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世界に向けて千葉の企業と教育の活性化(1):持続可能な開発目標(SDGs)に向けたESG投資とESD教育

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Academic year: 2021

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総 合 地 域 研 究 第 10 号   2 0 2 0 年 3 月 65 はじめに 本研究は、織井啓介(本学教授)、市川洋子(本学教授)、阿部学(本学准教授)と庄司の 4 名により、2018 年度より表題にあるテーマで、本学総合地域研究所共同研究として研究を 開始した。以下に、(Ⅰ)研究目的および概要、活動概要、(Ⅱ)各研究会活動の記録、(Ⅲ)最 後に研究のまとめと今後の課題を記す。 Ⅰ 研究目的および概要 1 研究目的 2015 年に国連創設 70 周年記念総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、日 本の地域創成のキーワードともなっている。 企業は、経団連が企業行動憲章を 2017 年に改訂し、「持続可能な社会(SDGs)の実現の ために」という目標を掲げ、その第一条に SDGs を掲げた。同じく企業の社会的責任のネ ットワークである国連グローバル・コンパクトは、SDGs の前身であるミレニアム開発目 標(MDGs)の時代から、国連の掲げる MDGs、SDGs に力を入れてきた。 ことに近年、SDGs に配慮した ESG 投資は、投資家が企業に投資する場合に注目される 分野となっている。これは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance) に配慮している企業を重視・選別して行う投資のことをいう。 また、教育の分野では、ESD 教育(持続可能な発展のための教育)が、2005 年からユネス コ主導で進められ、2018 年度の文部科学省の学習指導要領でも、これに力を入れることが 決まった。ESD 教育は、「自然との共生」「公正な社会」「経済的発展」のバランスを考え て、現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこ と、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動である。 上述のように、企業も教育も SDGs の目指すところを目標として、その活性化や改革に [総合地域研究所 平成 30 年度「共同研究」報告]

世界に向けて千葉の企業と教育の活性化(1)

研究代表者:

庄司 真理子

(敬愛大学国際学部教授) 共同執筆者:

高 柳 彰 夫

(フェリス女学院大学教授)

市 野 敬 介

(NPO 法人企業教育研究会理事・長岡造形大学非常勤講師)1)

田 村 銀 河

(日本放送協会報道局国際部記者)

田 中 敏 裕

(元国連開発計画〔UNDP〕ミャンマー/パキスタン/フィリピン事務所長)

尾 形   望

(いいづな学園グリーン・ヒルズ小学校教諭)

持続可能な開発目標(SDGs)に向けた ESG 投資と ESD 教育

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総 合 地 域 研 究 66 取り組んでいる。本研究は、この SDGs を軸として、企業と教育の活性化に資することを 目的として、国際関係の分野と教育学の学際的な研究を目指すものである。その際、実際 に千葉の企業や教育の活性化に資することを目的とするため、この分野で活動する方々の 知見を広く集めるブレスト・テーブルとして本研究所が機能することを意図している。 なお、本研究は 2020 年のオリンピック・パラリンピックに向けて、企業と教育を活性化 することをも目指している。企業、教育、市民社会など、多数の主体を取り込んだマル チ・ステークホルダー形式のプロジェクトとして進めることも、本研究の特徴である。

NPO として、NPO 法人企業教育研究会の会員に参画いただく。同 NPO は、藤川大祐氏

(千葉大学教育学部教授)を理事長とし、阿部学(敬愛大学国際学部准教授)を副理事長とす る組織である。理事の市野敬介氏に、講演をお願いする。その活動は、「企業と連携した授 業づくり」を専門としている。企業のもつリソースと授業づくり研究の知見をかけあわせ ながら、各教科はもちろん、メディアリテラシー教育、情報モラル教育、キャリア教育等、 先端的な授業・教材の開発・提供を行っている。2003 年に千葉大学教育学部授業実践開発 研究室の活動を母体として発足。現在は千葉大学、敬愛大学、兵庫県立大学などと連携し ながら活動中。教育に貢献したい「企業」、社会とつながりたい「学校」、教育や社会につ いて学びたい「学生」らの架け橋となりながら、「誰もが教育に貢献する社会」の実現を目 指し活動をしている。2016 年度は、12 社と連携し、児童・生徒を対象とした出前授業を 194 回実施。教員・保護者研修などに 77 回講師を派遣した。これまでの連携企業は 100 社 を超える2) このほかに民間のプロジェクトとして、市川洋子(本学教授)が設立にかかわった「旭 3S」における児童生徒の活動をサポートできないか可能性を探る。旭 3S(Student Support System)は、旭市内の小・中・高校生の社会的貢献を意図した活動を支援するシステムで ある。活動に必要な助成金は市民からの寄付で賄われ、それにより官・民・学が一体とな って、子どもの学びを支援するラーニング・コミュニティが形成される。 敬愛大学の本研究プロジェクトが、千葉県の企業、教育、市民社会を巻き込んだマル チ・ステークホルダー・プロセスを創出することによって、千葉地域の活性化に資するこ とが本研究の最大の目的となる。そのためのキーワードとして、SDGs が重要な指針とな ることを指摘したい。 2 活動概要 2018 年07 月 26 日 2018 年 07 月 31 日 2018 年11 月05 日 2018 年 11 月 19 日 2019 年01 月 15 日 ESD 教育:尾形 望 いいづな学園グリーン・ヒルズ小学校教諭(長野ユネスコ協会会員) 「今日からはじめる ESD ―わたしの明日を豊かに生きるとは?」 共同研究員による活動計画の再検討会 SDGs :高柳 彰夫  フェリス女学院大学教授 「持続可能な開発目標(SDGs)とは何か」 ESD 教育:市野 敬介 NPO 法人企業教育研究会理事 「ESD から SDGs へ ∼持続可能な開発のための教育と実例∼」 SDGs :田村 銀河 日本放送協会記者 「地球温暖化と私たち ∼ COP24 の取材から∼」

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共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 67 2019 年 02 月 19 日 2019 年 02 月 27 日 2019 年 02 月 28 日 2019 年 03 月02 日 Ⅱ 各研究会活動の記録 以下に順不同となるが、各研究会での報告内容を、報告者自身にまとめていただいた内 容を研究会の活動記録として記載する。 まずは本研究の中心的なキーワードとなっている持続可能な開発目標(SDGs)について、 2018 年 11 月 5 日に開催されたフェリス女学院大学の高柳彰夫教授の報告。次に、持続可能 な開発教育(ESD 教育)の分野から、2018 年 7 月 25 日の尾形望氏による報告、2018 年 11 月 5 日の市野敬介氏による報告。その後、SDGs のなかでもその中心となる環境問題について 2019 年 1 月 15 日の田村銀河氏によるポーランドで開催された国連気候変動枠組み条約の締 約国会合(COP24)を取材した最新レポート、2019 年 2 月 19 日の開発および BOP ビジネス の分野として元 UNDP 職員の田中敏裕氏によるミャンマーを事例としたインクルーシブ・ ビジネスの報告を、記載する。 1 持続可能な開発目標(SDGs)とは何か 高柳 彰夫 1) 持続可能な開発目標(SDGs)とは何か

