はじめに 世界は今,「低炭素社会」を実現するためのパラダイム・シフトのなかにある。1997 年12月には,「気候変動に関する国際連合枠組条約」に基づき,第3回国連気候変動 枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議,COP3)が開かれ,「京都議定書」 の採択によって,地球温暖化の原因である温室効果ガスの削減率と目標値が決められ た。 まず,欧州連合(European Union:EU)が地球環境に対する取り組みをリード し , 政 治 的 枠 組 み の 流 れ を つ く っ た 。 E U の 政 策 執 行 機 関 で あ る 欧 州 委 員 会 (European Commission)は,2007年1月に「EU気候・エネルギー2020包括戦略」 (通称『バローゾ報告書』)を発表した。これは,委員長のジョゼ・バローゾ(José
Manuel Durão Barroso)が中心となってまとめたものであり,2020年までに温室効果 ガスを20%削減し,全エネルギーに占める自然・再生エネルギーの割合を20%にまで 高めるとした1)。
また,2009年1月には,自然・再生可能エネルギーを世界的規模で普及・促進する
ため,国際再生エネルギー機関(International Renewable Energies Agency : IRENA) が発足した2)。IRENAは,いちはやく「再生可能エネルギー法」を制定したドイツで 発足したが,これは,国際原子力機関(International Atomic Energy Agency)や国際 エネルギー機関(International Energy Agency)とともに,戦後3つ目のエネルギー 関係の国際機関であり,環境やエネルギーの課題にグローバルな視野で取り組もうと する国際世論の表れであった。
しかし,国際世論の危機感にもかかわらず,地球温暖化や気候変動は予想以上のス ピードで進行しつつある。アメリカ海洋大気圏局(National Oceanic and
Atmos-グリーン・ニューディールのインフラ・イノヴェーション構想
―― ディヴェロップメントからディプロイメントヘ ――
The Green New Deal and the Infrastructure Innovation:
The Transition from “development” to “deployment”
河 内 信 幸 N o b u y u k i K A W A U C H I
pheric Administration:NOAA)は,2011 年1月,2010 年の世界平均気温が20世紀 の平均に比べて0.62 度高く,記録の残っている1880年代以降では,2010年の夏が 2005年と並んで最も暑かったことを発表している。また同じ2011年1月,アメリカ航 空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration:NASA)も,世界の千カ
所以上の観測点や人工衛星の海水温観測データを分析し,2010年12月のカナダ方東部 の気温が10度以上も高かったことをはじめ,北半球の高温が北極海の氷の後退と深く 関係していることを解明している3)。 現在は,異常気象や海水温の上昇が常態化していることを誰も否定できない。その ため,人類の生存に関わる国際世論の危機感が高まり,環境・エネルギー政策と地球 温暖化・気候変動対策を基軸とする「グリーン・ニューディール」が,アメリカ合衆 国(以下アメリカと略)のオバマ政権を始めとして世界中で提唱されてきた。 「グリーン・ニューディール」は,「低炭素社会」を構築する環境・エネルギー政策 であると同時に,様々な技術革新の推進による,新たな社会システムやインフラ再構 築の政策でもある。歴史を振り返ると,産業革命以来,人類が整備したのは化石燃料 を潤沢に使うことによるインフラであった。しかし,地球温暖化・気候変動問題の深 刻化は,そのような社会構造が持続可能なものでないことを私たちに痛感させている。 そのため,「グリーン・ニューディール」は,化石燃料の枯渇と地球環境の悪化に対 処するインフラの再構築という,人類の未来を左右するグローバルな課題を提起して いる4)。 しかし,「低炭素社会」の実現には,21世紀型の経済成長エンジンが必要であり, 太陽光,風力,バイオマス,地熱などの自然・再生可能エネルギー体系を中心とする エネルギー・システムを構築するため,新たな技術開発とイノヴェーションが不可欠 である。特に,世界同時不況の真只中にある今,地球温暖化防止と経済活性化の両立 を図る必要があり,新しい知識や技術革新が牽引力となる社会経済システムを構築し, 地球に優しい,持続可能なインフラを創造するイノヴェーションが強く求められてい る5)。 本稿では,アメリカの「グリーン・ニューディール」を取り上げ,民主党のバラ ク・オバマ(Barack H. Obama, Jr.)政権が目指す,新たな社会システムやインフラ革 新の方向性を検証する。それは同時に,私たちのライフスタイルを見直し,社会イン フラの転換に向けた問題提起でもあることを忘れてはならない。
Ⅰ.グリーン・ニューディールの発足
(1)グリーン・ニューディールのコンセプト
2009年1月に第44代大統領に就任したバラク・オバマは,選挙中から環境・エネル ギ ー 政 策 を 提 唱 し ,2008年8月に「アメリカ新エネルギー」(New Energy for America)構想を発表した。それは,今後10年間に1,500億ドルを投入し,自然・再生 可能エネルギーの推進やエネルギー効率の向上によって,温室効果ガスの排出を2050 年までに1990年に比べて80%削減することを呼びかけていた6)。 第1表:「グリーン・ニューディール」政策の基軸 [出所]http://www.whitehouse.gov/agenda/energy_and_environment/ 原油価格高騰への対応 エネルギー自給率の向上 温暖化対策 クリーン・エネルギーの 推進 自動車の環境対策 ・原油への行き過ぎた投機を抑制 ・戦略的石油備蓄を利用 ・10年以内に中東とベネズエラからの石油輸入量 を超えるエネルギーを節約 ・石油と天然ガスの国内生産を推進 ・アラスカの天然ガス・パイプラインの建設を優 先的に実施 ・2050年までに温室効果ガス排出を1990年比80% 削減 ・経済全体を対象にした排出量取引(キャップ& トレード)制度を連邦レベルで導入 ・温暖化防止の分野で世界のリーダーになる。 ・今後10年間に1,500億ドルをクリーン・エネルギー に投資,500万人の雇用を創出 ・2012年までに電力の10%,2025年までに25%を 再生可能エネルギーで賄う。 ・クリーンコール技術の開発促進 ・10年間,年間100万の低所得世帯を省エネ改築 ・連邦レベルで燃費効率基準を向上させる。 ・2015年までに1ガロン・150マイル走行可能な国 産プラグイン・ハイブリッドカー(PHEV)を 100万台導入 ・エコカーなど,先進的車両の購入に対する7,000 ドルの税額控除の実施 ・低炭素燃料国家基準の導入
