HoneybeeSclenCe(2001)
社会性狩 りパテの集合住宅
アシナガバチやスズメバ チなど社会性ハチ類 の生活の舞台 とな っている巣 は,昆虫がっ くる 巣のなかで も最高傑作 といわれる. それ らは都 市 の郊外 に林立す る高層 アパー ト群 を連想 させ る.人間の家 もハチの巣 も,住む ものにとって 生活の中心であり,子育ての場で もあり, また やす らぎの空間で もある. 社会性狩 りバチの巣 にはさまざまな形や構造 が見 られるが,その進化 の歴史を,空間構成の 点か らながめると,
「線-面-面 の積み重ね」と いう流れに気がつ く.狩 りパテで も単独生活を して い る ドロバ チや アナバ チな どの巣 の多 く は,土中や竹筒内につ くられ,幼虫が育っ育房 は縦一列 に並んでいる場合が多 い.社会性狩 り バチで も,育房数の少 ない原始的なチ ビアシナ ガパ テ属Ropalidiaや ホ ソ ア シナ ガ バ チ属 Parapolybiaの仲間で は,線形 に細長 く育房 を 並べた巣が見 られ る (図 1,2). その育房の口を同 じ方 向に向けて束ねると,松浦 誠
-スの実型 を した 「巣盤」 となる. これは六角 形 の育房を平面的に並べた もので, アシナガパ テ属Polistesのよ うに家族 の数 が あま り多 く ないグループではごく普通 に見 られ る (図 3). ところが, スズメバチ亜科のように数百∼数 万の-チが同居す る大世帯では, 1個の巣盤を 横 に広 げるには限界がある.そこで,巣盤 をい くつ も積み重ねることによって,利用空間を効 率 よ く広 げ,収容力を増 や している. スズメバ チの場合,新 しい巣盤 は下へ下へ と増築 され, 数個∼数十個が重ね られて,それぞれが大小 の 支柱で支え合 いなが ら吊 り下 げ られている (図 4). このように,-チの巣の構造 は,その中の住 人,すなわち家族が増え るにつれ,一次元-二 次元-三次元的空間利用へ と進化の方向がみ ら れ る. そこにはい くっかの幾何学的解決を うかが う ことがで きる. アシナガパテやスズメバチの円 図1 ジャコブソンチビアシナ 図 2 細い木の枝にぶら下がる 図 3 7クモンアシナガバチの ガバチの営巣初期の細長い巣 ヒメホソアシナガバチの営巣後 営巣後期の円い巣盤 (インドネシア ・スマ トラ) 期の巣図4 土中のクロスズメバチの営巣末期の巣 (外被を剥いだ状態) 形の巣盤 は,最短の輪郭線 によって最大の面積 を包み込む 「円」 を志向 した ものである し, ス ズメバチの外被 に包 まれた球状の巣 は,最小の 体表面積 において最大の容積を包み込 もうとす る 「球」への帰結 を しめす幾何学的原理である. これは,巣の材料 を もっとも効率 よ く利用す る ための 「ハ チの巣 の経済学」 といえ るだ ろ う (松浦,1988a,1995). 紙製 の巣 ハチの巣 は種 によってさまざまな材料が用 い られるが,その耐用年数 によって も巣材が決め られる. ア シナガバチやスズメバチの場合,栄 は1年限 りの使 い捨てであるが,身近 に得 られ る植物 の繊維や繊維質をふ くんだ木材を馨 り取 って,唾液 と混ぜた ものを引 き伸 ば して巣 をっ くる. このや り方 は,人間のつ くる紙 とそ っくりな ので,アシナガバチを英語 で「paperwasp:ペ ーパ ーワスプ (紙バチ)」 とい うの もうなず け る.紙 に も2タイプがあ り,植物 の靭皮繊維 を 材料 と した 「和紙」 は水 に強 く耐久性 に優れて いる. アシナガバチ亜科のすべての種や,スズ メバチ亜科 で も樹上営巣製 のホオナガスズメバ チ属
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のつ くる和紙製 の巣 (図 ll)は,風雨や E]光 にさ らされた環境下で も丈 夫でび くともしない. 一 方,地 中 営 巣 性 の ク ロ ス ズ メ バ チ 属Ve
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や大 型種 の多 い ス ズメバ チ属Ve
