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結束型集団における潜在的機能の生起メカニズム解明―大学クラブ・サークルを事例とした社会関係資本に関する計量的研究―

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全文

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結束型集団における潜在的機能の生起メカニズム解

明―大学クラブ・サークルを事例とした社会関係資

本に関する計量的研究―

著者

鈴木 伸生

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301乙第9409号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127716

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- 1 - 論文要約

結束型集団における潜在的機能の生起メカニズム解明

―大学クラブ・サークルを事例とした社会関係資本に関する計量的研究―

鈴木 伸生 1.背景と目的 本稿の目的は,集団における社会関係資本の潜在的正機能・逆機能を同一集団から体系 的に解明することである.そのために,本稿の研究対象集団を結束型集団(大学クラブ・ サークル)に限定したうえで,その社会関係資本(個人レベル/集団レベルの構造的・認 知的社会関係資本)の正機能・逆機能についてメカニズムを定式化し,統一的に実証する ことを試みた.以下では,各章の概要を詳述する. 第1 章では,本稿における問題の所在を説明した.その背景は,次の通りである.近代 化以後の社会では,集団(ボランタリー・アソシエーション)が合理的な参加者の生活を 充足する機能を果たすようになった.ところが,集団は,参加者の意図するような「集団 自体の活動目的を遂行する機能」のみを提供するわけではない.目的達成以外の機能のな かには,当該集団が,成員に対して,予期せぬ恩恵をもたらすものもあれば,思いがけな い災難をもたらすものもあるだろう.ここで本稿が着目するのは,マクロな集団現象とし ての成員間の相互行為の集積が,成員に対して,どのような機能をもたらすのかまでは, 各行為者には予想することができない点である.このような集団現象は,参加者にとって 想定外の事態であることから,潜在的機能(Merton 1957=1961)と呼ばれる.それでは, なぜ,集団には潜在的機能が生じるのだろうか.本稿は,この大きなリサーチ・クエスチ ョンに答える研究に位置づけられる.言い換えれば,本稿の問題関心は,集団参加におけ る潜在的機能の生起メカニズムの解明にある.この問いに対して,結論を先取りするなら ば,その解答は,集団内部の社会関係資本(成員間の社会ネットワーク,成員間の信頼) に着目することで得られる.それを実証的に検討することをつうじて,集団が内部の成員 に対して,潜在的機能をもたらす条件を特定することが,本稿の最終到達点である. 上記の点をより詳しく説明するために,以下では,集団における潜在的機能の定義を提 示したうえで,集団の潜在的機能と社会関係資本との関係を明示し,本稿の検討課題に言 及する.まずは,集団の潜在的機能に関する定義である.社会学の機能分析において,機 能を体系的に整理したのは,Merton(1957=1961)である.彼によると,「機能とは,一定

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- 2 - の体系の適応ないし調整を促す観察結果」(Merton 1957=1961:46)であるのに対して,逆 機能とは,「この体系の適応ないし調整を減ずる観察結果」(ibid.)をさす.彼は,正機能 と逆機能を分けることで,機能の方向性―正負の機能―の把握を可能にした.そのうえで, Merton は,個人の意図(動機)と結果(機能)の違いを考慮して,機能を顕在的機能と潜 在的機能に二分している.「顕在的機能とは,一定の体系の調整ないし適応に貢献する客観 的結果であって,しかもこの体系の参与者によって意図され認知されたもの」(ibid.)であ るのに対して,「潜在的機能とは,意図されず,認知されないもの」(ibid.)である.これら の2 つの機能を換言すれば,顕在的機能は行為者の意図・認知した通りの結果の生起を総 称した現象を表す一方で,潜在的機能は行為者の意図も認知もしない結果の生起を総称し た現象だと言えよう.これらの概念は,Merton の指摘するように,大規模な社会現象(た とえば,社会変動)の分析のみならず,比較的小規模の社会現象(たとえば,集団現象) にも適用可能である.このMerton の機能類型を援用すると,集団の潜在的正機能とは,集 団の秩序を促すような意図されず認知されない現象をさし,集団の潜在的逆機能とは,集 団の解体を促すような意図されず認知されない現象をさす.しかしながら,集団の潜在的 正機能・逆機能が,どのようなメカニズムによって生じているのかについては,未だ十分 に解明されていない. それでは,なぜ集団には潜在的機能(正機能,逆機能)が生じるのだろうか.その解答 として,本稿では,集団内部における社会関係資本の多寡に着目する.ここで,集団の社 会関係資本とは,「多かれ少なかれ制度化された相互認知・相互承認関係からなる永続的な ネットワークを持つことに関連する顕在的・潜在的な資源の集積」(Bourdieu 1986)をさす. 集団の社会関係資本と潜在的機能との関係については,Coleman(1990)によって,明示的 に議論されている.彼は,「社会関係資本という概念は,それが別の目的を達成するために 行われた活動の副産物としての性質をもつ場合に,用いられることが多い」(Coleman 1990:312)と言及し,社会関係資本を意図的組織における意図せざる結果,すなわち,集団 の潜在的機能と捉えている.さらに,Coleman によると,社会関係資本は 2 種類の副産物 を創出している.それぞれ,集団内部に対しては「別の目的を達成するために,自発的組 織が動員されること」(Coleman 1990:313)であり,集団外部に対しては「自発的組織は公 共財を創出するがゆえに,その創出に寄与したか否かに関わらず,一部の人々によって創 出された副産物が,非創出者にも利益をもたらす」(ibid.)ことである.すなわち,集団の 社会関係資本は集団における潜在的機能の源泉であり,その機能には,集団内部の成員に

