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重症心身障害児の応答性促進に関する発達援助 -初期発達におけるリーチングの機能に着目して-

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Academic year: 2021

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重症心身障害児の応答性促進に関する発達援助 −

初期発達におけるリーチングの機能に着目して−

著者

吉川 一義

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第17827号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00122831

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博 士 論 文 重 症 心 身 障 害 児 の 応 答 性 促 進 に 関 す る 発 達 援 助 –初 期 発 達 に お け る リ ー チ ン グ の 機 能 に 着 目 し て – 吉 川 一 義

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目 次 序章 本研究の目的と構成 ・・・ 1 第Ⅰ部 重症心身障害児への教育と研究の課題 ・・・ 4 第1章 特別支援教育の現状と課題 ・・・ 5 第2章 重症心身障害児研究の成果と課題 ・・・ 12 第3章 本研究の目的と検討課題 ・・・ 27 第4章 小括 ・・・ 34 第Ⅱ部 外界刺激への応答性に関する補完検討 ・・・ 35 第5章 前庭系の発達と機能の特徴 ・・・ 36 第6章 療育場面での平衡感覚刺激を含む複合的刺激に対する応答性の検討・・ 42 第7章 「ゆらし」刺激が外界刺激の応答性に及ぼす効果の検討 ・・・ 63 第8章 小括 ・・・ 87 第Ⅲ部 物と空間への定位行動に関する検討 ・・・ 90 第 9 章 乳児の空間への定位行動の発生と発達 ・・・ 91 第 10 章 リーチングの発生要因に関する発達指標の検討 ・・・ 98 第 11 章 リーチングにおける視覚と姿勢・運動調整の関係 ・・・ 112 第 12 章 リーチングが視覚の選択的注意に及ぼす効果 ・・・ 134 第 13 章 小括 ・・・ 160 第Ⅳ部 応答性促進に関する実践検討 ・・・ 162 第 14 章 覚醒系機能の成熟から定位反応の喚起・促進を目指した実践 ・・・ 163 第 15 章 リーチングの発生・促進から空間定位行動の拡がりを目指した実践・・・175

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序 章 本 研 究 の 目 的 と 構 成 本 研 究 は 、 重 症 心 身 障 害 児 ( 以 下 、 重 症 児 と 略 記 す る ) の 外 界 刺 激 へ の 応 答 性 を 促 す 発 達 援 助 モ デ ル を 提 起 す る こ と で あ る 。 今 日 の 障 害 を め ぐ る パ ラ ダ イ ム は 、 障 害 当 事 者 の 意 思 と 自 己 決 定 権 の 尊 重 を 重 視 す る 。 そ こ で は 、 障 害 当 事 者 に は 意 思 の 表 明 が 求 め ら れ 、 関 わ る 専 門 職 に は 障 害 者 が 意 思 を も ち 、 こ れ を 表 明 す る 能 力 を 育 て る こ と が 求 め ら れ て い る 。 こ の 流 れ を 受 け て 、 意 思 を 表 明 す る こ と が 極 め て 困 難 な 重 症 児 へ の 発 達 援 助 に お い て は 、 自 己 決 定 権 と 生 活 の 質 の あ り 方 に ど の よ う に 応 え て い く の か と い う 課 題 に 直 面 し て い る 。 し か し な が ら 、 こ の 自 己 決 定 権 と 生 活 の 質 の あ り 方 は 、 重 症 児 療 育 が 開 始 さ れ て 以 来 、 今 日 ま で 問 わ れ 続 け て い た は ず の 基 本 的 問 題 で も あ る 。 精 神 機 能 と 運 動 機 能 の 重 篤 な 障 害 の た め 、 働 き か け て も 「 反 応 が な い ・ 反 応 が 弱 い 」 重 症 児 の 発 達 援 助 に お い て は 、 ま ず 感 覚 系 と 覚 醒 機 能 の 成 熟 を 促 す こ と を 基 盤 と し て 、 能 動 的 刺 激 受 容 を 促 す こ と が 目 指 さ れ て き た 。 こ れ に 沿 っ て 、 重 症 児 研 究 で は 定 位 反 射 系 活 動 に 着 目 し た 検 討 が な さ れ 、 定 位 反 応 の 喚 起 に 始 ま り 、 さ ら に 能 動 的 刺 激 受 容 過 程 と し て の 期 待 反 応 ( S - S 期 待 ) と 、 こ れ を 促 進 す る 意 図 的 操 作( R - S 期 待 )に 関 す る 知 見 を 蓄 積 し て き た 。こ れ ら に よ り 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 支 え る 認 知 機 能 に つ い て 、 呼 名 な ど 、 人 に 関 連 し た 単 一 の 刺 激 に 対 す る 応 答 特 徴 や そ の 援 助 方 法 に つ い て 、 発 達 を 含 め て 概 ね 明 ら か に さ れ て き た 。 し か し 、 さ ら に 検 討 す べ き 課 題 が 残 さ れ て い る 。 す な わ ち 、 外 界 刺 激 の 能 動 的 刺 激 受 容 過 程 は 定 位 反 応 の 発 生 を 前 提 と す る が 、 重 症 児 の 中 に は 定 位 反 応 の 喚 起 が 困 難 な 者 も 多 く 、 定 位 反 応 を 喚 起 す る た め の 要 因 と 援 助 方 法 の 検 討 が 必 要 で あ る 。 次 に 、 刺 激 の 受 容 か ら 能 動 的 行 動 表 出 に 向 け て 、 外 界 の

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態 補 足 や 評 価 は 難 し い 。 こ れ よ り 、 行 動 を 指 標 と し た 実 践 検 討 を 経 て 、 よ り 療 育 実 践 に 適 合 し う る 実 践 モ デ ル の 提 起 が 必 要 で あ る 。 こ れ よ り 、 本 研 究 は 、 主 と し て 以 下 の 検 討 を 目 的 と し た 。 ① 「 能 動 的 刺 激 受 容 過 程 」 に 関 す る 発 達 援 助 知 見 の 補 完 検 討 日 常 の 介 護 に 携 わ る 療 育 者 の 所 見 と し て 、 視 ・ 聴 覚 に 働 き か け て も ほ と ん ど 反 応 が 見 ら れ な い 重 症 児 で も 、「 揺 さ ぶ り 遊 び 」や「 シ ー ツ ブ ラ ン コ 」 な ど の 平 衡 感 覚 刺 激 を 含 む 複 合 的 刺 激 で 反 応 が 見 ら れ る 事 例 が 多 い と さ れ る 。 こ れ よ り 、 定 位 反 応 の 喚 起 が 困 難 な 重 症 児 に 対 し て「 ゆ ら し 」な ど の 平 衡 感 覚 刺 激 を 含 む 複 合 的 刺 激 を 呈 示 し 、 定 位 反 応 の 発 生 に 関 わ る 作 用 と 効 果 を 明 ら か に し て 、 能 動 的 刺 激 受 容 に 関 す る 発 達 援 助 知 見 を 補 完 す る 。 ② 「 能 動 的 行 動 表 出 過 程 」 に 関 す る 検 討 意 図 的 操 作 ( R - S 期 待 ) の 成 立 が S - S 期 待 の 認 知 を 促 進 す る と さ れ る 。 意 図 的 操 作 の 成 立 と 促 進 に 関 わ っ て は 、 リ ー チ ン グ に 着 目 し て 、 座 位 や 支 持 座 位 が 可 能 で 上 肢 運 動 も 一 定 可 能 な 重 症 児 の 物 へ の 定 位 行 動 を 検 討 し 、こ れ を 促 進 す る た め の 援 助 要 因 を 明 ら か に す る 。 ③ 療 育 実 践 に よ り 適 合 し う る 実 践 モ デ ル の 検 討 上 記 ① と ② の 知 見 を 踏 ま え た 実 践 検 討 を 通 し て 、 療 育 実 践 に よ り 適 合 し 得 る 実 践 モ デ ル を 提 起 す る 。 本 論 は 、 上 記 目 的 に 対 応 し て 、 4 部 構 成 と し た 。 第 Ⅰ 部 で は 、 障 害 を め ぐ る 今 日 の パ ラ ダ イ ム シ フ ト の 観 点 か ら 特 別 支 援 教 育 の 現 状 と 課 題 に つ い て 論 じ 、 重 症 児 療 育 の 課 題 を 確 認 す

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第 Ⅲ 部 で は 、 物 や 人 へ の 定 位 行 動 の 発 生 と 促 進 の 要 因 に つ い て 、 認 知 と 運 動 の 関 係 性 を 含 め て 検 討 す る 。 こ の た め 、 ま ず 、 座 位 や 支 持 座 位 、上 肢 運 動 が 一 定 程 度 可 能 な 重 症 児 の リ ー チ ン グ に 着 目 し て 、 物 や 人 へ の 定 位 行 動 を 検 討 し 、 こ れ を 促 進 す る た め の 発 達 援 助 の 要 因 を 明 ら か に す る ( 第 9 章 〜 1 3 章 )。 第 Ⅳ 部 で は 、 本 研 究 の 知 見 を 踏 ま え た 実 践 検 討 を 行 い 、 療 育 実 践 に 、 よ り 適 合 し う る 実 践 モ デ ル を 提 起 す る 。 実 践 検 討 1 ( 第 1 4 章 ) は 、 覚 醒 が 不 安 定 で 働 き か け て も ほ と ん ど 反 応 が 見 ら れ な か っ た 事 例 に 対 し て 、「 ゆ ら し 」刺 激 を 用 い た 関 わ り を 行 い 、覚 醒 が 上 昇 ・ 安 定 し て 定 位 行 動 が 発 生 し た 事 例 に つ い て 述 べ る 。 こ の 事 例 で は 、 覚 醒 が 安 定 し て 外 界 刺 激 に 対 す る 眼 球 運 動 が 生 じ る よ う に な っ た 。 そ し て 、 外 界 の 刺 激 に 向 け ら れ た 眼 球 運 動 に よ り 頭 部 の 動 き が 導 引 さ れ て 、 刺 激 源 へ の 顔 向 け や 追 視 が 安 定 し て 生 じ る よ う に な っ た 。 こ の 後 、視・聴 覚 刺 激 に 対 す る 期 待 が 形 成 さ れ た 経 過 に つ い て 述 べ る 。 実 践 検 討 2 ( 第 1 5 章 ) は 、 3 年 間 に わ た る 実 践 の 知 見 を 述 べ る 。 ま ず 、 触 覚 を 介 在 さ せ て 物 へ の 注 視 を 発 生 さ せ 、 注 視 を 維 持 さ せ な が ら ガ イ ダ ン ス 法 に よ り リ ー チ ン グ を 導 引 し た 実 践 で あ る 。 リ ー チ ン グ の 発 生 と 促 進 に よ り 、人 や 物 へ の 探 索 活 動 が 活 発 に な り 、「 寝 返 り 移 動 」 で 人 へ の 接 近 行 動 が 出 現 す る な ど 、 認 知 で き る 空 間 と 行 動 を 表 出 す る 空 間 が 拡 大 し て い っ た 経 過 に つ い て 述 べ る ( 第 1 4 章 〜 第 16 章 )。 終 章 で は 、 本 研 究 の 目 的 に 対 す る 結 論 と 重 症 児 の 外 界 刺 激 に 対 す る 応 答 性 を 促 す 発 達 援 助 モ デ ル と 援 助 の 要 点 を 述 べ 、 最 後 に 、 本 研 究 の 知 見 が 、 重 症 児 研 究 ・ 療 育 と 障 害 学 に ど の よ う に 寄 与 で き る の か を 述 べ る 。

