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県教育委員会と協働で取り組む教員養成改革 : 和歌山大学の調査研究を踏まえて

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歌山大学の調査研究を踏まえて

著者

隈元 浩二郎, 大久保 直志

雑誌名

鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要

17

ページ

285-294

別言語のタイトル

Teacher training reform to wrestle with by the

prefecture Board of Education and

collaboration : On the basis of the research

of Wakayama University

(2)

隈元浩二郎・大久保直志:県教育委員会と協働で取り組む教員養成改革

1 はじめに

教育現場から本学に着任して5か月半あまり, 教員の養成について和歌山大学を視察する機会を 得た。そこでは,これまでの教員養成の在り方を 見直し,教育現場はもちろんのこと,教育行政や 地域社会とも密接に連携を図りながら今後を見通 し,意図的・計画的に息の長い連携に取り組んで いる姿を垣間見ることができた。そして,改めて 教育学部における教員養成改革の重要性と鹿児島 県との交流で本学に派遣された我々の使命の重さ を再認識する機会ともなった。 そもそも和歌山県では,平成11年度以来,8年 越しで和歌山大学と和歌山県教育委員会が協働し て連携し,教員の養成や研修について脈々と実績 を積み上げてきている。また,平成17年度からは 「ジョイント・カレッジ」と銘打ち,これまで以 上に両機関の連携を組織的に整備し,さらに充実 した挑戦がスタートしている。 そこで,これらの特徴的な取組がどのような成 果を挙げているのか,児童生徒にどのように還元 されているのか,教員の養成や資質向上にどのよ うな効果を挙げているのかなどについて整理した い。また,本県の類似した実践と対比すること で,本県の取組の見直しの糸口を模索したい。

2 ジョイント・カレッジの推進

(1) 連携の意義とその実績 ジョイント・カレッジは,和歌山大学の平成 17・18年度の文部科学省教員養成GPプロジェクト であると同時に,教育改革の取組の柱として位置 付けられている。とりわけ,それが画期的な価値 ある取組として注目する前に認識しておきたいた いのは,平成11年度から積み上げられてきた和歌 山大学と和歌山県教育委員会の連携である。 そもそも,ジョイント・カレッジは突発的・斬 新的なアイデアによって生み出された企画ではな く,地道な両機関相互の連絡・調整の上に成り 立っていることが,「和歌山大学教育学部・和歌 山県教育委員会連絡協議会規程」(「県教委と大学 による『ジョイント・カレッジ報告書』平成17・ 18年度文部科学省教員養成GPプロジェクト」平 成19年1月 和歌山大学 参照)からもうかがう ことができる。両機関は組織を盤石なものとする ために,6回にも及ぶ規程の改正に取り組んでい る。そこには,相互の日常的な話し合いや地道な 連絡・調整が積み重ねられ,「ジョイント・カ レッジ運営委員会」の設立に至った足跡が刻まれ ているのである。 本県では鹿児島大学教育学部と鹿児島県教育委 員会が連携し,県総合教育センターの研修講座等 に大学の教員を講師として招聘し,教員研修の改 善・充実を図ったり,大学の講義等に指導主事等 の職員を派遣し,実践的な講話や講義を実現した りするなど,平成16年度から県総合教育センター の機構改革や悉皆研修等の見直し・改善を機に, 実質的な連携・協力に取り組み出した。また,昨 年度は文部科学省の委嘱事業「わかる授業実現の ための教員の教科指導力向上プログラム」に取り

県教育委員会と協働で取り組む教員養成改革

―和歌山大学の調査研究を踏まえて―

隈 元 浩二郎

〔鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター〕

大久保 直 志

〔鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター〕

Teacher training reform to wrestle with by the prefecture Board of Education and

collaboration

On the basis of the research of Wakayama University-

KUMAMOTO Kojiro・OKUBO Naoshi  

キーワード:ジョイント・カレッジ,協働,連携,教員養成,教員研修

Bulletin of the Educational Research and Development, Faculty of Education, Kagoshima University

(3)