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- 3 - 作用するものもあれば,集団外部の人々に作用するものもある.このように,Coleman の 議論を所与とするならば,集団の社会関係資本は,集団活動の副産物としての潜在的機能 の源泉だと考えることができる.ならば,集団が潜在的機能を発揮する程度は,当該集団 内部における社会関係資本の多寡に依存する可能性が高いだろう.したがって,集団にお ける潜在的機能の生起メカニズムを明らかにするためには,「集団における社会関係資本 の多寡が,どのように潜在的正機能・逆機能をもたらすのか」というメカニズムを検討す る必要がある. しかしながら,集団における社会関係資本の多寡が潜在的機能をもたらすとは言っても, 同一集団内部における社会関係資本の多寡によって,ある潜在的正機能が生起するだけで なく,別の潜在的逆機能も生起するのか否かについては,自明ではない.そこで,本稿で は,集団内部における社会関係資本の正機能・逆機能を同一集団から統一的に理解するこ とを主要目的とする.この点に対して,佐藤(2018)は,個人の効用関数が時間をつうじ て変化することで,同一の社会関係資本が正機能をも逆機能をも果たしうるという解答を 提示している.とはいえ,現実には,特定の時点における同一人物の社会関係資本であっ ても,その機能には両面性(正機能と逆機能)が内在するケースも少なくない.これまで, 先行研究では,異なる集団を対象に,潜在的正機能か潜在的逆機能のいずれかを検討した ものが多数を占めており,同一集団において社会関係資本の潜在的正機能・逆機能を統一 的に検討した研究は,ほとんどない.そのため,現状では,「集団内部の社会関係資本によ って,ある先行研究の集団群では,潜在的正機能が生じるのに対して,別の先行研究の集 団群では,潜在的逆機能が生じる」(知見 1)とは主張できても,「集団内部の社会関係資 本によって,潜在的正機能も潜在的逆機能も生じる」(知見2)とは言えない.知見 2 と主 張するには,同一集団から得られた証拠が必要となる.ここで重要なのは,知見1 と知見 2 との間では,社会関係資本論に対する含意が大きく異なる点である.知見 1 は,文脈(調 査対象集団における特性)の違いによって,集団内部の社会関係資本が潜在的正機能をも たらすのか,それとも潜在的逆機能をもたらすのかが変わりうることを含意する.これが 実証されたならば,各集団内部の社会関係資本がどちらの機能をもたらすのかを探るため に,「同一の社会ネットワークが異なる行為者によって正負の機能を果たすのは,各行為者 の効用関数の形状が異なるからだ」という佐藤の仮説(佐藤 2018)を検証することが,次 なる研究課題となるだろう.従来の研究では,この点が示唆されてきた.それに対して, 知見2 は,同一集団内部の社会関係資本が潜在的正機能だけでなく,潜在的逆機能をもも

