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日本スポーツマネジメント学会 第10回大会講演録: シンポジウムⅡ

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シンポジウムの趣旨

近年、大学においてスポーツマネジメントが注目されている。特筆すべきは、スポーツマネジメ ント教育を提供する大学が増えていることであろう。スポーツマネジメントを冠した学部・学科の 設置は 71 大学になり(スポーツ庁、2016)、また、スポーツマネジメントに関連した授業もその他 学部学科で散見される。この急増した背景には、大学の生き残り戦略もあると考えられるが、スポ ーツ産業界でマネジメントを担う人材が圧倒的に不足していることも否定できない。今後のスポー ツ産業界の発展には、スポーツマネジメント教育の内容や質のさらなる向上が重要であると考える。 日本スポーツマネジメント学会は 11 年前にスポーツのビジネス化が急速に進む中、高等教育に おける専門家の養成と学問的知識体系の整備が必要となり、我が国におけるスポーツマネジメント の学術的研究を統括する学会組織として設立された。また、同学会は「学術(Academic)」、「ビジ ネス(Business)」、「学生(Student)」の連携プラットフォームとなりスポーツマネジメント界に貢 献すべく活動している。

スポーツマネジメント教育:

学会からのカリキュラム提案

シンポジウム II

日本スポーツマネジメント学会 第 10 回大会   シンポジスト:

光岡宏明

氏(埼玉西武ライオンズ経営企画部長)

備前嘉文

氏(國學院大學准教授)

辻 洋右

氏(立教大学准教授) コーディネーター:

松岡宏高

氏(早稲田大学教授)

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本シンポジウムでは、日本スポーツマネジメント学会第 10 回大会という節目に再度、本学会が 果たすべき目的の一つであるスポーツマネジメント教育を見つめ直し議論することにある。 松岡:このシンポジウム II は、本学会設立から 10 年が経過したことを機に、10 年前からこれまで のスポーツマネジメント教育がどのように変わってきたのかを確認し、さらにこの先 10 年の課題 を探ることを目的としております。 ところで、第 1 回の学会大会に参加された方はどのくらいいらっしゃいますか? ( 会場でわずか に手が挙がる ) この 10 年でずいぶんと参加されるメンバーが変わってきたのと、新しい学会の関 係者が増えたということですね。学会設立後、第1回学会大会の前に、スポーツマネジメントに関 する教育が日本の大学でどのように行われているのかを確認する調査を行いました。その調査結果 を含めて、スポーツマネジメント教育の現状と課題というシンポジウムを、この会場にもお座りの 小笠原先生をコーディネーターとして開催しました。当時は私がその調査の報告をしました。 第 1 回大会が 2009 年でしたので、2008 年度の調査を行い、全国で 48 大学にスポーツマネジメ ントやスポーツ産業、スポーツ経営という関連した名称の付いた学部、学科、コースなどが存在す ることが分かりました。ただ、その当時、やはり、そのようなプログラムは急増していましたの で、スポーツマネジメントという名称を冠した学科やコースであっても実際にスポーツマネジメン トという科目がなかったり、スポーツマーケティングという科目がなかったりして、本当にこれで スポーツマネジメント教育ができているのかとの疑問を抱いてしまう大学も散見されました。そう いう状況から 10 年が経ち、ますます関連プログラムが増えてきました。大会号の中にもあります が、2016 年には 71 大学で学部、学科が設置されています。この引用はスポーツ庁となっていますが、 マネジメント学会に問い合わせがあって、我々が調べてお答えした回答が 71 でした。今日ご報告 するのはさらに詳しく、もっと数が増えているということですが、それを備前先生に担当して頂い てもう少し科目や教員数についても報告していただければと思います。そうした疑問や課題がある 中で、本日、備前先生からは現状調査の結果を 10 年前と比べた形でご報告を頂きます。 続いて、皆さんにも調査にご協力いただいたかもしれませんが、 先生からはスポーツビジネス 現場とスポーツマネジメント教育を行う大学とのギャップを確認した報告をしていただきます。今 回はプロスポーツ組織に焦点を当て、プロスポーツの関係者が考えるスポーツマネジメントと教育 現場が考えていることのギャップがどのくらいあるのか探っていくことにしました。最後にそのギ ャップは、質問紙調査で行いましたので、もう少し深く知る必要があるため、西武ライオンズから 光岡さんに来ていただき、もう少しスポーツの、特にプロスポーツの現場から見てスポーツマネジ メント教育というのがどのように見えているのかということ、そして、どんな人材や能力が本当に 現場で必要なのかというところをお聞きしていきたいと思います。 備前:皆さんこんにちは。改めまして國學院大學の備前と申します。今回は、日本国内のスポーツ マネジメント教育の現状についてお話させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいた します。先ほど松岡先生からご紹介頂きましたように、第1回大会でスポーツマネジメント教育に 対する調査が行われまして、その報告がありました。第1回の調査では、全国で 48 の大学がスポ ーツマネジメントに関する学科やコースを用意して授業を展開しているという報告がありました。 当時、私はまだ大学院生だったのですが、これから日本のスポーツマネジメント教育はまだまだ伸 びていくと言われていました。それから 10 年が経ち、実際にどのように変わったのかというのが 今回の話の趣旨となります。そして、今回、改めてリサーチのカリキュラムの調査を立ち上げ、10

