い る.ク ロ ル ヒ ド リ ン エ ー テ ル 化 し た(B-25),(B-26)で は,さ ら に 効 力 が 低 下 す る.し か し,ク ロ ル ド リ ン エ ス テ ル 化 反 応 に よ つ て,合 成 さ れ た(B-31)∼(B-46)の 中 に,特 に す ぐれ た 殺 虫 効 力 を 示 す 化 合 物 が 見 出 さ れ た.す な わ ち,シ ク ロ ペ ン タ ジ エ ン 付 加 物(B-14),(B-15) に 低 級 脂 肪 酸 を 溶 媒 に,t-ブ チ ル ハ イ ボ ク ロ ラ イ トを 反 応 させ る と,ク ロ ル ヒ ド リ ン エ ス テ ル 化 物 が え ら れ る.こ れ らの 化 合 物 の 中,モ ノ ク ロ ル 酢 酸,ト リク ロ ル 酢 酸 とt-ブ チ ル ハ イ ボ ク ロ ラ イ ト の 反 応 で 合 成 さ れ た(B-37),(B-38)お よ び(B-45),(B-46)は, 0.Ol%稀 釈 液 で100%近 い 死 虫 率 を 示 し,0.0O5%稀 釈 液 で も90%前 後 の 死 虫 率 で あ る.特 に,(B-37), (B-38),(B-45)な ど は,0.005%液 の 低 濃 度 で も 殺 虫 効 力 が 大 き い.そ の 他 の ク ロ ル ヒ ド リン エ ス テ ル 化 物 で は,脂 肪 酸 が 高 級 に な る に し た が つ て,殺 虫 効 力 は 低 下 す る が,(B-31),(B-39)で も 過 塩 化 フ ェ ノ ー ル 類 お よ びBHCと 同 等,あ る い は そ れ 以 上 の 殺 虫 効 力 を 示 して い る. 4.結 語 殺 虫 効 力 は,二 化 メ イ 虫(壮 令 幼 虫)に 対 して は, いづ れ の 化 合 物 も 大 した 効 力 は 認 め られ な い.し か し,イ エ バ エ 終 令 幼 虫 に 対 して は,す ぐれ た 効 力 を 有 す る 一 連 の 化 合 物 を 見 出 し た.す な わ ち,o-キ ノ イ ド 型 過 塩 素 化フェ ノ ー ル 類 の 誘 導 体 の 巾 で,シ ク ロ ペ ン タ ジ エ ン 付 加 物 お よ び そ の ク ロ ル ヒ ド リン エ ス テ ル 化 生 成 物 が す ぐれ て い る.特 に,次 式 のRがCH_2Clま た はCCl_3の も の は,0.01%液 で100%近 い 死 虫 率 を 示 し,0.005%液 で も90%程 度 の 死 虫 率 で,市 販 の BHC剤 以 上 の す ぐれ た 効 力 を もつ て い る . また,過 塩素 化フェ ノー ル類 もBHCに 匹敵 す る効 力 を 示 した.
116 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第1号 文 献 1)山 本 亮 監 修:新 農 薬 研 究 法 p.49(昭33) 2)隈 元:未 発 表(昭35.12.10,日 化 九 州 支 部 常 会 講 演) 3)隈 元,加 藤:工 化,60,1325∼8(1957) 4)隈 元:工 化,63,2168∼2170(1960) 5)隈 元:工 化,64,188∼191(1961) 6)隈 元:工 化 誌 投 稿 中(第6報),昭36.3受 理.