重度障害者の余暇活動に影響する要因 : 日本とドイツの旅行に関する質的事例研究
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(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第70巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 70, No.1. 令 和 元 年 8 月 August, 2019. 重度障害者の余暇活動に影響する要因 ― 日本とドイツの旅行に関する質的事例研究 ―. 山本 理人・安井 友康*・千賀 愛** 北海道教育大学岩見沢校スポーツ教育学研究室 *. 北海道教育大学札幌校障害者福祉研究室. **. 北海道教育大学札幌校特別ニーズ教育学研究室. Factors Affecting Leisure Activities for People with Severe Physical Disabilities ― A Qualitative Case Study of Tourism in Japan and Germany ―. YAMAMOTO Rihito, YASUI Tomoyasu* and SENGA Ai** Department of Sport Pedagogy, Iwamizawa Campus, Hokkaido University of Education *. Department of Welfare for Persons with Disabilities, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education **. Department of Special Needs Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 近年,わが国においては,加齢によって介護が必要になった高齢者や障害者の旅行が注目さ れている。このような旅行については,「ユニバーサルツーリズム」「バリアフリー旅行」「ア クセシブル観光」などのキーワードが用いられ,様々な取り組みが行われるようになってきて いる。これらの取り組みは,高齢者や障害者の「自由に移動する権利の保障」という人権の観 点からだけではなく,「新たな観光需要の創出」「地域の活性化や環境整備」などの観点から, 国や自治体,民間事業者,NPOなどによって積極的に進められている。とりわけ障害者にとっ ての旅行は,余暇活動の中でも重要視されている活動であるが,障害による様々な制約により 自由に旅行を楽しむことが困難な状況も指摘されている。本研究では,障害者が自由に旅行を 楽しめる環境のあり方を探るため,重度障害者のための旅行に焦点を当て,日本とドイツにお ける実践の共通性と差異について,参与観察,インタビュー調査,質問紙調査から検討した。 その結果,重度の障害者に対してより効率的な移動手段を提供することの重要性が指摘される とともに,その運用におけるハードウェアならびにソフトウェアの開発,それを直接支えるサ ポーター(介助者)や周囲の人々の意識が重要であることが示唆された。 キーワード:重度障害者,余暇活動,旅行,ドイツ. 111.
(3) 山本 理人・安井 友康・千賀 愛. 1.はじめに 2014年,わが国は,国連の障害者権利条約を批准した。それ以来,わが国においては,本条約で示されて いる「文化的生活,レクリエーション,レジャー,スポーツへの参加」という障害者の権利の確保について 様々な取り組みが進められている。一方,障害者が充実した余暇活動を行うためには,ハードウェア,ソフ トウェアを含めて多くの課題も存在している。とりわけ,旅行(移動)は,スポーツや他の文化活動への参 加(大会,イベントなど)にも深く関わっており,障害者の余暇活動の中でも重要視されている活動である が,障害による様々な制約により,自由に旅行を楽しむことが困難な状況も指摘されている。 このような現状の中で,近年, 「ユニバーサルツーリズム」「バリアフリー旅行」「アクセシブル観光」と 呼ばれる活動が注目されている。これらの活動は,障害による制約を取り除く旅行として企画されているも ので, 民間事業者,NPOなどを中心に様々な取り組みが行われるようになってきている。しかしながら,ハー ドウェア,ソフトウェアの課題に加え,採算がとれるかという経済的な問題も存在し,必ずしも十分に普及 していると言えない。 