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- 4 - たらしうることを含意する.これが実証されたならば,集団内部の社会関係資本によって, どのような集団群でも,潜在的正機能・逆機能が共起するのか(一般化可能性),それとも, 特定の集団群では,潜在的正機能か潜在的逆機能のいずれかしか生じないのかを検証する ことが,次なる研究課題となるだろう.さらに,その課題を検討した結果として,潜在的 正機能・逆機能が共起する集団群が観察された場合には,集団内部における社会関係資本 の潜在的正機能・逆機能の均衡・不均衡の現象解明やその条件を特定することが,さらな る研究課題になるだろうし,あるいは,特定の集団群において潜在的正機能か潜在的逆機 能のいずれかしか生じなかったならば,佐藤(2018)の仮説を検証する方向に,研究を進 展させる必要があるだろう.したがって,もし,同一集団内部の社会関係資本を検討した 際に,潜在的正機能と潜在的逆機能がともに生じることが明らかになれば,社会関係資本 論に対して,新たな研究の方向性を付与することも可能となる.そこで,本稿では,集団 内部における社会関係資本の潜在的正機能・逆機能を,同一集団から体系的に解明するこ とを通じて,集団における潜在的機能の生起メカニズムに対する解答の提示を試みる. 第2 章では,本稿で取り組む研究課題を提示するとともに,その課題を検討するに相応 しい研究対象集団を選定した.まず,集団の社会関係資本に関する特徴を説明するために, 社会関係資本論における集団の位置づけを明確にした.社会関係資本は,個人レベル/メ ゾ(集団)レベル/社会レベルに分けることが可能であり(稲葉 2005; Sato 2013),各レベ ルの社会関係資本には,それぞれ,私的財/クラブ財/公共財的な特徴がある(稲葉 2005). これまで,集団の社会関係資本(クラブ財的特徴)は,私的財の観点から研究を行う者か らは個人レベルの集団参加として,公共財の観点から研究を行う者からは社会レベルの集 団参加平均として扱われてきたため,集団の社会関係資本は,個人と社会の社会関係資本 を架橋する立場に位置づけられる.また,集団の社会関係資本には,個人レベルの社会関 係資本と集団レベルの社会関係資本の2 つが含まれる一方で,個人レベルと集団レベルの 一方あるいは双方が正機能/逆機能をもたらすかについては,十分な実証的検討も定式化 も不足している.このような社会関係資本のレベルとその性質を踏まえると,集団の社会 関係資本を検討する際には,個人レベル/集団レベルの社会関係資本の双方を扱う必要が ある.さらに,社会関係資本の機能にかかわる諸側面(構造的・認知的側面,結束型・橋 渡し型)を概観し,それらを集団の観点から,結束型集団における個人レベル/集団レベ ルの構造的・認知的社会関係資本と,橋渡し型集団における個人レベル/集団レベルの構 造的・認知的社会関係資本へと整理した.以上の理論的な議論を踏まえて,本稿で取り組

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- 5 - む研究課題と研究対象集団を研究に関する実現可能性から検討した結果,本稿では,大学 生のクラブ・サークル集団を事例として,結束型集団における社会関係資本の正機能・逆 機能の解明に焦点をあてることとした.そこで,具体的な実証的課題として,正機能の検 討課題では,内部成員に対する表出的機能と外部の結束型集団成員との社会関係資本の形 成促進を選定し,逆機能の検討課題では,外部の橋渡し型集団成員との社会関係資本の形 成阻害を選定した.この「結束型集団における社会関係資本の潜在的正機能・逆機能解明」 という検討課題に対する解答を,3 つの下位課題((1)結束型集団の社会関係資本が,メ ンバーの主観的健康に作用するメカニズム,(2)結束型集団の社会関係資本が,メンバー の外集団(同類/異類)ネットワーク形成に作用するメカニズム,(3)結束型集団の社会 関係資本が,メンバーの一般的信頼(橋渡し型の信頼)形成に作用するメカニズム)を検 討することを通じて,提示することに定めた.これらの下位課題を検討するために,第 3 章から第5 章の分析では,2012 年 2 月~3 月にかけて総合大学 1 校の学生を対象に実施し た,「大学生のサークル・クラブ活動に関する調査」データを用いた. 2.知見 第3 章では,結束型集団の社会関係資本(個人レベル/集団レベルの構造的・認知的社 会関係資本)における正機能のメカニズムを調べるために,第2 章で提示した下位課題(1) である表出的機能としての主観的健康に対する影響を検討した.その際,先行研究・理論 に依拠して,2 レベル(個人レベル/集団レベル) × 2 側面(構造的・認知的側面)ごと にメカニズムを定式化し,そこから導出された各仮説の成否を検証した.その結果,第 1 に,個人レベルの構造的社会関係資本と集団レベルの構造的社会関係資本がメンバーの主 観的健康に正作用していた.第2 に,健康に対する認知的社会関係資本の効果は疑似相関 であり,構造的社会関係資本の効果に起因していた.以上の結果より,結束型集団の構造 的社会関係資本が主観的健康に正作用するメカニズムは,①直接的作用(集団内部の密な ネットワークを直接経由した相互作用過程により,情緒的サポートや健康促進行動が喚起 されて,健康が影響を受ける)と,②間接的作用(他成員の協力行動を観察することによ るストレス緩衝・安心感)によって生じる可能性が示唆された. 第4 章では,結束型集団の社会関係資本における正機能/逆機能のメカニズムを調べる ために,第2 章で提示した下位課題(2)である外集団ネットワーク(同類:結束型,異類: 橋渡し型)の形成に対する影響を検討した.その際,先行研究・理論に依拠して,2 レベル

