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母子合同面接による摂食障害患者へのスクィグルの適用

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(1)123. 母子合同面接による摂食障害患者へのスクィグルの適用. 竹田 伸也*・井上 雅彦**.  本報告では、摂食障害患者とその母親を交えて母子合同面接を行い、スクィグルを導入することによる 母子の関係性の変化について検討した。患者は10代の女性であり、摂食障害を機にこれまでの従順な態度 を一変し、’. U撃的言動を親に向けるようになった。そのような患者の関わりに、親は従来からの支配的関. わりを維持するばかりで、両者は激しい衝突を繰り返していた。スクィグルを用いた母子合同面接を8回 行った結果、患者は母親に適切に自己主張できるようになり、母親は患者の自己主張を受け容れるなどの 母子間の関係性の変化を認めた。最後に、スクィグルを用いた母子の関係性の変化と治療者の役割につい て論考した。. キーワード:摂食障害、スクィグル、母子合同面接、. 1.はじめに  摂食障害については、生物学的なアプローチか. した報告も多く、治療的技法としても有用である。.  摂食障害の家族面接においてスクィグルを行う. ら心理社会的アプローチまで多角的に検討されて. と、患者と家族双方に対して柔らかい相互関与性. いるが、家族的背景がその成因の有力な条件をな. を高める良い機会を提供できると考える。しかし、. している可能性が高いことは常識となっている. 摂食障害患者の家族面接において、スクィグルが. (下坂,2001)。すなわち、家族内におけるなんら. 用いられた報告例はみあたらない。. かの対人関係の持続的な障害が、患者の症状に具.  本報告では、摂食障害患者とその母親を交えて. 現化されるという一面も否定できないのである。. 母子合同面接を行い、スクィグルを導入すること. 一方、武井(2004)は、摂食障害を遷延化させる. による母子の関係性の変化について検討する。. 要因として、親子間の情緒的交流の不適切さが関 与している可能性について報告している。これら. 「H.事例(A、10代後半)の概要(プライバセー. は、患者のみでなく家族も含め心理的アプローチ. を考慮し、事実を一部改変してある). を行うことが、摂食障害の治療において重要であ. 1.生育歴. ることを示唆している。.  会社員の父と母のもと、第2子として誕生した。.  ところで、スクィグルとは、Winnicott(1971). 同居家族は、本人と父方祖母、両親、兄の5人で. により子どもとの治療面接に使用するために考案. あった。祖母は前時代的価値観を引きずっており、. された絵画ゲームであり、わが国には中井. Aが幼少時より厳しかった。一方、両親ともにA. (1977)によって紹介された。これは、一方(サー. に対して過干渉気味であり、Aに対する要求水準. バー)が行ったなぐり描きの描線に、他方(レシー. はきわめて高かった。祖母の厳しい対応は、時と. バー)が補助線を付け加えてひ・とつの絵を完成さ. して母親に向かったが、父親はそうした対応を静. せる技法である。Winnicottは、本法を”子ども. 観するだけであり、抗えない母親は祖母に対する. とコンタクトをとるひとつの方法にすぎない「「と. 不満をAにぶつけることがしばしばあった。しか. 述べているが、スクィグルを用いて治療に功を奏. し、Aは摂食障害を発症するまで反抗したことが なかったという。従来おとなしい性格であり、学. *鳥取生協病院 **. コ庫教育大学 発達心理臨床研究センター. 生時代を通して友達は少なかった。成績は良くは なかったが、両親の強い勧めで県外の医療系専門.

