<論説>環境法における私法の役割(後篇)(2) : 集合的・公共的利益の実現に対する民法と行政法の相互補完の可能性
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(2) 相叩. 含まれるのか、という意味における民法学上の位置づけを明確にする必要がある。この点については、現在の議論に. おいても検討が加えられている。そこで、第二節において、この現在の議論における検討を踏まえて、民法的保護と. 加附. 行政法的保護の一致に関する議論の民法学上の位置づけを考察する。この民法学上の位置づけに関する考察を基礎と. して、本稿第二章第四節において導き出した民法学上の二つの問題に考察を加える。すなわち、第三節において、公. 法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによって私法上の権利が制限されるのはいかなる民. 法上の理論的根拠に基づくのか、という問題を考察する。続いて、第四節において、公法的規制の不遵守を私法上違. 法と日評価するという形で公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉える場合に、 いかなる民法理論に. 民法的保護と行政法的保護の一致の民法学上の位置づけ. 基づいて公法的規制を実現する主体として私人が認められるのか、という問題に考察を加える。. 第二節 一.問題の所在. 帥叫. 民法的保護と行政法的保護の一致の議論の民法上の位置づけに関しては、相隣関係と建築基準法の関係についての. 現在の議論においても検討されている。ここで、注目されるのが、これらの見解が、いずれも﹁市民社会﹂を基礎に. おいて、民法的保護と行政法的保護の一致に関する議論の民法上の位置づけを示している点である。そこで、以下で. は、民法学の対象となる﹁市民社会﹂に関係する最近の議論を検討することを通じて、民法的保護と行政法的保護の 一致に関する議論が民法学の対象領域に含まれるのか、という問題について考察を加える。. -184-. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(3) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). m w. 市民社会における基本的諸秩序を示す見解(広中俊雄教授の見解). 二.民法の規律対象となる﹁市民社会﹂に関する現在の議論 a E. 4EEi. ) , ,、 、 ‘. 1u. 、 その内容に基づいて﹁財貨帰属秩序﹂と﹁財貨移転秩序﹂に分ける。さらに、広中教授は、財貨獲得に関する. まず、広中教授は、個別主体への財貨の帰属及び帰属主体の意思に基づく財貨の移転という仕組みを﹁財貨秩序﹂ ﹂ ル 叫刊. 山川. 競争という仕組みを﹁競争秩序﹂とし、この﹁競争秩序﹂が﹁財貨秩序﹂に対して外郭秩序としての性質を持つとす. 。. 7G. 他方、個々の人聞が全て人格的利益の帰属主体として扱われる仕組みを、広中教授は﹁人格秩序﹂とする。さらに、. 広中教授は、人間の生命・身体(健康) の侵害にまでは至らないが環境の共同享受による生活上の利益が不当に害さ. 叫叫. れる場合などは、﹁人格秩序﹂ではなく、このような範囲における環境からの生活利益の享受の仕組みである﹁生活. m w. 利益秩序﹂が問題となるとする。この﹁生活利益秩序﹂は、﹁人格秩序﹂に要請される健康な生活の確保に加えて享. 抽岬. 受しうる利益に関係するという意味において、﹁人格秩序﹂に対し外郭秩序たる性格をもっとされる。 このほかに、広中教授は、権力の編制及び機能の総体を﹁権力秩序﹂としている。. 肌岬. 以上のような市民社会に存在する諸秩序を提示したうえで、広中教授は、まず民法典が、﹁財貨帰属秩序﹂及び﹁財. L. 及び﹁生活利益秩序﹂の分野は、民法典編纂時にはその規律対象として意識されなかったと考えられるが、判例. 貨移転秩序﹂並びに﹁人格秩序﹂の諸分野において民事裁判の実体法的基準を定めたものとする。さらに、﹁競争秩 序. ﹁広義の市民社会﹂と﹁狭義の市民社会﹂を示す見解(星野英一教授の見解). による法形成によって、今日では実質的意義における民法の範囲に取り込まれている、とする。. ( 2 ).
(4) 星野教授は、市民社会を﹁広義の市民社会﹂と﹁狭義の市民社会﹂に分けている。﹁広義の市民社会﹂とは、自律. 帥岬. して運行する経済社会と権力機構である国家の二元性を背景とし、国家から一応独立した自律的社会であり、経済社. 会を含むものである。他方、﹁狭義の市民社会﹂とは、﹁広義の市民社会﹂から経済社会の部分を除いたものである。. そして、この狭義の市民社会については、﹁資本主義経済社会の中でその弊害に対して自らを守る団体・活動をも含. 的岬. みつつ、 それに尽きない、 NPOなどの利他的・愛他的団体、さらに学会から趣味の集いにいたる仲間的団体をも含. む、広範な自発的団体とその活動をこのように呼﹂ぶとされている。そのうえで、星野教授は、﹁民法が前提としそ. の背景となっている社会は広義の市民社会である﹂ことを示したうえで、﹁民法とは自律した平等な人間相互の非権力. 的で自由な関係を規律する基本的な法だから、﹁狭義の市民社会﹄を規律する法律としてまさしくこれにぴったり適合 する﹂と述べる。 三つの﹁市民社会﹂概念を提示する見解(吉田克己教授の見解). 岬. 家的・非経済的な結合関係としての市民社会﹂ である﹁市民社会 7﹂が、 それぞれ掲げられている。. m w. として﹁政治共同体としての市民社会﹂である﹁市民社会3﹂が、 そしてその第三として﹁自由な意思に基づく非国. る。その第一として﹁ブルジョワ社会あるいは市場経済社会としての市民社会﹂である﹁市民社会 α﹂が、その第二. 仰. この構造変容を検討する前提として、吉田教授は、﹁市民社会﹂概念が次の三つの意味を含んでいることを指摘す. を析出するために、近代市民社会から現代市民社会への構造変容の特徴を検討している。. m. 役割を考え、 その役割を踏まえて、現代民法学の法的課題を整理する必要性を指摘する。そして、その各種の﹁場﹂. 仙抑. 吉田教授は、法が機能する、あるいは十分には機能しない各種の﹁場﹂を整理し、 それぞれの﹁場﹂における法の. ( 3 ). l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(5) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 以上の三つの﹁市民社会﹂概念のうち、経済社会としての﹁市民社会 α﹂は、相互に独立した主体が、対等平等な. ω. 立場で、商品交換を中心とする法的関係を取り結ぶ法的な社会であるとされる。そして、民法学が対象とすべき市民 間刷. 社会は、まず持って﹁市民社会 α﹂であると述べられる。しかし、民法学が対象とすべき市民社会はこの﹁市民社会. 側. α﹂に限定されるものではないとされ、とりわけ﹁市民社会 7﹂の重要性が、近代市民社会から現代市民社会への構 州側側. 造変容の中でますます顕著なものとなっていると指摘されている。. J. そして、このような意味での﹃シビル﹄. 以上のように、現在の議論においては、資本主義のもとでの市場経済社会としての﹁市民社会﹂だけでなく、自由. 三.民法的保護と行政法的保護の一致の民法上の位置づけ. を再生させることは民法学の重要な任務﹂であるとする。. 民に関わる)は﹃私﹄(古江芯 H他人の干渉を禁止した)とは異なるのである. 家﹂の領分も決められることになるとする。そのうえで、大村教授は、﹁以上のような意味で、﹃シビル﹄(の守口 H市. 川川. な活動において公私のバランスをいかに取るかは市民社会が決める事柄であり、そのなかで﹁私生活﹂の領域も﹁国. を﹁市民社会﹂と呼ぶことも可能だとする。そして、﹁私﹂の領域はアプリオリに存在するわけではなく、また、様々. 仰. のではないか、と指摘する。そして、市民相互の関係を調整するための規範を市民自身が創出するという関係の全体. 仰. 動のための団体などといった様々な団体を含めた市民活動の圏域を意味する﹁市民社会﹂を超える意味を含んでいる. 大村教授は、﹁市民社会﹂の語について、市場を意味する﹁市民社会﹂、または地域単位の団体や目的ごとの市民運. ﹁シビル﹂の再生を民法学の重要な任務とする見解(大村敦志教授の見解). ω.
