筋酸素動態からみた等尺性掌握運動における筋持久力の男女差
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(2) 北海道教育大学紀要(自然科学編)第54巻 第1号. 平成15年 9 月. JournalofHokkaidoUniversityofEducation(NaturalSciences)Vol.54,No.1. September,2003. 筋酸素動態からみた等尺性掌握運動における筋持久力の男女差 神林 勲1)・石村 宣人2)・小林 和美3)・佐川 正人1)・武田 秀勝4) 1)002−8502北海道教育大学札幌校スポーツ科学研究室. 2)002−8502北海道教育大学大学院教育学研究科 3)062−0922札幌市立中の島中学校 4)060−8556札幌医科大学保健医療学部. Di鮎rencesinMuscleOxygenationLevelAccordingtoGender duringIsometricHand−gripExercises KAMBAYASHIIsaol),ISHIMURANobuhito2),K・DBAYASHIKazumi3),. SAGAWAMasatol)andTAKEDAHidekatsu4). 1)DepartmentofSportsScience,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 2)GraduateSchoolofEducation,HokkaidoUniversityofEducation 3)SapporoNakanoshimaJuniorHighSchoo1 4)SchoolofHealthScience,SapporoMedicalUniversity. l)Ainosato51jo3−ChomeKita−kuSapporoOO2−8502 2)血nosato5二io3−ChomeKita−kuSapporoOO2M8502. 3)Nakanoshima2二io3−ChomeToyohira−kuSapporoO62−0922 4)Minamil二ioNishi17−ChomeChuo−kuSapporoO60N8556. Abstract. Thepurposeofthisstudyistoinvestigategenderdif托rencesformuscleendurancecapacityinisometric. hand−gripexercisesbynear−infraredspectroscopy(NIRS)・HealthyandactiYemales(n=6)andfemales. (n=6)participated.Theyperformedisometrichand−gripexercisesatanintensityof30%maximum. voluntarycontraction(MVC)thatwassustainedtoexhaustion.Continuouschangesinmuscleoxygena−. tion[0Ⅹy(Hb+Mb)]inforearmextensormuscleswasmeasuredbyNIRS.Theoxy(Hb+Mb)1evelwasex−. PreSSedasapercentageofoxygenationrelativetotheoverallchangefromtheaverageof5−minrestbe− foreexercisetotheminimumlevelobservedduringthe15−minarter:ialocclusionwithcuffinflationafter. exercise.ThediffbrenceofMVCinbothgroupswassignificant(males:55.1±8.7kg,fbmales:34.. 2.5kg,P<0.01).Theendurancetimetoexhaustionforthefemale許OuP(175.8±23.7sec)wassignifi−. cantlylonger(p<0.05)thanthatofthemale.group(139.2±29.4sec).0Ⅹy(Hb+Mb)startedtodec linearlyfromtheonsetofexerciseinbothgroups.A氏erwards,0Ⅹy(Hb+Mb)reached20−25%1evelandre−. mainedconstantuntilexhaustioninthemalegroup.Ontheotherlland,inthefemalegroup,0Ⅹy(Hb+ 89.
