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Scratch を用いたプログラミング教育の評価 学習意欲と思考態度の分析

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Academic year: 2021

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Scratch を用いたプログラミング教育の評価 211 要旨  視覚的なオブジェクトの組み合わせでプログラミングが可能な「Scratch」を用いて,プ ログラミングの実践授業を行った。プログラミング教育の目的は,プログラミング的思考の 形成である。これが促されたのであれば,学習者の意識変化が生じると推測される。その確 認を目的として,学習意欲と思考態度の調査を行った。調査は実践授業初回と実践授業中の 時系列に行い,その結果を検証した。 Abstract

 The author conducted experimental lessons using “Scratch”, which allows programming with a combination of visual objects. The purpose of programming education is to foster the formation of a programming way of thinking. If this is encouraged, it is presumed that students' attitudes will change. To confirm this assumption, motivation and mindset surveys were conducted both first and during the experimental lessons, and the survey results were verified.

キーワード

 プログラミング教育,意識変化,学習意欲,思考態度,時系列評価 Keywords

 programming education, change of consciousness, motivation, mindset, time series evaluation

1 背景と目的

 2017年3月,文部科学省は新学習指導要領を公示した。その内容には,プログラミング教

Scratch を用いたプログラミング教育の評価

学習意欲と思考態度の分析

髙 橋 文 徳

Evaluation of Programming Education using Scratch:

Analysis of Motivation and Mindset

Fuminori Takahashi

尚絅大学研究紀要 自然科学編 第52号:(211~219)(2020)

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育の必修化が含まれている。新学習指導要領は,小学校では2018年度から2019年度までの移 行期間を経て,2020年度から全面実施される。また中学校では,2018年度から2020年度まで の移行期間を経て,2021年度から全面実施される(1) 。  このプログラミング教育の目的は,プログラミング的思考を備えることとされている(2) これは人間の思考法のことである。概念であり,すべての人がその恩恵を享受し得る。この ような思考を備えることの有用性は,疑うまでもない。  プログラミング教育によってプログラミング的思考の形成が促されたのであれば,学習者 の意識に何らかの変化が生じると推測される。その確認を目的として実践授業を行い,学習 意欲と思考態度の調査を実践授業初回と実践授業中に実施した。

2 授業概要

2.1 授業環境  コーディング技術の習得は,プログラミング教育の目的に含まれていない。難解なプログ ラミング言語を用いることは,学習者のプログラミングへの意欲・関心を低下させ,思考力 の向上を促さない恐れがある。これに適した言語として,ビジュアルプログラミング言語が 挙げられる。視覚表現でプログラミングが可能なビジュアルプログラミング言語は,文字の 羅列でコードを記述する必要がない。実践授業では,このビジュアルプログラミング言語の 一つである「Scratch(3)」を用いた(図1参照)。 図1:Scratch によるプログラム作成画面 2

このプログラミング教育の目的は,プログラミング的思考を備えることとされている

(2)

これは人間の思考法のことである。概念であり,すべての人がその恩恵を享受し得る。こ

のような思考を備えることの有用性は,疑うまでもない。

プログラミング教育によってプログラミング的思考の形成が促されたのであれば,学習

者の意識に何らかの変化が生じると推測される。その確認を目的として実践授業を行い,

学習意欲と思考態度の調査を実践授業初回と実践授業中に実施した。

2 授業概要

2.1 授業環境

コーディング技術の習得は,プログラミング教育の目的に含まれていない。難解なプロ

グラミング言語を用いることは,学習者のプログラミングへの意欲・関心を低下させ,思

考力の向上を促さない恐れがある。これに適した言語として,ビジュアルプログラミング

言語が挙げられる。視覚表現でプログラミングが可能なビジュアルプログラミング言語は,

文字の羅列でコードを記述する必要がない。実践授業では,このビジュアルプログラミン

グ言語の一つである「

Scratch

(3)