そして,就任直後の2009年4月にオバマ大統領は,全米科学アカデミー(National Academy of Sciences:NAS)年次総会で,同様の温室効果ガス削減率を新政権の公約 として表明した。しかもオバマは,自然・再生可能エネルギーや省エネ技術の革新に よって,向こう10年間に500万人の雇用を創出すると公約しており,地球温暖化の防 止と経済活性化の両立を図るため,第1表のような「グリーン・ニューディール」の ヴィジョンを示した。 ワシントンDCにある,リベラル派のシンクタンク「センター・フォー・アメリカ ン・プログレス」(Center for American Progress:CAP)は,オバマ政権の誕生を期 待して様々な政策提言をしてきた。このCAPは,クリントン元大統領の首席補佐官を していたジョン・ポデスタ(John Podesta)が2003年秋に開設したシンクタンクであ
り,今日まで民主党サイドに立つ政策提言を行ってきたことで知られる7)。
CAP は ,2 0 0 7 年 1 1 月 に 『 エ ネ ル ギ ー 機 会 を 捉 え て ― 低 炭 素 経 済 の 創 造 』 (Capturing the Energy Opportunity: Creating a Low-Carbon Economy)と題する
提言を打ち出していたが,大統領選挙運動が終盤を迎えた2008年9月,「グリーン・ ニューディール」の政策構想を裏付けるため,『グリーン再生』(Green Recovery)と 題する報告書を発表した。この報告書は,CAPの構想とリードに基づいて作成され, マサチューセッツ大学アマースト校の経済学部と政治経済研究所が協力し,省エネ対 策の推進や「低炭素社会」の構築が,雇用の拡大と経済再生につながると提唱した8)。 『グリーン再生』はオバマの当選にも大きく寄与したといわれ,マサチューセッツ 大学アマースト校のロバート・ポーリン(Robert Pollin)教授と,CAP上級研究員 のブラッケン・ヘンドリックス(Bracken Hendricks)の貢献が大きい。ポーリン教 授は,ポスト・ケインジアンの系譜を引くエコノミストであり,従来から新自由主義 (ネオ・リベラリズム)を批判し,環境対策が経済再生に「乗数(マルチプライヤー) 効果」(政府支出や投資によって国民所得が掛算的に増加する効果)をもたらすと主 張していた。そのため,ポーリン教授は,地球温暖化防止と環境対策に年間1,500億 ドル規模の財政出動を求めた9)。 そしてCAPは,オバマの当選が確実になった2008年11月,『アメリカの変革:第 44代大統領への青写真』(Change for America: A Progressive Blueprint for the 44th President)と題する政策ヴィジョンを発表し,「グリーン・エコノミー」による大胆 な経済変革を新政権に要請した。この提言書は,2008年9月の“リーマン・ショッ ク”を克服するアメリカの経済改革を示すものとなり,オバマ新政権の「グリーン・ ニューディール」の方向性を確かなものとした10)。 それは,グリーン・テクノロジーの研究開発により,太陽光,風力,バイオマスな どの自然・再生可能エネルギーへの大転換が実現すれば,新たな産業分野と雇用拡大 が生まれ,社会システムやインフラが革新されると期待していたからである。つま
り,「グリーン・ニューディール」は,単なるばら撒きの公共事業ではなく,民間投 資の促進と雇用拡大を図りながら,長期的な構造改革を目指した政策ヴィジョンなの である。このようなオバマの姿勢は,オーストラリアの環境保護・気候変動対策組織 との共同声明などにも如実に表れていた11)。 特に,アメリカの自動車産業は,今回の金融危機と世界同時不況によって壊滅的な ダメージを受け,2009年4月にクライスラー・グループ(Chrysler Group・LLC),同 年6月にゼネラル・モーターズ(General Motors:GM)が,それぞれ経営破綻に追 い込まれた。両社とも連邦破産法第11条(日本の民事再生法)を申請したが,2009年 6月にクライスラーが再建されると,事実上国有化される事態となったGMも,翌7 月には破産法管理下から脱して再生を果たした。新生GMが電気自動車(EV)・ボル ト の 販 売 に 期 待 を か け た よ う に , 他 の ク ラ イ ス ラ ー や フォ ー ド( Ford Motor Company)も,電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)への移行を進 め,アメリカ自動車産業は大きな構造変化の時期を迎えた12)。確かに,このような産 業構造の変革が進めば,いうまでもなく温室効果ガスの削減に繋がり,地球温暖化・ 気候変動対策と環境・エネルギー政策に大きく貢献することになる。 自動車産業の構造変革とともに,「グリーン・エコノミー」の中核になるのが,後 述するように,自然・再生可能エネルギーによる電力送電網の構築であり,電力供給 の最適化・統合化・多目的化と,ネットワーク化を図る「スマート・グリッド」の実 現である。 (2)「グリーン・ドリーム・チーム」の誕生 一般的に,オバマ新政権の閣僚はビル・クリントン(Bill Clinton)政権とのつなが りが深いと言われているが,オバマは,「グリーン・エコノミー」政策の担当者に次 のようなスタッフを起用した。エネルギー・気候変動問題担当大統領補佐官には,ク リントン政権下で環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)長官を8 年間務めたキャロル・ブラウナー(Carol Browner),エネルギー省(Department of Energy:DOE)長官には,カリフォルニア大学教授(元ローレンス・バークレー国 立研究所所長)で「環境派」を代表する,ノーベル物理学賞受賞者のスティーヴン・ チュー(Steven Chu)が任命された。 エネルギー・気候変動問題担当補佐官は,今回ホワイトハウスに新設されたポスト であり,大気規制法の制定や汚染土壌の浄化など,環境行政の経験豊富なブラウナー には,オバマ政権の“環境・エネルギーチーム”のリーダーを務める役割が託されて いる。またチューは,環境にやさしい代替エネルギーの開発を唱導してきた専門家で あり,カリフォルニア州の環境保護や省エネ対策を評価しつつ,地球温暖化の原因が
化石燃料の消費にあることを訴えてきた。
