「働き方改革」をめぐる教員の意識について
参与観察とサーベイ・フィードバックを用いた事例研究から
森 田 直 樹・斎 藤 周
群馬大学教育実践研究 別刷
第38号 1~10頁 2021
群馬大学共同教育学部 附属教育実践センター
群馬大学教育実践研究 第38号 1~10頁 2021
「働き方改革」をめぐる教員の意識について
参与観察とサーベイ・フィードバックを用いた事例研究から
森 田 直 樹
1)・斎 藤 周
2) 1)群馬県立伊勢崎高等学校 2)群馬大学共同教育学部社会科教育講座 「働き方改革」をめぐる教員の意識について 森田直樹・斎藤 周Teachers’ Consciousness of “Work Style Reform”
From Case Studies by Means of Participant Observation and Survey Feedback
Naoki MORITA
1), Madoka SAITO
2)1)Gunma Prefectural Isesaki High School
2)Department of Social Studies, Cooperative Faculty of Education, Gunma University キーワード:教員の働き方改革,サーベイ・フィードバック,参与観察
Keywords : Work Style Reform of Teachers, Survey Feedback, Participant Observation (2020年10月30日受理) はじめに 本稿の目的は,学校の「働き方改革」1をめぐる教 員の意識を,個別の学校文化という文脈の中で明らか にすることである。 2019年,学校教員の多忙化解消をめぐる議論は,新 たな段階に進んだと考えられる。周知のとおり,1月 に中央教育審議会から出された「新しい時代の教育に 向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための 学校における働き方改革に関する総合的な方策につい て(答申)」(以下,「答申」)によって,「業務の役割 分担・適正化」,「組織運営体制」,「勤務時間制度」, 「環境整備」,「フォローアップ等」という5つの柱の もと,学校現場のいわゆる「働き方改革」は本格的に 推進されることとなった。この工程表に沿う形で,同 年12月に公立学校教育職員給与特別措置法(給特法)2 が改正され,公立校教員の労働時間を年単位で調整で きる変形労働時間制の導入が決まった3。また,「答 申」と前後する形で,教員の長時間労働問題は社会的 関心を大いに集め,書籍,新聞報道,あるいはSNS上 において,さまざまな立場からの意見が交わされた4。 一方で,「答申」を読み解くと,全体が以下のよう な論理に貫かれていることに気づく。すなわち,現 在,教育現場は「『ブラック学校』といった印象的な 言葉が独り歩きする中で,意欲と能力のある人材が教 師を志さなくな」っている状況にあり,「学校におけ る働き方改革の実現により,教師は‘魅力ある仕事’で あることが再認識され」ることで,その状況が改善さ れるべきというロジックである。実際,全国各地の自 治体における教員採用試験の倍率低下問題が報道され たことは記憶に新しい5。 また,「答申」では,「‘子供のためであればどんな 長時間勤務も良しとする’という働き方は,教師とい う職の崇高な使命感から生まれるものであるが,その 中で教師が疲弊していくのであれば,それは‘子供の ため’にはならないものである」として,学校教員の 献身的な勤務態度が結果として長時間労働に結び付い ていることを指摘する。
このような「献身的な教師像」について,社会学の 立場から教師研究を積み重ねたのが,久冨善之であ る。久冨(2017)は,我が国における教員の教職観を 研究の対象としており,仕事・多忙に対する意味づ けとして,「責任の無限定性」という特性をもつ「献 身的な教師像」の存在を明らかにしている6。また, 「熱心さ」を価値として内面化し,「忙しくなくては ならない存在」である教師の多忙を「文化としての多 忙」と呼んだ上で,我が国における教員の多忙は他国 と比較しても「過度の多忙」であるとしている7。 それでは,現場の教員自身は,「子どものため」と いう価値観に根ざした「献身的な教師像」と「働き方 改革」の関係性を,どのように捉えているのであろう か。たとえば,内田ら(2018)は,多忙化した勤務実 態に対する教員の「意識」に着目し,今まで明らかに されていなかった教員自身の働き方に対する考え方 を,質問紙調査を通して詳細に分析している。