(6) な意思に基づく非国家的・非経済的な結合関係としての﹁市民社会﹂も民法学の対象となる、とする見解が有力に主. 張されている。これらの見解のもとでは、﹁市民社会﹂において、商品交換(取引)に関する個別の主体聞の関係、. 又は人格的利益に関係する個別の主体聞の関係のみが民法学の対象とされるのではない。自由・平等な取引が可能と. なる経済環境、あるいは公害問題または土地問題などにおいて問題となる生活環境等といった個別の主体が共同享受. しうる集合的・公共的な利益に関しても民法学の対象とされる。そのため、このような市民社会の理解のもとでは、. 個々の主体聞の利害調整あるいは個々の主体に対する利益の帰属の保護のみではなく、個々の主体の利益と個々の主. 体が共同享受しうる集合的・公共的な利益との調整も、民法学が対象とする領域に含まれる。すなわち、このような 調整も実質的意義における民法の範囲に含まれると評価しえよう。. 調整の議論として、民法学上に位置づけることができるといえよう。. 188-. 一. ここで、行政法一的保護を行う公法的規制が集合的・公共的利益(﹁公益﹂) の実現を目的としていること、及び民法. 的保護と行政法的保護の一致に関して、本稿では、公法的規制と私法上の制度との実体法的な同質性によって、公法. 的規制における評価と私法上の制度に基づく評価の同質性を基礎づけたことが重要となる。すなわち、本稿で考察の. 対象としている民法的保護と行政法的保護の一致に関する議論は、集合的・公共的利益の実現をはかることを目的と. した公法的規制が私法上の制度と同質であると捉えられる場合に関する議論である。そのため、この議論は、個々の. 主体の利益と個々の主体が共同享受しうる集合的・公共的な利益との私法上の調整が問題となる議論と捉えられう O. 以上の検討から、民法的保護と行政法的保護の一致に関する議論は、集合的・公共的利益と個別の私人の利益との. る. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(7) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 時国知三枕即. 民法的保護と行政法的保護の一致による私権の制限を基礎"つける民法理論. 一.問題の所在. 本節においては、公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによって私法上の権利が制限. されるのは、 いかなる民法上の理論的根拠に基づくのか、という問題について考察を加える。. 本稿では、民法的保護と行政法的保護の一致に関する議論を、個々の主体の利益と個々の主体が共同享受しうる集. 合的な利益との調整と位置づけた。このことを基礎とすると、民法一条一項における﹁公共の福祉﹂概念を本節にお. ける考察対象とすることが考えられる。なぜなら、この民法一条一項は、専ら私権と社会一般の利益(公共の福祉). との調節を目的とする規定であるとの理解が通説的見解であるからである。そこで本節においては、民法一条一項の. ﹁公共の福祉﹂を、公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによる私法上の権利の制限の根 拠と捉える可能性について考察を加える。. 従来の通説的見解においては、この民法一条一項における﹁公共の福祉﹂は憲法上の公共の福祉の概念と同一視さ. れ、民法外在的な概念として捉えられてきた。さらに、民法一条一項における﹁公共の福祉﹂は社会全体の共通利益. を意味するとされてきた。しかし、本稿においては、公法的規制による評価と私法上の制度に基づく評価の同質性を、. 公法的規制と私法上の制度の実体法的な同質性によって基礎守つけた。そのため、民法的保護と行政法的保護の一致に. 関する議論においては、民法外在的な公法的規制による私法上の権利の制限を根拠づける理論構成ではなく、私法上. の制度と同質である公法的規制による制限、すなわち﹁私益の集合﹂という意味をもっ民法内在的な集合的・公共的. -189-.
(8) 利益によって私法上の権利が制限されることを根拠づける理論構成について考察を加える必要がある。この点に関し. て注目されるのは、現在、従来の﹁公共の福祉﹂概念を再検討したうえで、﹁公共の福祉﹂を民法内在的な概念とし. て捉えることが議論されていることである。そこで、以下ではこの議論の検討を通じて、上述した私法上の権利の制 限の民法理論上の根拠について考察を加えていく。. ﹁公共の福祉﹂が民法上の法理であるとする見解(広中俊雄教授の見解). 二.民法内在的な概念としての﹁公共の福祉﹂に関する議論 h a e ' '. ム 4EE. (,‘、. 広中教授は、民法の命題である民法一条一項の命題は、民法上の意味での﹁公共﹂が問題となる競争秩序及び生活 利益秩序における民法上の法理を表現した命題であるとする。. 具体的に広中教授は、まず、人格権としての身体的自由の刑罰等による制限、あるいは所有権という法的形態にお. ける財貨帰属の帰属主体の意思に反した公用収用、あるいは人格権としての名誉権に基づく差止請求権の憲法上の表. ω. 現の自由との関係における一定の制約などは、刑事法又は行政法又は憲法における﹁公共の福祉﹂の問題であり、民. 法上の﹁公共の福祉﹂の問題ではないとする。他方、所有権等の法的形態において個人に帰属している財貨の利用な. いし処分が、近隣ないし地域の住民の享受しうべき生活利益を害してはならないという要請、あるいは他の事業者な. いし一般消費者の享受しうべき競争利益を害してはならないという要請は、民法上の﹁公共の福祉﹂の問題となると. 開岬. される。すなわち、生活利益秩序においては地域住民による生活利益の共同享受という形で、競争秩序においては関. 係事業者ないし一般消費者による競争利益の共同享受という形で、 それぞれ民法上﹁公共﹂が問題となるとされる。. 190-. 一. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(9) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 以上のような理解を示したうえで、広中教授は、﹁生活利益の保護および競争利益の保護は、民法典においては欠歓 仰. ω. 領域に属﹂するとし、民法一条一項は﹁とりわけそれらの領域で欠歓補充のために機能する潜在的可能性を含んだ一 般条項であ﹂ ったとする。. 民法を﹁政治社会の基本法﹂と定義する見解(池田恒男教授の見解). 共の福祉﹄をいかに限定するかに腐心することにあるのではなく、財産権がいかなる内容の﹃公共の福祉﹄に領導さ. ならない﹂と主張する。この主張に基づいて、池田教授は、﹁:;:、今問われるべき問題は、財産権が領導される﹃公. 仰. の﹃公法﹄と同じく国家の存在理由そのものである公共秩序 H ﹃公序﹄の重要な構成部分であると考えられなければ. 提として、民事的財産権が人権を実現する手段またはその結果であると位置づけたうえで、﹁民事財産法もまたあまた. 共通基盤を見出すことができるとする。そして、池田教授は、﹁市民社会﹂における﹁公﹂と﹁私﹂の相互関係を前. 剛山脚. のとして捉えるならば、﹁公共の福祉﹂の﹁公共﹂も単に﹁官﹂という意味では捉えられないものとして﹁民﹂との. ここで、池田教授は、このような公法・私法峻別思想を基礎とするのではなく、﹁民﹂を﹁自然﹂に対置されたも. 世界に固有するものであると捉えられざるをえないとする。. ﹁公共の福祉﹂を外在的かつア・プリオリの﹁私権﹂制約原理とみなす思考が﹁私﹂法の外の世界、従って﹁公﹂の. され、かっこの両者が次元の異なる世界を支配するという﹁公法・私法峻別思想﹂という伝統的な思想のもとでは、. 池田教授は、支配従属関係によって媒介されている﹁公法﹂と対等な関係によって媒介されている﹁私法﹂が峻別. られ方について考察を加えている。. ω. 池田教授は、現行民法一条一項の立法過程を検討したうえで、従来の民法学説における﹁公共の福祉﹂概念の捉え. ( 2 ).
