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小学4年生を対象とした睡眠の「みえる化」実践の効果検証

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1) 屋久島おおぞら高等学校/Yakushima Ohzora High School 2) 日本体育大学/Nippon Sport Science University

3)帝京平成大学/Teikyo Heisei University

4)日本体育大学体育研究所/Research Institute for Sport Science, Nippon Sport Science University

実践研究

小学4年生を対象とした睡眠の「みえる化」実践の効果検証

Effects of visualization practice concerning sleep of fourth-grade elementary

school children

渡 辺   晃

1)

田 中   良

2)

田 邊 弘 祐

3)4)

Akira Watanabe

Ryo Tanaka

Kosuke Tanabe

鹿 野 晶 子

2)

野 井 真 吾

2)

Akiko Shikano

Shingo Noi

Abstract

 The sleep situations of Japanese children have serious appearances. The purpose of this study was to examine the effects of visualization practice concerning children s sleep. Children in practical group recorded their own bedtime, wake-up time, sleep problems, steps per day, and the axillary temperature during practice period, and tried to plot the visualization index measurement. This study comprised surveys 1 and 2. The practice period was 4 weekdays and the participants were fourth-grade children in public elementary schools in both surveys.

 Survey 1 included 873 children from 8 schools in Tokyo. Of these, seven schools were practical group and one school was control group. Results of survey 1 reveal significant interactions between bedtime and wake-up time before and after practice in those with sleep problems and those without sleep problems at the practical groups. However, their effect sizes were small. Furthermore, in the results of reviewing the impressions after practice, many descriptions of walking and steps were found, so directing more attention to steps showed the possibility of effective improvement of children s sleep situation.

 On the other hand, participants in survey 2 were 798 children from 7 schools in Tokyo. Of these, two schools were practical group and 5 schools were control group. It was found that those who had sleep problems at the practical group had significantly earlier bedtime and wake-up time at survey 2 . In addition, the sleep problems of those who had them before the practice decreased significantly after the practice, and it was confirmed that the steps per day increased in both, those with and without sleep problems before practice. Besides, the results of reviewing the impressions after practice revealed many descriptions of not only walking and steps, but also those connected with physical condition and change . Taken together, the practice in survey 2, advanced the bedtime and wake-up time of those who had sleep problems and reduced the sleep problems.

 From the above facts, it was concluded that the visualization practice concerning sleep, in which children themselves can know, feel, and think about their own body rather than acquiring knowledge about sleep, was a sustainable and effective to improve sleep situations among children.

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Ⅰ 序 論

1 . 1  本研究の問題意識,仮説と目的  子どもの からだのおかしさ に関する保育・教育 現場の実感を集計した調査では,「朝,起きられない」, 「夜,眠れない」等といった子どもの存在が心配され ている(野井ほか,2016).また,日本学校保健会(2018) によると,1981年からの35年間で小学生の睡眠時間は 3・4年生で男子22分間,女子29分間,5・6年生で男子 17分間,女子24分間短くなっている.そればかりか,「最 近,睡眠不足を感じている」と回答する者は3・4年生 で男子23.3%,女子22.6%,5・6年生で男子29.4%,女 子32.5%である様子も報告されている.  当然,このような状況を改善しようとする学校での 実践報告も見受けられるが,小学生に限定すると,管 見の限り以下の5件のみである.田村ほか(2012)は, 小学生137名を対象に睡眠改善インストラクターの資 格を有する者による授業形式での1ヵ月間に亘る睡眠 教育が睡眠や日中の眠気,イライラ感に及ぼす影響を 検討している.その結果,実践後は対象者の睡眠時間 が増加し,起床時刻の不規則性が改善することを報告 している.また,小学1∼6年生142名を対象にセルフ モニタリング手法を用いた睡眠日誌および睡眠授業の 効果を検証した田村・田中(2014)は,2週間の睡眠 教育により平日の就床時刻が早くなり,睡眠時間が増 加する様子,睡眠不足やイライラ感が軽減する様子を 報告している.さらに,古谷ほか(2015)は,小学生 を対象に専門家が行う睡眠に関する単発の講演が睡眠 習慣を整えようとする意識の改善と睡眠に関する正し い知識の習得に有効である一方で,就床時刻,起床時 刻は改善しなかったことを報告している.他方,国外 に目を転じても,Rigney et al.(2015)は,南オース トラリアに在住する11∼13歳の296名を対象に週1回の 睡眠教育を3週間実施するとともに,睡眠日誌の記録 をしたところ,対象者の睡眠時間は増加するものの, その効果は長く継続しなかったことを明らかにしてい る.また,Gruber et al.(2016)は,カナダに在住す る7∼11歳の小学生192名を対象にした6週間の睡眠教 育が睡眠時間を長くし,学業成績を向上させることを 報告している.  これらの報告は,睡眠教育が睡眠状況の改善に一定 の効果をもたらすことを示唆しているものの,小学校 における睡眠教育の効果を検証した報告が極めて限定 的であることも示唆している.加えて,2週間から6週 間に亘る睡眠教育を実施していること,単発の睡眠教 育とはいえ,古谷ほか(2015)の報告においても専門 家を招いた講演会を実施していることを勘案すると, 多忙化を極める日本の学校現場では負担感が大きく, 持続可能な取り組みとはいい難い.  ところで,「気づきは,注意がからだの内部や外部 に起こっていることに広くかつ敏感に行きわたってい る状態を意味する.気づきが起こると行動の変容が生 まれることから,気づきは学習を成立させるもっとも 根本的なもの」とされている(高橋,2001).また, 小澤(2005)は,「体力測定等が子ども自身の から だ観 を育て,自己実現の道を探る手立てになる」, 野井(2017)は,「 からだのおかしさ の克服には, 自らのからだを知って,それを感じて,考えることが できるような からだの学習 が有効である」と指摘 している.これらの指摘は,からだを測ることで自ら のからだや生活の状況を可視化あるいは「みえる化」 することがみえにくかったり,気づきにくかったりす る課題に向き合う契機になるだけでなく,主体的な健 康行動につながる可能性も示唆していると考える.事 実,1型糖尿病の子どもを対象にICTを活用した療育 行動習慣化の継続支援効果を検討した井上・薬師神 (2018)は,介入によりHbA1c値が有意に低下し, QOL尺度の得点が介入終了2ヵ月後に上昇するだけで なく,血糖値,インスリン量,食事量,運動量,低血 糖の有無,1日の振り返りを入力することで療育行動 の自立に向けて子どものやる気や気づきを引き出すこ とも報告している.同じことは,行動療法で用いられ る日々の睡眠状況を記録する睡眠日誌の効果でも確認 されている(Morin et al., 1999).  以上のことから,深刻化の様相を呈する日本の子ど もの睡眠状況を「みえる化」することは,みえにくく, 感じにくい睡眠に関する諸問題を子ども自身が主体的 かつ継続的に解決する持続可能な取り組みになり得る との仮説が成立する.その際,小学3年生から小学4年 生の時期は就寝時刻が遅くなる重要な節目と捉えるこ とができるとの指摘(山崎ほか,2005)も無視できな い.  そこで本研究では,小学4年生を対象に睡眠の「み える化」実践を試み,その効果を検証することを目的