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年前との比較を行うということで今日は結果をご報告させていただきます。結果の方ですが、こち らのスライドにも数字を出させていただきますが、細かい数字もありますので、入口の方でこちら のシンポジウムⅡという A3 の資料を配らせていただきましたので、そちらと合わせてご覧頂けれ ば分かりやすいと思います。 まず、調査の話に行く前に日本の国内外のスポーツマネジメント教育の動向についてお話させて いただければと思いますが、小笠原(2008)の中で、実践という観点からスポーツマネジメントに ついて検討が行われ、「スポーツビジネスの現場での経験と体験のみの大学教育授業であれば、大 学という研究教育機関で学ぶ必要性が薄らぐとした上で、大学教育という学際的な砦の中では、ス ポーツをいかに学問として捕らえて理論的に学ばせるかが重要である」と述べられていました。ま た、2010 年に発表された Eagleman and McNary(2010)では、アメリカの 127 の大学を対象に、ス ポーツマネジメントに関するプログラムの調査が行われました。その中で、どの学部でスポーツマ ネジメントに関するプログラムが提供されているかという結果が示されたわけなのですが、ここで 1番多かったのが 34.8%でヘルス、フィジカルエデュケーション、レクリエーション。日本で言う、 いわゆる体育、スポーツ系の学部。そして 2 番目が 24.7% でビジネス。そして 16.7%でエデュケ ーション、教育系の学科で提供されているという結果が報告されています。また、昨年出された櫻 井ら(2017)では、日本の大学でのスポーツマネジメントの講義、科目に関する調査が行われまし た。その中で大学の 77.3%が講義と演習のようなゼミを兼ね備えているということが示されていま す。それらの現状も参考に、今回の調査を実施させていただきました。 今回のリサーチプロジェクトなのですが、全国の 14 の大学の先生方、また JASM の理事、そし て大会の実行委員の先生方にご協力いただきまして、調査を終えることができました。こちらの先 生方におかれましては、年末年始の忙しい時期だったにも関わらずご協力いただきありがとうござ いました。改めてお礼申し上げます。そして調査の概要についての説明なのですが、極力、前回の 調査と同じフォーマットで行うようにいたしました。まず、事前に国内のスポーツマネジメント関 連の学科やコースを持つ大学をピックアップしたところ、全国で 88 の大学が把握されました。こ の 88 の大学について先ほど示した、メンバーの方に一人当たり 5 校か 6 校担当していただき、各 大学のホームページやシラバスなどをもとに情報の収集をお願いしました。収集して頂いた具体的 な情報に関しては、学部・学科・コース、大学院の有無、科目、そして、専任教員の有無などにつ いて記載していただきました。今回、88 の大学が把握できたわけなのですが、実際にホームペー ジなどで情報が全く公開されていない大学が2つあり、また 2 つの大学に関しては 2018 年度から スタートするということなのでこの 4 校を除外して、実際は 84 の大学を今回の調査の対象としま した。また、科目については、大学によって例えば、必修といった名称、またはコースのコア科目 といった様々な呼び方がありますので、どこまで含めればよいのかという質問も多く寄せられまし た。このような問題を解消するために前回の調査で出てきた対象となっている科目のリストをご協 力いただいた先生方にお示しさせていただき、対象となる大学に該当する科目があるかということ でお調べいただきました。 そういった方法で調査が行われたわけなのですが、ここからは結果のお話させていただきたいと 思います。まず、スポーツマネジメントのコースや学科が提供されている学部についてです。学部 の分類に関しては、前回の調査では 4 分類でしたので、今回もこの分類に当てはめて集計を行いま した。2008 年と 2017 年の結果を見て頂きますと、どの分類を見ても、数としては、ほぼ倍の数の コースや学科が設置されていたということがわかりました。その中で一番多かったのは、経営、経 済関連の学部、学科であり、先ほどのアメリカの状況では、体育、スポーツ系の学部が一番多かっ

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たことから、日本とアメリカとでは少し様子が違っているということがお分かりいただけるのでは ないかと思います。 次にコースや専攻の名称の違いについても、前回同様 4 つの分類に分けて集計させていただきま した。結果としては、スポーツマネジメントコースが今回も 37 の大学と最も多い数となっていま した。しかしながら、全体の割合としては前回の 61%から少し減った結果となっております。そ のかわり、スポーツビジネスコース、健康スポーツマネジメントコースの 2 つは数も、全体に占め る割合も増えたという結果になります。 続きまして科目に関してです。今朝の原田会長の話の中にもありましたが、スポーツマネジメン トの中でマネジメントの構成要素として 10 の分野が挙げられています。この 10 分野に当てはまる 科目をスポーツマネジメント関連科目として、当てはまらない科目をスポーツ関連科目ということ で分類させていただきました。では、まずスポーツマネジメント関連科目の調査結果をお知らせい たします。多い方から順に述べさせていただきますと、今回も 1 番多かったのは、やはりスポーツ マネジメントに関する科目で、この中にはスポーツマネジメント論やスポーツマネジメント概論と いった授業が含まれています。次に多かったのがスポーツマーケティング、スポーツ産業論、スポ ーツ行政・政策といった順番に授業が続いています。ちなみに、スポーツ産業論とスポーツビジネ ス論は内容的には似たような授業ということで、一度こちらで集計するにあたってどちらか一方が ある大学を調べてみたところ、全部で 60 の大学があり、全体の 71%ということになりました。また、 増えている科目がある一方で、例えば、スポーツマーケティング論というのは前回 61%だったの ですが、今回は 51.2% ということで全体に占める割合はわずかに減っているということになります。 先程、インターンシップをおこなって、理論と実践といった話があったと思いますが、実際にイン ターンシップをコースの専攻や科目にしている大学は今回 24 大学で、およそ 3 割の大学が科目と して設定していることが明らかになりました。また、スポーツ経済学の授業に関しましては、経営 や経済の学部で多くスポーツマネジメントに関する専攻が行われているとお話させていただきまし たが、実際に科目としてはスポーツ経済学というのはまだまだ 9 の大学でしか開講されていないと いうことになります。 スライド1 学部数に関するスライド