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- 6 - (個人レベル/集団レベル) × 2 側面(構造的・認知的側面)ごとにメカニズムを定式 化し,そこから導出された各仮説の成否を検証した.その結果,第1 に,集団レベルの認 知的社会関係資本が外部集団成員との同類ネットワーク(外部集団の大学生成員)形成を 促進していた.その正機能のメカニズムとしては,集団内部の信頼構造が内部成員の社会 化(同類への同化)過程を促す結果として,内部の大学生成員に対する同化が外部の大学 生集団へと般化することにより,外部の同類結合が促される可能性が示唆された.第2 に, 個人レベルの認知的社会関係資本と集団レベルの構造的社会関係資本が外部集団成員との 異類ネットワーク(外部集団の社会人成員)形成を阻害していた.その逆機能のメカニズ ムとしては,前者では,低信頼の大学生成員は,高信頼成員と比べて仲間に遠慮しないた め,外部の社会人成員(異類)と親しくなりやすく,後者では,集団内部の紐帯構造が希 薄なほど,周囲からの同調圧力や成員間の相互依存関係が弱くなるため,大学生成員は, 比較的自由に,外部の社会人成員との親睦を深めやすくなる可能性が示唆された. 第 5 章では,結束型集団の社会関係資本における逆機能のメカニズムを調べるために, 第2 章で提示した下位課題(3)である橋渡し型の認知的社会関係資本(一般的信頼)に対 する影響を検討した.その際,結束型・橋渡し型社会関係資本(同類・異類との相互作用) が一般的信頼に作用するメカニズムとして,コンタクト仮説(Allport 1954),コンストリク ト仮説(Putnam 2007),複合型仮説(金澤 2008)という既存の 3 仮説に加えて,それらの 仮説では捉えきれない社会関係資本の諸側面の影響も検証した.その結果,第1 に,個人 レベルの認知的社会関係資本と集団レベルの認知的社会関係資本が一般的信頼(橋渡し型 の認知的社会関係資本)の形成に正作用していた.第2 に,一般的信頼に対する結束型集 団の認知的社会関係資本の効果は,個人レベルの構造的社会関係資本の効果を媒介してい た.このように,理論的には結束型集団の逆機能の1 つとして想定された一般的信頼への 影響は,正機能をもたらすことが明らかになった.以上の結果より,両レベルの内集団信 頼が一般的信頼に作用するメカニズムには,①直接経験一般化(行為者が自身の直接的な 信頼経験を一般化するメカニズム)と,②間接経験一般化(他成員の信頼経験やその評判 に対する共感・同調が集団内部で蓄積するに伴い,他成員の間接的な信頼経験が,自身の 他者一般に対する信頼へと組み込まれるメカニズム)が示唆された.