Key words: elementary school,yogo teacher s practice,health observation sheet,steps,axillary

temperature

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眠の「みえる化」実践を創造した.その経緯は,以下 の通りである.  実践の創造に際して最初に行ったことは,日常的に 保健室で子どもと接する中で実感している現在の子ど もの健康課題を整理し,それを共有することであった. その結果,疲労や体調不良,日中の眠気等の問題が多 く指摘された.また,これらの問題の背景には,睡眠 に関する問題が横たわっているとの予想も共有され た.実際,世田谷区の小中学生を対象に行われた悉皆 調査では,高学年になると塾や習い事に通う子どもが 増加すること,就床時刻が遅くなることが確認できた (世田谷区教育委員会・日本体育大学野井研究室, 2018).  他方,打ち合わせでは多忙化する学校現場の様子も 幾度となく話題に上った.このような実態が同地区に 限ったことでないことは多くの調査結果が物語ってい る.例えば,日本における小学校教員の1週間当たり の仕事時間(54.4時間)はOECD加盟国等48ヵ国中で 最長を示す(国立教育政策研究所,2019).そのため, 実践の創造に際しては,教員負担を考慮する必要性も 確認された.  以上のことから,本研究では,可能な限り教員の負 担感が少なく,子ども自身が自らの睡眠を 知って, 感じて,考える ことができるような「みえる化」実 践の創造という着想に至った. 1 . 4  倫理的配慮  本研究における各調査は,対象校の学校長を通じて 教職員会議の承諾を得て実施された.また,各対象者 と保護者に対しては,担任教諭を通して事前に調査の 趣旨と内容,参加決定・継続の自由,プライバシーの 保護等についての説明を行い,すべての対象者から調 査参加の同意を得ることができた.  なお,本研究は,日本体育大学における人を対象と した実験等に関する倫理審査委員会の承認(承認番号: 第018-H017号)を得て実施された.

Ⅱ 調査 1 (2017年度実施)

2 . 1  調査目的  本調査では,睡眠の「みえる化」実践を実施し,対 象者の睡眠状況に及ぼす影響を検討することを目的と した. 2 . 2  調査方法   1 )対象および期間  対象は,東京都世田谷区の公立小学校8校(実践校7 とした.なお本研究では,2017年度に行われた実践を 調査1,2018年度に行われた実践を調査2とした. 1 . 2  本研究における睡眠の「みえる化」  一般に,「みえる化」とは「目にみえない事物や現 象を映像やグラフ・表・数値化などによってわかりや すく表すこと」と解釈できる.そのため,睡眠の「み える化」実践の効果を検証しようとする本研究では, 睡眠と身体活動(井上,2005;Kohyama,2007;Noi and Shikano,2011)や体温(橋本,1995;Noi et al., 2003)との関連を示唆する報告は役立つ.例えば,野 井・鹿野(2018)は,「1日総歩数」がメラトニン分泌 パタンの予測変数になり得ることを,根本ほか(2019) は,身体を動かす遊びをよくする者は睡眠の質が高い ことを報告している.また,中島ほか(2011)は,小 学3∼5年生を対象に起床時腋窩温と種々の生活との関 連を検討し,低体温傾向者はネット・携帯電話時間が 長い様子,就床時刻が遅く睡眠時間が短い様子等を, 三宅(2014)は,4∼6歳の幼児を対象に睡眠時間と起 床時体温との関連を検討し,両者が正の相関関係にあ ること等を報告している.  他方,得られた測定値を図示することの有効性を示 唆する報告も散見できる.田木ほか(2014)は,労働 者226名を対象に歩数計を活用した健康データの登録 の自動化とグラフが作成されるシステムを開発し, 6ヵ月に亘って健康改善の意識変化や行動変容,歩数 計・体組成計,血圧計における各データの変化を検討 している.その結果,1∼3ヵ月に比して4∼6ヵ月で歩 数は増加,血圧は低下,BMIは減少する様子を確認 している.さらに,成人の肥満者162名を対象に毎日 体重を測定して記録するグループとそれを行わないグ ループに分け,体重減少効果を2年間に亘って追跡し たPacanowski and Levisky(2015)は,測定した体 重を視覚化する意義について体重を毎日測り,グラフ に視覚化すれば体重が増えた場合には何が原因かを振 り返って考えるようになり,行動を調整することが可 能になることを報告している.  このようなことから,本研究における睡眠の「みえ る化」指標には,就床時刻,起床時刻,睡眠問題(寝 つき,中途覚醒,寝起き,日中の眠気感),排便状況, 主観的健康度とともに,1日総歩数,起床時腋窩温を 採用することとし,加えて「みえる化」指標を図示す ることも試みた. 1 . 3  睡眠の「みえる化」実践に至った経緯  本研究では,東京都世田谷区内の同地区(第7ブロッ ク)の小学校に在籍する8校9名の養護教諭とともに睡