(10) Jミ. き か で あ しー. る. るω. と 述 < < O. 課題であるとも述べている。. 条一項の立法過程及び﹁公共の福祉﹂に関する学説の検討、権利濫用理論の客観的標識及びその根拠の検討、並びに. ωω. 祉﹂の特殊な性格及び内容の検討を深めるという問題意識を提示する。そして、この問題意識のもとに、現行民法一. 性質のものではないと指摘する。以上の二つの弊害への対処の方向を見出すために、宗博士は、民法上の﹁公共の福. ω. ける市民の安全や利益に関わるパブリックは、私的利益の調整の際に単に﹁公的介入﹂としてその考慮を排斥すべき. 向が生じる。しかし、宗博士は、現代社会において、不特定多数の市民が自由に接近する﹁公共圏﹂・公的領域にお. 仰. 数の市民に関わる利益が﹁公法﹂上のものと扱われ、﹁公的介入﹂であるという理由でその考慮を排斥・否定する傾. るものが全て単純な私人対私人の関係と理解されることである。この結果として、特定多数の市民あるいは不特定多. という考え方を媒介として、﹁公共の福祉﹂に企業の利益が包摂されたことである。第二の弊害は、民法で調整され. m刷. るとする。その第一の弊害は、﹁公共の福祉﹂が国家・公共的な利益と理解されるために、国家の経済発展への寄与. 仰. 宗博士は、民法一条一項の﹁公共の福祉﹂概念が民法外在的に捉えられていることから次の二つの弊害が生じてい. ﹁公共の福祉﹂に市民的公共性の性格を与える見解(宗建明博士の見解). m刷. いう概念について、﹁公共社会 H市民社会﹂としての政治社会を貫く﹁公序﹂との関係性において理解を深めるべき. すれば、民法は最も簡潔には﹃政治社会の基本法﹄と定義すべきであ﹂るとし、民法一条一項における公共の福祉と. 州附. 社会(﹁市民社会﹄)を措定し、前者の人間関係を規律する﹃自然法﹄の対語として観念された。そのような見地から. さらに、池田教授は、﹁民法は、元来近代法における用法としては、﹃自然﹄状態に対する﹃文明﹄状態にある政治. れ る. ( 3 ). l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(11) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 州制. 借地関係調整における﹁有効利用﹂概念の検討が行われ、民法一条一項における﹁公共の福祉﹂概念について次のよ うな結論が示される。. まず、私権の絶対性を修正し、私権の社会性を宣言するという意味を持つ﹁公共の福祉﹂条項は、私権制限条項と. して必須な条項であるとされる。そして、民法上の﹁公共の福祉﹂概念が民法に内在しているとの理解を示したうえ 川刷. 仰. で、民法上の﹁公共の福祉﹂は、国家の公共性問題に関わる公法上・憲法上の﹁公共の福祉﹂と異なり、民法の調整. ω. 対象として市民に関わる公共性であるとする。すなわち、宗博士は、単に私人間の利益だけでなく、私人の利益とそ. の私人が属する共同生活・集団生活などパブリックとの聞の利益関係も、民法において調整されるべきとする。した. がって、民法において調整されるべき分野には、従来の私人間の利益関係のほか、私人と特定多数又は不特定多数の. 人々に関わる利益関係も含まれるとされる。そして、宗博士は、このような分野において、﹁公共の福祉﹂原理が市 川刷仰. 民に関わるパブリックな利益、 つまり市民的公共性の保護という機能を果たすと述べる。. 三.民法的保護と行政法的保護の一致による私権の制限を基礎づける民法理論 民法内在的な﹁公共の福祉﹂に関する議論のまとめ. において検討したように、現在、民法一条一項における﹁公共の福祉﹂が民法内在的な概念として捉える. いる。ただし、﹁公共の福祉﹂概念の理解の基礎となる国家と市民社会との関係についてはそれぞれの論者によって理. 刑法などにおいて規律されている民法外在的な﹁公共の福祉﹂とは別に、民法内在的な﹁公共の福祉﹂が観念されて. ことが主張されている。これらの主張では、公共的利益による私法上の権利の制限を根拠づけるために憲法、行政法、. 本(1) 節.
(12) 削刷. 解が異なる。広中教授は、市民社会に成立する諸秩序の一つとしての﹁権力秩序﹂が、それ自体として実質的な民法 側. の範囲に入らないことを明示している。池田教授は人々の設立した政治社会こそ﹁市民社会﹂であり、民法はその政. において検討した議論では、民法一条一項における﹁公共の福祉﹂を民法内在的に捉える. 治社会の基本法と位置づけられるとする。そして、宗博士は、吉田克己教授の﹁市民社会﹂論を基礎とした﹁公﹂と 出刷. ﹁私﹂の関係を示している。 以上のように、本節. という点については共通している。このことから、本節二. において検討した議論は、民法一条一項における﹁公共. -194-. の福祉﹂のもとで、私人の利益と、民法の規律のもとで共同享受されうる集合的・公共的利益との関係が、民法にお. ける調整の対象となるという点に関して一致していると解しえよう。しかし、 それぞれの見解の基礎となる﹁市民社. m w. 会﹂の理解は異なっている。この﹁市民社会﹂の理解の違いは、民法内在的な﹁公共の福祉﹂の適用範囲の違いと なって現れると考えられる。. 民法内在的な﹁公共の福祉﹂と私権の制限. それでは、個別具体的な事例において、 いかなる場合に民法一条一項における﹁公共の福祉﹂に基づいた私法上の. ることによる私法上の権利の制限を基礎づける民法上の理論的根拠となる可能性が認められよう。. として捉えた民法一条一項における﹁公共の福祉﹂が、公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉え. して、私法上の権利が民法上の集合的・公共的利益によって制限される可能性がある。すなわち、民法内在的な概念. 福祉﹂概念が、個々の私益と民法上の集合的・公共的利益とを調整する概念として捉えられうる。この調整の結果と. 前述. ω で検討したように、﹁公共の福祉﹂を民法内在的に捉える議論に基づけば、民法一条一項における﹁公共の. ( 2 ). l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(13) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 権利の制限が肯定されるのであろうか。このような制限を肯定するための条件を導き出すにあたっては、次の二つの. 問題を明らかにする必要がある。その第一は、 いかなる利益が民法の規律の対象となる集合的・公共的利益と捉えら. れうるのか、という問題である。第二は、 そのような民法の規律の対象となる集合的・公共的利益と私人の利益との. ω において民法の規律の対象としうる集合 それぞれ考察を加える。. 調整はいかなる基準のもとに行われるのか、という問題である。以下では. ω において、調整の基準について、. 的・公共的利益について、 民法の規律の対象となる集合的・公共的利益. の条件としていると見ることができる。. いう意味において二重性を帯びていること、をそれぞれ外郭秩序における公共的利益の維持の民事訴訟を通じた実現. る公共的利益が外郭秩序の領域に含まれること、及び問題となる公共的利益が個々の市民にも割り当てられていると. 割り当てられた利益に着目することによって積極的に根拠づけられている点である。すなわち吉田教授は、問題とな. 附州側. ここで注目されるのは、外郭秩序における公共的利益の維持の民事訴訟を通じた実現が、その秩序のもとで市民に. のうえで、吉田教授は、この形での外郭秩序の維持が民事訴訟を通じて実現されうるとする。. 仰. り当てる私的利益の維持が目指されるが、それが市民を主体とする外郭秩序の維持に結びつくことになるとする。そ. オーバーラップし、二重性を帯びたものとして現れるとする。そして、直接的には外郭秩序によって個々の市民に割. ω. として、外郭秩序の領域では、公共的利益(市民の総体)と私的・個別的利益とが、分離・対立したものではなく、. とに区別している吉田克己教授の見解が注目される。吉田教授は、広中教授の市民社会における諸秩序の理解を基礎. 仰. 民法の規律の対象となる集合的・公共的利益については、集合的・公共的利益を国家的利益と市民総体の共同利益. ( 3 ).