(2) 124    発達心理臨床研究 第12巻 2006 学校に進学した。. 感、③子どものなぐり描きを否定せずに受け容れ. 2.現病歴. ることによって体験される母親の満足感、などを.  X年4月に専門学校に進学するが、講義内容を. 通して、Aは母親に適切に自己主張を行い、母親. 理解できないことが多く、対人関係もうまくいか. はAの自己主張を受け容れるという良好な関係性. ず、学校で孤立気味であった。寮生活開始の4月. が成立し深化すると想定した。. より食欲不振と痩せが始まり、入学時52kgあっ. 4。面接構造. た体重が3ヶ月後には37kgとなり、無月経となっ.  母子合同面々は、50分間の面接を2週間に1度の. た。見かねた寮母が実家に連絡し、同年7月に両. 割合で実施した。. 親が強制的に実家へ帰らせた。専門学校は休学手. 皿,面接経過(Aの発言を「」、母親の発言を〔〕、. 続きをとり、当院精神科を受診し即入院となり、. 筆者(Th)の発言を〈〉で表現する). 行動制限療法とIVHを用いた高輸液療法を開始.  【退院前面接】. した。入院中は、様々な行動化が生じスタッフが.  Aと両親、主治医、Thで面接を行った。これ. 手を焼く場面も多々みられたが、約1年間の入院. までの治療経過と今後の治療方針について主治医. 治療を終え、退院となった。入院中Aの理解力が. からの説明を伝えた後、Thよりく退院後も心理. 余りにも悪いのでWAIS−Rを実施したところ、. 的なアプローチが重要。その目的は、本人が社会. IQは軽度知的障害に準じるレベルであった。. 的自立を望んでいるので、社会性を育むこと。も.  入院を機に、Aは両親に対して声を荒げて怒り. う1っは、Aさんは自分の気持ちをうまくコント. をぶつけるようになった。しかし、両親はそうし. ロールできないので、気持ちの安定を図ること。. たAの態度を受け容れることはなく、特に母親は. 、そのためには、Aさんが周囲に自分の言いたいこ. Aの発言と全く反対のことを言ってAを説き伏せ. とをうまく伝えられるようになった方が良いし、. ようとする支配的態度が目立った。退院時には体. ご家族の協力が必要となる〉と家族面接への参加. 重は46kgまで回復し摂食行動も増えたが、家族. を促した。すると、〔私が参加します〕と母親が. は相変わらずAに対して過干渉・過要求的であり、. 応じ、Aも「けんかせずに、言いたいことをいえ. Aの自己主張が十分受け止められていない状況で. るようにしたい」と了承した。そこで、スクィグ. あった。. ルの説明を行うと、Aは興味を示したが、母親は. 3,治療方針. いまいち関心が低いようであった。.  家庭内の様子は変化がみられず、退院後もおそ. 【第1回】. らく家族はAに対し.て従来どおり過干渉気味に関.  面接室に入室した母親の顔が険しい。家の様子. わることが予想された。Aは、母親を腹の立つ相. を尋ねると、Aは「専門学校は退学しました。家. 手であると同時に、自分のことを一番理解してほ. ではイうつき気味です。お母さんに当っちゃう。. しい対象として捉えていた。そこで、Aと母親の. ここに来た時もけんかになって。お母さんと話す. 関係を良好なものにするため、母子合同面接を行. と重い話になつちゃう」と漏らし、母親が〔あな. うこととした。言葉を通したやりとりだけでは、. たが禅問答するからこうなるんですよ〕と不機嫌i. お互いが言いたいことを言い合い、相手の見解を. そうに応酬する場面がみられた。. 受け容れ理解することが難しくなると考えた。そ.  まず母親が線を描き、それをThが”家”に仕上. こで、スクィグル法を導入することとした。. げた。次にThが線を描き、それをAぱ大きな卵”.  スクィグルによる治療仮説として、①自分のな. (図1)に仕上げた。最後に、Aの描線を母親は”. ぐり描きを母親が受け容れてくれることによる母. くじら雲”(図2)に仕上げた。仕上げた自分の. 親からの受容感、②臼分のなぐり描きを母親が一. 絵を母親は、〔大きいのがお母さん雲。下にAちゃ. つの絵として完成させることによる母親との連帯. んの雲〕と説明する。すると、Aは「その絵はお.