内田 らの調査は,膨大なデータから「働き方改革」をめぐ る教員の意識の全体像を描き出そうとするものである が,今後は,教員自身の「意識」を重視する視角を引 き継ぎつつ,それぞれの学校現場の文脈まで踏まえた 個別の研究を蓄積していくことが必要であると思われ る8。 筆者(森田)は,組織開発研究の手法を援用し,A 中学校を対象としたサーベイ・フィードバックを実施 した9。本稿では,データをフィードバックした際の 教員のデータ解釈を考察することで10,「働き方改革」 に対する教員の意識を明らかにする。その際,参与観 察を通して得られたA中学校独自の学校文化という文 脈に着目し,分析をすすめる。 1 研究手法 (1)調査の概要 本稿において参与観察の対象とした学校は,群馬県 内にあるA中学校である。例年,群馬大学教育学部か らの教育実習生を受け入れており,教育研究にも熱心 に取り組んでいる中学校である。 A中学校では,学校経営方針の中に「労働衛生環境 の改善」という項目を設け,働き方の改善に言及する など,管理職を中心として学校の「働き方改革」に 積極的に取り組もうとしている。具体的には,「勤務 時間の把握による業務と働き方の改善」,および「業 務の精選」として,「限られた勤務時間の中で行うべ き業務の明確化」,「電話対応時間の明確化とチーム学 校による役割分担」,「部活動指導の適切な実施」,「外 部業務の精選」の4点が重点として取り上げられてい る。「答申」で述べられていたような教員の「働き方 改革」をめぐる観点が学校経営方針の中に落とし込ま れており,教職員の労働環境の課題に踏み込み,組織 的に取り組もうとするA中学校の姿勢が見て取れる。 筆者は,2019年の10月から11月にかけて,毎週1 回,合計5日間,参与観察をA中学校において行っ た。この5日間は,教室で行われる授業に加えて,職 員室における各教員の業務の様子や会話等も観察の対 象とし,学校の特徴や学校文化の理解に努めた。この ような観察に加えて,5日のうち2日間は,それぞれ 1名の教員に出勤から退勤まで1日密着し,コミュニ ケーションを図りつつ,業務の様子を観察してフィー ルドノートに記入した。 参与観察という研究手法の特徴については,フリッ ク(2011)が「調査者がフィールドへと入り込み,メ ンバーの視点から観察するだけでなく,自分の参加に よって観察対象に影響をも与えること」11とまとめて いる。本研究においては,観察者(森田)は大学院修 士課程の学生として,また高校の現職教員として,2 つの肩書を持つ観察者という立場で現場に入ってい る。そして,A中学校の教員も,観察者のこうした立 場を承知した上で行動し発言している。また,本事例 では,ワークショップの実施という観察者の積極的な 参与によって学校の「働き方改革」に対するA中学校 教員の意識が変容するが,本稿はそうした影響も含め た現場の状況を観察し記述したものである。 さらに,教員の意識を明らかにするために,サーベ イ・フィードバックの手法を用いて,A中学校におけ るいわゆる「働き方改革」についての教員の意識を調 査した。サーベイ・フィードバックは,本来であれば 組織の課題解決を目的とする組織開発手法として用い られるものである(中原・中村,2018)。ただ,本稿 においては,組織の課題解決,つまりA中学校におけ る長時間労働の改善を目指しつつも,その過程で表れ た「働き方改革」への意識や感情にも注目し,これら を分析の対象とすることで研究を進めた。 なお,以上のプロセスはすべてA中学校管理職の了
3 「働き方改革」をめぐる教員の意識について 承を得たものであり,各教員からのデータの収集にあ たっては,書面によって研究の目的を伝えた上で実施 していることを記しておく。 (2)サーベイ・フィードバックについて サーベイ・フィードバックとは,「組織で行われた サーベイ(組織調査)を通じて得られた『データ』 を,現場のメンバーに自分たちの姿を映し出す『鏡』 のように返して(フィードバックして),それによっ てチームでの対話を生み出し,自分たちのチームの未 来を決めてもらう技術」12である。主に企業における 組織課題解決のために用いられる手法であるが,平成 29年に横浜市教育委員会において「働き方改革」の一 環として用いられ,成果を上げている13。 中原(2020)によると,サーベイ・フィードバック では3つのステップを踏む。第1ステップはサーベイ (調査)の実施であり,普段見つめていない組織の課 題をデータによって「可視化」することにより,共通 の話題を得る。第2ステップはワークショップの実施 であり,可視化した課題にチームで向き合い,「対話」 を行う。