(14) そこで、この吉田教授の見解に基づけば、問題となる集合的・公共的利益を民法の規律対象と認めるための条件と. して、次の二つの条件を示しうる。まず、当該集合的・公共的利益の性質が、外郭秩序における利益として民法学の 刑判. 対象領域に含まれうる性質であることが条件となる。これに加えて、当該集合的・公共的利益から一定の市民に対し. て個別に利益が割り当てられている、という意味において市民個人の私的利益の個別性が維持されていることも条件. 集合的・公共的利益と個々の主体の利益の調整の基準ーーー比例原則を基礎として. となる。. ω. 集合的・公共的利益と個々の主体の利益の調整と比例原則. た法原則であるとされる。しかし、現在では、この比例原則の適用領域が警察法領域に限定されず、規制行政に適用. 州側. 発展したとされる。日本において、比例原則は、このドイツの議論をャつけて、撃一日察法の領域を適用領域として発展し. ω. 比例原則は、もともとプロイセンの警察法領域において、裁量権の行使を客観的に制約する条理法上の原則として. J. 、、.,, (hU 国家機関と比例原則. 原則に基づく調整という視点から、民法上の集合的・公共的利益と個々の私益の調整の基準について考察を加える。. 政による私人の自由及び財産の制限に関する基準としては、﹁比例原則﹂が用いられている。そこで以下では、比例. ω. 機関たる行政によって制限される場合との類似性を指摘することができる。このような公法的規制の実現における行. によって制限される、という構図が見出される。この構図は、公法的規制の実現のために私人の自由及び財産が国家. れることが重要となる。すなわち、ここでは、集合的・公共的利益の実現のために私人の利益が国家機関たる裁判所. 民法上の集合的・公共的利益と個々の私益の調整の基準については、この調整が国家機関たる裁判所によって行わ. ( a ). 1号 第5 2巻第 近畿大学法学. -196-. 」一一一.
(15) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). てに. いつ る仰し、. て O. m w. ほぼ異論がないとされる。さらに、行政が主体となる作用のみならず立法作用への適用可能性. ω において、この行政法における比例原則の内容を前提. 場合の民法上の集合的・公共的利益と個々の私益の調整の基準について考察を加える。 行政法における比例原則の概要. 合性の原則﹂、﹁必要性の原則﹂、 そして﹁均衡性の原則(狭義の比例原則)﹂という三つの部分原則からなる。. m刷. 行政法学において、比例原則は基本的に﹁目的と手段﹂の関係を問うものであるとされる。この比例原則は、﹁適. ω. として、公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによって私法上の権利の制限がなされる. まず行政法学における比例原則の内容を概観する。そして、. m w. そこで以下では、比例原則が行政法学において発展し他領域への適用されているものであることから、例において、. 要もあるとされている。. m刷. な領域でどのように比例原則が適用されるかが重要であることが指摘されており、また適用場面を分けて考察する必. なる。ただし、比例原則が国家機関に対して適用されるとしても、憲法条項の内容が概括的であるために、どのよう. 仰. 原則は適用されることになる。すなわち、すべての民事訴訟において裁判所は比例原則の適用を受けるということと. に対しても適用される原則であると捉えられる。このため、憲法の制約に服する国家機関たる裁判所についても比例. ば、比例原則が行政のみを対象とする原則ではないことが導かれる。このことから、比例原則は行政以外の国家機関. 側. がその根拠となるとする見解が有力に主張されている。そして、憲法一三条に比例原則の根拠をおく見解に基づけ. 川刷. このように広範な適用の可能性が示されている比例原則については、憲法一三条後段の﹁人権の最大限の尊重原理﹂. もが 指及 摘ぶ さこ れと. ( c ).