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校,対照校1校)に在籍し,文書による研究協力の同 意が得られた小学4年生873名(実践校:男子407名, 女子343名,対照校:男子55名,女子68名)であった. また,すべての調査は2017年9月∼11月の期間に実施 され,このうち各実践校での「みえる化」実践は学校 行事等がない連続する平日4日間に行われた.   2 )実践概要  調査1に先立って,1∼2時間程度の打ち合わせを計4 回実施し,実践内容を検討した.その結果,調査1に おける睡眠の「みえる化」実践では,子ども自身によ る健康観察シートの記録,睡眠に関する基礎知識等の 内容で構成された保健だよりの発行を行うこととし た.  健康観察シートの記録は,生活状況(就床時刻,起 床時刻,睡眠問題(寝つき,中途覚醒,寝起き,日中 の眠気感),排便状況,主観的健康度)とともに,身 体活動量(以下,「1日総歩数」と略す),起床時腋窩 温の測定値を対象者自身が登校後に教室で記録した. なお,調査1で使用した健康観察シートは,各実践日 の記録を一目で比較できるよう1頁に配置した.また, 前日の就床時刻から当日の起床時刻の間を塗りつぶす ことにより睡眠時間を「みえる化」できる図と,前日 の就床時刻を転記するとともに当日の起床時腋窩温を プロットできるような図も用意した(資料1).さらに, 個人の記録を全体で共有することを意図して,各対象 者の就床時刻と起床時腋窩温をシールでプロットでき るような散布図も各実践校の保健室前に掲示した.い わば「みえる化のみえる化」である(資料2).  他方,各調査校で毎月発行する「保健だより」は, 睡眠に関する基礎知識や最新情報を共有して発行し た.それぞれの内容は,「世田谷区の子どもたちの睡 眠の課題と『睡眠について考えよう』(5月)」,「運動 パフォーマンス(6月)」,「『寝た時間』と『体温』の 関係をみえる化しよう!(7月)」,「からだを『みえる 化』しよう!!(9月)」,「予防接種は万能!?(10月)」,「集 団宿泊活動で体温リズムが改善!!(11月)」,「長期キャ ンプでメラトニンリズムが改善!!(12月)」,「寝るのも 勉強(1月)」,「朝日を浴びて元気に起きよう!(2月)」, 「1年間のまとめ(3月)」であった.   3 )睡眠の「みえる化」実践における調査項目  調査1では,睡眠の「みえる化」実践およびその影 響を検討するために,実践校と対照校の睡眠状況と実 践校における1日総歩数,起床時腋窩温,感想文のデー タを蒐集した.具体的な手順は以下の通りである.   3 − 1 )睡眠状況  睡眠状況については,世田谷区教育委員会・日本体 育大学野井研究室(2018),日本学校保健会(2018) の調査票に倣って自己記入による記名式質問紙調査票 を作成した上で,睡眠の「みえる化」実践6日前(以下, 「実践前」と略す)と実践5日後(以下,「実践後」と 略す)の調査前日の就床時刻,調査当日の起床時刻, 睡眠問題(寝つき,中途覚醒,寝起き,日中の眠気感) の有無を尋ね,就床時刻と起床時刻のデータからは睡 眠時間も算出した.また,平日と休日との生活状況に は差異があること(Noi and Shikano, 2011)も考慮し, 実践前後の調査日はいずれも火曜日に設定した.   3 − 2 ) 1 日総歩数  1日総歩数の測定は,加速度センサー付き歩数計(株 式会社スズケン社製ライフコーダGS)を用いて実施 し,起床してから就床までの歩数を記録した.測定に 際しては,入浴や水泳などを除いて常に歩数計を装着 することや装着の方法,場所等,取り扱いに関する注 意事項を記した文章を配布し,それらを周知した.歩 数計の装着は,慣らし期間も考慮して実践開始6日前 から行った.   3 − 3 )起床時腋窩温  起床時腋窩温の測定は,各家庭に常備されている電 子体温計を用いて起床直後に腋窩にて実施し,その測 定値を記録した.測定に際しては,体温計の検温部が 腋窩中央部にあたるよう斜め下から差し込むこと,脇 をしめること等を各実践校の養護教諭を通じて文書と 口頭にて事前に説明した.   3 − 4 )感想文  感想文については,実践後に「やってみて,何か気 づいたことはありましたか? 自分の体調に変化はあ りましたか?」の設問に対する記述を求めた.感想文 の記述欄のサイズは縦7.0㎝×横16.7㎝であり,文量の 指定はしなかった.   4 )分析方法  本研究では,各分析で使用する測定値からSmirnoff-Grubbsの棄却検定により極端値を除外した上で,以 下の5点を検討した.  1点目は,対象者における実践前の睡眠状況の性差 を検討することである.この検討では,実践校,対照 校別にみた実践前の就床時刻,起床時刻,睡眠時間を 対応のないt検定,睡眠問題の有無をχ2検定により検 討した.なお,睡眠問題については,「寝つきが悪い」, 「夜中に目が覚める」,「朝起きられない」,「学校で眠 くなる」の各問に1つでも「はい」と回答した者を「睡 眠問題あり」,それ以外の者を「睡眠問題なし」と判 定した.2点目は,実践前後の睡眠状況を実践校と対

