• 検索結果がありません。

頷きの頻度と生起位置:音声言語と手話言語の比較

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "頷きの頻度と生起位置:音声言語と手話言語の比較"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

頷きの頻度と生起位置:音声言語と手話言語の比較

Frequency and Location of Nods: Spoken Language and Sign Language

田頭 未希

1

Miki Tagashira

1

1

東海大学国際教育センター

1

International Education Center, Tokai University

Abstract: The present report is part of a large study of the effect of modality on prosodic structure. It

attempts to examine how prosodic cues can be across modality. The Japanese have been observed to nod their heads during conversations more frequently than other cultures, even with themselves. Eyeblinks and head nods collected by 4 native signers (Japanese sing language and American sign language) and 4 hearings (Japanese and American English) were analyzed. The findings were that the frequency of eyeblinks was affected by language modality, and the frequency of nodding concerned to language culture. Moreover, from the view of prosodic aspects, nods tended to occur at the end of the Intermediate phrase in Japanese while they tended to appear at the end of Intonational phrase in Japanese sign language. In Japanese sign language, nods sometimes occurred with eyeblinks at the prosodic boundaries. These results inferred the nodding might play a role as a prosodic boundary function in Japanese sign language, which is the same as eyeblinks convey the same role in many other sing languages.

1 はじめに

日本語は相手との関係により敏感な言語[1]だと 言われ、その現れの一つとして、他の言語に比べ、 あいづちやうなずきが多いことがあげられる。そし てこれは音声言語に限ったことではなく、手話言語 でも同じことがあてはまるであろう。 手話言語はろう者のコミュニティで話されている 自然言語である。音声言語が言語によってそれぞれ 特有の言語体系を持っているように、手話言語もそ れぞれの言語が異なった言語体系を有している。そ して、手話言語において、統語的、音韻的、語用的 に重要な役割を果たしているのが非手指動作である。 本稿では、音声言語と手話言語を対照しつつ、非 手指動作の一つであるうなずきの韻律的役割につい て述べる。

2 韻律境界マーカー

2.1 手話言語の韻律階層構造

手話言語も韻律を持つことはすでに多くの先行研 究によって報告されている。手話言語に物理な音は ないが、抽象的レベルでは音声言語と同様の仕組み を持つとされていることから、手話研究でも韻律 (prosody)という術語が用いられている。 手話言語 の韻律構造も音声言語と同様に階層構造を成してい ると考えられている。 手話言語の韻律階層構造をみてみる。階層構造の 下位層に位置するProsodic word(P-Word)は、手指動 作の手形、動作位置、手指の動き、手指の動く方向、 非手指動作の要素によって決まる[2]。次に P-Word よ り上位層に位置するPhonological Phrase (P-Phrase)は、 1つ以上のP-Word から成り、韻律的に特徴的な現象 が見られる範疇である。例えば、P-Phrase の終端で 手指動作の伸長が起こる[2]、非利き手の動作が伸長 される[3]などの現象は P-Phrase レベルで生じるとさ れる。統語論の観点からは、P-Phrase は名詞句や動 詞句などの句境界に基本的には一致すると考えられ ている。さらに P-Phrase の上位層にあたるものが Intonational Phrase(I-Phrase)である。I-Phrase は統語 とは独立して考えられるが、実質的には音韻論と統 語論の中間に位置するという考えもある[4]。I-Phrase の境界マーカーは、それぞれの手話言語によって異 なっている。例えば、アメリカ手話ではまばたき [2][5]、香港手話ではまばたきや句末の伸長[6]、イス 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-B901-04

(2)