組むなど,両機関の連携の実績を積み上げ出した ところである。 今後も和歌山県の取組と同様に,決して形式的 で紋切り型な連携に陥ることなく,地道な連絡・ 調整の積み上げに取り組みたい。地道ではある が,継続的な連携の積み上げにより,連携を確立 するための支持的風土を確立することが第一であ る。併せて,常に児童生徒を中心に据えた本音で 語ることができる連携の風土を構築しなければな らない。そのようなしっかりとした両機関の基盤 づくりが,教員養成の改革にもつながっていくも のと考える。 (2) ジョイント・カレッジの目的 本県の教育目標の一つとして各学校の「特色あ る教育活動」の展開・推進が挙げられるが,ジョ イント・カレッジの取組は,教員養成の改革に取 り組む大学にとっても,また,教員の資質向上や 地域・学校の教育力向上に取り組む県教育委員会 や教育現場にとっても,まさしくこれらの目的を 実現・推進するための「特色ある教育活動」であ るととらえることができよう。 前述のとおり両機関相互が盤石の連携に取り組 むことにより,大学としては学部のもつよさや地 域に根ざした大学の特性などをアピール・還元で きるといった特色を,また,県の教育委員会とし ても県が抱える地域性や将来性などを生かすと いった特色を,相互が協働することで現場直結型 の県独自の特色ある教育活動として増幅して実現 することができるのである。つまり,両機関が相 互に協働することで,教員養成の改革を実現・推 進することが可能となるとともに,教員の資質向 上や地域の教育力の向上に向けて,学生と現職教 員の両方に高い専門的実践能力を身に付けさせる ことが可能となるのである。 このように,両機関に共通した目的がメリット として働くことで,息の長い県独自の「特色ある 教育活動=ジョイント・カレッジ」を実現するこ とができるのである。 (3) 組織(4部門)のバランス ジョイント・カレッジ運営委員会は,「研究科 教育」,「学部教育」,「教員研修」,「地域連携」 の4部門がバランスよく構成されている。 「研究科教育部門」では,主に学校におけるマ ネジメントやコミュニケーションなど,従来の専 門職としての分析力や研究力に加え,他者とのか かわりや組織の活性化,経営力といった集団の中 で力を発揮することを期待した3コースが新設さ れている。また,マネジメントとコミュニケー ションの能力育成を目指したプログラムが意図的 にバランスよく配置されており,現職教員の資質 向上が大いに期待できる内容である。 「地域連携部門」も,特色ある実践的研修体系 が図られていると言える。この部門では大学と地 域の交流促進が研修の柱となっており,学部生や 大学院生の教育実践力と教職への動機付けを定着 させる場として価値あるプログラムが用意されて いる。 また,教師の卵を育成するための教職研修の内 容がバランスよく配置された「学部教育部門」の 設定によって,学部生や大学院生の意識の高揚と 将来の教員としての資質向上が大いに期待できる 内容となっている。一方,現職教員の資質向上に ついても,大学や附属学校から客員教員を派遣す ることで研修講座の質の向上を図っており,大学 生から現職教員への系統性がバランスよく図られ ている。 本県でも学校マネジメントの研修については, 県総合教育センターにおいて悉皆研修(リーダー の養成を主目的とした新任校長・教頭研修会,新 任教務主任研修会など)を中心に平成16年度から 導入され,その重要性が注目されている。しかし ながら,現在は管理職等の一部の教職関係者への 研修に止まっているのが現状である。また,短期 研修講座やインターバル講座,移動講座,へき地 移動講座,来所研究,希望研修など,現職教員の 多くのニーズに応えるべく,様々な研修形態の工 夫や内容の充実が図られている。 本大学においても,1年生では3日間の小・中 学校での「学校体験」を講座の中に位置付けた 「教職基礎研究」が,2・3年生では教職の魅力 や現場及び教育行政に関する内容を現職の教員や 指導主事などから生の声として学ぶことができる