」を用いた(図

1 参照)。

図 1:Scratch によるプログラム作成画面

2.2 実践授業

Scratch による実践授業は,本学短期大学部総合生活学科 2019 年度後期開講科目「卒業

演習」内にて,

13 名の履修者を対象として実施した(表 1 参照)。対象者の内 1 名は,C

言語の学習経験者であった。

表 1:Scratch によるプログラミング演習の授業構成   14 p211-219 髙橋文徳先生.indd 212 2020/03/18 12:02:08

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Scratch を用いたプログラミング教育の評価 213 2.2 実践授業  Scratch による実践授業は,本学短期大学部総合生活学科2019年度後期開講科目「卒業演 習」内にて,13名の履修者を対象として実施した(表1参照)。対象者の内1名は,C 言語 の学習経験者であった。 表1:Scratch によるプログラミング演習の授業構成 授業回数 授業テーマ 1 授業の概要説明:基本操作と例題の入力,学習意欲・思考態度調査 2 Scratch とプログラミング:エディタの使い方,ファイルの保存と読み込み 3 アニメーション:スプライト,コスチューム,コード 4 図形処理:x 座標と y 座標,角度,ペンによる図形描画 5 変数:値の代入と記憶,多角形の作成 6 リスト(配列):複数の値の代入と記憶,音の連続再生 7 制御構造1:分岐処理と反復処理1 8 制御構造2:分岐処理と反復処理2,学習意欲・思考態度調査  各授業では最初に例題として用意したブロックを配置させ(図2参照),意味を説明しな がら動作を確認する。その後,ブロックの配置を各自で修正しながら課題を完成させ提出す る,という流れである。授業で扱う内容は,基本構造(順次・選択・反復)の理解を主とし ている。 図2:多角形作成の例題 令和元年11 月 27 日 Scratch を用いたプログラミング教育の評価

授業回数

授業テーマ

1

授業の概要説明:基本操作と例題の入力,学習意欲・思考態度調査

2

Scratch とプログラミング:エディタの使い方,ファイルの保存と読み込み

3

アニメーション:スプライト,コスチューム,コード

4

図形処理:

x 座標と y 座標,角度,ペンによる図形描画

5

変数:値の代入と記憶,多角形の作成

6

リスト(配列)

:複数の値の代入と記憶,音の連続再生

7

制御構造

1:分岐処理と反復処理 1

8

制御構造

2:分岐処理と反復処理 2,学習意欲・思考態度調査

各授業では最初に例題として用意したブロックを配置させ(図

2 参照),意味を説明しな

がら動作を確認する。その後,ブロックの配置を各自で修正しながら課題を完成させ提出

する,という流れである。授業で扱う内容は,基本構造(順次・選択・反復)の理解を主

としている。

図 2:多角形作成の例題

2.3 演習前後の学習意欲調査と調査結果

土肥・宮川・今野(

2003)

(4)