(3) 神林 勲・石村 宣人・′ト林 和美・佐川 正人・武田 秀勝. Mb)graduallyincreasedtoexhaustionataslowrate.TherewasasignificantdifEbrence(p<0.01)in. oxy(Hb+Mb)1evelatexhaustionbetweenmales(23.1±4.3%)andfemales(73.0±10.,6%).Theser suggestthatlessmechanicalcompressionofthelocalvasculatureinduceslessocclusionofbloodflowin. thefemalegroupcomparedwiththemalegrouplnSPiteofhavingdonethesamerelativework,Sin. malesgeneratealowerabsolutemuscleforce.Itisconcludedthatthedifrbrenceofaerobicenergysupply. inmalesandfemaleswouldinnuencemusclefatigue(endurancetime)duringisometrichand−grip erCISeS.. Keywords:muSCleoxygenation,endurancetime,genderdifrbrence,nearinfraredspectroscop voluntary contraction. 赤外分光装置(NearInfrared Spectroscopy;以 下NIRS)が用いられるようになった3】7・121川19). Ⅰ.緒 呂. NIRSは近赤外光の生体を透過しやすいという性 筋持久力とは「一定強度の運動を持続する筋の. 質と,ヘモグロビンの近赤外光の吸収率が酸素. 能力」‖)として定義されている.現在までのとこ. 化,脱酸素化の状態によって異なるという性質を. ろ筋持久力の研究は,最大筋力が個人間で異なる. 利用し,生体における酸素動態を観察する事が可. ということを考慮し,相村的負荷強度を用いたも. 能である.この方法によって,筋組織における酸. のがほとんどである.一般的に筋持久力は女性の. 素の消費と供給の関係を検討することができる.. 方が男性と比較して,継続時間において優れてい. これまで,男女の筋持久力の差を筋の酸素動態. る15・1”.petrofbkyとLind18)は最大筋力の40%の. に着目して検討した研究は見当たらない.そこ. 強度で静的掌握運動の継続時間を検討し,男性で. で,本研究では前腕の等尺性掌握運動を用いて一. 139±31秒,女性で172±52秒と,女性の方が有意. 定強度での静的筋持久力を測定した.そして,. に長かったことを報告している.また,Maughan. NIRSを用いて男女間の筋持久力(運動継続時. ら15)は静的膝伸展運動における男女差を検討し,. 間)の差を筋内酸素動態の面から比較・検討する. 最大筋力の20%の強度での継続時間は男性で180. ことを目的とした.. ±51秒,女性で252±56秒と女性の方が有意に長. Ⅱ.方 法. かったことを認めている.. これまでの筋持久力に関する先行研究は,超音 波ドップラー法5,12)や静脈プレチスモグラフィ6,10). を用いて,血流量と運動継続時間との関係を調. A.被検者 被検者は健康で活動的な成人男性6名(年齢. べ,個人間にどのような差が見られるのかを検討. 23.5±5.8歳,身長173.9±5.7cm,体重64.9±3.. している.また,一定強度の運動の持続時間と. kg)と成人女性6名(年齢19.5±1.2歳,身長. EMGや乳酸などの疲労物質の蓄積との関係を調. 161.2±2.4cm,体重53.9±2.1kg)の計12名で. べているものもある5舶‘)). .しかしながら,これら. は注射針や留置カテーテルの使用といった侵襲的. あった.実験に先立ち,実験の主旨および安全性 について十分に説明を行い,参加の同意を得た.. 方法であり,また,運動中のリアルタイムな筋内 部の情報を得ることは困難である.. 近年,運動中の筋内部の酸素動態を非侵襲的 に,かつリアルタイムで観察できる方法として近 90. B。最大随意収縮力および筋持久力の測定 デジタル握力計(竹井機器工業社製)を用いて被. 検者の最大随意収縮力(MaximalVoluntaryCon−.
(4) 筋酸素動態からみた等尺性掌握運動における筋持久力の男女差. traction;以下MVC)を測定した.被検者は座位. る.組織の酸素化状態は酸素化ヘモグロビンおよ. 姿勢にて利き腕を測定台上に伸展させた状態で握. びミオグロビンの量〔0Ⅹygenative hemoglobin. 力計を把握し,1分間の休憩をはさみながら3回. and myogLobin;以下0Ⅹy(Hb+Mb)〕によって決. の測定を行った.得られた値の内,最大値をMVC. 定される... として採用した.本研究ではこのMVCの30%の. NIRSによって得られた0Ⅹy(Hb+Mb)の値は. 強度を筋持久力評価のための運動負荷として用い. 相対値である.この値を個人間で比較するため. た.MVC測定後,前腕の伸筋群にNIRSのプ. に,動静脈血流遮断法4)を用いて較正を行った.. ローブを,上腕部に幅7.5cmの加圧用カフ(Mizuho. 