ラエル手話では、まばたきや頭の位置が変わること に加え、表情に現れる複数の要素など[7]が、I-Phrase の境界マーカーだと言われている。

2.2 境界マーカーのまばたき

まばたきは多くの手話言語でI-Phrase の境界マー カーとして重要な役割を担っていることは、すでに 前節で触れた。アメリカ手話では、周期的なまばた きは韻律的な境界をマークする際に、自発的なまば たきは語彙を示す手指動作の際に生じるとされ、手 話言語話者は言語的に意味のある場所でまばたきを 打つ[8]。 さらに、まばたきがI-Phrase を決定する主な境界 マーカーであることは、アメリカ手話[8]やイスラエ ル言語[7]でも明らかにされてきた。日本手話、アメ リカ手話、香港手話などでは、I-Phrase の境界は常に まばたきによってマークされ、さらに日本手話やア メリカ手話はI-Phrase の境界をマークするためにの み、まばたきが使用される[6]という報告もある。 まばたきが打たれる位置については、I-Phrase の境 界の終端(I-Phrase の右端)がほとんどで、I-Phrase の境界の始端(I-Phrase の左端)で打たれることはな い[6]。つまり、まばたきは常に I-Phrase の境界終端 をマークしていると言える。

2.3 あいづちとうなずき

聞き手が話し手に送る短い表現(言語、非言語行 動を両方を含む)としてのあいづちについて、日米 会話を対照した研究[1]では、日本語会話は米会話に 比べ2倍以上の頻度であいづちを送ることが報告さ れている。また、日本語では、話し手のイントネー ショングループの終端のほとんどで、聞き手があい づちを打つという分析結果から、日本語会話は聞き 手が常に会話に参加し、相互間の協力の度合いが高 いと結論付けてられている。 会話分析研究では、話し手の頭の動きについての 言及もある。 あいづち付近のコンテクストで興味 深い現象が見られる。話し手が発話 の最後のシラブルと同時に送る頭の 動きである。([1]:162) これが、話し手のうなずきを指していると考えられ る。さらに、日本語では、話し手が話の流れをコン マで区切るように、この頭の動きを挟み、あいづち を送りやすいようなコンテクストを作り出している とし、米会話ではこのような頭の動きの頻度は著し く低いと述べている[1]。

3 目的と分析方法

.1 目的

本稿では、話し手のうなずきに注目し、音声言語 (音声日本語と音声英語)と手話言語(日本手話と アメリカ手話)の対照を試みる。音声日本語と日本 手話のうなずきを研究したものには[9][10]などがあ り、ポーズやうなずきの動作の開始点をもとに、表 出のタイミングとその機能を詳細に分析している。 本稿では、韻律構造の視点から分析することで、先 行研究の表出位置に関する結果を検証するとともに、 手話言語の韻律マーカーとしてのうなずきについて 検討する。

.2 話者

話者は8 名である(表1)。話者 1 から 4 は日本手 話(JSL)とアメリカ手話(ASL)のネイティブサイ ナー1、話者5 から 8 は日本語(JPN)、英語(ENG) をそれぞれ母語とする健聴者の話者2である。各言語 に対し2 名ずつ、合計8名から得たデータを本研究 の分析データとした。 表1 話者 話者 言語 性別 話者1(JSL-1) 日本手話 男 話者2(JSL-2) 日本手話 女 話者3(ASL-1) アメリカ手話 男 話者4(ASL-2) アメリカ手話 女 話者5(JPN-1) 音声日本語 男 話者6(JPN-2) 音声日本語 女 話者7(ENG-1) 音声英語 女 話者8(ENG-2) 音声英語 女

.3 タスクと収録方法

図1のように、話者(話し手)の横にはアニメー ションを見るパソコンがあり、話者と向かい合う位 置に聞き手が座った。ビデオは聞き手の横に設置し た。収録は、ビデオカメラ3のサブカメラワイプ撮り 機能を使い、話者の表情を大きく撮る画面と、ワイ プ画面で体の動きや手話動作など上半身全体を撮る 画面の2画面で収録した。 タスクは、アニメーション4を見て、その内容を、

(3)

手話言語または音声言語で説明することである。ア ニメーションは、1本30〜75 秒から成る7本のエピ ソードで構成されており、いずれも音声が含まれて いない。 話者は、パソコンでアニメーションの1話めを見 た後、向かいに座っている相手に、今見たアニメー ションの内容を、手話言語または音声言語で説明す る。1話めを説明し終えた後、次のアニメーション を見て、その内容を説明する、という繰り返しで、 全部で7本のアニメーションの内容について相手に 説明する。アニメーションは何度でも繰り返し見る ことができ、説明の詳しさや説明に要する時間につ いては制限を設けなかった。話者が手話言語話者の 場合には手話言語話者が、音声言語話者の場合には 音声言語話者が聞き手役となった。 図1 収録図

