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地方銀行の経営戦略に関する試論 : 経営評価スキームに基づく事例研究の試み

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地方銀行の経営戦略に関する試論 : 経営評価スキ

ームに基づく事例研究の試み

著者

大江 清一

雑誌名

埼玉学園大学紀要. 経済経営学部篇

20

ページ

49-62

発行年

2020-12-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1354/00001306/

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地域特性や地域経済との関わりから地銀が担 うべき役割に着目し、経営戦略の評価に基づ いて今後の地銀経営のあり方を探る。  マトリクスで表示した地銀経営を分析する ための枠組みは、「地銀経営の有効性に関わる 評価スキーム」(以下「評価スキーム」)と命 名する。縦軸には地銀経営者が認識すべき環 境、つまり「環境認識」の要素を表示し、横 軸には認識された環境に対する対応を「環境 対応」として表示する。環境認識は、「人為的 環境」と「構造的環境」で構成され、環境対 応は、「経済性の追求とリスク」および「環境 はじめに  本稿の目的は、第四次産業革命やアベノミ クスによる金融緩和政策の下で、地方銀行が 抱える経営課題について論点を整理し、視角 を定めて地銀経営の方向性を探ることである。 具体的には、地銀経営の有効性を判断するた めの評価スキームを設定し、地銀一行を事例 として取り上げて戦略内容を検討する。評価 スキームは地銀経営を語るうえでの主要な論 点をマトリクスで整理したものである。  事例として選択した地方銀行については、

─ 経営評価スキームに基づく事例研究の試み ─

Essay on Regional Banking Management Strategy

An Attempt of a Case Study Based on the Management Valuation Scheme

 

大 江 清 一

OE, Seiichi  本稿の目的は、 四次産業革命やアベノミクスによる金融緩和政策の下で、地方銀行が 抱える経営課題について論点を整理し、視角を定めて地銀経営の方向性を探ることであ る。具体的には、地銀経営の有効性を判断するための評価スキームを設定し、大分銀行 を事例として取り上げて戦略内容を検討する。評価スキームは地銀経営を語るうえでの 主要な論点をマトリクスで整理した。  地銀の場合は、全国に支店網を有し競争条件に著しい差異が見られないメガバンクと は異なり、拠点を置く地域の特性によって地銀ごとに差異が存在する。  大分銀行は、地方創生が声高に叫ばれる以前から地産地消や一村一品運動を展開して きた大分県の中核金融機関として、地域との密着を重視し、自ら地域の商機発掘に貢献 しようと活動してきた。この点に、地方銀行が直面する苦境を克服するヒントがあるの ではないかと考えられる。 キーワード : マイナス金利、 第四次産業革命、 人為的環境、 構造的環境、 環境認識、 環境対応

Key words : negative interest rate, the fourth industrial revolution, artificial environment, structural environment, recognition of environment, response to environment

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技術の活用」の2つと認識する。  地銀経営を取り巻く環境については、(1) 経済性の追求とリスク、(2)環境認識と環境 対応の2つの面からアプローチする。これら の2つの面を構成する要素を整理した上で、 評価スキームを用いて事例研究の対象地銀を 取り巻く地域特性と経営の特質を勘案して経 営戦略の評価を行う。  「経済性の追求とリスク」については、「規 模の経済性」、「範囲の経済性」、「スピードの経 済性」の3つの視角を設定するとともに、そ れぞれの経済性を追求することにともなうリ スクも併せて評価する。  「環境適応と環境創造」については、それ ぞれの理論的基盤である「コンティンジェン シー理論」と「ネオ・コンティンジェンシー 理論」が主張するところを尊重し、銀行の本 来業務の推進による環境適応と、基本的機能 から離れた付帯サービスによる環境への働き かけ、つまり環境創造の実態を分析する。  事例研究として特定の地方銀行を評価する 場合は、評価スキームに当該地方銀行を取り 巻く環境に固有な地域特性を、歴史的経緯を 踏まえて検討する。 2.地方銀行を取り巻く環境認識 2-1 人為的環境  地銀経営を取り巻く環境は前述のごとく、 (1)マイナス金利政策による収益への影響、 (2)第四次産業革命による金融機関の基本 的機能に対する影響の2つに分類される。前 者は「地銀の収益構造に直接的な影響を及ぼ す裁量的な政策によってつくり出された環 境」であるのに対して、後者は「世界規模で 進む産業構造の変革が金融機関の基本的機能 に影響を及ぼす環境」といえる。 適応と環境創造」で構成される。  今回は地方創生が声高に叫ばれる以前から 地産地消や一村一品運動を展開してきた大分 県の地方銀行を取り上げ、評価スキームを用 いた検討を試みる。  大分銀行を事例研究として取り上げたのは、 評価スキームで示される環境変化に対して地 域との密着を重視し、自ら地域の商機発掘に 貢献しようとしている金融機関の経営姿勢に、 地方銀行が直面する苦境を克服するヒントが あるのではないかと考えたからである。事例 研究の結果とその解釈に関しては全て筆者の 責任において記述する。 1.地銀経営を分析するための枠組み 1-1 地銀経営の有効性に関わる評価ス キーム  本稿で設定する評価スキームは、地銀経営 の実態を把握するための枠組みである。本ス キームを用いて個別の地銀経営を評価する場 合には、地銀一般とは異なる地域特性や地銀 経営の特質を加味する必要がある。「図表1 地銀経営の有効性に関わる評価スキーム」と その概要説明は以下の通りである。 1-2 評価スキームの概要  本稿では、地銀経営を取り巻く環境認識に ついて、(1)人為的政策である金融緩和政策 による経済環境、(2)世界規模で進む第四次 産業革命による経済構造の変化にともなう環 境の2つに分類して認識する。前者を「人為 的環境」、後者を「構造的環境」と命名し、 前者の主要な環境要因を「量的▶質的金融緩 和」と「マイナス金利政策」とし、後者の主 要な環境要素を「第四次産業革命が銀行の基 本的機能に及ぼす影響」と「銀行業務へのIT