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隈元浩二郎・大久保直志:県教育委員会と協働で取り組む教員養成改革 「教員養成基礎講座Ⅰ・Ⅱ」を充実させるなど, 和歌山大学のジョイント・カレッジの4部門にも 引けを取らない内容の講座等の構築が進んでい る。ただ,本県の研修も本大学の講座等も,個々 の研修としては内容的に充実してはいるものの, 体系化等が十分図られておらず,単発的な成果で 終始しているのが現状である。ジョイント・カ レッジのように,組織化や組織のエリアを越えた 系統化が図られることにより,より一層の相互の 研修の相乗効果の高まりと内容の充実が期待でき る。 (4) 各部門の特徴 各部門のバランスのよさは前述のとおりだが, ここでは各部門の特徴的な機能についてとらえた い。また,本県の機能とも比較しながらその効果 について考察したい。 ア 研究科教育部門 この部門では,教員という専門職としての資 質・能力の向上を目標としている。専門職という と,学習指導や生徒指導などの実践的な力量(教 材分析等)を中心とした研究に主眼を置いてしま うが,ここでは広く社会から学校に対して求めら れるであろう力量の育成に着眼している。 例えば,学校に対して保護者や地域の住民は何 を求めているのか〔ミッション〕,この1年間, 学校(学級)として何を目指(目標と)していこ うか,どんな学校(学級)にしようか〔ビジョ ン〕といった学校(学級)のマネジメントを意図 的・計画的に推し進める力のことである。また, 授業中,行き詰まった場面に遭遇したとき,どの ように乗り切ろうか,学校(学級)のトラブルや 児童生徒の活動時におけるトラブルや適切なかか わり方,指導・助言はどうあればよいか,保護者 や地域の方々とどのように付き合えばよいか,望 ましい家庭訪問の取組方とはどのようなものかな どといった適切なコミュニケーション能力やトラ ブル等の危機的な場面や非常時において適切に処 理する危機管理能力などのことである。 そこで,このような力量を育成し,今日的な課 題を解決できるようにするために,この部門では 「学校マネジメント力量形成コース」,「科学教員 養成コース」,「地域文化コミュニケーター教員養 成コース」の3コースを新たに設定している。 (ア) 学校マネジメント力量形成コース ここでは,児童生徒や保護者,地域社会のニー ズを把握し,学校としてのミッションを認識する とともに,それらの要請に応えるべく総合的な力 量をもつミドルリーダーの養成が目標となる。 ①社会における学校の役割についての原理的・歴 史的な理解の力 ②地域社会の教育要求を的確に把握し,それに 沿って学校を運営する力 ③地域社会の要求を把握して学校の教育目標を明 らかにし,その下に教育内容を編成する力 ④教育行政の役割を理解し,それと共同して学校 マネジメントを進める力 ⑤学校組織としてのメカニズムを理解し,学校内 外の人材を組織し,活用する力 ⑥学校マネジメントの総合的・実践的な力量 表1 学校マネジメント実践研究参加者 表2 学校マネジメント実践研究指導者 ここで問うている力量とは,まさしく地域社会 までを視野に入れた学校マネジメントであり,指 導者・経営者としてのスペシャリストの育成が主 眼となっている。実際の授業「学校マネジメント 実践研究Ⅰ・Ⅱ」を見ると,受講生の中心は大学 院生だが,平成17・18年度の場合,表1のとおり 現職教員等の参加もあり,かなり実践的な視点で 参 加 者 H17 H18 ス ト レ ー ト マ ス タ ー 4人 12人 留 学 生 1 1 現 職 教 員 6 4 学 校 経 営 者 1 0 計 12 17 指 導 者 H17 H18 大 学 教 員 等 2人 1人 県 教 委 の 指 導 主 事 等 9 4 現 職 の 校 長 等 5 2 計 16 7

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講義が進められたものと推測できる。 また,講義のカリキュラムを見ると全8回計画 されているが,その指導者は表2のとおり大学と 県教育員会,現場の管理職が連携して担当してい る。初年度と次年度に担当者数に大きな差が見ら れるが,これは初年度の経験を生かして見直しが なされたこと,また,2年次の最終回に総括討論 会を企画していることが関係している。どの講義 も,現場経験に主眼が置かれ,毎時間,論議や意 見交換が白熱したと報告にある。受講者にとって も,大学院生にとっては興味が高く,現職者に とっても身近な話であり,興味津々に意欲をもっ て参加できたのでないかと思われる。 本大学教育学部でも,同様に「教職特論Ⅰ」が スタートした。ストレートマスター1人,留学生 2人,現職教員8人に,県教育委員会との交流人 事で赴任した我々4人を加えた計15人の受講生 を,3人の大学教員が指導している。前期を講義 主体で課題を掘り下げ,後期に現場での実証を経 て検証しようという計画である。 ジョイント・カレッジの場合,教職に対する動 機付けや教職や現場の魅力を語ることで,受講生 の情意面は大いに触発されるが,講義・講演が主 体なので受け身的になりがちではないかと懸念さ れる。ただ,県教委を巻き込んだ講座の在り方や マネジメントを主体としたカリキュラムの組み方 は魅力的なので,今後,参考にして教職特論Ⅰが 改善されることを期待したい。 (イ) 科学教員養成コース ここでは科学に着眼し,現場の理科離れ等の改 善を期して設定されている。つまり,学校におい て実験や自然観察,ものづくりなど,体験的な要 素を取り入れた生き生きとした授業の展開を期し て取り組まれるコースである。 したがって,ここでは次のような資質や能力を もった教員の養成が期待される。 ①実験等を企画し,授業に取り入れ,子どもたち を的確に指導する能力 ②科学教材に係わる確かな学問的知識 ③カリキュラム構成能力 ④内容を分かりやすく,効果的に伝えることので きるプレゼンテーション能力 ここでの受講生は小学校教員を希望する学生が 対象なので,理科専攻生には限らない。また,当 然のことながら実際の小学校教員の理科授業を教 材として講義が展開されるので,現場の教員に理 科の授業を提供してもらいながら講義が進行して いく。 一方でこの提供授業が,現場の教員研修の場と しても活用されている。実験等の経験が少ない現 場の教員にとってもモデル的な授業を参考にする ことで,実験等を活用する力を養うことができ る。また,学生と一緒になって研修に参加するこ とで,普通の研究授業にはない刺激を受けながら 実験等の貴重な授業例を参考にすることができ る。つまり,将来の教師の卵と現職の教員が,共 に磨き合うことができる貴重な研修の場が形成さ れたわけである。 授業は,大学教員と県教育庁及び教育センター の指導主事等が協力して行い,講義と実験,実習 を組み合わせて提供されている。実施された内容 を見ると,各教材の背景にある学問的な内容,つ まり,アカデミックな側面を大学教員が担当し, 現場で工夫されている具体的な実験等の提供,つ まり,プロフェッショナルな側面を県側の指導主 事等が担当・解説しており,上手にそれぞれの持 ち味を生かした指導・分担になっている。 授業は,年に3回,2分野ずつ提供され,年間 で6コマの研究授業が実施されている。また,物 理,科学,生物,地学の4分野が,バランスよく 配置されていることからも,かなりの事前打ち合 わせが積み重ねられたと推測される。ただ,機材 の準備や安全面の関係もあるのだろうが,受講生 が3~10人,現職教員の参加が5~7人程度と少 なく,実にもったいない感があった。 報告書にまとめられた成果と課題について,以 下のようにまとめることができる。 【成果】 ・ 実験等に関する高等学校レベルの知識を整理 して学ぶとともに,小・中・高等学校を通した 系統的な指導法や内容整理を理解することがで きた。