さらに,環境保護庁長官にはリサ・ジャクソン(Lisa Jackson),ホワイトハウスの 環境評議会(Council on Environmental Quality)議長にはナンシー・サトリー (Nancy Sultley)が抜擢された。ジャクソンは,環境保護庁に関わる勤務経験が長 く,ニュージャージー州の環境政策などで多くの実績をあげてきた。そしてサトリー は,ブラウナーが環境保護庁長官の時代にアドバイザーを務め,ロサンゼルス副市長 として環境・エネルギー政策を担当した経験をもっている13)。 2008年12月16日付けのオバマ政権移行チームのウェブサイト CHANG.GOV は, チュー,ブラウナー,ジャクソン,サトリーのエネルギー・環境対策スタッフを「グ リーン・ドリーム・チーム」と呼んで称え,オバマ政権のグリーン・ニューディール と「グリーン・エコノミー」政策に期待感が高まった。 「グリーン・ニューディール」は,環境・エネルギー政策と地球温暖化・気候変動 対策を梃子にして,経済構造や社会システムのパラダイム転換を目指すものである。 しかし,「グリーン・エコノミー」の実現には環境テクノロジーの革新が不可欠であ り,オバマ大統領は,社会インフラを転換させる科学技術の振興を非常に重視してい る。そのため,科学技術担当大統領補佐官にハーヴァード大学のジョン・ホルドレン (John Holdren)教授,アメリカ海洋大気圏局(NOAA)の局長にオレゴン州立大学 のジェーン・ルブチェンコ(Jane Lubchenco)教授などが任命された。科学技術担 当大統領補佐官は,クリントン政権までは置かれていたものの,ブッシュ前政権では 公式には任命されなかったポストであり,物理学者のホルドレンは,世界的な核廃絶 論者としても知られる。また,NOAA長官のルブチェンコには,地球温暖化と海洋資 源の保護に関する科学的な提言が求められる14)。
さらに,大統領科学技術諮問委員会(President’s Council on Advisors on Science and Technology:PCAST)の共同議長には,マサチューセッツ工科大学のエリッ ク・ランダー(Eric S. Lander)教授と,元国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)のハロルド・バーマス(Harold E. Varmus)(1989年ノーベル生理学・ 医学賞)が,科学技術担当大統領補佐官のホルドレンとともに起用された1 5 )。そし て,国立衛生研究所(NIH)の長官に,元ヒューマン・ゲノム研究所(US National Human Genome Research Institute)のフランシス・コリンズ(Francis Collins)も 任命され,人材と予算の両面で科学技術の振興を推進する姿勢が示された。これは, 地球温暖化・気候変動や環境・エネルギー問題ばかりでなく,医療,生命倫理,さら にはテロ対策などの安全保障問題にも,最先端の科学的知見を活用しなければならな いという,オバマ政権の姿勢の表れであった。
(3)「グリーン・ニューディール」の制度化
オバマは,就任前の2009年1月に早くも自然・再生可能エネルギーを軸とする「グ リーン・エコノミー」刺激策を発表するとともに,就任直後の2月には「アメリカ再 生・再投資法」(American Recovery and Reinvestment Act:ARRA)を成立させ,今 後2年間で350万人の雇用を創出する,総額7,872億ドルの景気対策を打ち出した。 ARRAは,多岐にわたる景気刺激策であることから“スティミュラス・パッケージ” (Stimulus Package)と呼ばれるが,そのうち第2表のように,約580億ドルが環境・ エネルギー分野に割り当てられた16)。 ARRAが掲げる環境・エネルギー政策は,再生可能エネルギー事業の推進と公的建 築物の省エネ化を主たる方針にしており,経済再建と雇用の拡大をもたらし,エネ ルギー安全保障に寄与することを目標にしている。 第2表:「アメリカ再生・再投資法」(ARRA)の主な環境・エネルギー分野配当
[資料] “Feb, 9-13 Weekly Report” Congressional Quarterly Weekly (2009).ホワイトハウス公式サイト (http://www.whitehouse.gov/)などに基づいて作成。 項 目 送電網の近代化,スマー ト・グリッド関連 省エネ・再生可能エネル ギー プラグインハイブリッド 炭素隔離・貯留 減税措置 内 容 ・電力管理・運営事業への融資 ・スマート・グリッドの整備 ・送電線整備借入保証 ・スマート・アプライアンス ・省エネ・再生可能エネルギープ ログラムへの融資 ・再生可能エネルギー/送電整備 借入保証 ・連邦政府建物の省エネ化 ・住宅等の省エネ化 ・州政府の省エネプログラム助成 ・高効率燃料車への助成 ・充電インフラの整備 ・次世代型バッテリーの製造 ・クリーン技術の開発 ・事業者への生産税控除の延長 ・家庭の省エネ投資減税(1世帯 あたり上限1,500ドル) ・プラグインハイブリッド車等, 購入者向け減税 規模(億ドル) 65 45 20 3 168 60 45 50 63 6 4 20 34 131 20 20
まずARRAは,第2表のように,送電網の近代化や「スマート・グリッド」の整備 に110億ドルの予算を割り当て,省エネ・再生可能エネルギー・プログラムに168億ド ルもの融資を行う。そして,連邦政府の建物や一般住宅の省エネ化を推進するととも に,プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)や電気自動車の普及を促進させるため, 充電インフラの整備や次世代型バッテリーの製造を助成する。しかもARRAは,州・ 地方政府のエネルギー効率化事業に63億ドルを支援することも掲げており,省エネと 再生可能エネルギーの研究開発にアメリカ全体で取り組む方針が示されている。 ARRAは,これまでの減税措置(タックス・クレジット)の延長や拡大により,ク リーン・エネルギー創出事業や再生可能エネルギー事業を支援する。
生産税控除(Production Tax Credit:PTC)は,発電所の稼動開始から10年間にわ たって発電量に応じて適用されるものであるが,2010年が期限となっていた。その PTCが3年間延長されることになり,たとえば風力発電は2012年まで,その他(バイ オマス,小水力,地熱,波力など)の発電は2013年まで適用される。因みに,2008年 度のアメリカの風力発電は前年の5割増となり,第3表のように,風力発電世界一の 座を11年ぶりにドイツから奪還している17)。 第3表:世界の風力発電設置容量(単位:GW) 再生可能エネルギー事業者は,このようなPTCのほかに,設置コスト(投資額)の 30%の投資減税(Investment Tax Credit:ITC)を選択することも可能であり,風力 や太陽光以外の再生可能エネルギーのITCは,4年間延長されて2013年までとなっ た 。 な お ,太 陽 光 発 電 の ITC に つ い て は ,2 0 0 8 年 1 0 月 の 緊 急 経 済 安 定 化 法 (Emergency Economic Stabilization Act)により,すでに8年間の延長が決まってい