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続きまして、スポーツ関連科目についてです。こちらで多かったのは、前回の調査同様、スポー ツ社会学とスポーツ心理学が 1 番、2 番にきております。他にも、スポーツ原理・哲学またはスポ ーツ史といった科目が上位にきており、おそらくこれらは体育スポーツ系の学部を中心に保健体育 の教員免許を取るための必修科目となっているところが多いと思われます。そのような事情から、 スポーツ関連科目の中でも多くを占めているということが予測されます。 最後にスポーツマネジメント関連の専任教員の数についてです。いろいろな分野の先生方が関わ ってコースが運営されていたわけなのですが、先ほどのスポーツマネジメントに関する 10 の科目 をご自身の専門としている先生を関連の専任教員としてピックアップさせていただきました。その 結果、0 から 2 名を占める大学が全体の 7 割から 8 割を占めるということで、ほとんどのコースや 専攻ではこういった専任の先生が少数で実際の運営が行われていることになります。では、0 名の ところはどのようにしてコースを運営しているかと申しますと、スポーツ社会学やスポーツ心理学 を専門とされる方を中心にコースが運営されていて、例えば、スポーツマネジメントやマーケティ ングといったスポーツマネジメント関連の科目は他の大学から非常勤の先生が来て授業を行ってい ると思われます。 最後に、まとめということで、学部に関しては 10 年前と今回ではあまり変化が見られなかった ということになります。そして、コースや名称に関しては、直接的なスポーツマネジメントといっ たコースは減っている一方で、その代わりとしてスポーツビジネスや健康スポーツマネジメントと いった科目が増えていました。先ほどのシンポジウムでスポーツマネジメントの概念というお話が ありましたが、すこしは広がりが見られると言えるのではないでしょうか。そして、授業に関しては、 スポーツビジネスやスポーツ産業といった授業を提供している大学が全体の 71.6% ということで、 多くの大学でビジネス寄りの授業が展開されているということがわかると思います。他には資格の 問題で、教員免許の他に日本体育協会(現 日本スポーツ協会)が出している指導者またはアシス タントマネージャーに関する資格に関係する社会学や心理学といった授業が多く提供されていると いう傾向があります。そして、75% の大学でスポーツマネジメント関連の教員の数が 2 名以下で あり、非常勤に頼らざるを得ないという現状が挙げられるかと思います。以上で、私の調査結果の 報告を終わらせていただきます。 スライド2 スポーツマネジメント関連科目

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松岡:ありがとうございました。今ご報告がありましたように 10 年前と割合はそれほど変わって いませんが、数は、存在を明確に確認できたのが 84 大学ですから 2 倍近くに増えているのですが、 実際中身を見るとそれほど変化はないということが分かりました。やはり 10 年前と変わらず教員 免許を取得するためや学生募集を目的としているところもあると思いますが、すこし無理をしてい るプログラムも多いのか 75% の大学では 2 名以下の教員でなんとかやり繰りをしているという現 状が明らかになったと思います。 続きまして、 先生のご報告に移りたいと思います。よろしくお願いいたします。 辻:皆さんこんにちは。立教大学の と申します。私の方からは、スポーツマネジメントカリキュ ラム提案という題名で始めさせていただきます。まず流れですが、カリキュラム提案に向けて、大 学教員の方々とスポーツチームの方々のカリキュラム内の授業の重要性を調査しました。この調査 で使用した科目は COSMA という国際認証団体の推奨する科目を使用しましたのでこちらの説明 をしてから、調査結果、最後にカリキュラム提案といった流れで説明していきたいと思います。 まず、大学とスポーツチームの調査ですが、スポーツマネジメント系プログラムを有する大学に スポーツマネジメント系科目の重要度を質問紙で回答していただきました。回答数は、こちらに 記した通り 48 大学で、回答率は 55% となりました。スポーツチームの方は、プロ野球、J リーグ、 Bリーグに所属している 100 を超えるチームにアンケート調査しましたが、回答数はちょっと芳し くなく 22 チームでした。18.6% という回答率でしたので調査結果に関しては留意していただけれ ばと思います。 このスポーツマネジメントカリキュラム作成にあたって、まず、いろいろな先行研究レビューを 行いました。スポーツマネジメント以外の分野で、例えば都市計画や国際ビジネスにおいても、カ リキュラムで教えている内容と実際に使われているスキルが一致していない報告がありました。ス ポーツマネジメントにおいては、1982 年頃からその教育の質や提供している科目が実際に役に立 っているのかということが調査されています。DeSensi ら(1990)の調査では 6 つのスポーツ業界 に対して調査を行っていますが、その結果として「フィールド経験が一番重要である」という結果 を報告しています。また、一つのカリキュラムでスポーツマネジメントをあらゆる職種に対応する のは難しいということも報告しております。さらにこの研究で特筆する点として、コミュニケーシ ョン科目・コミュニケーション能力が 5 つのスポーツ業界でトップ 5 に入り、その重要性を説いて います。続きまして、Stier と Schneider(2000)のカリキュラム調査ですが、今回の調査と似てい て実務家と教員にカリキュラムの重要度というものを調べております。その結果を 3 点紹介させて いただきます。まず、調査で使用した 11 科目中 10 科目で実務家よりも教員の方がカリキュラムに 含めるべきだと答えております。次に、教員、実務家ともに含めるべきと評価した科目は、「フィ ールド経験」となっています。しかしながら教員と実務家で意見の食い違いがあったのが「スポー ツの社会、文化的側面」や「スポーツ経済学」という科目で、教員は含めるべきとしたのに対して 実務家は必要ないとしています。最近の研究では、Petersen と Pierce(2009)が 3 つの米プロリー グに対してカリキュラムの重要度調査をしています。この調査では先行研究と同様に、「フィール ド経験」が 1 位、「コミュニケーション」が 2 位というような結果になっています。日本では田島 らのスポーツ産業学研究で発刊された論文が、J リーグの人事担当者を相手に同様の調査をしてい ます。結果は「一般的なビジネススキル」、「スポーツ特有の人を楽しませるコミュニケーション力」、 「試合運営マネジメント」、「スポンサー企業に共感を生むコミュニケーション力」、「臨機応変なマ

