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液中分子ジェットで有機分子のナノオーダー配列固定に成功
-分子デバイス創製への新たな手法- 平成18年 9月 8日 独立行政法人 物質・材料研究機構 概要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)材料信頼性センター(セ ンター長:小野寺 秀博)微小材料工学グループの土佐 正弘 グループリーダーと 後藤 真宏 主任研究員(若手国際研究拠点兼任(拠点長:板東 義雄))は、同グ ループのYuriy Pihosh NIMSポスドク研究員、笠原 章 主幹研究員と共に、レーザ ーを用いて水中に分子のマイクロジェットを発生させることにより、様々な材料 基板の表面のナノオーダー領域にペリレン(青色発光蛍光物質)などの機能性分 子をパターン注入することに成功するとともに、さらに、その分子ジェット1)流 を利用して基板に穴を開けるなど微小機械加工が可能なことも発見した。 2.分子は、そのもの1個が光学・電子・磁気的に優れた機能を有したいわば最小 の機能性ナノ材料と考えることができる。それらをナノオーダーで空間・位置制 御して配置し、ナノ構造体材料が作製できれば、分子デバイス、超高感度ナノセ ンサーアレイ2)を始めとする各種ナノデバイス創製など、広範囲への応用の可能 性が生じ、デバイスの新機能の発現や、機能の多様化・高性能化を実現するもの として現在精力的に研究が進められつつある。分子を位置選択的にナノ配列可能 な有力な方法の1つとして、当機構が研究を推進しているレーザー分子注入3)法 があるが、この手法ではレーザー光を用いていることから注入空間の制御は光の 回折限界および分子駆動の最小エネルギーしきい値に制限されること、さらに両 フィルム間の空気のギャップを分子流が通過する際に拡散で広がってしまうこと などから、これまでのところ実際には最小注入領域が数μm径程度であった。 3.今回、この空気のギャップに水などの液体を中間層として導入することにより、 その分子拡散を抑制し、材料基板のナノオーダー領域に有機分子を注入すること に成功した。これにより、従来のソフトマテリアルの高分子系基板に加えハード マテリアルであるステンレス鋼、銅などの金属やガラス、セラミックスといった あらゆる種類の材料の基板上に、最小で直径 420nm のナノオーダー領域に分子を 配置することが可能となった。さらに、これらの微小配置された分子は、レーザ ー強度を最適化すると基板表面に強く結合することが明らかになった。また、更 なるレーザー強度の増大に伴い、この分子ジェットにより基板表面に微小な穴が 開けられることが見出された。 4.今回の成果は、あらゆる種類の材料表面のナノオーダー領域に機能性分子を配 列注入・固定が可能であることから、各種分子デバイスや超高感度ナノセンサー アレイの作製や新規フォトニック結晶の創製など広い範囲への展開が期待され る。5.本研究開発の成果は、科学研究費補助金・特定領域研究(極微構造反応)なら びに NEDO 平成 18 年度産業技術研究助成事業により得られたものであり、国際学 術誌「Japanese Journal Applied Physics: Express Letters」に近日掲載の予定 である。
3 研究の背景 シリコンテクノロジーを基盤とする半導体デバイスは、年々その集積化・高性能化 が進み、その最小加工レベルが数十 nm レベルに到達しつつあり、加工限界がささやか れるようになっている。将来、それに変わりうるものとして分子デバイスが提案され、 ナノテクノロジーの飛躍的な進歩に基づいて精力的に研究が進められるようになって きた。同様にしてセンサーデバイス分野でもセンサー受感部のナノ微小化に伴う高感 度化や小型アレイ化による高性能化を見据え、各種機能性分子を積極的に利用する動 きが活発化してきている。これら分子デバイスや分子センサーアレイなどの創製には、 必要とする有機分子を位置選択的にサブミクロンレベルでパターン配置する必要があ るものの、未だその手法は確立されているとは言えない。 当機構では、分子が含まれた高分子フィルム(ソースフィルム)と分子を注入配置 したい高分子系材料基板(ターゲット)とを重ね合わせてパルスレーザーを照射し、 光励起された分子を射出して、その部分のみ分子を基板上に植えつける手法であるレ ーザー分子注入法の研究を推進してきた。この手法は、レーザー光を用いることから 分子の注入空間の制御は光の回折限界および分子駆動の最小エネルギーしきい値に制 限されること、さらに、ソースフィルム/ターゲット間の空気中間層(ギャップ)を 分子流が通過する際に拡散で広がってしまう問題があったため、これまでのところ最 小注入領域が数μm 径程度であり、いかにしてこの最小注入領域をナノオーダーに押 さえるかという課題があった。 