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照校とで比較することである.この検討では,調査校 (実践校,対照校)要因と期間(実践前,実践後)要 因を考慮した就床時刻,起床時刻,睡眠時間を対応な し・ありの二元配置分散分析により比較した.3点目 は,実践校,対照校別に実践前後の睡眠状況を睡眠問 題あり群となし群とで比較することである.この検討 では,睡眠問題(あり,なし)要因と期間(実践前, 実践後)要因を考慮した就床時刻,起床時刻,睡眠時 間を対応なし・ありの二元配置分散分析により実践校, 対照校別に比較した.また,実践校,対照校別に実践 前後の睡眠問題の有無の割合をマクネマー検定により 比較した.4点目は,実践前の睡眠問題の有無別にみ た実践の影響を検討することである.この検討では, 実践校において睡眠の「みえる化」指標に用いた1日 総歩数と起床時腋窩温の記録を基に,睡眠問題(あり, なし)要因,実践期間(実践1日目,実践2日目以降) 要因を考慮した繰り返しのある二元配置分散分析を用 いて,実践1日目と実践2日目以降(2∼4日目)の1日 総歩数と起床時腋窩温を比較した.併せて,有意な交 互作用が認められた場合のその後の単純主効果の検定 にはBonferroniの方法を用いた.5点目は,「みえる化」 実践の感想文を分析することである.この検討では, 形態素解析により各語句の出現回数を抽出するととも に,共起ネットワーク分析によって語と語のつながり の強さも確認した.  なお,これら一連の統計処理にはIBM®SPSS®Ver.25 もしくはKH Coder(Ver. 3)によるChaSenを使用し, 結果の有意水準については危険率5%で判定した. 2 . 3  結果  表1には,対象者の実践前の就床時刻,起床時刻, 睡眠時間,睡眠問題の有無の割合を示した.この表が 示すように,実践校,対照校とも,すべての項目にお いて統計的に有意な性差は確認されなかった.そのた め,以降の分析は男女を区分せずに行うこととした.  図1は,調査校要因と期間要因を考慮した就床時刻, 起床時刻,睡眠時間の二元配置分散分析の結果を示し たものである.この図が示すように,いずれの項目に おいても有意な交互作用は確認されなかった.  次に,睡眠問題要因と期間要因を考慮した就床時刻, 起床時刻,睡眠時間を実践校,対照校別に二元配置分 散分析を用いて検討した.結果は,図2の通りである. これらの図が示すように,実践校の就床時刻,起床時 刻において有意な交互作用が確認された(就床時刻: F=5.122,η2=0.007,起床時刻:F=4.808,η2=0.007). そこで,単純主効果の検定を実施したところ,就床時 刻は睡眠問題要因(実践前:睡眠問題なし<睡眠問題 あり,実践後:睡眠問題なし<睡眠問題あり),起床 時刻は睡眠問題要因(実践前:睡眠問題なし<睡眠問 題あり)と期間要因(睡眠問題なし:実践前<実践後) で有意差が確認された.  また,実践校,対照校別にみた実践前後における睡 眠問題の有無の割合の変化は,表2に示した通りであ る.この表が示すように,実践校,対照校とも,実践 前後の睡眠問題の有無の割合に有意な分布の偏りは確 認されなかった.  さらに図3には,実践校における睡眠問題要因,実 践期間要因を考慮した1日総歩数と起床時腋窩温を繰 り返しのある二元配置分散分析を用いて比較した結果 を示した.この図が示すように,実践1日目と実践2日 目以降の1日総歩数,起床時腋窩温に有意な交互作用 は確認されなかった.  他方,実践後に得られた感想は全558文,総抽出語 数(すべての語の延べ数)は14,707語,異なり語数(何 種類の語が含まれていたかを示す数)は750語であり, そのうち分析に使用されたのは5,251語(異なり語数 544語)であった.これらの感想を形態素解析により 分析した結果,出現回数が多かった語(上位30語)は 表3の通りであった.この表が示すように,出現回数 が多かった語の第1位は「歩く」(261回),次いで「思 う」(202回),「歩数」(199回),「寝る」(165回),「体 温」(138回)であった.このような形態素解析の結果 表 1   実践校・対照校別にみた睡眠の「みえる化」実践前の就床時刻,起床時刻,睡眠時間,睡眠問題の有無の 割合における男女比較(調査1)