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- 7 - 3.知見の整理 6 章では,本稿で得られた知見を整理したうえで(本節:3.知見の整理),先行研究 に対する本稿の意義を議論した(次節:4.学術的貢献).上述の分析結果(第 3 章~第 5 章)を整理すると,結束型集団における社会関係資本の正機能/逆機能は,次頁の表のよ うになる.この表には,一見すると,対立的な知見が存在しているかのように思われる. それは,結束型集団における個人レベルの認知的社会関係資本(成員に対する個別的信頼) が,橋渡し型の構造的社会関係資本(外部の異類結合)の形成を阻害する(3 行 3 列目) 反面,橋渡し型の認知的社会関係資本(一般的信頼)の形成を促進する(3 行 4 列目)点 である.それでは,いかにして,これら2 つの現象が共存しうるのだろうか.その理由は, 以下の通りである.一般的に,同類間の相互行為は,日常的に生じやすく,労力をほとん ど必要としないのに対して,異類間の相互行為は,非日常的で大きな労力を必要とする(Lin 2001).なぜなら,同類間の相互行為では,居心地が良く安全で快適であるのに対して,異 類間の相互行為には,既存の社会関係の外部に手を伸ばして,何も存在しないところに社 会関係を作り出さねばならない(Kadushin 2012)からである.実際,同類と異類がともに 存在する状況において,異類との相互行為が推奨される場面でも,同類との相互行為が生 じやすい(Ingram and Morris 2007).さらに,同類への信頼は,同類との相互作用や同類へ の支援を優先させる規範を生み出す(Putnam 2000).ゆえに,異類間の相互行為には,規 範的な同類間の相互行為を克服するために,大きな労力が必要になるのである(Lin 2001). とくに,ネットワークの内部と外部のどちらが選択されるかは,ネットワークメンバーに 対する信頼やそこから得られる安全性によって異なる(Kadushin 2002).メンバーへの信頼 が高く緊密な関係を構築している個人は,内部志向になりやすく,そうでない個人は,外 部志向になりやすい.だからといって,同類への信頼が,異類を含む他者一般への信頼の 形成を阻むわけではない.一般的信頼の形成メカニズムを説明する経験一般化理論(第 5 章を参照)によると,身近な他者との相互作用経験に依拠した個別的信頼の形成を基盤と して,より広い一般的他者への信頼が醸成される.本稿第5 章の知見は,同類への信頼が 一般的信頼へと拡張する可能性を示唆するものである.つまり,同類成員への信頼は,一 般的信頼よりも原初的であるといえる.以上の理由から,集団内部の同類成員と集団外部 の異類成員との相互行為のいずれかを選択する状況では,結束型集団内部の同類成員への 信頼が高い個人は,一般的信頼が高くても,内部の同類成員との相互行為を優先させる規 範が強く働くことで,異類成員とのネットワーク形成が阻害されるのである.このように

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- 8 - 表 大学クラブ・サークル(結束型集団)における社会関係資本の正機能/逆機能 主観的健康 外部の同類結合 (結束型の構造的社会 関係資本の形成) 外部の異類結合 (橋渡し型の構造的社 会関係資本の形成) 一般的信頼 (橋渡し型の認知的社 会関係資本の形成) 結 束 型 集 団 の 社 会 関 係 資 本 個人レベルの 構造的社会関係資本

集団レベルの 構造的社会関係資本

個人レベルの 認知的社会関係資本

集団レベルの 認知的社会関係資本

して,結束型集団の成員に対する個別的信頼(個人レベルの認知的社会関係資本)が,一 般的他者に対する信頼(橋渡し型の認知的社会関係資本)の形成を促進すると同時に,集 団外部の異類成員とのネットワーク(橋渡し型の構造的社会関係資本)の形成を抑制する のである. このように,本稿より,結束型集団の社会関係資本は,その多寡によって,正機能と同 時に逆機能も生じることが,同一集団の分析から明らかになった. 4.学術的貢献 4.1 社会関係資本研究に対する貢献 社会関係資本研究に対する本稿の貢献は,以下の3 点である.第 1 の貢献は,結束型社 会関係資本のトレードオフ機能に関するものである.これまで先行研究では,異なる集団 を対象に,異なる潜在的機能(正機能か逆機能かのいずれか)が個別に検討されてきた. そのため,従来の研究では,同一集団においても,社会関係資本の多寡によって,ある潜 在的正機能と別の潜在的逆機能とが共起するのか否かについては,ほとんど未解明のまま であった.この問題は,佐藤(2018)で提起された,同一人物に対する同一社会関係資本 の正負の機能に関する問いと密接に関わるものである.それに対して,大学クラブ・サー クルを対象に,結束型集団における社会関係資本の潜在的正機能・逆機能を統一的に検討