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2-1-2 マイナス金利政策  地銀経営を取り巻く環境要因の一つとして マイナス金利を考える場合は、この固定観念 に引きずられたマインドセットから距離をお き、マイナス金利が地銀収益に及ぼす影響を 客観的に分析することが必要となる。  金融緩和政策を実施するにあたって、ゼロ 金利のもとでは「流動性の罠」が存在すると して、日銀は「量的・質的金融緩和政策」に 加えて「時間軸政策」、「質的緩和政策」、「包括 的緩和政策」などを実施してきた1)  しかし、消費者物価の動きから一時的要因 の影響を取り除いたインフレ率である「期待 インフレ率」に対して、量的・質的金融緩和 政策が及ぼす効果が不十分と判断した日銀は、 さらに「自然利子率」と「実質金利」の関係 に危機感を抱いた。  自然利子率は、経済・物価に対して引き締 め的にも緩和的にも作用しない中立的な金利 水準のことである。換言すると、完全雇用下 で貯蓄と投資を等しくさせる均衡実質金利を 意味する。つまり、自然利子率は、中央銀行 にとっては金融政策スタンスが引き締め的か 緩和的かを判断する際のベンチマークの一つ となるものである。日銀は直接観察できない  本稿では、前者のマイナス金利政策による 収益への影響を、比較的短期で裁量的な「人 為的環境」とし、後者の四次産業革命による 金融機関機能への影響を、長期的対応を要す る「構造的環境」と称する。 2-1-1 量的・質的金融緩和政策  量的・質的金融緩和政策(QQE:Quantitative-Qualitative Easing)は、第二次安倍内閣のも とで日本銀行総裁に任命された黒田東彦氏に よって、2013年4月から2016年1月までの2 年9か月にわたって実施された金融政策であ る。  一般的に、「金利というものは限りなくゼロ に近づくことはあっても、マイナスになるこ とはない」という非負制約に基づく人々の固 定観念が存在する。「マイナス金利」という 言葉は、この固定観念に反する意外性と衝撃 的な感覚をともなった概念として定着してい ると考えられる。従来から金利操作が金融政 策の手段として存在していたにもかかわらず、 独立した政策ツールとして認識されるのは、 係る事情が関係していると考えられる。 図表1 地銀経営の有効性に関わる評価スキーム 環境対応 環境認識 (経済学的アプローチ)経済性の追求とリスク (経営学的アプローチ)環境適応と環境創造 【人為的環境】 金融緩和政策  量的▶質的金融緩和  マイナス金利 (1)地銀の統合  ⇒「規模の経済性」 (2)金融商品の多様化  ⇒「範囲の経済性」 【戦略①】 (1)銀行の本来業務の推進   (融資の拡大)  ⇒「環境適応」 【戦略②】 【構造的環境】 第四次産業革命  銀行の基本的機能  IT 技術の活用 (1)IT 技術の早期導入による   経営効率化  ⇒「スピードの経済性」 【戦略③】 (1)銀行の基本的機能以外の   付帯サービス(地産地消等   による地域経済の活性化)  ⇒「環境創造」 【戦略④】 【注記】図表で示される「検討スキーム」にあてはめて地銀経営が採用すべき経営戦略を検討する。

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の知的能力をモノによって代替する変革」で ある。AIはすでに知的競技である将棋、囲碁、 チェスなどの分野で人間の思考能力を超越し つつあり、ビッグデータは人間の記憶能力を はるかに超越している。このような変革は、 人間の知的労働にとって代わり、就業機会を 奪うだけでなく、人間の知的作業によって支 えられてきた社会構造や経済構造に影響を及 ぼす可能性が高い。  このように考えると、これまで人間の思考 能力や知識、経験などで支えられてきた銀行 業務がIT技術によって変革を余儀なくされ、 さらには銀行の基本的機能である、「信用創造 機能」、「金融仲介機能」、「決済機能」にも影響 が及ぶのではないかという危惧が現実味を帯 びる。 2-2-1 第四次産業革命と銀行の基本的 機能  第四次産業革命による影響の一つは、「金融 機関に固有な基本的機能」に対するものであ る。金融機関に固有な基本的機能とは、(1) 信用創造機能、(2)金融仲介機能、(3)決済 機能の3つである。そして、これらの機能を 支えるのが法定通貨、つまり法貨をベースに した管理通貨制度である。  銀行の基本的機能を支える管理通貨制度は 信頼によって成り立っている。法貨が国内外 で通用するのはその国が最終的に通貨の決済 を行うという信頼があるからである。この信 頼は、管理通貨制度のもとで当該国の中央銀 行が発行した通貨は、最終的に額面金額で決 済されること、つまり、「ファイナリティ」(決 済完了性)を有するところに由来する。  法貨が管理通貨制度の下で通用する以前の 時代において、通貨価値を支える役割を担っ 自然利子率を理論的に推計し、現実の実質金 利の動向を自然利子率との相対的な関係で捉 える2)