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を踏まえて,共起ネットワーク分析を行ったところ,「1 日総歩数」,「就床時刻と起床時刻」,「学校での眠気」, 「体調」,「曜日」,「体温」,「変化」,「上がり,下がり」, 「大便」の10グループに区分された.さらに,「歩数」 を中心に「する,思う-歩く」,「朝」を中心に「スッ キリ-目-すぐ」,「起きる-早い-遅い-就床時刻」といっ た語の繋がりが確認された(図4). 2 . 4  考察  表1が示す対象者の睡眠状況を日本学校保健会 (2018)による全国調査の結果(小学3・4年生)と比 較してみると,実践校,対照校の男女とも,遅寝遅起 き傾向で睡眠時間が短い様子が示された.このような 特徴は,実践校,対照校が位置する地域が首都圏に位 置しており,学校が近く,登校に要する時間が比較的 短いことが影響しているものと考えられる.実際,同 地域で行われた悉皆調査(世田谷区教育委員会・日本 体育大学野井研究室,2018)の結果とは同様の傾向で あった.したがって,本調査の対象者は実践校,対照 校が位置する地域の一般的な小学4年生といえよう.  このような小学4年生を対象に行われた睡眠の「み える化」実践の影響を検討した調査1の結果,睡眠問 題ありの者となしの者では実践前後の就床時刻,起床 時刻に有意な交互作用が確認できたものの,その効果 量は小と判定されるものであり,実践の効果を確認さ せるものとはいい難いものであった(図2A).中野ほ か(2008)は,タイに在住する小中学生160名を対象 に3ヵ月間に亘るHQC(Health quality control)手法 を用いた生活習慣チェックシートによる生活習慣の改 善効果を検討し,生活習慣の改善効果の出現には3∼4 週間以上の期間が必要であることを報告している.そ のため,調査1における実践の効果が十分に確認でき なかったことの背景には,4日間といった実践期間の 短さが存在しており,実践期間を延長することにより 効果が確認できるようになることを推測させる.  しかしながら,実践期間の延長も含めて,実践校の 養護教諭や子どもの負担を増大するような取り組み は,その持続可能性を考慮すると得策ともいい難い. 事実,実践校の養護教諭からは,「みえる化のみえる化」 や睡眠に関する「保健だより」の発行により,「子ど もの健康生活への意識が高まっているように感じる」 との証言が得られている一方で,「より簡単に睡眠の 『みえる化』実践を実施したい」との要望も寄せられた. また,養護教諭の多忙さを指摘する報告(山田・橋本, 2009)だけでなく,小学校の養護教諭を対象に保健だ よりの作成に関する実態調査を実施した鎌塚ほか 対照校 実践校 対照校 実践校 対照校 実践校 図 1  実践校と対照校別にみた睡眠の「みえる化」実践前後の就床時刻,起床時刻,睡眠時間の変化(調査1)

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(2016)は,経験年数が少ない養護教諭ほど保健だよ りを多く発行している傾向があり,その背景には経験 年数が多い養護教諭が多くの職務を任され,保健だよ り作成に費やす時間が確保できない現状があることを 指摘している.このような状況下では,より負担感の 少ない実践を求める養護教諭の声も十分うなずける.  そこで注目したいのが睡眠の「みえる化」実践後に 記述された感想文の検討結果である(表3,図4).そ れによると,「歩く」(261回),「歩数」(199回),「体温」 (138回)といった「みえる化」指標に関する記述が多 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし :F=0.178,η2=0.000 :F=13.746*,η2=0.001 :F=0.577,η2=0.020 図 2   睡眠問題あり群となし群別にみた睡眠の「みえる化」実践前後の就床時刻,起床時刻,睡眠 時間の変化(調査1)

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く見受けられた.このことは,調査1で行われた「み える化」実践の効果が完全に否定されたわけではない ことも示唆している.しかしながら,出現回数をより 詳細に確認すると,測定値を図示することも求めた「体 温」は,1日総歩数の約1/2程度に止まっており,歩数 に比してみえにくいだけでなく,感じにくい指標とい えるのかもしれない.看護学生を対象に3∼4ヵ月に 亘って基礎体温測定を実施し,その感想を蒐集した小 山田ほか(2000)は,50%以上の学生が「毎日測定記 録するのは大変・根気必要・辛かった」と感じている 様子,男子学生の感想で「変化がなくてつまらない・ むなしい」と感じている様子を報告している.それば かりか,小学5年生を対象に集団宿泊活動が身体に及 ぼす影響を起床時腋窩温,睡眠状況で検討した久川・ 野井(2016)は,生活状況の変化が体温に反映するま でには,一定の期間が必要であると報告している.対 して,塙(2016)は,近年推奨されている60分間の身 体活動の確保という目標は,子どもが意識しにくい指 標であることから,歩数を目標値に設定することの妥 当性と有効性を指摘している.調査1で得られた実際 表 2  実践校・対照校別にみた睡眠の「みえる化」実践前後における睡眠問題の有無の割合の変化(調査1) 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし :F=1.276,η2=0.002 :F=0.168,η2=0.000 :F=0.131,η2=0.000 図 3   実践校における睡眠問題あり群となし群別にみた睡眠の「みえる化」実践期間中の1日総歩数,起床時腋 窩温の変化(調査1)