が考案した教育心理学の手法を用いたアンケートに基づい

て,

21 の調査項目を作成した。1 度目は実践授業初回終了後に,学習者群の学習意欲の確

認を目的として実施した。

2 度目は 8 回の実践授業終了後に,学習者群の学習意欲の変化の

確認を目的として実施した。回答には「まったくそう思わない(

1 点)」から「強くそう思

う(5 点)」の 5 件法での選択肢を設けた。この調査結果に対し,1 度目と 2 度目の回答の

差異の有意性判定を目的に,

t 検定(片側検定)を実施した。以下に,学習意欲調査の質問

項目内容,及び授業前後での平均値,有意性判定結果を示す(表

3 参照)。なお,1 度目の

14 p211-219 髙橋文徳先生.indd 213 2020/03/18 12:02:08

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2.3 演習前後の学習意欲調査と調査結果  土肥・宮川・今野(2003)(4)が考案した教育心理学の手法を用いたアンケートに基づいて, 21の調査項目を作成した。1度目は実践授業初回終了後に,学習者群の学習意欲の確認を目 的として実施した。2度目は8回の実践授業終了後に,学習者群の学習意欲の変化の確認を 目的として実施した。回答には「まったくそう思わない(1点)」から「強くそう思う(5 点)」の5件法での選択肢を設けた。この調査結果に対し,1度目と2度目の回答の差異の 有意性判定を目的に,t 検定(片側検定)を実施した。以下に,学習意欲調査の質問項目内 容,及び授業前後での平均値,有意性判定結果を示す(表3参照)。なお,1度目の調査時 の被験者数は13名,2度目の調査時の被験者数は11名である。 表2:学習意欲調査の質問項目内容,及び授業前後での平均値,有意性判定結果 項目番号 項目内容 演習前平均値 演習後平均値 t 値 有意性判定 1 自分が入力したプログラムの動作結果を見るのは楽しいですか 4.54 4.27 0.69 n.s. 2 授業では好奇心を刺激されますか 4.46 4.00 0.94 n.s. 3 授業内容はマンネリであると思いますか 2.08 1.64 1.64 p<.1 4 授業の内容は親しみやすいですか 3.85 3.64 0.47 n.s. 5 授業の意義や目的がはっきりしていますか 4.54 4.18 0.99 n.s. 6 将来に役立つと思いますか 4.23 4.00 0.75 n.s. 7 自分の到達すべき学習の目標がはっきりしていますか 4.00 3.91 0.23 n.s. 8 授業中にできた・わかったという実感がありますか 4.69 4.55 0.43 n.s. 9 授業で学習したことを基にして,自分で工夫し勉強してみようと思いますか 4.15 4.00 0.44 n.s. 10 努力すればしただけの学習成果(できるようになる)がありますか 4.31 4.36 0.18 n.s. 11 教員やクラスのメンバーは好意的ですか 4.23 4.55 0.99 n.s. 12 演習問題などは授業内容と一致していますか 4.31 4.45 0.49 n.s. 13 休まずに出席しようという意欲が起こる授業ですか 4.62 4.36 0.81 n.s. 14 授業での自分の参加態度は積極的ですか 4.69 4.55 0.72 n.s. 15 もっとプログラミングの勉強を努力しようと思いますか 4.31 4.36 0.15 n.s. 16 授業中,学生・教員などとのコミュニケーションはありますか 4.62 4.09 1.65 p<.1 17 このプログラミングの授業は楽しいと思いますか 4.62 4.18 1.08 n.s. 14 p211-219 髙橋文徳先生.indd 214 2020/03/18 12:02:09

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Scratch を用いたプログラミング教育の評価 215 2.4 演習前後の思考態度調査と調査結果  平山・楠見(2004)(5) が考案した批判的思考態度尺度に基づいて,33の調査項目を作成し た。1度目は実践授業初回終了後に,学習者群の思考態度の確認を目的として実施した。2 度目は8回の実践授業終了後に,学習者群の思考態度の変化の確認を目的として実施した。 回答には「そう思わない(1点)」から「そう思う(5点)」の5件法での選択肢を設けた。 この調査結果に対し,1度目と2度目の回答の差異の有意性判定を目的に,t 検定(片側検 定)を実施した。以下に,思考態度調査の質問項目内容,及び授業前後での平均値,有意性 判定結果を示す(表3参照)。学習意欲調査と同様に,1度目の調査時の被験者数は13名, 2度目の調査時の被験者数は11名である。 18 このプログラミングの授業は理解しやすいですか 4.15 3.82 0.84 n.s. 19 プログラミングを学習することは重要だと思いますか 4.23 4.55 1.19 n.s. 20 現在の時点で,プログラミングの知識・技術は身についていると思いますか 3.08 3.91 2.04 p<.05 21 もっとプログラミングの知識や技術を高めたいと思いますか 4.54 4.36 0.50 n.s. 表 3:思考態度調査の質問項目内容,及び授業前後での平均値,有意性判定結果 項目番号 項目内容 演習前平均値 演習後平均値 t 値 有意性判定 1 複雑な問題について順序立てて考えることが得意だ 3.38 3.82 0.89 n.s. 2 考えをまとめることが得意だ 3.85 3.91 0.18 n.s. 3 物事を正確に考えることに自信がある 3.31 3.45 0.43 n.s. 4 誰もが納得できるような説明をすることができる 3.00 3.00 0.00 n.s. 5 何か複雑な問題を考えると,混乱してしま 3.38 4.00 1.47 p<.1 6 公平な見方をするので,私は仲間から判断を任される 3.15 3.00 0.42 n.s. 7 何かの問題に取り組む時は,しっかりと集中することができる 4.38 3.64 2.17 p<.05 8 一筋縄ではいかないような難しい問題に対しても,取り組み続けることができる 3.92 3.64 0.79 n.s. 9 道筋を立てて物事を考える 3.92 3.64 0.89 n.s. 10 私の欠点は気が散りやすいことだ 3.46 3.91 1.00 n.s. 11 物事を考えるとき,他の案について考える余裕がない 3.15 3.00 0.39 n.s. 12 注意深く物事を調べることができる 4.15 3.73 1.16 n.s. 14 p211-219 髙橋文徳先生.indd 215 2020/03/18 12:02:09

