ミツバチ科学26(4)・159-162 HoneybeeScience(2005)
キンリョウへンの花香にニホンミツバチだけでな く
トウヨウミツバチ原亜種 もイン ド亜種 も誘引される
菅原 道夫
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キ ン リョウへ ンCymbjdllum 17oTl'bundumの 花が,ニホンミツバチの働 き蜂や雄蜂だけで な く,分蜂群や逃亡群 までも誘引 して しまう こ とが知 られてい る (福 田,1988:佐 々木, 1992).古 くか らこの現象を,ニホ ンミツバ チApl'sceranajaponl'caの養 蜂 家 は,分 蜂群 の捕獲 に利 用 して きた (福 田,1988;松 浦, 2003). この点に関して,ニホンミツバチの働き蜂の ナサノフ腺から分泌される集合フェロモンと同 じ成分が花香に含まれていると報告されている (SasagawaandMatuyama,1997:1998).しか し,それ らの物質によって分蜂群や逃亡群を誘 引 し,集結させたとい う報告はない. このニホンミツバチを誘引する現象は,辛 ンリョウへ ンの交配種やデポニ アヌムC ym-bl'dl'um devonJ'anumの花でも見 られること (管 原,2001a;菅原,2001b), さ らに,巣 か ら 飛び出た 自然分蜂群が,キ ンリョウへ ンの花 だけでな く交配種 オオイ ソC.non'bundumx hyb.ign.や ミス ・ムフェツ トC.devonl'anumx norl'bundumの花やデポニアヌムの花にも誘引 され,蜂の群れが花に集結 してしまうことが明 らかにされている (菅原,2002). 私たちは,これらの蜂を誘引する花香が花の 中心を形成する唇弁 (lip)やずい柱(colum)で はな く花弁(petal)と雪片(sepal)から放出され ていることを蜂の群れを利用 した検定法により 明 らかに した (Sugahara,2000).今回,キ ン リョウへ ンの花弁 と雪片をエーテルで抽出 し, その試料を用い,蜂の群れを利用 した検定法に よってニホンミツバチ とほかの2亜種の試料へ の誘引の有無を調べたので報告する, 方法 1.検定に用いた トウヨウミツバチApI'SCerana a)二ホンミツバチ
A.
C.japon/'ca 大阪府枚方市で分蜂群を捕獲 し,セイヨウミ ツバチ用の巣箱にセイヨウミツバチ用の巣礎を 張った巣板を入れ,巣板の間隔を狭 くして,守 口市で飼育されている蜂群を用いた.b
)
トウヨウミツバチ (原亜種)A.
C.cerana 台湾,基隆市 においてセイ ヨウミツバチ用 巣箱で飼育され,6
枚巣板の蜂群を用いた.台 湾の トウヨウミツバチは,清朝,乾隆皇帝時代 (300年前)に大陸から持ち込まれ,「再来種蜜 蜂」 と呼ばれている (安,2002.私信) ⊂)イン ドミツバチ (イン ド亜種)A.
C./'nd/'ca タイ,チェンマイ大学構内でセイヨウミツバ チ用巣箱に飼育されている蜂群を用いた.天板 に巣が接着 し巣板を 1枚取 り出す ことが出来 なかったので,外蓋を持ち上げ巣全体から蜂を 取 り出した.この蜂群は,チェンマイ大学周辺 で捕獲されたものである.2.
キンリョウヘンの抽出物の作成 4月下旬∼ 5月上旬に咲いたキンリヨウへン の花か ら花弁 と等片を分離 し-80℃で冷凍保 存 した.検定直前に,冷凍 した花弁 と雪片(200 花分)にジェチルエーテル250mLを加え 1昼 夜放置 し花香を抽出 した.10花分を単位に窒 素ガスを吹き込み2mLに濃縮 し検定用の試料 とした.3.
