全学共通教育科目における協同学習の実施状況に関する報告書
- 2018 年度協同学習調査をもとに-
仲 本 康一郎・宮 永 義 夫・渡 辺 暁・時 友 裕紀子 要 旨 昨今、日本の学校教育では、児童生徒の主体的な学びを重視するアクティブラーニングの重要性が指 摘され、「主体的、対話的で深い学び」(文部科学省「学習指導要領」(平成 29 年度))が提唱されている。 大学教育においても、知識基盤社会の到来、大学教育のユニバーサル化等が叫ばれる中、主体的な学び が注目されるようになり、これまでとは異なる授業展開や学習方法への期待が高まっている(参考文献 [1])。 山梨大学では、第3期中期目標・計画として、「多様な価値観を尊重する姿勢を涵養するため、全学共 通教育科目において平成 30 年度までに段階的に協同学習等を導入する」ことが謳われており、これを受 けて 29 年度計画では「協同学習のあり方を明確にするとともに、協同学習の実施数等の実態把握を行い、 これらを踏まえ受講生数や授業形態に適した協同学習を提案するなどして導入を推進する」としている。 本報告は、以上のような中期目標・計画のもと、平成 30 年度に実施した協同学習に関する調査結果の 報告である。 1. 目的と概要 1.1. 調査の目的 「協同学習」は、主体的、対話的で深い学びを活性化 する方法として注目されている学習方法であり、アメリ カの教育方法学を牽引するジョンソンら(参考文献[2]) によれば、協同学習の理念は、「[…] 学生が共通の目標 達成を目指してともに学ぶ場面を構築する(p.7)」こと にあるとされる。ここで重要なことは、学びの本質は協 同的な活動の中にこそあり、個人の能力に還元されるも のではないとする見方である。 このような協同学習の基本的な考え方は、現代社会に おける人間の成長や社会変革に対する従来とは異なる見 解を背景としている。従来までの学びが前提としていた のは、学生は競争によって育つという前提であったのに 対して、協同学習では、協同に基づくクラス全体の成長 を目標とするものであり、学生同士は課題達成に向けた プロジェクトメンバーとして位置づけられる。 このように協同学習は、従来までの競争社会とは異な る共生社会の形成を目的とした社会変革の一環に位置づ けられるものであり、こうした動きは、日本の学校を見 ても、①児童生徒相互の学び合い、②教員相互の連携体 制の構築、③チーム学校としての学校づくりなど、学校 =社会のパラダイム転換を志向していることにあらわれ ている。大学教育においても、こうした学びの理念に留 意し、新たな授業の在り方を模索していく必要がある。 以上のような教育のパラダイム転換を背景に、山梨大 学では共通教育に携わる教員が自らの教育実践に対して どのような姿勢で臨み、具体的にどのような取り組みを しているのかを調査した。 1.2. 調査の概要 本調査の内容、方法、対象は下記の通りである。 ● 調査内容 共通教育における協同学習の実施 状況 ● 調査方法 メール文書によるアンケート調査 ● 調査対象 共通教育科目を担当する全教員(非 常勤講師を含む) 本調査では、協同学習を下記のように定義した。 「協同学習とは、その授業の受講者(学習者)が互 いに学習のための教育資源となり、授業目標に到達 すべく、あるいは目標を超えるべく、互いを尊重し つつ互恵的に学び合うことであり、その具体的内容 として、以下の①②などが考えられる。 ① 受講生同士による話し合いや、受講生の協同 による課題解決や製作(制作) ② 他の受講生への思考・技能等の手がかりとな るような受講生の実演や考え・製作(制作)物 のプレゼンテーション」 質問項目としては、下記の三つを設定した。 ● 実施の有無 授業において協同学習を実施し ているか ● 実施の頻度 授業全体で協同学習を何回実施 したか ● 実施の方法 どのような方法でどのような結 果を得たか(自由記述)平成 30 年度の回答数は下記の通りである。 ()内の数値:実際の開講されている科目数 以下、共通教育科目のカテゴリー別にその実施状況を 概観、分析した後、全体の結果と考察を行い、最後に山 梨大学における今後の教育改善に向けた展望を述べる。 2.カテゴリー別実施状況 本学の共通教育は、大きく人間形成科目、語学教育科 目、教養教育科目の三つのカテゴリーに分類されている。 2.1.人間形成科目 人間形成科目は、下記の3つのカテゴリーからなって いる。 ①「生活と健康ⅠⅡ」全学部の学生の必修科目 ②「大学基礎・キャリア形成科目1」医学部以外の3 学部の学生の選択必修科目 ③「国際理解教育科目」全学部の学生の選択科目 まず、実施率を見ると、人間形成科目の前期の実施 率はすべて 100%となっているのに対し、後期は「大学 基礎・キャリア科目」で実施率が 43%に半減している。 