 日本銀行は、「Bank of Japan Review」の中 で「実質金利が自然利子率を上回れば(実質 金利ギャップがプラスであれば)、産出量を 完全雇用水準から低下させることとなり、ひ いては物価を下押しする。逆に、実質金利が 自然利子率を下回れば(実質金利ギャッ プ がマイナスであれば)、産出量や物価を押し 上げることとなる」と述べている3)  具体的には、「自然利子率<実質金利」とな らないように金利水準を操作することが物価 水準を引き上げることに寄与するという考え 方が、日銀の金融政策の基盤に存在すると考 えられる。  完全雇用下で貯蓄と投資を等しくさせ、経 済・物価に対して引き締め的にも緩和的にも 作用しない理念的な自然利子率が低下傾向に ある事態に直面した日銀は、実質金利を下げ て「自然利子率>実質金利」を実現すること が不可欠と考えた。しかし、従来の量的・質 的金融緩和政策でそれを実現するにはもはや 限界に達していると判断した日銀は、実質金 利の引下げを誘導すべく金利の非負制約とい うくびきを突破して、禁断のマイナス金利政 策に踏み切ったというのが筆者の理解である。 2-2 構造的環境  構造的環境として認識するのは、(1)第四 次産業革命の進展が銀行の基本的機能に及ぼ す影響、(2)高度化したIT技術の銀行業務や 金融商品への応用という2点について、地方 銀行の経営者がどのような経営戦略をもって 対応するかという点である。  今後予想されるIT技術による変革は、「ヒト

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 技術的検討の重要性を地銀経営との関わり から述べると、そのポイントはメガバンクを 中心とする大規模金融機関と地方銀行のIT技 術導入のタイミングである。IT技術を導入す るタイミングは高速で技術が進化する現状を 勘案すると、必ずしも先行者メリットが成立 するとは断言できない。つまり、IT技術の導 入に関しては後発者が先行者の試行錯誤によ るコストを省くことによって、「得べかりし利 益」ならぬ、「負うべかりしコスト」を節減す る戦略が合理的となる可能性がある。この点 に関する戦略は個々の地方銀行によって異な ると考えられる。  地銀にとっての経営判断のポイントは、リ スクを負って先行投資することにより、ITを 活用して業務を効率化し、新金融商品を開発 することにより、収益を生み出すことが可能 か否かという点である。つまり、投資収益率 を確保するだけのマーケットが地銀を取り巻 く当該地域に存在するか否かである。 3.地方銀行の環境対応と経営戦略 3-1 経済性の追求とリスク  経済性の追求には大きく、「規模の経済性」、 「範囲の経済性」、「スピードの経済性」の3側 面が存在する。銀行業務にIT技術を活用して、 先行者メリットを追求する行動は、「スピード の経済性」を狙ったものと認識される。しか し、スピードの経済性を追求する行動はリス クと背中合わせであり、不調におわった場合 のダメージが大きい。  この場合に考慮すべきは、「メガバンク v.s 地方銀行」という図式であり、地銀はフォロ ワーとしてメガバンクに追随することが合理 的と考えられる。それが経済性の追求とそこ から派生するリスクを比較考量した場合の結 ていたのは金であった。つまり、金本位制度 においては価値の変動が少なく、持ち運びに 便利な金が貨幣価値を支えていた。  通貨流通量が少なく、金によって通貨の流 通量を支えることが可能であった時代では、 金が通貨価値を支える役割を果たすことがで きたが、経済規模の増大によって通貨流通量 が増えると鉱物資源としての金の産出量がそ れに追いつかなくなり、金本位制は成り立た なくなった。  第四次産業革命から派生し、IT技術にサ ポートされて出現した「仮想通貨」は、法貨 のようにファイナリティによってその価値が 担保されているわけではない。その信頼性の 淵源は発行企業の信頼である。つまり、国家 の信頼に頼ることのなかった金本位制下にお ける金の役割を果たすのが、仮想通貨におけ る発行者の信頼である。  仮想通貨の発行者が国ではなく私企業であ る場合は、いかなる優良企業でも最終的に倒 産リスクをまぬがれることはできない。仮想 通貨は法貨とは似て非なるものである。つま り、仮想通貨は法貨に代わって3つの銀行機 能を支えることはできない。 2-2-2 IT技術と銀行業務  銀行機能の本質に関わる理論的検討に加え て、金融機関が業務を遂行するうえで、ITの 技術的な長所がどのように金融サービスの利 便性向上に貢献するのかという点が検討すべ きポイントとなる。つまり、構造的環境とし ての第四次産業革命に関しては、金融機関機 能の本質に関わる「理論的検討」と、IT技術 の利便性をどのように金融サービスに生かす のかという点に関する「技術的検討」の2側 面からアプローチすることが必要となる。