る。 このITCは,具体的には太陽光のセル,モジュール,パネル工場,風力発電のブ レード製造工場などが対象となっており,世界の再生可能エネルギー事業者の参入に より,技術の集積や雇用創出の効果が期待される。そして,アメリカがグリーン・テ 順 位 国 名 容 量 順 位 国 名 容 量 1 中 国 42.3 7 フランス 5.7 2 アメリカ 40.2 8 イギリス 5.2 3 ドイツ 27.2 9 カナダ 4.0 4 スペイン 20.7 10 デンマーク 3.8 5 インド 13.1 ― その他 26.5 6 イタリア 5.8 ― 世界全体 194.4
[資料]GWEC Global Wind Energy Council http://www.gwec.net/
クノロジーの開発競争や商業化の主戦場になれば,技術やシステムの標準化を含む環 境テクノロジー戦略において,アメリカが世界をリードすることができるという見通 しもでている18)。 なお,日本の場合,太陽光発電の分野で世界をリードしてきた。しかし日本は, 2005年に導入量で初めてドイツにトップの座を譲り渡し,第4表のように,2008年の 段階ではスペインにも抜かれて世界第3位である19)。 第4表:再生可能エネルギーの導入ランキング 第1図:世界の太陽電池生産量 2000−2009年(単位:MW)
[資料] European Photovoltaic Industry Association, Global Market Outlook for Photovoltaics until 2014 (May 2010), pp.5-6. 0 5000 10000 15000 20000 24000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009(年) 年間生産量(MW/年) その他 EU 中国 日本 アメリカ
[資料]Deutsche Gesellshaft fur Technishe Zusammenarbeit(GTZ)GmbH 2010.
第1位 第2位 第3位 第4位 第5位 中 国 アメリカ ドイツ スペイン インド 中 国 アメリカ カナダ ブラジル 日 本 アメリカ 中 国 ドイツ スペイン インド アメリカ ブラジル ドイツ 中 国 スウェーデン アメリカ フィリピン インドネシア メキシコ イタリア ドイツ スペイン 日 本 アメリカ イタリア 再生可能エネルギー 発電容量(小規模水力含) 再生可能エネルギー 発電容量(全水力発電含) 風力発電 バイオマス発電 地熱発電 太陽光発電(系統連結型) (2009年現在)
なお,ARRAの制定により,減税措置と補助金交付の間で選択ができるようになっ た意義も大きい。再生可能エネルギー事業者は,設置コストの投資減税(ITC)の代 わりに,同じ30%相当分の補助金を受け取ることが初めて可能となった。金融危機・ 経済危機のなかで,多くの再生可能エネルギー事業が赤字に陥り,減税措置よりも補 助金交付のほうが有効になっている面を否定できないからである。しかも,ARRAの 制定に基づき,金融危機による貸し渋り対策として,連邦政府が再生可能エネルギー 事業への投資に対する債務保証制度を開始したことも忘れてはならない20)。 そのほか,住宅や自動車のエネルギー効率をあげるため,投資減税も拡大される。 たとえば,住宅向けの断熱性向上などへの減税は,従来の10%から30%に拡大され, 1世帯当たり1,500ドルの上限が設けられた。また,プラグイン・ハイブリッド車 (PHEV)の普及を促進するため,2010年から購入者に対して最大7,500ドルの減税も 実施されることになった21)。 オバマ政権の発足とARRAの成立により,エネルギー省(DOE)などを中心に, 次々と環境・エネルギー政策が打ち出された。 DOEは,2009年3月に州・地方自治体の住宅耐候化・エネルギー効率化対策に約 80億ドルを支援すると発表した。耐候化支援プログラムから約50億ドル,州エネル ギー・プログラムから約30億ドルを投資し,8万7,000人の雇用を創出する目標も掲 げられた。また環境保護庁(EPA)は,地球温暖化対策のモデル地域づくりを支援す るため,地方自治体の温室効果ガスの排出削減プロジェクトを支援する「気候ショー ケース・コミュニティ」補助制度に1,000万ドルを充当すると2009年6月に発表した。 しかも,DOEと農務省は,2009年5月と7月にバイオ燃料の開発と商業化にも支援 する姿勢を示した。 そして,DOEと財務省は,2009年7月に再生可能エネルギー・プロジェクトに対 して総額30億ドルの支援策を打ち出すとともに,同年8月には「州エネルギー計画」 に対して総額1億6,200万ドルを補助すると発表した。また,DOEのチュー長官は, 2009年6月にサンフランシスコで開かれた「2009年エディソン電気協会年次大会」 で,「スマート・グリッド」などの送電インフラ整備に総額39億ドルを充当すると述 べた。さらにチュー長官は,2009年7月に再生可能エネルギー・プロジェクトに対し て最大300億ドルの債務保証を行うと約束し,「スマート・グリッド」などの整備に7 億5,000万ドルを拠出すると表明した。 オバマ大統領も,2009年10月にフロリダ州アルカディアのデソト次世代太陽エネル ギーセンター(全米一の太陽光発電所)を訪れ,「スマート・グリッド」への移行を 促進するために34億ドルを投資すると発表し,インフラ整備やスマート・メーターの 普及を推進する強い姿勢を示した。このような「スマート・グリッド」構想を具体化 するため,2009年11月にDOEも,「スマート・グリッド」実証試験やエネルギー貯蔵