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隈元浩二郎・大久保直志:県教育委員会と協働で取り組む教員養成改革 ・ 教科書に掲載してある実験のほとんどを実証 することで,実験へのハードルが低くなり,現 場での積極的な実践の推進が期待できる。 ・ 実験等の内容と学習指導要領や教科書,県学 力診断テストなどとの関連性を学ぶとともに, 学力定着のための実験等の工夫の重要性を再認 識することができた。 ・ 学校現場で積極的に実践することができるよ うに,準備が簡単で,児童生徒の関心を引くこ とができる実験を研修することで,実験等の楽 しみだけでなく,実験等に対する予想や分析を 基に,自らの力で解決を導き出す重要性を認識 することができた。 ・ 理科を得意としない受講者が,実験等を通し た講義に参加したことで,苦手意識を払拭さ れ,授業での活用が期待できる。 【課題】 ・ 講義における試薬類や器具などの準備性を見 ると,すべてが現場で準備できるものばかりで もなく,準備段階における難しさについて課題 が出された。 ・ 受講者が学生から現場教師,新人からベテラ ンまでと対象が幅広く,課題意識や指導法に対 する必要性,受講者としてのニーズも多様で, 期待に応えられたか不安が残る。 ・ 小学校教員や中学校教員,大学院生及び高等 学校の理科教員などと受講者が多様なため,内 容をどのレベルに設定すればよいのか,非常に 難しかった。 ・ 受講者が少なく,きめ細かな指導は実現でき たものの,もう少し多くの参加者を望みたい。 ・ 室内のみの講義ばかりだったが,実際の河川 の特徴や堆積物などを直接見た上での講義・実 習の形態を模索する必要がある。 以上のとおり,実験等に対する苦手意識の払拭 や実験等の体験を伴う学習の重要性について,身 をもって体験できた貴重な講義が構成されてい る。また,学習指導要領や教科書などとの関連を 学ぶことで,明確な意図をもって実験等に望むこ とが期待できる内容になっている点が評価でき る。 ただ,指導者側の準備の大変さや,講義と実習 とのバランスや打ち合わせの難しさ,対象者の特 定,現場の実態把握など,課題も多く,今後,カ リキュラムをどのように改善していくか,実態に 応じた対応をどこまで追究できるか,系統性を講 座の中でどれだけ生かすことができるか,講座自 体の評価をどのように集約させるかなど,大きな 課題がまだ幾つも残されている。 本県の場合,研究公開や県総合教育センターの 研修等において大学の教員と県の指導主事等が協 働して講座等を構築する例も見られるものの,こ のように全面的に学生をも交えて継続的に実施し ている例は見られない。一部の教科や部門,分野 などにおいて実習的に実施している例もあるが, あくまでも主催者に相互が協力・提供するといっ た関係のケースがほとんどであるので,昨年度か らスタートした本大学と県教育委員会とが協働し て取り組んでいる教師の授業改善能力等の向上を 目指したモデルカリキュラム開発の研修は,今後 の発展が期待される。 (ウ) 地域文化コミュニケーター教員養成コース このコースは,和歌山県の貴重な宝,世界遺産 や歴史的遺産などの地域資源を活用した地域学習 プログラムを創造・実践できる実力派の教職員や 地域プランナーを指導者として構築した教員養成 のカリキュラムである。当然,県側も大学と各課 が横断的に連携し,各地区の事務所や地教委をも 巻き込んだ画期的な企画と言えよう。 このコースの取組は,「地域文化を愛する教 育」の提唱であり,まさしく特色ある教育活動の 展開をストレートに実践した内容である。本県で は,例えば,社会教育課が主催する各地域での生 涯学習大会や,読書活動の啓発のためのイベント や研究授業,農林水産課等の知事部局が主管とな り,地引き網体験や関係者をゲストティーチャー として招聘する例などはあるが,あくまでも児童 生徒の学習や地域の啓発などが主たる目的で,教 員養成や教員の資質向上などの発想で実践された 例はない。 この連携については,単に大学と教育行政がか