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想になるであろう。 3-3 経営戦略の種類  融資業務による本業の利益幅が減少する状 況において、地銀経営者によって採用されて いる戦略の選択肢は大きく以下の通りである。 戦略①:合併や金融商品の多様化により経済 性を追求する戦略。 戦略②:地域内の法人および個人顧客に対し て営業密度を高め、リスクをとって 融資業務を推進する戦略。 戦略③:IT技術を駆使して業務効率化を図り、 金融派生商品による収益確保を目指 す戦略。 戦略④:地域産業と連携強化し、経営提言や 顧客紹介等を通して資金ニーズを探 り収益につなげる戦略。 4.地方銀行の事例研究  地方銀行の事例研究については、本来異な るタイプの地銀を複数行分析し、その結果に 基づき地銀総体について議論することが必要 である。本稿では経営の特徴として、前述の 「戦略④」、つまり「構造的環境」としての第 四次産業革命が及ぼす変化に対して、「環境創 造」の一環として「地場環境への働きかけを 重視した地銀経営」を実践している大分銀行 を取り上げて事例研究を行う。  大分県は平松守彦知事時代の「一村一品運 動」に始まり、「とよの国食彩運動」を経て現 在にいたる地域活性化のパイオニア県であり、 地方創生が声高に叫ばれる以前から県単位で の地域経済の振興に注力してきた。大分銀行 は地場の中核銀行として金融面から地方活性 化運動の中心にあった。 論となる。そして、この点について地銀がい かなる戦略を考えているのかが事例研究の テーマの一つとなる。  経済性の追求の面から、「地方銀行の統合」 を考えると、それは「規模の経済性」を追求 するものと理解される。人為的環境としての 金融緩和政策に対して、長期的な展望に基づ いた統合戦略をもって対応することが妥当か 否かは、各地銀の経営実態と財務状況に依存 するので一般論として結論を導き出すことは 困難である。 3-2 環境適応と環境創造  地方銀行を取り巻く環境が経営に及ぼす影 響を考察するにあたっては、「コンティンジェ ンシー理論」に基づいて、地銀がどのように 環境適応を行っているのかを考察する。つま り、これは与えられた環境条件に対する銀行 の「環境適応」の実態を考察することになる。  組織を取り巻く環境下で銀行が銀行として 環境適応するのであれば、銀行の本質的な機 能である「信用創造機能」、「金融仲介機能」、 「決済機能」を発揮することにおいて本来業 務を推進することが、最もオーソドックスな 経営戦略ということになる。  しかし、評価スキームに検討対象の地銀を 取り巻く地域特性を考慮した場合、「ネオ・コ ンティンジェンシー理論」、つまり地銀が環 境に対して能動的に影響を与える「環境創造」 が地銀の経営戦略として有効と考えられれば、 その実態を分析することが合理的と思われる。  地銀の役割が地域経済を金融面で活性化し、 銀行自身もその恩恵にあずかって収益を伸ば すことであるという原点に立脚すると、銀行 の本質的機能を著しく逸脱しない範囲でいか にすれば地域経済に貢献できるのかという発

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 外国人観光客の約6割を占める韓国人は LCC航空などの格安チケットで来日し、大分、 別府市や湯布院などを中心に観光と買い物を 目的に訪日するというのが主な行動パターン である。  日銀の特別レポートが発行された、2019年 7月以降の日銀による宿泊業者への聞き取り 調査によると、日韓関係が悪化して以降、キャ ンセルが頻発しているという結果が得られた。 しかし、宿泊業者の懸念は直近の訪日韓国人 宿泊客のキャンセルより、むしろ将来に向け て韓国人観光客の予約が埋まっていないこと である。日銀大分支店がまとめた県内の主要 ホテルの新設・リニューアル案件の一覧は図 表2の通りである。  図表2のうち2019年8月に新設やリニュー アルが完了する4つのホテルは、2019年9月 から大分県を含めて開催されるラグビーワー ルドカップの観戦客を見込んだものと考えら れるが、2019年11月以降2025年までに新設・ リニューアルを計画している5つのホテルは 明らかに長期的な視野から定常的な訪日客を 見込んでいる。このように考えると、日韓関 係悪化が長期化すれば宿泊業者へのマイナス 影響は不可避と思われる。 地銀統合および金融商品の多様化戦略 1.マイナス金利政策への対応 (1)マイナス金利政策が収益を圧迫してい ることは明らか。 (2)しかし、日銀預け金全額にマイナス金 利が適用されるわけではないので、加 重平均すると結果的に概ねゼロ%で運 用している状況。 (3)今後、預け金の運用収益がマイナスに なるのであれば、地方公共団体向けの  本稿では、「戦略④に注力するタイプの地方 銀行」として大分銀行を選択し、公開資料に 加えて、経営実務の中核にあって経営企画を 担う人物へのヒアリング、日本銀行、大分大 学など地域の監督当局や研究機関の見解を参 考に自説を形成した。 4-1 【戦略①】地銀統合および金融商品 の多様化 マイナス金利政策と経済状況  マイナス金利政策に対する批判的なコメン トは、監督当局である日銀からは当然ながら 聞くことはできなかった。物価上昇率の目標 である2%を達成するまでは、現在の金融政 策を継続すべきであるというのが日銀の基本 スタンスである。ただし、マイナス金利政策 が大分県の地場産業を著しく不調に陥らせて いるという実感は、日銀当局者には存在しな い。  世界の経済状況が大分県経済に及ぼす影響 については、「米中経済摩擦」と「日韓関係の 悪化」の2つの側面から聞き取り調査を行っ た。米中経済摩擦の影響は、2019年夏の時点 において監督当局者および当局者が定常的に 接触する地場企業の経営者からも明確なマイ ナス影響は把握できない。  一方、日韓関係の悪化は2019年7月以降 徐々にマイナス影響を及ぼし始めている実態 が明らかとなった。九州に来日する外国人観 光客数は、福岡県に次いで大分県が2位につ けている。大分県のインバウント動向に関す る「日本銀行大分支店特別調査レポート」に よると、2018年に大分県を訪れた外国人宿泊 客の国籍内訳は、韓国59.2%、台湾11.8%、 香港9.4%、中国8.9%でその他が欧州やオー ストラリアをはじめとする国々となっている4)