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第 Ⅰ 部 重 症 心 身 障 害 児 へ の 教 育 と 研 究 の 課 題

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第 1 章 特 別 支 援 教 育 の 現 状 と 課 題

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第 1 節 障 害 を 巡 る 近 年 の 動 向 と 特 別 支 援 教 育 障 害 者 権 利 条 約 の 採 択 と 批 准 を 契 機 に 、 障 害 を 取 り 巻 く 動 向 は 大 き く 転 換 し て き た 。こ の 基 礎 と な る 思 潮 は 、19 82 年 の 国 連 世 界 行 動 計 画 か ら 今 日 へ と 底 通 す る も の で あ り 、「障 害 者 の 自 己 決 定 権 の 尊 重 」 を 最 も 重 視 す る 。 周 知 の よ う に 、 2 0 0 6 年 の 国 連 の障 害 者 権 利 条 約 の 採 択 を 受 け て 、 こ の 条 約 の 締 結 に 必 要 な 国 内 法 の 整 備 を 始 め と す る 障 害 者 制 度 の 集 中 的 な 改 革 を 行 う た め 、 2 00 9 年 1 2 月 の 閣 議 決 定 に よ り 「障 が い 者 制 度 改 革 推 進 本 部 」 が 設 置 さ れ た 。 改 革 推 進 本 部 の 下 、障 害 者 ・ 障 害 者 の 家 族 ・ 事 業 者 ・ 自 治 体 首 長 ・ 学 識 経 験 者 の 55 名 か ら な る「障 が い 者 制 度 改 革 推 進 会 議 」 が 置 か れ た 。 会 議 の 検 討 を 経 て 、2 0 1 1 年 5 月 、障 害 者 基 本 法 が 改 定 さ れ 、 1 0 年 間 の 障 害 者 基 本 計 画 が 策 定 さ れ た 。 こ の 中 の 、 教 育 ・ 育 成 分 野 の 目 標 を 達 成 す る た め に 教 育 関 連 法 の 一 部 改 正 な ら び に 制 度 の 変 更 が な さ れ て き て い る 。20 1 4 年 1 月 20 日 、日 本 は 同 条 約 を 批 准 し た 。そ の 後 の 国 際 的 動 向 と し て は 、20 15 年 9 月 に 「 障 害 者 権 利 条 約 」 の 主 旨 を 大 き く 盛 り 込 ん だ 「 持 続 可 能 な 開 発 目 標( S D G s )」 が 国 連 で 採 択 さ れ た 。 今 後 、 ま す ま す 、障 害 者 の 自 己 決 定 に も と づ く 自 己 実 現 の 考 え は 強 ま っ て い く も の と 思 わ れ る 。特 別 支 援 教 育 に は 、 障 害 が あ り 未 成 熟 な 存 在 で あ る 子 ど も の 自 己 決 定 能 力 を 育 て 、 高 め る こ と が 求 め ら れ て い る 。 そ の た め に は 、 ま ず 、 子 ど も 自 身 が 自 己 決 定 す る 機 会 を 認 め 、 決 定 過 程 に は 教 育 の み な ら ず 、 医療・ 福 祉 ・ 労 働 な ど の 専 門 職 が 連 携 し て 支 え 育 て て い

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き る 共 生 社 会( イ ン ク ル ー シ ブ 社 会 )形 成 の 基 礎 に な る も の と し て 、 我 が 国 の 現 在 及 び 将 来 の 社 会 に 重 要 な 意 味 を 求 め て い る 。 特 別 支 援 教 育 は 、 障 害 が あ る 子 ど も の 自 立 や 社 会 参 加 に 向 け た 主 体 的 な 取 組 を 支 援 す る た め 、 一 人 一 人 の 教 育 的 ニ ー ズ を 把 握 し 、 も て る 力 を 高 め 、 生 活 や 学 習 上 の 困 難 を 改 善 又 は 克 服 す る た め に 適 切 な 指 導 及 び 必 要 な 支 援 を 行 う も の で あ る 。 今 日 、 特 殊 教 育 の 対 象 障 害 だ け で な く 、 知 的 な 遅 れ が な い 発 達 障 害 も 含 め て 特 別 な 支 援 を 必 要 と す る 子 ど も が 在 籍 す る 「 全 て の 学 校 」 に お い て 実 施 さ れ る こ と と な っ た 。 こ れ に 従 い 、 就 学 の 在 り 方 も 変 更 と な り 、 学 校 教 育 法 施 行 令 に お け る 「 認 定 就 学 者 」 規 定 が 廃 止 さ れ た( 2 0 1 3)。そ し て 、 特 別 支 援 学 校 へ 就 学 す る 子 ど も は 、 同 令 第 2 2 条 の 3 に 規 定 す る 障 害 を 必 要 条 件 と し た 上 で 、市 町 村 教 育 委 員 会( 以 下 ,教 育 委 員 会 )が 、 特 別 支 援 学 校 で 学 ぶ こ と が 適 当 と 認 定 し た 者 ( 認 定 特 別 支 援 学 校 就 学 者 ) が 特 別 支 援 学 校 で 学 ぶ こ と と な っ た 。 す な わ ち 、 就 学 基 準 に 該 当 す る 障 害 の あ る 子 ど も は 特 別 支 援 学 校 に 原 則 就 学 す る と い う 従 来 の 就 学 先 決 定 の 仕 組 が 改 め ら れ 、「 障 害 の 状 態 、本 人 の 教 育 的 ニ ー ズ 、 本 人 ・ 保 護 者 の 意 見 、 教 育 学 ・ 医 学 ・ 心 理 学 等 専 門 的 見 地 か ら の 意 見 、 学 校 や 地 域 の 状 況 な ど 」 を 踏 ま え た 総 合 的 な 観 点 か ら 最 終 的 に は 教 育 委 員 会 に よ る 就 学 先 の 判 断 ・ 決 定 が 行 わ れ る こ と に な っ た 。 そ の 際 に 、 教 育 委 員 会 は 本 人 ・ 保 護 者 に 対 し 十 分 情 報 提 供 を し つ つ 、 本 人 ・ 保 護 者 の 意 見 を 最 大 限 尊 重 し 、 教 育 委 員 会 や 学 校 等 が 教 育 的 ニ ー ズ と 必 要 な 支 援 に つ い て 合 意 形 成 を 行 う こ と が 改 正 令 の 原 則 で あ る 。 こ の よ う に 、 一 貫 し て 、 障 害 当 事 者 の 意 思 の 尊 重 と と も に 、 障 害 者 に は 意 思 の 表 明 が 求 め ら れ て い る 。 そ し て 、 療 育 に 関 わ る 専 門 職 に は 、 障 害 者 の 意 思 を 育 て 、 こ れ を 表 明 す る 能 力 を 育 て る こ と が 求 め ら れ て い る 。

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特 別 支 援 教 育 に は 、 乳 幼 児 期 か ら 学 齢 期 、 卒 業 後 の 生 活 を 展 望 し た 教 育 計 画( 個 別 の 教 育 支 援 計 画 )の 策 定 が 求 め ら れ て い る 。一 方 、 教 育 現 場 で は 「 計 画 」 の 策 定 が 自 己 目 的 化 し 、 個 別 性 や ニ ー ズ へ の 対 応 を 強 調 す る あ ま り「 目 標・計 画 の 個 別 化 」に よ る”実 践 の 個 別 化 ” や”モ ザ イ ク 的 な 連 携 ”に 転 化 す る こ と も 少 な く な い 。 す な わ ち 、 実 践 が 個 別 指 導 に 偏 重 し て 集 団 指 導 が 疎 か に な る 問 題 や 、 子 ど も の 実 態 を 指 導 者 間 で 十 分 に 共 有 せ ず 、 指 導 担 当 者 が そ れ ぞ れ に 指 導 目 標 を 立 て て 実 践 す る 問 題 が 生 じ て い る 。 こ の 現 状 は 改 め て 、 障 害 を も ち な が ら 学 び ・ 生 き る 「 主 体 」 を 反 映 さ せ た 教 育 目 標 設 定 の 必 要 性 を 浮 き 彫 り に し て い る 。 特 別 支 援 教 育 で は 、 教 育 課 程 と し て 教 科 、 領 域 、 教 科 と 領 域 を 合 わ せ た 指 導 、 特 別 活 動 、 総 合 的 な 学 習 が 行 わ れ 、 多 様 な 課 題 を 設 定 し て 豊 か に 学 ぶ 場 が 用 意 さ れ て い る 。 そ の 一 方 で 、 教 育 指 導 に お い て は 教 育 目 標 が 欠 如 し て 無 自 覚 に 指 導 法 が 適 用 さ れ る 現 状 の 問 題 が 指 摘 さ れ て い る ( 木 下 ,2 0 1 1; 赤 木 , 2 00 8; 吉 川 と 河 合 , 2 0 0 7) 。 方 法 主 義 が 先 行 し 教 育 目 標 論 が 従 属 す る と い う 状 況 は 、 従 来 、 障 害 児 教 育 が 抱 え て き た 積 弊 で も あ る 。 知 的 障 害 教 育 で は 教 育 方 法 に 意 識 が 集 中 し 、 目 標 論 や 主 体 性 の 議 論 を 欠 落 さ せ た ま ま 、 学 校 教 育 の リ ア リ テ ィ を 社 会 に 直 接 求 め 、 職 業 ・ 経 済 的 自 立 と い う 狭 隘 な 自 立 観 に も と づ く 訓 練 主 義 を も た ら し た 。戦 後 、絶 対 的 位 置 を 得 た「 社 会 的 自 立 」 観 は あ ら ゆ る 教 育 内 容 ・ 方 法 を 「 社 会 的 自 立 」 に 収 斂 さ せ る 適 応 主 義 的 な 学 校 教 育 を 通 し て 形 成 さ れ た も の で あ り 、 社 会 の 側 か ら 規 定 さ れ た も の で は な か っ た( 小 林 ,1 97 7)。教 育 方 法 に 規 定