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の巣 は,朽 ちた材木の木質部や,生 きた樹木の 樹皮 などを細か く噛み砕 いてチ ップとし, それ 社会性 カ リパテにとって, ア リは小型 なが ら 油断のな らない捕食者で, とくに女王バチが単 独で巣 をっ くっているあいだは,留守中に卵や 幼虫が狙われやすい. アシナガバチ亜科のアシ ナガパテ属, ホソアシナガバチ属,チ ビアシナ ガバチ属 などの巣 は, 1本 の細 い巣柄で支え ら れた 「ハスの実」状を しているが, このタイプ の巣 は, ア リの うろつ きまわる空間 と巣の本体 との接触をできるだけ小 さ くす るように,細 い 支柱でつな ぐことによって, ア リに発見 され る 確率を少 な くしている. さ らに女王バチは腹端の ファンデアフェ ヒ ト 腺 と呼ばれる分泌腺か らア リの忌避す る物質を 分泌す る能力を もっている (Jeanne,1970). とくに外出直前やア リが巣 の近 くに現れると, 女王バチは頻繁 にこの分泌物 を支柱 に塗 り付 け る (図 5).これによって女王バチが不在中や 目 の届かないときで も,歩行 だけにたよって攻撃 を しかけるア リの侵略を防 ぐことがで きる. こ の化学兵器 も,働 きバチの羽化後 は,用済み と なる. なぜな ら巣上 に待機す る働 きパテが,支 柱 のかたわ らか ら巣へ接近す るア リにたえず 自 図5 外出前に巣盤の支柱に腰端をこすりつけてア リの忌避物質を塗るトガリフタモンアシナガバチの 女王バチ図6 土中の木の根につくられたオオスズメバチの 女王バチによる作り始めの巣 を光 らせ,実力行使で追 い払 うか らである. スズメバチの巨大 な巣 も,最初 はたった1匹 の女王バチによってつ くられる (図 6).働 きバ チが羽化 してか らの巣 とい うのは,大 きくて頑 丈で, まさに 「-チの巣城」の名前 にふ さわ し い (図 7).ところが,女王バチのつ くる巣 は, 大 きさがせいぜい ピンポ ン玉かテニスボール く らいまでで,手で触れると壊れそ うな単純 なっ くりの工芸品 といえる. ところが,それ らの小 さな巣 に も女王バチの 配慮がいたるところに込 め られている. たとえ ば,巣全体 を支えている吊 り手 の支柱 に注 目 し てみよ う.その表面 にはスズメバチ属の大型種 では女王バチの唾液が厚 く塗 り付 け られ, まる で漆を塗 ったように鈍 く光 っている.一方,小 型種の クロスズメバチ属 やホオナガスズメバチ 属では,女王バチのつ くった巣 はた った
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枚の 三角形 を した紙状の吊 り手 に巣の重量のすべて を委ねている (図8).土 中に巣をっ くるクロス ズメバチVespulalewisiiでは, その厚 さはわ ずか0.2mmで,付着部 の三角辺 の幅 は最大で 1cmもない.木の枝 などに巣をかけるホオナガ スズメバ チ属 はその部分 はさ らに薄 くて小 さ い. この三角形 の吊 り手 は長 さ1cmほどであ る が, よ く見 ると下のほうに行 くにつれて しだい にね じれなが ら細 くなっている. クロスズメバ チでは下側か ら見 ると左 まわ りに900のね じれ を もっているが, ホオナガスズメバチ属ではど の種 もさらにね じれた螺旋状 を している. どち らも最後 には棒状 にのび,幼虫室のある巣盤を 図7 地表に近い木の枝のツマグロスズメバチの発 達 した営巣後期の巣 支えている (松浦 ら,1984;松浦,1988b). このね じれの部分 に用 い られている素材 は, 外被や幼虫室の壁 に比べ, はるかに細か く噛み 砕かれて徴密 にな っている.女王バチが この吊 り手 をっ くるときは,数十分 をかけて念入 りな 作業 を し,た くさんの唾液を混ぜて材料を強化 す る. とくにホオナガスズメバチ類 は,で きあ が ってか らも,たえずその表面 に多量の粘着性 の唾液を塗 り付 けて,補強を怠 らない. こうし て,ね じれを もった三角板状の吊 り手 は, しだ いに増 してい く幼虫室の重量や,巣の振動 を巧 図8女王バチの初期巣を支える巣柄の三角板は,ク ロスズメバチ (上)では900のねじれであるが,ホオ ナガスズメバチ (下)の吊り手はさらに螺旋状にねじ れている (松浦1988bより)スズメバチの巨大な巣を見ていると,「いっ のまに, どうや って大 きくなっていくのだろう か」 という疑問が湧 く. というのは,巣 は厚 い 外被で全体がが っちりと覆われているし,外被 を剥 ぐと内部 にはた くさんの巣盤が隙間な くぎ っしりと詰 まっていて,巣を広げる余地 などま った くなさそうである. 巣の前で1日中観察を続 けたとして も,外か ら見ているかぎりでは外被が膨 らむわけではな い し,変化 はほとんど目には見えない.