また内訳としては、「生活と健康ⅠⅡ」「国際理解教育科 目」はすべて 100%実施なのに対して、「大学基礎・キャ リア形成科目」は実施率にばらつきがある。前者につい ては、科目の性質上、必然的に協同学習の形態をとるこ とによるものと考えられる2。 次に、実施頻度を見ると、すべての授業において何ら かのかたちで協同学習を導入しているものもあれば、3 回程度、6回程度、全く導入していないなど、多様なケー スがあることがわかる。総じていえば、協同学習を高い 頻度で実施している教員は、授業展開や学習方法を意識 的に工夫し、確かな教育効果をねらい協同学習を取り入 れていることが見てとれる。 また、実施方法を見ると、ペアワーク、グループワー ク、ディスカッション、グループ発表(プレゼンテー ション)といった一般的なものから、将来像に関するイ メージマップの作成と共有、キャリアデザインに関する 資料を用いたジグソー法といった協同学習のアプローチ 1 大学基礎・キャリア科目は初年次教育とキャリア教育に資する科目群で構成されている。 2 「生活と健康」は多様なスポーツに取り組む科目が多く、「国際理解教育科目」は海外研修・留学を予定している事前指導を含む授業となっ ている。 に基づく高度な教育実践を試みた授業も含まれている。 また「生活と健康ⅠⅡ」では、対戦にあたりチーム内で の話し合いの機会を持ったという実践もある。 最後に、実践の効果については、少人数のグループ討 議によって学生相互の理解が深まった、学生のコミュニ ケーション能力が育成された、学生が自信をもって自己 呈示ができるようになった、さらに、他の学生のプレゼ ンテーションを観察することで自己の客観視ができるよ うになった、リーダーを毎回担当制にすることでリー ダーシップの育成に有益であったなど、様々な効果が指 摘されている。 2.2.語学教育科目 語学教育科目については、英語及び4つの未習外国語 (ドイツ語、フランス語、中国語、スペイン語)、そして 留学生向けの日本語の授業がある。 平成 30 年度前期の調査によれば、英語では 66 科目の うち 53 科目、ドイツ語では回答があった 15 科目のうち 6科目、フランス語では6科目のうち5科目、スペイン 語では回答のあった 10 科目すべて、中国語では回答の あった 15 科目のうち 11 科目で、日本語では8科目中す べてで、協同学習を行っていた。言語教育では当然教室 での会話練習のようなエクササイズはよく行われるた め、協同学習の割合が高くなっている。 具体的な内容としては以下のようなものがあり、それ ぞれの授業での先生方の工夫がうかがえる(平成 29 年 度前期の記述回答より)。 「受講生同士による教科書のトピックに関する英語を 使った話し合いを授業の始めと終わり 10 分程度ずつ実 施した。」 「授業開始後の約 10 分間(中略)事前に与えられたト ピックについて、3人1組で英語で話し合う機会を設け ている。言語能力に限りがあるので、この活動によって 思考を深めるところまでは行かないが、支障なく参加す
るための準備は大部分の学生がしてくる。」 「文法を一通り入れた後、グループに分かれてタスクに 取り組む活動を入れています。学んだものを使ってコ ミュニケーションに結びつける応用の機会となっていま す。」 協同学習の効果としては、以下のような意見が聞かれ た。 「受講生同士が協同して課題に取り組むことで、授業に 対するやる気が向上していたように思う。」 「グループワークやペアワークを通じて、学習者同士で 自分たちの書いた(話した)‘語彙や文法、表現を修正 したり改善したりと、学生たちが自主的に学ぶ授業を心 がけた。また、ペアやグループで話し合い、練習したこ とを、クラス全体で発表し、それをしかるべき観点から、 聞き手である学生たちに評価してもらうことで、発話の ポイントを内省したり、客観的に判断できる力の育成も 可能となった。」 2.3.教養教育科目 教養教育科目は、人文科学分野、社会科学分野、自 然科学分野、健康科学分野の4つの分野にわかれてお り、学部によって多少の差異はあるが、どの学部でも最 低限、学生の皆さんは、それぞれの分野の中から1科目 を履修することとなっている。実技系の一部の科目(音 楽や芸術系など)については定員が 10~20 名であるが、 それ以外の科目については 50 名が定員の最低限となっ ている。 