山梨医大誌10(1),31∼38,1995
夫がすでに死亡していた母子鑑定蛭
木 戸 啓・本 多 由紀子・西 園 敏 山梨医科大学法医学講座 子・大 矢 正 算 抄録:申立人の推定上の母の夫だけでなく戸籍上の父母も死亡していた母子鑑定例を紹介する。 申立人と相手方である推定上の母と戸籍上の父母の5人の子の計7人について3!項目の血液多型の 検査を行った。申立人はいずれの検査によっても推定上の母の子として否定されなかった。母権肯 定確率を小松の方式により計算したところ0.8554となった。戸籍上の父母のとりうる型の組合せを 5人の子の型から推定した。その結果,GC型とCiR型において戸籍上の父母と申立人とのあい だの親子関係が否定された。DNA分析の結果も上記の結論を支持した。したがって,申立人は相 手方である推定上の母の真の子とみなされた。 キーワード 母子鑑別,遺伝子型判定,血液型,DNA多型 はじめに 世界諸国には,「母と子の関係は明白である が,父と子の関係はだれにも分からない。父は 自分の子を信ずる以外にない。」という意味の ことわざがいくつかある。法医学で扱う親子鑑 別にもこのことわざどおり通常は父子関係の有 無が問題となり,母子関係が問題になることは めつたにない。ところが明白であるはずの母子 関係が最近しばしば問題になるようになった。 中国残留孤児の肉親捜しである。 最近われわれは肉親捜しとは異なる母子鑑別 でしかも夫がすでに死亡していた例を経験した ので,その鑑定結果をここに紹介する。 事 例 59歳の男性(申立人)が80歳の女性(相手方) を母として甲府家庭裁判所に親子関係存在確認 の訴えを提起した。 〒409−38山梨県中巨摩郡玉穂町下河東1110 受付:1995年1月19日 受理:1995年2月ユ6日 その申立書によれば,「私は昭和9年3月3 日頃相手方の婚姻外の子として生まれた。相手 方の実兄は彼の妻とのあいだの次男として私の 出生届をした。出生後は私は戸籍上の父母とそ の子および相手方と一緒に生活してきたが,家 庭内では相手方の子として扱われてきた。小学 生の頃学校へ提出する書類から私が相手方の子 ではなく,戸籍上の父母の子となっていること を知った。その上竪の父には一度会ったきり で,すでに死亡している。また,戸籍上の父母 もすでに死亡している。このたび真実のとおり 戸籍を訂正したく,訴えを提起する。」 そこで裁判所は, 1)申立人と相手方との間に親子関係が存在す るかどうか 2)申立人と戸籍上の父母とのあいだに親子関 係が存在するかどうか についての鑑定を当教室の大矢に依頼してき た。 本件では実の父も戸籍上の父母もすでに死亡 しているが,さいわい戸籍上の父母には申立人 (次男)のほかに5人の子(長男,次女,三男, 三女,四男)があり,これら5名を補助参考人32 木 戸 啓,他
盟……i一…
の父 i … … … … … … … … … ・ 長女 長男 次女 次男 三男 三女 四男 … 1 (串立人) i , ● o 「 電 圏 ■ 膨 ■ ● 疇● ●・鷺鱒鵬● 8● 曝 膨 ● ●●● ●r鱈 ●鱒 騨“ 6轡■ o● ■o 響 ■9の 聯● . 鵬印 ●聯 嚇禰 σ 図1.家系図 鱒 賑 @母 且阨禔j 戸籍上 フ父 戸籍上 フ母 として,申立人と相手方と5人の子の計7名よ り静脈血を採血.し血液型検査を行った。上記の 関係を図1に示す。 血液型検査項自 1.赤血球型 ABO式(A, B,0因子) MNSs式(M, N, S, s因子) Rh式(C, c, D, E, e因子) P式(P因子) ルイス(Lewis)式(a, b因子) ダフィー(Duffy)式(a, b因子) キッド(Kidd)式(a, b因子) ディエゴ(Diego)式(a因子) Xg式(a因子) 以上の9形質は赤血球凝集反応により検査し た。 2,血清たんぱく型 ハプトグロビン(HP)型GC成分(GC)型