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に陥ることとなる。したがって、経営 戦略としては不適切と考えられる。 (3)大分銀行は金利を武器に無理な融資競 争をしないが、県外に顧客を求めるこ ともしない。近県の顧客を横取りする ことは戦略的にしない。 【戦略①】地銀統合および金融商品の多様化 戦略に関する考察  戦略①に関しては、大分銀行は現在、県レ ベルでの地場深耕戦略を採用している。資金 の運用難の状態にあることは他の地銀と同様 と思われるが、少なくとも、他行との合併や 統合によって規模の経済性を追求し、顧客に 低金利を提示することにより、融資ボリュー ムを増やして収益増を図る戦略は採用してい ない。  県内の他地銀は豊和銀行であるが、大分銀 行によれば、双方の顧客が競合し地銀間で金 利引下げ競争が激化しているという認識は存 在しない。  大分銀行の合併・統合に対する考え方は明 確である。規模の経済性を追求した統合であ れば体力が増強され、低金利運用への耐性は 運用を増やして対処することが運用対 策の一つ。国債での運用は控えている。 (4)地方銀行が直面する問題は受信面では なく与信面であり、運用先の多様化が 課題。 (5)現状を打開する起死回生の資金運用策 が存在するわけではないが、企業や個 人向けの金利設定を無理して高めに設 定しているわけではないので、一般顧 客が金利動向に敏感に反応して借り換 えに走ることが少ない。つまり、金利 動向に対する運用金利の感応度が低い ことから、低位ではあるが比較的安定 的な金利運用が可能となっている。 2.規模の経済性追求(合併・統合) (1)合併や統合等により規模の経済性を追 求することは戦略に含まれていない。 (2)規模の経済性を追求する地銀もあるが、 メガバンクをはじめとする他の金融機 関との金利競争に焦点をあて、競争力 のある金利を顧客に提示するため規模 を拡大して体力勝負に打って出れば、 それは際限のない一種の「無限ループ」 図表2 主なホテルの新設・リニューアル案件 ホテル名 開業時期 レックスホテル別府 2019 年4月 灯りの宿 燈月 2019 年4月 潮騒の宿 晴海 2019 年7月 ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ 2019 年8月 ガハマタワー(潮騒の宿 晴海) 2019 年 11 月 ガリレア御堂原 2020 年9月 ホテルアマネク別府 2021 年春 星野リゾート 界 別府 2021 年春 杉乃井ホテル 2025 年 【出典】「大分県のインバウンド動向―世界的スポーツイベントの開催を前に―」     『BOJ Report & Research Papers(日本銀行大分支店特別調査レポート)』     (日本銀行大分支店、2019 年7月 31 日)6頁。

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る。経営理念の基本は、当時打ち出さ れた「三方よし」(顧客よし、銀行よし、 地 域 よ し ) で あ る。 こ の 三 者 がwin-win-winの関係になることが必要であり、 銀行の要望だけを顧客に押し付ける営 業は控えることが行員に徹底された。 それは全行員が共有すべき「感動を、 シェアしたい。」というフレーズに反映 されている。 (3)この考え方は大分銀行の営業活動を基 本的に大分県内に集中することを前提 に成り立っている。個別の融資案件で 無理をするより県内の地場顧客と緊密 な関係を維持して堅調に利益を積み上 げることが良策と考える。 3.環境適応のためのインフラ整備 (1)長期経営計画の考え方を行員に徹底す るためには、経営理念を浸透させるだ けでなく、行員の営業活動を支え、か つ評価が関わる身近な行動指針として の人事評価基準を変更することが必要 となる。 (2)長期経営計画の実施にともなって変更 された人事評価のポイントは以下の通 りである。 1)従来数字の達成度のみで評価していた 実績にプロセス評価を加えた。(量的評 価から質的評価へ) 2)その結果、営業会議が数字のフォロー だけではなく、顧客への提言を中心に 議論されるようになった。 3)若い行員が法人営業を強く希望するよ うになった。 4)将来の収益の柱として債券や株式、投 信の売買を専門にするマーケット部門 一時的に強化されるが、低金利融資であるこ とのみが借入の誘因であるとすれば、それは 限りなく好条件を求める顧客サイドの要望に 対応し続けることを余儀なくされる。銀行に とっては負の無限ループに陥るのではないか という懸念が生じる。  大分銀行は、金融商品を多様化することに より「範囲の経済性」を追求し、融資基盤を 拡大するという戦略を採用してはいない。新 金融商品等のリテラシーが必ずしも高くない 保守的な顧客への営業にはかなりの労度をか ける必要があるというのが理由の一つと推察 される。 4-2 【戦略②】銀行の本来業務の推進強化 1.本来業務の推進強化による環境適応 (1)銀行の本来業務に関しては金利を無理 して引き下げて融資残高を増やすとい う戦略を採用していない。 (2)銀行のビジネスモデルは基本的にス トックビジネスであるという原点に回 帰すると、低い金利を顧客に提示して 融資額を増やすことによって利益増を 図るという、いわばフロービジネスに 集中することとなり、銀行本来のビジ ネスモデルから大きく乖離する。 2.環境適応のための経営理念 (1)ストックビジネスとしての銀行業務に 徹するためには、1)経営トップの考え 方を明確に示し、それを行員に徹底す ること、2)経営トップの考え方を現実 化するための制度インフラを整備する ことの2点が重要である。 (2)現在の経営理念は2011年に始まった10 年の長期計画で打ち出されたものであ