本研究の目的は,都市部で展開されている重度障害者の旅行について,日本(東京)とドイツ(ベルリン) の実践を質的データから比較し,今後のわが国における障害者の旅行のあり方について検討することである。. 2.方 法 ⑴ 調査期間と調査対象 調査は,2015年に東京(3月)とベルリン(6月)において行われた脳性麻痺を含む重度障害者のための リバークルーズを対象として実施された。調査対象者は,東京で行われたリバークルーズに参加したボラン ティア5名とベルリンのリバークルーズに同行した添乗員1名である。 東京におけるリバークルーズの参加者は,北海道の障害者支援施設の利用者12名(そのうち車いす利用者 10名)とその家族(12名),福祉機関の職員(3名),ボランティアスタッフ(5名)であった。ベルリンに おけるリバークルーズの参加者は,福祉法人(ドナースマーク)が定期的に開催(募集)する日帰り旅行企 画に参加した肢体不自由者(電動車いす1台を含む,車いす利用者9名,歩行器使用者2名)とその家族等 9名,福祉法人の旅行専門スタッフ(添乗員)1名であった。なお,福祉法人(ドナースマーク)が募集す る各種の旅行については,別稿でその詳細を紹介している(安井,2012)。 聞き取りを行ったベルリンにおけるリバークルーズの添乗員は,福祉法人の旅行専門スタッフとして,年 間を通して定期的に障害者の旅行を企画・運営しており,大学(ベルリン自由大学)でソーシャルワーカー, 理学療法士の資格を取得した上,障害者の支援スタッフとして働く傍ら,旅行業の資格を取得していた。 表1 調査対象者 対象旅行. 東京. ベルリン. 112. 情報提供者. 国籍. 年齢. 性別. 役割. Info.A. 日本. 22歳. 女性. 学生ボランティア. Info.B. 日本. 22歳. 女性. 学生ボランティア. Info.C. 日本. 22歳. 女性. 学生ボランティア. Info.D. 日本. 22歳. 女性. 学生ボランティア. Info.E. 日本. 21歳. 女性. 学生ボランティア. Info.F. ドイツ. 53歳. 女性. 添乗員.
(4) 重度障害者の余暇活動に影響する要因. 調査内容は,主に「障害者にとっての旅行の意義」の認識,旅行における環境(ハードウェア,ソフトウェ ア,周囲の人々)についてであり,参与観察(ビデオレコーダーを使用して記録),インタビュー調査,質 問紙調査から質的データを得た。また,調査は,情報提供者に調査の趣旨を説明するとともに,論文等への 掲載に関しての同意を得た上で行われた。 ⑵ 分析方法 本研究においては,分析の枠組みとしてシステム理論を援用した。赤堀(2014)は,「システム理論と一 口に言っても,多種多様なシステム概念があるため,厳密に定義するのは難しい。だが,一般システム理論 を扱う多くの文献に共通して見られる傾向はある。すなわち,システム理論は,第一に,システムを『もの』 ではなく『ものの見方』として捉えているということである」と述べるとともに,研究者の見解を表2のよ うにまとめている。本調査においては,日本(東京)とドイツ(ベルリン)のリバークルーズについて,そ れぞれの国,文化,コミュニティを背景として視野に入れながら,障害者の余暇活動に影響を持つと考えら れる環境(ハードウェア,ソフトウェア,周囲の人々)に着目しながら分析を行った。本調査において特に 注目した主体(関係者)は,介護や介助に関わるボランティアや添乗員および移動に関わる交通関係組織(鉄 道,バス,航空,船舶など)であり,そのハードウェアおよびソフトウェアを併せて対象とした。これに加 えて,実際にコミュニティを形成し,旅行に際して間接的に関わりを持つ「周囲の人々」にも着目した。 表2 システム理論に関する研究者の見解 研究者. 見解. Ashby. 「システムとは,ものではなく,変数のリストを意味する」. Pask. 「システムとは,観察のための準拠枠そのものである」. Weinberg. 「システムとは,物の見方である」 出典:赤堀三郎(2014)「システム理論は社会学的でありうるか」より筆者作成. 3.わが国における障害者旅行の歴史と課題 近年,障害者の旅行は, 「ユニバーサルツーリズム」「バリアフリー旅行」「アクセシブル観光」という表 現とともにある程度認知されるようになってきている。しかしながら,歴史的にみると障害者の旅行は困難 な時代が長く,現在においても「自由に旅行を楽しむ」という環境が十分に整備されているとは言えない。 井上(2010)は,わが国における障害者の旅行について時代別に4つの段階に類型化し,それぞれの時代に おける「排除」の形態について説明している。