(3) 竹田・井上:母子合同面接による摂食障害患者へのスクィグルの適用                    125. 母さんらしい。ほんわりしている」と母親の絵に. て時間をとってくれないじゃない」と、母親に対. 感想を述べた。母親はAの絵を見て、〔卵の中か. する不満を早口で述べた。Thは、母親の忙しさ. ら大きくなったAちゃんがバーンと出てきたらい. に共感する一方で、 〈Aさんはお母さんとの関係. いのに〕と感想を述べた。Thが、 〈なるほど、. を大切にしたいと思っているんだね〉とりフレイ. その卵は退院してこれからAさんが生まれ変わる. ムする。. 前触れかもしれませんね〉と伝えると、Aは「そ.  母親の描線をThは”くっつきあう2匹の金魚”、. うなればいいです」と笑った。. Thの描線をAは”波間に浮かぶボール’1(図3). に、Aの描線を母親ぱ屋根にぶら下がるテルテ ル坊主”(図4)に仕上げた。母親が、〔早く良く 評こて㌻ぞ∴・. なってまた勉強できるように、しっかり食べんさ. い〕と強い口調でいってAが顔をしかめる場面が. .〃・ 』夢. あった。Thはくお母さんはAさんのことが心配 で仕方ないのですね。今の話を聞いて思ったんで すが、お母さんのテルテル坊主はAさんのこころ. 鷺,. の雨が速く上がってこころが晴れ上がりますよう にとの願いが込あられてるのか.な。Aさんのは、.       図1 大きな卵. _獣 ‘㍗\ご3 。物.         観.・.}ノ・・」. β  ’ト                 (ご訟、.諮. ∼》 艨@’喰》. どんな大きな波がきても沈まないような存在になっ. たらいいねって感じだね〉と伝えると、母親が 〔私もAの絵を見てて思ったんだけど、(ボールの 両端のロープを指差し)こっちはお母さんがしつ かり持っててもう一方は竹田先生かな?2人がしっ かり支えてるから沈まないよ〕と言った。. 灘㌦\蔓瞳懐5藁遡幽 く勢 o  》   鑓、 図2 くじら雲 鴛. 【第2回】. 一\.  母親は、大きくあくびをしたり、Thと目を合 わさず部屋の装飾品に視線を向けたままだったり と、その場にいることが不自然だと言わんばかり. 図3 波間に浮かぶボール. の態度だった。母親の仕事をねぎらった後、Aに 家での様子を尋ねる。「朝とか夕方にイライラし.          《今 …. ます。それで大声を出してしまったり」と答える と、母親が〔大声を出すって言うか、私が食べん さいって言って、本人が嫌だって怒って声だすく.          ■              r              .               .         んダ  . らいで。そんなに大声で叫ぶってことは無いです〕. と切り替えした。すると、Aは「私のペースで食 べる。お母さんと喋りたいけど、仕事から帰って くるのも遅いし、帰ってきても『疲れた』って言っ.  図4 屋根にぶら下がるテルテル坊主.