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こ れ ま で も 、 障 害 児 教 育 で は 教 育 目 標 の リ ア リ テ ィ が 問 わ れ 続 け て き た が 、「 自 立 」「 自 己 実 現 」「 自 己 決 定 」と い う 用 語 自 体 、子 ど も の 要 求 を 介 し た 吟 味 が 殆 ど な さ れ て こ な か っ た 。 そ う し た 中 、 社 会 的 自 立 観 の 潮 流 へ の 批 判 と し て 教 育 目 標 論 に 子 ど も の 「 要 求 」 を 位 置 づ け る 系 譜 も 存 在 し た 。1 9 6 0 年 代 前 半 の 知 的 障 害 児 施 設「 近 江 学 園 」( 1 94 6 年 開 設 )で は 、子 ど も の 意 欲 ・主 体 性 の 形 成 と 社 会 の 変 革 の 双 方 向 で 社 会 的 適 応 像 を と ら え 直 し 、 子 ど も の 要 求 の 育 ち を 軸 に 「 子 ど も − 社 会 」の 相 互 作 用 の も と で 教 育 目 標 を 設 定 す る こ と が 提 起 さ れ た 。 子 ど も の 要 求 と 生 活 事 象 の 変 容 を 記 録 ・ 評 価 す る 方 法 論 の 検 討 は 「 教 育 実 践 記 録 論 」 と し て 展 開 さ れ た が 、 実 証 性 や 客 観 性 の 確 保 に お い て 課 題 を 残 し て い る 。 こ う し た 特 別 支 援 教 育 に お け る 教 育 目 標 論 の 弱 さ の 問 題 に 対 し て 、 臨 床 研 究 は い か な る ア プ ロ ー チ を 提 供 で き る の か 。 そ れ は 生 活 の 中 で 表 出 ・ 形 成 さ れ た 要 求 を そ の 後 の 生 活 経 験 に お け る 子 ど も 自 身 の 理 解 と 重 ね 合 わ せ な が ら 教 育 目 標 を 設 定 す る こ と 、 そ の 教 育 目 標 を 本 人 が 認 識 、 実 行 し て い く プ ロ セ ス を 客 観 化 し 、 支 援 目 標 を 具 体 化 す る こ と で あ る 。 重 要 な こ と は 、 教 育 目 標 の 設 定 時 点 か ら 意 思 表 明 や 自 己 決 定 と い っ た 主 観 的 水 準 に お け る 本 人 の 関 与 を 実 現 す る こ と で あ る 。 子 ど も の 側 か ら 担 保 さ れ た 教 育 目 標 の リ ア リ テ ィ は 、 教 育 実 践 に お い て 教 育 目 標 と 支 援 目 標 と の 間 に 一 定 の 緊 張 関 係 を も た ら し 、 子 ど も の 主 体 性 を 媒 介 と し た 教 育 目 標 へ の フ ィ ー ド バ ッ ク を 可 能 に す る で あ ろ う 。 教 育 臨 床 研 究 や 教 育 実 践 研 究 を 通 し て 確 認 さ れ る 子 ど も の 自 己 認 識 の 変 容 プ ロ セ ス を 教 育 目 標 と し て 客 観 化 し て い く 方 法 論 は 、 個 別 事 例 の 集 積 に よ っ て 精 緻 化 さ れ る 必 要 が あ る 。 そ の た め に も 、 教 育 目 標 の 設 定 主 体 が 問 わ れ な け れ ば な ら な い 。 「 子 ど も の 権 利 条 約 」や「 モ レ リ ア 宣 言 」で は 、発 達 段 階 を 問 わ ず 、 子 ど も の「 意 見( V i e w )」を 尊 重 し 、権 利 実 現 に 向 け た 主 体 的「 参 加 」

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者 に よ る 共 同 決 定 が 実 現 さ れ な け れ ば な ら な い( 田 中 ,20 0 3;藤 田 , 19 9 5 )。 そ れ ゆ え 、「 本 人 の ニ ー ズ や ね が い 」と い う 形 式 的 で 漠 然 と し た 実 態 把 握 や 記 述 に 終 始 す る こ と な く 、 教 育 実 践 を 通 し て 子 ど も の 目 標 設 定 に 必 要 な 生 活 経 験 や 知 識 、 文 化 、 情 報 を 保 障 し 、 自 己 認 識 や 感 情 と い っ た 内 面 を 表 出 、伝 達 で き る 力 を 形 成 す る こ と が 求 め ら れ る 。 第 3 節 重 症 心 身 障 害 児 教 育 に お け る 新 た な 課 題 重 症 児 療 育 は 、 医 療 法 で 規 定 さ れ る 病 院 形 式 で 発 足 し た ( 島 田 療 育 園 の 開 設 : 1 9 6 1 )。こ の た め 、療 育 に お け る 発 達 援 助 面 で の 専 門 家 の 配 置 が ご く 少 数 に 限 ら れ て い た 。具 体 的 に は 、当 時 、重 症 児 4 0 名 に 対 し て 職 員 2 0 名 が 配 置 さ れ て い た が 、こ の う ち 、発 達 援 助 に 当 た る 専 門 家 と し て の 児 童 指 導 員 は 1 名 、 保 母 2 名 の 配 置 で あ っ た 。 し か し 、 必 要 に 応 じ て 職 域 を 超 え た 試 行 錯 誤 を 続 け な が ら 、 療 育 の 重 点 は 「 生 命 の 維 持 」 を 中 心 と す る 医 療 的 管 理 か ら 、 そ れ を 踏 ま え て 健 康 ・ 体 力 を 増 進 さ せ 、 発 達 を 促 す 取 り 組 み へ と 着 実 に 進 展 し て き た 。 こ の 過 程 で 、養 護 学 校 教 育 の 義 務 化( 1 97 9)に 伴 い 導 入 さ れ た「 訪 問 教 育 」 制 度 と こ の 担 当 教 員 が 療 育 に 参 加 し た こ と は 大 き な 力 と な っ た 。重 症 児 施 設 が 開 設 さ れ て 以 来 、5 6 年 が 経 過 し よ う と し て い る 。 こ の 間 の 経 験 の 蓄 積 は 「 ど ん な に 障 害 の 重 い 子 で も 発 達 す る 」 と の 当 初 は や や 観 念 的 で あ っ た 命 題 が 、 意 欲 的 な 療 育 実 践 を 通 し て 具 体

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た 。そ の 後 、19 8 2 年 の 国 連 障 害 者 行 動 計 画 か ら 、2 00 6 年 の 障 害 者 権 利 条 約 に 至 る 権 利 思 想 の 動 向 を 受 け て 、 障 害 の 重 度 化 と ニ ー ズ の 多 様 化 に ど の よ う に 応 え て い く か と い う 、新 た な 課 題 に 直 面 し て い る 。 こ の 流 れ に お い て 、 障 害 者 の 生 活 の 質 が 叫 ば れ て い る 。 自 分 の 意 思 を 表 明 す る こ と が 極 め て 困 難 な 重 症 児 の 場 合 、 生 活 の 質 の 向 上 と は ど の よ う な 内 容 な の か 。 そ し て 誰 が 何 に 基 づ い て 決 め る の か 。 こ の 自 己 決 定 権 と 生 活 の 質 の あ り 方 は 、実 は 重 症 児 療 育 が 開 始 さ れ 以 来 、 今 日 ま で 問 わ れ 続 け て い た は ず の 基 本 的 問 題 で あ る 。重 症 児 療 育 は 、 医 療 ・ 福 祉 ・ 教 育 な ど 生 活 に 関 わ る 全 て の 面 で 不 十 分 な 条 件 下 に 置 か れ て き た た め に 、 換 言 す れ ば 、 あ ま り に も 当 然 で 必 要 な 取 り 組 み を 迫 ら れ て い た た め に 、 そ の 問 題 に 目 を 向 け る 余 裕 が な か っ た の が 実 情 で あ ろ う 。 障 害 の 重 度 化 と ニ ー ズ の 多 様 化 に ど の よ う に 応 え て い く か と い う 現 在 直 面 し て い る 課 題 は 、 こ の 基 本 的 問 題 を あ ら た め て 我 々 に 問 い か け て い る と い え る 。

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第 2 章 重 症 心 身 障 害 児 研 究 の 成 果 と 課 題

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重 症 心 身 障 害 児 、 あ る い は 、 重 度 ・ 重 複 障 害 児 と い う こ と ば は 、 昭 和 4 0 年 以 降 の 養 護 学 校 入 学 者 の 障 害 の 重 度 化・重 複 化 に 伴 い 、学 校 教 育 の 中 で 盛 ん に 用 い ら れ る よ う に な っ た( 中 山 ,197 8)。こ の「 重 症 心 身 障 害 児 」 は 、 重 度 の 肢 体 不 自 由 と 重 度 の 知 的 障 害 が 重 複 す る も の を 指 す 行 政 的 概 念 で あ っ て( 森 松 ・ 篠 原 ・ 白 木 ,19 75 )、特 定 の 障 害 、 あ る い は 一 定 の 症 状 を 指 す も の で は な い 。 し た が っ て 、 呼 称 の 仕 方 も そ れ ぞ れ の 療 育 機 関 に よ っ て 、 様 々 に 行 わ れ て き た ( 重 症 心 身 障 害 、 重 度 ・ 重 複 障 害 、 重 症 障 害 、 等 )。 結 局 は 、 身 体 か つ 精 神 の 両 面 に 見 ら れ る 障 害 が 極 め て 重 篤 で 教 育 困 難 な 臨 床 像 を 示 す 者 の 障 害 の 状 態 を 指 し て 呼 称 し て い る に す ぎ な い 。 厚 生 労 働 省 が 所 管 す る 機 関 で は「 重 症 心 身 障 害 」、そ し て 、文 部 科 学 省 が 所 管 す る 機 関 で は 「 重 度 ・ 重 複 障 害 」 と 呼 称 さ れ る 場 合 が 多 い 。 第 1 節 重 症 心 身 障 害 教 育 の 課 題 重 症 心 身 障 害 児( 以 下 、重 症 児 と 記 す )に 対 す る 療 育 に 際 し て は 、 ま ず 障 害 の 程 度 を 包 括 的 に 捉 え る 必 要 が あ る 。 こ の 一 法 と し て 大 島 の 分 類 ( 大 島 , 1 9 71 ) が あ る ( F i g. 2 - 1)。 こ の 分 類 は 、 知 能 指 数 と 肢 体 不 自 由 の 2 つ の 側 面 か ら 、 重 複 す る 状 態 を 捉 え よ う と す る も の で あ る 。 こ の 分 類 に よ れ ば 、 教 育 ・ 療 育 の 場 で 教 育 困 難 と さ れ る 重 症 児 は 、 分 類 番 号 1 〜 4 に 相 当 す る 。 こ の よ う な 重 症 児 に つ い て は 、 臨 床 所 見 や 病 理 所 見 、 そ し て C T ・ M R I 所 見 に よ り 、 高 度 の 中 枢 神 経 病 変 を 伴 っ て い る こ と が 報 告 さ れ て い る( 室 伏 ,1 9 71; 八 木 ,1 9 8 4; 小 枝 ・ 渡 辺 ・ 木 村 ・ 西 ・ 竹 下 , 1 9 9 0 )。 室 伏 ( 1 9 7 1 ) は 、 重 症 脳 傷 害 児 の 臨 床 像 に つ い て 報 告 し 、 こ の 中 で も 最 重 症 群 と し て 、 寝 た き り の 重 症 児 と 称 せ ら れ る 者 の 臨 床 像 に つ い て 次 の よ う に 記 述 し て い る 。