トランスフェリン(TF)型 アルファ1アンチトリプシン(PD型 プロベルジンB因子(BF)型 アルファ2HSグリコプロテイン(AHS>型 補体第!R成分(CIR)型 補体第6成分(C6)型 補体第7成分(C7)型 補体第8成分(C8)型 補体系制御たんぱく咽子(FD型 血液凝固X贋B因子(FX置B)型 インターアルファトリプシンインヒビター (ITI)型 以上の13形質はでんぷんゲル電気泳動法ある いは等電点電気泳動法により検査した。 3.赤血球酵素型 フォスフォグルコムターゼ1(PGM l)型 グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ (GPT)型 エステラーゼD(ESD)型 赤血球酸性フォスファターゼ1(ACPI)型 フォスフォグルコン酸脱水素酵素(PGD)型 グリオキサラーゼ1(GLO)型 アデノシンデアミナーゼ(ADA)型 グルコースフォスフェイトイソメラーゼ (GPI)型 ウリジンモノフォスフェイトキナーゼ (UMPK)型 以上の9形質はでんぷんゲル電気泳動法ある いは等電点電気泳動法により検査した。夫がすでに死亡していた母子鑑定例 33 血液型検査結果 表1に相手方,申立人,長男,次女,三男, 三女,四男の7名の血液型検査結果を示す。表 1に*を付した3型質において申立人と次女を 除く4名が相手方の子として否定された。すな
わち,GCでは2−1F型の母から1F−1F型
と2−lS型と2−2型の子は生まれうるが, 1S一ユS型の子は生まれない。 C!Rでは5−2型の母から5−1型と2−2型の子は生まれ
うるが,1−1型の子は生まれない。FX班B
では3−3型の母から3−3型と3一ユ型の子
は生まれうるが,1−1型の子は生まれない。 したがって父がいずれの型であっても,長男, 三男,三女,四男の4名は相手方の子として否 定されるが,申立人と次女は否定されない。 両名は相手方の子である可能性が高いといえ る。 父権肯定確率 ある母子の組合せからある男が父として訴え られ実際に否定されなかった場合,この男がど れくらい父親らしいかを示すものである。父権 肯定確率の計算には通常Essen−M611er1)の式が 用いられているが,本件では結果として同じ値 をとる小松勇作2)の式を用いた。すなわち,母 と問題の男の組合せから得られる子の型の出現 頻度をX,母と一般不特定の男の組合せから 得られる子の型の出現頻度をYとすると,父 権肯定確率は, Xl P竺 欝 X1→一Y2 1 父権否定確率 Y21十一
Xl ある母子の組合せからある男が父として訴え られ実際に否定されなかった場合,この男がど れくらいの確率で否定しうるかを示すものであ る。母子の型が一定しているので,否定確率は この母子の組合せで父として否定しうる型の出 一現頻度となる。各型質ごとの否定確率をP1, P2, …,P。とすると,これらの否定総合確率は, P=1一 (1−P1) (1−P2) … (1−Pn) となる。否定確率が高く1に近ければ,これほ ど高い確率で否定しうる検査をしたにもかかわ らず実際には否定されなかったわけであるか ら,この男はきわめて父らしいといえる。 本件では申立人と次女は相手方の子として否 定されなかったので,これらの否定確率を日本 人における遺伝子頻度をもとに計算し,表2に 示す。そのさい父子関係を母子関係におきかえ 母権否定確率として計算してある。また,相手 方の夫がすでに死亡しており父の型を判定する ことができないので,この男があらゆる型をと りうるとして計算してある。 表2に示す母権否定総合確率からみると申立 人は0.9062,次女は0.9079でいずれも相当高く, となる。多数の職質を調べた場合の父権肯定総 合確率は, 1ぬπ
五為
1瓦
H
篇 P となる。肯定確率が高く1に近ければ,この男 はきわめて父らしいといえる。 本件では申立人と次女は相手方の子として否 定されなかったので,これらの肯定確率を日本 人における遺伝子頻度をもとに計算し,表2に 示す。そのさい父子関係を母子関係に置き換え 母権肯定確率として計算してある。また,相手 方の夫がすでに死亡しており父の型を判定する ことができないので,この男があらゆる型をと りうるとして計算してある。表2に示す母権肯 定総合確率からみると申立人は0.8554と相当高 いのに反し,次女は0.3188と低い。したがって, 申立人は相手方の子である可能性が高いが,次 女はその可能性が低いといえる。34 * pa--- Eig, {te
x1. wi?rftz#ykajfikgm
tmyNKZffIYiX-.;kre lgEIiJIir mpY-lv fteg >k# =-eg =-# tul;ag