(4) 126. 発達心理臨床研究 第12巻 2006. Aは「私の絵は、お父さんと父の日のプレゼント。. 【第3回】.  母親が、最近の女性役割と昔の女性役割の違い. お母さんに何もないとかわいそうだから、かばん. について話し、今の個人主義的生き方をすると、. も描いた」と述べた。すると母親は、〔Aちゃん、. いかに子どもが邪魔かを力説する。Aは合いの手. 最近お父さんに良いメッセージ送ってるよね。. を入れながら聞いているが、理解できていない様. 『お帰り』とか、『ご苦労様』とか〕と言う。. 子。話がAに向き、〔先生がいる時じゃないと、. 【第4回】. あなたは文句を言って話にならないから今言うけ.  母親に家庭での様子を尋ねると、〔自分の事は. ど、もう少し食べて腕を太くしないといけん〕と。. 自分でするようになった。夕食時に食卓を一緒に. 「またその話だ」とAが嫌な顔をする。Thが、こ. 囲めるようになった〕と語った。しかし、Aの将. の期間で良かったことを母親に尋ねると、〔去年. 来の話になり、〔00短大とかどう?赤ちゃんの. と比べると天国と地獄。昔はホントに食べなかっ. 面倒を見てみるのもいいと思うよ〕とAに言う。. たから、今は天国だ。メロンを食べたのもびっく. Aは嫌そうな顔をするが、何も言わない。. りした。でも、それ以上食べて欲しい〕と言う。. Thは、〈お母さんは今のAさんのがんばりをしっ かりと分かってくれてるね〉とフィードバックす る。.             /潮目 、. 、鶏.             1響∵. 薦  =蜜. 図7 雲から出てくる朝日. 図5 父親とプレゼント箱とかばん. ,/ へ…. 図8 子どもと母親が小船に乗って川を渡る絵.        図6 女の子.  この回から、Thが最初に尋ねる家庭の様子に.  母親の描線をThは”車に乗って家族がドライブ. ついて母親から肯定的発言がみられ、これまでの. する絵「に、Thの描線をAは”父親とプレゼント. 母子のスクィグルも柔らかい内容でやりとりが展. 箱とかばん”(図5)、Aの描線を母親ぱ’女の子”. 開していた。したがって、母子だけでスクィグル. (図6)を描く。それぞれに感想を問うと、母親. を展開できると判断し、この回より母子間でのス. は、〔私のは、Aちゃんの絵。だから、 Aちゃん. クィグルとした。母親の描線にAは1雲から出て. が好きなノースリーブの服を着せてる〕と言う。. くる朝日’「(図7)を、母親は”子どもと母親が小.

(5) 127. 竹田・井上:母子合同面接による摂食障害患者へのスクィグルの適用. 船に乗って川を渡る絵”(図8)を描く。感想を. て、Aちゃん焼き鳥食べましたよ〕と嬉しそうに. 問うと、母親は〔本当だったら、私が後ろからA. 語り、Aも「新しい事を初めて経験しました」と. ちゃんのお尻を叩きたいけど。まあ、寄り添って. 笑顔で答えた。. いる感じです〕と述べる。Aの絵を見て〔今のA.  母親の描線にAは”家と家をつなぐ3っのテル. ちゃんみたい。闇から光が出てきた〕と言うと、. テル坊主”(図9)を、Aの描線に母親ぱ浮き輪. Aは「だとしたら、少し太陽出すぎかも」と答え. に入って泳ぐ女の子”(図10)を描く。感想を問. た。. うと、Aは「私の絵は、私の家とお母さんの実家. 【第5回】 ちヒ                    ドゴ へり . 9こコ/㌃ス1:1∵. をテルテル坊主がつないでいるところ」と、母親 は〔私のはAちゃんが浮き輪に入って楽しそうに. 泳いでいるところ。Aちゃんは、今年海に行きた かったみたいだけど、行けなかったから〕と説明. ∴ンジ∠,臥華イ李. した。. 【第6回】.         繁1…欝. 図9 家と家をつなぐ3つのテルテル坊主 、. 『・ヤ. p.\噛. ヤ\. 図11大きなひまわりの下で笑っている母子 図10 浮き輪に入って泳ぐ女の子.  母親が、仕事を休職してAと過ごすようになっ たことが伝えられた。家庭での様子を尋ねると、 Aは「普段どおりの生活を何とか送れるようになっ た。みんなと同じように起きれる。衝突が少なく. なった」と言う。母親は、〔祖母とこの子が時折. 図12バイクに乗っている女の子. けんか。義母は古い人間だからダメ。以前あなた は、「お母さんはおばあちゃんでなく私の味方に. なってくれなかった』と言ったけど、もう答えは.  家庭での様子を尋ねられたAは「イライラしゃ. 出してあるでしょう。なぜ私が仕事を休んでまで. すい。でも、体を動かして気分転換している」と. あなたについたのか。私はあなたが大事だってこ. 言う。母親は、〔祖母が食べろ食べうとうるさく. とです〕とAに言った。Aはその話を黙って聞い. 言って、Aちゃんが『キーツ』となることがある。. ている。母親は、〔この夏2人で花火を見に行っ. でも、私は最近『無理して食べなくていいよ』と.