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F i g . 2 - 1 大 島 の 分 類

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「 こ れ ら の 子 供 は 、 寝 た き り で 、 ほ と ん ど 手 足 も 動 か さ ず 、 上 肢 屈 曲 、 下 肢 伸 展 位 を 示 す も の が 多 い が 、 後 に は 脳 病 変 が ひ ど い に も か か わ ら ず 筋 固 縮 ・ 痙 直 を そ れ ほ ど 強 く 示 さ ず 、 奇 妙 な 肢 位 、 す な わ ち 蛙 肢 位 な ど を 取 る も の が あ る 。 固 視 は 不 能 で 注 視 し て 目 で 追 わ ず 、 ま れ に 追 う よ う に 見 え て も 遅 く 、 左 右 の 分 離 的 な 揺 れ が あ る 。 原 始 的 な 快・不 快 の 反 応 が わ ず か に あ っ て も 強 迫 笑 、な い し 、s m i li ng re s p o ns e 様 で あ る 。言 語 は 全 く な く 、発 声 も ほ と ん ど な く 、あ っ て も わ ず か の 泣 き 声 ら し い も の か 、う め き 様 の 程 度 で 、全 く 理 解 せ ず 、 痛 刺 激 に 対 し て も 防 御 反 応 が あ る こ と も あ る が 感 情 反 応 的 な も の で は な い 。 睡 眠 ・ 覚 醒 の リ ズ ム は 割 合 に 存 在 す る が 、 睡 眠 様 状 態 の 長 い も の が あ る 。 嚥 下 ・ 咀 嚼 は 不 可 能 な も の が 多 く 、 ス プ ー ン で の 流 し 込 み か 、 経 管 栄 養 を 必 要 と す る も の が 大 部 分 で あ る 。 す べ て 発 汗 多 量 で 涎 も 多 く 、 喘 鳴 が 常 に 強 く 、 咳 嗽 反 射 も な く 、 分 泌 物 吸 引 を し ば し ば 必 要 と し 、 呼 吸 困 難 を よ く 起 こ し 、 重 篤 化 を 繰 り 返 し 最 後 は 気 管 支 炎 程 度 で 死 亡 す る も の が 多 い 」。こ の よ う に 重 症 児 の 臨 床 精 神 像 は 極 め て 重 篤 で 、 複 雑 な 様 相 を 呈 し て い る こ と が わ か る 。 ま た 、 森 松 ら ( 1 9 7 5 ) は 、 重 症 心 身 障 害 の 病 理 に つ い て 、 死 後 剖 検 例 か ら 検 討 し て い る 。 森 松 ら ( 1 9 7 5) は 、 剖 検 例 を そ の 成 因 の 発 病 時 期 か ら 先 天 性 障 害 、周 生 期 障 害 、後 天 性 障 害 に 分 け て 検 討 し た 。 結 果 、 3 2 例 中 、 先 天 性 の も の 8 例 、 分 娩 障 害 1 4 例 、 核 黄 疸 後 遺 症 2 例 、 後 天 性 の 脳 炎 ・ 脳 症 後 遺 症 5 例 、 変 性 疾 患 3 例 が み ら れ 、 他 に 、 N or ma n 白 質 変 性 症 、 T a y - s a c h 病 、 C or ne l i a d e La ng e 症 候 群 、 Co c k a yn e 症 候 群 、福 山 型 先 天 性 筋 ジ ス ト ロ フ ィ ー 、先 天 性 多 発 性 嚢 胞 腎 症 候 群 、L e pr e c h a u n i s m, D e j e r n e - so t ta s 様 の 病 理 所 見 を 有 す る 例 、 小 脳 変 性 症 、 胎 児 性 水 俣 病 な ど 、 代 謝 障 害 、 変 性 、 中 毒 、 そ の 他 不 明 の 疾 患 な ど が 含 ま れ て い た こ と を 報 告 し て い る 。こ の よ う に 、 死 後 剖 検 に よ っ て 初 め て わ か る 疾 患 が 、 か な り 多 数 見 ら れ て い る 事

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た よ う な 臨 床 像 に 如 実 に 反 映 さ れ て い る 。 以 上 の 報 告 か ら も 、 重 症 児 に は 常 に 医 療 的 ケ ア が 必 要 と さ れ る た め 、( 大 部 分 は )重 症 心 身 障 害 施 設 、療 育 セ ン タ ー 、医 療 施 設 等 に 入 院 し 、 医 学 的 な 処 置 を 受 け つ つ 教 育 的 取 り 組 み を 受 け て い る の が 現 状 で あ る 。 そ の 際 、 重 症 児 に 対 す る 療 育 上 、 困 難 な こ と と し て 、 障 害 の 内 容 が 多 様 で 問 題 の 所 在 が 一 様 で は な い こ と が 挙 げ ら れ る 。 こ の た め 、 障 害 が 重 複 し な い 場 合 に 用 い ら れ て き た 従 来 の 療 育 内 容 ・ 方 法 で は 、 障 害 が 重 複 し 、 か つ 、 重 い 場 合 に は 指 導 が 困 難 、 か つ 、 不 可 能 で あ る 。 従 っ て 、 個 々 人 に 応 じ た 療 育 内 容 が 要 求 さ れ る 。 療 育 内 容 を 確 立 す る 際 に は 、 障 害 の 包 括 的 把 握 や 現 時 点 で の 精 神 発 達 面 に つ い て の 評 価 が 重 要 で あ り 、 問 題 の 所 在 を 明 確 に す る こ と 、 さ ら に は 、 来 る べ き 次 の 発 達 段 階 を 予 測 す る こ と な ど の 一 連 の 手 続 き が 必 要 と な る ( 中 山 ,1 9 7 8 )。 し か し 、 多 く の 重 症 児 に お い て は 、 言 語 は も と よ り 、 他 の 有 効 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 段 を 持 ち 得 て い な い 。 こ の た め 、 精 神 発 達 評 価 の 手 が か り は 、 主 と し て 、 行 動 反 応 の 側 面 に 求 め ら れ る が 、 重 症 児 に お い て は 行 動 表 出 が 乏 し く 不 明 瞭 で あ る こ と も 多 く 、 刺 激 と 反 応 と の 対 応 関 係 を 明 確 に 把 握 す る こ と が 難 し い 。 こ の こ と が 療 育 上 の 問 題 と な っ て い る 。 第 2 節 重 症 児 の 刺 激 応 答 性 に 関 す る 研 究 と 成 果 重 症 児 を 対 象 に 生 活 事 象 の 認 知 を 促 し 、 対 人 関 係 の 成 立 を 援 助 す る 場 合 、「 反 応 が な い 」と い う 問 題 に 直 面 す る 。こ の 問 題 は 、療 育 者

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1. 生 理 的 指 標 に よ る 視 ・ 聴 覚 機 能 の 評 価 「 反 応 が 乏 し い 」、「 言 語 応 答 が 困 難 で あ る 」な ど の 障 害 特 性 か ら 、 生 理 的 反 応 を 取 り 出 し て 他 覚 的 、 客 観 的 に 感 覚 機 能 を 評 価 す る 研 究 が 精 力 的 に 進 め ら れ て き た 。 そ の 際 に 、 視 覚 お よ び 聴 覚 刺 激 が 指 導 に 多 く 用 い ら れ 、 ま た 、 教 師 や 養 育 者 と の 相 互 交 渉 を も つ 上 で 重 要 な 刺 激 で あ る こ と か ら 、 感 覚 系 機 能 評 価 の 研 究 は 、 視 覚 と 聴 覚 を 対 象 と し た も の が 多 い 。 視 覚 機 能 評 価 に 関 し て 、 寺 田 ( 1 9 8 8, 20 00 ) は 、 閃 光 お よ び 市 松 模 様 に よ る 視 覚 誘 発 電 位 ・ 対 光 反 射 ・ 視 覚 応 答 行 動 を 検 討 し 、 重 障 児 ・ 者 の 視 覚 神 経 機 構 に つ い て 考 察 し て い る 。 こ の 結 果 、 対 象 者 2 1 例 の 内 、 対 光 反 射 ( 単 眼 で 出 現 し た 事 例 を 含 む ) が 安 定 し て 観 察 さ れ た 事 例 は 7 9 % 、閃 光 誘 発 電 位 で 成 分 が 出 現 し た 事 例 は 5 5 % 、追 視 が 良 好 な 事 例 は 1 7 % で あ っ た 。 こ れ よ り 、 重 障 児 ・ 者 の 視 覚 神 経 機 構 の う ち 高 次 な 認 知 機 能 が 関 与 す る 追 視 が 認 め ら れ な い も の が 多 い こ と 、 光 刺 激 に 対 す る 縮 瞳 や 閃 光 誘 発 電 位 に 関 わ る 神 経 機 構 の 機 能 に 何 ら か の 障 害 が あ る も の が 少 な く な い こ と を 示 し た 。 こ の 他 に 視 覚 機 能 評 価 に 関 す る 試 み は あ る も の の 、 結 論 と し て 纏 ま っ た 成 果 を 得 る に は 至 っ て い な い 。 多 く の 研 究 に お い て 「 見 え 」 が 気 に な る 事 例 で あ っ て も 、 眼 科 学 的 な 所 見 と と も に 誘 発 電 位 測 定 に よ る 機 能 評 価 が 記 述 さ れ た も の は ほ と ん ど な い ( 北 島 , 2 00 5 )。 他 方 、聴 覚 機 能 評 価 に つ い て は 報 告 数 も 多 く 、聴 性 脳 幹 反 応( A B R: au d i t or y b r a i n s t e m r e s po n s e )か ら 中 潜 時 聴 覚 誘 発 電 位 、事 象 関 連 電 位 を 用 い て 一 次 聴 覚 野 に 至 る 伝 導 路 機 能 か ら そ の 後 の 高 次 処 理 に 関 す る 検 討 も 行 わ れ て き た 。片 桐( 1 9 8 8 )や 片 桐・ 石 川( 19 8 6 )は 、 重 障 児 ・ 者 8 5 名 の 1 7 0 耳 を 対 象 と し て 、 A B R と 聴 性 行 動 反 応 、 条 件 詮 索 反 射 聴 力 検 査 、 標 準 聴 力 検 査 を 併 用 し 聴 覚 機 能 を 検 討 し た 。 こ の 結 果 、 ま ず 脳 幹 機 能 障 害 が 3 0 % 近 く に 達 し 、 重 障 児 ・ 者 に は 皮 質