検定法 巣箱から巣板を抜き出し,巣箱の前に敷かれ160 図1 検定中の筆者.巣板からミツバチをベニヤ板 に払い落としているところ. たベニヤ板の上に蜂を落 とすと,蜂は巣箱の入 口に向かって列をなして歩いて巣に帰る.セイ ヨウミツバチの場合,集合フェロモンが同定さ れている.蜂が飼育されていない空箱の前に集 合 フェロモン (スウォームキャッチ )を置 くと 蜂は空箱に入って しまう.これは,巣箱の入口 か ら蜂を誘引する集合フェロモンが放出されて いるために起 こる現象であると考えられる.こ の現象を参考に検定法を考案 した. 蜂群 が飼育 されている巣箱の近 く (5m以 内)にベニヤ板 (90×90
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を敷 き,その 上手に扇風機 (SANYO EF30KD)を設置 した. 常 に微風がベニヤ板の上手か ら下手に流れる ように し,ベニヤ板の上端に 21×15c
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の黒 画用紙 (アルジ ョ ・ウイギ ンス ・キ ャンソン K.K.製)を二枚横に並べて置いた.黒画用紙の 1万にピペットで試料を載せ,他方をコン トロ ール とした.試料を載せた直後に巣板か ら蜂(約 300個体)をベニヤ板の中央 に落 とし,蜂の 行動をビデオカメラで撮影 し記録 した (図 1). 結果 ニホンミツバチでの検定結果を図2に示す. 落 とされた蜂は,3分後には右側の試料を載せ た画用紙上に集結 しだし,5分後には大部分が 画用紙上に集結 した.この ときの気湿は,14 ℃であった.集結 した蜂は,30分以上画用紙 上に見 られた. 図3は, トウ ヨ ウ ミ ツ バ チ 原 亜 種A.C. ceranaでの検定結果である.ベニヤ板が用意 できなかったので,円形の机の脚を取 り代用 とした.気温が高い (気温 30℃)のが原因か, 多 くの蜂が飛び上がった後,試料側の画用紙(左 側)に着地 し集まった (図3a).不用意に机 の端に置いた,試料が入っていた小瓶の周辺に も蜂が集まった (図3b). 図4
は,イ ン ド亜種A.C.jndJ'caでの検定結 果である.図の下側の画用紙に試料をピペット でのせ,直後に巣箱の外蓋を持ち上げベニヤ板 の上で振動を加えることで蜂を落 とした.うま く調節ができないため予定より多 くの蜂が落下 して しまった.気温 23℃.試料側に落 とされ た蜂は,図4aに示すように5分後には,画用 紙上に集結 した.台湾での検定時の反省か ら試 料 ビンは,ベニヤ板から離れたコンクリー トの たたきの上に置いておいたが,ここにも蜂が集 まった (図 4b). 考察 トウヨウミツバチは,現在4亜種, 日本亜 檀 (ニホンミツバチ)A.C.japonl'ca,原亜種A. C.ceJlana,イン ド亜種A.C.1'ndl'ca,ヒマラヤ亜 種A.C.hl'malayaに区分 されてい る (Ruttner, 1988).今回私たちはその うちの3亜種がキン リョウへンの花弁 ・雪片抽出物に誘引されるこ とを確かめた.キンリョウへンの花香に誘引さ れる現象は,おそらくトウヨウミツバチに共通 したものであろ う.先に報告 (菅原,2001b; 菅原,2002) したように,デポニアヌムの花 にもニホンミツバチが誘引されることから, ト ウヨウミツバチは,キンリョウへンとデポニア ■ ■ ■ ■■′
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図2 ニホンミツバチがキンリョウへンの抽出物 に誘引される様子.右一試料,左-コント ロール.試料を蜂に提示後,5分後の写真轟
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¥ 図3 トウヨウミツバチ原亜種がキンリョウへンの抽出物に誘引される様子. a.検定結果 :右-コントロール,左一試料.試料をハチに提示後,5分後の写真 b.試料ビンに集まる蜂 ヌムの花香に含 まれる共通の成分に誘引される と思われる. キンリョウへ ンは,中国南部か ら台湾にかけ て分布 し,デポニアヌムはネパール,シッキム, ブー タン,タイの北部 に分布域を持つ (David andPhuip,1988).これ ら二種のシンビジュム の 自生す る地域 に生息す る トウヨウミツバチ は,分蜂時にこれ らのランの花に群れが集結 し て しまうことが示唆されるが,これまで,自生 するランに蜂の群れが集結 した とい う報告はな い.自生地でのランの個体数 と蜂群の数が少な いことが原因かも知れない. 多 くの花は,花蜜や花粉を報酬 として用意 し 昆虫などに花粉媒介をさせている.