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をもとにした量的評価から、プロセス重視の 質的評価に変更することは経営トップの英断 なくしてなし得ない重大な経営判断であるが、 この決断に踏み切るのは、経営理念の正当性 に確固たる自信と信念が存在してはじめて可 能になると考えられる。 4-3 【戦略③】第四次産業革命への対応 1.銀行の基本的機能 (1)第四次産業革命が、1)信用創造機能、 2)金融仲介機能、3)決済機能の3つ の基本的機能に早期に著しい影響を与 えることはない。 (2)ITを駆使したフィンテック等が銀行の 基本的機能を無用にするとは思わない。 しかし、5年後にどうなっているかにつ いては不安がのこる。他業態が銀行の 融資機能に進出するのであれば、法律 を改正して金融以外に他業態を兼ねる ことの出来る地域限定のコングロマ リットの設立を許可しても良いのでは ないかと思われる。 2.IT技術の活用 (1)最新のIT技術に関しては、金融商品に それらを適用して先行メリットを取ろ うとはしていないが、顧客の事務合理 化については積極的にサポートを行っ ている。具体的には、「RPA」(Robotic Process Automation)活動である。こ の活動は、有用なソフトは事務合理化 のための商品をまず銀行が導入し、そ の効果を確認した後に手数料をとって 顧客に導入サポートするビジネスであ る。各支店にノルマを課している。 を重視する戦略を6年前から本格的に 行ってきた。具体的にはマーケット専 門で通常のバンキングの経験がない人 材を役員に据えてマーケット部門の ヘッドにした。 【戦略②】銀行の本来業務の推進強化に関す る考察  大分銀行の基本的なスタンスは、銀行業務 の本質が「ストックビジネス」であるという 点について、確固たる認識を行員間で共有す ることである。外形的な融資条件の有利性を 強調するあまり、顧客が金利ショッピングに 走るような状況で融資案件を獲得することは、 大分銀行のスタンスから見ると、銀行業務を 「フロービジネス」として誤認識していると いうことになる。  この点に関しては、戦略①において規模の 経済性を追求して融資競争で優位性を得よう する戦略とは、一線を画するスタンスと共通 するものがみられる。  ストックビジネスを重視する経営姿勢は、 顧客との長期的な関係性を前提として成立す るが、その関係性を基底から支える経営理念 が「三方よし」(顧客よし、銀行よし、地域 よし)の精神である。さらに、この精神を現 代風にアレンジしたキャッチフレーズが「感 動を、シェアしたい。」である。  顧客や地域と感動をシェアするためには、 銀行を含めた三者がwin-win-winの関係にな ることが必要であるという解釈も、「ストック ビジネス重視」、「三方よし」というキーワー ドをもってすれば整合的に理解することがで きる。  経営理念を組織内で徹底するための具体策 は、人事評価システムにも表れている。数値