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ネジメント力」が重要だという報告をしています。このような形で教員・スポーツチームにアンケ ートを取りながらカリキュラム策定を行っていることは多いと思うのですが、カリキュラム策定に あたって実務家の意見に頼りすぎるのはある種の危険性を含むことを Cuneen と Parks(2001)は指 摘しています。 これらの先行研究を踏まえたうえでスポーツマネジメントカリキュラムを策定するということで すが、研究シンポジウムにもありましたように、まずはこのスポーツマネジメントの概念を定義す る必要性があります。研究シンポジウムでは、スポーツマネジメントとは、Chelladurai(1994) の定 義を元に、「スポーツ事業の生産、提供、調整である」としました。また、松岡先生の 2010 年の 論文では、「するスポーツとみるスポーツの生産と提供にかかわるビジネスのマネジメント」とし ています。定義は、時代の経過と共に見直しが重要になります。そこで本研究では、松岡先生の 2010年の論文の定義に従って進めました。 次に使用した調査項目ですが、COSMA と呼ばれるスポーツマネジメント国際認証団体が推奨す る科目を使用しました。この COSMA という団体は、アメリカ発祥でスポーツマネジメント教育 がしっかりと行われているか、学位に価値があり質の高い教育が行われているか、と認証を与える 団体です。COSMA は 2018 年で 8 年目を向かえますが、CHEA という団体から認証を得ています。 この認証は非常に重要で、COSMA が教育機関に与える認証はお金で買えるような認証ではないこ とを示しています。しかしながら、米国において 500 弱あるスポーツマネジメントプログラムの中 で、まだ 53 大学しか COSMA から認証を得ていないという現状もあります。 COSMAの基準に従いますと、スポーツマネジメント系科目が 20% 以上プログラム内にありま すとスポーツマネジメントプログラムという設定になります。日本の大学の場合では大体 26 単位 になります。 今回の調査結果ですが、スライドに大学とスポーツチームの平均をお示しました。青が大学でオ レンジがスポーツチームとなっております。下部にそれぞれの平均と順位を示していますが、ご覧 の通り大学とスポーツチームでギャップが存在します(スライド3)。 スライド3 COSMA 科目の重要性 科目の重要性では、大学の教員の方がスポーツチームより重要であると考える科目が、一つ(ス

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ポーツ・コミュニケーション)を除いて全てであることが分かります。また、「スポーツの基礎」・ 「インターンシップ」・「キャップストーン」の 3 つの科目において大学教員とスポーツチームの平 均値の差は大きくなっています。「スポーツの基礎」は、スポーツの社会学などの授業で、「キャッ プストーン」科目は卒業論文、卒業プロジェクトです。「スポーツの基礎」は、先ほど備前先生か ら説明がありました通り、資格取得に向けて非常に重要な科目です。また、研究シンポジウムでも ありました様に、スポーツの文化の重要性を考えると大学においてその値が高いことが理解できま す。「インターンシップ」がスポーツチームにとって重要性が低い理由を考えると、最近多い 1Day インターンシップや 1 週間のインターンシップの効果に疑問があるのかもしれません。もう一つ、 特筆すべき点としては、スポーツチームによる「キャップストーン」科目の評価(2.95)が低いと いう結果です。最後に、大学教員の「スポーツコミュニケーション」科目が重要という認識はある もののトップ5に入れず、逆にスポーツチームの方からは 1 位の評価を得ているという点です。 次に COSMA 科目の重要度ですが、これらを次の通りにランキング付けました。1 位には5点、 2位には4点、以下3、2、1点という順序で点数を振りランク付けしました。教員の結果は「マ スライド4 大学とスポーツチームの比較

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ネジメントの概念」が 1 位で、続いて「スポーツ・マーケティング」、「スポーツの基礎」、「オペレ ーション」、「ファイナンス」、「インターンシップ」という順位となりました。対するスポーツチー ムの方は、1 位が「マーケティング」、2 位が「コミュニケーション」、同点で 3 位が「施設管理」 と「マネジメントの概念」、5 位に「ファイナンス・経済」、6 位に「多様性」といった順位になり ました。こちらの点数と順位を比較したのが次のスライドになります(スライド4)。これらを見 ていただくと大学が考える科目の重要性とスポーツチームが考える重要性の差が見てわかるかと思 います。 今回の調査は、自由記述という形でもスポーツチームの方に色々と質問させていただいておりま す。「これから学部の新卒業生を雇うと仮定した際に、学生に身につけておいて欲しい知識・スキ ルは、どのようなものですか?」という問いに、知識は「スポーツマーケティング」などが挙げら れ、スキルとして一番多かったのは、「コミュニケーション能力」という結果になりました。それ 以外には、「やる気・主体性・課題解決能力」、「顧客目線での考える力・思考力」、「スポーツビジ ネス領域の展望」などが続いております。また、スポーツチームの方々には COSMA 推奨科目で あるが不要だと思う科目とその理由についても質問しております。「特に無い」という回答が多い 中で、「インターンシップは必要ない」という回答や「キャップストーン科目 ( 卒論 ) が必要ない」 といった回答もいただきました。その理由としては、「実務経験があることで新しいことをする時 の妨げになる」、「卒論を書いたときにその時間に見合った成果が得られるのかというのが疑問であ る」というような回答がありました。また、厳しい言葉ではございますけれども、「一般企業と同 様に、営業スキル、コミュニケーション能力、マーケティングスキルを身に着けることが大事で、 それ以外は身につけなくても実務には問題がない」というお答えがありました。次に「COSMA 推 奨科目として記載されていないが、必要だと思う科目、内容、スキルとその理由」を質問させてい ただきました。ここでの回答は、「ビジネスマナー」や「コミュニケーション能力」、「語学」とい うようなものが寄せられました。 大学教員にも「COSMA 推奨科目として記載されていないが必要だと思う科目」を自由記述形式 で質問しております。回答には「スポーツコミュニケーション」が 1 番多くありました。この中に は「ビジネスライティング」や「ネゴシエーション」も含めさせていただきました。その次に「政 策・行政」、「キャリア教育」、「産業論」、「社会学」、「文化論」などが挙げられました。最後に、大 学の教員に「現在必要だと考えているが、提供できない科目」を自由記述形式で聞いています。回 答には「スポーツファイナンス」、「インターンシップ」、「スポーツ法」、「スポーツマーケティング」、 「スポーツ史」、「ガバナンス」、「行政」、「多様性」など様々いただきました。 これらの結果を踏まえて、標準カリキュラムを提案させていただきます(スライド5)。今回の 提案は、プロスポーツという数あるスポーツ業界の1つのみのアンケート調査をもとにしているこ とに加え、回答数が少なかったので参考程度に考慮して頂けると幸いです。また、今後継続して学 会等で議論していただき、今回の提案は標準カリキュラムを作るたたき台として考えていただけれ ばと思います。まず、備前先生の発表であった通り、様々な大学の諸事情があると思いますので、 そこを考慮してカリキュラム提案をしなければならないと思います。一つめとして、資格を習得で きるプログラムが増加傾向にあることと専門教員数が少ないことを考えると 2 つの標準カリキュラ ムが同時に存在してもよいのではないかと思いました。まず、スポーツマネジメント系教員が 3 名 以上いる、おおよそ 20% の大学には、スライドの左側の科目を提案します。また、スポーツマネ ジメント系教員が 2 名以下のプログラムにはスライドの右側の列の科目を提案します。COSMA で は、推奨する 14 科目を全て提供する必要はなく、様々な科目にその内容を統合して教えることで