SDGs(Sustainable Development Goals)は 2015 年 9 月の国連総会で採択された「我々の世 界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」(Transforming Our World: the 2030 Agenda for Sustainable Development :以下、2030 アジェンダ)の中核であり、17 のゴール と 169 のターゲット(そして 2 年後に採択された 230 のインディケーター)からなる。SDGs は 持続可能な開発の経済・社会・環境の 3 つの次元にわたる広範な内容を含んでいる。 SDGs は 2 つの流れの議論の結果であった。ひとつは後述する 2015 年までの世界の貧困 削減や社会開発の目標であったミレニアム開発目標(MDGs)後の世界の目標をどうするの ESG 投資:田中 敏裕 元 UNDP 職員 「SDGs に向けたインクルーシブ・ビジネスと共生社会:ミャンマー の社会的企業の事例」 SDGs :庄司 真理子 参加 「だれひとりとり残さない: SDGs が達成された世界を実現するために」 主催:一般社団法人 SDGs 市民社会ネットワーク 場所:聖心女子大学聖心グローバルプラザ SDGs :庄司 真理子 参加 「SDGs 時代の人財育成」 グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)/地球環 境戦略研究機関(IGES)共催年次シンポジウム 場所:有楽町朝日ホール ESD 教育:市川 洋子 本学教授 視察 「旭・学び助成金(旭 3S)活動報告会」 主催:旭・学び助成金(旭 3S) 場所:東総文化会館小ホール

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総 合 地 域 研 究 68 かというポスト MDGs の議論であった。もうひとつは、地球サミット(国連環境開発会議) から 20 年の 2012 年に同じリオデジャネイロで開催された「リオ+ 20」会議で SDGs 策定が 合意され、Open Working Group(OWG)が設置されて 2014 年 7 月に最終報告書がまとめ られた。2014 年の国連総会と年末のパン・ギムン事務総長(当時)の報告書により、OWG の最終報告書をベースにすることで議論が一本化され、2015 年 1 ∼ 7 月の国際交渉の末、 予定よりも 2 日後の 2015 年 8 月 2 日に原案が採択された。 2) MDGs とは何だったのか MDGs は以下の貧困削減や社会開発を中心とする 8 つの目標からなっていた。 ・ゴール 1 :極度の貧困と飢餓の撲滅 ・ゴール 2 :初等教育の完全普及の達成 ・ゴール 3 :ジェンダー平等推進と女性の地位向上 ・ゴール 4 :乳幼児死亡率の削減 ・ゴール 5 :妊産婦の健康の改善 ・ゴール 6 : HIV/AIDS、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止 ・ゴール 7 :環境の持続可能性確保 ・ゴール 8 :開発のためのグローバルなパートナーシップの推進 達成されたのは、極度の貧困者と安全な水にアクセスできない人の割合の半減など限ら れたゴールであった。「乳幼児死亡率を 2/3 削減する」は 50%強の達成率、「妊産婦死亡率 を 3/4 削減する」の達成率は 50%弱にとどまるなど、進歩はみられたものの目標に届かな かったものが多かった。また東アジアや中南米での進展が大きかった一方で、南アジアで は達成できたこととできなかったことが半々であり、サハラ以南のアフリカでは限られた ゴールしか達成できず、依然として世界で社会・経済状況が最も厳しい地域となっている。 3) 2030 アジェンダの理念

2030 アジェンダの理念として「誰一人取り残さない」(Leave No One Behind)、普遍性

(Universality : MDGs が途上国を念頭に置いたゴールでありがちだったのが、SDGs では先進国も 含めすべての国での達成を明記)、人権、ジェンダー平等、脆弱な立場の諸国や国内グループ への考慮といったことがあげられる。人権やジェンダー平等については一部諸国の反対も あって、表現が弱められてしまった経緯がある。 4) SDGs の 17 のゴール SDGs の 17 のゴールは以下であるが、1 から 6 は MDGs のゴールをより高いものにしつ つも継承した貧困削減・社会開発関連のもの(貧困・飢餓を終わらせる、健康・保健、質の高 い教育、ジェンダー平等、水道と衛生)、8 から 10(成長とディーセント・ワーク、インフラ、不 平等の是正)は経済関連のもの、13 から 15(気候変動、海と陸の生態系保全)は環境関連の ものといえる。7(エネルギー)と 12(持続可能な消費・生産)は環境と経済にまたがってい る。16(平和とガバナンス)はそれ自体がゴールであるとともに、1 から 15 までの実施手段 という側面ももち、17(パートナーシップ)は 1 から 16 を実施するための世界の多様なアク ターの役割やパートナーシップについてのゴールである。 なお、MDGs では健康・保健に関しては 3 つのゴール(乳幼児死亡率、妊産婦死亡率、 HIV/AIDS などの疾病)があったのが、SDGs ではすべてゴール 3 の下に置かれている。 ・ゴール 1 :あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる

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共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 69 ・ゴール 2 :飢餓を終わらせ、食料安全保障と栄養改善を達成するとともに、持続可能 な農業を推進する ・ゴール 3 :あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を保障し、福祉を促進する ・ゴール 4 :すべての人にインクルーシブかつ公平で質の高い教育を保障し、生涯学習 の機会を促進する ・ゴール 5 :ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女の子をエンパワーする ・ゴール 6 :すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を保障する ・ゴール 7 :すべての人に安価で信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアク セスを保障する ・ゴール 8 :すべての人のための持続的、インクルーシブかつ持続可能な経済成長、生 産的な完全雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進す る ・ゴール 9 :強靭なインフラを構築し、インクルーシブで持続可能な産業化を促進する とともにイノベーションを推進する ・ゴール 10 :国内および国家間の不平等を是正する ・ゴール 11 :都市と人間の居住地をインクルーシブ、安全、強靭かつ持続可能にする ・ゴール 12 :持続可能な消費と生産のパターンを確保する ・ゴール 13 :気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策をとる ・ゴール 14 :海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用す る ・ゴール 15 :陸上生態系の保護、回復と持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、 砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図 る ・ゴール 16 :持続可能な開発に向けて平和でインクルーシブな社会を促進し、すべての 人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任 あるインクルーシブな制度を構築する ・ゴール 17 :実施手段を強化し、「持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシ ップ」を再活性化する3) 5) 実施状況と今後の課題 SDGs が持続可能な開発の 3 つの次元におよぶ広範な課題をカバーした国際ゴールとして つくられ、実施状況が世界的に検証されることの意義は大きい。2016 年以来、毎年 7 月中 旬に国連経済社会理事会主催のハイレベレル政治フォーラム(High Level Political Forum: HLPF)が開催され、各国が実施状況の自発的国別リビュー(Voluntary National Review: VNR) を行っている。2017 年は日本を含む 43 ヵ国、2018 年は 46 ヵ国が VNR を行い、2019 年には 国連総会主催の HLPF が包括的なリビューを行うために開催される予定である。 VNR を見ていると、ほとんどの国が SDGs を国家開発計画に採り入れるか、SDGs 実施 策の策定を行っているが、一方で普遍性や人権などの理念が十分言及されず、理念が不十 分なまま、ただでさえ数が多い 17 のゴールと 169 のターゲットの実施が独り歩きする可能 性も危惧される。SDGs では「保障する」(ensure)の多様など、開発における人権ベー ス・アプローチの発想がみられるが、その点が忘れ去られないかの懸念がある。