成果の内容 当機構は、この問題を解決するために、このギャップに別の物質を導入することに より、その分子拡散を抑制できないかと考え、当グループの土佐 正弘グループリー ダー、Yuriy Pihosh NIMS ポスドク研究員、笠原 章主幹研究員と共に、科学研究費 補助金・特定領域研究(極微構造反応)「パルスレーザー光励起された有機分子の固液 界面上での動的挙動の研究(平成 17~18 年度)」ならびに NEDO 平成 18 年度産業技術 研究助成事業「パルスレーザーを用いた新規ナノコンポジットコーティングの創製と 次世代切削工具の開発」のプロジェクトにおいて、研究を開始した。 実験の結果、空気中間層であったギャップを水などの液体で満たし、ソースフィル ムにパルスレーザー照射すると、液中に分子ジェットが発生し、従来のソフトマテリ アルの高分子系基板に限らずハードマテリアルであるステンレス鋼、銅などの金属や ガラス、セラミックスといったあらゆる種類の材料の基板上に、最小で直径 420nm の 領域で分子を配置できることを発見した。図1は、ステンレス鋼基板上に配置された クマリン 6 分子凝集体の AFM イメージである。さらに、これらの微小配置された分子 は表面に強く結合しており、2時間の超音波純水洗浄を行った後も分子からの蛍光が 観察され、機能を発現させる分子構造が破壊されていないことが示された。また、銅 を基板とした分子凝集体の注入配置例を図2に示す。このように基板上のナノオーダ ー領域に液体層を介して分子を植えつけることに成功した。 この分子注入のメカニズムは、非常に不思議な現象であることが明らかとなった。 図 3 に予想されるモデルを示す。レーザーの照射領域は直径約 500nm 程度であり、そ の領域から分子は射出されるが、前述の通り分子の注入領域はそれと同等あるいはそ れ以下となっている。つまり射出された分子は水中で拡散することなく基板に到達し
ていることになる。これは、光励起された分子から水分子にエネルギーが移動するこ とで、水中に衝撃波やバブルが生成され、それらが引き起こす特有の集束現象である と考えられるが未だ詳細は明らかではない。 波及効果と今後の展開 今回、開発された新たな分子配列法であるレーザー駆動マイクロ分子ジェット注入 法を用いれば、必要とする機能性有機分子を微小な電子回路ならびにマイクロ光導波 路4)内に注入配置することが可能で、しかも、レーザーの強度を変化させることによ り、それら分子と基板との相互作用を変えることが可能となり、新機能・高性能分子 デバイスや超高感度ナノセンサーアレイなどの新たな創製法として広い活用が可能と 考えられる。さらに、高分子やガラスなどの材料に分子パターン注入を行い、光制御 デバイスとしての応用も期待される。現在、時間分解イメージ測定実験の準備を進め ており、今後は、本メカニズムの解明に向けた研究を推進する予定である。 問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 国際・広報室 TEL:029-859-2026 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 材料信頼性センター 微小材料工学グループ 後藤 真宏(ごとう まさひろ) TEL:029-859-2746 FAX:029-859-2746 E-mail: [email protected] 用語解説 1)液中分子ジェット: 今回新たに発見された現象で、レーザーにより光励起された分子が射出され、 液中で高速の噴流となって物質移動する現象、液中でほぼ拡散がなく分子の噴流 が移動するメカニズムについては未だ不明である。 2)超高感度ナノセンサーアレイ: 従来のセンサーに比べて、受感部のサイズがナノメートルスケールであり、分子あ るいは原子レベルの検知が可能になるため、超高感度を実現できるセンサーである。 また、それらの受感部がアレイ構造を持ち、多機能を有している未来型のセンサーで ある。
5 3)レーザー分子注入: レーザー光によって有機分子を励起し、駆動することにより高分子固体中に分子を 注入する方法である。近年、分子デバイスやセンサーなど有機分子を用いたさまざま な材料が注目されつつあり、有機分子を材料中の適所に配置することが必要不可欠と なってきた。本手法では、その分子注入領域がレーザー光照射された部分に限られる ため位置選択的な有機分子の配置が可能であり、今後それらへの応用が注目されてい る。また、注入プロセスにおいては有機溶媒を必要としないため、環境にもやさしい 手法といえる。 4)マイクロ光導波路: 高分子もしくはガラス基板中に施された微小な光導波路。レーザーによりプログラ ム加工するため複数の導波路を数百ナノレベルで並べることができる。
図1 ステンレス鋼基板上に植えつけられたクマリン6分子凝集体(3箇所)のAFMイメージ.
50 μm
図2 銅基板上に植えつけられたクマリン6分子の蛍光顕微鏡イメージ.
図3 レーザー駆動マイクロ分子ジェット注入法の現象モデル.