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 演習前後の学習意欲調査及び思考態度調査には,筆者が構築した学習支援システム (http://e-learning.shokei-gakuen.ac.jp/)を用いた(6)。このシステムにより,PC 上での質問 調査やオンライン試験が可能である。これを用いて,全ての授業終了後に自由記述のアン ケート調査を追加で実施した。 13 建設的な提案をすることができる 3.69 3.64 0.16 n.s. 14 いろいろな考え方の人と接して多くのことを学びたい 4.46 4.27 0.49 n.s. 15 生涯にわたり新しいことを学び続けたいと思う 4.38 4.45 0.22 n.s. 16 新しいものにチャレンジするのが好きであ 4.00 3.64 0.73 n.s. 17 様々な文化について学びたいと思う 4.46 4.45 0.02 n.s. 18 外国人がどのように考えるかを勉強することは,意義のあることだと思う 4.23 4.45 0.85 n.s. 19 自分とは違う考え方の人に興味を持つ 4.31 4.27 0.09 n.s. 20 どんな話題に対しても,もっと知りたいと思う 4.23 3.64 1.34 n.s. 21 役に立つかわからないことでも,できる限り多くのことを学びたい 4.15 4.18 0.08 n.s. 22 自分とは異なった考えの人と議論するのは面白い 4.08 3.73 0.74 n.s. 23 分からないことがあると質問したくなる 4.31 4.00 0.69 n.s. 24 いつも偏りのない判断をしようとする 3.77 3.27 1.15 n.s. 25 物事を見るときに自分の立場からしか見な 2.62 2.82 0.51 n.s. 26 物事を決めるときには,客観的な態度を心がける 3.69 3.55 0.46 n.s. 27 一つ二つの立場だけではなく,できるだけ多くの立場から考えようとする 4.15 4.00 0.52 n.s. 28 自分が無意識のうちに偏った見方をしていないか振り返るようにしている 3.77 3.36 0.97 n.s. 29 自分の意見について話し合うときには,私は中立の立場ではいられない 3.08 3.18 0.31 n.s. 30 たとえ意見が合わない人の話にも耳を傾け 4.08 4.18 0.28 n.s. 31 結論を下す場合には,確たる証拠の有無にこだわる 3.62 4.00 1.32 p<.1 32 判断を下す際は,できるだけ多くの事実や証拠を調べる 4.38 4.09 1.19 n.s. 33 何事も,少しも疑わずに信じ込んだりはしない 3.46 3.00 0.95 n.s. 14 p211-219 髙橋文徳先生.indd 216 2020/03/18 12:02:09