(6) 128    発達心理臨床研究 第12巻 2006. 画面るようになった〕と語った。母親の描線にA. れまでいろいろあったけど、少し大人になれた気. ぱ大きなひまわりの下で笑っている母子”(図11). がする」と語った。それに対して〔お母さんもそ. を、母親は”バイクに乗っている女の子”(図12). う思うな。自分で嫌な気持ちに向き合えるように. を描いた。感想を問うと、Aは「笑っている2人. なった。去年の今頃と比べて、とても成長したね〕. はお母さんと私」と説明し、母親は〔二人とも楽. と賞賛した。それを聞いて、Aは満面の笑みを浮. しそ・うだね〕と笑って答えた。母親は〔私の絵は、. かべた。母親は、自分の絵に対して〔これからの. Aちゃんがバイクに乗って走っているところ。A. Aちゃんは、のんびり歩んでいけばいいという願. ちゃんは免許とりたいって以前言ってたから〕と. いをこめてカタツムリ〕とこれまでの母親の態度. 説明し、Aは「逆なの!?とても気持ちよさそう. と対極の言葉を述べた。Aは、「ありがとう。自. に走っている」と感想を述べた。. 分にできることからしっかりやっていこうと思う」. 【第7回】. と語った。.  Aは、「最近日記をつけるようになって、自分. 【第8回】. のことを振り返ることができるようになった。家.  家庭での様子を母親に尋ねると、〔私が体調崩. で家族との衝突も少なくなった。嫌なことを言わ. していた時に、よく家事の手伝いをしてくれた。. れたら、聞き流すように。これ、お母さんからの. 家事がうまくなったし、その分しっかり食べるよ. 助言」と言った。母親は、だまってAの言うこと. うになっている。私がAに信頼してもらっている. を聞いていた。. 証拠なんでしょうね。いろんな感情を私にぶつけ.  ∴    ∴.「冤’[㌦ヴン8礎ナ∫,ド.、峡・. てくる。私も、それをしっかり聞きながら思った ことを言っている。Aは、色んな面でだいぶよく なったと思う。これからは、まずは身辺自立、そ. の次に経済的自立だ〕と語った。Aは、「お母さ んと本音で話せている。今までためたことを言い 合えるようになった」と笑顔で語った。.                搾デン.  親子の関係が良くなっており、当初目標とした. ニン /. Aの母親に対する自己主張も適切にできており、.    /    ,. 母親もそれを受けとあている。母子合同面接を終.        図13女性の顔. 結にしても良いと判断し、親子に提案すると了承 する。最後に母親が、〔私たち親子って変わって. グ窪虻騨襟. るんですかねえ〕と笑いながら言う。Thは、. ;怠「 、、『. 一醸. 、辮. 〈それは分かっていました。でも、とても味のあ. る良い親子だと思いますよ〉と言うと、Aが「褒. められてるんだか、どうなんだか」と言って3人 で大笑いした。. IV.考察 図14 カタツムリ. 1.スクィグルにみる母子の心情と関係性の変化  従来おとなしく、親に反抗したことのなかった.  母親の描線にAは”女性の顔’(図13)を、Aの. Aであったが、入院してからの両親に対する彼女. 描線に母親ぱカタツムリ”(図14)を描いた。感. の攻撃的言動はすさまじく、これまでの膿を全て. 想を問うと、Aは、「これは大人になった私。こ. 出し切ったといっても過言ではない様子であった。.