3.1 分析データとアノテーション

収録した動画データのうち、エピソード2(アニメ ーションの長さ約35 秒)とエピソード 3(アニメー ションの長さ約40 秒)を説明したデータを本稿での 分析に使用した。話者1 名につき 2 本ずつ、合計 16 本を分析データとした。1 つのエピソードを語った 1 本の分析データは、最も長いもので63 秒、最も短い もので27 秒だった。 動画のアノテーション付与には、動画解析ツール ELAN(Version 5.5)[11]を用いた. 手話言語、音声言 語の書き起こし、まばたきとうなずきのラベル付与 を行なった。まばたきは、目を閉じて開ける短い動 作と定義した。まばたきよりも明らかに長く目を閉 じたままの動きや目をすぼめる動きは別にラベル付 けし、まばたきにはカウントしなかった。うなずき は、頭の縦方向の動作と定義した。見た目上、頭が 大きく縦に動く場合、小さく縦に動く場合など、上 下動の程度には幅があるが、本研究では程度の差に 関わらず全てをカウントし、上下どちらかの方向に 動き始めたところから縦方向の動作のピークを経て 上下運動が停止したところまでを、1回のうなずき とした。小刻みなうなずきがポーズなく連続して続 いたものについては1回とカウントした。 また、同じ動画の音声データの分析には Praat (Version 6.0.52)[12]を用いた。音声日本語について は[13]に基づき、Accentual Phrase(AP)、 Intermediate Phrase(IP)を判定した。これらは、2.1 節で述べた 手話言語の韻律の階層構造上の Phonological Phrase (P-Phrase)や Intonational Phrase(I-Phrase)と一致する ものではない。 動画データのアノテーション作業は、健聴者2 名 で行い、音声データのアノテーション作業は1 名で 行った。 判断に迷った箇所は今回の分析からは除外 した。

4 結果と考察

4.1 まばたきの頻度

2 つのエピソード(エピソード 2 と 3)の説明に要 した総時間数と、その間に打たれたまばたきの総数、 そこから算出した1 分間に打たれるまばたきの回数 を表2 に示す。個人差はあるものの、まばたきの回 数は、音声言語では1 分間に 57 回、48 回の話者が 見られたが、手話言語話者ではその約半分ほどであ った。同じモダリティ間で見てみると、日本手話と アメリカ手話、音声日本語と音声英語では、似通っ た頻度を示していることが分かった。アメリカ手話 と香港手話、音声英語と音声広東語を対象にした[6] では、モダリティの機能として、まばたきの頻度は 音声言語と手話言語で有意に異なることを述べてお り、本稿での結果も先行研究の結果をサポートする ものだと言える。 表2 話者毎のまばたきの頻度 まばたき 総数 発話 総時間長 まばたき 回数/分 JSL-1 27 1’09” 24 JSL-2 46 1’30” 31 ASL-1 43 1’19” 33 ASL-2 26 0’55” 28 JPN-1 106 1’58” 57 JPN-2 43 1’32” 28 ENG-1 29 1’10” 25 ENG-2 (36) (0’45”) (48) ( )はエピソード 3 のみの数5

(4)

4.2 うなずきの頻度

2 つのエピソードの説明に要した総時間数と、そ の間に打たれたうなずきの総数、そこから算出した 1 分間に打たれるうなずきの回数を表 3 に示す。1 分 間のうなずきの回数が多いのは、日本手話(JSL-1) の33 回、音声日本語(JPN-2)の 23 回、音声日本語 (JPN-1)の 19 回、日本手話(JSL-2)の 14 回の順 であった。逆に、音声英語(ENG-1)で 5 回、アメ リカ手話(ASL-1、ASL-2)で 3 回など、音声英語も アメリカ手話も、話者は説明の間、あまりうなずか なかったことが分かった。うなずきの頻度に個人差 はあるが、ここで観察された頻度に関する最大の違 いは言語モダリティの違いや性別による違いではな く、日本語あるいは日本手話であるか、英語あるい はアメリカ手話であるかという文化的背景を含んだ 言語間の違いであることが示唆された。 表3 話者毎のうなずきの頻度 うなずき 総数 発話 総時間長 うなずき 回数/分 JSL-1 38 1’09” 33 JSL-2 21 1’30” 14 ASL-1 4 1’19” 3 ASL-2 3 0’55” 3 JPN-1 35 1’58” 19 JPN-2 35 1’32” 23 ENG-1 6 1’10” 5 ENG-2 (0) (0’45”) (0) ( )はエピソード 3 のみの数