事業に対して,総額6億2,000万ドルを助成すると発表した。当然のことながら,こ のようなインフラ整備には民間企業の協力が不可欠であり,DOEは,2009年12月に 「省エネルギー・ナウ・リーダープログラム」を発表し,エネルギー効率化に取り組 む企業に対して技術支援と資金援助を行うと表明した22)。 (4)オバマ政権の国際的姿勢 こうしてオバマ政権は,「グリーン・ニューディール」を梃子にして地球温暖化・ 気候変動対策に取り組み,国連の気候変動枠組条約にも積極的に関与する姿勢を鮮明 に打ち出した。それは,2009年9月にニューヨークで開催された,国連の潘基文事務 総長主催による国連気候変動首脳会議(気候変動サミット)において,あらためて示 された23)。 オバマ大統領は,新しい政権が地球温暖化・気候変動対策に積極的に取り組むと表 明し,自動車燃費基準の強化や自然・再生可能エネルギーの普及促進に努力するとと もに,アメリカが地球温暖化・気候変動対策法案を成立させることを強調した。そし て,この気候変動サミットでは,わが国の鳩山首相も温室効果ガスを2020年までに 1990年比で25%削減すると公約し,二酸化炭素(CO2)の世界二大排出国のアメリカ や中国はもちろんのこと,参加した約90カ国の首脳の間で「グリーン・ニューディー ル」の意義が再確認された24)。 これまでは,アメリカが世界最大のCO2排出国であり,経済成長の著しい中国とあ わせると,世界の排出量の4割を占めるといわれてきた。ところが,2009年10月に IEAが発表した「温室効果ガスの排出統計」では,すでに2007年の段階で,中国がア メリカに代わって世界最大のCO2排出国になっていたことが判明した。そのため,第 3回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された「京都議定書」から離 脱してしまったアメリカと,「京都議定書」による温室効果ガスの削減目標を課せら れていない中国への国際世論がますます厳しくなった25)。
しかも,IEAの発行する『世界エネルギー展望』(World Energy Outlook)によれ ば,2050年にCO2の排出量は現在の2倍以上になると予想されており,地球温暖化・ 気候変動対策は人類の生存をかけた焦眉の課題と言わざるを得ない。そのため,IEA が発表したCO2削減のためのブルーマップ・シナリオでは,省エネと再生可能エネル ギーへの転換が効果的であると展望されており,オバマ政権の「グリーン・ニュー ディール」を始めとして,世界の環境・エネルギー政策と地球温暖化・気候変動対策 に強いインパクトを与えているのである26)。
Ⅱ スマート・グリッドとインフラ・イノヴェーション (1)「スマート・グリッド」構想 「グリーン・ニューディール」や「グリーン・エコノミー」の背景には,環境ビジ ネスを裾野の広い基幹産業に成長させ,エネルギーの安定供給を確保するエネルギー 安全保障を実現させるとともに,電力送電網の最適化・統合化・多目的化と全米ネッ トワーク化などのインフラ整備によって,従来の社会システムを大きく転換させよう とする大胆な将来構想の広がりがある。 「グリーン・ニューディール」は,このようにインフラ・イノヴェーション(技術 革新)によって社会の構造転換とシステム化を図ろうとするものであり,現在のとこ ろその基軸をなすのが「スマート・グリッド」構想である。これは,太陽光,風力, バイオマスなどの自然・再生可能エネルギーに基づき,広く全米に3,000マイル(約 4,800キロ)にも及ぶ多目的な送電網ネットワークを整備しようとする構想である27)。 かつてアメリカでは,リンカーン大統領の時代に大陸横断鉄道の敷設が進み,アイ ゼンハワー政権の1950年代には高速道路網の整備が打ち出されるなど,歴史的なイン フラ革新が経済構造や社会システムを大きく変化させてきた。また,クリントン政権 の時代にあっても,アル・ゴア(Albert A. Gore, Jr.)副大統領の「情報スーパーハイ ウェイ構想」(Information Superhighway)がインターネットを爆発的に普及させる ことにつながり,今日のような情報通信のネットワーク社会が広がった28)。 すでに,「スマート・グリッド」が叫ばれる前から,地域コミュニティ内のシステ ムとして,地産地消型の電力網である「マイクロ・グリッド」の実験が行われてきた。 「スマート・グリッド」はこれらの最適化・統合化とネットワーク化を行うものであり, オバマ大統領は,このような「スマート・グリッド」を大容量送電網の「スーパー・ グリッド」でつなぎ,全米に壮大な電力ネットワーク・インフラを構築する夢を抱い ているといわれる。広大な国土のアメリカでは,太陽光エネルギーのカリフォルニア 州やネバダ州,風力発電に適したテキサス州など,自然・再生可能エネルギーの豊富 な地域がたくさんあり,「スーパー・グリッド」が構築されれば,余剰電力を大都市 の消費地に送り込むことができるからである29)。 具体的には,従来のように電力会社から消費者へ一方向の送電だけでなく,ハイテ ク技術を活用した制御機器やソフトウェアを組み込むことにより,消費者がディマン ド・サイド・マネジメント(Demand-Side Management)に基づいて電力会社と双方 向で電力をやり取りし,電力の需給調節を効率的に管理・運用するシステムの構築が 期待される。このような機能を果たす「スマート・グリッド」が整備されれば,全米 各地の電力需要をきめ細かく予測し,電力に余力のある地域から不足している地域へ
と融通することにより,エネルギー使用全体の効率性を高めて省エネの実効力をあげ ることができる30)。 風力や太陽光などの自然・再生可能エネルギーは,もともと小規模で分散型である ため,電圧や周波数の面でどうしても出力の不安定化が避けられない。したがって, 電力の統合や負荷を平準化させる次世代型の送電網を整備することが必要であり,太 陽光パネルを設置した企業や家庭の電力を電力会社へ売却したり,プラグイン・ハイ ブリッド車(P H E V ) や電気自動車へ充電したりする場合にも,「スマート・グリッ ド」システムが重要な機能を果たすことになる。 第2図:インフラ・イノヴェーションの見取図 すでに,検索大手グーグル(Google)の「グーグル・パワー・メーター」のように, 電力消費の管理や“見える化”機能を果たす「スマート・メーター」が,企業や家庭 でかなり普及してきている。そして今後,送電網に情報通信技術(Information and Communications Technology:ICT)が装備され,「スマート・メーター」の普及が [備考]Stage 1:公共主導でインフラ整備の推進 Stage 2:インフラの供給過剰を民間企業の参入で是正 Stage 3:新たなインフラ・ニーズによって公的な構想 New Stage:新たなパラダイムシフトの公共主導のインフラ推進
Stage 1 → Stage 2 → Stage 3 へと進んだ後,パラダイム転換が起こり,New Stage へと展開する。
[出所]井熊均編著『グリーン・ニューディールで始まるインフラ大転換』(日刊工業新聞 社,2009年),18頁を参考にして作成。Cf. Infrastructure for the 21st Century (Washington, D.C.: National Academy Press, 1987).
