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民法改正によって
2000
年に施行された成年
後見制度
(
以下、制度と記す
)
とは、判断能力
の不十分な者の財産管理と身上監護(契約行
為)を支援する制度である。超高齢化社会にお
ける社会的関心から、制度発足後に後見人の総
数は増加し続け、選任される後見人は親族から
第三者へ移行し、特に士業による専門職化が進
行している。そのような状況を踏まえ、本書は、
制度を法律分野内だけで議論することに問題意
識を持ち、制度の普及のために法律家が標語と
して活用してきた「成年後見の社会化」⑴
を分析
対象として検討しながら、社会学の立場から6
つのオリジナルな成年後見の社会化概念を提示
していく。そして、著者自身の丹念なフィール
ドワークを通じて、制度の施行以降の
20
年間に
制度がどのように広がり運用されてきたのか、
それは人びとの生活にいかなる影響を与えたの
かという現実を示すことによって、制度の利用
者が住み慣れた地域で最期まで暮らしてゆける
ために、どのような社会化のかたちがあり得る
のか、制度に期待される福祉機能が議論され
る。
本書の概要は後述するが、読了してまず感心
させられたのは、制度の
20
年間の歩みが、個人
と社会の視点から生き生きと、克明に示されて
いることである。制度の利用者を含めて関係す
るアクターへの調査は極めて難しかったものと
想像できるが、著者と調査協力者の間に醸成さ
れた信頼関係があってこそ収集しえた貴重な一
次データが随所に見られ、制度に精通していな
い評者ではあるが、非常に興味深く読み進める
ことができた。また、法学分野の文献や実務家
向け雑誌など、制度に関連するさまざまな資料
にも目配りがなされ、多面的な観点からの分析
によって、制度の広がりや運用のされかたが強
い説得力をもって示されている。一次データと
二次データの行き来によって得られた記述には
厚みがあり、本書全体の結論を強く支えるもの
となっていた。
では、本書の概要を紹介していこう。まず序
章では、本書の問題背景、問題設定、研究の意
義が示される。制度を推進させようとする政策
的な動きと、自己決定権の抑圧という観点から
制度利用の推進に慎重な立場が混在する状況下
において、主体性を失いつつある個人に社会が
どう向き合おうとしているのか、この制度が家
族を超えたケアの担い手の可能性を持ちうるの
かといった問題設定がなされる。
第1章は成年後見制度の概要、成年後見の登
場の背景、スローガンとしての「成年後見の社
会化」が説明され、介護保険制度の創設を目指
す運動のなかで用いられた「介護の社会化」が
「成年後見の社会化」に援用されてスローガン
となり、
2000
年代初頭に登場してきたことを
示す。
第2章は本書における成年後見の社会化の立
場を明らかにするために、日本成年後見法学会
での「成年後見の社会化」および社会学におけ
る「介護の社会化」の議論とその限界を取り上
げ、本書の成年後見の社会化は、サービスの決
定権限レベルの社会化として検討でき、家族の
ケア役割や責任意識をどう社会で分担していく
かという家族社会学の研究課題との接続可能性
を述べる。
第3章から第5章は成年後見における現象を
社会学的に分析考察し、本書独自の概念を提示
していく章である。第3章ではまず、実践家向
けの専門誌の事例から、後見人になり得る家族
【書 評】
税所真也著
成年後見の社会学
(2020年2月、勁草書房、本体5,500円+税、ISBN 978-4-326-60328-2)
大 風 薫
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の不在や、制度利用者本人あるいは家族の意
思・希望など、社会変動が第三者後見人を促進
する一面があることを確認する。その上で、制
度を必要としながらも本人や親族が申立をでき
ない場合の対応として市町村申立制度に着目
し、利用件数が顕著に多い岡山県でのフィール
ド調査を通じて、専門職ネットワークの中間集
団が制度にかかる費用の社会化に重要な役割を
果たすことを発見する。
第4章では最初に、生命保険会社の取引実務
の分析を通じて、企業実務が判断能力の低下し
た本人を市場に包摂し続ける機能をもち、制度
の普及としての社会化に大きな貢献をしている
ことを見出す。また、第三者後見人における専
門職の増加は、後見人の財産管理能力に重きを
おく家庭裁判所の考え方に誘導されたものであ
ることをインタビュー調査によって明らかに
し、それを強制的に達成された社会化として析
出する。さらに専門職が後見人を担うことで利
用者本人の家計が家族から切り離される様から
家計管理の社会化を導くと同時に、そのような
社会化がかえって後見人との調整コストを新た
に家族に背負わせるものになるとする。
第5章ではヒアリング調査や著者と被後見人
との直接的な関り、参与観察データを用いて、
身上監護に着目した分析と考察が行われる。ま
ず著者は身上監護の本質は、本人の居場所の確
保/形成といった居住環境支援にあることを導
く。次に、法律の専門家である後見人と被後見
人を見守る福祉の専門家間で生じた支援観や支
援行動の対立を分析した上で、本人の自己決定
を支援するために、後見人が中心となって支援
関係者が協議できる場を設定するという社会化
のあり方を見出す。そして、第三者後見のなか
でも生協が展開するワーカーズコレクティブの
活動分析を通じて、専門家以外の市民による社
会化のかたちが示される。
終章は新たな概念の提示と結論である。成年
後見の社会化概念として、「制度普及としての
社会化」「申立て費用の社会化」「脱家族化/専門
職化としての社会化」「家計管理の社会化」「協議
の場としての社会化」「市民による脱専門家とし
ての社会化」が、概念間の進展の方向性ととも
に提案される。そして、成年後見の社会化とは、
法律行為にとどまるものではなく全人的関係に
まで視野を広げた身上監護のあり方を考える手
段として、生活支援までをその射程におさめる
ものであり、そこでは市民後見人の活躍が期待
されると結論づける。
本書で析出された社会化概念は、家族社会
学、家族関係学、家政学の理論的な発展に貢献
することは言うまでもなく、制度に関与する専
門職・専門家の実践への方向転換や修正を促す
効果がある。制度に関わる人はもちろんのこ
と、ケアや制度に関心を持つ多くの人びとに読
んでもらいたい良書である。評者が特に興味深
かったのは、後見人の専門職化が家庭裁判所に
よって作られたものであり、そのことによって
家族は金銭的費用と、場合によっては心理的な
負担という二重のコストを負わされる可能性が
あるということである。意図せざる効果とはい
え、ケアの脱家族化にはさまざまな落とし穴が
あることを改めて考えさせてもらった。
今後の課題になるのかもしれないが、著者に
は、本書で示されたワーカーズコレクティブの
取り組みを一般化することが困難ならば、市民
による脱専門家としての社会化はどのようなも
のと考えればよいのかを尋ねてみたい。今後家
族資源がいっそうぜい弱になることが想定され
る中で、市民が地域社会でどのような役割を担
うべきか、あるいは担えるのか、今後の研究を
楽しみに待ちたい。
最後に、評者は本書を通じて、著者の研究者
としての真摯な態度に感銘を受けたことを申し
添えたい。本書の脚注には、著者へ新たな気づ
きをもたらしてくれた方々への感謝が具体的な
日付とともにつづられている。非常に清々しい
気持ちにさせられ、研究者としての姿勢を教え
ていただいた。感謝申し上げたい。
⑴ 本書において鍵カッコ付きの「成年後見の社会化」は法
学者が用いるもの、著者があらたに独自の概念として導く
社会化には鍵カッコを付けず成年後見の社会化と表記され
ている。評者もその表記にしたがう。