Title 我が国における人文・社会科学系博士課程修了者の進 路動向
Author(s) 朴, 堯星
Citation 年次学術大会講演要旨集, 26: 277-280 Issue Date 2011-10-15
Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/10119
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2B26
我が国における人文・社会科学系博士課程修了者の進路動向
○朴 堯星(文部科学省 科学技術政策研究所) 1.はじめに 中央教育審議会大学分科会の「中長期的な大学教育の在り方に関する第四次報告」1 によれば、「人文・ 社会科学系では、修士課程と博士課程(前期)から博士課程(後期)への進学率は高いが、博士課程修 了者のキャリアパスの中心は、主に大学教員であり、修了者が社会の様々な場で活躍する多様なキャリ アパスが学生に十分に明らかにされていない」と指摘されている。さらに、「人文・社会科学系では、 学位授与の要件、学位授与までの各過程に必要となる期間、学位取得後のキャリアパス等の情報の公表 の促進」が求められるとされている。この指摘は、個々の大学は別にしても、我が国全体では人文・社 会科学系の博士課程修了者の実態、特に進路動向が十分明らかにされていないことを示唆している。 本稿は、我が国における博士課程修了者の内、人文・社会科学分野と教育、家政、芸術等の分野(以 下、「その他の研究分野」と略す)を専攻していた者の進路動向を明らかにするため、2008 年度に実施 された「我が国における博士課程修了者の進路動向調査」(以下、「博士課程修了者進路動向調査」)の 結果を再分析したものである。本稿では、上記の「博士課程修了者進路動向調査」のデータを用い、人 文科学、社会科学分野とその他の研究分野を専攻した者の進路動向を明らかにし、人文・社会科学やそ の他の研究分野における博士課程修了者の人材育成のあり方についての知見を得ることを目的とする。 2.「博士課程修了者進路動向調査」の概要及び、本研究が使用するデータの出典 2-1.「博士課程修了者進路動向調査」の概要 本稿は、文部科学省科学技術政策研究所が実施した「博士 課程修了者進路動向調査」のデータを分析したものである。 博士課程修了者進路動向調査は、日本国内の博士課程を有す る大学に対し、2002 年度から 2006 年度の 5 年間に博士課程 を修了した者(博士号取得及び満期退学者)全員の性別、年 齢、国籍、博士号取得の有無、研究分野等の諸属性と共に、 博士課程修了後の職業、就職先機関等の進路動向(終了直後 及び現在の職業)を調べた全数調査である。 2008 年 7 月から 10 月の間で実施され、414 大学に調査票 を送付し、全ての大学から回答を得られており、収集された 個人単位のデータは75,197 名である。これは同期間の学校基 本調査の修了者数 74,573 名に対し、1%未満の違いに留まっ ており、学校基本調査の集計値とほぼ一致している。 2-2.人文・社会科学系修了者の人数と比率 本稿で特に取り上げる人文科学、社会科学、その他の研究分野の修了者数及び調査対象者全体に占め る比率と共に、人文科学、社会科学、その他の研究分野における詳細な研究分野区分2を表1 に示した。 結果、人文科学、社会科学ともに全体の9%、その他の研究分野を含めて全体の 4 分の 1 程度を占めて いる。また詳細研究分野ごとにその人数と比率を確認すると、人文科学では、文学を専攻する者が一番 1 中央教育審議会大学分科会(2010)「中長期的な大学教育の在り方に関する第四次報告」(http://www.mex t.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2010/07/13/1295688_01.pdf)。 2 どのような専攻がこれらに含まれるかは、例えば「学校基本調査-平成 21 年度 附属資料 高等教育機関 学科系統分類表」(http://www.mext.go.jp/ component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2009/12/18/12881 26_4.pdf)を参照。 