平成 30 年度前期の調査によれば、人文科目では 11 科 目のうち7科目、社会科学では 16 科目のうち9科目、 自然科学では回答のあった 18 科目のうち4科目、健康 科学では 12 科目のうち4科目で、協同学習を行ってお り、そのうち7つの授業では、12 回以上、協同学習を行っ ていた。 具体的な内容としては以下のようなものがあり、それ ぞれの授業での先生方の工夫がうかがえる。 「その日に扱う課題を事前に読んでこさせ、授業の最初 に感想アンケートを提出させて、着眼点のよいものいく つかを簡単に紹介・品評してから講義に入る形にした。」 「留学生と日本人学生が混在する英語が媒介語の授業 (中略)。毎週、映画やドキュメンタリー、写真などを見 せながら、毎週テーマに沿った質問が与えられ、グルー プでのディスカッションを中心に進め[た。]」 「有用微生物の顕微鏡観察や、生産物定量実験等におい て互いの手技や実験結果を比較して議論し、微生物の有 効利用法について理解を深めた。」 また、前半の6回は講義、そして後半の9回で学生一 人一人がプレゼンテーションを行う、といった形の授業 (「ウイルスの生命科学」加藤伊陽子先生担当)もあっ た。この授業では、パワーポイントのスライドを前日ま でに提出させ、教員がチェックし、再提出させた上で実 際のプレゼンテーションを行い、さらにはそれぞれの発 表の後に、全学生が要点/感想を記入して提出する、と いう形式が取られていた。 こうした学習の効果として、他の学生のスライドや説 明から学ぶので、視点が共通しており、わかりやすいと 感じる、他の学生から刺激を受ける、自立して学習し、 発表をするので、勉強になったと思う学生が多い、といっ たメリット、そしてそれに対し、50 人の学生にこのよ うな指導をするためには、時間数が不足していると感じ られる、といった問題点が指摘されている。 また、実技・演習を主とする授業では、作品を掲示し たり、作品の前で受講生が発表を行ったりして、それに 対して学生がコメントを述べる、といった形の授業もあ り、担当教員の考えでは、教員自身の講評以外にも他の 受講生の捉え方が、客観的な理解に役立った、とのこと であった。 2.4.全体の結果と考察 最後に、山梨大学の共通教育科目の全体的な実施状況 を確認しておこう。全体の傾向として最初に気づくの は、受講生が多い科目であるにも関わらず、平成 30 年 度の実施状況では、前期 74%、後期 73%とかなりの高 い実施率を示していることである。こうした高い実施率 は、本学の共通教育科目の担当教員が、教員と学生、学 生相互の学び合いを積極的に取り入れ、授業の活性化に 努めていることのあらわれと言える。 次に、領域別の実施状況のバランスを見てみると、文 系科目ではともに高い実施率を見せているが、理系科目 では低くなっている(前期 26%、後期 33%)。これはお そらく、科目の内容上の性格が反映していると考えられ る。つまり、理数系の科目では、新たに習得すべき学習 項目が多いため、従来の講義法のほうが向いており、対 話的で深い学びへいざなう時間的な余裕がないことが理 由として考えられる。 以上のような全体的な傾向から読みとれるのは、協同 学習はどんな場合でも一律に効果を発揮するものではな く、授業内容によっては効果が得にくい場合もあるとい うことである。言い換えると、アクティブラーニングを 志向する協同学習といっても、ある特定の授業目標と相 対的に効果を発揮するアプローチであり、こうした限界 を踏まえておくことは教育方法の形骸化を防ぐうえでも 重要だろう。 今後、本学の共通教育において協同学習の導入を進め ていく場合、以上のような協同学習の可能性と限界を自 覚し、実質的な議論を行っていく必要があるだろう。例 えば、どのような授業において協同学習が効果を発揮す
るのか、具体的な指導法としてどんな選択肢があるの か、そのためにはどのような指導技術を身につけていく 必要があるのかといった展望を持ち、授業改善に向けた 不断の努力をしていく必要がある。 また、協同学習の効果的な実践例だけに目を向けるの ではなく、協同学習をあえて導入しないという選択肢も あり得るという柔軟な態度をとることも肝要であろう。 そのさい、ある授業ではなぜ伝統的な講義法やその他の アプローチのほうが有効なのかを問う姿勢も大切ではな いだろうか。そのようにしてはじめてバランスのとれた 授業改善が実現されると考えられる。 2.5.協同学習の可能性 それでは、協同学習はどのような授業において効果を 発揮するのだろうか。端的に言えば、それは相互交流に よって学びが促進される授業であるということになる。 協同学習は万能ではない。