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足りますので、例えば、「マネジメント概念」の授業中に「多様性」の内容を入れることや「スポ ーツマーケティング」のクラスに「スポーツと技術革新」を含めることができると思います。 私の調査結果のまとめといたしましては、大学教員の方が COSMA 科目を高く評価しているこ とと教員とスポーツチームが重要と考える COSMA 科目は違うということです。特に、「スポーツ の基礎科目」、「キャップストーン科目」、「フィールド体験」で大きな差が見つかりました。さらに、 先行研究同様にコミュニケーション能力がスポーツ産業では求められています。 今回は、COSMA 推奨科目とその重要度の調査結果を踏まえた標準カリキュラム案を 2 つご提示 しましたが、これらは、あくまでもたたき台ですので、そこをご了承いただければと思います。以 上で、私の発表とさせていただきます。ありがとうございました。 松岡: 先生、ありがとうございました。非常に興味深いギャップがありました。私たちがある程 度想定ができるものですが、数字で示されるとよくわかりました。大学教員の方が全体的にかなり 高いというのは、私たちがやっていることを正当化したいという気持ちの表れかと思いますが、そ の中でも差が大きいところと、逆転しているところは最も重要であるということかと思います。 今、 先生からもお話がございましたが、本日のシンポジウムのサブタイトルに学会からの提案 という文言がございますが、今回は調査のサンプル数についても対象についても十分ではありませ んので、ここで具体案を学会として明確にはご提示いたしません。この 10 周年がカリキュラムに ついての提案が学会からできるようなきっかけになればというのが狙いであります。たたき台だけ が 1 人歩きしないようにということをご理解いただければと思います。 それでは、3 人目の西武ライオンズの光岡さんにお話をいただきたいと思います。ビジネス界か ら見たスポーツマネジメント教育の有用性につきまして、よろしくお願いいたします。 光岡:私、西武ライオンズの光岡と申します。よろしくお願いします。少し後のことにも関わって きますので、自己紹介をさせていただきます。私は大学卒業後にアパレル企業で勤務をしておりま した。今スポーツビジネスをやっておりますが、今までは全く関係のないところで仕事をしており ました。その中で仕事が一段落してきたので、少し時間を有効に使いたいということで働きながら スライド5 標準カリキュラムの提案

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大学院に通い始めました。それが多摩大学の大学院になります。その際に、仕事でメインにやって いた経理や財務といったファイナンス分野ではなくて、あえて自分が今やってない分野、企業のマ ネジメントとかそういう分野を学んでみたいなと思って大学院に通っておりました。その過程で、 広瀬一郎氏が東京大学でスポーツマネジメントスクールを行っていたのを多摩大学に移ってきまし て、勉強する中でこういう分野もあるのだなというのを知り、大学院を修了いたしました。修了後 に今後どうやって行こうかなと考えているときに、埼玉西武ライオンズで 2008 年から事業改革が 始まっており、数字がわかる人を探しているということがありまして、ご縁があってライオンズに 入社することになりました。現在は予算の策定だったり、今回お話させていただく採用だったり、 あるいは、前年の 11 月に発表させていただいたメットライフドームエリアの改修計画などに携わ っております。今日は、ビジネスサイドからお話させていただきたいと思っております。 よく、スポーツ企業って中小企業ですという話になりますが、会社の規模からするとまさにその 通りです。プロ野球球団の平均的な売上規模は 100 億円くらいですし、従業員の人数も 100 人くら いなので世間一般の会社の規模からすると間違いなく中小企業だと思います。特徴は中小企業とい うところではなくて「中小企業の中にさらに中小企業がある」のが野球に限らずスポーツビジネス の特徴ではないかと思っております。先ほどの 先生のお話ですとか、研究の中でコミュニケーシ ョンがというお話がよく出たと思いますが、この特徴が大きく関わってくるのが「中小企業の中に 中小企業がある」ということではないかと自分で考えております。例えば、普通の一般的な中小企 業ですとだいたい事業のドメインが1つあってその 1 つに取り組んでいると思いますが、野球とか プロ野球チームは会社の中に事業ドメインが細分化されており、チケット販売だとか飲食販売とか グッズ販売とかメディア PR ですとかいろいろな細かいセクションに分かれています(スライド 6)。 このようにセクションが細分化されると、まずは自分の部署で自分の業務をやり、その後、他部署 と関わりが出てきます。例えば、グッズ販売では、選手のグッズを作ろうと思ったときに、企画し ていくのはまず自分の部署で行いますが、選手の要望を取り入れていくためには選手と話をします し、実際にモノが出来て販売していくときには、PR するという観点では、広報部門だとかいろい ろ関わってきたりします。飲食もしかりで、いろいろな選手プロデュースのグルメを作るとなって も同じことだったりしますので、自部署で完結することはないので非常に他の部署と関わりが出て スライド6 スポーツビジネスの特徴

