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植物根に棲息するBradyrhizobium属細菌の生態に関する研究 -窒素循環機能と環境中の動態-

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Academic year: 2021

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(1)

植物根に棲息するBradyrhizobium属細菌の生態に関

する研究 -窒素循環機能と環境中の動態-著者

原 沙和

18

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

生博第418号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00131546

(2)

氏 名 ( 本 籍 地 )

学 位 の 種 類

学 位 記 番 号

学 位 授 与 年 月 日

学 位 授 与 の 要 件

研 究 科 , 専 攻

博士論文審査委員

はら さわ

原 沙和

博士(生命科学)

生博第418号

令和3年3月25日

学位規則第4条第1項該当

東北大学大学院生命科学研究科

(博士課程)生態システム生命科学専攻

植物根に棲息する Bradyrhizobium 属細菌の生態に関する研

究 -窒素循環機能と環境中の動態-

(主査) 佐藤 修正

東谷 篤志

永田 裕二

(3)

論文内容の要旨 序章 Bradyrhizobium 属細菌は、ダイズをはじめとするマメ科植物の根から単離されたものが多く、永らく 根粒菌として認識されてきた分類群であった。しかし、近年のBradyrhizobium 属細菌のゲノム解析などによ り、これまで考えられていたより多様な機能を持ち、様々な環境に適応していると考えられる。例えば、北 アメリカの森林土壌では20~30%もの高い優占度を示し、その分離株は根粒形成能を欠き、芳香属化合物分 解能を持つことが報告された。また、光合成能、水素酸化能を有する株も報告されていることに加え、硝酸 を窒素に還元する脱窒能を有する株も多く、陸域生態系における窒素循環に寄与していると考えられる。さ らに、Bradyrhizobium 属細菌は非マメ科植物の根内・根圏で土壌に比べて高い優占度を示すことが近年報告 されている。非マメ科植物に生息するBradyrhizonium 属細菌は、根粒菌と異なる生活様式を持っている可能 性があるが、系統的多様性や機能といった生態に関する知見は乏しい。そこで本研究は、非マメ科植物ソル ガムに棲息するBradyrhizobium 属細菌の窒素循環機能と土壌-植物系での動態を明らかにすることを目的と した。 第一章 ソルガム根におけるBradyrhizobium 属細菌の分離と窒素固定 福島県二本松市圃場で栽培したソルガム根から、低栄養選択培地を用いた直接分離法とダイズトラッ プ法でBradyrhizobium 属細菌を分離した。ダイズトラップ法は根粒形成能を利用した方法で、ソルガム根か ら回収した細菌画分をダイズ種子に接種し、根粒から細菌を分離した。ソルガム根からダイズトラップ法で 38 株、直接分離法で 7 株の菌株を得た。分離株の 16S-23S rRNA 間 ITS 領域配列による系統解析から、根粒 菌(B. jaoponicum, B. diazoefficiens)と土壌低栄養光合成細菌 (B. oligotrophicum S58 等)に加えて、日本で分離例 のないB. ottawaense に近縁な株が見出された。 分離株の根粒形成能および自由生活条件における窒素固定活性より、根粒菌型・自由生活窒素固定 型・非窒素固定型の3タイプに分けられた。したがって圃場で栽培された単一系統のソルガム根には様々な 窒素固定様式をもつBradyrhizobium 属細菌が同時に棲息することが示された。さらに B. ottawaense 分離株に は根粒菌型と非窒素固定型が共存しており、これらの性質の違いを生み出すゲノム類似性や構造の違いに興 味が持たれた。 第二章 ソルガム根由来Bradyrhizobium 属細菌のゲノム解析 第一章で分離したBradyrhizobium 属細菌 16 株のゲノムを決定し、機能遺伝子保存性の比較を行っ た。その結果、脱窒過程とVI 型タンパク質分泌系の遺伝子群の有無または構成の多様性が見出された。脱 窒は(NO3-→NO2-→NO→N2O→N2)の4 段階で硝酸を窒素まで還元する嫌気呼吸である。B. japonicum は