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の文章において,「15,000歩以上,歩いていてびっく りした」,「自分の歩数が知れてよかった」,「歩数が少 なかったから,もっと歩きたい」等の記述が多く見受 けられたことは,この指摘がある程度妥当であること を物語っている.そうはいっても,感想文にみられた 「歩く」や「歩数」といった記述が「睡眠」や「体調」 と繋がっていなかったという事実も無視できない(図 4).この点は,以降の「みえる化」実践において改善 すべき余地が残されていることを示していると考え る.  以上のことから,調査1で行われた「みえる化」実 践では,1日総歩数に一層注目できるような工夫が子 どもの睡眠状況の改善に有効である可能性が示唆され た.

Ⅲ 調査 2 (2018年度実施)

3 . 1  調査目的  本調査では,小学4年生を対象に調査1の課題を踏ま えて,より手軽で,かつ1日総歩数に一層注目できる 表 3  睡眠の「みえる化」実践後の感想文で出現回数が多かった語(上位30語)(調査1) 図 4  各語の共起ネットワーク(調査1)

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ような睡眠の「みえる化」実践を立案し直した上でそ れを実施し,対象者の睡眠状況に及ぼす影響を検証す ることを目的とした. 3 . 2  調査方法   1 )対象および期間  対象は,東京都世田谷区の公立小学校7校(実践校2 校,対照校5校)に在籍し,文書による研究協力の同 意が得られた小学4年生798名(実践校:男子106名, 女子96名,対照校:男子313名,女子283名)であった. また,すべての調査は2018年6月に実施され,このう ち各実践校での「みえる化」実践は学校行事等がない 連続する平日4日間に行われた.   2 )実践概要  調査2でも,実践に先立って1∼2時間程度の打ち合 わせを計3回実施した.これらの打ち合わせでは,「み える化のみえる化」や睡眠に関する「保健だより」の 発行により,「子どもの健康生活への意識が高まって いるように感じる」との証言が得られた一方で,「よ り簡単に睡眠の『みえる化』実践を実施したい」との 意見も寄せられた.さらに,調査1では1日総歩数に一 層注目できるような実践の工夫が課題としてあげられ た.そのため調査2では,より手軽で,かつ1日総歩数 に一層注目できるような睡眠の「みえる化」実践を試 みた.  調査2の「みえる化」実践で使用した健康観察シー トの測定項目および記録項目は,調査1の項目(就床 時刻,起床時刻,睡眠問題(寝つき,中途覚醒,寝起 き,日中の眠気感),排便状況,主観的健康度,1日総 歩数,起床時腋窩温)と同様であり,対象者自身が登 校後に教室で記録した.なお,調査2で使用した健康 観察シートでも,調査1同様,前日の就床時刻から当 日の起床時刻の間を塗りつぶすことにより睡眠時間を 「みえる化」できる図を用意した.さらに,1日総歩数 に一層注目できる工夫として前日の就床時刻を転記す るとともに,前日の起床から就床までの1日総歩数を プロットできるような図も用意した.   3 )睡眠の「みえる化」実践における調査項目  調査2では,睡眠の「みえる化」実践およびその影 響を検討するために,実践校と対照校の睡眠状況と実 践校における起床時腋窩温,感想文のデータを調査1 と同様の手法により蒐集した.1日総歩数の測定は, 加速度センサー付き歩数計(オムロンヘルスケア株式 会社製オムロンヘルスカウンタWalking style HJ-710IT)を用いて実施し,起床してから就床までの歩 数を記録した.測定の際の取り扱いの注意事項等に関 しては調査1の方法に従い,それらを周知した.また 歩数計の装着は,慣らし期間も考慮して実践6日前か ら行った.   4 )分析方法  本研究では,各分析で使用する測定値からSmirnoff-Grubbsの棄却検定により極端値を除外した上で,調 査1同様,1)対象者における実践前の睡眠状況の性差, 2)実践校と対照校とにおける実践前後の睡眠状況(就 床時刻,起床時刻,睡眠時間)の比較,3)実践校, 対照校別にみた睡眠問題あり群となし群とにおける実 践前後の就床時刻,起床時刻,睡眠時間,睡眠問題の 有無の割合の変化,4)実践校における実践前の睡眠 問題の有無別にみた実践期間中の1日総歩数,起床時 腋窩温の変化,5)実践後の感想文の分析の5点を検討 した.なお,分析方法や分析手順も,調査1と同様で ある. 3 . 3  結果  表4には,対象者の実践前の就床時刻,起床時刻, 睡眠時間,睡眠問題の有無の割合を示した.この表が 示すように,対照校では睡眠問題ありの者が男子 (47.8%)で有意に多い(χ2=4.764,φ=0.097)様子 が示されたものの,就床時刻,起床時刻,睡眠時間に 表 4   実践校・対照校別にみた睡眠の「みえる化」実践前の就床時刻,起床時刻,睡眠時間,睡眠問題の有無の 割合における男女比較(調査2)