Stage 3
Stage 2
Stage 1 NewStage
インフラの供給 次のインフラ需要 インフラに対する需要
さらに進めば,メガインフラとディマンド(需要)を双方向で管理する制御システム が構築され,「スマート・グリッド」は,21世紀のインフラ・イノヴェーションのシ ンボルになる可能性がある31)。 したがって,「スマート・グリッド」構想は,インターネットなどの情報通信技術 と,太陽光・風力などの分散型再生可能エネルギー技術を活用することにより,電力 ネットワーク・システムを革新するものであり,交通ネットワーク,情報通信ネット ワークと並ぶ第三のネットワーク・インフラになる可能性が高い。しかもそれは,将 来の「低炭素社会」に欠かせない社会インフラであり,今後の経済成長とイノヴェー ションを生み出す中核になると期待される。
そのため,太陽光発電協会(Solar Energy Industries Association:SEIA)とアメ リカ風力発電協会(American Wind Energy Association:AWEA)は,2009年1月の オバマ政権発足にあわせて「グリーンパワー・スーパーハイウェイズ」(G r e e n Power Superhighways)という報告書を作成し,「スマート・グリッド」構想を実体 化する送電網整備を連邦政府に進言した。特に両協会は,州間にまたがる送電線整備 のため,連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission: FERC)の役割を強化することを求めた32)。 歴史を振り返ると,アメリカでは,古くは1965年や1977年のニューヨーク大停電を 始め,カリフォルニア州で2000∼2001年に起きた電力危機,2003年に北アメリカの広 い範囲に及んだ大停電など,住民生活と経済活動に大きな影響を与えた電力トラブル に度々遭遇している。そして,このような電力危機や大停電が起こるたびに,電力ネ ットワークの容量不足や老朽化が強く指摘されてきた。 現在でも,中西部で発電した電力を東西両海岸の大都市に安定供給するインフラが 十分に整っているとはいえず,しかも電力供給の自由化や規制緩和が進み,地方ごと に送電線の所有・管理を行う組織や会社が異なっている。すでに,多くの送電線が更 新の時期に来ており,既存のものでは,1,600キロごとに10∼15%の電力ロスが起きて しまうといわれている。それだけに「スマート・グリッド」構想にかかる期待も大き く,新たな社会インフラの革新がもたらすパラダイム・シフトに,「グリーン・ニュー ディール」の夢が象徴的に込められているのである33)。 (2)「スマート・グリッド」の意義 「アメリカ再生・再投資法」(ARRA)では,第2表にあるように,送電網の近代化
に123億ドルが充当された。その内訳は,ボネビル電力局(Bonneville Power Admini-stration:BPA),および西部地域電力管理局(Western Area Power Administration:
るほか,送電線整備借入保証に20億ドルの予算が組まれた34)。 「スマート・グリッド」は新しい技術領域であるものの,スマート・メーター自体 はそれほどハイテク機器ではなく,「スマート・グリッド」の推進は,単なるハイテ ク技術の開発競争に終始するものではない。それは,「スマート・グリッド」の技術 開発が「規制開発」,「標準化開発」,「ビジネス・モデル開発」などにわたる上位レベ ル(メタレベル)の技術開発であり,けっして蓄電池やスマート・メーターなどの単 品技術にとどまるものではないからである。 「規制開発」は,「スマート・グリッド」が機能するために必要な規制面の課題であ り,開発投資を促進するための具体的な施策が不可欠である。連邦エネルギー規制委 員会(FERC)は,2009年7月に「スマート・グリッド政策」を公表し,取り組むべき 「規制開発」の課題を提示している35)。 また「標準化開発」は,スマート・メーターの標準化やプロトコルの開発に関わる も の で あ り , 技 術 管 理 局 ( Technology Administration)の 国 立 標 準 技 術 研 究 所 (National Institute of Standards and Technology:NIST)が中心となって取り組むこ とになっている。現在のところ,「スマート・グリッド」全体では,およそ数百から 数千もの標準化作業が必要と見られている。
さらに,「ビジネス・モデル開発」の面では,新しいビジネス・チャンスを見込んだ
エネルギー産業とIT産業の協力が不可欠であり,グーグル,ゼネラル・エレクトリッ ク(General Electric:GE),IBM(International Business Machines Corp.),シスコ・ システムズ(Cisco Systems, Inc.)などの企業が,業界の垣根を越えた連携を見せて いる36)。 「スマート・グリッド」は,このようなメタレベルの技術開発によって,社会シス テムやインフラ機能のパラダイムを大きく転換させる可能性を秘めている。「スマー ト・グリッド」が実現すれば,エネルギーというライフラインの確保も洗練されたビ ジネス・モデルとなり,新たなテクノロジーとビジネスの高度な融合システムを構築 することができると,期待が高まっているのである。 製品自体がコモディティ化する今日にあっては,付加価値の源泉が製品や技術の優 秀さだけでは不十分であり,ブランドを活かしたグローバル市場での認知やビジネ ス・モデルのイノヴェーションへと波及させなければならない37)。それは,言い換え ると,個別の技術開発をシステム化し,全体の統合化や最適化を図ることであり,シ ステムとして有機的に連関する全体像を描くことに他ならない。このような方向性が 未来社会へのつながりを深めることになるのであり,今日では「ソリューション研究」 と呼ばれて重要視されている38)。 アメリカ・エネルギー省のチュー長官は,2009年9月にニューヨークで開催された