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4-4 【戦略④】地域経済活性化による商 機の創出 1.地方活性化の方策 (1)大分県には国内からだけでなくテキサ スインストルメンツ等、海外から大企 業の工場を誘致した経緯がある。しか し、工場の誘致は、「動かない産業」で なければならない。つまり、一定期間 工場が当地に進出してきても、工場設 備が陳腐化し採算が取れなくなると、 他地域や海外に移動してしまう。 (2)なぜなら、陳腐化した工場を立て直す より、それを売却して条件の良い他所 に移った方が経済合理性に適っている からである。つまり、この点を考慮し ないで安易に誘致すると安定的に雇用 を確保し、収益をもたらすことなく一 過性で終わってしまう。 (3)「動かない産業」を誘致するにはどうし たら良いかといえば、大分県でなけれ ば成立しない産業分野に属する企業を 誘致することがポイントとなる。 2.商機の創出 (1)地域商社として「Oita Made」(オオイ タメイド)を設立し大分県の特産物を 取り扱っている。従業員は大半を大分 銀行から派遣しているが出資比率は制 限があり5%にとどまっている。この 活動が収益に及ぼす影響は現在大きく はないが、今後出資比率を引き上げ、 本格的に物産販売のサポートを行う予 定。 (2)「三方よし」の精神に基づく精神を引き 継いだ後任経営者も地域との連携を重 視する路線を継承している。経営トッ 【戦略③】第四次産業革命への対応に関する 考察  大分銀行は、第四次産業革命が銀行の基本 的機能に与える影響について差し迫った危機 感を抱いてはいない。また、第四次産業革命 の中核にあるIT技術を銀行業務に積極的に取 り入れて、スピードの経済性を得ようとする 戦略をとっているわけでもない。  つまり、IT技術の導入に関しては金融市場 におけるマーケット・リーダーたるメガバン クの向こうを張ってマーケット・リーダーあ るいはマーケット・チャレンジャーになろう とする経営者の意図は存在しない。あくまで も、IT技術を積極的に導入しようと考える マーケット・リーダーの動向を注視する、マー ケット・フォロワーであろうとするのが大分 銀行の経営戦略と理解される。  その一方、事務合理化が進展していない企 業を中心とした取引先に対しては、「RPA」 (Robotic Process Automation)活動を通して

IT技術を利用した各種インフラを紹介し、導 入成立の場合には手数料を稼得するビジネス を行っている。  このビジネスはマーケット・ニッチャーと しての活動と位置づけられる。つまり、IT技 術を駆使して銀行実務を先端的に改善するの ではなく、既存のIT技術を用いたソフト・イ ンフラを銀行自身が取り入れて、その有効性 を確認できたものを顧客に紹介して手数料収 入を得るという、いわば限定されたマーケッ トにおいて本業とは異なる切り口から商売に 結びつけるという発想に基づいた活動である。

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した例がある。TI側からすれば老朽化した工 場設備を更新してまで大分県にとどまって生 産を継続するメリットがなかったのである。  つまり、半導体産業に属する企業特性と、 大分県の地理的・地形的特性や産業特性が不 可分ではなかったことが工場撤退の理由と考 えられる。半導体を製造するにあたって、工 場を国東半島の根元に位置する日出町に設置 し続ける理由は存在しなかったということで ある。  これらの事実から、今後採用すべき戦略と して明らかになったのは、営利原則に基づい て行動する企業サイドのニーズが、大分県で なければ充足できない企業を優先的に誘致す べきということである。この点、大分銀行は 経営トップの意思として地方創生に特化した 部署を設置して旗振りをさせ、支店営業の中 核に定期的な各地方公共団体トップと連絡会 議を開催することを課題として設定している。  地銀が関わるべき局面は、国内海外を問わ ず、地方自治体と協働して戦略的に「動かな い産業」に属する企業を独自の情報網や人的 関係等を通して紹介することであろう。草の 根運動としての「一村一品運動」をミクロ面 からの地道な活動であるとすれば、地銀が「動 かない産業」に属する企業の地場誘致への貢 献はマクロ面からの活動であり、この活動に こそ規模の経済性を生かすべきと考えられる。  大分銀行独自の動きとして、地方商社であ るOita Made株式会社の運営に関わり、大分 産の様々な物産の販売に携わっている。この 動きは一村一品運動の流れを受けて、銀行が 本来業務を離れて自らが大分県産の販売に関 与するという画期的なものである。 プは、地方公共団体と連携して地方に 貢献することが大分銀行の本来業務で あるという指導をしている。 (3)具体的には、地方創生に特化した部署 を創設し、県内の支店長に2か月に1 回の頻度で市長レベルと会談し、現在 の悩みや問題点を聴取して金融機関に できるサポートを推進している。 (4)具体的な業務推進手法は、顧客が設備 投資等の多額の投資を行う場合、条件 に合致すれば地方公共団体から必要金 額の一部について補助金を得られる場 合がある。このノウハウと事務を銀行 が提供し、残額を融資するというビジ ネスモデルである。このビジネスモデ ルにより、「顧客よし、銀行よし、地方 公共団体よし」の三方よしが実現できる。 【戦略④】地域経済活性化による商機の創出 に関する考察  産業振興に関わり商機を創出する役割を果 たすことに関する大分銀行の見識は明確であ る。地方活性化の方策については、大分県の 地理的・地形的特性や地域活性化に成功した 先人の事例等に基づき誘致すべき産業の特性 について明確な認識がある。  大分銀行が産業誘致に関する認識として組 織で共有しているのは、「動かない産業」を誘 致することである。具体的には、誘致企業の 特性が大分県の地理的・地形的特性や産業特 性と不可分である企業を誘致すべきという考 え方である。  米半導体大手のテキサス・インスツルメン ツ(TI)の日本法人である日本TIは、かつて 大分県日出町に工場進出したが、設備の老朽 化にともない撤退し、従業員約500名を解雇