なお,この「対話」は,中原の言を借りれ ば「ガチ対話」であり,構成員同士が忌憚なく意見を 交換することが肝要となる。その上で,「未来づくり」 と呼ばれるアクションプランの策定(第3ステップ) に移り,構成員は課題解決のための具体的な行動計画 を定めていくこととなる。辻・町支はこの一連の過程 を,「自分の働き方を,自分で決める」という表現で まとめている14。 本研究では,サーベイ・フィードバックの第1段階 として,Googleフォームを用いた「働き方調査」を, A中学校の教員(教頭,主幹教諭,教諭,養護教諭) を対象として実施した。回答期間は2019年10月30日か ら1週間とした。その結果,22名の教員から回答を得 ることができた。回収率は91.7%であった。 質問項目については,辻・町支(2019)で用いられ た質問から,教員の意識に関わる16項目を使用した。 これは,先行研究におけるデータとの比較を通して, A中学校の働き方の特徴をワークショップの参加者に 考えてもらうためである。なお,集計結果は事前に報 告書の形式でまとめ,A中学校の管理職を通して全教 員にフィードバックした。 以下,ワークショップで扱った質問項目に絞り,調 査の集計結果,およびワークショップに参加したA中 学校教員によるデータの解釈について検討し,学校の 「働き方改革」をめぐる教員の意識を,A中学校の学 校文化という文脈の中で明らかにする。 2 結果と考察 (1)参与観察の結果より まず参与観察では,観察対象の教員に観察者が1日 密着し,業務の内容,時間,および行動の様子を観察 し,フィールドノートに記載した。本稿では,ホーム ルームや清掃,学校行事における生徒の指導,つまり 授業以外の場面で生徒と何らかの関わりを持っている 時間を「生徒と過ごす」,教科の授業およびその準備 としての教材研究の時間を「授業,教材研究」,書類 作成や雑務などの時間を「事務」と大まかに分類し, A中学校の教員がどの時間帯にどのような業務を行っ ているのかを分析した。なお,観察を行った両日とも に部活動のない日であり,教員の時間外業務の最たる ものである部活動をあえて考えずに,結果の考察を試 みている。 X教諭は20代であり,学級担任を持っている。ま た,観察当日に行われた文化系行事の主担当であっ た。この学校行事は,A中学校の行事の中でも大規模 なもので,X教諭は勤務時間の大半を行事が行われた 体育館で過ごし,準備や全体指導,委員会生徒の指 導に携わっていた。また,昼の休憩時間中も体育館で クラス生徒の生活ノートのチェックをするなど,生徒 のために献身的な姿勢で業務にあたっていた。このた め,放課後のX教諭は,行事関連の書類作成などに追 われ,業務を終えたのは21時近くとなっていた。 Y教諭は20代であり,学級担任を持っている。当日 は3時間の授業が入っていたが,授業のない時間も, 生活ノートの確認などの学級事務や教材研究に充てら れており,生徒に直接関わる業務が優先的に行われて いた。また,昼休みには,学校行事に向けてクラスの 生徒が準備をしており,Y教諭は生徒の様子を見るた め,可能な限り多くの時間を教室で過ごそうとしてい た。その際,Y教諭は,「(行事の準備について)A中 はほとんど介入しなくていいので,すごい」という表 現で生徒の様子を語っている。一方で,X教諭と同 様,Y教諭も勤務時間終了時にも多くの業務を残して
おり,放課後の時間帯は翌日以降のための教材研究 や生徒指導上の事務処理に充てていた。また,勤務時 間外の業務は,生徒指導会議や生徒情報の共有といっ た複数名の教員が関わる業務から優先的になされてお り,自身の授業に関わる教材研究や指導案の作成は, 20時近くになってようやく開始された。 X教諭,Y教諭ともに,勤務時間外における「事 務」の割合が大きく,X教諭については放課後の4時 間近くの残業のうち,ほとんどが「事務」であった。 ここから,日中の勤務時間中は,授業や行事といった 生徒に直接関わる業務が優先され,残された各教員個 人の事務作業は勤務時間外に回されていることが分か る。 また,生徒情報の共有は常に意識されており,組織 で行うべき業務は個人の業務に対して優先される。た とえば,Y教諭は生徒下校後すぐに生徒指導関係の会 議に参加しており,約1時間の会議終了後も,周囲の 教員と意見交換がしばらく続いていた15。A中学校の 教員の生徒に対する熱心さが特に現れた場面であると 解釈できる。 さらに,A中学校の学校文化におけるもう一つの特 徴として,教科指導への情熱が挙げられる。たとえ ば,Y教諭は放課後の生徒指導会議後,帰宅までの約 2時間を指導案原稿作成に充てていた。