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かわるだけでなく,地域社会の関係者や教育現場 の教育課程,地域資源を教材化するための手続 き,安全面等への配慮等など,解決しなければな らない課題や手続き,配慮事項などが山ほどあ る。それらをクリアしていく連携のエネルギーに 圧倒されるとともに,まずは悩むよりも関係者等 への働き掛けなど,情熱と行動力が不可欠である と感じた。 イ 学部教育部門 表題のとおりに教育学部の講義を,県教育委員 会の指導主事等が担当している部門である。免許 法上の区分は「教科」または「教職」で,授業名 は「教育の現状と課題」と題している。 県教育委員会から派遣される指導主事等の講師 は,客員教授,もしくは客員助教授として採用さ れる。この連携はスタート当初から取り組まれ, 8年以上の歴史をもっている。 (ア) 内容構成 講義は学習指導要領を中心に据え,前半を小学 校教育,後半を中学校教育の2部に構成し,下記 の内容を講義の柱に設定して実施している。 ① 教育課程全般について ② 授業の在り方について ③ 「総合的な学習の時間」の問題について ④ 評価について ⑤ 学校教育の課題について テキスト資料や受講者の感想などを見ると,講 義担当が上記の柱に沿いながらも,常に実践例を 交えながら講義を展開しているので,現場の様子 をとらえやすい内容であったようである。また, 今日的な課題も十分に踏まえ,関連するデータも 丁寧に準備されており,説得力のある講義内容に なっている。 (イ) 成果と課題 ここでは,報告書に掲載された実践記録からと らえた成果と課題を紹介したい。 【成果】 ・ 学生は,教育現場の事情をよく知る講師から 実践的な内容の講義を受けることができた。 ・ 授業を受けている学生の熱心な様子から,実 践的な授業内容に大きな刺激を受けてることが 把握できた。 ・ 教育学部の教員も授業に立ち会うことで,現 在の教育現場の課題等を把握する機会となっ た。 ・ 採用したい人材に対して,養成段階から期待 する資質について伝えることができた。 ・ 優れた人材の採用につなげるため,学生の教 職に対する意識を直接高めさせることができ た。 【課題】 ・ 学生に対する教育効果は非常に高いものの, 受講生の希望や目的が多様なため,一般的な共 通の内容のものから各論に踏み込めない点が課 題として残った。 ・ 本講座が,教員免許取得を目的とする学生一 般の講座として位置付けられている限り,やむ を得ないことだが,どうしても講義の焦点が絞 りきれなかった。 ・ 模擬授業を取り入れた取組は,経験そのもの としても大きな効果があったと思うが,模擬授 業を取り入れた実践的教職科目としては,授業 者を育成するということを主眼に置いてしまう が,その授業を受ける「子ども役」に対しての 指導もなければ質の向上は望めない。 ・ 入学後から徹底して教員としての資質を高め るためには,教育学部全体のカリキュラムを体 系化する必要がある。 ・ 学生の模擬授業に対する評価の在り方や評価 基準を明確にする必要がある。 以上のように,学習のバランスを重視しながら も,多岐にわたる内容でカリキュラムを組んだ 分,焦点化する点において課題が見え隠れする。 新しいチャレンジ(模擬授業等の導入)による試 行錯誤が,様々な改善点の糸口にもなっているの で,失敗を恐れずに取り組むことの大切さ,理論 に裏付けられた実践の重要性,間接的でも体験す ることの重要性など,多くの学ぶ点を得た。