それな のに,夏か ら秋 にかけて,-チの活動の盛んな 時期には3日も問をおいて行 ってみると,巣 は 確実に大 きくなって,形 も多少変わ っている. -チはどのように して巣の拡張工事を仕上げて いくのだろうか. スズメバチの巣の出入 り口近 くに立 って,外 か ら戻 って くる-チを見ていると,大顎に何か を しっか りとくわえている.幼虫の餌 となる昆 虫などの肉団子か,巣の材料 となるパルプのい ずれかである.後者の場合,ハチは一直線に巣 の中へ入 ってい くが,数十秒後には同 じハチが ふたたびパルプを くわえて,出入 り口か ら現れ 図9巣材を口にくわえて引き伸ばしながら,外被 を作るツマグロスズメバチ て薄 く引 きのばされてゆ く (図 9).パルプの材 料 はた くさんの-チによって,いろいろなとこ ろか ら集め られて くる.それ らは茶色や白色 な どの色調の違 った材 として,次々と細 い帯状 に 継 ぎ足 され,貝殻状の空気室 に仕上 げられて, 外被の表面を うろこ状に覆 っていく.スズメバ チの表面 に見 られる縞模様 はこうした労働の積 み重ねの結果である. それでは,巣盤を構成す る個々の育房 はどの ように してつ くられるのだろうか.六角形の育 児室の壁は,外被 に くらべて一見 して徹密で滑 らかな仕上が りになっている. これは外か ら巣 材 を集めてきた-チとは別 に,巣内で育房づ く りを行なうハチがいて,巣の内側か ら外被を留 り取 り,それをさらにていねいに細か く噛み砕 いたものを育房の材料 として利用 しているか ら である.そのうえ,留 り取 った外被 と巣盤 との 間にはたえず新たなスペースがで きるので,ハ チはそのわずかな隙間を利用 して,巣盤の外縁 に新 しい小 さな育房 を付 け足 してい く.だか ら,スズメバチの巣の建築法 というのは,まず 外か ら巣材を集めてきて, いったんは粗 い素材 で外被の外側に空気室をっ くり,外壁を少 しづ つ厚 くしていく.一方で,外被を内側か ら削 り 取 って,それを育房の壁の材料 として リサイク ルすることを繰 り返す. こうした作業は働 きバ チの分業によって行なわれ,巣 という集合住宅 を 徐 々 に大 き く仕 上 げ る (松 浦,1988b; 1995). エアコン完備 アシナガバチ亜科 は熱帯か ら亜寒帯まで広 く 分布 しているが,夏の熱 い時期を活動の盛期 と しているので,熱帯起源 と考え られている.そ
125 図10 トガリフタモンアシナガバチの発達 した巣. 他のアシナガバチに比べて育房が深く,巣盤周辺にあ る育房は子育てに使われない のなかで,わが国では,北海道 に産す る トガ リ フタモ ンアシナガバチ
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が,世 界で もっとも北方 にまで分布 を広 げたアシナガ バチと して注 目されている. このハチの巣 は本 州の平野部 に産す る近縁種 の フタモ ンアシナガ バチに比べ ると,育房の深 さが約2
倍 に達す る ことや,巣盤の周辺の育房 には卵を産みつけず に空室のままに してお くこと, さらに繭の蓋が 他のア シナガバチと異な り,黒 い上塗 りがある などの特徴 を もっている (図 10). こうした深い育房や空室のスペースは他のア シナガバチ属の巣 に比べ ると,一見無駄 なよう に見える. しか し, このアシナガパテにとって は,北へ進出す るに際 し,育房の断熱 と保温の 効果をね らった もの と考 え られる.寒 い地方で は,短 い夏のあいだにで きるだけ早 く幼虫が発 育を完了す るように,少 しで も高 く安定 した温 度を必要 とす る.それには,育房全体 を長 くす ることによって熱の損失 を少 な くし,巣盤の周 辺 に空房を設 けることによって,中央部 に位置 す る卵や幼虫のいる育房 の保温効果を増 し, さ らには繭を黒 く塗 って太陽の熟を吸収 し,巣温 を高めていると考え られ る. こうした工夫 によ って,秋遅 くまで活動 を続 けるスズメバチ類の 巣の外被 と同 じよ うに,巣温を保持す る機能を も っ て い る (Yamane and Kawamachi, 1975). 一方, スズメバチの巣 の場合,巣全体 は厚 い 外被で包 まれている. この外被 は幼虫などをね らうさまざまな外敵 の目をそ らすだけでな く, 図11 ニッポンホオナガスズメバチの営巣後期の巣 の内部.厚い数層の外被は断熱効果が高い 断熱材 としての効果が高 く,巣の保温 に役立 っ ている.