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総 合 地 域 研 究 70 日本でも国により「SDGs 実施指針」がつくられ、また市民社会組織(CSO)はもちろん のこと、地方自治体、企業、大学など多様なアクターで SDGs の実施が唱えられるように なっている。日本での SDGs 実施の上での課題として、格差社会と相対的貧困層の拡大、 大きなジェンダー格差(世界経済フォーラムの Global Gender Gap Index で 2018 年は 149ヵ国中 110 位で、特に経済・政治におけるジェンダー格差が大きい)、不十分な ODA の規模(目標が対 GNI 比 0.7%であるのに対して 2017 年は 0.23%でしかない)などがあげられる。 SDGs の実施が始まって 2019 年 1 月 1 日で 3 年がたつ。まだ世界中で一般の人々の間に十 分浸透しているとはいいがたい。広く SDGs が共有され、多様なアクターの取り組みが活 発になることに期待したい。 2 今日からはじめる ESD―わたしの明日を豊かに生きるとは? 尾形 望 〈大まかな講義の内容〉 本講義では、受講者の学生さんたちに「ESD」とは何か? をテーマに、普段講師が子ど もたちと取り組んでいること、個人として団体のなかで取り組んでいること、そもそも 「ESD」とはどういうものかをお話させていただいた。 1) いろいろな教育のカタチ―グリーン・ヒルズ小学校の紹介 まずは、グリーン・ヒルズ小学校について、多様化する学校の在り方のひとつとして紹 介した。長野県長野市にある私立の小さな小学校である。同じ敷地のなかに中学校も併設 されており、少し離れたところには系列の幼稚園もある。ここでは、豊かな自然環境のな かで、自然や人とつながってい る「わたし」を実感しながら、 人と人とをつなぐ「対話」と自 らの興味関心を発見し、探究し ていく「プロジェクト」を軸に 教育活動を行っている。「関係性 を基盤に自律性を育む」という 教育目標のもと、子どもたちは 小さいうちから、自らの身の回 りにある現象や出来事を自分事 と し て 捉 え 、「 な ぜ ? ど う し て?」を出発点に学びを深めて いる。 プロジェクトの一事例として 本校の「りんご園プロジェクト」 を紹介した。本プロジェクトは、 地域でりんご農家をされている 方から譲り受けたりんごを素材 に 、 1 年 間 を 通 し て 行 う 農 作 業・宣伝・販売・学習活動と、

教育目標

関係性を基盤に自律性を育む

関係性 関係性 支え合い、より良い関係を築く子ども 自律性 自律性 心と頭で考え、自ら判断して行動する子ども かんけいせい きばん じりつせい はぐく スライド ① みんなでおいしい りんごを育てよう! いつごろ、どんな作業? 誰に聞いたらいい? りんご栽培の経験・知識・技術 仲間との協力・コミュニケーション 専門家との出会い・本物体験 イベント企画・販売の経験 スライド ② 新たな課題 疑問・興味の発見 発見 成果 目的 計画 りんご畑を借りられることに 加工・ 販売 りんご 会議 りんご 学習 農作業 りんご農家との出会い・体験 興味 活動

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共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 71 一つひとつの活動を支えるためのりんご会議を、全学年の児童が協力して取り組んでいる。 こうした体験をした子どもたちが、自分事として様々な問題を発見し、その解決のため に行動を起こす力を養うことは、持続可能な未来や社会を築いていくために重要な役割で あると考える。 2)「ESD」って何だろう? そもそも「ESD」とは何か? 言葉だけを 聞けば、「Education for Sustainable Develop-ment(持続可能な開発のための教育)」とな る。しかし、教育の立場から ESD を実践す る人たちのなかでは、「持続可能な社会づく りの担い手を育む教育」と理解されている。 20 年後、30 年後にやってくる未来が、自分 たちにとって予測不可能であり、今自分の 目の前にあるもの(当たり前の仕事、当たり 前の物体など)が持続不可能であるとするな らば、私たち一人ひとりは何を大切に、ど う生きていけばよいかを若者が考え、行動 することが最重要である。一事例として、パ ーム油の問題を取り上げた。当たり前に使 っている歯磨き粉やカップラーメンなど、生 活に身近なものは、実は遠く離れたインドネシアやマレーシアでプランテーションを行い、 大量に生産することで、先進国の「豊かさ」を支えている。しかし、それによって、現地 では森林破壊が進み、労働者の劣悪な労働環境、人権侵害などの問題を引き起こしている。 私たちには見えないところで世界の様々な事象は複雑に絡まり合い、つながり合っている ことを自覚してほしい。 つまり ESD は環境・貧困・人権・平和・開発といった様々な地球規模の問題について、 その一つひとつの解決のため、また、地球に存在し、遠い未来まで営みを続けていくため に、私たち一人ひとりが広い視野で問題を捉え(think globally)、自分にできる身近なこと から具体的な行動を起こしていくこと(act locally)を身につけることで、持続可能な社会 を創造していくことを目指して活動することである。 3) 2030 年を創造しよう! 最後に、私自身が学校での取り組みと同じように大切にしていること、長野ユネスコ協 会青年部「つなっぷる」での取り組みを紹介し、本講義を「話す⇒聴く」というものから、 「聴く⇒考える」というものへ変換した。①「2030 年のわたしに近づこう」では、できるだ け幸せな自分自身の未来を想像して書き出した。②「自分の半径 5 メートルで起きる幸せな 社会を創造しよう」では、自分が生きている身の回りの変化や希望を書き出した。このワ ークの学びを通して、本講義を受講した学生にとって、次の自分の 10 年を考えることや身 近な自分を取り巻く未来を考えること、そして行動することにつながることを願っている。

そこで、SDGs(Sustainable Development Goals)についても紹介した。国連においても、こ うした活動や取り組みが特別なこと、難しいことではなく、誰にとってもどこからでも取り

E

ducation for

S

ustainable

D

evelopment

持続可能な開発のための教育

スライド ③

広い視野や考え方で

自分の身近から行動する

think globally,

act locally

スライド ④

(8)

組みやすいような視覚化、工夫がされてい ることを紹介した。自分にとって、自分の 大切な人たちにとって住みやすい「豊かな」 未来や社会は、誰かが創ってくれる、変え てくれるのではない。私たち一人ひとりの 行動や思考によって世界は創られていく。 本講義を聴講した学生のみなさんが、持 続可能な未来や社会を創造していくため に、「わたし」はどう在るのか、どこでど う生きていくのかを頭の片隅に少しでも残 しながら、これからの生活を送っていかれ ることを願う。 3 ESDから SDGs へ―持続可能な開発のための教育と実例 市野 敬介 本講義では、SDGs のなかにおける教育分野の位置づけや、日本の学習指導要領の改訂 との関連、地域とつながった学校教育の活動事例の紹介、そして、自分事として、主権者 として環境問題を廃棄物から考えるための、教科を横断した対話的な模擬授業を行った。 1) 講義の目的 ① 持続可能な開発のための教育の過去とこれから

文 部 科 学 省 の 日 本 ユ ネ ス コ 国 内 委 員 会 の Web サ イ ト に は 「 ESD は Education for Sustainable Development の略で『持続可能な開発のための教育』と訳されています。」と 記されている。2005 年から 2014 年までの 10 年間を「国連 ESD の 10 年」として位置づけ、環 境問題や経済成長、社会問題の統合的な発展に取り組むための教育活動が実践されてきた。 筆者は、企業と学校、学生を結んで授業開発、教材開発を行う特定非営利活動法人「企 業教育研究会」の一員として、学校教育と社会の学習をつなげる活動を行ってきた。また、 千葉県環境教育コーディネーターの会(ELCo の会)の代表として、環境省の事業「ESD 環境 教育の地域モデルの構築」や授業実践を行ってきた。学校の授業内容と地域の大人や地域 外の大人とをつないで、学習内容と社会の営みがどんな関連をもっているのかを考える授 業や、社会人から課題を与えられて児童や生徒が解決策を考える授業を実践してきている。 新しい学習指導要領の改訂のなかで「社会に開かれた教育課程」を構築することは、ま さにこの活動の延長線上にあると言ってよい。地域のなかにあるヒト、モノ、コトを教育 資源として捉え、教材として活用できるような教師と地域社会との連携が、今後進むであ ろう方向性と、これまでに行われて来た ESD の授業実践との関連性を解説した。 また、著者がキャリア教育コーディネーターとして全国各地で行われている地域と学校 を結んだ教育活動を取材する活動のなかで、特徴的な活動を行っている地域の教育内容を 紹介した。 ② 持続可能な開発目標(SDGs)と学校教育 2015 年 9 月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」に 記載された国際目標である SDGs は、17 のゴール、169 のアジェンダが設定されている。 総 合 地 域 研 究 72

持続可能な開発目標(SDGs)