この間,同じ 教科の先輩教員からの指導を受けつつ,教科指導につ いてかなり深い議論がなされていた。 以上が,A中学校における参与観察の結果である。 後述するように,A中学校の教員は,生徒に対して熱 心に取り組むことをA中学校の文化として捉えてお り,こうした文化はA中学校の教員の間で肯定的に受 け入れられている。 (2)ワークショップの概要 続いて,A中学校教員による数値データ(同校教員 を対象とした「働き方調査」の結果)の解釈の検討に 移り,「働き方改革」に対する意識を具体的に明らか にしていく。 ワークショップは,2019年11月13日,A中学校の一 室を借り,任意参加で50分間実施した。筆者(森田) がファシリテーターとなり,A中学校の教員9名,オ ブザーバーとして群馬大学大学院修士課程に在籍する 大学院生が数名参加した。 実践したワークショップの展開は,表1のとおりで ある。なお,ファシリテーターである筆者は,事前の 参与観察において感じたA中学校の雰囲気や教育への 熱意を率直にフィードバックすることを心がけ,参加 者が「本音で話す」ことができる場づくりに努めた16。 表1 ワークショップの展開 1 「働き方改革」に対するモヤモヤ感をグループ 内でシェア(約10分) 2 「見える化」したデータをもとに「気づいたこ と&推測されること」を黄色の付箋紙に記入 して,3~4人によるグループで対話(約20分) 3 改善策を付箋紙に記入してグループで「対話」 (約10分) 4 まとめ・振り返り・アクションプランの作成 (約20分) (3)A中学校教員によるデータの解釈 ここでは,ワークショップにおいてA中学校の教員 に示したデータとあわせて,ワークショップ中に付箋 紙に記された各教員によるデータの「解釈」を示す。 それぞれのデータが,A中学校の教員の目にどのよう に映ったかに着目し,考察を試みる。 図2 直近3日間の時間外労働時間を平均すると,1日あ たりどのくらいですか? 図1 データと付箋紙に基づく対話の様子
5 「働き方改革」をめぐる教員の意識について A中学校では,質問紙調査前の直近3日間におい て,時間外労働3時間以上の教員が7割を超えた。ま た,直近1か月で休日出勤をした教員は9割にのぼっ た。厚生労働省が定めた「過労死ライン」の残業時間 は月80時間なので,単純計算をすれば,昨今の報道の 通り,多くの教員がこのラインを超えてしまっている ことになる。 このデータを見たA中学校の教員は,「部活を見て から自分の仕事をしなければならない」,「部活?休 日出勤 副顧問がなくなり負担の集中」という分析 を加えており,時間外労働と部活動の指導の密接な 関係が示唆されている。また,「正直休日出勤の方が 集中できる時もある」,「休日出勤→うちの学校は少 ない方」という率直な記述もあった。実際,9割以 上の教員が直近1カ月に休日出勤をしているようで あり,中には6日以上と回答した教員もいた。ワー クショップでの記述からは,こうした休日労働もあ る程度仕方のないものとして捉えている傾向がうか がえる。 図3のとおり,横浜市における先行事例と同様,教 材研究の時間が不足していると感じている教員が多 く,半数以上となった。特に,A中学校の場合,「教 職経験10年未満の20~30代教員」に対象を絞ると,実 に75%もの教員が教材研究時間の不足を感じていると いう結果が示された。有意差はみられないものの,若 手教員ほど教材研究時間の不足感を抱いていることが 推察される結果となった。 このデータに対してA中学校の教員は,「経験少な いのでそう感じる」,「平均的に『若い』から,『不 安』!でも,だからこそ,『みんな不安な気持ちをもっ ている』という共通の思い」と記述している。A中学 校は,全教員の実に4分の3が20~30代という年齢構 成となっている。この2つの解釈はいずれも中堅教員 によるものであり,若手が多いというA中学校特有の 職場環境が,教材研究の時間をめぐる「不安」の一因 になっていると,A中学校の教員は考えているようで ある。 図4および図5の結果から,教職について「やりが いを感じるが,若い人に勧められる仕事ではない」と 認識していることが示された。この傾向は,横浜市で 実施された調査結果と一致する20。 このデータに対してA中学校の教員は,「教員の仕 事,生徒のためにならない仕事はない⇒やりがいはあ る」,「自分の得意なことを生かして仕事をしている なあとは思う」という解釈を与えている。一方で, 「大変,割に合うか?