そうしたアプローチをとるこ とで効果が促進される授業と、反対に阻害される授業も ある。前掲のジョンソンらは、協同学習が効果を発揮す るのは、下記のような特徴を持った授業であると述べて いる。 ● 本質的な問いが掲げられている授業 ● 課題が複雑でかつ概念的である授業 ● 批判的思考や創造性が発揮される授業 (参考文献[2]、p.55[一部改変]) 第一に、本質的な問いが存在するとは、単純な作業や スキルの習得が授業の目的ではなく、何らかの重要な問 いが掲げられており、学生はそうした問いを課題として 受けとめ、互恵的な協力のもと解決へと向かうものであ るということである。 第二に、課題が複雑であるとは、課題解決が個人の思 考力・判断力ではなく、相互交流によって達成されるレ ベルにあることを、また課題が概念的であるとは、課題 解決において高度な思考や推論が必要とされることを意 味する。 第三に、批判的思考は、グループの他者の意見を取り 込み、集団的な討論をくりかえす中で醸成されていく、 創造性もまた、個人的な思索よりもむしろ相互の関係性 の中で促進されるという信念がある。 加えて、ジョンソンらは協同学習を成功に導くために は、①互恵的な相互信頼関係の構築、②解決課題と到達 目標の明確化、③メンバー相互の役割の自覚などに配慮 する必要があると述べている(参考文献[3]、p.57)。 つまり、学生たちを単なる仲良しグループではなく、課 題解決のためのプロジェクトメンバーとして育てていく 必要があるということである。そのためには教員のほう にも相応の指導技術が必要となる。 3.まとめと展望 以上、本学の全学共通教育における協同学習の実施状 況を概観し、その傾向を分析してきた。山梨大学の共通 教育を担当する教員が協同学習を高い実施率で取り入れ ていることは一定の評価が与えられる。それは本学の教 員が研究者としてのみ存在意義を見出すのではなく、大 学教育を担う教員として、将来豊かな社会生活を送る教 養人として学生を育てていることの証左とも言える。 しかし、最初に述べたように協同学習の導入の意義は もっと深いところにある。誤解を恐れずに言えば、伝統 的な指導法がスキルの習得を目的とした技術者の養成を 目指していたのに対して、協同学習は新たな価値の創造 を目的とした市民性の育成、さらには共生社会の実現と いう社会変革の一環に位置づけられる。私たち教員は協 同学習を導入するうえで、まずこうした理念を共有する ことからはじめていくべきではなかっただろうか。 本調査にあたり、各教員が協同学習の方法と意義を真 に理解したうえでの回答かどうかは未知であり、現段階 では、文部科学省の大学認証評価に回答できるよう調査 を実施したに過ぎないと指摘されても肯首せざるを得な い。こうした反省に立ち、今後、授業改善に向け、教養 教育センターを中心に継続的に実施できることとして は、下記のような方向性が考えられる。 第一は、全学FD 研修会等を開催し、協同学習につい て学ぶ機会をつくることである。今回の調査では、協同 学習とは何かについて具体的な知見を共有するまえに調 査を実施したが、そもそも協同学習とは何か、具体的に どのような指導法があるのか、さらにそれぞれの学習効 果として何が期待できるのかといった基本を知るための 学びの機会を提供することが大切であろう。 第二に、今回の調査で得たアンケートの自由回答を質 的に分析することで、どのような授業実践が成功してい るのかを考察することもできる。また、今回は実施状況 を統計的な数値によって概観したが、もう少し具体的に 協同学習を先進的に取り入れている教員に個別のインタ ビューを実施し、その指導法や学習効果について聞き取 り、その結果を報告書として共有することも有効であろ う。 ※ 今回の調査に協力いただいたすべて教職員の皆様に この場を借りて感謝申し上げます。とりわけ、今回の調 査では、共通教育科目の担当教員及び教務支援室の協力 により、ほぼ 100%の回答を得ることができたことを合 わせて報告申し上げます。また、今回のアンケート(自 由回答)で詳細な報告を提供いただました先生方のコメ ントは、今後、貴重な資料として本学の教育改善に役立 てていきたいと思います。
参考文献 [1] 中尾俊樹(編著)2015.『シリーズ大学の教授法3 アクティブラーニング』玉川大学出版会. [2]D.W. ジョンソン,R.T. ジョンソン,K.A. スミス 2001.『学生参加型の大学授業――協同学習への実 践ガイド』玉川大学出版会. [3]D.W. ジョンソン,R.T. ジョンソン,E.J. ホルベック 1998.『学習の輪――アメリカの協同学習入門』二 瓶社.