日本人ボランティアとともに学ぶ会話授業の取り組み
―学習者主体の活動を通して―
Learning in a Conversation Class with Japanese Volunteers:
Student-Led Activities.
田代 桜子
TASHIRO Sakurako
愛媛大学 Ehime University [email protected]Abstract: This is a report of an upper intermediate level Japanese language class in which Japanese volunteers assist in peer-learning. The main activity of the classes consists of having discussion in small groups. Several students are appointed each class to determine the subject for the next class. They are responsible for researching the topic before class and preparing a presentation on the topic. The appointed students who took charge of the lesson gain a sense of accomplishment and can reflect on their performance using feedback received from the class. In this paper, I use interviews to show how students were able to achieve the learning goals.
キーワード:学習者主体、日本人ボランティア、口頭表現、ピア・ラーニング 1. 背景と目的 本稿では留学生と日本人ボランティアが協 働学習を行うクラスについて、実践をもとに教 室活動や両者の関係性のあり方について考察 する。 クラスでは毎回日本人ボランティア(以下「J サポート」)を招き、学習者と一緒にテーマに 沿った話し合い活動を行っている。前の学期で は、1 回目に学習者全員からこれから話し合い たいテーマを募集し、そこから筆者が選んだも のをもとに、授業全体の内容とスケジュールを 決めた。2 回目ではそれをクラス全体に配り「テ ーマ班」を決めた。テーマ班は、具体的に話し 合いたいことをクラスに「質問」として提示し たり、テーマや質問を考える上で知って欲しい 知識や伝えたいことをプレゼンや劇の形で発 表したりするグループである。テーマ班には J サポートも任意で参加した。テーマ班には授業 外の準備が必須になる。学習者と J サポートは 連絡を取り合い、時には熱心に劇などの練習を する姿が見られた。授業当日はクラス全体が盛 り上がり、学習者も「日本人の J サポートとた くさん交流ができてよかった」と満足そうにし ている人が多かった。 これは学習者と日本人ボランティアが交流 し、活動するクラスとしては良い形の一つであ ると考える。しかし、学習者の主体性という点 に関しては、いくつかの問題が見受けられた。 J サポートにはベテランのシニア層が多いこ ともあり、学習者が日本語ネイティブかつ年上 の J サポートに対し、遠慮する様子が見られた。 また J サポートに頼り、発表の方向性などを委 ねてしまうという傾向もあった。発表の内容は 予め教師に送るように伝えていたが、事前に手 直しをしてもらっている班もあったため、学習 者の考えや日本語使用の形などを筆者が十分 に把握できない時もあった。 ピア・ラーニングには「仲間といっしょに学 ぶことによって、人と人との社会的な関係を築 き、自分の考えを検討し視野を広げ、さらには 自分自身を発見していく」(舘岡 2007)という 考えがある。今回は「学習者と日本人ボランテ ィアがともに学ぶということ」について改めて 考えなおし、また「学習者が自ら学び、考えを 深めていく」べく、授業の再構成を図った。 2. 実践内容 本クラスは、受講生 17 名、J サポートは平均 12 人(学生は 3 人程度、残りはシニア)、1 コ マ 90 分、全 15 回の構成となっている。 まず、J サポートには今回、テーマ班の準備段 階には入らず、話し合いのサポートに集中して もらうよう、理解を求めた。 1 回目の授業では各回のテーマ班のメンバ ーと発表日時のみを決めた。これは学習者が話 し合いたいテーマをそれぞれで決めるためで ある。テーマ班は発表の 2~3 週間前から準備 を始める。テーマとそれを選んだ理由、クラス 日本語教育方法研究会誌 Vol.26 No.2 -18-