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くるというところが 1 つ大きな特徴かなと思っております。 もう一つの特徴ですが、ちょっと今日私がお話する中で、入社した 2008 年から現在まで、ちょ うど 10 年くらい経っておりますが、振り返ったときに、企業としていろいろな経験をしてきまし たが、1 つスポーツ企業の成長段階によって求められる人材って違うのではないかということをお 話します(スライド 7)。西武ライオンズではちょうど 2008 年に事業改革がスタートしましたが、 実際に何をやったかというと、それまでは西武ライオンズという会社はチームの運営に特化してお り、実際のドーム興行だとか球場運営はまた別の子会社がやっていたり、あるいはセールスだった ら西武鉄道がやっており、グループの中にいろいろな機能が分散しておりました。2008 年にグル ープの中でライオンズに野球事業を集約していったというのが始まりになります。なので、このグ ラフでいくと創業期にあたると思っていまして、右に時間軸を取って、縦軸に売上高を取りますと、 創業期が 2008 年だったと。現在は成熟しているかどうかはわからないのですけれども、その時か ら比べると、売上も当時は 50 億とか 60 億規模でしたが、現在では約 2 倍になり、従業員数も 50 人くらいでスタートしたのですが、今では 100 人くらいになったり、結構変わってきております。 その中で、求められる人材が少し違ってきたなというのもつくづく感じております。これが、大 学のプログラムといったところに少し関わってくると思うのですけれども、大学のプログラムでは 他チームはこういうことをやったりマーケティングのやり方はこうだよとか、いろいろなことを教 えていると思いますが、2008 年に始まった頃は、そういう事例をサービスに乗せてやっていったら、 非常にやりやすかったですし、それまでファンの人たちもそんなサービスを受けたことがなかった ので非常に好意的にとらえて頂いていました。当時は今と比べるとファンの期待値も低かったです し、業務のレベルが低くても、お客様が満足してくれていました。さらに、人数が少ないので、先 ほどいった事業ドメインを 1 人の人が複数をやったり、1 人の業務の幅が大きかったということが 挙げられます。現在は、その状況とは大きく変わってきていましてファンの期待値が高くなってい るということを常々感じております。2008 年当時にやったことを、1 年、2 年、あるいは 3 年ぐら い続けているとファンの中には、当初は満足していたのですけれども、それが今度はデフォルトに なってしまって、同じことを続けていると飽きられてしまい、ファンの満足度が低下し不満足度が 高まってしまうので、常に新しいことをやっていかなければいけないという状況になってきます。 スライド7 企業のライフサイクルと特徴

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その時に、他チームの事例とかを取り込める状況にあるかというと、かなり少なくなってきており ます。実際にやったこともありますが、他チームの事例を検討した結果、成果が出にくいことがわ かり実施しないことがあり、実際にここまでくると結構地道に考えていかざるをえないなあという ところでした。そういう時期には、先ほどの創業期にあったいろいろな事業を知っているという人 材よりは、自分で考えていける人材が必要になってきていると感じております。その中で、業務の レベルもサービスのレベルもかなり上げていかなければならないので、2008 年当初とは状況が大 きく変わってきていると思います。これが、特徴的だと思いまして、お話させていただいております。 今日は、スポーツ学部と他のそうではない学部との違いということで少しお話させていただくと、 ライオンズは現在、新卒採用をやっていないのですけれども、中途採用で、大学生の当時にスポー ツマネジメントを勉強した人も何人かいます。そういう人は、共通の言語としていろいろ知識がイ ンプットされているので、入社当初業務になれるまでは比較的スムーズにいきますが、先ほどもお 話させていただいたように、業務のレベルは上がってきているので、そのまま知っていることの優 位性はないかなあと感じております。なので、現在はスポーツ系の受講者というものはプラスαに はなるものの、それよりは社会人として基礎力だとかコミュニケーション能力が高い人を採用して いるというのが実情でございます。 新卒は採用していないのですけれども、もし、仮に面接する場合はどうかと考えたところ、そう はいっても、他の学部の生徒よりは優位になるのは間違いないなとは思っております。例えば、他 の学部の生徒さんを面接するときに、「では、なぜやりたいのですか?」という当たり前の質疑応 答の中で、全然調べていなかったり理解していないとなると、その人を採用しようとはなりにくい かと思っております。さらに、採用段階でスポーツ系の学部の卒業生を採るか採らないかは、先ほ どのグラフの創業期の比較的小さな企業ですと割とスムーズに入り込めるのかなあと思っておりま す。一方で、ある程度組織化されてきた段階になると、知識というよりは社会人としての知識だと か、検証能力だとかスキルだとかが有利になったりするのかなと思っております。 最後に、大学にスポーツ産業界から求められるものということでお話させていただきますと、先 ほど申し上げましたようにコミュニケーション能力が必須かなと思っております。もう一つ、お伝 えしたいのが学び続ける力というのが大事かなと思っております。それは何故かと申しますと、成 長期にあたっている企業では、いろいろなことを自分で考えていかなければならないのですけれど も、これは過去に得た知識などがすぐに役立つということは非常に少なく、やはりこれから何をや っていくべきかということを、今、働きながら、勉強したり、単にスポーツの産業だけでなく他の 産業なども理解して取り込めることがあるのか、ないのかを理解してそういったことをやっていく ので、学び続けられる能力というのが大事になってくるのではないかと思っております。去年やっ たことも、サービスレベルを上げるにはさらに進化させなければならないので、そういった努力で すね。ただ、この学び続ける力というのは、実際に学べば身につくのか、あるいは大学の教育の中 でどのようにやれば教えられるのかも含めて、その辺がまだ自分の中では分からないところなので すけれども、学び続ける力というのも 1 つ大事なのではないかなと思っております。私からは以上 になります。 松岡:光岡さん、ありがとうございました。ライフサイクルを使って、ご説明いただきました。教 育をして送り出す側としては、そういうところまでは十分に考えられていないと思います。組織の 状況、企業のライフステージなどを考慮することの必要性については、なるほどと考えさせられま した。