(16) ﹁適合性の原則﹂とは、問題となる手段が、目的の実現を達成するのに適したものであることを要請するものであ マ hv. 仰 。. m w. ﹁必要性の原則﹂とは、問題となる手段が、目的の達成のために必要最小限度であることを要請するものである。. 間叩. ﹁均衡性の原則(狭義の比例原則)﹂とは、第一に、問題となる手段と達成される目的との聞に均衡性(相当性)を. 要請するものである。ここでは、処分事由(違反に対して処分が行われる場合には違反の程度)と処分の重さの釣り 仰. 叩叩. 合いが問題となる。さらに、第二に、その手段によってもた=りされる結果が、その結果を受ける相手方にとってあま. 仰. りにも厳しいものとならないことも同時に求められる。これは、達成しようとした目的(得ょうとした利益)と失わ. れる相手方の利益を秤にかけ、失われる利益が大きすぎではならないということを意味しているとされる。. ω. 以上のような内容を持つ比例原則は、あるべき措置を示すものではなく、不適切な措置を排除するものであると捉 えられている。 民法上の集合的・公共的利益と個々の私益の調整における比例原則の特色. に基づいて適用されうる規範が、比例原則の適用される﹁目的に対する手段﹂と解されることになる。本節における. 仰. 規範の要件を充足するならば、当該規範を適用することができる。そのため、民事訴訟においては、確定された事実. いて決定される。すなわち、民事訴訟において、裁判所は、判決の基礎をなす事実を確定し、その事実が実体法上の. 川刷. 否は、 その権利義務を発生・消滅・変更させるものとして実体法が規定する要件に該当する事実の存否の判断に基づ. 合、比例原則の適用における﹁目的﹂と﹁手段﹂は次のように解される。民事訴訟において主張される権利義務の存. 国家機関たる裁判所による民法上の集合的・公共的利益と私人の利益の調整を通じて私法上の権利が制限される場. ( d ). I号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(17) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 考察対象は、民法的保護と行政法的保護の一致に関して、公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉. えることによる私法上の権利の制限の根拠としての民法一条一項の﹁公共の福祉﹂である。そこで、民法一条一項の. ﹁公共の福祉﹂に基づいて民法上の集合的・公共的利益と私人の利益の調整を通じた私法上の権利の制限がなされる. 場合、﹁公法的規制による制限の実現﹂を目的として、﹁公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉え. ることによる私法上の権利の制限﹂を手段として、比例原則を基準とした判断が行われることになる。. そして、このように民事訴訟において比例原則を基準とした判断を行う場合、比例原則の三つの部分原則のうち、 ﹁必要性の原則﹂及び﹁均衡性の原則﹂について、次のような注意が必要となる。. ω において検討したように、問題となる手段が目的の達成のために必要最小限度. まず、﹁必要性の原則﹂は、前述. 側. であることを要請するものである。しかし、ここで注意しなければならないのは、行政法学において比例原則の主な. 役割が行政裁量の行使の規律であるとされていることである。そして、行政法学において、﹁問題となる手段が目的の. 仰. 達成のために必要最小限度である﹂ということは、目的を達成するために複数の手段が考えられるときに、その手段. のなかで相手方にとって最も規制的でない手段を選択すべきである、という考え方を意味しているとされる。すなわ. ち、行政法学において、﹁必要性の原則﹂は、目的達成のための手段が複数存在し、かつそれを行政庁の権限で選択 仰. することが認められている場合を前提としているといえよう。. このような行政法学における﹁必要性の原則﹂の理解をふまえると、公法的規制における評価を私法上の制度に基. づく評価と捉える場合の私法上の権利の制限に関する﹁必要性の原則﹂は次のように解されることになろう。すなわ. ち、民事裁判において﹁公法的規制による制限の実現﹂を目的として、﹁公法的規制における評価を私法上の制度に.
(18) 基づく評価と捉えることによる私法上の権利の制限﹂という手段が裁判所によって適用されるときの﹁必要性の原則﹂. は、当該訴訟において確定された事実に基づいて適用しうる他の規範が存在している場合に、その規範との比較にお. いて、﹁公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによる私法上の権利の制限﹂がより規制的. 川刷. でないことを要請している、と解される。逆にいえば、適用しうる他の規範が存在していない場合、この必要性の原. 則を適用する前提条件を欠くことになるので、﹁必要性の原則﹂の基準による判断はなされない。. 他方、﹁均衡性の原則﹂の内容の第一として、問題となる手段と達成される目的との聞に均衡性(相当性)が要請 m w. されるという内容が示されている。行政法上、この内容については、処分事由(違反に対して処分が行われる場合に. は違反の程度)と処分の重さの釣り合いが問題となるとされている。そして、行政法学において、この﹁均衡性の原. 川岬. 則﹂の第一の内容の適用例としては、免職、停職、減給又は戒告の四種を規定している国家公務員法八二条による懲. 戒処分に関する最高裁判決が挙げられている。すなわち、ここでいう処分の重さとは、処分自体の厳しさに差のつけ. られていることが前提となっている。しかし、私法上の制度の適用に際しては、このような﹁処分の重さ﹂を観念す. ることはできない。そのため、民法上の集合的・公共的利益と個々の私益の調整においては、この﹁均衡性の原則﹂ の第一の内容による判断はなされないと解される。 民法上の集合的・公共的利益と私人の利益の調整基準としての比例原則. な基準を内容とする比例原則に基づいた審査が必要となると結論づけられる。. 裁判所が民法上の集合的・公共的利益と私人の利益の調整を通じて私法上の権利を制限する場合、次のような具体的. 以上の検討をふまえて、公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによって国家機関たる. ( e ). l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(19) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). まず、﹁適合性の原則﹂に基づいて、﹁公法的規制による評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによる私法. 上の権利の制限﹂という手段によって、 その対象となる﹁公法的規制の実現﹂という目的を実現しうることが求めら れる。. 続いて、もし、確定された事実に基づいて当該民事訴訟において適用されうる他の規範が存在しているならば、﹁必. 要性の原則﹂に基づいて、 その規範との比較において﹁公法的規制による評価を私法上の制度に基づく評価と捉える. ことによる私法上の権利の制限﹂という手段がより規制的でない手段である必要がある。ただし、適用しうる他の規 範が存在しない場合には、この﹁必要性の原則﹂に基づく判断は行われない。. さらに、﹁均衡性の原則﹂に基づいて、﹁公法的規制による評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによる私. 法上の権利の制限﹂という手段によって生じる結果が、私法上の権利を制限される当事者にとって著しく厳しいもの. でないことが求められる。具体的には、公法的規制の規律の目的となる利益と私法上の権利を制限される当事者の失 う利益との衡量のもとで、当事者の失う利益が大きすぎてはならない。. 以上の内容を満たさない場合には、﹁公法的規制による評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによる私法 上の権利の制限﹂は認められないことになる。. 四.まとめ. 公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによる私法上の権利の制限は、民法一条一項の. ﹁公共の福祉﹂によって根拠づけられる。具体的な事例において、公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評. -201-.
(20) 価と捉えることによる私法上の権利の制限を肯定するためには、次の条件を満たしている必要がある。まず、当該集. 側. 合的・公共的利益の性質が、外郭秩序における利益として民法学の対象領域に含まれうる性質でなければならない。. 例に示した内容を持つ比例原則. 続いて、当該集合的・公共的利益から一定の市民に対して個別に利益が割り当てられている、という意味において市 川柳. ω .. 民個人の私的利益の個別性が維持されていることが必要となる。そして、本節三 w 川. 公法的規制の実現主体としての私人を基礎“つける民法理論. による審査も必要となる。. 第四節. 本節の考察対象となりうる公法的規制. 一.問題の所在 、 ‘. ' ' ' ' ' a B. ム 4EE. 、 、 ‘ ‘ 白 目 , , , ,. 本節においては、公法的規制の不遵守を私法上違法と評価する場合に、 いかなる民法上の理論構成のもとで、公法 的規制を実現する主体として私人が認められるのか、という問題について考察を加える。. 公法的規制の不遵守を私法上違法と評価することに関する議論においては、本節の考察対象である問題に加えて、. ω. 公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉えることによる私法上の権利の制限を基礎守つける民法理論. も示される必要がある。この点については、第三章において考察したように、二つの要件(﹁私益の集合としての公益﹂. を対象とすること、私法上の制度と同一の利害調整を対象とすること)が満たされれば、公法的規制における評価を. 私法上の制度に基づく評価と同質と捉えることができる。さらに、本章第三節において示したように、民法内在的な. 概念として捉えた民法一条一項における﹁公共の福祉﹂を根拠として、公法的規制における評価を私法上の制度に基. 202-. 一. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(21) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). づく評価と捉えることによる私法上の権利の制限が基礎づけられる。すなわち、本節における考察で対象としうる公. 法的規制は、私法上の制度と同質と捉えられ、かつ民法一条一項の﹁公共の福祉﹂概念を根拠として私法的制限と捉 えられうる公法的規制となる。 本節における考察の方法ーーー環境法に関する議論との比較. 川柳. ω の検討からも示されるように、本節で対象としうる公法的規制の規律対象は民法上の集合的・公共的利益と. 前述. 同質であることが求められる。ここで、集合的。公共的利益の実現主体としての私人に関係のある民法学上の議論と. しては、私法上の権利としての環境権に関する議論が想起される。そこで、以下では、私法上の権利としての環境権. に関する議論を検討し、その議論の内容と本稿の考察対象との比較を通じて、ここで必要とされる理論構成の可能性 仰. において、私法上の権利としての環境権に関する最近の議論を検討する。そ. を探りたい。以下本節二. に お い て 、 従 来 の 議 論 に お い て 私 法 上 の 権 利 と し て の 環 境 権 を 提 唱 す る 見 解 と そ れ に 対 す る批判に検討を加える。そして本節. のうえで、本節四. に お い て 、 公 法 的 規 制 に お け る 評 価 を 私 法 上 の 制 度 に 基 づ く 評 価 と 捉 え る 場 合 に 、 公 法 的 規 制 を 実現する主体として私人を認めることを基礎づける理論構成について考察を加える。. 二.私法上の権利としての環境権に関する従来の議論. ω. 大阪弁護士会環境権研究会によって初めて提唱された環境権は、﹁国民が良き生活環境を享受し、かっこれを支配し. うる権利﹂であり、支配権として排他的性格が備わっているとされる。さらに、各人の環境権は自己と関係のある環 側. 境全体に及ぶとされる。そのため、環境権に基づいて、具体的な被害が何人に生じているかに関わりなく、良き環境. -203-. ( 2 ).