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- 9 - した本稿では,集団間で社会関係資本の相対的な多寡が異なることで,ある従属変数では 潜在的正機能が生じると同時に,別の従属変数では潜在的逆機能が生じるというトレード オフ関係の存在が確認された.この知見は,個人の効用関数が時間的に変化しないような 同時点の場合でも,結束型集団における社会関係資本の潜在的正機能・逆機能が共起しう ることを示した点で,社会関係資本論に寄与するものである. 第2 の貢献は,Putnam(2000)の理論的な言明に対するものである.本稿の第 4 章と第 5 章では,「結束型社会関係資本から橋渡し型社会関係資本を形成できない」というPutnam (2000)の言明に関する成否も検証した.第 4 章の結果より,結束型集団の社会関係資本 (同類成員同士のネットワーク・信頼)は,外部の結束型・構造的社会関係資本(同類ネ ットワーク)の形成を促す一方で,外部の橋渡し型・構造的社会関係資本(異類ネットワ ーク)の形成を妨げることが明らかになった.この知見は,社会ネットワークの形成につ いては未検証であったPutnam(2000)の言明を支持するものである.反対に,第 5 章の 結果より,結束型集団の社会関係資本(同類成員同士のネットワーク・信頼)は,外部の 橋渡し型・認知的社会関係資本(一般的信頼)の形成を促進することが明らかになった. この知見から,Putnam(2000)の言明は,同様の問題を別の方法で検証した Putnam の 別の仮説(コンストリクト仮説:Putnam 2007)で主張されているように,橋渡し型・認 知的社会関係資本では成立しない(すなわち,結束型社会関係資本における一般的信頼の 形成可能性)を示唆している.このように,結束型社会関係資本からは,橋渡し型・構造 的社会関係資本は形成できないけれども,橋渡し型・認知的社会関係資本は形成可能であ ることが明らかになった. 第3 の貢献は,集団における社会関係資本の機能を検討する上での方法論に関するもの である.第3 章で述べたように,集団の社会関係資本と主観的健康を検討した先行研究で は,認知的社会関係資本の効果しか検討されてこなかった.それに加えて,構造的社会関 係資本の影響も検討した本稿では,認知的社会関係資本ではなく,構造的社会関係資本の 正機能が示された.第4 章で検討したように,結束型集団では,外部集団の同類成員との ネットワーク形成に作用する社会関係資本のメカニズムと,外部集団の異類成員に作用す る社会関係資本のメカニズムが異なっていた.第5 章では,先行研究で指摘されてきた集 団レベルの構造的社会関係資本ではなく,先行研究でも言及された個人レベルの認知的社 会関係資本に加えて,集団レベルの認知的社会関係資本も一般的信頼の形成を促していた. このように,本稿の知見は,集団における社会関係資本の機能を検討するためには,結束

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- 10 - 型集団と橋渡し型集団の分類はもとより,諸要素(個人レベル/集団レベル,構造的・認 知的側面)を明確に区別・測定したうえで,各機能を比較検討する必要があることを示し ている. 4.2 集団参加研究に対する貢献 さらに,集団参加研究に対する本稿の貢献についても,1 点,指摘しておきたい.それ は,集団参加の平均値をコミュニティレベルの社会関係資本と捉えることに対する方法論 的問題点である.第2 章と第 3 章で述べたように,集団参加を個人やコミュニティの社会 関係資本と想定する先行研究は,個人の集団参加変数を個人レベルの社会関係資本として, コミュニティごとに個人レベルの集団参加の平均値を割り当てた集団参加変数をコミュニ ティの社会関係資本として,用いてきた.しかしながら,集団内部の社会関係資本には, 個人レベルと集団レベル双方の社会関係資本が存在する.本稿の分析結果(第3 章~第 5 章)から,機能を発現する側面(構造的・認知的側面)は異なるものの,結束型集団にお ける集団レベルの社会関係資本の機能が,一貫して確認された.もし,その他の結束型集 団においても,集団レベルの社会関係資本の機能が一定ていど存在しうるならば,次の 2 つの可能性が示唆されるだろう.第1 に,個人レベルの集団参加の平均値をコミュニティ レベルの集団参加の指標として用いた研究では,集団参加の機能を十分に捉えきれていな い可能性がある.その場合,従来の集団参加変数の操作化を改善することが求められると 同時に,改善後の変数を用いて既存の知見を再検証する必要が生じるだろう.第2 に,コ ミュニティレベルの社会関係資本の機能だと思われてきたものは,実は先行研究で捉え損 ねてきた集団レベルの社会関係資本の機能が反映されたものに過ぎないかもしれない.つ まり,あるコミュニティの住民が健康だったり一般的信頼が高かったりするのは,コミュ ニティ内外の特定集団における集団レベルの機能の恩恵を受けた健康良好・高信頼の住民 が集合(平均化)しているからであって,そのコミュニティ自体の社会関係資本の機能は 存在しない可能性も十分に考えられる.ならば,今後は,それらの集団内部における社会 関係資本がコミュニティの社会関係資本たる外部性をもつか否かや,外部性をもつ条件を 特定することが重要な課題となろう.このように,コミュニティレベルの社会関係資本の 機能については,集団内部の集団レベルの社会関係資本の機能も考慮して,再評価する必 要があるだろう.

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