1970年代以前の第1段階では,産業優先社会において労働力 に資さない障害者は物理的・空間的に社会の片隅に追いやられ, 「隔離型排除」という状態であったという。 1980年代からの第2段階では,国連による「国際障害者年」の実施に伴い,各種のイベントや旅行が実施さ れたが,障害者は分離された「特別に保護される存在」として「分離型排除」という形態が生まれたと述べ ている。1990年代からの第3段階では,障害者の社会参加が実現し,障害者の旅行も実現するようになった が「リスク」 「コスト」「採算がとれない」「前例がない」といった理由から,「顧客」として扱うことは稀で あり,福祉の対象としての「分離」が行われ,1990年代の中盤以降にようやくその解消傾向がみられたとい う。そして,2000年代以降の第4段階では,これまでの「排除」はほぼ解消されたが,障害者自立支援法の 施行により,福祉サービスを購入するシステムが確立し,経済的な困窮度が増した一部の障害者は経済的な アンダークラスとして旅行などの活動から排除されたと述べており,新たな課題が顕在化していると指摘し. 113.
(5) 山本 理人・安井 友康・千賀 愛. ている。このように,わが国における障害者の旅行環境については,ある程度の改善がみられるものの多く の課題が積み残されたままである。 平井(2015)は,観光産業やまちづくりの視点からユニバーサルツーリズムの可能性に言及した上で, 「ソ フト面の整備の改善」「ユニバーサルツーリズムの社会的認知度の向上」「関係組織の連携体制の構築」とい う3つの課題を指摘している。ソフトウェア面の改善については「移動的補助に対するハード面での整備は 進みつつあるものの,情報補助やソフト面での対策が不十分である」(平井,2015)とし,予測不能なアク シデントに見舞われたときの対応などの重要性を指摘している。 「ユニバーサルツーリズムの社会的認知度 の向上」については, 「利用者の年齢層や障がいの特性などを考慮し文字情報や音声情報の他,画像などの 言語に拠らない表現を含めた広告表現や,テレビCMや雑誌といった従来の宣伝手法を利用するなど,全て の人々が的確に情報を享受できる情報支援を検討しなければならない」(平井,2015)と述べ,広報の改善 が重要であると指摘している。また,「関連組織の連携体制の構築」については,「ユニバーサルツーリズム は,宿泊,飲食,観光,移送,福祉といった様々なサービスが関連しており,これらに関係する民間企業の 連携に加え,観光分野のみならず,法制度や都市計画等の面からも,行政がネットワークに加わることが必 須である」と述べ,関係諸機関の情報共有の重要性を指摘している。 表3 各段階の排除の形態と排除の対象 段階. 時代. 第1段階. 1970年代以前. 第2段階. 1980年代〜. 第3段階. 1990年代〜. 第4段階. 2000年代〜. 排除の累計. 排除の対象と形態. 隔離型排除. 産業労働に資さない障害者の「隔離」 「参加」を体験した障害者の「分離」. 分離型排除. 顧客としての障害者の「分離」 経済的に余裕のない人の「分離」. 出典:井上寛(2010)「障害者旅行の段階的発展」p.14. 4.質的データの分析 ⑴ 障害者にとっての旅行の意義 障害者にとっての旅行の意義については,日本においてもドイツにおいてもその重要性が認識されていた。 東京におけるリバークルーズに参加したボランティアに対する質問紙調査からは以下のような記述がみられ た。. 「いつも,同じメンバー,場所,スケジュール,という変化がない生活において,旅行というのは新しい世 界を感じることができると思う。沢山機会があるならば行くべきであり,障害の有無に関係なく,○○に行 きたいなあという気持ちがあるなら行けばいいし,旅行は好きじゃないから家でゆっくり映画鑑賞したい, と思うならそうすればいいと思う。旅行を行くことを推し進めるのではなく行きたいという意思があるのな ら,どんな状態であれ行けるように支援することが必要だと思う」【info.A】 「新しいものにたくさん触れて楽しいと感じたり感動を覚えたり本人の中での世界が広がったりする。どん どん新しいものに触れたいと意欲が湧く。普段の生活を自分でがんばるモチベーションが上がる。普段施設 で少し甘えて助けてもらっていることの中にも実は頑張ればできることがあるようで,旅行に行きたいから 頑張ろうという気持ちが生まれたり,旅行中自然と生まれた好奇心から積極的に動いたり,普段より困難が. 114.