に提示する質問や発表形式等を筆者に送る。テ ーマ班と筆者で相談や打ち合わせも適宜行っ た。クラスに配布する予習課題もテーマ班が中 心となって作成する。テーマ班以外の学習者は 予習課題で、次回の内容について自分の意見の まとめや情報の下調べをする。 授業のはじめに、テーマ班は、PPT 等を使い 15 分程度のプレゼンを行う(今回は全ての班が プレゼン形式であった)。 発表後は全体の質疑応答を経て、グループご との話し合いに入る。学習者と J サポート合わ せて 5~6 人×6 つのグループに分かれる。ここ でテーマ班もいずれかのグループに加わる。40 分程度の話し合いのあと、各グループは意見を まとめ、発表者が意見の対立点やその結果、も しくはクラスで共有したい内容等を全体の前 で話す。テーマ班は最後に、それらの内容をも とに全体の感想を述べる。 3. 授業の成果(学生のインタビューより) 授業後 Moodle注1に、話し合いやテーマ班の 発表についての感想などを投稿するという復 習課題を出すことがある。今回、その投稿を基 に 2 名の学習者に、テーマ班活動についてイン タビューした。2 名を学習者 A、B とする。A、 B は同じテーマ班で「美しさについて」をメイ ンテーマとして発表を行った。 A に活動やクラスを経ての感想を聞いたとこ ろ「クラスメイトから『今回、初めて予習の答 えをたくさん作成した』と聞いて、良いテーマ を選んだな、と気分が良くなった。話し合いの ときは皆の反応や意見が気になったが、自分た ちが考えたテーマや質問に対して、クラスの反 応がよかったので嬉しかった。意見共有のとき は自分と同じ意見だけでなく、考えたことがな かった意見も出て、面白かった」と話した。 一方で、B は Moodle に「美しさっていう言 葉はあまり男性に使わないことがわかって衝 撃でした。私たちは男性と女性全部合わせて美 しさについて話したかったです。それがちょっ とミスだと思います。そして授業の最後に各グ ループで話し合った内容を発表する時、整形し たいならどこですか?という質問で、みんな顔 の整形だけを考えていたので、私たちの説明が ちょっと足りないのかなと思いました」と投稿 していた。彼女たちが提示した質問の意図は、 外見の美しさに囚われがちな社会であるが、内 面を中心とした本当の美しさについて考えた い、というものであった。B はクラスの話し合 いを観察し、意図が正しく伝わっていないと感 じていたようだ。B はインタビューで「話し合 い中に、外見のことだけじゃなくて内面につい ても話してください、と言ったら、J サポート さんに『(彼女たちが質問で使った)整形とい う言葉が勘違いを生んだんじゃないかな』と教 えてもらった。もっと日本語を選ぶべきだった し、言いたいことが伝えられる内容や資料を考 えないといけないと思った。また、みんなの意 見が似たようなものになってしまったことも 気になった。もっと具体的な例や、みんなのこ だわりを聞きたかった。そのためにはこちらが 質問を工夫すべきだった」と、活動に対する反 省点を述べた。 2 名の感想の内容は異なるが、テーマ班に主 体的に取り組む中で、担当した回の授業に対す る責任感やクラス全体の様子を観察する視点 を持ち、それぞれが自分なりの達成感や反省を 得ていたといえるだろう。 4. まとめと今後の展望 実践により、学習者はテーマ班の活動を通し て、自らが主体となってクラスの学びをデザイ ンしていくこと、また自分たちが何について関 心を持ち、何を伝えたいのか、さらにそれをど うやって伝えたら良いのか、等について真剣に 考えている様子がうかがえた。 授業に参加した J サポートからも「発表から、 留学生の感じていることがわかり、考えさせら れた」「熱い思いが伝わり、驚くような発表も あった」等の感想を聞くことができた。 今回の実践では授業の主な目的を学習者主体 の活動と、そこから得られる学びとしたため、 J サポートとの関わりは前よりは少なくなった。 結果として学習目的はある程度達成できたが、 クラスにおいて大切なことは、状況や学習者に よっても変わってくるだろう。学習者と日本人 ボランティアが学び合う機会は貴重であるた め、互いに学び合うクラスとしてよりよい形を 考え、それぞれのバランスを大事にしていきた いと考えている。そのためには、教師が目的意 識を持ち、それに応じた授業のデザインを考え ていく必要があると言えよう。 注 注 1 愛媛大学の e-learning の授業を支援する学習マネジ メント・システム 参考文献 舘岡洋子(2007)「【第 33 回】ピア・ラーニング」『日 本語教育通信 日本語・日本語教育を考える』国際交流 基金<https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/ tsushin/reserch/backnumber.html>(2020 年 1 月 20 日閲覧) 日本語教育方法研究会誌 Vol.26 No.2 -19-