前述したようにカフを用いて前腕部を虚血し,. 社製)を装着させ,MVC測定時と同様の姿勢で. 0Ⅹy(Hb+Mb)が最も低下した値を0%,測定開. 30分ほど安静にした後,筋持久力の測定を開始し. 始5分間の安静の平均値を100%として掌握運動. た.. 中の0Ⅹy(王[b+Mb)の変化を半定量的に評価し 本研究の測定プロトコルを図1に示した.MVC. た.. の測定と同じ姿勢で5分間安静にした後,30% MVCの等尺性掌握運動を行った.被検者は運動. D.統計処理. 男女間における平均値の差の検定には村応のな. 開始と同時にデジタル握力計に接続されたペンレ. コーダー. (日本光電社製,EI−601G)の針の動き. いt検定を行った.また,変数間の相関分析につ. を見ながら,疲労困備により指示された強度(30%. いては,ピアソン積宰相関分析を用いた.いずれ. MVC)の筋力を発揮できなくなるまで持続し. の分析においても有意水準は5%および1%を. た.運動終了後5分間安静にした後,上腕部にあ. もって有意とした.. らかじめ装着していたカフを300mmHg程度に加 圧することで,NIRS測定部である前腕を15分間. Ⅱ.結. 果. 虚血状態にした.その後カフを開放し血流を再開 させ,5分間の安静をとらせた.. A.MVCおよび運動継続時間. 図2に男女別のMVCを示した.男性は55.1± C.筋酸素動態の評価. 8.7kg,女性は34.2±2.5kgであり,男性が女性に. 筋酸素動態の評価にはNIRS(オムロン社製,. 比較して有意に高値を示した(p<0.01).図3. HEO−200)を用いた.この装置はプローブとコ. には男女別の運動継続時間を示した.男性は. ンピューターで構成されている.プローブには760. 138.0±32.こS秒,女性は175.8±23.7秒あり,女性. nmと840nmの光源が受光部の両側に配置されて. が男性に比較して有意に長かった(p<0.05).. いる.この2つの吸光度の違いをコンピューター. 掌握運動で用いられた30%MVCに相当する筋力. が自動的に計算して,プローブ下の組織の酸素動. は,男性で16.5±2.6kg,女性で10.3±0.7kgで. 態を0.5秒毎に算出し,モニターにグラフ化す. あった.. NIRS measurement. 30%MVC →exhaustion Isometrichand一 5−minrest. 訂IpeXerCises. 5−minrest. † End. 5一皿inrecovery. † Cu仔on. Fig・1Experimentalprotocolforthis・Study・ 91.
(5) 神林 勲・石村 宣人・小林 和美・佐川 正人・武田 秀勝. 0 1. つんl. 70. 8. 60. 50. ,ぎ40 ). 20. 10. 9. 妄3。. 20 l. ︵UOS︶ひ∈州︸00弓hnp白山. l. (. 0. Female. Male. Fig・2 Maximalvoluntarycontractioninmaleand 0.01).Errorbarsindicatestandarddeviation.. Female. Male. fbmalegroups.**denotessignificantdiffbrence(p<. Fig.3 Endurancetimefbrisometrichand−grlPeXer−. cisesatanintensityof30%MVCinmaleandfemale groups.*denotessignificantdifEbrence(p<0.05)・Er− rorbarsindicatestandarddeviation.. B.掌握運動中のoxy(Hb+Mb)の変化. で疲労困倦まで推移した.一方,女性における0Ⅹy. 図4は等尺性掌握運動中における半定量化され. (Hb+Mb)は直線的な低下後,疲労困倦まで緩や. た0Ⅹy(Hb+Mb)の変化を男女で比較したもので. かに漸増し,運動開始50秒後に約50%であった値. ある.0Ⅹy(Hb+Mb)の値は男女それぞれにおい. は約75%にまで回復した.疲労困借時における男. て,運動継続時間の5%毎に平均化されている.. 女の0Ⅹy(Hb+Mb)の平均値±標準誤差はそれぞ. 男女とも運動開始直後から約25秒間,0Ⅹy(Hb+. れ,23.1±4.3%および73.0±10.6%であり,男. Mb)は直線的に低下した.その後,男性におい. 女間の値には有意差が認められた(p<0.01).0Ⅹy. ては緩やかな低下を示した後,約20∼25%の付近. (Hb+Mb)は運動開始直後,男女とも直線的に減. 0. OO′LU4 0 nU. ︵㌔︶︵β∑+責︶ぉ○. 100. 150. 200. Time(SeC). Fig.4 0Ⅹy(Hb+Mb)changesduringisometrichand−gripexerciseinmale甲・dfe− malegroups・Dataareexpressedasmeansandstarndarderrors・**denotesslgnifi− cantdi鮎rence(p<0.01)whencomparedwiththevaluesforthemalegroupatex− hausion.. 92.