(6) 重度障害者の余暇活動に影響する要因. 多い(生活環境の違い,待ち時間など)中でも頑張れたり我慢できたりする」【info.B】 「外の世界を知ることに意義があると感じます。彼らにもたくさんのことを知り,感じ,学ぶ権利がありま す。観光客の多さやその場所の名物,その場の空気など感じるだけで私たちは感じるだけでわくわくします。 楽しさを何かを頑張るための糧にします。思い出を誰かと共有して新たな目標や夢を抱きます。それは障が 【Info. いの有無は関係ないと考えます。旅行が重度障害者の方の楽しみのひとつになればうれしく思います」 C】. 「旅行の意義は自分が行きたいところへ行くことにあると思う。重度障害者にとって,普段なかなか行きた いところへ行けない環境にあっても,旅行では○○に行きたい!というわがままを出せるし,それが主体性 にもつながるのではないかと思う。だから,重度障害者にとって旅行は主体性を引き出すきっかけになるも のだと思う」【Info.D】 以上のように,東京におけるリバークルーズに参加したボランティアたちの記述内容には, 「世界が広がる」 「主体性につながる」といった記述がみられ,障害者にとっての旅行の重要性を強く認識していることがう かがえる。. 「障害のある方にとっては,世界が広 また,ベルリンにおける添乗員へのインタビュー調査においても, がり余暇活動の中でも重要」【info.F】という発言があり,実際のリバークルーズ中も開放的なデッキの上で 参加者たちが楽しく過ごす様子とそれに共感しながら寄り添う姿がみられた。障害者の旅行を直接サポート するボランティアや添乗員は,日本においてもドイツにおいても障害者の旅行の意義について十分に認識し ていることが確認できた。 ⑵ 環境(ハードウェア,ソフトウェア,「周囲の人々」の行動) ① ハードウェアとソフトウェア 移動に関わるハードウェアについては,日本においてもドイツにおいても整備が進んでいることがうかが えた。特にベルリンのリバークルーズにおいては,移動バスやクルーズ船のリフト(エレベーター)が整備 されており,その運用に関しても十分にトレーニングを受けたスタッフが従事していた。一方で,東京のリ バークルーズにおいては,基本的な設備は充実していたものの,一部の設備においては運用の工夫が必要な 部分も指摘された。. 「添乗員さんが事前に調べていてくれたのか,どの目的地にもエレベーターが配置されていた。しかし,あ そこまでお台場から新橋まで時間がかかると思っていなくて,驚いた,新しい建物になっていくにつれて, 【info.A】 エレベーターの広さも数も適したものになっていたので,すべて改善できればいいのになと思った」. 「車椅子で下り坂を並んで待つのはきつい。スカイツリーでもエレベーターをいくつも乗り換えなければい けない。一本で上までいけるわけじゃなかったので思っていたよりとても時間がかかった。ホテルの部屋の ドアを開けたままにするストッパーが無く車椅子を押して通りにくかった」【Info.B】 「段差で困ることはあまりありませんでした。ベンチなど座って休めるところもたくさんあったので随時休 憩しながら行動することができました。エレベーターの数や広さについてはまだまだ課題が多いと思います。. 115.