気候変動サミットで,「スマート・グリッド」が,次のような機能がイノヴェーショ ンにつながると強調した39)。 ① 再生可能エネルギーの統合・貯蔵 太陽光発電や風力発電などの自然・再生可能エネルギーは,本来的に分散型のもの であり,天候などの気象条件に左右されて変動しやすい。そのため,「スマート・グ リッド」は,分散型の自然・再生可能エネルギーを統合する役割を果たすことが期待 され,従来の送電線のロスや分散型エネルギーのデメリットを克服するインフラ機能 を果たすことができる。 具体的には,電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)のバッテリーなど に代表される蓄電池のエネルギー貯蔵と,スマート・グリッドとの統合が鍵を握る。 現在のところ,電気自動車や PHEV のバッテリーから,電力会社に電力を逆流させ るV2G(Vehicle to Grid)システムが構想されている。万一,先進諸国で電気自動車に すべて転換した場合,その蓄電能力は電力需要の数倍から約十倍にも及ぶと推計され る。 ② 需要管理 インターネットに繋がっているスマート・メーターは,電力のきめ細やかな需要管 理,いわゆる“見える化”を行うために導入される。電力は,これまで「需要」に対 してどのように「供給」するかという供給側からの一方的な対応が主であったが,供 給システムが「需要」を決定することになり,「スマート・グリッド」によって,「供 給」と「需要」の双方向のネットワークがシステム化されることになる。 ③ 透明化・セキュリティの向上 アメリカでは,1960∼70年代にニューヨークなどで大停電があり,21世紀になって も度々電力トラブルに見舞われた。2000∼2001年のカリフォルニア電力危機は,エン ロン社(Enron Corp.)などによる意図的な供給抑制が背景にあるが,その他の事故 は,電力ネットワークの老朽化による送電管理システムのダウンが原因であった。 いずれの電力トラブルも,普及作業や原因究明がなかなか進まず,電力ネットワー クのシステムや管理の改善が強く求められた。そのため,「スマート・グリッド」に より電力の使用と管理を可視化し,リアルタイムで透明性を向上させることが期待さ れる。「スマート・グリッド」が整備されれば,電力需給に関わる意図的な犯罪や事 故などに対して,電子面・物理面のセキュリティを向上させることができる。
(3)高度道路交通システム
高度道路交通システム(Intelligent Transport Systems:I T S)も,「スマート・グリッ ド」と同じように,現在多くの都市レベルで試みられ,将来の発展が期待されている。 ITSは,コンピュータ・ネットワークやセンサー・システムなどの先端技術を使って, 自動車の渋滞や事故,環境対策などの道路交通問題を改善し,安全で快適な都市機能 を実現させようとするものである。すでに渋滞情報と連動した高度なナビゲーション システム(VICS)や,自動料金収受システム(ETC)などが実用化されている。オ バマ大統領は,公共交通網と高速鉄道網(High-Speed Rail)を中心とする交通インフ ラへの投資を「21世紀のソリューションである」と強調し,「アメリカ再生・再投資 法」(ARRA)では約170億ドルが充当されることになった40)。 アメリカでは,非営利団体による「デトロイト・プロジェクト」(Detroit Project) が,I T S の代表的な構想として知られている。「デトロイト・プロジェクト」は, 2000年4月頃から自動車の燃費向上と排気ガス規制を求めて始まり,運動の広がりか ら2008年2月に「デトロイト・パートナーシップ」と名称を変えた。
このデトロイトの取り組みには,マイクロソフト(Microsoft Corporation),IBM, グ ー グ ル と と も に , 化 学 の デ ュ ポ ン( Du Pont), 航 空 機 の ボ ー イ ン グ( Boeing Company)などが参加しており,交通渋滞の解消と CO2の削減を図るため,I T を活 用した新たな交通管制システムの構築を目指している。しかも,異業種セクター間の 連携とネットワークによって,プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)などの充電シ ステムを整備し,社会インフラ全体を大きく変革することを企図している41)。 また州レベルの I T S 構想としては,フロリダ州マイアミの「インターモーダル・セン ター」(Miami Intermodal Center)計画が知られる。これは,「アメリカ再生・再投資法」 (ARRA)から210万ドルの資金提供を受け,マイアミ市を中心に公営バス,コミューター レール,インターシティーレール,空港シャトルバスなどをネットワーク化するもので あり,モーダル・ミックスによって,交通ターミナルのハブを構築する計画である42)。 Ⅲ グリーン・ニューディールと科学新興政策―技術の普及(ディプロイメント) とインフラ・イノヴェーション (1)オバマ政権の科学新興政策 民主党側は,大統領選挙運動が最終盤を迎えた2008年9月,大統領候補のオバマと 副大統領候補のジョセフ・バイデン(Joseph R. Biden, Jr.,)の当選を確信し,『アメリ
カ未来への投資』(Investing in America’s Future)と題する提言を発表した。オバ マ陣営は,そのなかで科学技術の研究開発とイノヴェーションを訴え,新しいクリー ン・エネルギーや医療・製造技術に対する国家的課題に取り組む姿勢を強調した。こ れは,オバマ政権の科学技術新興プランであり,「グリーン・ニューディール」への 強いメッセージとなった43)。 そして,2009年1月にオバマ新政権が発足すると,同年2月に成立した「アメリカ 再生・再投資法」(ARRA)のなかで,研究開発関連215億ドル,環境・エネルギー 関連380億ドル,代替エネルギー投資促進200億ドル,大学進学者負担軽減140億ドル などが打ち出された。また,これまで時限立法であった研究開発投資に対する税控除 制度も恒久化する方針が示され,研究開発の統合・融合と民間企業のイノヴェーショ ンを推進する政府の方針が示された44)。 ARRAは,環境・エネルギー分野の基礎研究を重視した予算配分になっており,エネ ルギー高等研究計画庁(Advanced Research Projects Agency for Energy:ARPA-E) が設立されるとともに,基礎研究を重視する予算配分の方針が示された。従来の景気 対策予算は即効性のある公共事業が中心であったことからすれば,ARPA-Eの設立や 基礎研究予算の配分は,オバマ政権が長期的な展望でハイリターン研究を重視してい ることの表れであり,そのためのハイリスク・ハイコストを政府が負担するという姿 勢を示したものとして注目される45)。 ブッシュ前政権は,「小さな政府」の社会理念に基づき,政府は民間の研究開発支 援に関わらない方針をとったため,高等技術計画(Advanced Technology Program)