誰でもやっていけるとは限らな い」,「『やりがい』は『頑張る,しんどいこともある』 を越えないと感じられない・味わえない→人には勧め られない」,「仕事は好き,体が追いつかないことがス トレス」,「その人がやりがいを感じなかったら続ける のがしんどいと思う」という記述も見られる。 つまり,A中学校の教員によれば,「生徒のため」 に献身的に働いた先に,教師としての「やりがい」が 存在するというのである。裏を返せば,そういった苦 しさを乗り越えなければやりがいを感じることができ ない仕事であるため,「人には勧められない」と感じ ているということになる。2つの結果に対するA中学 校教員の解釈は,教職観がよく表れている部分である と言えるのではないか。 図6の質問に対しては,約3人に1人の教員が,時 間外業務を減らすことに罪悪感やためらいを抱いてい た。その一方で,別の質問項目で「時間外業務を減ら したいと思いますか?」と訊ねたところ,調査対象と 図6 時間外業務を減らすことに罪悪感やためらいを感じ ますか?21 図4 現在の仕事にやりがいを感じていますか?18 図5 これからの教員を志す若い人に教員の仕事を勧めた いと思いますか?19 図3 教材研究の時間が足りていると感じますか?17
なった全員が「そう思う」と回答している。「やりが い」と「不安」を抱きつつも,時間外業務を減らした いという思いが共通していることを示す結果である。 この2つのデータを提示されたA中学校の教員は, 「周囲の人たちがおそくまで働いているから」,「真面 目?」をその理由として挙げた。 図7のとおり,A中学校では「減らせる」と思う時 間が先行研究に比べてやや多いという結果が出た。こ のデータに対するコメントは,「へらせるのにへらせ ない」,「仕事が減らせないのは誤解がある?(本当に 減らせないの?)」といったものであった。 図6と図7に示された結果および解釈から総合的に判 断すれば,A中学校の教員は,もともと本心では労働時 間を「減らしたい」という意識を持っていたが,それを 開示し共有しあう機会がなかった。今回のワークショッ プでデータが示されたことによって,参加者がその意識 に気づき,共有することができたと考えられる。 それでは,A中学校の教員が「減らせる」と考えた 業務は具体的に何であろうか。質問紙調査では,先行 研究と同様に「次のうち,『教員がやらなくてもよい』 と思う仕事を選んでください」という質問項目を設 け,A中学校の教員の意識に踏み込んだ。その結果, A中学校教員の半数以上が「減らせる」と考えた業務 は表のとおりである。 表2 「減らせる」と考えた業務 集金,入金 77.3% 保護者間トラブル解決 68.2% パソコンやシステムの管理 59.1% 学校外からのチラシ配布 59.1% ホームページの管理 59.1% 地域行事の準備 54.5% このうち,「集金,入金」および「保護者間トラブ ル解決」については,先行研究において「減らせる」 と回答した率がそれぞれ53.9%,29.9%となってお り,A中学校に特徴的な回答の傾向であると言える。 A中学校では,76%の教員が,教育の質の改善のた めに労力を惜しみなくかけると考えている。 このデータに対しては,「A中は自分のペースで働 ける。ただ,個人の力量も試される場所 求められる ものに応えなければならない」,「熱意ある先生が多 い」,「向上心ある人多い 決して時間を増やすという ことではない」,「質の改善のために労力は惜しまない が,圧倒的に時間が足りていない」という解釈が並ん だ。 ワークショップの冒頭で「『働き方改革』と聞いて モヤモヤすること」について教員同士の意見交換を した際,「A中の使命とのバランス」を挙げた教員が 複数存在した。また,「働き方改革」によって生徒へ の「手立ての質が下がる」という不安も述べられてい た。A中学校は全体的に教育に質の改善への熱意や使 命感があり,また教員の間でもそれらが自覚され共有 されていることがよく分かる。 以上の結果は,参与観察で確認されたA中学校の特 質とも合致する。A中学校の学校文化という文脈にお いては,「働き方改革」の問題は教育の「質」やA中 学校の「使命」を果たす上での障害のように語られて いた。しかし,後述するように,ワークショップにお いては,こうした熱心さや教育の質の高さといった 「A中学校の良さ」があらためて認識・共有されるこ ととなり,それが「いい働き方につながっていく」と 解釈されていく様子が見て取れる。 図9 教育の仕事はどんなにやっても限度がないと思い, 不安を感じながら業務を行っていますか? 図8 教育の質の改善のために労力を惜しみなくかけます か? 図7 1か月の時間外業務のうち,あなたが「減らせる」 と思う時間はどのくらいですか?