ABO
A
0
A
o
o
o
A
MNSs
MNs
MNs
MNs
NsMs
Ms
MNs
Rh CcDEe CcDee CcDEe CcDEe CCDee ccDEE ccDEE
P
P-
P-
P+
P-
P+
P-
P+
Lewis
a-b+
a-b+
a-b+
a-b+
a-b+
amb+
a-b+
DuffY
a+bm
a+bm
a+bnta+b-
a+b-
a+b-
a+b-Kidd
a+b+
a+b+
a-b+
a+b+
a-b+
a+b+a+b+
Diego a- a- a- a- a- a-
a-Xg a+ a+ ant a- a- a- a+
HP
2-2 2-2 2-.9. 2-2 2-2 2-2 2-2GC;k. 2-IF IF-IF 2-IS 2-2 IS-IS* 2-IS 2-IS
TF
Cl Cl Cl Cl Cl Cl ClPI
Ml
Ml
MIM.?.MIM2
MIM2
MIM2
MIM2
BF
FAS
FA
FA
FAS
FAS
FAS
FAS
AHS
1 2-i 2-1 1 2-1 2-1 1 CIRti; 5-2 5-1 1-1* 2-2 2-2 l-1* 1-!* C6AB
AB
AB
AB
AB
BAB
C7 1 1 1 ! 3-l 3-1 1 C8AB
A
AB
AB
AB
AB
AB
FI B B B B B B B FXI[[B* 3-3 3-3 3-! 3-1 l-1* 1-l* 3-1 ITI 2 2-1 2-1 2-1 2 2-1 2-1PGMI
IA2B IAIB IAiA IAIA IAIA IAIA IAIAGPT
1 2-1 2-1 2-1 1 2-1 2--1ESD
1 ! 1 1 1 1 lACPI
BAB
B B B B BPGD
A
A
AC
AC
AC
AC
A
GLO
2-1 2-1 2-1 2 2 2-1 2-lADA
1 1 1 1 l 1 1 GPI I 1 1 1 1 1 1UMPK
i 1 2-1 1 2-1 2-1 2--1夫がすでに死亡していた母子鑑定例 表2.申立人と次女の母権否定確率と母権肯定確率 35 血液型形質 相手方 申立人 母権否定確率 母権肯定確率 次女 母権否定確率 母権肯定確率
ABO
A
0
0.0996 0.4228O
0.0996 O.4228MNSs
MNs
MNs
0.0034 05154 Ns 0.2821 0.5242Rh CcDEe CcDee 0.0854 0.2764 CcDEe 0.0000 0.5536
P P一 P一 0.0000 0.5467 P一 0.0000 05467
Lewis a−b+ a−b+ 0.0000 0.5349 a−b牽 0.0000 05349
Duffy a+b一 a+b一 0.0106 05271 a+b一 0.0106 0.5271
Kidd a+・b+ a+b+ 0.0000 0.5005 a+b+ 0.0000 0.5005
Diego a一 a一 0.0000 0.5126 a 0.0000 05126
Xg a十 a十 0.0000 0.5268 a一 0.0000 0.0791
HP
2−2 2−2 0.0692 0.5757 2−2 0.0692 0.5757GC
2−1F 1F−1F 0.2632 0.5066 2−2 0.5685 0.6702TF
C1 C1 0.0625 0.5714 C1 0.0625 0.5714 PIM1
M1
0.0676 0.5747MIM2
0.0025 O.4032 BFFAS
FA
0.6416 0.7153FAS
0.0000 0.6108AHS
1 2−1 0.0001 0.4016 1 0.0650 0.5731 CIR 5−2 5−1 0.1140 0.5610 2−2 0.4247 05969 C6AB
AB
0.0067 0.5217AB
0.0067 05217 C7 1 1 0.0284 0.5460 1 0.0284 0.5460 C8AB
A
0.1423 0.4453AB
0.0001 0.5198 FI B B O.O159 0.5336 B 0.0159 0.5336 FXI肥 3−3 3−3 0.1021 0.5951 3−1 0.0005 0.4235 王TI 2 2−1 0.0011 0.4872 2−1 0.0011 0.4872PGM1