N2O までのみ還元する一方、B. diazoefficiens は N2O を N2に還元するN2O 還元酵素(nosZ)を保有しているこ とが報告されていた。ソルガム根由来の分離株B. ottawaense は、B. diazoefficiens と同様に N2O を N2まで還 元するnos 遺伝子群を保有することが明らかになった。 B. ottawaense 系統群における「根粒菌型」と「非窒素固定型」株の完全長ゲノムを決定し、比較し た。「根粒菌型」株は共生アイランド(共生窒素固定に必須なゲノム領域)を保有していたが、「非窒素固定 型」株はこの領域を欠損していた。さらに「非窒素固定型」株には共生アイランドを獲得したと考えられる

(4)

構造(tRNA とそれに隣接した部分反復配列)が観察されたため、一度転移した共生アイランドが欠損し「根 粒菌型」と「非窒素固定型」の性質の違いが生じていることが示唆された。 第三章 B. ottawaenseの土壌-植物系における動態 B. ottawaense はカナダで分離された根粒菌であり、ソルガム根由来の B. ottawaense SG09 も根粒形成 遺伝子群を持つ。しかし、日本の土壌からB. ottawaense 根粒菌が単離された報告はなかった。そこで、なぜ ソルガム根からB. ottawaense が分離されたのか興味が持たれた。第三章では B. ottawaense のダイズ根粒形 成能およびソルガム根での優占度を含め、土壌-植物系における動態を解析した。 福島県二本松市圃場および宮城県大崎市圃場(東北大鹿島台圃場)の土壌でダイズおよびソルガムを 栽培し、ダイズ根粒、ソルガム根および供試土壌から抽出したDNA を用いて、Bradyrhizobium 属細菌の種 組成を非培養法で調査した。その結果、B. ottawaense は両土壌で 3.7〜6.8%相対存在比を示すが、ダイズ根 粒からはほとんど検出されなかった(Bradyrhizobium 属内の相対存在比 0.03%〜1.1%)。 一方、B. diazoefficiens は根粒で 57〜74%の高い相対存在比を示した。したがって、土壌に棲息する B. ottawaense のダ イズへの根粒形成効率が低いことが示唆された。そこで競合的条件におけるB. ottawaense の根粒形成能を確 認する目的で、ソルガム由来のB. ottawaense SG09 株と B. diazoefficiens USDA110 株の混合菌体をダイズに 接種したところ、SG09 株は USDA110 株と同等の根粒形成能を示した。これは耕地土壌の非培養法解析の 結果と矛盾しており、B. ottawaense が自然環境でダイズに根粒を形成しない原因の解明が課題となった。 第四章 ソルガムに内生するB. ottawaenseの分離とゲノム解析 自然界に棲息するB. ottawaense の根粒形成能を明らかにする目的で、ソルガム根から直接分離法で新 たにBradyrhizobium 属細菌を多数分離し、その中から B. ottawaense を選択して共生アイランドの有無を調査 した。その結果、分離した8 株全てが共生アイランドを欠損していた。したがって、供試土壌に棲息する B. ottawaense のほとんどが共生アイランドを持たず、ダイズへの根粒共生を行っていない可能性が示唆され た。 第五章 B. ottawaenseの N2O還元活性とその制御機構 N2O は地球温暖化効果ガスであり、CO2の約300 倍の温暖化係数をもつ。人為的な排出源は主に農業 であることから、地球温暖化を防止するためには農地からのN2O 削減が重要である。一方、N2O は土壌中 の硝化と脱窒反応の中間産物として発生し、一部の細菌はN2O を N2に還元する機能をもつ。B.

diazoefficiens USDA110 株も N2O 還元能を示し、USDA110 株 nasS 変異株では nos オペロンの転写が促進さ

れ、nasS 変異株をダイズに接種すると根圏の N2O 発生が抑えらる。本研究では B. ottawaense SG09 において

もN2O 還元遺伝子が発見されたため、活性の強度を測定した。

N2O を唯一の電子受容体とする嫌気培養条件において SG09 株は USDA110 株に比べて約 5 倍高い

N2O 還元活性を示した。SG09 株の nos オペロン上流を解析すると、USDA110 株に存在し NasST 制御系が認

識すターミネーター構造が保存されていなかった。加えて、SG09 株の nasS 欠損変異体は、野生株に比べて N2O 還元活性に有意な差は認めらなかった。したがって、B. ottawaense において NasST を介した nos オペロ