(7)

Scratch を用いたプログラミング教育の評価 217

3 結果と考察

 学習意欲調査の結果から比較すると,「3.授業内容はマンネリであると思いますか(t (22)=1.64,p<.1)」,「16. 授業中,学生・教員などとのコミュニケーションはありますか(t (22)=1.65,p<.1)」,「20. 現在の時点で,プログラミングの知識・技術は身についていると 思いますか(t(22)=2.04,p<.05)」の3項目において,学習意欲の変化が確認できた。  「現在の時点で,プログラミングの知識・技術は身についていると思いますか」という質 問項目に対しては,回答の平均値が有意に向上している。学習者の大半がプログラミング未 経験者であり,実践授業で初めてプログラミングを経験した。プログラミングとは,コン ピュータに対して一つ一つの動きを命令する作業である。すべての作業を順番に行うよう, また必要に応じて作業を選択させ,また必要に応じて作業を反復させる。この命令により, コンピュータはその通りに動く。正しく命令できなければ,自分の想定通りにコンピュータ は動かない。その場合,何度も修正が必要となる。その修正作業を繰り返す中で,新たな知 識・技術が自ずと身に着くことは想像に難くない。それ故,回答の平均値が向上したと考え られる。  「授業中,学生・教員などとのコミュニケーションはありますか」という質問項目に対し ては,回答の平均値が有意に低下している。プログラミングは試行錯誤の繰り返しであり, 自分自身との問答が求められる。例題解説後の学習者各自でプログラミングを行う際の授業 風景を振り返ると,独り言を言いながらプログラミングに没頭する姿,目を瞑って考え込む 姿が思い出される。理解したことを共有するほどの余裕がないのかもしれない。自分自身の 経験を重ねると,確かに会話をしながらプログラミングをすることはない。プログラミング 時は考えるべきことが多く,集中力が求められる。プログラミングに必要とされるこの特性 が,回答の平均値を下げたと思われる。  「授業内容はマンネリであると思いますか」という質問項目に対しては,回答の平均値が 有意に低下している。授業内容は表1に示す通りであり,毎回例題を修正して課題を完成さ せるという流れである。毎回のテーマは異なり,それに応じて例題も異なる。当然ながら提 出すべき課題も異なるため,毎回新しい知識・技術を備える必要がある。回答の平均値が下 がったのは,この経験が影響を及ぼした結果であろう。  次に思考態度調査の結果を比較すると,「5.何か複雑な問題を考えると,混乱してしま う(t(22)=1.47,p<.1)」,「7.何かの問題に取り組む時は,しっかりと集中することがで きる(t(22)=2.17,p<.05)」,「31. 結論を下す場合には,確たる証拠の有無にこだわる(t (22)=1.32,p<.1)」の3項目において,思考態度の変化が確認できた。  「何か複雑な問題を考えると,混乱してしまう」という質問項目に対しては,回答の平均 値が有意に向上している。先述したとおり,プログラミングは試行錯誤の繰り返しである。 混乱することも多々生じる。その状況を客観的に見つめ,混乱の原因を一つ一つ根気強く取 14 p211-219 髙橋文徳先生.indd 217 2020/03/18 12:02:09