(6) 筋酸素動態からみた等尺性掌握運動における筋持久力の男女差. 少したことから,時間と0Ⅹy(Hb+Mb)の値を一. え,前腕伸筋群の酸素動態を評価した.. 本研究で明らかとなった主要な点は,30%MVC. 次回帰し,得られた傾きを初期脱酸素化速度(% ・SeC ̄1)として表した.なお,算出には0.5秒毎. 強度の等尺性掌握運動の継続時間は女性が男性に. の0Ⅹy(Hb+Mb)値を用いた.その結果,男性は. 比較して有意に長く,また,掌握通勤中の筋酸素. 3.8±1.3%・SeC▼1,女性は3.5±1.5%・SeC ̄1と. 動態は男女で異なるということである.連動継続. なり,男女間に有意差は認められなかった.. 時間は男性で138.0±32.8秒,女性で175.8±23.7 秒と女性が有意に長かった(図3).これは. C.運動継続時間と各変数問の相関関係. Maughanら15)やPetrof旨ky and Lind16)の報告と. MVC(kg)と運動継続時間(sec)には負の相. 同様の結果であり,相対的に等しい強度の筋持久. 関関係が認められたが,相関係数(r=−0.489). 力は,女性が男性に比較して優れているという結. は有意ではなかった.また,図5に示したよう. 果を支持するものである.. に,初期脱酸素化速度(%・SeC ̄1)と運動継続. 掌握運動中の0Ⅹy(Hb+Mb)の変化を見ると. ・時間(sec)の間にも有意な相関関係は認められ. (図4),男女とも運動開始直後には直線的な脱. なかった(r=0.028).. 酸素化が観察されたものの,その後の筋酸素動態 は明らかに女性が男性よりも高い傾向にあった.. 5. の平均値±標準誤差はそれぞれ,23.1±4.3%お よび73.0±10.6%であり,男女間の値には有意差. 4. が認められた(p<0.01).よって,女性は30%MVC. の強度の筋収縮を碓持しても,男性に比較して筋. つJ. の0Ⅹy(Hb+Mb)レベルが高く,この違いが運動 継続時間の優劣に関係したと推察される.. つん. ︵t一。軍芭ひ召︵一∑+貞︶を○名−美幸占. また,疲労困借時における男女の0Ⅹy(Hb+Mb). 0. 筋持久力発揮中の生理学的変化を評価した先行 50. 0. 100. 150. 200. 250. Endurancetime(SeC). Fig・5 Relationship betweeninitialdeoxy(Hb+ Mb)rateandendurancetimeinisometrichand−grip exercises for pooled data from male and female. groups・Theregressionequationdescribingtherela− tionshipisy=0.001Ⅹ+3.45,r=0.028(ns).. 研究には,静脈プレチスモグラフィやパルスオキ シメーターを用いて運動継続時間と筋内圧や血流. との関連を調べたもの5,6・10・12,13). ,静脈にカテーテ. ルを留置し通勤中の血液を採取して生化学成分と の関連を見たもの5・6・13)がある.それによると,筋 持久力の優劣には筋血流量が密接に関連している. と報告されている.発揮される筋力が高い場合, 筋収縮による血管の機械的圧迫が強まることで筋. Ⅳ.考 察. 血流量は減少する.筋血流量の減少は筋組織での. 酸素不足を招来し,エネルギー代謝が無酸素的へ. 近年,NIRSの発展により,活動筋における酸 素動態をより簡易的に,非侵襲的に測定すること が可能となった3 ̄7・121川19). .前腕における活動筋. 中の酸素動態の評価については,現在のところ屈 筋群についてみたものがほとんどである が5・6・12¶14). ,本研究では“握る”という筋力発揮動. 作には伸筋群の筋力発揮も十分貢献していると考. と移行する.その結果,乳酸の生成が高進し,筋. 内pHが低下することで筋収縮は阻害される.こ れが筋持久力の大きな制限因子であると考えられ ている.. この筋内圧の上昇による血管の圧迫をもたらす 相対的強度は個人間で大きく異なることが報告さ れている12).その原因として,各個人における最 93.