・2015年の国連サミットで採択。 ・先進国を含む国際社会全体の開発目標として、  2030年を期限とする包括的な17の目標と  169のターゲットを設定。 スライド ⑤

(9)

国内でも多くの企業が CSR レポートやサスティナビリティレポートのなかに、SDGs に関 する活動報告を掲載することも増えてきている。企業の技術革新が、SDGs のなかに設定 されている。 一方で、学校教育のなかでは SDGs はユネスコスクールに認定されている一部の学校で は積極的に行われているが、それ以外の学校では、学校教育目標に掲げられることや、各 自治体の教育推進計画に位置づけられていることは、まだ少ない。 しかし、現状の教育活動を SDGs のゴールやアジェンダに照らし合わせると、合致する 部分が少なくない。とりわけ「主体的、対話的で深い学び」を行うことは、世界のどこの 国においても必要とされていることが、SDGs の観点からもわかることを解説した。 ③ 具体例としてのエネルギー教育の模擬授業 地域の問題だけで考えず、地球規模の大きな視野で学習することが求められるのが、環 境教育やエネルギー教育である。これまでは、発電方法のベストミックスや、ゴミのリサ イクルを中心に、小学校・中学校などの各教科、単元に関連させた授業は行われてきてい る。総合的な学習の時間のテーマとしても、数多くの学校で採用されている。 リサイクルの観点や、省エネの観点で解説されて、児童生徒が自らの行動意識を変える 活動は多く行われてきた。しかし、世代を超え、地域を超えた課題を考え、議論する授業 は少ない。そこで、日本が抱えるエネルギーのゴミ問題である「高レベル放射性廃棄物」 を題材としたモデル授業を行い、学生に体験してもらった。 2) 講義内容 ① 博報堂生活総合研究所「子ども 20 年変化」と SDGs 授業の導入として、博報堂生活総合研究 所が 1997 年から 10 年ごとに、小学 4 年生か ら中学 2 年生の子どもたちを対象に、ほぼ 同じ質問内容のアンケート調査を続けて行 った「子ども調査」を資料として用いた。 小学生や中学生の意識、考え方が、1997 年 と 2017 年の 20 年間の意識変化を予測する クイズ形式で紹介した。 コミュニケーションの観点から「わたし は、人と意見がちがっても、さからわない ほうだ」という設問に「はい」と回答した 割合が増えていること(図 3 ― 1)。 経済の観点から「あなたが、将来、会社 につとめるとしたら、高い給料で休みが少 ないのと、安い給料で休みが多いのとでは、 どちらがいいですか?」という設問には、 前者と回答する割合が増えたこと(図 3 ― 2)。 国際協調の観点から、「これからは、世 界全体より日本のことを第一に考えるべき だと思いますか、それとも、日本のことよ 共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 73 Q. わたしは、人と意見がちがっても、 さからわないほうだ はい 博報堂生活総研「子ども調査」2017年 小学4年生∼中学2年生 800名に調査

53.8%

62.5%

1997

2017年

図 3-1 「子ども20年の変化」①(同調意識) Q. あなたが、将来、会社につとめるとしたら 「高い給料 で 休みが少ない」のと、 「安い給料 で 休みが多い」 のとでは、 どちらがいいですか? 給料高・休み少 給料安・休み多 博報堂生活総研「子ども調査」2017年 小学4年生∼中学2年生 800名に調査

79.3%

85.9%

20.0%

14.1%

1997年

2017年

図 3-2 「子ども20年の変化」②(労働意識)

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り世界全体のことを第一に考えるべきだと 思いますか?」という設問に対しては、日 本のことを第一に考えると回答する割合が 増え、20 年で逆転したことを解説した(図 3 ― 3)。 これらの設問は、SDGs における SDG17 「パートナーシップで目標を達成しよう」、 SDG8「働きがいも経済成長も」、そして SDGs 全体に通じる「誰一人として取り残 さない」という概念に対する、日本の子ど もたちの一般的な考え方や態度につながっ ている。 ② 地域とつながる ESD の実践例の紹介 次に、ESD の観点で学校と地域が連携して行われた授業のプログラムや、経済活動に結 び付いた事例を紹介した。 まずは千葉県内で行った授業の実践例を紹介した。前述のとおり、筆者は千葉県環境学 習コーディネーターの会(ELCo の会)の代表としても活動している。ESD 環境教育を、千 葉県内にいる環境活動を行っている人たちとともに 2013 年度に千葉市立打瀬中学校の 1 年 生を対象に行った授業の概略を紹介した。 新興住宅地である千葉市の幕張ベイタウンは、住宅街として開発が進むなかで、一部の 住民の意見を採用して、なるべく自然環境に近い状態を再現した「エコパーク」を設置し た。アスファルトとコンクリートで整然とした市街地のなかで、唯一、植物が自然に近い 状態で繁殖し、昆虫や小動物などが生息できる場所となっている。 明らかに異質な一角となっているエコパークは、一部の市民の協力のもと管理をされて いるが、その価値はあまり住民に知られていない。 そこで、中学生自らがエコパークのなかをグループごとに歩き、五感を使って感じたエ コパークの「魅力」と「改善点」を探究させた。それぞれ写真に撮って共有し、住民にと って良いところと、改善すべきところを教室内で話し合った。そして、住民の認知度を高 め、もっと活用してもらうための施策を考えさせた(写真 3 ― 1)。「ゴミをひろう」「穴を減 らして凹凸を少なくする」「休憩所をつくる」「ネズミをころす」「カラスを消す」といった 環境整備や生態系に関する意見も多かったが、一番支持を集めた意見は「植物や動物の生 態カードを制作する」ことだった。このカードで植物や動物の実態を知らせ、カードで遊 べるようにしたら、認知度が上がり、もっと多くの住民が環境整備に興味をもつのではな いか、という仮説が生まれた(図 3 ― 4)。 時間の関係で生態カードを実際に制作するには至らなかったが、ベイタウンの大人が、 中学生から持続可能な環境整備につながる見識を得た授業となった。 これは「国連持続可能な開発のための教育の 10 年(2005 ∼ 14 年)ジャパンレポート」に も記載されている概念と合致する。「ESD で目指すべきは、個々人が「地球的視野で考え、 様々な課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組み(Think globally, Act locally)、 持続可能な社会づくりの担い手となる」よう、個々人を育成し、その意識と行動を変革す 総 合 地 域 研 究 74 Q. これからは、世界全体より日本のことを 第一に考えるべきだと思いますか? それとも、日本のことより世界全体のことを 第一に考えるべきだと思いますか? 日本全体が第一 世界全体が第一 博報堂生活総研「子ども調査」2017年 小学4年生∼中学2年生 800名に調査

37.3%

54.0%

61.8%

45.9%

1997年

2017

図 3-3 「子ども20年の変化」③(国際意識)