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が わ ず か で あ っ た こ と を 報 告 し た 。こ の こ と は 、「 聞 こ え な い 」こ と に よ り 「 反 応 が な い 」 者 は 予 想 さ れ て い た ほ ど に は 多 く な く 、 む し ろ 脳 幹 部 の 神 経 学 的 機 能 の 障 害 が 聴 覚 刺 激 へ の 反 応 に 大 き く 影 響 し て い る こ と を 示 し て い る 。 す な わ ち 、 脳 幹 網 様 体 に よ る 覚 醒 機 能 の 障 害 が 聴 覚 情 報 処 理 に 大 き く 影 響 し て い る と 指 摘 し た 。 ま た 、 ミ ス マ ッ チ 陰 性 電 位 ( M N N : m i s m a tc h n e g a t i v i ty ) に よ り 、 行 動 水 準 で 聴 覚 反 応 が 認 め ら れ な く て も 、 言 語 性 MN N を 示 す 事 例 が 報 告 さ れ 、 音 の 高 低 や 語 音 弁 別 能 力 に つ い て の 情 報 を 得 る こ と も 可 能 で あ る と 報 告 さ れ て い る ( 稲 垣 ・ 加 我 ・ 宇 野 ・ 平 野 ・ 小 沢 , 1 99 6; 竹 形 ・ 北 島 ・ 小 池 , 1 9 9 8)。 以 上 の 研 究 か ら 視 覚 機 能 評 価 に 関 し て の 課 題 は 残 る も の の 、重 症 児 の 視 ・ 聴 覚 機 能 に お い て 障 害 の 影 響 と 機 能 状 態 に 違 い が み ら れ 、 聴 覚 機 能 は 比 較 的 保 た れ て い る 事 例 が 多 い と の 知 見 は 、 指 導 に 有 効 な 情 報 と 示 唆 を 与 え る 。 ま た 、 外 界 の 刺 激 受 容 状 態 が 、 対 人 相 互 交 渉 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 、担 当 指 導 員 を 対 象 に 質 問 紙 法 を 用 い た 研 究 が あ る( 川 田・小 池・ 堅 田 ,1 9 8 6 )。こ れ に よ る と 、 視 ・ 聴 覚 障 害 の な い 者 で は 、担 当 指 導 員 と の 相 互 交 渉 に お い て 、 指 差 し や 原 初 語 、 さ ら に は 、 指 導 員 に 対 す る 直 接 的 行 動 が 表 出 さ れ て い る こ と 、 そ し て 、 指 導 員 は こ れ ら の 行 動 を 手 が か り に 重 障 児・者 の 要 求 を 判 断 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 さ ら に 、 担 当 指 導 員 と の 間 に は 、 言 葉 の 発 現 の 前 段 階 に 相 当 す る 伝 達 行 動 を 主 要 な 手 段 と す る 相 互 交 渉 過 程 の 存 在 も 示 さ れ た 。 他 方 、 視 ・ 聴 覚 に 障 害 の あ る 者 に は 、 指 差 し 行 動 、 指 導 員 や 要 求 対 象 に 対

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機 能 状 態 を 早 期 に 発 見 し 、早 期 に 対 応 す る こ と の 重 要 性 を 示 唆 す る 。 ま た 、 注 視 ・ 追 視 ・ 探 索 等 の 視 覚 応 答 行 動 が 確 認 で き た 後 に は 、 視 覚 機 能 に 視 点 を あ て た き め 細 か い 指 導 を 行 う こ と が 重 要 で あ る と の 指 摘 ( 松 田 ・ 大 坪 , 1 9 8 4 ) も あ る 。 こ れ ら は 、 重 症 児 の 外 界 刺 激 に 対 す る 応 答 行 動 の 弱 さ か ら 、 と も す る と 療 育 実 践 が 消 極 的 に な り 、 視 ・ 聴 覚 へ の 関 わ り や 丁 寧 な 指 導 が 不 足 し て 、 二 次 的 障 害 に 至 る 危 惧 を 示 唆 し て い る 。 2. 定 位 反 応 の 病 態 こ れ ま で の 重 症 児 研 究 に は 、 定 位 反 応 を 主 た る 視 点 に お い た 研 究 が 多 い 。 定 位 反 応 は 、 P a v l o v に よ っ て 初 め て 指 摘 さ れ 、 S ok ol o v に よ り 体 系 的 に 研 究 さ れ た 。 S o k o l o v に よ れ ば 、 こ の 反 応 は 新 奇 な 刺 激 が 生 体 に 作 用 し た 際 に 最 初 に 生 起 す る も の で 、 脳 の 興 奮 性 を 高 め 末 梢 受 容 器 の 感 受 性 を 高 め る こ と に よ っ て 刺 激 作 用 の 効 果 を 最 大 限 に 増 大 さ せ る も の で あ る 。 つ ま り 、 よ り 適 切 な 知 覚 を 保 償 す る よ う 機 能 す る も の で あ る と さ れ る 。 そ し て 、 こ の 特 徴 は 、 刺 激 モ ダ リ テ ィ ー に 関 係 な く 発 現 し 、ま た 多 く の 反 射 成 分( 運 動 成 分 、感 覚 成 分 、 脳 波 成 分 、自 律 神 経 成 分 )か ら 成 っ て い る 。さ ら に 、重 要 な 特 徴 は 、 同 一 刺 激 の 反 復 呈 示 に よ っ て 慣 れ を 示 し 、 刺 激 変 化 に よ っ て 反 応 が 回 復 す る こ と に あ る 。 す な わ ち 、 一 度 慣 れ を 示 し た 以 前 の 刺 激 に 対 し て も 、 再 び 反 応 が 回 復 ( 脱 抑 制 ) す る こ と で あ る 。 こ の 過 程 で 、 定 位 反 応 は 非 信 号 刺 激 に 比 べ て 何 ら か の 意 味 を 付 与 さ れ た 信 号 刺 激 に 対 し て よ り 強 く 出 現 し 、 慣 れ も 遅 れ る と い わ れ て い る 。 ま た 、 So k o l ov に よ れ ば 、 条 件 結 合 の 基 礎 と し て の 意 義 を 有 し て い る と さ れ る( 片 桐 ,1 9 9 5 )。こ の よ う な 特 徴 を 有 す る 定 位 反 応 が 、重 症 児 研 究 の 主 た る 視 点 と な っ た 理 由 と し て 、 川 住 ( 1 98 4 ) は 次 の 3 点 を 挙 げ て い る 。第 1 に は 、「 定 位 反 応 の 発 現 と そ れ に 続 く 慣 れ の 過 程 と い

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も に 、 外 界 に 対 す る 能 動 的 な 探 索 行 動 の 出 発 点 で も あ る こ と か ら 、 重 症 者 の 発 達 を 促 す 上 で 注 目 す べ き 観 点 と な り え た 」こ と 。そ し て 、 第 3 に は 、定 位 反 応 が 多 く の 反 応 成 分 か ら 成 っ て い る こ と 」で あ る 。 重 症 児 に 対 す る 定 位 反 応 の 研 究 は 、 ま ず 、 そ の 病 態 を 探 る こ と か ら 始 め ら れ た 。 中 村 ・ 山 村 ・ 三 宅 ( 1 9 7 3 ) は 、 皮 膚 抵 抗 反 射 ( SR R: Sk i n re si s t a n ce r e f l e x ) を 指 標 と し て 、 点 滅 光 を 反 復 呈 示 し 、 慣 れ の 成 立 後 5 分 間 の ブ ラ ン ク タ イ ム を 設 け 、 そ の 後 再 び 同 一 刺 激 を 反 復 呈 示 し て 脱 抑 制 以 後 の 経 過 を 検 討 し た 。 そ の 際 、 重 症 児 を Fi o r e nt in o ( 1 96 3 ) の 反 射 レ ベ ル 検 査 法 に 基 づ き 、 脳 幹 レ ベ ル 群 と 中 脳 レ ベ ル 以 上 群 と に 分 け て 結 果 を 比 較 し て い る 。 な お 、 こ の 検 査 は 、 反 射 を 乳 児 の 運 動 の 基 礎 と 考 え 、 神 経 系 の 成 熟 段 階 を 決 め る た め に 使 わ れ て き た も の で あ る 。 結 果 、 慣 れ に つ い て は 、 脳 幹 レ ベ ル 群 の 方 が 中 脳 レ ベ ル 以 上 群 に 比 し て や や 早 い 結 果 を 示 し た が 、 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 両 群 の 大 き な 違 い は 、 前 者 に 脱 抑 制 が 見 ら れ な か っ た こ と で あ る 。 ま た 、 中 脳 レ ベ ル 以 上 群 と 健 常 成 人 群 と の 比 較 で は 、 最 初 の 慣 れ の 速 さ や 脱 抑 制 の 程 度 に 有 意 な 差 が 見 ら れ な か っ た も の の 、 脱 抑 制 以 後 の 慣 れ の 速 さ に 関 し て は 、 中 脳 レ ベ ル 以 上 群 が 有 意 に 早 い 結 果 を 示 し た と 報 告 し た 。 一 方 、 片 桐 ( 1 9 7 5 ) は 、 知 的 発 達 レ ベ ル に よ る 定 位 反 応 の 動 態 と 条 件 結 合 能 力 の 違 い を 検 討 し た 。 そ の 際 、 重 症 児 を 知 的 発 達 レ ベ ル が 1 歳 以 下 の 群 と 3 〜 4 歳 の 群 と に 分 け 、さ ら に 、軽 度 知 的 障 害 児 と 健 常 成 人 も 対 象 と し た 。 実 験 条 件 は 、 5 つ の シ リ ー ズ よ り な り 、 実 験 Ⅰ 〜 Ⅲ は 、 そ れ ぞ れ 、 純 音 ( 1 0 0 0 H z・ 60 ph o n )、 先 行 ( 1 0 H z )、 音