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 すでに、戦略④の一環として実施されてい ることではあるが、今後注力すべきは戦略④ においてこそ「規模の経済性」を追求するこ とが重要であろう。つまり、地方公共団体と の協働による地域活性化や産業振興と、それ から派生する銀行にとっての商機の獲得であ る。  大分銀行は経営目標にしたがって、人事評 価等の制度インフラを整備するフレキシビリ ティを有している。また、収益の柱となる部 門を担当する人物を役員ポストに据えて処遇 する戦略性も兼ね備えている。地方創生に特 化した部署を司令塔とする地域活性化戦略に ついても、経営トップの意図が管理者層と共 有され、組織一丸となって戦略を推進するで あろうことは確実と思われる。 おわりに  本稿の目的は、第四次産業革命やアベノミ クスによる金融緩和政策の下で、地方銀行が 抱える経営課題について論点整理し、視角を 定めて地銀経営の方向性を探ることであった。 地銀経営を評価するために設定した評価ス キームの有効性を判断するには、今回実施し た事例研究だけでは不十分と考えられるが、 複数の事例研究を積み重ねて導きだした将来 予測と実績を比較検討することにより、評価 スキームの構成や調査の切り口も改善されて いくと期待される。  環境評価の切り口として定めた「人為的環 境」と「構造的環境」のうち、人為的環境を 構成する量的▶質的金融緩和とマイナス金利 は、まさに人為的に政策が変更されれば他の 要素と入れ替えなければならない。また構造 的環境を構成する第四次産業革命も、現在わ れわれが電気の恩恵に浴することを当たり前 4-5 今後の方向性  事例研究においては、評価スキームにした がって大分銀行の経営戦略実務を担当する人 物にヒアリングを行い戦略①~戦略④の内容 を聴取した。  ヒアリングで獲得した情報のすべてについ て疎明資料や第三者の証言をえたわけではな いが、その多くは大分銀行が発行する企業史 である『大分銀行110年の歴史』や各種の配 布物によって確認することができる。また、 大分銀行赤レンガ館、宗麟館等大分市内に点 在する関係施設を実際に見聞することによっ て心証を形成することが可能であった。  マイナス金利政策については、日銀、大分 銀行の両サイドから本音を引き出すことはで きなかった。しかし、大分銀行は現在の金融 政策を所与としたうえで、ストックビジネス としての銀行業務の本質に立ち戻る戦略を展 開している。  本稿で環境認識として設定した、金融緩和 政策からなる「人為的環境」と、第四次産業 革命からなる「構造的環境」に対する、経済 学的アプローチについては、規模の経済性、 範囲の経済性、スピードの経済性ともに大分 銀行の経営戦略には重要な位置づけを占めて はいない。また、経営学的アプローチとして の「環境適応」である、銀行の本来業務の過 度な集中も大分銀行の戦略には見られない。  同行が戦略的に主に注力しているのは戦略 ④、つまり、地域経済活性化による商機の創 出に向けた地道な経営の実践である。大分銀 行が位置する大分県政の歴史的経緯や大分県 の地理的特質等を勘案すると、本稿における 環境認識に対する経営戦略としては、戦略④ が合理性を有することは論を待たないと考え られる。

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注記 1)岩田一政、左三川郁子、日経経済研究センター 編著『マイナス金利政策―3次元金融緩和の効果 と限界―』(日本経済新聞社、2016年)33頁。 2)須藤直、岡崎陽介、瀧塚寧孝「わが国の自然利 子率の決定要因―DSGEモデルとOGモデルによる 接近―」『日本銀行ワーキングペーパーシリーズ Research LAB No.18-J-2』(日本銀行、2018年6月 13日)。

3)岩崎雄斗、須藤直、西崎健司、藤原茂章、武藤 一「わが国における自然利子率の動向」『日銀レ ビュー Bank of Japan Review』「総括的検証」補 足ペーパーシリーズ②2016-J-18(日本銀行、2016 年10月)1頁。

4)「大分県のインバウンド動向―世界的スポーツ イベントの開催を前に―」『BOJ Report & Research Papers(日本銀行大分支店特別調査レポート)』(日 本銀行大分支店、2019年7月31日)。 と感じるのと同様、AIが日常生活に果たす役 割を当然と考える時代が到来すれば、銀行業 務がそれを前提に営まれる時代が到来するで あろう。  環境対応に関しても、経済学的アプローチ と経営学的アプローチそれぞれを構成する理 論が新たに研究されれば、対応の切り口が変 わる可能性がある。さらには、環境認識、環 境対応それぞれを構成する要素が増えれば、 戦略を表すセルの数も4つからさらに増加す ることも考えられる。  評価スキームの基本的な考え方は、地方色 豊かな地銀経営のバリエーションをマトリク ス思考で極力シンプルに整理し、マトリクス を構成するセルで示される戦略のどの部分に 注力しているのかを見きわめるとともに、評 価スキームでカバーできない特殊な取り組み を行っている地方銀行があれば、その内容を 付加的に考慮するというものである。  今回事例研究として取り上げた大分銀行に ついては、同行が注力している戦略について、 あらかじめ見当をつけて調査を行った。さら には、聴取した内容については、各種資料の みならず日銀、大分大学等の監督機関、研究 機関の見解と比較するとともに、現地の関連 施設への訪問を通して心証を形成した。その 詳細は第4章に記述した通りである。  本稿は評価スキームを設定し、事例研究を 通してその有効性を検証する目的で作成した ため、試論という位置づけとした。今後は事 例研究を継続するとともに、評価スキームの 有効性もあわせて検証する。 以上

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