(7) 神林 勲・石村 宣人・小林 和美・佐川 正人・武田 秀勝. 大筋力の違いが挙げられている.つまり,相対的. 果をもたらしたと考えられる.. 強度が等しくてもMVCが大きければ実際に発揮. 一方,女性の0Ⅹy(Hb+Mb)は運動開始直後に. される筋力は大きくなり,より血流が遮断される. 男性と同様に直線的な低下を認めたものの,その. ことになる.本研究において,MVCは男性で. 後は疲労困倍まで緩やかに漸増し,0Ⅹy(Hb+. 55.1±8.7kg,女性で34.2±2.5kgと男性が女性よ. Mb)は掌握運動中に約50∼75%という高いレベ. り有意に高値であり(図2),30%MVCに相当. ルを維持していた(図4).この結果は,掌握通. する筋力は男性で16.5±2.6kg,女性で10.3±0.7. 勤中の筋内圧が低かったため筋血流量が十分に維. kgであった.よって,男性では掌握通勤中,女性. 持され,酸素供給が消費を上回っていたことを示. に比較して筋内圧の高まりによる血流阻害の割合. している.よって,女性の場合は有酸素的代謝に. が高く,酸素不足が運動の継続を困難にさせた可. よるエネルギー供給が高く,無酸素的代謝の貢献. 能性がある.. が低かったと思われる.このことが男性で生じた. 薯撞運動中の0Ⅹy(Hb+Mb)は男女とも0%付. ような筋内の生化学的変化を招きにくく,運動継. 近まで低下することはなかった(図4).このこ. 続時間が男性に比較して延長したものと推察され. とは筋内の酸素が完全には枯渇していなことを意. る.. 味している.0Ⅹy(Hb+Mb)は筋における酸素の. また,女性は男性に比較して筋線維組成が遅筋. 消費と供給のバランスを示す指標である3).男性. 線推優位であること16),血中エストロゲン濃度が. の場合,0Ⅹy(Hb+Mb)は運動開始約50秒から疲. 高く,エネルギー基質として脂質を利用しやすい. 労困債まで20∼25%の範囲で推移した.よって,. こと20)や活動筋への血流増加を高進させるこ. この低い酸素化レベルを維持することのできる,. と1),神経筋協調が男性と異なること2)などが報告. わずかな筋血流量のみが維持されていたと考えら. されている.このような生理学的な差異が,相対. れる.木村ら12)は男性を被検者に30%MVC強度. 的に等しい強度の等尺性筋収縮における筋血流量. の等尺性掌握運動における0Ⅹy(Hb+Mb)を,動. の性差と相まって,筋持久力における女性優位な. 静脈血流を遮断した場合と遮断しない場合で比較. 結果をもたらしていると考えられる.. した.その結果,0Ⅹy(Hb+Mb)の変化は本研究. 木村ら12)は,一定強度の等尺性筋収縮時に見ら. と同様であり,両条件下での変化は等しかったこ. れる初期の0Ⅹy(Hb+Mb)低下率(初期脱酸素化速. とを報告している.また,運動継続時間にも差は. 度)は,筋収縮に必要とされる有酸素的なエネル. 認められていない.このことは筋血流量を遮断し. ギー供給の動員レベルを評価できるとし,強度の. ない場合でも男性では筋内圧の増加により筋血流. 増加に伴い低下率も増加することを報告してい. 量の阻害が生じていることを示している.虚血条. る.本研究では初期脱酸素化速度に男女差は認め. 件下においても0Ⅹy(Hb+Mb)が一定で推移した. られなかった(男性;3.8±1.3%・SeC∴ 女性;. ことは,筋内のミトコンドリアによる酸素利用,. 3.5±1.5%・SeC ̄1).よって,30%MVCと同一. すなわち有酸素的なエネルギー代謝率の低下が示. 強度の運動を負荷したことから,運動初期におけ. 唆される.そのため,筋収縮のエネルギーを維持. る有酸素的代謝によるエネルギーの動員レベルは. するために無酸素的代謝の貢献も大きかったと思. 男女間で差はなかったと言える.水野ら17)は,運. われる.等尺性筋収縮を維持している際,無酸素. 動開始時(10∼30秒)の0Ⅹy(Hb+Mb)低下率と. 的代謝の高進に伴って,筋収縮を阻害する筋内. 筋内の有酸素的代謝に関与する酵素(クエン酸合. pHの低下や無機リン酸(Pi)の上昇が報告され. 成酵素)の活性との間に有意な正の相関関係を報. ているi3).男性ではこのような筋内の生化学的変. 告している.さらに,この低下率は有酸素的代謝. 化が,0Ⅹy(Hb+Mb)が一定レベルに維持したま. 能に優れている筋線維の比率や毛細血管の発達度. ま女性に比較して早期に疲労困備に至るという結. と有意な正の相関関係にあることも認められてい. 94.