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有意な性差は確認されなかった.そのため,以降の分 析は,調査1同様,男女を区別せずに行うこととした.  図5は,調査校要因と期間要因を考慮した就床時刻, 起床時刻,睡眠時間の二元配置分散分析の結果を示し たものである.この図が示すように,いずれの項目に おいても有意な交互作用は確認されなかった.  次に,睡眠問題要因と期間要因を考慮した就床時刻, 起床時刻,睡眠時間を実践校,対照校別に二元配置分 散分析を用いて検討した.結果は,図6の通りである. この図が示すように,実践校の就床時刻,起床時刻に おいて有意な交互作用が確認された(就床時刻: F=6.978,η2=0.042,起床時刻:F=5.679,η2=0.035). そこで,単純主効果の検定を実施したところ,就床時 刻は睡眠問題要因(実践前:睡眠問題なし<睡眠問題 あり,実践後:睡眠問題なし<睡眠問題あり)と期間 要因(睡眠問題あり:実践後<実践前),起床時刻は 睡眠問題要因(実践前:睡眠問題なし<睡眠問題あり) と期間要因(睡眠問題あり:実践後<実践前)に有意 差が確認された.  また,実践校,対照校別にみた実践前後における睡 眠問題の有無の割合の変化は表5に示した.この表が 示すように,実践校,対照校とも,実践前に比して実 践後で有意に睡眠問題ありの者の割合が減少する様子 が確認された.  さらに図7には,実践校における睡眠問題要因,実 践期間要因を考慮した1日総歩数と起床時腋窩温を繰 り返しのある二元配置分散分析を用いて比較した結果 を示した.この図が示すように,実践1日目と実践2日 目以降の1日総歩数,起床時腋窩温に有意な交互作用 は確認されず,1日総歩数の期間要因において有意な 主効果が確認された(F=49.193,η2=0.241).  他方,実践後に得られた感想は全222文,総抽出語 数は3,714語,異なり語数は447語語であり,そのうち 分析に使用されたのは1,187語(異なり語数290語)で あった.これらの感想文を形態素解析により分析した 結果は表6の通りであり,出現回数が多かった語の第1 位は「歩く」(91回),次いで「思う」(53回),「歩数」 (41回),「寝る」(25回),「早い」(20回),「自分」(20 回)であった.このような結果を踏まえて,共起ネッ トワーク分析を行ったところ,「歩数と体調」,「体温 と朝」,「就床時刻と起床時刻」,「水曜日」,「違う,日」, 「寝る」の6グループに区分された.さらに,出現頻度 回数が高かった「歩く」を中心に「思う-する-びっく り」,「ない-あまり-ない-体調」といった語のつなが 対照校 実践校 対照校実践校 対照校実践校 図 5  実践校と対照校別にみた睡眠の「みえる化」実践前後の就床時刻,起床時刻,睡眠時聞の変化(調査2)

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りが確認された(図8). 3 . 4  考察  調査2においても,調査1同様,最初に対象者の睡眠 状況を先行研究(世田谷区教育委員会・日本体育大学 野井研究室,2018)の結果と比較した.すると,実践 校,対照校が位置する地域での悉皆調査の結果に比し て,男女とも,早寝早起き傾向で睡眠時間が短い様子 が窺えた(表4).  このように,調査2では,早寝早起きで睡眠時間が 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし 図 6   睡眠問題あり群となし群別にみた睡眠の「みえる化」実践前後の就床時刻,起床時刻,睡眠 時間の変化(調査2)

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短い傾向を有する小学4年生を対象に睡眠の「みえる 化」実践を実施した.その結果,調査1同様,実践前 後における実践校と対照校の就床時刻,起床時刻,睡 眠時間の差異は認められなかった(図5)ものの,実 践校における睡眠問題ありと睡眠問題なしとの比較で は就床時刻,起床時刻が睡眠問題ありで有意に早くな る様子が示された(図6A).そればかりか,実践前に 睡眠問題を有していた者で実践後に有意に改善し,実 践前の睡眠問題の有無に関わらず,実践1日目に比し て実践2日目以降の1日総歩数が増加する様子も確認さ れた(表5,図7).このような結果は,調査1の結果を 踏まえて取り組み内容を修正した調査2の「みえる化」 実践が,実践校の対象者の生活改善に有効に作用した ものと推察する.具体的には,1日総歩数に一層注目 するような働きかけが実践中の身体活動量を増加さ せ,そのことがとりわけ睡眠問題を有する者に作用し て,睡眠問題ありの就床時刻,起床時刻を早くしただ けでなく,睡眠問題の減少にも影響したものと考える. 内田(2009)は,一過性の運動が睡眠に与える影響を 検討した研究では,睡眠に問題を抱えていない者を対 象としているものが多く,睡眠が改善する余地が少な いことを指摘している.本研究の結果は,このような 表 5  実践校・対照校別にみた睡眠の「みえる化」実践前後における睡眠問題の有無の割合の変化(調査2) 図 7   実践校における睡眠問題あり群となし群別にみた睡眠の「みえる化」実践期間中の1日総歩数,起床時腋 窩温の変化(調査2) 睡眠問題あり 睡眠問題なし 睡眠問題あり 睡眠問題なし