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ることです。」と記されていることを紹介 した(図 3 ― 5)。 千葉県以外の事例として、岩手県遠野市 が小学校・中学校・高等学校や、市内の民 間企業が解説したテレワークセンター、行 政の産業活性化の部署、市内の様々な分野 に従事している社会人や企業が連携してい る実例を紹介した。 河童や座敷童子などが登場する「遠野民 話」が息づいているこの街では、小学生が駅 前の商店街のお店を職場見学した際に、文 章ではなく、そのお店のマスコットとなる 妖怪を絵や造形物で表現していた。それが 商店街の各店舗に掲げられて、観光客への アピールにつながっていた。ただ職場で経 験したことを言語活動で表現するだけでな く、図画工作の授業とも関連させながら組 み立てられた事例で、地域の活性化にもつ ながっている。 ほかにも、岩手県立遠野高等学校で行わ れている探究学習「新しい遠野物語を創る」 プロジェクトの概要を紹介した。高校生が 関心をもつ分野ごとに分かれて、遠野市内 の関連する企業や文化施設などを訪問した りしながら、課題を発見していく。最終的 にそれを解決するためのプレゼンテーショ ンを行うことを、学校活動の中核に据えて いる実態を紹介した。また、そのために地 域の商工会や行政機関、旅行会社、テレワ ークセンターなどが協議会をつくって運営 している仕組みも解説した。 さらに、同学校は、市内にあるキリンビ ールの契約栽培農家が、ビールの原料であ るホップを栽培しているなかで、実は製品 となるが、蔓が廃棄物になって困っている課題に取り組んだことを紹介した。ホップの蔓 は繊維を砕き、「ホップ和紙」として再生され、地域の小学生の卒業証書に使用されたり、 近年ではランプシェードとしてふるさと納税の返礼品になったりしているという地域経済 の活性化の好例を紹介した(図 3 ― 6)。 長期間、計画的に地域の様々な企業や専門家が学校教育に関わることで、地域の課題を 発掘し、世界に地域の魅力を発信することができる。市内に大学の無い遠野市は、高校生 共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 75 写真 3-1(市野撮影) ・写真付きのポスターを作る、チラシをつくる ・井戸をつくる  ・自然を大事に  ・穴を減らす ・もっと花を植える、配置や種類を考える ・もっと休憩所が欲しい、建物をつくる ・地域の人に呼び掛ける  ・掃除をこまめにする ・ごみ置き場のスペース  ・ごみをもっと拾う ・ネズミをころす、狩る  ・カラスを消す ・ギャラを払う      ・道を直す ・説明会を開く      ・トイレをつける ・ベンチがあると良い ・害虫やゴミを捨てないなどの看板 ・生態カードをつくる →「ムシキング」の着想 図 3-4(市野作成) ■エコパークは、○○するといい。  ESDで目指すべきは、個々人が「地球的な視野で 考え、様々な課題を自らの問題として捉え、身近なと ころから取り組み(Think globally, Act locally)、持 続可能な社会づくりの担い手となる」よう、個々人を 育成し、その意識と行動を変革することです。  そのためには、問題や現象の背景を体系的に理解 する力や批判力を重視した代替案を思考する力、コミュ ニケーション能力等を向上させることも大切です。 そして、このような個々人の取組がつながり合うことに より、持続可能な地域づくり、国づくり、世界づくりとし て発展することが求められます。 図 3-5(市野作成) ESD(持続可能な開発のための教育) 国連持続可能な開発のための教育の10年(2005∼2014年)ジャパンレポート p4

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は卒業後に市外や県外に出て行ったあと、 戻ってくることは少ない。地域に愛着をも って旅立たせ、いつか戻ってくる時に、そ の力で地域を発展させる人になる。学校教 育と地域が連携することで、その模索が続 けられている実態を解説した。 ③ ESD と SDGs の連続性 「国連 ESD の 10 年」が 2014 年で終了し た後も、持続可能な開発のための教育は重 要であり、現在も SDGs のゴールやアジェ ンダに引き継がれたことを解説した。 ひとつは、2018 年 3 月 8 日に、外務省、 文部科学省、広島大学、筑波大学の 4 者の 主催で開催された「持続可能な開発目標達 成に向けた国際教育協力日本フォーラム」 ( Japan Education Forum for Sustainable

Development Goals)に筆者が参加したこと を報告した。現在および今後の日本の学校 教育が SDGs のどの観点で捉えられるかに ついて、秋田大学大学院教育学研究科の阿 部昇教授が講演した「アクティブ・ラーニ ング(主体的・対話的で深い学び)の課題と 展開可能性」で紹介されていた、主体的・ 対話的で深い学びを実践していくことが、 質の高い教育につながるため、日本の学校教育が目指す方向は SDG4 に合致しているとい う見解を解説した。 ほかに、SDG4 の 4.7 のアジェンダのなかに、持続可能な開発のための教育が明記されて いることも紹介して、そのために、批判的思考や、収集した情報を吟味して、対案を提案 できる力などが求められているという筆者の見解を示した(図 3 ― 7)。 ④ 高レベル放射性廃棄物の処分が題材の模擬授業 SDG7 には、エネルギーに関するアジェンダが、SDG12 には、製造物とその循環に関す るアジェンダが、SDG17 には、問題解決として様々な人や国家間のパートナーシップが記 されている。 エネルギー資源の自給率の低い日本のなかで、環境教育も、リサイクルや廃棄物の観点 も踏まえると、世代を超えて問題解決すべき課題がみえてくる。そのひとつが、これまで 50 年近く使い続けてきた原子力発電所から出る使用済み核燃料のリサイクルと、そこから 生み出される、強い放射能をもつ高レベル放射性廃棄物の処分問題である。現在は青森県 の六ヶ所村の中間施設で貯蔵されているが、高レベル放射性廃棄物のもつ放射能の強さは、 とても人体が耐えられるものではないため、少なくとも 1 万年から 10 万年の間は、人間の 住む環境から安全に遠ざけて処分することが求められていることを、中学生向けのモデル 総 合 地 域 研 究 76 ●職場見学(小学生) ・駅前の商店街を見学し、お店の「妖怪」を創作 ●古民家再生(高校生) ・再生の方法を都内の建築学者が指示(TV会議) ・維持の方法(掃除)を地元の主婦が指導 ●「新しい遠野物語を創る」プロジェクト(高校生) ・地域の様々な大人から歴史・文化・課題を学習 ・課題解決のためのプレゼンテーションを実施 ●廃棄物を特産品に(高校生) ・廃棄されるビールの原料、ホップ蔓を和紙に加工 ・その和紙は、地元の小学校の卒業証書に利用 ●台湾との連携 ・岩手県と台湾との交流を、高校生が担当 岩手県遠野市 地域と連携した教育 図 3-6図(市野作成) 目標 4. すべての人に包摂的かつ公正な 質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する 4.7 2030年までに、持続可能な開発のための教育 及び 持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、 平和及び非暴力的文化の推進、 グローバル・シチズンシップ、 文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の 理解の教育を通して、全ての学習者が、 持続可能な開発を促進するために必要な知識及び 技能を習得できるようにする。 SDGs 17のゴール 169のアジェンダ 図 3-7図(市野作成) ESD!!

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授業として体験してもらった。 高レベル放射性廃棄物の処分事業を担っ ている原子力発電環境整備機構は、2013 年 度から全国の学校教員の環境教育・エネル ギー教育の研究活動を支援している。2017 年度に教科横断型のモデル授業として制作 した内容で、通常の中学校の 50 分授業を想 定して模擬授業を行った。 原子力発電の稼働の是非ではなく、すで に過去 50 年間、電気エネルギーとして恩恵 にあずかってきた発電から出る、どうしてもリサイクルできない廃棄物の存在について映 像を交えて紹介した。次世代に負担を残さないために、世界各国が考えてきた処分方法 (地層処分、海洋底処分、宇宙処分、氷床処分、地上管理)の 5 種類の処分方法には、それぞれ のメリットやデメリットがある。そのなかで、どの方法が一番良いか、理由を含めて学生 のグループごとに意見交換をして発表させた(写真 3 ― 2)。 「短期的に考えるとどの方法もリスクはあるが、現在と同じ地上管理を続けた方が良い」 という意見や、「宇宙空間に放り出せば一番理想的だが、現在は発射する技術に不安がある ため、成功率が 100%になるまで地層処分して地下で管理する」といった長期的な視野から の意見も出された。 最後に、世界では地層処分の方法が選択されているのが共通認識であることを解説して、 実際の処分計画や施設の計画を CG で描いた映像を視聴した。 そして、この授業の後に議論できる題材は、ほかにもあるということで、今後 20 年∼ 30 年までのうちに主権者として必ず判断が求められることを解説した。 火山や地下水の多い日本の地下空間のなかで、どこにこの廃棄物の処分場を造るのかは まだ方向性が決まっていない。「では、日本のどこに地層処分場を設置したらいいか」とい う、次の探究課題が設定できることを示唆して、模擬授業および講義は終了時刻を迎えた。 3) 成果と課題 ① 成果 学校教育は、主体的・対話的で深い学びを目指しているため、世界全体が目指す SDGs の概念と同じ方向であることを示すことができた。 敬愛大学がある千葉市の事例だけでなく、遠野市などの別の地域の教育活動を紹介する ことで、視野を広げてもらうことができた。 高レベル放射性廃棄物を題材にした授業では、単に原子力発電の是非を考えるのではな く、次世代に負担を残さないための議論を円滑に行ってもらうことができた。また、複数 の処分方法を、時間の流れに沿って検討するなど、中長期的な視野で考える学生もいるこ とが知れた。 ② 課題 90 分では収まりきらない内容を強引に収めたので、SDGs の概念や ESD の具体例を紹介 する際に、もう少し双方向性を出す発問をしながら進められると、より伝わったのではな いかと考えられる。 共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 77 写真 3-2(市野撮影)