(7) 山本 理人・安井 友康・千賀 愛. 何往復もしなければ全員移動することができないので、とても時間がかかりました」【info.C】 トイレについては,日本においてもドイツにおいても改善が進んでいるものの,課題も残されていること がうかがえた。. 「身障者トイレは自分が思っていたよりも多くありました。場所によっては衛生的に気になる感じがしまし たが、担当の方は普通のトイレを使用していたので詳しく見ていません」【info.C】 ドイツ(ベルリン)についても同様の指摘が見られた。. 「ハードウェアについては,近年,急速に改善されてきている.トイレの数やスペースについては課題も ある」【info.F】 また,これら以外にも「天候の急変への対応」【info.F】(ドイツ), 「様々な場面で、どう注意すればいい. のかすごい考えさせられました」【info.A】(日本)など,不測の事態への対応や障害者への「関わり方」な どソフトウェア面での課題も指摘された。 ② 「周囲の人々」の行動 旅行においては,移動中や目的地においてそれぞれコミュニティを形成している人々と様々な関わりを持 つ。そのような人々との関わりは,旅行者にとって多様な経験を広げる役割を果たす一方,その対応の仕方 によっては旅行を困難にする要因となる。東京のリバークルーズにおけるボランティアの記述からは,下記 のような内容が示された。. 「観光スポットではお客さんが景色を見たりお土産を見たり写真をとるのに夢中で周りが見えていなかった り、人の多い場所で携帯を見ながら歩いているひとがいたり、せっかくの広い道でも3人以上横並びで歩く 高校生がいたりして車椅子を押していて危険を感じたり迷惑に思ったりした」【info.A】 「健常者が着替えか何かのために身障者トイレを使用していたことがあり、少しいやな気持ちになりました」 【info.B】. 「環境ではないかもしれないけれど、空港で昼食をとったお店の店員さんの配慮がとてもすばらしかった。 さりげなく取り皿などを持ってきてくれたり、会計の伝票をレジまで運んでおいてくれたりといった、さり げない配慮があってとても助かった」【info.C】 以上のような記述から,東京のリバークルーズにおいては,コミュニティを形成する人々の「障害のある 方の旅行に対する意識」に格差があることが示唆された。また,一部の人々の行動が障害者の旅行を困難に する可能性が示唆される一方,配慮のある行動が障害者の旅行に携わるボランティアを支援することも示唆 された。ベルリンのリバークルーズにおいては,周囲の人々の行動が障害者の旅行を困難にするような場面 はみられなかったが,人混みの有無などの環境が異なるため,単純に比較することはできない。 ここまで,日本とドイツの旅行(リバークルーズ)における比較検討を行ってきたが,日本においては, 障害者の権利条約批准後,バリアフリーの実現に向けてハードウェアの整備は進んでいるが,それを運用す. 116.
(8) 重度障害者の余暇活動に影響する要因. 東京(3月). ベルリン(6月). 比較 段差の解消などバリアフ リー化による移動環境の 確保. 乗船の様子① アプローチ. 大きな差異はない 乗船の補助 東京:介助者は主に付き 添い者 ベルリン:ほとんどを船 のスタッフが分業で実施. 乗船の様子② 乗組員による サポート. 設備 リフトなど. 東 京: 一 部 に 段 差 が あ り,車いす利用者が移動 できる空間が限られる ベルリン:船内にリフト (エレベーター)が設置 されており,すべての場 所への移動が保証. クルージング の様子①. 遊覧時:各自が自由に過 ごす時間 東京:グループで過ごす 傾向 ベルリン:個々のパート ナーと過ごす傾向. クルージング の様子②. クルージング の様子③. 下船 それぞれ船のスタッフに よる支援はあるものの, 乗船時と同様の傾向(東 京では個々の付き添いが 主な介助者). 下船の様子. 図1 クルージング当日の様子(参与観察から). 117.