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指摘を支持するものであったと考える.  さらに,実践後に得られた対象者の感想文の検討結 果も,このような考察がある程度適当であることを後 押ししてくれている.それによると,「歩く」(91回), 「歩数」(41回)といった語が多く見受けられたという 結果(表6)は調査1と同じであるものの,共起ネット ワーク分析の結果ではそれらが「体調」,「変化」,「変 わる」とつながっており,「歩数と体調」といったグルー プの存在を確認することもできる(図8).実際,得ら れた感想文を概観してみると,「歩数が多い時,朝起 きた時とても元気だった」,「たくさん歩くとよく眠れ た」,「たくさん歩いた次の日はすっきり目が覚めた」, 「10,000歩,歩いているから体調が良い」,「折れ線グ ラフで歩数があまり変化していなかったから体調も変 わらなかった」等の記述を確認することができる.こ れらの感想は,歩数と睡眠や体調との関連を対象者自 身が想起していることを物語っていると考える.繰り 返しになるが,学校現場で行われてきた従来の睡眠教 育は,睡眠に関する知識を増加させるものの,睡眠状 況を改善させるための行動変容にはつながらないと指 図 8  各語の共起ネットワーク(調査2) 表 6  睡眠の「みえる化」実践後の感想文で出現回数が多かった語(上位30語)(調査2)

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摘されてきた(Blunden et al.,2012).このような指 摘を踏まえて行われた本研究では,睡眠に関する知識 の習得ではなく,子ども自身が自らのからだを知って, 感じて,考えることができるような工夫に実践の主眼 を置くことに努めた.調査2の「みえる化」実践は, そのような取り組みの具体例を提示できたものと考え る.  以上のように,1日総歩数に一層注目するような睡 眠の「みえる化」実践を行った調査2では,実践中の 身体活動量が増加し,そのことが睡眠問題を有する者 の就床時刻,起床時刻を早くし,睡眠問題を減少させ る可能性が示された.このような結果は,多忙な学校 現場でも持続可能な睡眠の「みえる化」実践の効果を 示唆するものであり,本研究の結果で得られた重要な 知見であると考える.しかしながら,以下の3点は本 研究の限界であり,今後の研究課題であると考える. 1点目は,対象者が世田谷区内の小学4年生に限定され ていることである.そのため,他地域,他学年におい ても同様の効果が得られるか否かについては,それを 言及することができない.2点目は,実践の効果の持 続性を検討することができていないことである.いう までもなく,睡眠を含む生活習慣は実践期間中に限っ たものではない.そのため,実践後の生活習慣への影 響についても検討する必要がある.3点目は,気象条 件,塾や習い事,テレビ,ゲーム等のスクリーンタイ ムの調査を実施していないことである.1日総歩数は 天候に,生活は塾や習い事,スクリーンタイムに影響 されることが推測できるものの,これらの要因は考慮 されていない.さらに4点目は,調査2の結果では,対 照校においても睡眠問題を有していた者の割合が実践 後に減少していた背景を考察できていないことであ る.これには,実践校での実践の効果を検証するため に,対照校においても実践前後の就床時刻,起床時刻, 睡眠問題の有無を尋ねていることが,結果として調査 2で確認されたような「みえる化」実践の効果を与え ている可能性も否定できない.この点の解明も今後の 検討課題である.

Ⅳ 結 論

 本研究では,小学4年生を対象に睡眠の「みえる化」 実践を実施し,対象者の睡眠状況に及ぼす影響を検討 することを目的として,調査1(2017年度実施)およ び調査2(2018年度実施)の2つの調査を実施した.そ の結果,以下の結論を得ることができた.  調査1の結果,実践校における睡眠問題ありの者と なしの者では実践前後の就床時刻,起床時刻に有意な 交互作用が確認できたものの,その効果量は小であり, 実践の効果を確認させるものとはいい難いものであっ た.しかしながら,実践後の感想文の検討結果では,「歩 く」,「歩数」の記述が多く見受けられたこと等から, 1日総歩数に一層注目できるような工夫が子どもの睡 眠状況の改善に有効である可能性が示唆された.  調査1の課題を踏まえて行われた調査2の結果,実践 校における睡眠問題ありと睡眠問題なしとの比較で は,就床時刻,起床時刻が睡眠問題ありで有意に早く なる様子が示された.また,実践前に睡眠問題を有し ていた者の睡眠問題が実践後に有意に減少し,実践前 の睡眠問題の有無に関わらず,実践1日目に比して実 践2日目以降の1日総歩数が増加する様子も確認され た.さらに,実践後の感想文の検討結果では,「歩く」, 「歩数」といった語が多く見受けられただけでなく, それらが「体調」,「変化」,「変わる」とつながってい ることも確認された.したがって,1日総歩数に注目 するような睡眠の「みえる化」実践は,実践中の身体 活動量を増加させ,そのことが睡眠問題を有する者の 就床時刻,起床時刻を早め,睡眠問題を減少させる可 能性が示唆された.

謝辞および付記

 稿を終えるにあたり,本研究の趣旨にご理解を示し, 多大なるご協力をいただいた調査校の子どもたちと先 生方に深謝したい.特に,世田谷区立小学校教育研究 会保健教育部7ブロックに所属する養護教諭の先生方 には,本研究に対する多くの助言をいただいた.改め て感謝したい.なお,本研究は科学研究費補助金(平 成27∼29年度,挑戦的萌芽研究,課題番号15K12686; 平 成29∼32年 度, 基 盤 研 究B, 課 題 番 号17H02169) により実施されたものである.

文 献

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(18)

資料 1 - 2  調査1で使用された健康観察記録シート(2ページ目)

参照

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