(7)           竹田・井上: 母子合同面接による摂食障害患者へのスクィグルの適用                     129 しかし、そうしたAの態度に母親も負けてはなく、. イメージにこめたように思える。図6は、Aの好. 病棟でのAに対する接し方はこれまでの支配的態. きな服を着せ、風に吹かれたAが描かれており、. 度を十分に踏襲するものであった。退院時のAは、. そこには摂食障害の影が無い。母親の回復への願. 病前の従順と病後の反抗という両極を体験し、衝. いがこめられているようである。図7は、陰惨と. 突を望んでいないにもかかわらず適切なコミュニ. した雲が晴れ上がろうとしており、希望の象徴で. ケーションができないでいた。一方、母親も支配. ある太陽の出現を望んでいるAの気持ちが窺える。. 的でありながらも合同面接に自分から参加を申し. 図8では、母子が小船に乗って新たな世界に向かっ. 出るなど、Aに対する愛情をしっかりと併せもっ. ているが、川面は穏やかではなく、流れが速そう. ていた。しかし、従順から反抗へというAの極端. でゴッゴッした岩に囲まれ、これからのAの道程. な変貌振りに、これまでの関り方に固執すること. が決して平坦なものではないとの漠然とした不安. 以外の対処法、すなわちAをどのように受け入れ、. が垣間見えるが、そこに母親もしっかりと寄り添っ. どのような肯定的メッセージを送ればよいかがわ. ていこうとする覚悟が窺える。ちなみに、その覚. からず、戸惑っていたのであろうと推察された。. 悟は次回語られた〔休職してAと過ごすことにし. したがって、余計な思惑や心理的防衛が入りにく. た〕との母親の発言に現れる。. い絵画を媒介として母子のコミュニケーションを.  図9では、姑と不仲な母親を含め、両家が仲良. 支えることが、本事例のような摂食障害患者の家. くなってほしいというAの願望が示されているよ. 族面接では有意義であると考え、スクィグルを導. うにみえる。図10では、海に行けなかったAの残. 入した。. 念な気持ちを、絵画の上で満たしてあげたいとす.  各図から、母子の様々な心情が読み取れる。図. る母親の優しさが垣間見える。図11では、成長し. 1では、退院してまさに新たに生まれ変わろうと. たひまわりがこれまでしっかりと育まれてきた母. するAが垣間見える。図2では、母親が娘の側に. 子の良好な関係性を象徴しているように思え、母. いて守ってあげたいとの思いが示されている。し. 子で嬉しそうに眺めているようである。図12では、. かし、母雲にくっついている子雲はAの実年齢に. これまでの紆余曲折があり平坦ではなかった娘の. は見合わないほど小さく、母親がAを非力でか弱. 道程を、過去にさかのぼって母親が回想している. いものであると捉えている気持ちがうかがえる。. ようにも思える。これまでの道程を颯爽と走って.  図3は、Aはボールと表現しながらも、前回の. いる娘を描くことで、”よくここまで来たものだ”. 卵と模様が似ている。その卵が、大海原に出て些. と母親の感慨深さが伝わってくる絵画である。図. か不安定にプカプカと浮いており、専門学校を中. 13では、Aはこれまで多くの困難を乗り越え成長. 退しこれからどのような人生を歩んでいけばよい. した自己像を表しているようである。図14では、. のか不安なAの心情を反映しているように思える。. そっなく素早く親の引いたレールを走らせようと. その絵を見て伝えられた〔私と竹田先生がロープ. する支配的な母親の態度は消え、Aのペースでゆっ. をしっかりと持っているから沈まないよ〕との母. たりと人生を歩んでほしいとする願いがこめられ. 親の言葉は、強い支持的メッセージとしてAに受. ている。. け取られたであろう。図4のテルテル坊主は、雨.  このように、Aのなぐり描きを母親はすべてA. に打たれながらもどっしりとしてそのまなざしは. に関する保護的で愛情に満ちた絵に仕上げ、Aは. 限りなく優しい。母親の[早く元気になってほし. 自らの絵の多くを自己に関連した内容に仕上げた。. い”とする祈りがテルテル坊主にこめられ、母親. その結果、絵画を介した相互作用の中で、お互い. の愛情がテルテル坊主のまなざしとなってAに向. がどのようなコミュニケーションを図りたかった. けられているようである。. かを、母子共に冷静に理解することができたと考.  図5は、Aは両親に対する愛情をプレゼントの. える。言葉では表現しづらかったAへの愛情を母.