(22) を維持するのに必要な環境素材の機能を阻害する一切の行為に対して損害賠償およびその行為の差止を求めることが 仰. できるとされる。. ωω. 以上のような大阪弁護士会環境権研究会によって提唱された環境権は、立法及び行政に大きな影響を与え、また私. 法学においても一定の影響を及ぼしたとされる。しかし、右に述べた内容を持つ環境権を直接認める裁判例はなく、 川柳川柳. また、学説においても多数説とは言い難いとされる。この理由としては、次に示す点が挙げられている。. まず、環境権がその法的根拠としている憲法二五条、同一三条は、綱領的、プログラム的規定であって、同条から. ω. 直接に具体的な請求権が生じるわけではないことが挙げられる。. また、環境権の各個人の権利の対象となる環境の範囲(環境を構成する内容の範囲及び地域的な範囲)が漠然とし. 側. ており、差止を求めうる侵害の程度が明確でなく、さらには権利者の範囲も限定しがたいことが示される。. そして、環境権に具体的な被害が発生する前に侵害を食い止め、または個々の法益を越えて環境破壊を阻止する役. 割を持たせようとするのであれば、 それは私法的救済の域を出て、実定法上の根拠を必要とすることも指摘される。. 川柳. さらに、大阪弁護士会環境権研究会の提唱した環境権の重要な問題点として、原告の個別的利益と解することの困. 難な﹁環境利益﹂を私権として捉える点で、伝統的な権利の観念から著しく一帯離していることも挙げられている。. 三私法上の権利としての環境権に関する最近の議論. 以上本節二. で検討したように、大阪弁護士会環境権研究会の提唱した私法上の権利としての環境権は、私法上の. 権利として承認されるにいたっていない。しかし、近年、本節二. で 示 し た 私 法 上 の 権 利 と し て の 環 境 権 に 対 す る 批. -204-. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(23) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 環境権を﹁環境の共同利用権﹂と捉える見解(中山充教授の見解). 側. 判を踏まえたうえで、環境権を私法的に構成する見解が主張されている。. ) 、 ‘ ・. tE. 4EEム. , ,. 中山教授は、私法上の権利としての環境権の最も積極的な意義が、人格権や所有権等の古典的権利によって保護で. 細川. きない環境利益の保護にあるとする。そして、この積極的意義を確保するために、環境権をそれらの権利と明確に区. 別した権利として構成すべきと主張する。そのうえで、古典的権利と異なる環境権の構成に関して、中山教授は、住. ω. 民各人による環境の利用が正当と認められること、及びその利用を維持し保護するために一定の規律が存在し、他の. 多数の人々と共同で一定の利益を享受できること、を環境の特質として指摘する。このことから、環境権の第一次的. な権能は、環境を他の人々と共同で利用できることにあるとする。そして、中山教授は、環境権を﹁他の多数の人々. による同一の利用と共存できる内容を持って、かつ共存できる方法で、各個人が特定の環境を利用することができる 権利﹂と定義すべきであるとする。. このような環境権の定義のもとで、中山教授は、自然人なら誰もが環境権の主体となりうるとする。しかし、権利. の具体的な内容や関係権利者の範囲が明確になるように、環境権の客体は特定のものでなければならないとする。環. 境権の内容たる環境利用の具体的な内容と方法は、その環境について存在しているその多数の権利者のうち大多数の. 意思に基づいて定まるとする。さらに環境権の内容の変更は、立法及び行政手続によるのが適当であるとする。そし. て、中山教授は、以上のような環境権の内容たる利用が妨害されたか、または妨害されるおそれのある場合には、人. 格権又は物権の侵害の場合と同じように、環境権者は環境権の侵害を理由にして、侵害者に対して妨害の排除又は予 防を請求しうると主張する。. -205-.
(24) 環境権への手続的アプローチ(淡路剛久教授の見解). 淡路教授は、個人的な権利・法益の侵害ではなく環境保全への要求が社会に存在すること、及び環境権訴訟には民. 事差止訴訟モデルで争わなければならないという問題のあることを指摘し、環境権訴訟の立法論としての制度化を主. 削W. 張すると同時に、解釈論として環境権訴訟を新たに導入することを主張している。. 淡路教授は、この解釈論における環境権訴訟について次の二点を提案している。その第一は、環境権を主張して裁. 判所による権利救済を受けるためには、自己が何らかの法益侵害を受けたこと、あるいは受ける可能性を主張・立証. する必要があるが、このことを裁判所の利用のための要件(資格)として広く捉える、というものである。 その信用二. は、地域住民の同意を求める手続の適切な実施が差止の認否の判断において最近の判例・学説が重視していることを. 指摘したうえで、これを環境権の手続面における保護と捉える(環境権の手続的アプローチ)、というものである。. ω. 以上の提案を基礎において、淡路教授は、環境権の客体の範囲、環境権の主体、及び環境権侵害の基準の問題が主. に検討されるべきであるとして、旦(体的な対象を自然保護のケ!スにおいて、検討を進めている。まず、淡路教授は、. 環境権の主体は、裁判所を利用する資格であり、客体としての環境に対して何らかの法的に保護されるべき利益を. 持っていたことを主張・立証しうる者と解すべきであると主張する。他方、淡路教授は、自然保護のケ l スにおいて、. 環境権の侵害として差止を求めうる実体的な環境破壊の程度を基準化することは困難であるとする。しかし、環境権. の手続的アプローチによれば、その手続に違法がなかったかを司法審査の対象としうると述べる。 環境権を生活利益秩序に関する参加権とする見解(吉田克己教授の見解). 吉田(克)教授は、公共的秩序維持の責任を負う公共団体が市民の利益を擁護するために期待された任務を果たし. -206-. ( 2 ) ( 3 ). 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(25) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). てないこと、及び市民総体の利益に関わっている﹁生活利益秩序﹂の維持から個々の市民も一定の利益を享受してい. ω. ること、をそれぞれ理由として、民事訴訟の提起による市民の環境への関わりを正当化する。そして、このような﹁生. 活利益秩序﹂の維持のための民事訴訟は、伝統的な民事訴訟との比較において、次の二つの特徴をもっとする。その 仰. 第一が、この訴訟では環境からの生活利益の享受が問題とされ、﹁人格秩序﹂で問題になるような帰属は問題となら. ないために、古典的・排他的な﹁権利﹂を語ることが難しいことである。第二として、このような民事訴訟の提起は. 州側. 第一義的には私的利益の擁護を目指すものであるが、同時に、単なる私的利益の擁護にとどまらず公共的利益(市民. 総体の利益)の擁護をも目指すという性格を持つことが挙げられる。そして、現代民法学において、このような伝統. 的な近代法パラダイムの想定していない事態をどのように理論的に受け止めるかが問題となると指摘される。. ω. 以上のような問題認識のもとで、吉田(克)教授は私法上の権利としての環境権について検討を加える。吉田(克). ω. 教授は、環境権論にとっての課題は、環境権が市民法的権利とは性質の異なる権利であることを明確にし、その性質. にふさわしい独自の構成を加えることであるとする。ここで、生活利益秩序は市民総体の利益に関わるという公共的. ω. 性格とともに、個別の市民に対して環境利益の享受を可能にするという性格も持つことから、ある環境について、個. 別の市民に対する環境利益が割り当てられる市民の範囲は無限定的とはならないことを指摘する。そして、民事訴訟. ω. を通じて環境破壊行為の停止という公共的利益の実現に関与すべき市民は、その様にして環境利益を割り当てられて. いる市民に限定することが望ましいと述べる。そのうえで、吉田(克)教授は、﹁そのような秩序維持、さらには秩. 序内容の形成に関する市民の参加を内容とする権利として環境権を位置づけることは、可能であり、かっ、有益であ﹂ 仰. ると主張する。. -207-.