.3 うなずきの位置:音声日本語

前節の分析より、うなずきは、音声英語やアメリ カ手話より、音声日本語や日本手話により特徴的な 動作であることが明らかになった。そこで、ここか らは後者2 つの言語に絞って分析した結果を述べる。 まず、音声日本語の場合、うなずきはどこで打た れているのかをみてみる。[1]で話し手の発話の最後 のシラブルと同時にうなずくと述べていることから、 発話末にうなずきがみられると予測する。 うなずきの位置とは独立した尺度で、韻律構造の 観点から境界を判定するために、ピッチ曲線を利用 した。JPN-2 のエピソード 2 の結果を表 4 と図 2 に 示す。JPN-2 はエピソード 2 を話す中で、23 回うな ずいた。このうち 19 回のうなずきが Intermediate Phrase 境界で、1 回が Accentual Phrase 境界で見られ た。これらは、[1]が提示するうなずきの機能6のうち、 発話単位の終端シラブルを示す機能を持つ「節マー カー」に分類できる。その他2 回のうち 1 回は、「逃 げて おばあさんを 呼びに行きました」という発 話中、「逃げて」の後でうなずきが表出しており、動 作としては、頭の動きが少し後ろに引くような弓な りを描くように観察できる。これは、うなずきの機 能の中の「リズム取り」の機能と考えられる。会話 のリズム取りの役割を果たすとされる。その他のう なずきの残りの1 回は、エピソードを話し終わった 最後にうなずいたもので、最後の文末から800 ミリ 秒のポーズを挟み、「これでおしまい」という意味で うなずいたと捉えることができる。これらの結果は、 音声日本語のうなずきの大半が韻律境界の、しかも 終端で打たれることを意味している。 図2 JPN-2(エピソード 2)分析ラベル 表4 うなずきの位置(JPN-2 エピソード 2) うなずきの位置 回数 Intermediate Phrase 境界(IP) 19 Accentual Phrase 境界(AP) 1

その他 2 合計 23

4.4 うなずきの位置:日本手話

日本手話では、うなずきはどこで打たれているの か、手話の韻律構造をもとに探る。2 つ以上の非手指 動作マーカーが同時に入れ替わる箇所が I-Phrase 境 界[3]と言われていることから、うなずき、まばたき に加え、頭、眉、目、顎、体の動きをラベル付けし、 時間軸上で条件をクリアしている箇所を探した。特 に、日本手話では話し手としての頭の位置は文末や 節末に現れる[14]とされていることから、頭の細か な縦方向の動きについては顎の動きを手掛かりにし た。 JSL-1 のエピソード 2 の結果を表 5 と図 3 に示す。 JSL-1 エピソード 2 の中に、うなずきは全部で 21 回 あり、そのうち 12 回は I-Phrase 境界でみられた。 日本手話では、発話終了直後にうなずく傾向が高い こと[9]が指摘されており、本稿での韻律構造の視点 からもこの点がサポートされた。 その他に、単語直後に他の非手指動作とは共起せ

(5)

ず、うなずき単体でみられたものが5 回あった。そ れ以外には、発話最後の手指動作が保持されたまま 停止した長いポーズ中にうなずきが打たれたものや、 エビソードの終わりに打たれたものなどがあった。 さらに、I-Phrase 境界の 12 回のうなずきのうち 7 回は、まばたきと共起していたことも分かった。残 りの5 回は、うなずきとまばたき以外の非手指動作 でI-Phrase 境界を作っていることが観察された。日 本手話では、まばたきとうなずきが共起することは すでに指摘されている[6]。まばたきは多くの手話言 語でI-Phrase の重要な境界マーカーとなっているが、 ここでの結果から、日本手話では必ずしもまばたき だけでI-Phrase 境界がマークされているわけでなく、 むしろ、うなずきもI-Phrase 境界マーカーとしての 役割を担い得るものであることが示唆された。 図3 JSL-1(エピソード 2)分析ラベル 表5 うなずきの位置(JSL-1 エピソード 2) うなずきの位置 回数