ンの発現制御が機能していないことが示唆された。以上から、B. ottawaense SG09 株は地球温暖化効果ガス N2O の削減という目標に向けての応用効果が期待される菌株であると考えられる。

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第六章Bradyrhizobium 属細菌の機能遺伝子の多様化 -B. cosmicumおよびその近縁株のゲノム比較による

可動性ゲノム領域の探索-

Bradyrhizobium 属細菌は共生窒素固定以外にも脱窒遺伝子、光合成遺伝子など多様な機能遺伝子を持 ち、その柔軟な代謝様式から陸域環境に広く適応している。光合成遺伝子は当属内にモザイク状に分布して おり、水平伝播などが起きている可能性が議論されている。さらに4 段階の脱窒過程の遺伝子(nap, nir, nor, nos)のうち、最終反応を触媒する N2O 還元遺伝子(nos)は B. japonicum で欠き B. diazoefficiens で保有すること

から両者のゲノム比較が行われ、水平伝播の可能性が議論されてきた。本章ではB. cosmicum における光合 成遺伝子群とnos 遺伝子群のゲノム比較を行った。

S23321、58S1 両株に共通に存在する光合成遺伝子群の両端には tRNA とその直列部分反復配列が存在 しており、光合成遺伝子群はゲノミックアイランドとして水平伝播している可能性が示唆された。一方、 nos クラスターについては、nos を持たない S23321 株では、58S1 株の nos クラスターを含む 79 kb のゲノム 領域が欠損していた。このゲノム領域にはN2O 還元酵素 nosZ への電子供与体であるシトクローム C が含ま

れており、nos クラスターと同時に伝播している可能性が考えられた。しかし tRNA などの典型的な転移構 造は観察されなかったことから、未知の転移機構により水平伝播している可能性が考えられた。今後、他の Bradyrhizobium 属菌株の比較解析を行うことにより、新たな転移機構の解明につながることが期待される。

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論文審査結果の要旨

Bradyrhizobium 属細菌は、ダイズをはじめとするマメ科植物の根粒から単離され、共生窒素固定菌とし て研究が進められてきたが、近年のメタゲノム解析により、土壌や非マメ科植物の根内・根圏など多様 な環境に分布することが明らかとなり、陸域生態系の窒素循環に寄与していると考えられている。 原沙和さんは、そのようなBradyrhizobium 属細菌の多様性や土壌-植物系での動態、窒素循環機能を明 らかにすることを目的として、非マメ科植物のソルガムの根から大規模なBradyrhizobium 属細菌の分離 を行い、45 株を単離した。根粒形成能、窒素固定能の解析から分離株を根粒菌型・自由生活窒素固定型・ 非窒素固定型の3タイプに分類し、系統解析と合わせて、その多様性を示した。単離株には、国内では 初めての単離例となるB. ottawaense 菌株が含まれており、根粒菌型と非窒素固定型が単離されたため、 それぞれの代表株のゲノム配列を決定するとともに、競合接種実験やメタゲノム解析により土壌-植物 系での動態を解析した。その結果、土壌や非マメ科植物に棲息するB. ottawaense のほとんどが共生アイ ランドを持たないことを明らかにし、それがこれまで国内で単離されなかった原因であると考察した。 また、解読したゲノム配列からB. ottawaense 菌株が高い N2O 還元活性を持つことを予測し、これまで の測定方法を改良したN2O を唯一の電子受容体とする嫌気培養条件での精密な測定を行うことにより、 単離した B. ottawaense 菌株が、これまで Bradyrhizobium 属細菌の中で高い活性を持つとされていた USDA110 株に比べて約 5 倍高い活性を持つことを明らかにした。 以上、一連の研究により土壌や非マメ科植物におけるBradyrhizobium 属細菌の多様性を解明し、土壌 -植物系での動態や生態系の窒素循環への貢献について新規知見をもたらした。特に、本研究で単離され たB. ottawaense 菌株が非常に高い N2O 還元活性を持つことを明らかにしたことは、今後の応用展開に つながる重要な成果であると言える。 これらの研究成果は、博士論文提出者が自立して研究活動を行うのに必要な高度の研究能力と学識 を有することを示している。したがって、原沙和さん提出の論文は,博士(生命科学)の学位論文と して合格と認める。

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