(9) 山本 理人・安井 友康・千賀 愛. るソフトウェア,コミュニティやそれを形成する人々の意識や行動には未成熟の部分があることがうかがえ た。一方,ドイツにおいては,歴史的な背景から,学校や地域社会においてインクルージョンが進んでおり, ハードウェアだけでなく,障害者の自立を支える環境が成熟していることがうかがえた(図1参照)。 本調査における日本とドイツにおける実践の共通性と差異については,図2に整理したとおりである。前 述したとおり,両国ともハードウェアに関しては整備が進んでおり,大きな差異はみられなかった。しかし ながら,実際の運用に関わるソフトウェアや人々の意識に関しては,国やコミュニティの違いを背景とした いくつかの差異がみたれた。ドイツにおいては,移動の補助に関して旅行に同行している介助者や添乗員だ けではなく,各交通機関のトレーニングされたスタッフが積極的な関わりを持っており,旅行者やサポート スタッフの大きな助けとなっていた。このような関わりや連携は障害者が自由に旅行を楽しむ環境として重 要な意味を持つと考えられる。. 図2 主な比較内容の整理. 5.まとめ 重度障害者において,旅行はきわめて有意義な活動である。しかしながら,前述したとおり,ハードウェ ア,ソフトウェアの課題に加え,採算がとれるかという経済的な問題も存在し,必ずしも十分に普及してい ると言えない。 本研究では,都市部で展開されている重度障害者の旅行について,日本(東京)とドイツ(ベルリン)の 実践を質的データから比較し,今後のわが国における障害を持った方の旅行のあり方について検討した。そ の結果,重度障害者に対してより効率的な移動手段を提供することの重要性が指摘されるとともに,その運 用におけるハードウェアならびにソフトウェアの開発,それを直接支えるサポーター(介助者,添乗員など). 118.
(10) 重度障害者の余暇活動に影響する要因. や「周囲の人々」の意識と行動が重要であることが示唆された。特に専門的なトレーニングを受けたスタッ フについて,ドイツ(ベルリン)と異なり(ドイツは移動車両,クルーズ船など各所に配置),日本(東京) が随行員を中心にしているというスタイルは,旅行全体のコスト(随行者の移動費用などに関わる経費が発 生)にも影響を与えるものであり,重度障害者の旅行における阻害要因と考えられる。 本研究は,データも少なく,あくまでもプレリミナリーな位置づけである。今後は,量的な調査を含めて 研究を深めていく必要がある。. 付 記 本研究をすすめるにあたっては, 日本学術振興会科学研究費補助金「ドイツにおける障害児者の余暇とア ダプテッド・スポーツ:移行支援を中心に」(基盤研究B,課題番号6301027,研究代表;安井友康)の補助 を受けた。. 引用・参考文献 赤堀三郎(2014)「システム理論は社会学的でありうるか」 ,東京女子大学社会学年報,第2号,31-42. 平井木綿子,大西一嘉(2015)「ユニバーサルツーリズム推進に向けた取組状況の研究−行政,旅行代理店,利用者,NPO法 人への調査を通じて−」,神戸大学大学院工学研究科・システム情報学研究科紀要 第7号,1-7. 井上寛(2010)「障害者旅行の段階的発展」,流通経済大学出版会. 観光庁観光産業課(2012)「ユニバーサルツーリズムにおけるサービス提供に関する調査」 観光庁観光産業課(2018)「ユニバーサルツーリズムの促進に関する検討業務」 水野映子(2012)「要介護者の旅行を阻害する要因−介護者を対象とする意識調査から−」 ,ライフデザインレポート,第一生 命経済研究所,16-27. 安井友康・千賀愛・山本理人(2012) 「障害児者の教育と余暇・スポーツ, ドイツの実践に学ぶインクルージョンと地域形成」, 明石書店.. (山本 理人 岩見校教授) (安井 友康 札幌校教授) (千賀 愛 札幌校准教授). 119.
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