1A2B 1AIB 0.0437 0.2654 1AIA 0.0949 0.4195GPT
1 2−1 0.0000 O.4558 2−1 0.OOOO 0.4558ESD
1 1 0.1225 0.6061 1 O.1225 0.6061ACP1
BAB
0.0000 0.3885 B 0.0454 0.5596PGD
A
A
0.0076 0.5227AC
0.0000 03539GLO
2−1 2−1 0.0000 0.7746 2 0.0062 0.3519ADA
1 1 0.0007 0.5066 1 0.0007 0.5066 GPI 1 1 0.0000 0.5013 1 0.0000 0.5013UMPK
1 1 0.0020 0.5115 1 0.0020 0.5115 母権否定総合確率 母権肯定総合確率 母権否定総合確率 母権肯定総合確率 09062 0.8554 0.9079 0.318836 * pe- ig, {te
ljre 3. ptVAdipatwlgkO5eeO1fe-xEasix6ma?&ZNOkggit
wt?rwangff;.fffi fteg >ft7k =-ce
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pany ep5iil.A.CDptffett."l0)!>()iEg $IilllAABO
A
o
o
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AXA,AXO,AXB
o
MNSs
MNs
NsMs
Ms
MNs
MNSsXMNSs,MNSsXMNs,MNs×MNsMNs
Rh
CcDEe CcDEeCCDee
ccDEE ccDEE CcDEeXCcDEe,CcDEeXCcdEe CcDeeP
P+
P---P+
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P+
P+XP+,P+XP-
P-Lewis
a-b+
a-b+
a-b+
a-b+
a-b+
awwb+Xa-b+,a-b+Xa-b-
a-b+
DuffY a+b-
a+bm
a+b-
a+bm
a+b-'-a+b+Xa+b-,a+b-Xa+b-
a+brmKidd
a-b+
a+b+
a-b+
a+b+
a+b+
a+b+Xa-b+
a+b+
Diego am a--' awu a- a-
a-Xa-,a-Xa+
a--Xg
a- a- a- ala a+ a-(eg)×a+(lz) a+HP
2-2 2-2 2-2 2-2 2-2 2-1×2-1,2-2×2-1 2-2GC*
2-IS 2--2 IS-IS 2-IS 2-IS 2-ISX2-IS* IF-IF*・TF
Cl Cl Cl Cl ClClXCI,ClXCIC2,CIC2XCIC2
ClPI
MIM2
MIM2
MIM2
MIM2
MIM2
iUl&MM2iM¥iM2XMiM2,MixMiM2,
MI
BF
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FAS
FAS
FAS
FAS
FAS×FAS,FA×FASFA
AHS
2-1 1 2-1 2-1 1 1×2-1,2-1×2-1 2--・1 CIR* 1-1 2--2 2-2 1-1 1-1 2-l×2-1*・ 5-1*・ C6AB
AB
AB
BAB
AB×AB,B×ABAB
C7 l 1 3-1 3-1 1 3-1×3-1,1×3-1 1 C8AB
AB
AB
AB
AB
A×B,A×AB,B×AB,AB×ABA
FI B B B B BBXB,BXAB,ABXAB
BFXMB
3-1 3--1 1-1 1-1 3-1 3-1×3-1,1-1×3-1 3n-"3 ITI 2-1 2-1 2 2-1 2-1 2-1×2-1,2×2-1 2---1PGMI
IAIA IAIA IAIAIAIA
IAIA IAIAXIAIA,IAIAXIAIB,IAIAXIA2A,IAIAXIA2B,IA2AXIA2A,IA2AXIA!B,IA2AXIA2B,IAIB×IAIB,IAIBXIA2B,IA2BXIA2BIAIB
