2 2009 年度 Obirin TOday ――教育の現場から 2
1.はじめに
基盤教育院 井下 千以子 アカデミックキャリアガイダンス ディレクター 豊かな大学生活をおくってほしい。大学には様々な学びのスタイルがあることを知り、 のびやかに、力強く、未来に向けて、自分自身の学びの可能性を広げていってほしい。 桜美林大学における学群制には、こうした豊かな学びを大学時代に経験してほしいとい う願いが込められている。 2007 年 4 月、桜美林大学ではリベラルアーツ学群が開設されたことにより、プロフェッ ショナルアーツとしての総合文化学群、健康福祉学群、ビジネスマネジメント学群を加え、 「学部学科制から学群制へと」完成した形となった。学群制では「自分で学びを創造し体 系化する」ことが求められる。たとえば、リベラルアーツでは様々な学問を組み合わせる ことによって自分の学びを創造していく。プロフェッショナルアーツは特定の職業に直結し た学びに取り組んでいく。基盤教育院は、こうした「学生一人ひとりが主体的な学びを可 能にする基盤を身につけるための教育を施す場」として設置された(佐藤 , 2007)。 アカデミックキャリアガイダンス科目「大学での学びと経験」と入学前教育「ブリッジ・ カレッジ」は、この基盤教育院の理念に基づき、「大学での学びとは何か」を経験的に理 解させることを目的として企図された。特に、リベラルアーツ学群では、late specialization といって 2 年次秋に自分の専攻を選択しなければならない。自分は何に興味があるのか、 何をしたいのか、学びへの意識性を高め、アイデンティティを統合していくことが求めら れている。また、学びのゴール(資格や職業)が定まっているプロフェッショナルアーツ 学群の学生にとっては、収束的に学びを深めていくだけでなく、さらに視野を広げていく ことも求められている。 アカデミックキャリアガイダンスでは、こうした学びの可能性を広げていくことを目指 し、4 年間のカリキュラムを見据え、初年次から、さらには入学前から、学問への興味を 喚起することに取り組んでいる。本稿では、このアカデミックキャリアガイダンスが取り 組んできた科目「大学での学びと経験」と、入学前教育「ブリッジ・カレッジ」の開発の 経緯、理念、理論的背景を明らかにした上で、プログラムの具体的な内容を紹介する。1.はじめに
基盤教育院 井下 千以子 アカデミックキャリアガイダンス ディレクター3 大学での学びの礎を築く ―「大学での学びと経験」と「ブリッジ・カレッジ」― プログラムのデザインは、心理学における学習論と発達論を理論的背景とし、組み立て られている。学生に主体的な学びを期待するのであれば、学生自身に学びの過程を客体化 し省察するメタ認知能力を、学問を通して身につけさせることが必要である。そのために は、他者との関係性を通して自己を相対化し、自分とは何者かについて深く問うていける よう導いていくこと、すなわちアイデンティティ統合へのガイダンスが必須となる。それ を具体的な経験としてデザインした。 このようにアカデミックキャリアガイダンスの役割は、学問を広い意味でのキャリア発 達に意味づけ、学問(アカデミック)と自己の発達(キャリア)に有機的な連関を見出す ことによって、大学での学びへと導いていく(ガイダンスする)ことにあるといえよう。 本稿では、こうした取り組みに参加した教員、職員、学生スタッフも、感想を寄せている。 このプログラムは、多くの教職員、学生スタッフの支援があって、内容を充実させること ができた。初年次の学生が、学びのコミュニティの一員となるように導くためには、教員 だけではなく、スタッフの協力が必要だった。基盤教育院の教員や学内の職員がこうした プログラムの意図、基盤教育院の理念を明確に理解していくことは、学びのコミュニティ を形成していく上で重要であったといえる。 それでは、まず「大学での学びと経験」から、次に「ブリッジ・カレッジ」について、 見ていくこととしよう。