7 「働き方改革」をめぐる教員の意識について この質問に対しては,先行研究では56%もの教員が 「あてはまる」と回答している。これと比較すると, A中学校の教員の「限度がない」という感覚や不安は やや少ないように感じられる。 最後に,ワークショップ前後での感想を記載し,考 察に移ることとする。 《ワークショップ前》 (「働き方改革」に対するモヤモヤ感) ・意識が低いもしくはあきらめている教員がいるよう に感じる ・働き方改革=子ども達への手立ての質が下がる ・やりたいこと,あきらめること,やれないストレス, やることの多さのストレス ・何をしていいかわからない 《ワークショップを終えての感想》 ・こういう取組自体がとても大切,と個人的には考え るが,「大切」と思えるか,ここに価値を感じられる か,がポイント。今回のようにアンケートをしたり, 積極的に話したりする機会を設けるようにしたい。 ・データを見て,A中の先生たちの考えも知れて良 かった。A中は割とよりよい働き方に向けて動いて いるし,さらに変えていける学校だろうなと感じた。 ・他の先生方と気持ちを共有,交換できて良かった。 同じ気持ちなんだなぁという実感=ほっとする。 ・データという根拠をもって話すことができてとても よかった。また他の同僚の先生方と話す機会をもっ てみたい。 ・先生方が「働き方改革」についてどう感じているかが データで見える化されたことは,とてもよかった。 同じ思いを感じている部分はきっと改革できると感 じた。改めて,A中の先生方は情熱があり,すばら しい先生方が多いと感じた(それがブラックの原因 であるとも感じた) ・時間外業務をへらしたいが100%におどろいた。早 く帰りやすい気持ちになった。 ・先生方の本音を聞くことが出来た。たしかに教員は ブラックかもしれないけれども,それ以上に自分自 身に返ってくることがあり,やりがいがある。その やりがいを若い人にどのように伝えていくのか? ・自分たち自身が自分の首をしめている側面が大き い。国や行政ではなく,学校現場で変えられること がほとんど。 (4)考察 A中学校の教員は,長時間労働,特に「休日出勤」 に対する問題意識をもつ一方で,現実にはその「休日 出勤」によって業務を消化しているという,献身的な 働き方をしている。若手教員が多いというA中学校特 有の状況を背景として,教職経験の少なさが教材研究 の不足感に結び付いていると,A中学校の教員は認識 しているようである。熱意や向上心がある人が多いと いう印象や,教育のために労力は惜しまないという考 え方は教師間で共有されており,ワークショップでも A中学校の「使命」に言及する教員が多かった。 このような文脈を持つA中学校の教員にとって,学 校の「働き方改革」は,ワークショップ以前は教育の 質を下げる可能性として,またやりたいことをやれな いストレスの原因として捉えられていた。しかし,そ の考え方は,業務時間を減らしたいという思いを共有 する過程でA中学校の学校文化の良さをあらためて認 識することにより,働き方でも成果を出せるのではな いかという期待感に転換していった。具体的には, 「A中は割とよりよい働き方に向けて動いているし, さらに変えていける学校だろうなと感じた」,「同じ思 いを感じている部分はきっと改革できると感じた。改 めて,A中の先生方は情熱があり,すばらしい先生方 が多いと感じた」といったワークショップ後の記述に 見られるような変化である。A中学校の教員の間で共 有されている「A中学校の良さ」,つまり参与観察で も確認された「熱心さ」が,学校における「働き方改 革」に前向きに作用していくことの可能性を読み取る ことができる。 また,前述したように,久冨は「日本の教員文化」 を観察するにあたって,「献身的な教師像」が持つ教 師の仕事・多忙に対する意味づけについて,「責任の無 限定性」という特性を指摘し,以下のように述べた22。 これは教師が,その担任する子どもたち側から教 師に期待していることがらに対して,教師として 「それが子どもにとって必要」と考えるならば,熱 意をもって応えて行こうとする行動様式である。そ こでは,教師の「責任範囲」判断をめぐる価値志向 に「無限定性」という性格が浸透し,それが教職観 の要素として,教師たちと親に共有される。 久冨が明らかにした教職の「無限定性」という概念 を用いて考察すれば,サーベイ・フィードバックの過 程における働き方をめぐる教員同士の対話は,「無限 定性」についての不安を共有し低減していくための きっかけになったと解釈することができる。たとえ ば,ワークショップの感想を事前と事後で比較する と,はじめは「やりたいこと,あきらめること,やれ