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隈元浩二郎・大久保直志:県教育委員会と協働で取り組む教員養成改革 本県においても,アカデミックな側面とプロ フェッショナルな側面はそれぞれかなり深く研究 されているが,両面のバランスの重要性や横断的 な研究についてはまだまだ研究の余地が残されて いると考える。 ウ 教員研修部門 自分自身が所属する教員研修の研究に関わる内 容なので,教員研修部門については大きな関心を もって視察に臨んだが,和歌山大学においては報 告書(P135)を見ても明らかなように,この部 門の研究はまだ試行段階であった。 県教育員会が取り組んでいる悉皆研修等に,多 くの大学教員が派遣されている。現職教員の教育 研修に当たるという形で,連携が軌道に乗ってい る。悉皆研修への対応は,本県とほぼ同様の取組 がなされていると言える。 また,大学院や専攻科に県教育委員会派遣の現 職教員の受入にも取り組んでいる。加えて,県教 委派遣という形以外でも,夜間の大学院コースに 所属して教育研究を進めている教員もいる。現職 教員の大学における学びの形態も,ほぼ本大学と 同じ取組である。 さらには,教育実践研究指導センターのプロ ジェクトの外部研究員として,県内外の現職職員 が参加して,研究に取り組んでいる。これも,本 大学教育学部附属教育実践総合センターの研究協 力員制度と同様である。 ただ,ジョイント・カレッジ事業の中では,こ れらの取組を基盤として,県教育員会と更なる連 携を企画・立案していくところに目途があるよう である。現職教員の研修を,県教育委員会と大学 とが共に見直し,改善・実施するという取組であ る。 本県も,県総合教育センターが機構改革や悉皆 研修の改善を実施して3年が経過した。これまで の取組を見直す時期である。この機会に,県と大 学が連携できれば本県も本格的な連携事業推進の 時期に入ると言えよう。 エ 地域連携部門 県教育委員会が仲立ちをし,高等学校と大学と のコラボレーションが「出前講義」という形で実 現している。特に,対象校が一部の県立高等学校 ではなく,県内全ての県立高等学校を対象として いるところが特徴である。 (ア) 出前講義(高大連携) 和歌山大学では,平成13年度から「出前講義要 項集」を,県内全ての県立高等学校に配布してい る。この高大連携の試みは,高校教育の活性化に 大学が寄与すると同時に,大学側にとっても入学 してくる高校生の実態を,直截に把握することが できるというこれまでにない機会となっている。 県教育委員会は,県内の出前講義の要望を集約 して大学に送り,希望の講義内容で引き受けるこ とが可能な講師がいれば,大学から高等学校へ派 遣している。それが難しい場合は,県教育委員会 を含め,大学と高等学校間で連絡・調整を行い, 実施する方向で取り組んでいる。 鹿児島県では,各高等学校が特色ある教育活動 の一環として,総合的な学習の時間などを活用し ながら卒業生や地域の人材等を活用し,独自の講 座やセミナーを設定している。たとえば,県立錦 江湾高等学校の「錦江湾学」や県立川辺高等学校 の「神戎陵学」などが個性豊かな学習活動として 有名である。ただ,地元の大学と全面的に全ての 高等学校が連携して取り組むケースは,他に例を 見ないと思われる。また,県教育委員会が全面的 にバックアップして取り組まれている例も希有で ある。 大学と高等学校が連携することで,相互の実態 を把握するとともに,相互が学問領域に対する取 組や相違点を認識することで,専門教育の系統性 が生まれ,指導効果の向上や上級学校への生徒の 認識も高められるのではないかと期待される。 (イ) 実習体験学習 ①へき地・複式教育実習 和歌山大学教育学部では,教育実習改革及び実 習機会の拡大の一環として,山村へき地に滞在 (ホームステイまたは合宿)し,地域の学校へ実 習に通う「へき地・複式教育実習」を,平成14年 度よりスタートさせた。