(8) 130    発達心理臨床研究 第12巻 2006. 親は見事に絵画に託し、治療方針で述べたとおり. 分なかかわりを望み、親は子の病に痛みを覚え何. Aは自分のなぐり描きが母の愛情によって変化し. とか.してあげたいと案じており、互いが互いにポ. た絵を見て、母親から受容されたと感じることが. ジティブな想いを寄せている。にもかかわらず、. できたであろう。村瀬(1993)はスクィグルの治. 親の子を思う保護的なメッセージは、何とかしな. 療要因のひとつに、”(相手の)なぐり描き線をメッ. ければという観念に駆られた支配的メッセージに. セージとして、ありのままに素直に受け取る”こ. ,変わり、〔○○せよ〕との指示が前傾に出たかか. とをあげている。すなわち、レシーバーである描. わりに陥ってしまう。そうなると、子は自分の意. き手は、相手の描線に添わせるように努め、相手. に反する親の支配的メッセージに抗するたあ、衝. の描線に合わせてこちらが折り合いをつけて濃さ. 突せざるを得なくなる。本事例で、面接当初みら. や強さを合わせるという過程を経る。このような. れたコミュニケーションは、まさにそのようなあ. スクィグル特有のプロセスは、極めて受容的かっ. り方に沿うものであった。そこで、筆者はAの母. 相互関与性が高く、言葉によるコミュニケーショ. へのかかわりの希求と母のAへの愛情が攻撃的あ. ンがうまく図れない二者関係を円滑で良好なもの‘. るいは支配的メッセージとして表現された言動を、. へと発展させる道具として有用であるといえる。. 本来の両者の気持ちを反映するメッセージへとり. また、双方が自らのなぐり描きを暖かい絵として. ラレイムした。こうして、お互いの隠されたメッ. 完成させたことによる連帯感は、図8や図11など. セージに光を当てることで、両者の素直な相互交. に垣間見える。そして、母親はこれまでの支配的. 流を支えた。このような閉塞した言語的かかわり. 在り方を一変し、Aのなぐり描きを受け入れるど. に陥りやすい親子のコミュニケーションの風通し. いう体験を味わった。その絵をAに喜んでもらえ. を良くすることも、このような事例における治療. たことによる満足感は、娘の自己主張を受け入れ. 者の重要な役割となると思われる。. ていこうとする新たなる態度を促したと推測する。.  筆者は、治療初期にスクィグルに実際に参加し、.  こうしたスクィグル体験を通して、母親による. 三者でスクィグルによるやりとりを展開した。田. 強制や指示という一方的なかかわりは消え、家庭. 中(1993)の指摘にもあるように、スクィグルに. 内での親子の衝突も減った。終結のときに聞かれ. おける治療者の役割は決して小さくはない。母子. た〔Aがいろんな感情を私にぶつけてくる。私も. の相互交流を促し関係性を深めることを目的とし. それをしっかり聞きながら思ったことを言ってい. た技法導入であっても、初期には治療者もスクィ. る〕との母親の発言と、「お母さんと本音で話せ. グルに参加したほうがよいと考える。その理由と. ている。今までためたことを言い合えるようになっ. して、第一に治療者が加わりなぐり描きや絵画を. た」とのAの発言は、Aが母親に適切に自己主張. 描き示すことで、円滑なスクィグルの展開を促す. し、母親もAの自己主張を受け容れるという良好. ためである。第二に、母子が本来望んでいるであ. な母子関係が深化したことを示唆している。した. ろう関係性を反映するような柔らかいイメージの. がって、本事例のような家族背景を抱え、家族内. 絵を描くことで、破壊的絵画の表出を防ぎ、本来. 人間関係も原因の一端を担っていると思われるよ. 母子が表現したい描画を促すことができると考え. うな摂食障害例に対して、母子合同面接を通して. るからである。スクィグルが円滑に展開され母子. スクィグルを適用することは、母子の良好な関係. に肯定的発言が増え始めると、治療者はスクィグ. 性を支える有意義な手段となりうるといえる。. ルから抜け、母子間でのスクィグルを見守ること. 2.治療者の役割. で、両者の関係性を支えるのがよいであろう6.  本事例のように》摂食障害患者とその親のコミュ.  一方、絵画から推測される描き手の想いを治療. ニケーションでは、しばしばねじれ現象が生じや. 者の感想として言語化することで、スクィグルに. すいように思われる。すなわち、子は親からの十. よる親子のやりとりを側面から支えた。また、描.