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症 児 群 で は 、 上 述 の 実 験 条 件 下 で は 定 位 反 応 の 生 起 そ の も の が ほ と ん ど 見 ら れ ず 、 刺 激 変 化 に と も な う 回 復 も 条 件 形 成 も 見 ら れ な か っ た 。 他 方 、 3 〜 4 歳 レ ベ ル 群 で は 、 3 種 の 刺 激 に 対 し て 軽 度 知 的 障 害 児 群 や 健 常 成 人 群 に 比 べ 慣 れ る ま で に 多 く の 試 行 数 を 要 し た 。ま た 、 刺 激 変 化 に 対 す る 回 復 は 、 半 数 近 く に 見 ら れ た も の の 、 脱 抑 制 や 条 件 結 合 を 示 す も の は み ら れ な か っ た 。 さ ら に 、 知 的 障 害 児 群 や 健 常 成 人 群 で は 、 純 音 刺 激 に 比 べ て 音 声 言 語 に 対 す る 慣 れ は 遅 れ た が 、 重 症 児 群 で は 差 が み ら れ な か っ た こ と を 報 告 し た 。 以 上 、 重 症 児 の 定 位 反 応 の 病 態 に 関 す る 知 見 を 示 し た 。 中 村 ら ( 1 9 7 3 ) は 反 射 レ ベ ル に も と づ い て 、 ま た 、 片 桐 ( 1 97 5 ) は 知 的 発 達 レ ベ ル に も と づ い て 対 象 者 を 分 け て 比 較 検 討 し て い る と い う 違 い は あ る が 、 共 通 し て 、 発 達 レ ベ ル の 低 い 群 に 最 初 の 慣 れ の 速 さ を 見 た 。 い ず れ も 定 位 反 応 の 回 復 や 脱 抑 制 が 見 ら れ な か っ た こ と か ら 、 能 動 的 な 選 択 的 消 却 と は 考 え ら れ ず 、 む し ろ 反 応 性 の 急 速 な 低 下 、 あ る い は 、 定 位 反 応 の 喚 起 自 体 の 困 難 性 が 結 果 に 反 映 さ れ た も の と 考 え ら れ た 。 3. 外 界 刺 激 へ の 応 答 性 定 位 反 応 の 喚 起 自 体 が 困 難 と 思 わ れ て い た 重 症 児 に あ る 程 度 の 条 件 形 成 が 見 ら れ た と の 知 見 を き っ か け に 、 以 後 は 、 む し ろ 、 外 界 の 変 化 に 対 し 、 ど の よ う な 対 応 活 動 を 示 し う る か を 探 る こ と に 視 点 が 移 っ た 。 ま た 、 1 つ の 特 徴 と し て 、 こ の 頃 に は 行 動 反 応 な い し 運 動 発 現 の 分 析 に も 力 点 が 注 が れ る よ う に な っ て き た 。 高 杉 ・ 川 住 ・ 大 坪 ・ 進 ・ 平 井 ・ 松 田 ・ 内 田 ( 19 8 1 ) は 、 慣 れ - 回 復 と い う 観 点 か ら 心 拍 ( H R : h e a r t r a t e) 変 化 を 見 る の で は な く 、 行 動 水 準 で の 反 応 と の 関 連 で 、 H R 変 化 を 検 討 し た 。 彼 ら は 、 重 度 ・ 重 複 障 害 児 ( 発 達 検 査 を 行 っ て は い な い が 、 知 的 水 準 は 1 歳 以 下 と 推

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行 動 観 察 を 用 い た 。 こ の 結 果 、 脳 波 を 除 い た 指 標 ご と に 刺 激 に 対 す る 反 応 出 現 率 を 見 る と 、 全 般 に 行 動 水 準 で の 反 応 が 最 も 高 く 、 次 に 心 拍 反 応 が 高 く 、 皮 膚 電 気 反 射 の 出 現 率 が 最 も 低 い こ と を 示 し た 。 ま た 、 行 動 観 察 の 結 果 、 そ の 程 度 ・ 内 容 に お い て 、 実 に 多 様 な 反 応 が 観 察 さ れ た 。 そ こ で 、 彼 ら は 得 ら れ た 行 動 観 察 結 果 を 定 位 ・ 探 索 的 な 行 動 反 応 か ら 驚 愕 的 反 応 に 分 類 し 、 心 拍 反 応 と の 対 応 関 係 を 検 討 し た 。 こ れ に よ る と 、 定 位 ・ 探 索 的 な 行 動 反 応 が み ら れ る 時 、 心 拍 の 減 少 反 応 が 認 め ら れ 、 驚 愕 的 反 応 が み ら れ る 時 に は 心 拍 の 増 大 反 応 が 認 め ら れ る こ と を 報 告 し た 。 こ の 結 果 に つ い て は 、 安 達 ・ 小 池・堅 田( 1 9 8 3 )に よ っ て も 観 察 さ れ て い る 。さ ら に 、安 達 他( 1 9 8 3 ) は 行 動 水 準 で の 反 応 の 中 か ら 、 特 に 「 振 り 向 き 反 応 」 を 取 り 上 げ 、 刺 激 の 種 類 に 関 係 な く こ の 反 応 が 出 現 す る も の と 、 純 音 に 対 す る 出 現 率 は 低 い に も か か わ ら ず 、 呼 名 に は 高 い 出 現 率 を 示 す も の と が 存 在 し た と い う 結 果 を 得 て い る 。 こ の よ う に 、 重 症 児 の 中 に は 、 刺 激 の 種 類 に 関 係 な く 反 応 を 示 す も の と 、 単 純 な 感 覚 刺 激 ( 純 音 ) に 比 べ 何 ら か の 信 号 的 意 味 が 付 与 さ れ て い る 可 能 性 の 強 い 刺 激 ( 音 声 言 語 ・ 特 に 呼 名 ) に 多 く の 反 応 を 示 す も の が い る こ と が 指 摘 さ れ た 。 以 上 の 研 究 は 、 定 位 反 応 を 視 点 と し て 、 外 界 か ら の 諸 刺 激 に 対 す る 反 応 性 を 実 験 事 態 で 検 討 し た も の で あ る 。 こ れ に 対 し て 、 療 育 者 に 対 す る 質 問 紙 を 作 成 し 、 日 常 療 育 場 面 で の 重 症 児 の 応 答 行 動 に つ い て 回 答 を 求 め た 青 木 ・ 川 田 ・ 小 池 ・ 堅 田 ( 1 98 6 ) の 研 究 が あ る 。 青 木 他 ( 1 9 8 6 ) は 、 応 答 行 動 を 捉 え る 際 に 、 日 常 介 護 に 当 た っ て い

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合 的 刺 激 で あ る 。 従 来 、 応 答 性 に つ い て の 研 究 は 、 重 症 児 の 潜 在 的 可 能 性 を 探 る 方 向 で 進 め ら れ て き た が 、 こ れ ら の 所 見 は 重 症 児 の 反 応 を さ ら に 引 出 し う る 可 能 性 を 示 し て お り 、 新 し い 研 究 の 方 向 性 を 示 唆 し て い る 。 す な わ ち 、 重 症 児 の 反 応 を よ り 引 出 し た 上 で 、 刺 激 応 答 性 を 検 討 す る こ と が 必 要 で あ る 。 4. 定 位 反 応 の 発 生 と 発 達 定 位 反 応 は 、 生 得 的 な 原 始 反 射 と は 異 な り 、 生 後 、 外 界 と の 相 互 作 用 の 経 過 で 適 切 な 刺 激 を 受 け る 経 験 に よ っ て 形 成 さ れ る も の で あ る 。 こ の 視 点 か ら 、 定 位 反 応 の 発 生 と 発 達 過 程 が 検 討 さ れ た 。 片 桐 ( 1 9 9 0, 19 9 5 ) は 、 4 種 類 の 音 刺 激( 非 音 声 刺 激 ・ 1 5 0 0H z の 純 音 ・ 音 声 刺 激 ・ 母 親 に よ る 呼 名 ) に 対 す る 健 常 乳 児 の 心 拍 反 応 か ら 、 定 位 反 応 の 発 生 と 発 達 に つ い て 検 討 し た 。 結 果 、 加 速 反 応 優 勢 ( 防 御 反 応 )か ら 減 速 反 応 優 勢( 定 位 反 応 )へ の 変 化 は 生 後 2 、3 ヶ 月 を ピ ー ク と し 、 3 ヶ 月 以 降 に は 次 第 に 「 第 2 の 加 速 反 応 」 が 増 加 す る こ と を 見 出 し た 。 3 ヶ 月 以 降 に 増 加 す る 第 2 の 加 速 反 応 は 、 母 親 の 呼 名 に 対 し て 最 初 は 加 速 反 応 が 出 現 し 、 そ の 後 、 直 ぐ に 減 速 す る パ タ ー ン を 指 し 、 よ り 能 動 的 な 選 択 性 の 現 れ と 解 釈 さ れ た 。 雲 井 ・ 小 池 ・ 竹 形 ・ 坂 井 ・ 平 塚 ・ 井 上 ( 1 9 9 8 ) は 、 遠 城 寺 式 乳 幼 児 分 析 的 発 達 検 査 の 対 人 関 係 ・ 発 語 ・ 言 語 理 解 の 各 発 達 年 齢 の 平 均 が 1 ヶ 月 〜 1 0 . 5 ヶ 月 の 者 を 対 象 と し て 、 3 種 の 条 件 で 呈 示 さ れ た 呼 名 ( 顔 や 手 へ の 接 触 を 伴 う 呼 名 ・ 眼 前 か ら の 呼 名 ・ 背 後 か ら の 呼 名 ) へ の 反 応 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 発 達 年 齢 に よ っ て 心 拍 の 減 速 反 応 の 頻 度 が 高 い 条 件 が 異 な っ た 。 上 記 の 発 達 年 齢 の 平 均 が 、 3 . 5 ヶ 月 未 満 の 者 で は 顔 や 手 へ の 接 触 を 伴 う 呼 名 に 対 し て 、ま た 、3 . 5 ヶ 月 〜 4 . 5 ヶ 月 の 者 で は 眼 前 か ら の 呼 名 で の 減 速 反 応 の 頻 度 が 高 か っ た 。そ し て 、4 . 5 ヶ 月 以 上 の 者 で は 、 背 後 か ら の 呼 名 に 対 し て 減 速 反 応 の 頻 度 が 高 か っ

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た 。 こ の よ う に 定 位 反 応 は 、 そ れ 自 体 が 生 後 早 期 に 機 能 す る 能 動 的 刺 激 受 容 シ ス テ ム で あ る が 、 こ の 反 応 の 発 達 後 に 、 さ ら に 能 動 的 な 刺 激 受 容 と し て の 期 待 反 応 が 研 究 さ れ た 。 5. 期 待 反 応 の 形 成 と 促 進 条 件 人 の 働 き か け に 対 す る 重 症 児 の 期 待 反 応 が 注 目 さ れ 、 研 究 知 見 が 蓄 積 さ れ て き て い る 。 こ れ ら に は 、 期 待 反 応 の 発 達 ・ 促 進 条 件 ・ 磁 気 共 鳴 画 像 法 ( M R I : m a gn e t i c r e so n an c e i ma gi n g ) に よ る 脳 形 態 所 見 と の 対 応 に 関 す る も の が あ る 。 水 田 ( 2 0 0 0 ) は 、 呼 名 に 対 す る 一 過 性 心 拍 反 応 を 指 標 と し て 、 第 1 刺 激 と 第 2 刺 激 の 対 呈 示 事 態 で 期 待 反 応 の 実 験 的 形 成 を 検 討 し た 。 こ の 結 果 、 呼 名 に 対 し て 減 速 反 応 が 優 勢 な 事 例 は 、 対 刺 激 に 対 し て 減 速 反 応 − 加 速 反 応 の 2 相 性 の 反 応 パ タ ー ン を 示 し た 。そ し て 、呼 名 に 対 し て 能 動 的 な 加 速 反 応 優 勢 ( 片 桐 の 「 第 2 の 加 速 」) な 事 例 は 、 対 刺 激 に 対 し て 、 減 速 反 応 − 加 速 反 応 −減 速 反 応 の 3 相 性 の 反 応 パ タ ー ン を 示 し 、 予 期 的 心 拍 反 応 を 捕 捉 し た 。 こ れ よ り 、 先 行 刺 激 と 後 続 刺 激 の 即 時 随 伴 関 係 は 、 定 位 的 減 速 反 応 を 能 動 的 加 速 反 応 へ と 推 移 さ せ 、 能 動 的 2 相 性 反 応 に 対 し て は 、 よ り 高 次 な 時 間 的 予 期 を 伴 う 期 待 反 応 へ の 分 化 を 促 す と 指 摘 し た 。 雲 井 ・ 森 ・ 北 島 ・ 小 池 ( 2 0 0 3 ) は 、 呼 名 に 対 す る 定 位 反 応 と 働 き か け に 対 す る 期 待 反 応 の 発 達 連 関 に つ い て 報 告 し て い る 。 こ れ に よ る と 、呼 名 に 対 す る 定 位 反 応 が 活 発 に な っ た 後 に 期 待 反 応 が 生 起 し 、

