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生体膜を模倣した水処理膜

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Academic year: 2021

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538 生物工学 第96巻 第9号(2018) 著者紹介 信州大学工学部物質化学科(助教) E-mail: [email protected] 細胞膜は脂質二分子膜からなり,細胞内外の環境を分 け,細胞内の恒常性を維持している.脂質二分子膜自体 は物質透過性が低いが,脂質二分子膜には特異な分子認 識能を有するタンパク質が組み込まれており,シグナル 伝達や選択的な物質透過などを実現している.こうした 細胞膜をはじめとした生体膜の分子認識能は人工材料よ りはるかに精密であり,生体膜の機能を利用・模倣し, 目的物質を分離する膜や検出するセンサーなどへ応用す る試みがなされている1).本稿では,生体膜の物質透過 機構を利用した分離膜,特に水処理膜への応用例を紹介 する. 水処理膜は,高分子や無機材料からなる薄膜状の多孔 体であり,処理対象の原水からの不純物の除去や,目的 の物質の分離・濃縮(膜分離)に広く用いられている. 水処理膜の性能(透水性・分離性)を向上させるために は,孔径をいかに対象の物質のサイズに近づけ,均一に 制御するかが重要となる.中でも,浄水の最終処理や純 水,超純水の製造などに用いられる逆浸透膜は,水分子 のみを原水の浸透圧以上の圧力で透過させる膜であり (最近では,浸透圧を駆動力とした正浸透プロセスも注 目されている),その孔径は水分子の大きさであるnm 以下のオーダーで制御される必要がある.しかしながら, 現状の逆浸透膜はポリアミドと呼ばれる高分子を重合す ることで作製されており,精密な孔径制御は難しく,更 なる透水性,分離性の向上は難しい現状にある.カーボ ンナノチューブやグラフェンのような構造制御されたナ ノ材料を透過孔として用いる検討もされているが,配向 制御が難しいという問題がある. 生体膜に存在し,物質透過を担うタンパク質の一つに, アクアポリンがある.アクアポリンは水分子を選択的か つ効率的に透過する,水チャネルと呼ばれるタンパク質 である.1992年にAgreらにより発見され2),彼は2003 年にその業績によりノーベル化学賞を受賞している.ア クアポリンは細胞膜を構成する脂質二分子膜において漏 斗状の形状で存在し,もっとも細い部分が水分子と同程 度の孔径(約0.3 nm)を有しており,水分子に対する 高い選択性を実現している.Kumarらは,このアクア ポリンを逆浸透膜の透過孔として用いることができない かと考え,アクアポリンの透水性を推算し,前述の高分 子多孔膜と比べ,2桁以上高い値を実現しうると報告し た3).この報告をきっかけに,生体膜を模倣した水処理 膜が着目されることとなった. 生体模倣型水処理膜は,生体膜と同様,物質透過を制 限する脂質二分子膜と,水分子のみを透過する水チャネ ルアクアポリンからなる4).脂質二分子膜のみでは強度 が低いため,多孔体を支持体として用い,その表面へ二 分子膜を展開・固定化する.二分子膜に欠陥があると, 分離性能が大きく低下してしまうため,無欠陥な脂質二 分子膜を形成させることが重要である.安定性を高める ため,脂質分子の架橋や高分子による被覆,脂質二分子 膜の代わりにブロックコポリマーからなる分子膜をアク アポリンの担体に用いるといった検討がなされている. 膜タンパク質であるアクアポリンの代わりに,より構造 が単純で再構成が容易な生体(模倣)分子を透過孔とし て用いた報告もある1,5). 実際の膜性能については文献4)を参考にされたいが, 脂質二分子膜へのアクアポリンの再構成や,支持体表面 への二分子膜の固定化については達成できているもの の,Kumarらの報告から10年が過ぎてなお,いまだ従 来の人工膜を超える性能は報告されていない.特に,分 離性については,水分子以外の低分子も非選択的に透過 してしまっている報告が多く,膜の形成過程において, 二分子膜の欠陥やアクアポリンの不活性化などの問題が 生じていると思われる.しかしながら,デンマークの Aquaporin社のように,製品化にこぎつけたケースも見 られ始めている. 水処理膜として水分子の分離を行う場合,ろ過の際の 圧力や原水中の不純物に対する安定性など,実用化には 透水性発現以外にも解決すべき課題が多い.一方で,生 物においては,極限環境微生物に見られるように,過酷 な条件でも生体膜構造を維持し,生存できる例もある. 生体膜をより深く理解することで,こうした問題の解決 につながるかもしれない.また,本稿で紹介した手法は, アクアポリン以外の生体分子にも適用できると考えら れ,従来の分離膜では不可能であった,特定の分子のみ を選択的に分離できる,次世代の分離膜開発にもつなが ると期待される.

1) Shen, Y. et al.: J. Membr. Sci., 454, 359 (2014). 2) Preston, G. M. et al.: Science, 256, 385 (1992).

3) Kumar, M. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 20719 (2007).

4) Giwa, A. et al.: Desalination, 420, 403 (2017). 5) Saeki, D. et al.: Desalination, 375, 48 (2015).

生体膜を模倣した水処理膜

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