(9)           竹田・井上:母子合同面接による摂食障害患者へのスクィグルの適用. き終えた後に、それぞれの絵についての感想を母 子に述べてもらった。これにより、自分の絵にこ められている想いや相手の絵を見て感じるものを、. お互いに言語化することで、母子のコミュニケー ションを促したのである。また、スクィグル当初 にみられた母親の支配的メッセージをリフレイム. して、隠されたメッセージとしてのAへの愛情を 言語化し、毎回スクィグルを介した母子のコミュ ニケーションを見守った。その結果、スクィグル を介した暖かい言語的やりとりからはみ出て、お 互いの絵を批判したり指示したりするなど、治療 前に目立った衝突はみられず、日常においても母 子の衝突は目立たなくなった。以上より、母子の コミュニケーションを促す「つなぎ」と母子が安 心して相互交流する「枠」としての治療者の存在 も、母子間でスクィグルを実施する際の重要な役 割となろう。.          文  献 村瀬嘉代子(1993): スクィグルの治療促進的  内面過程.臨床描画研究、田、35−50.. 中井久夫(1977): ウイニコットのSquiggle.  芸術療法、8、129−130.. 下坂幸三(2001):摂食障害治療のこつ.金剛出  版.. 武井美智子(2004):心理・生理・行動面からみ  た摂食障害の慢性化要因.心身医学、44(12)、  911−918.. 田中勝博(1993):スクィグル法の実際臨床描  画研究、V皿、19−34. Winnicott, DW.(!971):Therapeutic Consulta−  tion in Child Psychiatry. Hogarth Press.. 131.

(10) 132. 発達心理臨床研究 第12巻 2006.    J・i・t・hild−mqth・・‡h・・apy. with the use of squiggle..              for.a patient with. eating diso.rders. Shinya T. `KEDA*.. Masahiko INOUE**.            *Tottori Seikyo Hospital      (25零s・・hi・・一・nsen, T・tt6・il 680−0833) **. benter for Development and Clinical Psychology,.     Hyogo University of Teacher Education.        (Katoね一Gun,Hyogo−Ken 673−1494).   In this report, we examined the effect on joint child−mo㌻her therapy with the use of squig91e. for a patient繭th eating disorders who was in her teens. She conflicted with. hgr mother who tebded to force her daughter’s hand. The patient could assert herself and her mother accepted. daughter’s assertion through eight sessions of the joint child−mother therapy with the use of ・q・iggl・・Final!・・w・discursed・he effect・職・ig91・t・f・・ter・h・i・i…r・・ti6n a・d・h・r・1・・f therapists.. Key Words:eating disorders, squiggle, joint child−mother therapy.

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参照

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