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己 の 行 為 と そ の 結 果 ( R − S 期 待 ) の 認 知 を 関 係 づ け た こ と は 特 に 重 要 で あ る 。 こ れ ら の 知 見 は 、 外 界 刺 激 の 能 動 的 受 容 か ら 能 動 的 行 動 表 出 へ の 可 能 性 を 示 唆 す る 。 す な わ ち 定 位 反 応 か ら 期 待 反 応 、 そ し て 探 索 活 動 へ の 一 連 の 機 能 移 行 の 過 程 の 順 序 性 を 示 す と 思 わ れ る 。 脳 の 構 造 と 機 能 の 観 点 か ら M R I 所 見 と 期 待 反 応 形 成 の 関 係 を 検 討 し た 研 究 も あ る 。 北 島 ・ 雲 井 ・ 小 池 ・ 加 藤 ・ 鈴 木 ( 2 00 0 ) は 、 期 待 事 象 と 非 期 待 事 象 を ラ ン ダ ム に 呈 示 し て 、 心 拍 に よ る 期 待 反 応 の 分 化 形 成 の 検 討 を 行 い 、 分 化 形 成 の 推 移 と 脳 形 態 所 見 と の 対 応 関 係 を 検 討 し た 。 結 果 、 速 や か に 分 化 し た も の か ら 、 3 日 間 に わ た る 刺 激 呈 示 で も 分 化 し な か っ た 者 ま で 4 つ の 群 に 分 け ら れ た 。 分 化 に 要 し た 日 数 と 前 頭 葉 、 海 馬 、 視 床 の 形 態 異 常 に は 関 係 が み ら れ 、 記 憶 機 能 と の 関 連 性 が 指 摘 さ れ た 。ま た 、渡 邊 ・ 加 藤 ・ 小 池 ・ 鈴 木( 2 00 4 ) は 、 視 ・ 聴 覚 障 害 を 伴 う 重 症 児 へ の 期 待 形 成 を 試 み 、 視 ・ 聴 覚 誘 発 電 位 、心 拍 反 応 、M R I 所 見 と の 対 応 関 係 を 検 討 し た 。そ の 結 果 、前 頭 葉 が 萎 縮 し 視 床 に 破 壊 性 病 変 が あ っ て も 期 待 反 応 が 生 じ る こ と 、 特 に 海 馬 や 扁 桃 体 を 含 む 辺 縁 系 の 機 能 残 存 が 期 待 反 応 の 生 起 に 必 要 で あ る こ と を 指 摘 し た 。 従 来 、 視 ・ 聴 覚 機 能 に 顕 著 な 障 害 が 認 め ら れ な い 対 象 に つ い て 、 期 待 反 応 が 研 究 さ れ て き た 経 緯 を 踏 ま え れ ば 、 上 記 の 渡 邊 ら ( 2 0 0 4 ) の 知 見 は 重 症 児 の 認 知 発 達 の 可 能 性 を 示 唆 し て 意 義 深 い 。 第 3 節 重 症 児 の 刺 激 応 答 性 検 討 の 課 題 従 来 の 刺 激 応 答 性 に つ い て の 研 究 は 、 重 症 児 の 潜 在 的 可 能 性 を 探 る 方 向 で 進 め ら れ 、 能 動 的 な 刺 激 受 容 を 反 映 す る 定 位 反 射 系 活 動 の 発 達 と そ の 促 進 条 件 に つ い て 体 系 的 研 究 が な さ れ 、 有 効 な 知 見 が 積 み 上 げ ら れ て き た 。 こ れ に よ り 、 呼 名 を 主 と し た 人 に 関 連 す る 単 一

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他 方 、日 常 介 護 に た ず さ わ る 療 育 者 の 所 見 は 、「 ゆ ら し 」な ど に よ り 重 症 児 の 反 応 を さ ら に 引 出 し う る 可 能 性 を 示 し て い る 。 こ れ ら の 所 見 は 、 定 位 反 応 を 喚 起 で き な い 重 症 児 へ の 課 題 と 関 連 し て 、 平 衡 感 覚 刺 激 を 含 む 複 合 的 刺 激 が 、 重 症 児 の 定 位 反 応 を 引 き 出 す 上 で 、 い か な る 作 用 と 効 果 を 有 す る の か の 検 討 が 必 要 で あ る 。 そ の 上 で 、 刺 激 応 答 性 の 補 完 検 討 が 有 効 と 思 わ れ る 。 ま た 、 呼 名 を 主 と し た 人 関 連 刺 激 に 対 す る 応 答 性 の 検 討 か ら 、定 位 反 応 と 期 待 反 応 に つ い て 、 お お よ そ の 発 達 過 程 と 促 進 条 件 が 明 ら か に さ れ て き た 。 そ し て 、 期 待 反 応 の 生 起 と 相 前 後 し て 意 図 的 操 作 が 活 発 に な り 、 外 界 へ の 能 動 的 探 索 が 始 ま る こ と が 推 察 さ れ る 。 し か し 、 意 図 的 操 作 が 外 界 へ の 探 索 活 動 へ と 拡 が っ て 、 外 界 の 物 や 空 間 へ の 認 識 を 促 す 発 達 援 助 に つ い て は 、 ま だ 十 分 な 検 討 が な さ れ て お ら ず 、 検 討 課 題 と な っ て い る 。

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第 3 章 本 研 究 の 目 的 と 検 討 課 題

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第 1 節 本 研 究 の 目 的 胎 児 期 や 周 生 期 の 初 期 発 達 段 階 で 重 篤 な 脳 障 害 を 受 け た 重 症 児 は 、 感 覚 や 運 動 に 重 篤 な 障 害 を 有 し 、 外 界 へ の 能 動 的 行 動 に 制 約 を 受 け る 。 こ の た め 療 育 で は 能 動 的 行 動 の 表 出 が 目 指 さ れ 、 感 覚 系 と 覚 醒 系 の 機 能 成 熟 を 促 す こ と を 基 盤 と し て 定 位 反 応 の 発 生 ・ 促 進 、 そ の 後 の 期 待 形 成 が 目 指 さ れ る 。 こ の 療 育 課 題 と 連 動 し て 、 研 究 で は 定 位 反 射 系 活 動 を 主 な 視 点 と し た 知 見 が 蓄 積 さ れ 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 支 え る 「 能 動 的 刺 激 受 容 過 程 」 に つ い て は 、 呼 名 な ど の 人 に 関 連 し た 刺 激 に 対 す る 応 答 特 徴 や そ の 援 助 方 法 な ど 、 発 達 過 程 を 含 め て 概 ね 明 ら か に さ れ て い る 。 他 方 、 座 位 や 支 持 座 位 が 可 能 で 上 肢 運 動 も 一 定 可 能 な 重 症 児 に は 、 事 物 操 作 を 通 し て 外 界 へ の 認 識 を 拡 げ る た め に 探 索 活 動 を 促 す 援 助 が 重 要 で あ る が 、 こ の よ う な 「 能 動 的 行 動 表 出 過 程 」 に つ い て の 知 見 は 極 め て 乏 し い 。 重 症 児 や 脳 性 麻 痺 児 に 対 す る 研 究 は 、 姿 勢 ・ 運 動 の 問 題 が 医 療 ・ 訓 練 領 域 で 多 く な さ れ て き た が 、 こ れ ら は 異 常 反 射 の 抑 制 、 関 節 の 変 形 や 拘 縮 の 予 防 、 呼 吸 ・ 摂 食 動 作 及 び 日 常 生 活 動 作 の 改 善 な ど 、 運 動 制 約 の 防 止 と 改 善 に 焦 点 化 さ れ た も の で あ る 。 こ れ に 対 し て 、 知 覚 や 認 知 研 究 は 少 な く 、 特 に 認 知 と 姿 勢 ・ 運 動 の 関 係 を 詳 細 に 検 討 し た も の は 殆 ど な い 。 あ っ て も 個 別 事 例 の 実 践 記 述 に 留 ま り 、 個 人 の 独 自 性 に 偏 重 し た 知 見 が 多 い た め 、 他 の 事 例 と 比 較 す る 共 通 の 枠 組 み が な い こ と が 問 題 で あ る 。 多 様 な 臨 床 像 を 示 す 重 症 児 研 究 で は 、 複 数 事 例 に よ る 横 断 的 研 究 の 知 見 か ら 考 察 さ れ た 発 達 仮 説 を 、 縦 断 的 研 究 に よ っ て

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本 研 究 は 従 来 の 研 究 知 見 を 参 照 し て 、 発 達 過 程 を Fi g.3 -1 の よ う に 想 定 し た 。 生 後 、 外 界 か ら の 刺 激 を 受 け な が ら 感 覚 機 能 と 覚 醒 機 能 の 成 熟 が 促 さ れ る 。 こ れ を 基 盤 と し て 、 定 位 反 応 が 発 生 す る 。 定 位 反 応 は 、 刺 激 へ の 選 択 的 注 意 に よ る 刺 激 の 取 込 み と 刺 激 の 符 号 化 、 そ の 後 の 外 来 刺 激 と の 照 合 過 程 を 反 映 す る 。 こ の 心 理 過 程 を 基 礎 と し 、 よ り 動 的 な 刺 激 受 容 過 程 の 反 映 と し て 、 期 待 反 応 が 発 生 す る 。 期 待 反 応 は 、 先 行 す る 刺 激 を 手 が か り と し た 後 続 刺 激 の 予 期 を 反 映 す る と さ れ 、 刺 激 と 刺 激 の 随 伴 関 係 の 認 知 に か か わ る 心 理 過 程 と 考 え ら れ て い る 。 こ の よ う に 、 外 界 刺 激 の 受 容 か ら 生 活 事 象 の 認 知 を 促 し 、 対 人 相 互 交 渉 に よ る 社 会 的 学 習 の 発 達 に お い て 、 定 位 反 応 と そ の 後 の 期 待 反 応 は 、 重 要 な マ イ ル ス ト ー ン と な っ て い る 。 加 え て 、 期 待 反 応 と 相 前 後 し て 意 図 的 操 作 が 現 れ る と 、 期 待 反 応 が 促 進 さ れ る こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 他 方 、 行 動 表 出 の 発 生 ・ 発 達 に お け る マ イ ル ス ト ー ン と し て リ ー チ ン グ に 着 目 し た 。 リ ー チ ン グ は 、 見 た 物 へ と 手 を 伸 ば し て 掴 む 行 動 で あ り 、初 期 発 達 に お け る 空 間 認 知 や 知 覚 運 動 協 応 の 指 標 と し て 、 乳 児 を 対 象 に 豊 富 な 知 見 が 蓄 積 さ れ て き た 。 リ ー チ ン グ は 、 物 へ の 視 覚 に よ る 選 択 的 注 意 の 喚 起 に 始 ま り 、 視 覚 情 報 を 受 容 し て 自 己 の 身 体 サ イ ズ に 応 じ た 運 動 へ と 変 換 ・ 調 整 さ れ て 表 出 さ れ る 。 リ ー チ ン グ の 発 生 は 、 そ の 後 の 生 活 世 界 へ の 探 索 行 動 ( 二 項 関 係 ) に 発 展 し て 、 物 や 空 間 に つ い て の 知 識 と 物 へ の 姿 勢 ・ 運 動 調 整 を 獲 得 す る 機 会 と 捉 え ら れ る 。 そ し て 、 こ の 事 態 に 養 育 者 が 介 在 し た 相 互 交 渉 ( 三 項 関 係 ) で は 、 他 者 の 視 線 を 追 従 し た 共 同 注 視 を 契 機 と し て 、 注 意 の 共 有 が 成 立 し て 社 会 的 学 習 が 促 進 さ れ る 。 養 育 者 と 同 じ 対 象 へ の 共 同 注 意 は 、 対 象 を 介 し た 相 互 交 渉 の 中 に 意 思 交 換 や 教 示 に 対