GPT
2-1 2-1 1 2-1 2-1 i×2-1,2-1×2-1 2-1ESD
1 1 I 1 1 1×1,1×2-1,2-1×2-1 lACPI
B BB
B B AB×B,AB×AB,B×BAB
PGD
AC
AC
AC
AC
A
A×AC,AC×AC
A
GLO
2-1 2 2 2-1 2-1 2-1×2-1,2×2-1 2-1ADA
1 l 1 1 1 1×1,1×2-1,2-1×2-1 1 GPI 1 1 1 1 1 1×1,1×2-1,2---1×2-1 1UMPK
2-1 1 2-1 2-1 2-1 i×2-1,2-l×2-1 1夫がすでに死亡していた母子鑑定例 37 表4.DNA多型検査結果
DNA多型
相手方 申立人 長男 次女 三男 三女 四男 DIS80 T23/T30 T23/T23 T24/T36 T24/T36 T28/T36 T24/T36 T24/T36 表5.申立人の戸籍上の父母の推定されるDNA多型の組合せDNA多型
長男 次女 三男 三女 四男 申立人の戸籍上の父母 申立人 DlS80 T24/T36 T24/T36 T28/T36 T24/T36 T24/T36 T24/T36×T28/T36, s24/T28×T36/X T23/T23 戸籍上の父母の推定される血液型 長男,次女,三男,三女,四男の5名が申立 人の戸籍上の父母の真の子であるという前提 で,戸籍上の父母のとりうる血液型の組合せを 推定し,表3に示す。その結果,表3に*を付 した2型質において親子関係が否定された。す なわち,GCでは申立人の戸籍上の父母のとり うる血液型の組合せが2−1S型×2−1S型に限 定され,この組合せからは2−2型と2−!S型と 1S−1S型の子が生まれうるが,1F−1F型の申 立人は生まれない。また,CIRでは申立人の戸 籍上の父母のとりうる血液型の組合せが2−1型 ×2−1型に限定され,この組合せからは2−2型 と2−1型と1−1型の子は生まれうるが,5−1型 の申立人は生まれない。以上より,申立人は戸 籍上の父母の子として否定される。 DNA多型検査 宝酒造製研究用DIS 80法医DNA増幅試薬 セットを用いてDNA多型の分析を行った3)。 血液より抽出したDNAについて, DlS80部位をプライマーを用いPCR法によって増幅
し,アガロースゲル電気泳動後臭化エチジウム にて染色し,紫外線下にDNA多型を判定した。 表4に示すDNA多型検:査結果から, DlS 80では相手方と申立人は遺伝子型としてT23を 共通に持つので親子関係が否定されないが,長 男,次女,三男,三女,四男の5名は相手方の 持つ遺伝子型T23とT30のいずれをも持たな いため親子関係が否定される。 長男,次女,三男,三女,四男の5名が申立 人の戸籍上の父母の真の子であるという前提 で,戸籍上の父母のとりうる型の組合せを推定すると,DlS80では表5のようになり(Xは
現在発見されている29種類の遺伝子型のいずれ でも可),いずれの組合せからもT23/T23の 申立人は生まれない。 おわりに 以上,ここでは明白であるはずの母子関係が 問題となった親子鑑定例を紹介したが,血液型 検査およびDNA多型検査によって申立人は相 手方の子として否定されなかった。このような 場合相手方はどれくらい母親らしいかを確率的 に表わすことになる。 しかしながら,本件では相手方である推定上 の母の夫がすでに死亡しており,その男の血液 型を調べることができないので,この男がとり うるあらゆる型を考慮して申立人の母権否定確 率および母権肯定確率を計算しなければなら ず,否定総合確率が0。9062,肯定総合確率が 0.8554とかなり高いものの,「きわめて母親ら しい」といえるほどの値にまで至らなかった。 このような場合,本結論を補強するためには どうしても申立人が戸籍上の父母の子ではない38 木 戸 啓,他 とする事実が必要となってくるが,本件では戸 籍上の父母もすでに死亡しており,これらの血 液型を直接知ることもできないわけである。と ころがさいわいなことに戸籍上の父母にはほか に5人の実の子があり,検査にこれらの協力が 得られたために戸籍上の父母のとりうる型の組 合せを推定することができた。その結果,血清