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高レベル放射性廃棄物を題材にした模擬授業では、それぞれの処分方法を学生が評価す る軸に「環境負荷」「雇用創出」「安全性」といった単語を用いていたが、関連する SDGs のゴールのアイコンに差し替えた方が、視覚的・直感的にわかりやすくなるのではないか、 という発見があった。 4 地球温暖化と私たち― COP24 の取材から 田村 銀河 はじめに 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)は、地球温暖化に対する国際的な対策の主要な枠 組みであり、毎年行われるその締約国会合(COP)は、これまでの 20 回以上にわたる国際 社会の話し合いの積み重ねであるだけではなく、毎年変化する国際社会のダイナミクスを 強く反映する。筆者は 2018 年 12 月にポーランドのカトヴィツェで行われた COP24 に記者 として参加し、会議の論点や進行をニュースや番組のなかで連日放送した。ここでは、 SDGs の文脈と絡めながら地球温暖化の概要を振り返るとともに、今年の COP24 の様子を 伝えたい。(※ 2019 年 1 月 15 日に行った講義の内容に加筆したものである。) 1) 地球温暖化と持続可能な開発目標(SDGs) ① 地球温暖化問題の経緯 地球温暖化は、今となっては世界の主要な課題のひとつであるが、戦争や貧困などの課 題と比較すると、その歴史は比較的新しい。地球温暖化と人為的な温室効果ガスの関係を 調べている IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設立されたのは 30 年ほど前の 1988 年 だ。地球温暖化については、気温の上昇と温室効果ガス排出の関係を否定する議論や、氷 河時代なども含めた地球のメカニズムで説明する議論が長く存在していたこともあり、ま ずは国連が認知した研究機関が科学的な実証を進めながら、国際社会での対策の強化を続 けていった経緯がある。1992 年にようやく冒頭でも記した国連気候変動枠組み条約が発足 し、締約国会合が毎年開かれることになり、現在の国際社会の温暖化対策の基礎がつくら れ、のちの「京都議定書」や「パリ協定」につながった。 ② 地球温暖化と SDGs 地球温暖化の影響というと、南極などの氷が溶けることで海面上昇が発生し、南太平洋 の島の住民が住居を奪われるなどの影響が代表的な例としてこれまでも紹介されてきたが、 近年は日本国内における度重なる集中豪雨 や、アメリカなどでの山火事の要因のひと つとしても指摘されることが増えていて、 地球上のあらゆるところで顕著な影響が出 ている。筆者は 2018 年 11 月末にポルトガ ル中部を訪れたが、ここは 2017 年の 6 月と 10 月に、猛暑のなか相次いで山火事が発生 し、多くの人が亡くなった地域で、この背 景にも温暖化が指摘されている。現地は山 火事から 1 年がたち、少しずつ緑も戻って いたが、当時は見渡す限り一面が焼けたと 総 合 地 域 研 究 78 山火事で60人以上が死亡した写真 4-1 ポルトガル中部・レイリア(田村撮影)

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いうことだった。 また、アフリカの一部の国などでは、温暖化と貧困や紛争の関係も指摘されている。温 暖化によって雨量が減少したりすることで作物の収量や家畜の生育に悪影響が出ていて、 飢餓が加速していることを国連の世界食糧計画(WFP)などが指摘している。さらに、筆 者が 2018 年 11 月に都内で取材したブルキナファソのカボレ大統領は、国内で飢餓が蔓延 し、所得が低い地域がマリなどとの国境地帯に広がっていて、隣国から進入するテロ組織 が貧困を背景にリクルート活動を行い、治安悪化の一因になっていると指摘していた。 世界の様々な地域に影響を与える地球温暖化は、こうした背景から国連が定める SDGs の 13 番目のターゲットとして定められていて、各国が気候変動への対策や、その影響を軽 減するための緊急対策を講じることが求められている。 2)「パリ協定」と COP24 の位置づけ 現在、今後の温暖化対策の要となっているのは 2015 年の COP21 で採択された「パリ協 定」だ。それまでの枠組みであった「京都議定書」では、温室効果ガスの削減義務は先進 国のみが負っていた。これは現在の地球の温室効果ガスの蓄積には先進国が多くの責任を 負っていて、新興国や途上国は「発展する権利」を強調してきた背景があった。他方で、 「パリ協定」の交渉ではより実効性のある枠組みを策定するため、①途上国も含んだすべて の国が原則的に削減義務を負うこととなり(島しょ国などは除く)、②それぞれが自国の削 減の目標を定め、③ 5 年ごとに世界全体で進捗を見直していくこととなり、2020 年から実 施されることとなった。 一方で、「パリ協定」を実施するにあたっての具体的なルールについては交渉が難航して いた。例えば、削減目標を定める義務はすべての国にあるという前提は決まっても、実際 の削減目標は「どのような内容で、どこまで細かく決めるのか」や、先進国と途上国でこ うしたルールを統一するのか、同様とするのか、などは未決定のままだった。2020 年に 「パリ協定」の実施を迎えるなかで、COP24 においては、こうした広範なルールを定めた 「ルールブック」について合意する必要があった。 さらに、「パリ協定」のもうひとつの目玉である世界での削減目標の引き上げについては、 5 年ごとの引き上げは 2020 年に初回を迎えることから、何らかの政治的な合意がなされる のかが注目される会議となった。 3) COP24 取材ルポ 会場となったポーランド南部の都市カトヴィツェは、ポーランド国内でも有数の炭鉱都 共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 79 写真 4-2 左:会議の立て看板が立てられた会場 右:全参加国が集まる議場(田村撮影)