(26) そして、吉田(克)教授は、このような公共的利益の実現をはかる民事訴訟は﹁政策志向型訴訟﹂になるとする。 側. そして、この﹁政策志向型訴訟﹂を、立法における政策形成あるいは議会(市民)による行政のコントロールの代替. ω. 手段と位置づける。そのうえで、吉田(克)教授は、﹁解釈論の次元でも、:::、行政規制のあり方との相関関係に おいて民事訴訟における差止の内容を提示していくことが要請され﹂ると述べる。. ω. 環境権の公益的側面を指摘する見解(吉田邦彦教授の見解). 吉田(邦)教授は、﹁これまで必ずしも詰められているとは思われない﹂環境法学の基礎理論について、﹁環境権﹂ と﹁所有理論﹂という二つの軸を提示して分析を行っている。. 吉田(邦)教授は、従来の環境権に関する議論の主たる争点が利益衡量の可否であったとし、その反面で﹁環境権﹂. を説くことの本来の意義ないしは権利の性格があまり深められていないと指摘する。そして、大阪弁護士会環境権研. ω. 究会によって提唱された環境権の議論において、個人的被害を越える生態系の変化及び総量的被害評価を基礎とした. 早い段階の差止が主張されたこと、環境全体の価値に着目されたこと、他人の被害に基づいた差止請求も主張された. 州問. こと、及び原告適格に関する立法の必要性が説かれたこと、をそれぞれ指摘し、このような環境権の側面はもっと強 調されてよいとする。. そのうえで、環境保全のための立法的・行政法的規制がはかぽかしくないわが国において、行政の機能不全の構造 川明. に批判を投ずるとともに、司法の積極的役割についても再考すべき時期にあると述べる。そして、従来環境権として. 州側. 説かれていた権利は、個人主義的権利の延長線上で理解されていたために、環境権の存在意義が薄れていたという認. 識を示したうえで、当初の﹁環境権﹂の主張内容には、個人権的把握では捉え切れない、集合的・共同体的、その意. -208-. ( 4 ). 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(27) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 味で公共的利益(公益的側面)が含まれていると捉えるべきであると主張する。. 私法上の権利としての環境権に関する現在の議論のまとめ. 四.集合的・公共的利益の実現主体としての私人を認める理論構成 J. 、、,,4Ei. (. ω. 私法上の権利として従来の議論において提唱された環境権は、支配権として排他的性格が備わっているとされ、自. 己と関係のある環境全体に及ぶとされていた。そのため、旦(体的な被害の有無に関わらず、環境権に基づいて良き環. 境の維持のために差止を求めることができるとされていた。このような環境権については、環境権の対象となる環境. の範囲、差止を求めうる侵害の程度、権利者の範囲がそれぞれ明確でないこと、及び原告の個別的利益と解すること. の困難な﹁環境利益﹂を私法上の権利として捉える点で伝統的な権利の観念から著しく事離していること等を理由と して批判され、私法上の権利として承認されるにいたっていない。. これに対して、最近の議論においては、環境権の保護の対象が個別の私的利益ではなく集合的・公共的利益として. 川明. の環境利益であることが明確に示され、さらに環境権が古典的な排他的支配権とは異なる構成を持つ権利であること. 側. が主張されている。また、この環境権の主体として認められるには、問題となっている環境権の客体としての環境に. ついて、何らかの法的に保護されるべき利益を持っていることが求められている。他方、環境権に基づいた差止請求. m w. がいかなる場合に認められるかという点に関しては、 それぞれの見解において、 それぞれ異なる内容の主張がなされ ている。. 以上のような私法上の権利としての環境権に関する最近の議論については、次の三つの点をその特徴として掲げる. -209-.
(28) ことができる。. 第一が、私法上の権利としての環境権は、集合的・公共的利益としての環境利益を対象とするという点において、. 古典的な私法上の権利と異なる内容を備えている権利として捉えることが主張されていることである。. 第二が、私人を環境利益の実現主体として認めることが、環境権の内容として示されていることである。さらに、. 一定の場合には従来の権利と. このように環境利益の実現主体となる私人の条件として、当該環境利益について、何らかの法的に保護されるべき利 益を持っていることも示されている。 第三が、従来の権利と構成の異なる権利として捉えられている環境権の内容として、. 同様に特定の私人間の権利義務関係が示されていることである。ここで、環境権に基づいて発生するとされているの. 既存の私法上の制度を基礎とした理論構成の可能性. 集合的・公共的利益の実現主体としての私人を基礎づける理論構成 1 1 環境権の議論との比較から. は、差止請求権である。 ( 2 ). 利益である環境利益の私人による実現を目的として発生する、という構成をとることに、私法上の権利としての環境. が私人による当該私人自身の個別利益の実現であるにもかかわらず、同様の私人間の権利義務関係が集合的・公共的. まず、現在、環境権に関する議論において、既存の私法上の制度に基づいて発生する私人間の権利義務関係の目的. 実現主体として私人を認めることを基礎づける理論構成について考察を加える。. 仰. 評価するという形で公法的規制における評価を私法上の制度に基づく評価と捉える場合に必要となる、公法的規制の. 以下. 述 にまとめた環境権に関する議論の内容を踏まえて、公法的規制の不遵守を私法上違法と ω においては、前ω. ( a ). l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(29) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). ω. ω においてその特徴を示した最近の環境権に関する主張は、こ. 権の大きな問題点があるとされている。そして、前述. の問題点の克服を試みていると評価されている。このような現在の議論状況を踏まえると、本稿の考察対象との関係. において、公法的規制の不遵守から直ちに私人がその是正の実現主体となるという構成をとることは、解釈論として の限界を超えているといえよう。. それでは、既存の私法上の制度によって保護される個別の私益を基礎として集合的・公共的利益の保護をはかると. 構成する、すなわち、従来の私法上の制度に基づいた私人の個別利益の保護の範囲が、集合的・公共的利益にまで広. げられると構成することはできないのであろうか。本稿の考察対象に関していえば、既存の私法上の制度の要件を満. たして私人間の権利義務関係が発生するときに、更に一定の条件を満たしたならば、公法的規制の規律の目的となっ. ている集合的・公共的利益の保護のために、当該公法的規制の不遵守を私法上違法と捉えることを通じて、 その既存. の私法上の制度のもとで権利を付与される私人がその不遵守の是正の実現主体となる、と構成することは不可能であ. ω においては、このような構成を取る可能性について検討を加える。. ろうか。以下. なお、以下における検討は、集合的・公共的利益としての環境利益の実現のための環境権に基づく差止請求権に関. する問題を直接対象とするものではなく、公法的規制の不遵守を私法上違法と捉えることを通じて、私人が当該公法. 的規制の実現主体として認められるかどうか、という問題を対象とするものである。そこで、本稿では、集合的・公 側. 共的利益の私人による実現という内容を持つという意味における環境権の議論との類似性に着目し、この環境権の議. 環境利益の実現主体としての私人. 論において示されている内容との比較のもとで、上述した理論構成に考察を加える。 h u. 、、.,,,.