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和歌山県は,複式学級をもつ学校が87校(平成 17年度)に及ぶ。これは,全小学校の3割に当た り,今後も増加の傾向にある。こうした地域の特 性に着眼し,スタートした制度である。そこで は,地域密着型教育や少人数で一人一人の児童生 徒の個性をとらえた指導,複式学級特有の授業法 等を学び,教師としての自覚の高揚や指導力のあ る教員養成の特色ある取組として位置付けられて いる。 特に,校区内にホームステイをしたり,合宿を したりして,実習期間に取り組むスタイルは全国 的にも珍しい。家庭や地域社会との連携の重要性 を認識するとともに,実習期間を同じ立場の実習 生同士が,寝食を共にしながら互いに高め合って いく経験は,とても貴重な学びである。 本県も,南北600㎞にわたり,離島やへき地が 和歌山県以上に存在している。本大学も,1年次 に離島の教育の在り方やへき地・複式教育を意識 した体験講座などに取り組んでいる。本県及び本 大学も,このような取組例を参考にしながら,今 後来るであろう少子化の波や学校の統廃合問題な ども意識しながら,地域に根ざしたへき地・複式 の教育実習の改革を検討する時期に来ていると考 える。 ②教育ボランティア 和歌山大学教育学部では,学生を公立学校及び 附属学校に派遣し,学校現場で教育ボランティア として活動することで,教職を目指す学生の資質 向上を図っている。大学は,県教育委員会や地教 委と連携を取りながら,学校現場と「協定書」を 取り交わし,責任の所在を明確にするとともに, 学生は現場の先生の指導を受けながら補助的立場 でボランティア活動に取り組んでいる。 本人のボランティア活動の実績の積み上げとい うメリットもさることながら,受入学校側におい ても,児童生徒を比較的年齢が近い学生との交流 や学校全体の活性化など,多くのメリットが確認 された。また,特別支援教育に関わっている学生 もおり,児童生徒に好影響が出ていることが確認 されている。 ③各プロジェクトの取組 和歌山大学教育学部では,「ミュージアム・ボ ランティア」や「情報教育プロジェクト」,「臨床 研究プロジェクト」,「教育実習改革プロジェク ト」など,様々なプロジェクトの取組を通して, 教員養成カリキュラムに反映させている。 特に,ミュージアム・ボランティアに関わるプ ロジェクトにおいては,県立の4博物館との連携 を図り,学芸委員をも巻き込み,地域社会と密着 した特色ある教育活動を展開している。その他の プロジェクトの取組においても,地域社会の人々 とまさしく密着した活動を数多く展開している。 ④その他の事業 その他の事業としては,「科学教育振興事業 (実験工作キャラバン隊)」や「サイエンス・も のづくり指導実習」,「教育フォーラム」などが挙 げられる。 科学教育振興事業(実験工作キャラバン隊) は,地教委や地域の学校,各種教育機関などと連 携・協力しながら主体の活動を展開している。 「児童の実験観察指導実習」や「おもしろ科学ま つり」など,学生が児童生徒に直接指導したり, 活動したりする場を設定・工夫している。 サイエンス・ものづくり指導実習は,実験工作 キャラバン隊が,任意の参加なのに対して,正規 の授業科目となっている。すべての学生が,児童 生徒とのふれあいを通して,子どもたちとの接し 方や話し方,準備の仕方,会の運営の仕方などの 術を身に付けていくのである。 本大学においては,教科やゼミ,研究室単位な どでは,かなり幅広く取り組まれているが,正規 の授業に位置付けた取組は今後の参考にしたいも のである。

3 教育実習の充実

(1) 授業観察(1年) 和歌山大学教育学部では,入門編として1年生 の段階で「授業観察」を実施し,教職の魅力に気 付かせ,教員としての使命感や志望動機の強化を 目指した意識付けをねらいとして取り組んでい

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隈元浩二郎・大久保直志:県教育委員会と協働で取り組む教員養成改革 る。 観察実習は,小学校と中学校についてそれぞれ 半日ずつ実施している。小・中学校の観察実習を 終えた後,観察した内容についてディスカッショ ンに取り組ませる。そして,その後に観察した授 業についてシミュレーションを行っている。観察 実習は,上級生の本実習と時期が重なっているの で,シミュレーションに取り組む学生の意識も高 く,効果を挙げている。 本大学でも,今年度から1年生は鹿児島市内の 小・中学校において「学校体験」を実施した。 学校体験は観察に止まらず,講話を聞いたり,実 際に活動や支援に取り組んだりした。事前の意識 付けや事後の取り組ませ方次第では,和歌山大学 教育学部以上の効果も期待できる。ぜひ和歌山大 学教育学部の授業観察を参考にして,学校体験も 成功させたいものである。 (2) 1日体験実習(2年) 2年生は,和歌山市内の小・中学校に「一日体 験実習」を実施している。約5名ずつの学生が, 市内の18校に分散して一日間,様々な教育活動の 体験をこなし,3年次の主免実習や4年次の副免 実習に繋げている。 本大学では,2年生が複式学級において学生補 助員として現場を支援している。現場の苦労軽減 に併せ,南北600Kmに及ぶ本県の実態に即した取 組である。今後,1年次から教育実習までの系統 性の観点からよく見直して改善されれば,和歌山 大学以上の効果を挙げることが期待できる。 (3) オプションで実施する教育実習 和歌山大学教育学部では,単位とは直接関係な いものの,学生の実践的な指導力や経験値の向上 を目指し,オプションで特色ある教育実習を展開 している。 実習の場数を多く踏ませることで,教壇に立つ ことに対する自信に繋げることが目的の「応用実 習(母校または実習協力校で実施)」や「ボラン ティア実習」がある。また,「インターシップ」 も,前述した「へき地・複式教育実習」と並行し て実施されている。本稿の2,(4),エ,(イ),① へき地・複式教育実習,P28参照) このように,地域の実態に応じたバリエーショ ンのある教育実習の展開が,本県にも期待される ところである。