表 1 人文・社会・その他分野の人数と比率 大分類 詳細 人数 全体% 人文科学 7023 9.3% 文学 2642 3.5% 史学 1277 1.7% 哲学 608 0.8% その他 2496 3.3% 社会科学 6960 9.3% 法学・政治 1677 2.2% 商学・経済 2907 3.9% 社会学 1054 1.4% その他 1322 1.8% 3439 4.6% 家政 166 0.2% 教育 1739 2.3% 芸術・その他 1534 2.0% 75197 100.0% その他の研究分野 調査対象者全体3. 基本属性からみた人文・社会科学とその他研究分野における博士課程修了者の特徴 3-1.性別及び平均年齢、博士課程修了時の年齢 全データからみた博士課程修了者の男女比を確認すると、人文科学、その他の研究分野における男女 比は、51 対 49 であり、女性比率はそれら以外と比べて極めて高い。特に、社会科学では 67 対 33 で男 性の方が多くなっているが、理系の研究分野に比べれば女性比率は高い方である。また、平均年齢につ いては、人文・社会科学では、理系と比べて修了時の平均年齢が高い(社会科学が最も高く35.4 歳、 一番若い理学と比べて5 歳以上の差がある)。 一方、研究分野別における博士課程修了時の年齢の平均値、 標準偏差、中央値の一覧を表 2 に示す。その結果をみると、 理学、工学、農学は、博士課程修了者が 20 歳代後半に集中 しているのに対し、人文科学、社会科学、その他の研究分野 では30 歳代前半まで広がり、保健では分布の頂点が 30 歳代 前半になっている3。また標準偏差をみると、社会科学、人 文科学、その他の研究分野で値が高く、これらの分野で年齢 分布が集中していないことが確認できる。 さらに修了時の平均年齢を見ると、社会科学が最も高くて 35.4 歳となっており、一番若い理学と比べて 5 歳以上の差が ある。その他の研究分野(34.6 歳)や人文科学(34.5 歳) も平均年齢が高く、人文・社会科学・その他の研究分野は、 理系と比べ、修了時の年齢が高いといえる。なお、表 2 は、 年齢不明の2103 名を除いて計算したものである。 3-2.学位取得状況 まず全分野における学位取得状況を図1 に示す。博士課程修了時における博士号の学位取得率は、理 学、工学、農学、保健は80%以上であるのに対し、人文科学は 33%、社会科学、その他の研究分野でも 50%を下回っている。さらに、人文科学、社会科学、その他の研究分野における詳細な研究分野ごとの 学位取得状況を確認すると、人文科学では哲学の学位取得率が最も低く、その他の人文科学分野と比べ ると、20 ポイント程度の差がある(図 2)。とりわけ、社会科学では、社会学、法・政治の学位取得率 が低いが、商・経済では、取得率が50%を超えている。また、人文科学、社会科学の内でも大きな違い が見られるものの、学位取得率は、理系分野に比べて低くなっていることが明らかとなった。 3 ただし、『我が国の博士課程修了者の進路動向調査』の学生種別割合に基づくと、理学は一般学生が 83%を 占める一方で、工学・社会科学では社会人学生・留学生の割合が高い。そのため、人文・社会科学・その他 の研究分野における社会人学生が占める割合に連動する可能性がある。 図 2 人文・社会・その他研究分野の詳細分野にお ける学位取得者の割合 図1 全分野における学位取得者の割合 72.5% 54.9% 47.3% 44.7% 33.2% 81.0% 84.8% 85.0% 82.4% 27.1% 38.4% 52.3% 55.2% 66.6% 19.0% 15.2% 14.7% 16.6% 0.4% 6.7% 0.4% 0.1% 0.2% 0.0% 0.0% 0.4% 1.0% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 全体(75197名) 不明(842名) その他(1749名) 社会(4666名) 人文(3566名) 保健(16692名) 農学(4496名) 工学(17896名) 理学(9047名) あり:博士号 なし:満期退学 不明 50.7% 45.1% 38.6% 49.5% 34.6% 50.3% 37.6% 41.4% 21.7% 29.1% 30.2% 48.4% 54.9% 61.4% 50.5% 64.8% 49.7% 62.3% 58.6% 78.3% 70.4% 69.6% 0.9% 0.6% 0.1% 0.1% 0.5% 0.3% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 芸術・その他(778名) 教育(785名) 家政(64名) その他(654名) 社会学(365名) 商・経済(1461名) 法・政治(631名) その他(1034名) 