(8) 筋酸素動態からみた等尺性掌握運動における筋持久力の男女差. る‘l). .よって,運動開始直後の0Ⅹy(Hb+Mb)低. Ⅵ.参考文献. 下率は有酸素的代謝能を評価できる指標と考えら. れる.しかしながら,図5に示したように,初期 脱酸素化速度と運動継続時間との間には相関関係 は見られなかった.以上の結果は,本研究で用い. 1)Ettinger,S.M.(1999)Muscle sympathetic nerve aCtivity duringexerciseandtheinfluencesofgender.InTarnOpOIsky,. M.(ed).Gender Dif砧rencesin Metabolism.Boca Raton: CRCPress.. た被検筋の有酸素的代謝能に男女差はなく,運動 継続時間にみられる性差は,発揮筋力の違いがも たらす筋内圧の高まりによる筋血流量の阻害に. よって生じたものと思われる.. 2)Hakkinen,K.(1993)Neuromuscularfatigueandrecovery. inmaleandfemaleathletesduringheavyresistanceexercise. Int.].SportsMed.,14:53−59.. 3)Hamaoka,T.,Iwane,H.,Shimomitsu,T,Katsumura,T, Murase,N.,Nishio,S.,Osada,T,Kurosmawa,YandChance,. B.(1996)Noninvasivemeasuresofoxidativemetabolismon. Ⅴ.要 約. WOrking human muscles by nearinftared spectroscopy.). Appl.Physiol.,81:1410−1417.. 本研究では健康で活動的な成人男性6名と成人. 4)Hamaoka,T,Mizuno,M.,Osada,T,Ratkevicius,Aリ Nielsen,A.N.,Nakagawa,Y,Katsumura,T,Shimomitsu,Tt. 女性6名を被検者に,前腕の等尺性筋収縮を30%. andQuistorfr;B.(1997)Changesinoxygenationandphos−. MVCの強度で椎持させ,男女における筋持久力. Phocreatineduringexerciseandrecoverylnrelationtofiber. の差異を近赤外分光法(NIRS)によって測定さ. types and capi11ary supplyin human skeletalmuscle. SPIE,3194:478−484.. れた筋酸素動態[0Ⅹy(Hb+Mb)]の面から検討し. 5)Hicks,A.,McGill,S.andHughson,R.L.(1999)Tissueoxy−. た.結果は以下の通りである.. genation by near−Infrared spectroscopy and muscle blood. 1)男性のMVC(55.1±8.7kg)は女性(34.2. flowduringlSOmetriccontractionofthefbrearm.Can.).Appl.. ±2.5kg)よりも有意に高値を示した(p< 0.05).. 2)運動継続時間は,男性で139.2±29.4秒, 女性で175.8±23.7秒と女性の方が男性と比. Physiol.,24:216−230. 6)Homma,S.,Eda,H.,Ogasawara,S.andKagaya(1996)A.. Near−infrared estimation ofOごSupply and consumptionin. forearm muscles working at varylngintensity・J・Appl・ Physiol.,80:1279−1284. 7)岩根久夫・浜岡隆文(1995)近赤外分光法による生体内酸素. 較して有意に長かった(p<0.05). 3)掌握運動中の0Ⅹy(Hb+Mb)の変化には明ら かな男女差が認められ,男性では初期の直線的 な低下後,20∼25%で疲労困倦まで推移したの. 