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り除く必要がある。プログラミング未経験者にとって,この混乱との葛藤は今までにない経 験であったのかもしれない。この経験が,回答の平均値に影響を及ぼしたのであろう。同時 に,初めてのプログラミングは容易ではない,ということが読み取れる。  「何かの問題に取り組む時は,しっかりと集中することができる」という質問項目に対し ては,回答の平均値が有意に低下している。プログラミング時は考えるべきことが多く,集 中力が求められる。プログラミングのことだけを考える必要がある。他の作業と並行して行 うことは困難であろう。しかしながら,授業風景を振り返ると,学習者が所有するスマート フォンへの通知の度に,プログラミングを止めてスマートフォンの操作を行う学習者が多く 見られた。スマートフォンが集中の妨げになっている,と結論付けつもりはないが,集中を 妨げる一要因であることは間違いない。授業は回を追うごとに,その内容は高度化する。当 然ながら,相応の集中力を必要とする。高度な内容を含んだプログラミングの際に集中を困 難に感じた学習者が数多く存在したため,この回答の平均値が下がったと考えられる。  「結論を下す場合には,確たる証拠の有無にこだわる」という質問項目に対しては,回答 の平均値が有意に向上している。これは,プログラミング教育の目的である「プログラミン グ的思考」が少なからず備えられたと解釈したい。プログラミング的思考とは,数学的思考 と工学的思考を組み合わせて思考を補完する人間の思考法を意味する。結論導出のために証 拠を重視することは,論理的に思考をしていると言えよう。これはプログラミング的思考の 目指す処,即ち,「将来どのような職業に就くとしても,時代を超えて普遍的に求められる 力(2) 」に等しいと言えよう。回答の平均値が向上したのは,この力が少なからず備わったこ とが反映された結果であろう。  以上,本研究ではプログラミング教育による学習者の学習意欲と思考態度の変化の分析を 行った。  学習意欲調査の結果から考えられることは,プログラミング初学者にとって得られる知 識・技術は新鮮であり,それは貴重な経験となり得る。プログラミングの際には自分自身と の問答の繰り返しが必要とされ,周囲とのコミュニケーションは活発には行われない。  思考態度調査の結果から考えられることは,プログラミング時に混乱が生じることが多々 ある。これを解決するためには,プログラミングに集中をして原因を取り除く必要がある。 ただ,スマートフォンのような集中を妨げる要素が存在しているため,これは容易ではない。 当初の目的であるプログラミング的思考については,少なからずその形成が促されていると 思われる。  今回の学習意欲調査と思考態度調査は,1度目は実践授業初回終了後に,2度目は8回の 実践授業終了後に実施した。今後,15回の実践授業終了後に再度調査を実施する予定である。 その上で分散分析を行い,学習意欲と思考態度の時系列での変化の検証を行う。また,各調 査項目について因子分析を行う。これにより,プログラミング的思考の形成を促す因子の顕 14 p211-219 髙橋文徳先生.indd 218 2020/03/18 12:02:09

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Scratch を用いたプログラミング教育の評価 219 在化を目指す。  改善すべき点として,まず絶対的被験者数不足の解消が求められる。2017年10月から,本 学九品寺情報処理教室の PC 環境が更新され,プログラミングを授業で扱うことが可能と なった。残念ながら PC 環境には現在も不具合が発生しており,円滑にプログラミング教育 を実施できる環境とは言い難い。それ故,少人数が履修する授業を対象として実践を継続し ている。今後は安定した環境で多人数が履修する授業で実践を試みたい。  今後もプログラミング的思考の形成を促すプログラミング教育の模索を継続し,その成果 を本学の教育改善に活かせればと考えている。

引用文献・参考文献

(1) 文部科学省,「学習指導要領「生きる力」」,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm(2019-11-23) (2) 文部科学省,「小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプロ グラミング教育に関する有識者会議」,http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/ shotou/122/index.htm(2019-11-23) (3)MIT メディアラボ,「Scratch」,https://scratch.mit.edu/(2019-11-23) (4) 土肥紳一・宮川治・今野紀子,「教育心理学の手法を用いたアンケート調査によるプログ ラミング教育の評価について」,情報処理学会第65回全国大会講演論文集,2003,263-264 (5) 平山るみ・楠見孝,「批判的思考態度が結論導出プロセスに及ぼす影響」,教育心理学研究 52,2004,186-198 (6)髙 橋 文 徳・ 師 玉 康 成,「 教 育 支 援 シ ス テ ム の 構 築 と 学 習 効 果 の 分 析 」,CIEC 会 誌

Computer & Education Vol.22,2007,37-40.

参照

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