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市だ。会場が設けられたスポーツ複合施設 には政府関係者だけではなく、各国のメデ ィア、NGO、企業関係者などが集まり、3 万人分以上の通行証が用意されたという。 各国は精力的に交渉を始めたが、1 週目 が終わって示された合意案では、争点とな っていた削減目標を提出する際のルールに ついては、先進国と途上国でルールを分け るような可能性も残された案となってい て、先進国と途上国側が大きく対立してい る様子が浮き彫りとなった。私たちが取材 で接する交渉官たちの表情は一様に険しく、会議の雲行きが案じられた。 しかし、議場は会議 10 日目に議長が示した議長案がきっかけとなって大きく動いた。今 回の議長を務めたのはポーランドのミハウ・クリティカ(Michal Kurtyka)環境副大臣で、 各グループの代表を議長室に呼び出して個別に面談を重ねては、精力的にすべての論点に 関わって全体の感触を探っていた。議長案では削減目標のルールについても先進国と途上 国を分けることはせずに、同一のルールとする一方、先進国が途上国に供与することにな っている資金について、途上国に配慮した内容にするなど、全体的にバランスをとった内 容となっていて、この議長案を土台にそれからの交渉が展開し、結果的に先進国・途上国 が同一のルールのもとで削減目標を提出することなどを盛り込んだ「ルールブック」の大 枠が決まった。一方で、削減目標の世界的な引き上げについては、踏み込んだ言及はなさ れなかったものの、各国の閣僚や企業、市民社会が「タラノア対話」として行った意見交 換や目標引き上げについての議論は、その内容や成果を参加国が持ち帰ることが最終文書 に盛り込まれ、前向きな合意を引き出した上での閉幕となった。 これまでの COP では、会議日程が延びることは日常茶飯事で、「パリ協定」を採択した COP21 では、会議は終了予定時刻から 30 時間以上延長されている。今回も例に漏れず会期 は 1 日延長となったが、合意文書が採択された瞬間、参加各国の外交官らが一斉に総立ち となり、会場は拍手に包まれた。 4) 地球温暖化問題の今後― SDGs の観点から 今回の COP24 は、「パリ協定」開始に向けた目処を立てたという点だけでも大変意義の 大きいものだった。しかし、SDGs と絡めて今回の会議を考えたときに、注目すべきはむ しろ会議場の外だろう。会議場の外には例年各国が「パビリオン」として自国の環境対策 技術などを紹介するのだが、企業なども独自でブースを設けて自社の技術などを積極的に アピールしたり、セミナーなどを行っている。COP24 の会場には各国の政府団の関係者以 上にこうしたブースの PR や、視察のために訪れる参加者が年々増えているということだっ た。筆者も会場内を連日歩き回ったが、IKEA のブースでは SDGs を前面に出して、自社の 環境対策などを PR していたし、アフリカ開発銀行のブースでは軽食やドリンクが提供され て、関係者によるネットワーキングづくりのレセプションが行われていた。視察に訪れた ハウスメーカーの担当者にも会って話を聞いたが、企業内でも株主が企業の持続可能性を 重視する傾向が強まっていることから、環境への取り組みは強まっているのを感じる。自 総 合 地 域 研 究 80 写真 4-3 会場で集合写真を撮る各国代表ら。 中央はクリティカ議長、EUや中国の代表(田村撮影)

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社の使用するエネルギーの 100%を、自社の発電や再生エネルギーでまかなうことを目標と する「RE100」というイニシアティブには、世界の企業が 100 社以上参加しているなかで、 日本は遅れながらも 10 社以上が現時点(2018 年 2 月)で参加していて、今後も拡大する見 通しだ。 また、今後の地球温暖化を考える上で大事になるのが、これから世の中で決定権をもっ ていく若い世代だ。COP にあわせて会場の外の大通りで行われた「気候マーチ」と名付け られたパレードには、多くの若者の姿があった。また、アメリカ政府主催の石炭火力発電 の環境対策についてのイベントは、開始早々に参加者に扮して参加していた多くの若者が 一斉に立ち上がり、「(環境負荷の高い)石炭を掘るな!」と大合唱を始め、一時イベントが 中断する事態となった。このアクションを呼びかけた一人であるヴィクトリアさん(19) は、ニューヨークの大学生だが、アメリカ政府が十分な温暖化対策をとっていないのは合 衆国憲法違反だとして、2015 年にアメリカ政府を訴えた裁判の原告の一人だ。「アメリカ 政府は利益しか考えずに安い化石燃料を使い続け、温暖化から国民を守るつもりがない。 若い人たちにも一人ひとりに何ができるか考えてほしい」と私に話してくれた。いま若者 が原告となって政府を訴えようとする訴訟は世界でも相次いでいる。若い世代のほうがよ り未来に不安を感じたり、長年解決の道を見出せていない大人に対して憤ったりしている と、取材を通して感じた。 冒頭に COP は国際社会のダイナミズムを強く反映すると書いたが、こうしたビジネスの トレンドや、若い世代の声の高まりが、今後の温暖化交渉にどのように反映されていくの か、注目していきたい。 共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 81 写真 4-4 議場外に設けられた各国や企業のブース 左:アフリカ開発銀行 右:IKEA(田村撮影) 写真 4-5 「気候マーチ」の様子 右:筆者とヴィクトリアさん(田村撮影)

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5 SDGsに向けたインクルーシブ・ビジネスと共生社会 ―ミャンマーの社会的企業の事例 田中 敏裕 総合地域研究所の共同研究「世界に向けて千葉の企業と教育の活性化―持続可能な開発 目標(SDGs)に向けた ESG 投資と ESD 教育―」プロジェクトの一環としての講演という ことで、1994 年の国連勤務時代から関わってきたミャンマーにおける社会の底辺層(BOP) を対象にしたインクルーシブ・ビジネスの事例について紹介した。 1) 人類社会の共生と持続可能な開発 国連はその創設以来、「多民族の共生」「多人種の共生」「男女の共生」「障がい者共生」 「種の多様性との共生」「個々の人間(開発)の共生」「現世代と未来の世代の共生」など人 類社会の平和的共存と繁栄の道を求め続けてきた(図 5 ― 1 を参照)。 21 世紀になってそれまで 東西・南北といった各ブロ ックや国家間の安全保障が 議 論 の 中 心 だ っ た 国 連 が 「 ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 (MDGs)」を掲げて貧困削 減という開発課題をその目 的の中心においた。MDGs (2001−2015)は先進国と途 上 国 の 共 通 開 発 目 標 と な り、MDGs を拡大発展させ た 「 持 続 可 能 な 開 発 目 標 (SDGs)」(2016−2030)に受け継がれたのである。SDGs はトリプル・ボトム・ラインと言 われてきた経済・社会・環境という三側面を相互補完的かつ戦略的に捉えて、トリプル・ アップさせようという概念である。SDGs の究極の目的である「誰一人置き去りにしない (Leave no one behind)」ための戦略として Bottom(or Base)of Pyramid(BOP)を対象とす

るビジネスモデルが重要視されている。 2) BOP ビジネスとは何か? 世界にはいまだに年間所得が 3,000 ドルに満たない低所得層(BOP)が 40 億人もいて、 その経済規模は約 5 兆ドルと推定されている4)。低所得層を対象とする経済活動を活性化す ることは貧困削減につながるだけではなく、十分な儲けにつながるというのが BOP ビジネ スの基本的なコンセプトである(図 5 ― 2 を参照)。このボトムともベースとも言われる世界 の低所得層人口の 70%以上がアジア地域に集中している。そして BOP 市場における最大の セクターは食糧(農産物)である。この BOP ビジネスのチャンピオンともいうべき存在が、 バングラデシュのグラミン銀行で有名になったマイクロファイナンスだろう。4 ∼ 5 人でグ ループをつくり連帯責任制を導入して貧困層の女性に無担保で少額融資を行うマイクロフ ァイナンスモデルを確立したモハメド・ユヌス教授は、貧困削減の功労者としてノーベル 平和賞を受賞した。貧困層の家庭の、しかも女性を対象に融資を行うというビジネスモデ 総 合 地 域 研 究 82 図 5-1 国連と開発:共生社会への歩み(田中作成) 1945− 1960− 1970− 1980− 1990− 2000−15 2005− 2015−30 国際連合の 創設 ・平和、人  権、開発 ・全国家の  共生 ・人道 ・経済 戦後の 復興支 援 ・ポストコ  ロニアル ・従属理論 経済開 発・発展 段階説 ・社会開発 ・人道 基本的 ヒューマ ンニーズ ・累積債務  問題 構造調 整(修 正) ・選択能力 ・参加型 ・健康、教  育、所得 人間中 心の開 発 ・貧困半減 ・8つの目  標の数値  化 ・基本的  ニーズ ミレニア ム宣言/ MDGs ・恐怖から  の自由 ・欠乏から  の自由 ・レジリエ  ンス 人間の 安全保 障 ・植民地支  配からの  独立 ・全民族の  共生 民族自決の 社会 ・女性のエ  ンパワー  メント ・男女の共  生 ジェンダー 平等社会 ・身障者の  権利 ・身障者と  の共生 身障者包摂 社会 ・人間の能  力開発と  選択によ  る共生 人間開発 による共生 ・現代と未  来の世代  間の共生 ・多様な種  の共生 持続可能な 社会 ・レジリエ  ントで持  続可能な  共生 貧困のない 社会 ・経済、社  会、環境 ・平和・ガ  バナンス 2030 アジェン ダ