外被 は幾層 もの貝殻のような空気室か らで きているので,暖まった空気を蓄えて,気 温 の急激 な変化 に対 して も調節力が あ る (図 ll). スズメバチの巣 は秋 にな ってか ら急速 に大 き くな り,次世代を引 き継 ぐ新女王バチや雄パテ が育て られる. その ころのスズメバチの巣の内 部の温度 は, いっ も30℃∼32℃ はどある (松 捕, 1988b). こ れ は ミ ツ バ チ の 育 児 圏 の 35.5℃ とい う安定 した室温 には及ばないが,外 の気温が 10℃前後 の ときで は 20℃以上 も高 く 保 たれている. こう した高 い巣温 を保 つ ために必要 な熱源 は,巣の内部のハチの動 きか ら生ず る運動熟が かかわ っている.-チは変温動物であるか ら体 温 は不安定である. しか し,働 きバチが巣の中 で動 き回 った り,幼虫の呼吸や運動などによっ て熟が生 まれるか ら,それ らの運動熟を逃 さず 有効 に利用 しているわけだ.実験的には,スズ メバチの巣か らすべての成虫を取 り除 いて も, 幼虫だけである程度 までは巣の温度 を高めるこ とがで きる. さらにアシナガバチやスズメ/ヾチの巣を透か してみると,針で刺 したよ うに小 さな穴が無数 に開いている. それ らの穴 は巣内で うごめ く幼 虫や成虫の体か ら出され る炭酸 ガスや余分 な湿 気を巣外へ送 り出す とともに,外の新鮮 な空気 をたえず供給 す る通気孔 の役 目を果 た して い る. しか し,空気の対流 を許す はどの隙間では学図書刊行会,札幌.291pp.
松浦誠.1995.社会性 カ リバチの生態 と進化 北海道 大学図書刊行会,札幌 353pp.
松浦誠 ・山根正気. 1984.ススメバチ類の比較行動 学.北海道大学図書刊行会,札幌 428pp. Yamane,S.andT.Kawamachi.1975.Kontyu3
:214-232. 追記 :本稿 は,1998年3月にINAX出版より発行 さ れた 「蜂 は職人 ・デザイナー」中の拙稿 「狩 りバチた ちの集合住宅」に若干の書 き直 しを加 えた うえで転 載 した ものである.転載 を許諾 されたINAX出版 に 厚 くお礼を申 し上げる. plants. The relatively simple nests of the i n-dependent-founding polistine wasp are
suspended from apetiolewith aglandularse -cretion thathasant-repellentpl■Operties. This typeofdefenseisadaptedtosolitaryfounding becauseitiseffectivewhetherthequeenlSOn thenestoroffonaforagingtrip.Thevespine embryonestconsistsofthethreeparts;pedicel, combandenvelope.TheDoLichovespulapedicel issimilarin shapeto thatofVespula,always withaspiraltwist. Oneimportantfeaturepe -cullartO DollChovespulais the coating ofthe lowerpartofthetwistingareaandofthetrue pedicelwithablackishbrownoralsecretionof arubberyconsistency.Thespiraltwistandr ub-bery secretlOn notO111y absorbtheshock pr o-duced by the queen moving around on the comb,butalsoprotectagainstphysicaldistur b-ancecausedmainlybywinds. Pointsinwhich building activitiesoftheVespinaedifferfrom thePolistinaeare二(1)thenestmaterialcollect -ed inslde oroutside the nestby a queen or worker is always processed by the collector, and (2)cellinitiationandenlal・gementOfcell wallsaremadewi thnestmaterialscollectedby gnawingofftheenvelope.