ないストレス,やることの多さのストレス」のよう に,自身の抱える業務が無限定に広がっているイメー ジを抱いている様子が分かる。これに対して,ワーク ショップ後は「他の先生方と気持ちを共有,交換でき て良かった。同じ気持ちなんだなぁという実感=ほっ とする」,「自分たち自身が自分の首をしめている側面 が大きい」とある。表2のような具体的に減らす業務 をイメージしながら同僚と対話することが,「無限定 性」に気づき,改善しようとする意識に結び付いてい く様子が分かる。 以上のようなA中学校の事例研究より,学校でなす べき業務を精選していくプロセスは,教師としての 「無限定性」を克服するための第一歩として捉えるこ とができる。 おわりに 本稿の結論は以下のとおりである。学校教員は,働 き方改革への困惑を感じつつも,本心では時間外業務 を減らしたいと考えている。一方で,各学校の個別の 文脈によって,学校が持つ教育上の使命や役割は教員 の間で暗黙のうちに共有されており,働き方に関す る不安は「献身的な教師像」の一環としての働き方 の「無限定性」のもとに覆い隠され,普段は表に出る ことはない。A中学校の事例研究においては,サーベ イ・フィードバックの一環として行われた働き方の ワークショップによって,このような不安ははじめて 教員間で認知され,共有された。 したがって,学校教員がそれぞれの本音を開示しあ うことが,学校における真の「働き方改革」を実現す るにあたって重要であることが,あらためて示唆され たと言えよう。それと同時に,教員にとってはこうし た意見共有の場が,自身の勤務校に対する肯定的な感 情を再確認する機会ともなり,結果として働き方に対 しても前向きなアクションをもたらす可能性がある。 最後に,大学での教員養成の課題にも触れておきた い。 本稿の冒頭でも述べたように,現在,教員の長時間 労働が広く社会で認識されるようになり,教員採用試 験の倍率の低下が問題となっている。また,教員養成 大学・学部の入試倍率の低下も懸念されている。そこ で,教員養成大学・学部は教職の魅力を高校生等に伝 えようとするが,この取り組みは教員の長時間労働を 改善するものではない。では,教員養成大学・学部に 何ができるだろうか。 大学の任務は学生教育である。学生が「献身的な教 師像」をもう一度見つめ直し,教職に就いたならば働 きやすい環境づくりの主体となれるような学生教育が 今こそ求められている。 学生の学校への参画をいう23のであれば,教員志望 の学生に対しては,教員の働き方の現状を間近で見聞 し,学生のうちから自分事として働き方の問題を考 え,教員と意見を交換する機会を提供する,という観 点こそ必要である。学生を,新しい働き方をともに 作っていく主体として学校現場に受け入れていくなら ば,未来志向で持続可能な真の「働き方改革」につな がるだろう。 教員の過重労働を解消することは,教員の精神的な ゆとりと教材研究の時間を確保し,学校で学ぶ子ども たちにも好影響を及ぼすことは確実である。教員も教 員を養成する大学も,社会を巻き込みながらこの課題 に取り組むべきときが来ている。 参考文献 ・ 内 田 良・ 上 地 香 杜・ 加 藤 一 晃・ 野 村 駿・ 太 田 知 彩 (2018)『調査報告 学校の部活動と働き方改革:教師の意識 と実態から考える』岩波書店 ・内田 良・広田照幸・髙橋 哲・島﨑 量・斉藤ひでみ (2020)『迷走する教員の働き方改革:変形労働時間制を考え る』岩波書店 ・木村 洋・鈴木久米男・小岩和彦・藤岡宏章(2020)「中学 校における働き方改革:教員の意識改革および業務改善に関 わる実践を通して」岩手大学大学院教育学研究科研究年報第 4巻,pp.65-76 ・久冨善之編著(1994)『日本の教員文化:その社会学的研究』 多賀出版 ・久冨善之(2017)『日本の教師,その12章:困難から希望へ の途を求めて』新日本出版社 ・斎藤 周(2005)「給特法と教員の超過勤務手当請求権」季 刊教育法147号,pp.90-96 ・辻 和洋・町支大祐編著(2019)『データから考える教師の 働き方入門』毎日新聞出版 ・長沢泰宏(2018)「中学校教員の多忙を受容する意識構造に 関する研究:『良い学校』とされるM中学校の参与観察調査 をもとにして」学校経営学論集6巻,pp.41-50 ・中原 淳・中村和彦(2018)『組織開発の探究:理論に学 び,実践に活かす』ダイヤモンド社
9 「働き方改革」をめぐる教員の意識について ・中原 淳(2020)『サーベイ・フィードバック入門:「データ と対話」で職場を変える技術:これからの組織開発の教科書』 PHP研究所 ・フリック,ウヴェ著,小田博志監訳(2011)『新版質的研究 入門:〈人間の科学〉のための方法論 新版』春秋社 ・横浜市教育委員会・東京大学中原淳研究室共同研究「教員の 『働き方』や『意識』に関する質問紙調査の結果から」 https://www.edu.city.yokohama.jp/tr/ky/k-center/ nakahara-lab/txt/180514_hatarakikata.pdf (最終閲覧日2020年9月23日) ・萬井隆令(2019)「中教審『答申』をどう読むか:『労働』 の意義を欠く,“底の抜けた樽”」『法学セミナー』773号, pp.53-58 注 1 本稿では,実践を中心とする研究の性質上,教員の長時間 労働問題について現場教員にもイメージしやすい用語を選ぶ 必要があり,括弧付きの一般用語「働き方改革」として使用 することとした。ただし,「働き方改革」という語そのもの が,制度的・構造的な教員の長時間労働の問題を,もっぱら 現場の創意工夫による「改革」で改善すべきというニュアン スを含むものであることは,十分に注意するべきである。そ もそも「働き方改革」を推進するはずの法律(労働基準法等 の労働法制)の名宛て人は使用者(企業)であり,改革すべ きは「働かせ方」である。 