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ここまで 3 名の方にお話いただきましたが、備前先生と 先生のご報告から、2 人の調査結果を 合わせた資料を作りました(スライド 8)。こちらの表ですが、アメリカを中心に国際的教育の認 証機関である COSMA が挙げている必要科目の中で、チーム関係者と大学関係者が比較的高く、こ れは重要だと評価しているスポーツマネジメント及びスポーツマーケティングについて表していま す。スポーツマネジメントはチーム関係者で3番目に重要となっていますが、大学関係者にとって は 1 番重要となっています。また、スポーツマーケティングに関しては、チーム関係者は1番目に 挙げていて大学関係者は2番に挙げています。今回、備前先生が調査して下さった 84 大学におい ては、スポーツマネジメントは 55 大学、スポーツマーケティングは 43 大学でしか提供ができてい ないという現状が明らかになりました。このあたりが教育現場の問題で、重要だとわかっていても 提供できていないということが、お 2 人の調査を重ね合わせると見えてきました。 続いて光岡さんのお話しの内容を引用すると、組織の規模やステージによって求められる能力が 違うということも私たちは認識しなければなりません。それから、スポーツマネジメントを学んだ 学生はウエルカムですよということは簡単には光岡さんからは言っていただけなかったのですが、 それはプラスにはなるということでした。ただ、基本的な社会人の基礎能力やコミュニケーション 能力がやはり重要であるというお話でした。そこで、光岡さんにお聞きしたいのですが、このよう な社会人としての基礎能力とコミュニケーション能力というのは、大学の教室の中で、特にレクチ ャータイプの授業に中では身に付き難いと思います。そんな中、インターンシップは効果的ではな いかと考えます。しかし、 先生のご報告によると、インターンシップは現場の人たちのほうが要 らないという評価で、われわれ教員の方がインターンシップをさせたいという思いがあります。一 方で、最初に 先生がご紹介下さった研究ではアメリカのプロスポーツの関係者はフィールドエク スペリエンスを最も重要だと評価しています。このあたりは何が違うのか、あるいはこの結果を光 岡さんはどのようにご覧になっているのかお聞きしたいのですが。 光岡:はい。今、ライオンズでも実際にインターンシップの受け入れは行っております。ただです ね、実際は期間がすごく短くて、1 週間であったり 10 日であったりしますので、その短期間で何 かを伝えたり、あとはそこで本当に採用につながるかとかそういう話になってくると、非常に難し スライド8 スポーツマネジメント教育:理想と現実のギャップ

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いのではないかと思っております。実際にインターンシップでいい人材に出会えるか、あるいはい い人材を採用するかといったらやっぱり1か月程度は一緒にお仕事をしていただいて、お互いがお 互いを見極めていくというのが大事なのかなと思うのですけれども、現状はそこまで至っておらず、 大学からの受け入れといっても、少し言葉は悪いのですがアルバイトさんの代わりの作業をやって いただく、そういうことにとどまってしまっていると思います。 松岡:それは、我々教育現場の方でも感じておりまして、1 週間や 10 日間でどの程度の作業がこ の学生はできるのかというところを考えます。一方で、授業とは別に長期休暇を利用して大学院生 を 1、2 か月程度送り込むと、うまく就職に結びつくケースもあります。 先生はアメリカの大学 でも教員経験をお持ちですが、アメリカでのインターンシップは随分と違いますか。 辻:はい、そうですね。私は 2 年ほどワシントン州立大学で教 を取っていたのですが、その時の プログラムは最後に必修としてインターンシップが組み込まれていました。多くの大学のプログラ ムで必修としてインターンシップがありますが、単位数が 12 単位と多く、学生は 4 年次の後期に 3か月から 6 か月程度自分でスポーツチームやスポーツクラブにコンタクトを取りインターンシッ プ先を見つけています。そこで実務の勉強・経験をして、スーパーバイザーに評価を得て最終的に 成績がつき、卒業するという形でした。そういう点で日本のインターンシップとは少し違うと感じ ております。 松岡:もう 1 点光岡さんにお聞きしたいのが、企業が大きくなっていく中で、専門性が個人に求め られているのかなということを私は理解しました。ただ、専門性が高くなると部署が増えるので、 コミュニケーションが求められるようになるとも思います。専門性の高さとコミュニケーション能 力の高さはなかなか一致しない、つまり、専門性が高いとコミュニケーションが苦手だったりする ケースが多いのかなと思います。採用する立場、現場で教育する立場として、この点についていか がでしょうか。 光岡:はい。専門性という言葉には結構幅があると思っておりまして、本当の専門性が必要なもの というのは、外の力を持っている企業さんとアライアンスを組んだりしてやっているというのが実 情です。一方で、そこまで専門性が高くなくても先ほど言った社会人としてのレベルの高い人だと、 ある程度自分で調べてできてしまうので、そういう意味でコミュニケーション能力がある方が良い かなというのはありますね。 松岡:コミュニケーション能力の伸ばし方、あるいは大学側がどのようにしてコミュニケーション 能力が高い学生を送るのか、というようなことに関しては何かご意見はございますか。 光岡:はい。そこはちょっと難しいかなと思っておりまして、今、直接新卒の方を採用していない のが実情なので、そこに関してはちょっと分からないと思っています。ただ、中途採用の例でみて も、やはりそのコミュニケーション能力というのが間違いなく 1 つの判断材料になっています。な ので、今の中では弊社で採用した後に、コミュニケーション能力が高まったというよりは、コミュ ニケーション能力が高い人を採用しているというのが実情です。