(30) 1号 第5 2巻第 近畿大学法学. ω に示した理論構成の考察に際しては、本節三. 前述. ω .. において検討した吉田(克)教授の見解が注目される。吉. 田(克)教授は、公共団体が公共的秩序維持の任務を果たしていないこと、及び市民総体の利益に関わる生活利益秩. 序の維持から個々の市民も利益を享受していることに基づいて、民事訴訟の提起による市民の環境への関わりを正当. 化している。そして、このような民事訴訟の特徴の一つとして、第一義的には私的利益の擁護が目指されるが、同時 間W. に、公共的利益(市民総体の利益) の擁護も目指されることを指摘している。 側. この吉田(克)教授の見解を基礎とすれば、公法的規制による制限の実現主体として私人を認めるための条件とし. て、次の二つの条件を示すことができよう。第一の条件は、公法的規制の規律の目的となっている集合的・公共的利 川柳. 益の実現に関して、公法的手段に不全が生じていることである。第二の条件は、既存の私法上の制度の要件を満たし. て保護される私人の利益が、公法的規制の規律の目的となる集合的・公共的利益と同じ性質を備えていることであ 側. る。しかし、吉田(克)教授の見解は公法的規制による制限の実現主体として私人を認めることを目的とする議論で. はない。そこで、この二つの条件がどのような点に関して私人が公法的規制による制限の実現主体となることを根拠 づけているのか、という問題について検討を加える必要がある。. まず、前述の第一の条件を満たすことによって、当該公法的規制による制限の実現主体として本来予定されている 公共団体(行政)と並んで、私人をその実現主体として認める必要性が肯定される。. さらに、第二の条件を満たすことによって、当該公法的規制の規律の対象となる集合的・公共的利益から当該私人. が利益を享受していること、及び当該集合的・公共的利益と同質の利益について当該私人に一定の私法上の権利が付 与されること、がそれぞれ示される。.
(31) 環境法における私法の役割(後篇) ( 2 ). 以上から、当該私人自身に公法的規制を実現する必要性が認められること、及び当該私人について、当該公法的規. 制の規律対象となる集合的・公共的利益と同質の利益が私法上保護に値すると評価されること、がそれぞれ示され. る。最近の環境権に関する議論においては、当該環境利益について当該私人が法的に保護に値する利益を持っている w. 川. ことが、私人を環境利益の実現主体と認めるための条件として示されている。前述糾に示した理論構成のもとでは、. 既存の私法上の制度に基づいて私法上の権利が当該私人に付与されることが前提となる。すなわち、問題となる当該. 私人の利益が、既存の私法上の制度に基づいて、私法的に保護に値すると評価されているとみることができる。そこ. で、最近の環境権に関する議論を基礎におけば、少なくとも前述糾において示した構成のもとでは、前述の条件が満. 側. たされて当該私人について当該集合的・公共的利益と同質の利益が私法上保護に値すると評価される場合に、当該私. 人がその公法的規制の実現を可能とする私法上の地位に立つことが根拠づけられるといえよう。ただし、ここで、最. 仰. 近の環境権に関する議論においては環境利益の実現に関して私人による差止請求権についてのみ考察の対象となって. いることが問題となる。最近の環境権に関する議論を基礎におくのであれば、この点についても考慮しなければなら. ない。そこで、前述のような根拠づけを行う前提となる、既存の私法上の制度に基づく私法上の権利の付与について、. 側側. この付与される私法上の権利が差止請求権であることを本稿では条件として加えなければならない。. 以上の検討から、前述例において示した構成のもとで、既存の私法上の制度に基づいて差止請求権が生じていると. きに、前述の二つの条件が満たされた場合には、私人を公法的規制の規律の目的となっている集合的・公共的利益の 実現主体とすることが必要であり、かつ可能であると結論づけられよう。.
(32) 五.まとめーーー私人を公法的規制の実現主体として認めるための条件. 本節においては、公法的規制の不遵守を私法上違法と評価する場合に、 いかなる民法上の理論構成のもとで、公法. 的規制を実現する主体として私人が認められるのか、という問題について考察を加えてきた。この考察においては、. ﹁既存の私法上の制度の要件を満たして私人間の権利義務関係が発生するときに、更に一定の条件を満たしたならば、. 公法的規制の規律の目的となっている集合的・公共的利益の保護のために、当該公法的規制の不遵守を私法上違法と. 捉えることを通じて、 その既存の私法上の制度のもとで権利を付与される私人がその不遵守の是正の実現主体とな. る﹂と構成する可能性を、現在の環境権に関する議論を基礎において検討した。この検討の結果として、以下に示す. に示したように、本節における考察で対象としうる公法的規制は、私法上の制度と同質と捉えら. 条件が満たされれば、前述した構成のもとで公法的規制の実現主体として私人を認めうると結論づけられる。 まず、本節一. ω .. れ、かっ民法一条一項の﹁公共の福祉﹂概念を根拠として私法的制限と捉えられうる公法的規制である。 そこで、問. 題となる公法的規制が私法上の制度と同質と捉えられること、及び当該公法的規制が民法一条一項の﹁公共の福祉﹂ 概念を根拠として私法的制限と捉えられることが条件として示される。. 続いて、既存の私法上の制度の要件を満たして私人間に権利義務関係が発生していることも条件となる。これは、. 御. 前述した構成に基づく条件である。さらに、ここでは発生する私法上の権利は差止請求権であることが必要となる。. 以上に加えて、当該公法的規制の実現に関して公法的手段に不全が生じていること、及び、公法的規制の規律の目. 的となる集合的・公共的利益と既存の私法上の制度の要件を満たして保護される私人の利益が同じ性質を備えている. ω. ことも条件となる。. -214-. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
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