2 給特法の下で,超過勤務手当を支給しない実務が定着し判 例もこれを容認しているが,給特法の解釈として支持でき ない。筆者(斎藤)の理解では,給特法の下でも「超勤4項 目」以外の残業には残業手当を支給しなければならず,また 管理職による「依頼」や黙認であったとしても「残業させて いる」ことに変わりはなく超過勤務手当の支給は免れない。 詳しくは,斎藤(2005)参照。 3 変形労働時間制導入についての経緯や問題点は,内田ら (2020)に詳しい。周知のとおり,今回自治体ごとに導入可 能となった一年単位の変形労働時間制とは,一年を「繁忙 期」と「閑散期」に分け,労働時間の総量を調整することが できるシステムであり,導入にあたっては施行規則の定める 条件(労働日数・労働時間等の限度)を満たさなければなら ない。内田は,給特法下で時間外手当が発生しない現状にお いてこのシステムを導入することを「迷走」という表現を用 いて批判している。また,現職教員からも,「夏休みのまと め取り」といった文科省側の説明が現場の実態と乖離してい るという指摘がなされている。そもそも,この制度の導入自 体がみせかけの残業時間削減を目的としたものであると考え ることもでき,実際の導入にあたっては慎重な判断が求めら れる。 4 教育社会学の立場からは,内田良らが教員の「ブラック」 な労働条件について問題提起を続けている。『法学セミナー』 773号(2019年6月号)においては,萬井隆令(2019)らが 労働法学の観点から給特法を批判している。SNS上では,公 立高校の現職教員である斉藤ひでみが,給特法および変形労 働時間制に対する反対署名を集め,国会参考人招致にまでこ ぎつけた。また,給特法問題に踏み込んだ報道として,福井 テレビが制作したドキュメンタリー番組「聖職のゆくえ~働 き方改革元年~」(2019年5月30日放送)が詳しい。 5 文部科学省の調査結果「令和元年度公立学校教員採用選考 試験の実施状況について」によると,2019年度教員採用試験 の倍率は,全体で4.2倍,小学校では2.8倍にまで落ち込んだ。 6 久冨(2017),p.120。 7 久冨(2017),p.165。 8 長沢(2018)も,「学校ごとの課題状況やそれに付随する 教員のやりがいなどについて,より丁寧に考察する必要があ る」として,参与観察を用いて教員の多忙を質的に分析して いる。また,木村ら(2020)は,教員の多忙に関わる実態調 査にもとづき,教員向けの研修会やワークショップなどを実 践し,その有効性を検証しており,「働き方改革に特化した 研修会や,少人数による協議を通して互いの意見を共有する 場の設定は,学校文化を変革する意識付けとして有効であっ た」(p.75)としている。 9 中原研究室が実施した横浜市における調査研究に依拠して いる。 10 本稿では,サーベイ・フィードバックにおけるデータを 「再解釈が可能な情報の表現のこと」と定義した中原の考え 方にしたがう(中原2020,p.53)。 11 フリック(2011),p.275。 12 中原(2020),p.26より。 13 平成29年度横浜市教育委員会・東京大学中原淳研究室共同 研究「教員の『働き方』や『意識』に関する質問紙調査の結 果から」を参照のこと。なお,この研究成果を一般書として まとめたものが,辻・町支(2019)である。 14 辻・町支(2019),p.7。 15 筆者(森田)のフィールドノートには,この時のできごと について「情報共有(子ども)がアンオフィシャルにつづい ていく」と記されている。 16 中原(2020)の手法を参考とした。 17 「足りていない」「あまり足りていない」を「足りていな い」として,「どちらともいえない」「どちらかというと足 りている」「足りている」を「足りている」として再カテゴ リー化を行い,集計した。 18 「感じている」「どちらかというと感じている」を「感じて いる」,「どちらともいえない」「どちらかというと感じてい ない」「感じていない」を「感じていない」として再カテゴ リー化を行い,集計した。 19 「そう思う」「どちらかというとそう思う」を「そう思う」 として,「どちらともいえない」「どちらかというとそう思わ ない」「そう思わない」を「そう思わない」として再カテゴ リー化を行い,集計した。 20 辻・町支(2019),p.81。
21 「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」を「あては まる」として,「どちらともいえない」「どちらかというとあ てはまらない」「あてはまらない」を「あてはまらない」と して再カテゴリー化を行い,集計した。図8,9も同様に集 計した。 22 久冨(2017),p.120。なお,久冨によれば,こうした「献 身的な教師像」は,教員が子どもや親との信頼関係を構築す るために機能していくという。 23 「答申」は,「教員養成大学・学部と連携し,学生の実習と 位置付けて,学生たちがスタッフとして学校に参画するよう にするなどの工夫」に言及している。この記述は,教員養成 大学・学部の学生を,「働き方改革」の名のもと,コストを かけずに利用できるリソースと見做しているようにも映る。 (もりた なおき・さいとう まどか)