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盤 と し た 社 会 的 学 習 へ の 発 達 連 関 が 示 唆 さ れ る 。 他 方 、 重 症 児 で は 、 こ の 連 関 過 程 に お け る 各 マ イ ル ス ト ー ン の 発 生 が 困 難 で あ る こ と が 多 く 、 ま た 、 発 生 し て も こ れ ら の 移 行 に お け る 不 連 続 性 が 問 題 と な る 。 す な わ ち 、 ① 定 位 反 応 自 体 が 喚 起 さ れ に く い 事 例 が い る こ と 。② リ ー チ ン グ の 発 生 が 困 難 な 事 例 が 多 い こ と 。 ③ 物 を 視 覚 的 に 捕 捉 で き て も 、 姿 勢 ・ 運 動 調 整 が 困 難 で リ ー チ ン グ が 発 生 し な い 事 例 が 多 い こ と 。 ④ 三 項 関 係 に お い て 定 位 行 動 が み ら れ な い 場 合 、 養 育 者 に よ る 関 わ り の 契 機 が 得 ら れ に く い こ と 。 ⑤ 三 項 関 係 に 多 い て 共 同 注 視 が 得 ら れ 難 く 、 共 同 注 意 へ の 機 能 移 行 が 困 難 な こ と 、 で あ る 。 こ れ よ り 、 本 研 究 は 上 記 の 発 達 連 関 を 枠 組 み と し 、 こ の 過 程 に お け る マ イ ル ス ト ー ン の 発 生 要 因 と 移 行 の 不 連 続 要 因 を 探 り 、 実 践 検 討 を 通 し て こ れ ら マ イ ル ス ト ー ン の 発 生 と 円 滑 な 移 行 の た め の 促 進 条 件 を 明 ら か に す る た め 、 以 下 の 課 題 を 検 討 す る 。 1. 覚 醒 の 安 定 と 定 位 反 応 の 発 生 に つ い て の 検 討 重 症 児 の 中 に は 定 位 反 応 の 発 生 が 困 難 な 者 も 多 い 。 こ れ よ り 、 定 位 反 応 を 引 き 出 す 要 因 と 方 法 を 検 討 し 、 刺 激 の 能 動 的 受 容 過 程 に 関 す る 研 究 知 見 を 補 完 す る 。 具 体 的 に は 、 定 位 反 応 発 生 の 必 要 条 件 と 考 え ら れ る 感 覚 機 能 と 刺 激 の 受 容 ・ 処 理 ・ 表 出 過 程 の 全 般 に 影 響 す る 覚 醒 機 能 に 着 目 し て 検 討 を 行 う 。 そ の 際 に 、 重 症 児 の 介 護 に 携 わ る 療 育 者 所 見 か ら 、 反 応 性 を 高 め る 上 で 有 効 と さ れ て き た 平 衡 感 覚 刺 激 を 含 む 複 合 的 刺 激 を 用 い た 関 わ り の 作 用 と 効 果 を 明 ら か に す る 。

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3. リ ー チ ン グ に お け る 姿 勢 ・ 運 動 調 整 の 検 討 物 に 向 か っ て 手 を 伸 ば す 際 の 姿 勢 と 運 動 の 調 整 に つ い て 、 視 覚 活 用 と 姿 勢 ・ 運 動 様 相 か ら 検 討 す る 。 そ の 後 、 視 覚 に よ る 選 択 的 注 意 と 姿 勢 ・ 運 動 調 整 と の 相 互 依 存 性 を 検 討 し 、 視 覚 と 運 動 の 良 循 環 の 促 進 条 件 と し て の 人 的 ・ 物 理 的 空 間 の 要 因 を 明 ら か に す る 。 4. 視 覚 に よ る 選 択 的 注 意 の 状 態 と 共 同 注 視 の 発 生 に つ い て の 検 討 リ ー チ ン グ に よ る 空 間 へ の 視 覚 に よ る 選 択 的 注 意 の 状 態 と 共 同 注 視 の 発 生 に つ い て 検 討 す る 。 従 来 の 知 見 か ら 、 6 ヶ 月 頃 の 乳 児 は 大 人 の 視 線 変 化 に 反 応 し て 大 人 が み て い る 方 向 を 見 る が 、 複 数 の 対 象 が あ る と 最 初 に 目 に は い っ た 物 に 視 線 を 止 め て 、 タ ー ゲ ッ ト を 正 確 に 捉 え る こ と は で き な い 。1 2 ヶ 月 頃 に は 、同 じ 方 向 に 複 数 の 対 象 物 が あ っ て も タ ー ゲ ッ ト を 正 確 に 見 る こ と が で き る 。そ し て 、1 8 ヶ 月 頃 に は 、大 人 が 乳 児 の 後 方 な ど 視 野 外 の タ ー ゲ ッ ト を 見 た と き で も 、 振 り 返 っ て タ ー ゲ ッ ト を 探 す こ と が で き る と さ れ る 。 こ れ ら の 知 見 か ら 、 視 線 追 従 行 動 の 発 生 に は 、 空 間 に あ る 物 の 視 覚 補 足 が 必 要 で あ り 、 空 間 へ の 視 覚 に よ る 選 択 的 注 意 の 状 態 が 影 響 す る と 考 え ら れ る 。 こ れ に よ り 、 リ ー チ ン グ に よ る 視 覚 の 選 択 的 注 意 の 状 態 と の 関 係 か ら 検 討 す る 。 5. 共 同 注 視 か ら 共 同 注 意 へ の 機 能 移 行 の 検 討 共 同 注 視 か ら 共 同 注 意 へ の 移 行 に は 、「 視 線 が 特 定 対 象 に 向 け ら れ る と い う 視 線 が も つ 志 向 性 や 指 示 性 理 解 」 の 検 討 が 必 要 で あ る 。 本 研 究 で は 、 リ ー チ ン グ 課 題 に お い て 、 物 に 気 づ か な い 場 合 、 呈 示 者 が 気 づ き を 促 す 援 助 を 行 い 、 こ れ に 対 す る 応 答 か ら 視 線 の 志 向 性 ・ 支 持 性 の 理 解 と 「 共 同 注 意 」 へ の 移 行 要 因 を 探 る 。 な お 、 気 づ き の

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上 記 の 検 討 を 踏 ま え 、 実 践 検 討 を 通 し て 療 育 実 践 に よ り 適 合 し 得 る 実 践 モ デ ル を 提 起 す る 。

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F i g . 3 - 1 本 研 究 に お け る 仮 説 と 課 題 .

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第 4 章 小 括 今 日 の 障 害 を め ぐ る 動 向 は 、 障 害 当 事 者 の 意 思 の 尊 重 と と も に 自 己 決 定 権 の 尊 重 を 重 視 す る 。障 害 当 事 者 に は 意 思 の 表 明 が 求 め ら れ 、 関 わ る 専 門 職 に は 障 害 者 が 意 思 を も ち 表 明 す る 能 力 を 育 て る こ と が 求 め ら れ て い る 。 重 症 児 へ の 発 達 援 助 に お い て も 、 こ の 流 れ を 受 け て 、 障 害 の 重 度 化 と ニ ー ズ の 多 様 化 に ど の よ う に 応 え て い く の か と い う 、 新 た な 課 題 に 直 面 し て い る 。 自 分 の 意 思 を 表 明 す る こ と が 極 め て 困 難 な 重 症 児 の 場 合 、 生 活 の 質 の 向 上 と は ど の よ う な 内 容 な の か 。 そ し て 誰 が 何 に 基 づ い て 決 め る の か 。 こ の 自 己 決 定 権 と 生 活 の 質 の あ り 方 は 、 実 は 重 症 児 療 育 が 開 始 さ れ 以 来 、 今 日 ま で 問 わ れ 続 け て い た は ず の 基 本 的 問 題 で あ る 。 重 症 児 の 発 達 援 助 に お い て は 、 ま ず 感 覚 系 と 覚 醒 系 の 機 能 成 熟 を 促 す こ と を 基 盤 と し て 、 よ り 能 動 的 刺 激 受 容 シ ス テ ム と し て の 定 位 反 応 の 喚 起 が 目 指 さ れ た 。 そ し て 、 定 位 反 応 が 喚 起 さ れ れ ば 、 期 待 形 成 ・ 意 図 的 操 作 の 開 発 ・ 促 進 を 以 っ て 認 知 発 達 を 促 し 、 意 思 表 出 し 得 る 存 在 の 育 成 が 目 指 さ れ て き た 。 従 来 の 研 究 か ら 療 育 実 践 に お け る マ イ ル ス ト ー ン が 明 ら か に な っ て き た 。 そ の 上 で 、 こ れ ら の 機 能 の 発 生 と 移 行 が 円 滑 に 行 わ れ る た め に は 、 ま だ 検 討 課 題 が 残 る 。 こ れ よ り 、 本 研 究 で は 、 定 位 反 応 を 引 き 出 す 方 法 を 検 討 し て 、 重 症 児 の 外 界 刺 激 の 応 答 に 関 す る 研 究 知 見 を 補 完 す る 。 そ の 上 で 、 外 界 へ の 能 動 的 行 動 表 出 に 向 け た 検 討 課

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第 Ⅱ 部 外 界 刺 激 へ の 応 答 性 に 関 す る 補 完 検 討

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第 5 章 前 庭 系 の 発 達 と 機 能 の 特 徴

参照

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