キンリョウ へンには,報酬 としての花蜜も利用できる花粉 も用意されていない. しか し,ニホンミツバチ の働き蜂や雄蜂が訪れ花粉媒介をする (Sasaki eta1.,1991).花香が蜂に とってよほど好 まし いものなのであろう.さらに,分蜂群 ・逃亡群 も誘引され花に集結する.集結 した群れは,多 くの場合 1昼夜花の上 に滞在す る.集結 だけ では,花粉媒介は起 こらない (菅原,未発表). 蜂の群れの集結は,花にとって花粉媒介以外の 生態学的な意義があるように考えられる.蜂の 群れが集結すると,蜂球の中心は,常 に35℃ 近 くに保たれる (菅原,2003).蜂が花に集結 す る と,花は24時間35℃でイ ンキ ュベ- ト され ることになる.多 くのランでは,受粉 か ら受精までの時間が長 くかかる (ZhangandO' Nell,1993).花の多 くでは この期間,たいへ ん温度依存性が高 く,温度が高いと受精が速 く 起 こる.蜂の集結が,ランの受粉か ら受精まで d ∵ 奉 . _.〈 布 施 」 勝 [ 図4 インドミツバチがキンリョウへンの抽出物に誘引される様子. a,検定結果 :上-コントロール,下一試料.試料を蜂に提示後,5分後の写真 b,試料ビンに集まる蜂162
の過程に促進的に働 くなら,ランが蜂を集結さ せる意味がある.今後,この点を追及 してみた
い .
謝辞
A.C.cellanaおよびA.C.)'ndJ'caの検定のため に多大な便宜をいただいた,国立台湾大学の JamesK.An教授,玉川大学の佐々木正己教授 に感謝する.本研究の一部は日本学術振興会科 学研究補助金 (奨励研究 (B))による. (菅原 :〒570-0008守 口市八雲北町1-29-5,Park: 〒 618-8503畠本町若山台 1-1サン トリー生物有機 科 学研究所 ,他 の著者 は下記参 照) 引用文献
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佐々木正己.1992,ミツ/くチ科学 13(4):167-172 Sasagawa,H andS・Matsuyama.1997.Zool.S°i.14
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403-418.
MICH10SUGAHARALILHoPARK∼,YuE-WENCHEN3, PICHATKoNCPITAK4・AggregationActivityofApJ's
ceTanaSubspeciesonCymbl'dJ'umnorJ'bundum.Ho n-eybeeScJ'ence(2005)26(4) 159-162 1)1-29-5,
Yakumokita,Moriguchi,Osaka,570-0008Japan.2) SuntoryinstituteforBioorganicResearch.1-1,Shi -mamoto,Osaka.618-8503Japan・3)Departmentof AppliedAnimalScience,NatlOnalI-LanInstituteof Technology.トLan,260,RepublicofChina,4)Depart一 meれtofEntomology,FacultyofAgriculture,Chia
ng-MaiUniversity,ChiangMai,50200Tha血nd
lnthisstudywetestedtheaggregationactivity ofthreesubspeciesofAplsc'eTana;AcjaponJ'ca,A cceranaandA cJ'ndlcatowardCymbjdJ'um fJoI・Il bundumTheorientalhoneybees,A・C・ceranaandJ4・ cl'ndjcasharethesamehabitatasCnon'bundum
andC.devonl'anum.
ThesubspeciesA.cceranaandAc.J'ndl'Ca
wereattractedtoandaggregatedontheether extractofC.FlorJ'bunduminthesamemanneras A・C・j'aponica・Althoughwedldnotperform the aggregationtestinA c・hL'maJaya.weinferthat
C・floI・Jbundumcausesaggregat10nlnalloftheAI ceranasubspeciesWhenAc・japonjcaaggregates ontheflower.thesurfacetemperatureoftheflower increasesto350C Extendedexposuretohigher thanambienttemperaturesacceleratestheprocess betweenpollinationandfertillZation