動態の測定.体力科学,44:475…480. 8)加賀谷淳子(1978)トレーニング効果の男女差−エネルギー. 系の体力について−.体育の科学,28:612−619. 9)加賀谷淳子(1978)局所持久力と全身持久力の接点¶Circula−. tory systemにおけるcentralfactorとperipheralfhctorの検. に村して,女性では初期の直線的な低下後,漸 増し,疲労困備時には約75%にまで達した.. 4)初期脱酸素化速度には男女間に有意な差は認 められず,また,運動継続時間との間にも有意. 討.体育の科学,28:634−639.. 10)加賀谷淳子(1979)血流量から見た筋持久力の性差.束京家 政学院大学紀要,28:634−639. 11)加賀谷淳子(1994)筋持久力一体力を捉える 過去から未来. へ−TJ.J.SportsSci.,13:233−240.. な相関関係は認められなかった.. 以上のことから,30%MVC強度の筋持久力 (運動継続時間)は女性の方が男性と比較し優れ ていた.この性差は筋の有酸素性代謝能の優劣で. はなく,通勤中の筋血流量の違いによってもたら される有酸素性代謝の割合によることが示唆され. た.. 12)木村直・勝村俊二・浜岡隆文・下光輝一(1999)静的運動中 における筋酸素動態とその評価.日本運動生理学雑誌,6:93 −102.. 13)木村直・勝村俊二・浜岡隆文・下光輝−▲(1998)様々な強度. での等尺性運動時における持続時間と疲労因子との関連につい て.体力科学,47:549−560. 14)桑森其介・岩根久夫・浜岡隆文・村瀬訓生・黒澤裕子. (1995).前腕の運動時における活動筋の酸素化ヘモグロビン ・ミオグロビン濃度およびリン酸化合物濃度と細胞内pHとの 関係.体力科学,44:465−474.. 95.
(9) 神林 勲・石村 宣人・′ト林 和美・佐川 正人・武田 秀勝. 15)Maughan,R.J.,Halmon,M.andLeiper,J.B.(1986)Endur− ance capacity ofuntrained males andfemalesinisometric. and dynamic muscular contraction.Eur.才.Appl. Physiol.,55:395−400.. 16)Miller,A.E.,MacDougal1,).D.,TarnopoIsky,M.A.andSale, D.G.(1993)Genderdi鮎rencesinstrengthandmusclefiber characteristics.Eur.J.Appl.Phyisol.,66:254−262. 17)水野真佐夫・浜岡隆文・長田卓也・下光輝一・勝村俊仁・ Quistor代B.・Saltin,B.(1998)運動開始時の筋酸素化レベ. ル低下率とミトコンドリア系酵素活性との関連性.体力科 学,47:765.. 18)Petrofbky,J.andLind,A.R.(1975)Isometricstrengthen−. duranceandthebloodpressureandheartrateresponsedur. inglSOmetricexerciseinhealthymenandwomen,Withspe− cialreference to age and body fht content.Plugers Arch.,360:49−61.. 19)塩崎知美・狩野豊・渡辺重行■鯵坂隆一・・石津正雄・勝田茂 ・岡田守彦・久野譜也(1998)近赤外分光法による高齢者の筋 酸素動態の検討.体力科学,47:393−400.. 20)TarnopoIsky,M.A.(ed)(1999)GenderDi鮎rencesinMe− tabolism.BocaRaton:CRCPress.. (神林 勲 札幌校助教授) (石村 宣人 北海道教育大学大学院生) (小林 和美 札幌市立中の島中学校数諭) (佐川 正人 札幌校教授) (武田 秀勝 札幌医科大学保健医療学部教授).
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