Intonational Phrase 境界(I-Phrase) 12 Prosodic Word 直後(P-Word) 5

その他 4 合計 21

.5 まばたきとうなずきの共起

4.1 節で、まばたきの頻度は音声言語の方が手話言 語より高い可能性が示唆され、4.4 節では、日本手話 ではまばたき同様、うなずきもI-Phrase 境界をマー クすることが示唆された。そこで、うなずきが多い とされる音声日本語と日本手話で、まばたきとうな ずきがどの程度共起しているのかを分析した。表 6 は、2 つのエピソードの中で、まばたきとうなずきが 共起した総数を話者毎に示している。 表6 まばたきとうなずきの共起 話者 共起数 まばたき 総数 うなずき 総数 JSL-1 15 27 (55.6%) 38 (39.5%) JSL-2 14 46 (30.4%) 21 (66.7%) JPN-1 9 106 (8.5%) 35 (25.7%) JPN-2 5 43 (11.6%) 35 (14.3%) ( )はまばたき総数、うなずき総数に対する共起数 の割合 サンプル数が少ないが、日本手話の方が音声日本 語より、まばたきとうなずきが共起する割合が高い 傾向にあると言えるかもしれない。音声日本語では、 うなずきにまばたきが共起することは、うなずきが 持つ頭の上下運動の性質上、容易に起こりうると考 えられるが、言語的にみると、まばたきとうなずき が共起する必要はない。一方で、日本手話では、ま ばたきもうなずきも、それぞれに言語的に重要な意 味を持つと考えられており、両者が共起することで 新たな言語的、意味的機能が加わるのかもしれない。 これについては、今後さらに検討する必要がある。

5 まとめ

韻律構造の視点から、音声日本語と音声英語、日 本手話とアメリカ手話を対照しながら、話し手のう なずきについて分析を行った。 手話言語では、まばたきは言語的に意味を持ち、 韻律境界マーカーの一つである。まばたきの頻度は 言語モダリティの機能として、音声言語と手話言語 では異なることが示された。 うなずきに関しては、言語モダリティの違いでは なく、文化的背景を含んだ言語間の違いが大きいこ とが示唆され、日本手話と音声日本語はアメリカ手 話や音声英語に比べ、うなずきの頻度が顕著に高い ことが示された。また、うなずきの生起位置は、音 声日本語ではIntermediate Phrase(IP)終端で、日本 手話ではIntonational Phrase(I-Phrase)境界で生じる ことが多いことが明らかになった。また、まばたき がないIntonational Phrase 境界でうなずきが観察でき、 日本手話ではうなずきが、まばたき同様に韻律境界 マーカーとして機能している可能性が示された。さ らに、音声日本語より日本手話での方が、まばたき とうなずきは共起する傾向が強いことも示唆された。 本稿では触れなかったが、日本手話のうなずきの 機能に関しては[15][10]が分類を試みている。音声言 語で韻律境界の種類や物理的な音声表出パタンと意 味には密接な関係があるように、手話言語での韻律

(6)

境界と意味には同様の関係性があるのは疑いの余地 がなく、うなずきの機能については今後の課題とし たい。

謝辞

本研究に参加くださった話者のみなさまに感謝い たします。また、本研究の分析に使用したデータ(ア メリカ手話、音声英語)を収録、使用を許可頂き、 貴重なコメントをくださったシカゴ大学言語学科の Diane Brentari 教授に感謝いたします。本研究の一部 は日本学術振興会の科学研究費補助金(基盤研究(C) 課題番号18K000664)の助成を受けて行われました。

参考文献

[1] 泉子・K・メイナード 『会話分析』 柴谷方良, 西光 義弘, 影山太郎(編)日英語対照研究シリーズ(2) くろしお出版 (1992)

[2] Brentari, D. A Prosodic Model of Sign Language

Phonology. Cambridge: MIT Press. (1998)

[3] Nespor, M. and Sandler, W. “Prosody in Israeli Sign Language.” Language and Speech 42(2-3): 143-176. (1999)

[4] Selkirk, E. “The syntax-phonology interface.” In Semlser, N. and Baltes, P. (eds) International Encyclopedia of the

Social and Behavioral Science. Oxford: Pergamon.