哲学(132名) 史学(372名) 文学(797名) ・ サ ・ フ ・ シ ・ ミ・ ・ ・ l・ カ あり:博士号 なし:満期退学 不明 表 2 研究分野別博士課程修了時の平均年齢 大分類 詳細 人数 平均値 標準偏差 中央値 理学 8857 30 4.7 28.6 工学 17570 33 7.6 30.1 農学 6032 31.9 5.7 29.9 保健 22610 33.2 4.8 32.3 人文科学 6912 34.5 7.7 32.3 文学 2608 34.4 7.9 32.1 史学 1260 33.3 6.6 31.5 哲学 602 34.3 8.3 31.9 その他人文 2442 35.3 7.7 33 社会科学 6879 3 5 . 4 8.3 3 2 .8 法学・政治 1668 34.9 8.3 32.4 商学・経済 2876 35.3 8.3 32.7 社会学 1048 36.9 8.8 34 その他社会 1287 35.1 7.9 32.7 3395 34.6 7.9 31.9 家政 166 37.3 9.4 34.2 教育 1739 35.1 8.5 32 芸術・その他 1490 33.6 6.8 31.5 不明 839 32.4 6.0 30.6 全体 73094 33 6.6 31.2 その他の研究分野
ただし、全分野における修了年度別の学位取得者比率を確認すると、人文科学、社会科学、その他の研 究分野は、理系分野に比べて、学位取得者比率が毎年増加している(図3)。さらに、図 4 は、人文科学、 社会科学、その他の研究分野の詳細研究分野における修了年度別の学位取得者比率の変化を表したもの である。図4 によれば、特に商学・経済、社会学、教育の学位取得率が例年、高くなっていることが確 認された。 4. 進路動向からみた人文・社会科学とその他研究分野における博士課程修了者の特徴 本節では、博士課程修了者の進路動向を把握するため、修了直後の就職先機関と職業を着目している。 そこで全分野における博士課程修了者の修了直後の就職先機関の割合を図3 に、全分野における博士課 程修了者の修了直後における職業の割合を図4 に示す。その特徴を、下記に列挙する。 第一に、人文科学、社会科学、その他の研究分野は、理系に比べて大学教員の比率がかなり高い。た だし、非常勤の大学教員、専任講師以上の職階で、特に理系よりも高いことが見られる(図3)。このこ とは、同じ大学教員になった者でも、人文科学、社会科学、その他の研究分野では、理系分野と比べて 非常勤比率が高く、不安定な雇用形態が存在する可能性があると考えられる。また人文科学、その他の 研究分野は、小学校・中学校・高等学校教員(幼稚園、養護学校を含む)の割合が比較的に高い(図4)。 第二に、学生の種類との関係を確認すると、教員(小中高)になった者においては、人文科学は一般 学生が多く、社会科学、その他の研究分野では社会人学生(教員をしている者も含まれる)多い。ただ し、人文科学、その他の研究分野では、一般学生から教員(小中高)になった者の雇用形態が不安定で ある。全体として一般学生の方がポストドクターになる者が多いが、社会人学生については、社会科学 では民間企業に勤める者が多く、人文科学では大学教員になる者が多くなっていることが確認された。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 2002 2003 2004 2005 2006 文学 史学 哲学 その他人文 法学・政治 商学・経済 社会学 その他社会 家政 教育 芸術・その他 図 4 人文・社会・その他研究分野の詳細分野にお ける修了年度からみた学位取得者比率の変化 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2002 2003 2004 2005 2006 理学 工学 農学 保健 人文 社会 その他 図3 全分野における修了年度からみた学位取得 者比率の変化 53.1% 39.1% 50.6% 57.9% 71.7% 66.3% 70.4% 43.0% 53.8% 5.2% 2.5% 5.9% 1.4% 12.2% 4.3% 11.4% 8.1% 4.0% 15.6% 10.7% 18.1% 3.8% 3.1% 3.8% 3.3% 8.1% 8.2% 22.0% 43.5% 17.6% 7.9% 4.9% 14.5% 6.0% 25.8% 19.9% 1.9% 2.0% 4.1% 3.7% 1.9% 5.1% 1.2% 4.2% 3.0% 