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松岡:お二人から光岡さんにお聞きしたいことはありますか。 備前:私もインターンシップに関して質問させていただきたいのですが、学生をインターンシップ に送り出す時期についてはだいたい何年生ぐらいの学生が適切なのでしょうか。大学のカリキュラ ムを見ていると、だいたい1年生というのは英語や必修の科目が多く、マネジメントの授業も多く の大学では 2 年生ぐらいから提供されて、3 年生から専門の各ゼミが始まります。現場と理論の交 換ということで言えば、早い段階でインターンシップに行くことにより現場を知ることができるの ではないかと思いました。実際に現場で受け入れるお立場として、コミュニケーションの話もあっ たと思うのですけれども、これまでのご経験からお話いただければと思います。 光岡:難しい質問かなと思っております。実際に、あまりにもスポーツ関連の内容を理解していな い方が来てしまうと大変ということもございますので、1 年生の段階でやるというのはまず無いか なと思っております。2 年で専門科目を学び始める段階だとか、あるいは 3 年のゼミが始まるとき ぐらいの方に来てもらうのが良いのかと思います。 備前:ありがとうございました。 【質疑応答省略】 松岡:そろそろ時間となります。本日は、活発なご議論をありがとうございました。会場からもご 質問がありましたように、「スポーツマネジメント教育のカリキュラムのスタンダート」を示すこ とは学会の1つの役割だと考えております。それをこの 10 周年のシンポジウムでできれば美しか ったのですが、このシンポジウムをきっかけに委員会などを発足させて検討を開始し、学会として の役割を果たせれば良いのではないかと存じます。 また、これも会場からのご提案にございましたが、大学院教育についての検討も必要です。スポ ーツ現場に行くための 1 つの手段として大学院にきて修士を取るケースがあります。私のところに も一般企業に就職して何年かしてから大学院に勉強にきて、スポーツマネジメントの現場に就職す るという者もおります。大学院教育を充実させ、このようなケースを増やしていく必要があります。 それから、同じ大学院でも教育・研究者を養成する博士課程での教育という点では、80 以上とい うように学部プログラムが増えている中で、ますます教育人材が求められています。私たちもしっ かりとした教育をして次の教育現場人材を送り出すということが次の課題だと思っております。 さらには、次々と社会人対象の教育プログラムが増えております。最初に光岡さんからもお話が ありましたが、東京大学から始まったスポーツマネジメントスクールがあります。現在は形が変わ って SBA となっています。それから J リーグもやっております。早稲田大学も社会人向けのプロ グラムをスタートしていますので、このあたりにも学会として提案ができるのではないでしょうか。 それから、国際的な動きもこの学会の一つの役割かと思います。例えば、FIFA マスターのよう なスポーツ組織が関わっているもの、あるいは非英語圏の大学でスタートしている英語のプログラ ムなどがあります。ケルン体育大学やボルドー大学も 2 年前にスポーツマネジメント系で修士プロ グラムを開始しました。国内では筑波大学が実施しており、早稲田大学が今年から開始しますが、 やはり、難しいのは指導できる教員が少ないことです。そのため、非英語圏同士での協力体制が必 要です。アジアスポーツマネジメント学会理事の小笠原先生(本学会理事)を中心にして、国際的

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な教育にも視点を向けていく必要が出てくるかと思います。これらが次の課題として挙げられます。 今日は、学会からのカリキュラム提案という大きなタイトルを掲げてこのシンポジウムの機会を 設けましたが、最初からお話しておりますように今日をきっかけにこのような議論を進め、教育・ 研究の立場からだけでなく、本日もスポーツ現場の光岡さんに来ていただきましたように、いろい ろな方々のご意見を頂きながら本当に役に立つスポーツマネジメント教育というものを作っていけ ればと思っております。これを持ちましてシンポジウムⅡを締めさせていただきます。ありがとう ございました。 【Reference】

Cuneen, J. & Praks, J. (2001). Competing interpretations of Stier’s and Schneider’s (2000) undergraduate sport management curricular sandards study. International Journal of Sport Management, 2, 19-30.

DeSensi, J. T., Kelley, D. R., Blanton, M. D., & Beitel, P. A. (1990). Sport management curricular evaluation and needs assessment: A multifaceted approach. Journal of Sport Management, 4, 1, 31-58.

Eagleman, A.N. & McNary, E.L. (2010) What are we teaching our students? A descriptive examination of the current status of undergraduate sport management curricula in the united states. Sport Management Education Journal, 4(1): 1-17.

小笠原悦子(2007)日本の大学におけるスポーツマネジメントのカリキュラムの今後のあり方 . びわこ成蹊 スポーツ大学研究紀要,5:85-92.

Petersen, J. & Pierce, D. (2009). Professional sport league assessment of sport management curriculum. Sport

Management Education Journal, 3(1), 110-121.

櫻井貴志・田島良輝・西村貴之・神野賢治・佐々木達也・岡野紘二(2017)日本におけるスポーツマネジ メント教育に関するカリキュラム分析.スポーツ産業学研究,27:333-340.

Stier, W. F., & Schneider, R. C. (2000). Sport management curricular standards 2000 study – Undergraduate level.

参照

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