ライフステージを見通した教職研修

の取組

(1) Logosの充実 和歌山大学教育学部では,3年生(教育実習 を終えた秋),4年生,ストレートマスター2年 生を対象に,教職・キャリア教育の知識等を集中 講義の形態で,放課後に実施している。例年,70 ~80人程度が参加している。 和歌山大学は,平成12年度,教育学部卒業生の 教員就職率が全国で最下位であった。この危機的 状況を受けて学部一丸となった取組がスタート し,試行されたのがLogosであった。現在,教員 は7人,退職校長が8人,CDAが1人,事務員 が1人で担当している。 Logosは,採用試験1次の突破を目標に据え, その第一歩の動機付けを担った。もちろん,指導 の中では受験のノウハウにも触れるが,各講義に おける主体的な取組を一番に期待している。 なお,学生の連絡や相談などについては,メー リングリストを活用し,大きな効果を挙げてい る。 (2) 教職支援室の取組 各学部にキャリア・アドバイザーを配置してい るが,教育学部では教員採用試験を専門に教職支 援室を設定している。教育学部の教職支援室で は,他学部で教員を志望している学生について も,希望があれば指導している。 ここではエントリーシートを用意し,自己のア ピールをはじめ,履歴,志望動機,ボランティア 等の活動内容,自分の生き方,教職に生かしたい 内容価値などをまとめさせている。このシートは 模擬面接の指導やLogosの指導の際に活用されて いる。

5 おわりに

初めての調査研究ということもあり,調査の視

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点がやや曖昧で,内容的にも拡散してしまったが, 今後の見通しや焦点化すべき教員養成や教員研修 の改革の着眼点などを得ることができた。今後の 取組の一助として,改善の視点をまとめたい。 (1) 系統性の確立と形態の体系化 和歌山大学においては,1年次から大学院まで 一貫したカリキュラムの在り方を模索し,それぞ れの発達段階における養成の在り方を意図的・計 画的に構築しており,セクト的な構造化でなく, 全体的な視野で改革しているところに学びたい。 系統性という縦軸と,大学全体の養成のためのカ リキュラムを一つのものに体系化しようとする横 軸の取組を参考にしたいものである。 (2) 本音で語る連携 本県の場合,大学側と県教育委員会との組織 的・協働的な取組はまだ緒についたばかりだが, 形式的・紋切り型の顔合わせにならないように留 意し,細かな連絡・調整や資料の交換など,本音 で語る本腰のつながりが,真の連携と呼べるので はなかろうか。相互がそれぞれの立場を抱えてい るので,それぞれが互いの立場を尊重し,壁にぶ つかった際には率直に事情を語り合い,双方にふ さわしい妥協点を模索しなければならないと考え る。 また,早い時期に形態ではなく,内容に関する 実質的な練り上げを中心とした語り合いを重視す る視点で取組を移行させることが肝要である。内 容の充実こそが,連携したことを児童・生徒・学 生に還元する一番の近道である。 (3) 組織の連鎖 新しい事業を起こす場合,その都度,新しい組 織やメンバーを構築するのではなく,それまでの 組織や取組のノウハウを最大限に活用することが 肝要である。従来の取組やノウハウを手掛かりに することで,新しいアイデアも生まれやすくなる と考える。 (4) 地域の特色・特性を生かした取組 本文の中でも何度も述べたが,鹿児島県という 地域性や特色・特性を十分に生かした教員養成や 教員研修の改革でありたい。確かに先進地の実践 は大変参考になるが,そのまま導入すれば必ず失 敗する。まずは本県の特色や特性をしっかりと把 握し,それぞれの地域性等に合った取組を展開し たいものである。 (5) 教員養成と教員研修は表裏一体 今回の調査研究で再認識したことは,教員養成 と教員研修を切り離して考えることはできないと いうことである。(1)で述べた系統性や体系化も 根本に教員養成と教員研修が表裏一体の関係にあ るからに他ならない。この視点は当センターの二 つの部門だけの課題ではなく,大学や県教育委員 会,並びに教育現場をも含めた共通課題であると 再認識したい。 引用・参考文献 1:今後の教員養成・免許制度の在り方について (答申)平成18年7月11日 中央教育審議会 2:県教委と大学によるジョイント・カレッジ報 告書 平成19年1月 和歌山大学

参照

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