2.0% 2.1% 3.6% 24.8% 4.7% 5.4% 5.6% 10.9% 10.8% 0.2% 0.1% 0.1% 0.4% 1.5% 0.5% 2.1% 0.0% 0.4% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 理学 (6292名) 工学 (13723名) 農学 (4677名) 保健 (18637名) 人文 (3811名) 社会 (3801名) その他 (2010名) 不明 (384名) 全体 (53335名) 大学等 その他の教育機関 公的研究機関 民間企業 官公庁 その他 無所属 図3 全分野における博士課程修了者の就職先(博士課程修了直後)
第四に、人文科学では学位取得者の大学教員になる割合が高いが、社会科学ではこのような傾向が見 られない。ただし、学部の出身大学と職業把握状況を比較した追加分析によれば、人文科学では、別の 大学の学部出身者の方が大学教員の割合が高く、専門知識を要する職が少なくなっているが、社会科学 では、人文科学とは逆に、同一大学出身者の方で大学教員の割合が高く、専門知識を要する職が少なく なっていることが確認されている。 第五に、出身大学と職業を比較した追加分析に基づくと、学部と同じ大学院で学んできた者ほど、自 校の教員になりやすいという傾向は、全研究分野で共通している。ただし、理系と比べて人文科学、社 会科学、その他の研究分野ではその傾向が弱く、大学間移動(学部の大学と博士課程が異なる、就職先 が博士課程と同じ大学でない)も多いことが見られている。 5. おわりに 本稿は、人文科学、社会科学、その他の研究分野における博士課程修了者の進路動向の実態を明らか にしようとしたものである。そのため、本稿では、博士課程修了者の基本属性と研究分野を軸とした綿 密な分析を行っている。 これまで人文・社会科学系の博士課程修了者には、理系分野に比べて社会の様々な場で活躍する多様 なキャリアパスが形成されていないと指摘されていたのに対し、本稿の結果によれば、必ずしもそのよ うなことではない可能性が示されている。例えば、人文科学、その他の研究分野は、小学校・中学校・ 高等学校教員(幼稚園、養護学校を含む)の割合が比較的に高く、また社会科学では、弁護士を含む知 的財産関連職、公認会計士や税理士を含む経営専門職の割合が比較的に高い点には注目できる。これは、 我が国における人文・社会科学やその他の研究分野における博士課程修了者に、多様なキャリアパスを 形成することに役立つことが期待できると考えられる。同時に、今後の人文科学、社会科学、その他の 研究分野における博士課程人材の育成においても、社会の様々な場で求められる人材像に向けた多角的 なアプローチが重要であることが推察される。 最後に、「博士課程修了者進路動向調査」では、人文科学、社会科学分野の修了者は理系分野に比べ て職業把握率が低かったこともあり、まだまだ正確な進路が捉えられているとは言い難い。また、調査 対象期間が5 ヶ年であり、修了後の進路変更があまり把握できていない。今後、これらの問題を解消す るには、組織的、かつ、計画的な進路の追跡方法を確立する必要がある。 【参考文献】
NISTEP.(2009). NISTEP REPORT No.126『我が国の博士課程修了者の進路動向調査』.文部科学省科 学技術政策研究所 NISTEP.(2010). 調査資料 184『-博士人材の将来像を考える‐理学系博士課程修了者のキャリアパス』. 文部科学省科学技術政策研究所 図4 全分野における博士課程修了者の職業(博士課程修了直後) 43.8% 20.0% 35.9% 9.4% 14.9% 11.2% 9.8% 13.3% 19.1% 6.3% 13.1% 9.5% 15.6% 15.5% 24.6% 26.0% 8.1% 14.4% 5.4% 7.2% 8.1% 7.0% 29.4% 20.3% 21.8% 8.4% 10.3% 24.6% 43.1% 30.3% 9.7% 5.1% 7.9% 10.9% 34.6% 21.2% 51.8% 12.4% 10.4% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 理学 (7048名) 工学 (14173名) 農学 (4998名) 保健 (19895名) 人文 (4574名) 社会 (4466名) その他 (2306名) 不明 (405名) 全体 (57865名) ポストドクター 大学教員(専任) 大学教員(その他) 研究開発関連職 専門知識を要する職 その他