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ルは、当時の開発援助の常識を 覆す画期的なもので、割高な利 子率にもかかわらずその返済率 の高さに世界が驚いた。「Poor is bankable(貧しい人は銀行の 顧客になり得る)」という言葉に B O P ビ ジ ネ ス の 本 質 が あ る 。 ただしマイクロファイナンスも 貧困層の誰にでも役立つ万能薬 というわけでもない。マイクロ ファイナンスは起業精神のある 女性には有効だが、極端な貧困 状態にあって市場からも取り残された人々や難民、紛争・天災の被災者、障がい者などに はローンやビジネスではなく人道的な支援が必要とされている。 3) ミャンマーにおけるインクルーシブ・ビジネスの事例 ミャンマーは国土が日本の約 1.8 倍で、人口はおよそ 5,150 万人(2014 年 国勢調査)。世界 銀行の統計によると 2017 年の一人当たりの国内総生産(GDP)は 1,257 ドルで、経済成長 率は 6.8%である。ミャンマーは東南アジアでは数少ない最貧国のひとつであるが、今後の 発展を期待されている国でもある。近年、ティラワ工業団地などを中心にミャンマーに進 出する日本企業が増加している。安価な労働力と天然資源が豊富で、対日感情も良く、将 来的に市場としても期待できるミャンマーを今後有望な進出先と考えている日本企業は多 い。ミャンマー政府は投資受け入れ政策のなかで「責任ある投資」と「責任あるビジネス」 を謳っている。BOP ビジネスを目的としてミャンマーに進出している企業としては、シャ ン州などの山岳地域で薬用植物の契約栽培を手掛ける製薬会社などの事例がある。ここで はミャンマーの BOP ビジネスの代表格としてマイクロファイナンスの事例と若い日本人起 業家たちの事例を紹介する。

〇 PACT Global Microfinance Fund(PGMF)

BOP を対象とするインクルーシブ・ビジネスの成功モデル。2019 年 1 月時点で顧客数は 99 万 8,000 人に到達、ローンの貸付残高が 200 億円以上あり、返済率が 99.41%。NGO であ るが、まだまだ発展途上にある BOP 市場のリーダー的存在であり、超優良な社会的企業と 言ってよい。今から 20 年余り前の 1997 年、筆者はこの PGMF の前身である国連開発計画 (UNDP)のマイクロファイナンス・プロジェクトの立ち上げからマネージメントに関わっ た。2008 年のナルギス・サイクロンの時は、PACT のマイクロファイナンス事業は、4,000 人のローン借入中の顧客が死亡し、5 万人の顧客が被災するという緊急事態に直面した。 融資事業の中止、死亡者 4,000 人分のローンの帳消し、被災家庭 5 万戸への貯金の取り崩し、 そして人道支援のための水・薬・食料などの配布を迅速に行った。当時、筆者は UNDP の 事務所長として、欧米ドナー国からの資金調達やマイクロファイナンスの連絡会議を立ち 上げてその復興に努めた。今日、PGMF はコミュニティからの信頼も厚く、よりレジリエ ントで持続的な成長を続けている。 〇リンクル―ジョン(Linklusion) 共 同 研 究 世 界 に 向 け て 千 葉 の 企 業 と 教 育 の 活 性 化 ︵ 1 ︶ 83 図 5-2 BOP(ピラミッドの底辺層)   ―ビジネスの対象としての市場価値

(資料)  IFC, World Resource Institute,「The Next 4 Billion」(2007)を もとに田中作成。 1日1ドル以下の所得 (最貧困層、難民、  被災者、障がい者等) 年間所得 3,000ドル (1日8ドル以下の所得) 年間所得 20,000ドル 10億人 人道的支援 40億人 US$ 5兆(消費者市場) 14億人 US$ 12.5兆

(20)

日本人の若者の BOP を対象とするインクルーシブ・ビジネスの挑戦例として、「リンク ル―ジョン」を挙げたい。2015 年に設立し、「Link」と「Inclusion」からつけた社名は、 『「途上国市場」と「企業」をつなげ、低所得や貧困のなかで暮らす人々が排除されること のない、あらゆる人を包み込む世界を創ります』5)という社是を示している。金融包摂(フ ァイナンシャル・インクルージョン)を進めるためのマイクロファイナンスの管理・運営ソ フトの提供、貧困層のデータ分析をもとにした BOP ビジネスとして田舎の行商・小売り業 を営む家庭への仕入れ代行デリバリーシステムの構築を進めている。代表取締役の黒柳英 哲氏は、約 5,000 戸の小売業家庭を対象とするこのデリバリーシステムをコスト削減によっ て黒字化にもっていき、貧困削減のためのビジネスが成立することを証明し、今後の SDGs や戦略的な社会貢献を目指す企業の受け皿にしたいという中長期的ビジョンを打ち 出している。 〇 dacco.ミャンマー 「dacco.ミャンマー」は、元青年海外協力隊(JOCV)隊員で 2003 年にミャンマーに渡り、 現地で NGO 活動をしている和田直子さん6)が始めた現地ブランドのお土産ショップであ る。ミャンマー各地の手工芸品を丁寧に仕上げ、品質とデザインの良さで知られる。2015 年に dacco.を開業。ミャンマーの特に少数民族の多い山間地域の伝統的な手工芸品を、市 場に合わせたデザインを考案し、品質向上をはかりながら手作業で商品化している。毎年 5 月に浅草寺で行われる「ミャンマー祭り」には必ず出店し、今年の 2 ∼ 3 月には「たまプ ラーザ」でも店を出して、ミャンマーの民族色豊かな手工芸品の日本への紹介に尽力して いる。

〇 Sin Phyu Lay

最近は空港の売店でもみかけるシンピュー(白い象)クッキーで有名になったのが Sin Phyu Lay 社の女性起業家、新谷夢さんである。2012 年にミャンマーの不動産会社に転職し、 2014 年からミャンマーのお土産として白象ブランドのクッキーを開発して起業に至った。 シャン州の有機栽培で育てた日本米に近い粘り気のあるシャン米を使い、「タンニャ」と現 地でよばれているトッディというヤシの木の実からとれる黒砂糖で味付けしたクッキーで ある。高級感のあるパッケージとお土産に手ごろな値段で人気を博している。海外での起業 に関心のある日本の若者向けのワークショップを開催しており、多くの若者が途上国での ビジネスを実地体験を通じて学習している。自分の体験を「ミャンマー一喜一憂物語」7) いう漫画にして発信しており、これからミャンマー人向けに漫画の勉強会も開こうという 多才でバイタリティ溢れる若手マネージャーである。 途上国で起業するという発想は日本にいると無謀な冒険に聞こえる。途上国は援助の必 要な貧しい国であり、途上国での開発は民間では Non-Profit(非利益)型の NGO がやるべ きものと考えられていた。日本の政府開発援助の伸び悩みもあり、NGO は多様な経営戦略 を模索し始めており、アジア諸国の経済発展が続くなかで途上国市場は先進国よりも成長 力を秘めた可能性を提供している。ミャンマーにおける日本人の若手起業家たちの活動は、 経済・社会・環境のトリプル・アップラインを目指す SDGs ビジネスの先駆けとも言え、 今後の活躍が期待される。 総 合 地 域 研 究 84

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