(2002)

[5] Wilber, R. “Eyeblinks and ASL phrase structure.” Sign

Language Studies (84); 221-240. (1994)

[6] Tang, G., Brentari, D., Gonza ́lez, C. and Sze, F. “Closslinguistic variation in prosodic cues.” In Brentari, D. (ed) Sign Languages. 519-542. Cambridge University

1 本稿では、ネイティブサイナーとは両親も聴覚障 害者のデフファミリーで育ち、手話を母語とする話 者を指す。 2 音声日本語については、東京、神奈川または千葉 で生まれ、言語形成期も東京、神奈川、千葉で過ご した話者とした。 3 Panasonic デジタルハイビジョンカメラ HC-Press. (2010)

[7] Sandler, W. “Cliticization and prosodic words in sign language.” In Hall, TA and Kleinhenz, U. (eds.) Studies on

the Phonological Word. Amsterdam: Benjamins, J.

223-254. (1999)

[8] Wilber, R. “Eyeblinks and ASL phrase structure.” Sign

Language Studies (84); 221-240. (1994) [9] 山崎志織, 堀内靖雄, 今井裕子, 西田昌史, 市川熹 「手話と音声の比較によるうなずきのタイミングに 関する分析」『人工知能学会資料』SIS-SLUD A601-07 37-42. (2006) [10] 金子紗弓, 堀内靖雄, 黒岩眞吾, 「日本手話にお ける手指動作とうなずきのタイミングの分析」電子 情報書通信学会技術報告『信学技報』115(491), 7-12. (2016)

[11] ELAN (Version 5.5) [Computer software]. Nijmegen: Max Planck Institute for Psycholinguistics. Retrieved from https://tla.mpi.nl/tools/tla-tools/elan/ (2019)

[12] Praat(Version 6.0.52)[Computer software]. Paul Boersma and David Weenink. Phonetic Sciences, University of Amsterdam. Retrieved from

http://www.fon.hum.uva.nl/praat/download_mac.html [13] Pierrehumbert, J. and Beckman, M. Japanese Tone

Structure. Japanese Tone Structure. MIT Press.

[14] 市田泰弘 「手話の言語学 頭の位置と口型(8)」 『月間言語』Vol.34. No.8, 92-99. 大修館書店(2005) [15] 堀内靖雄, 亀崎紘子, 西田昌史, 黒岩眞吾, 市 川熹「日本手話におけるうなずきと接続詞の分析」電 子情報書通信学会技術報告『信学技報』SP2008-16. W585M

4 The Canary Row Tweety and Sylvester caroon 5 エビソード 2 の動画の状態がよくなかったため今

回の分析には使用していない。

6 話し手の頭の縦ふり動作としてのうなずきの機能

として、「節マーカー」「フィラー」「強調」「リズム 取り」「話者交替提示」「肯定」「否定」をあげる。

参照

関連したドキュメント

Although many studies have analyzed the differences in expressing gratitude between Japanese learners and native Japanese speakers, these studies do not fully explain whether

Li, “Multiple solutions and sign-changing solutions of a class of nonlinear elliptic equations with Neumann boundary condition,” Journal of Mathematical Analysis and Applications,

(4S) Package ID Vendor ID and packing list number (K) Transit ID Customer's purchase order number (P) Customer Prod ID Customer Part Number. (1P)

knowledge and production of two types of Japanese VVCs, this paper examines the use of syntactic VVCs and lexical VVCs by English, Chinese, and Korean native speakers with

Guasti, Maria Teresa, and Luigi Rizzi (1996) "Null aux and the acquisition of residual V2," In Proceedings of the 20th annual Boston University Conference on Language

関西学院大学手話言語研究センターの研究員をしております松岡と申します。よろ

今回の調査に限って言うと、日本手話、手話言語学基礎・専門、手話言語条例、手話 通訳士 養成プ ログ ラム 、合理 的配慮 とし ての 手話通 訳、こ れら

手話言語研究センター講話会.