などへの支援を拒否してきた。また,2006年7月に胚性幹細胞(ES細胞)研究推進 法案にブッシュ大統領自身が拒否権を発動したように,宗教的・倫理的制約に拘泥す る共和党の姿勢から,政府が科学技術の振興に及び腰の向きも見られた。 しかし,オバマ大統領は高等技術計画にも積極的に予算配分する姿勢を見せており, 2009年3月には,ヒトi P S 細胞(誘導多能性幹細胞)の樹立に成功した京都大学の山 中伸弥教授をホワイトハウスへ招待し,その面前でES細胞研究を解除する文書に署 名している。このようなことからしても,オバマ政権が,共和党のブッシュ前政権と 大きく方針転換したことは誰の眼にも明らかであった46)。 アメリカ大統領は,科学技術担当大統領補佐官を任命するとともに,従来から大統 領科学技術諮問委員会(PCAST)を設置し,科学研究者や企業経営者の意見を聞くこ とになっている4 7 )。かつてのPCASTは,20名の委員のうち半数が産業界から選出さ れ,共同議長も科学補佐官と産業界から人選されていた。しかし,オバマ大統領は PCASTのメンバーを絞るとともに,委員の4分の3を科学の専門研究者から任命し ている。 しかもオバマ大統領は,2009年3月に各省庁の長官にメモランダムを送り,各省庁
が科学技術部へ研究者を任用する基準を明確化するとともに,省庁内における科学分 野の統合システム,科学技術情報を反映させた政策の実現などに関して具体的な指示 を 出 し た 。 こ れ は , ホ ワ イ ト ハ ウ ス の 科 学 技 術 政 策 局( Office of Science and Technology Policy:OSTP)や行政管理予算局(Office of Management and Budget:
OMB)と各省庁が連携し,広い視野で科学技術の振興策を遂行することを要請したも
のである4 8 )。おそらくオバマは,歴代大統領のなかでも傑出した科学信奉者であり,
「グリーン・ニューディール」を新たな技術革新と社会インフラの構築に向けた政策 モデルとしたい意向であろう。
このようなオバマ大統領の姿勢は,就任当初から顕著に見られた。オバマは,2009 年2月にアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)年次総会,同年4月には全米科学アカデミー(NAS)年次総会に出席し,科 学技術の振興に向けて強いメッセージを送った49)。
オバマ大統領は,南北戦争にまでさかのぼってNASの歴史的意義を強調するととも に,アポロ計画の奇跡的な成功を取り上げ,科学技術関係の資金投入が社会構造から 宇宙開発に至るまで,アメリカの発展を支えてきたと強調した。そしてオバマ大統領 は,国立科学財団(National Science Foundation:NSF)や国立衛生研究所(NIH)が あげてきた研究開発の意義を高く評価し,今後もアメリカが科学技術の面で世界を リードしていく戦略姿勢を鮮明にした50)。 そしてオバマ大統領は,科学技術と教育への投資を「最優先課題」と位置づけ,科 学技術とイノヴェーションによってアメリカが世界をリードし,今後50年間にわた る繁栄の基礎を構築すると宣言した。そのためオバマは,官民双方によるイノヴェー ションを促進し,政府が科学技術の振興に不可欠な人材,予算,インフラを総合的に 拡充していく方針であることを強調した。 まず人材育成の面では,数学・科学教育の強化,1万人のクリーン・エネルギー関 連の人材育成,国立科学財団(NSF)のリサーチ・フェローの増員などがあげられ,投 資の面では,国内総生産(GDP)に占める研究開発費の割合を3%以上に高めるとと もに,NSF,エネルギー省(DOE)科学局(Office of Science),国立標準技術研究所 (National Institute of Standards and Technology:NIST)の予算増額が示された51)。
また,インフラ整備の方面では,46のエネルギー目的型基礎研究拠点(フロンティ ア・センター)の整備,8つのエネルギー商業化目的開発拠点(イノヴェーション・ ハブ)の設立,民間の研究開発に対する税額控除の恒常化などが具体的に取り上げら れた。「グリーン・ニューディール」や「スマート・グリッド」構想の具体化には, これらの政策プログラムが直接影響してくると思われる52)。 そして,エネルギー省のチュー長官も,2009年5月に開催された次年度予算の公聴 会において,エネルギー開発戦略の基盤となる,エネルギー・フロンティア研究センター
(Energy Frontier Research Center:EFRC),エネルギー高等研究計画庁(ARPA− E),「エネルギー・イノヴェーション・ハブ」の3つの研究イニシアティヴを提示し た。このようなオバマ大統領やチュー長官の主張は,クリーン・テクノロジーの技術 開発によって経済危機を乗り切り,アメリカが新しい科学技術戦略のフロント・ラン ナーなるべきであるという強い姿勢の表れであった。アメリカは第二次大戦後の空前 の経済的繁栄と強力な科学振興策で世界をリードしてきたのに,今日では多くの製造 業でヨーロッパや日本,さらにはアジア諸国に次々と王座を奪われている。アメリカ 自動車産業の“ビッグ・スリー”をリードし,世界の製造業の代表格であるGMの経 営破綻はその象徴であった。オバマ大統領は,世界が“100年に1度”の経済危機に 見舞われ,「環境エネルギー革命」ともいうべき時代の要請に直面している今,「グリ ーン・ニューディール」を梃子とした新たな科学技術の開発に,アメリカの命運がか かっていると考えている。 そのためオバマ大統領は,クリーン・エネルギーや低炭素テクノロジーへの投資を, 単なる環境エネルギー対策としてではなく,アメリカの長期的な繁栄をもたらす成長 戦略や競争力強化の源泉と捉えている。そして政府は,行き過ぎた金融資本主義の暴 走に歯止めをかけ,実体経済が主導する健全な経済システムの構築に向けて指導力を 発揮する使命があると考えた。このような意味からすれば,オバマ政権の「グリー ン・ニューディール」は,世界全体のエネルギー体系や地球環境を配慮したグローバ ル構想であるとともに,アメリカの技術力と競争力の強化を目指す世界戦略であると いうことができる53)。 (2)オープン・イノヴェーションと競争力論議 しかし,アメリカでは,オバマ政権になって初めて社会システムや科学技術のイノ ヴェーションが重要視され始めたわけではない。第5表のように,ブッシュ前政権下 でも,連邦議会が競争力論議を展開するとともに,ホワイトハウスは次々と科学技術 の振興構想を発表してきた。 競争力評議会(Council on Competitiveness)は,2004年12月に『イノヴェイト・ アメリカ』(Innovate America)と題する報告書を出した54)。これは,IBM会長兼最 高経営責任者(Chief Executive Officer:CEO)のサミュエル・J・パルミサーノ (Samuel J. Palmisano)が共同議長としてまとめたものであり,通称『パルミサー ノ・レポート』(Palmisano Report)と呼ばれている55)。この報告書では,中国やイン ドなどの新興勢力が着々と国際競争力を高めつつあるとの基本認識から,アメリカに もグローバリゼーションの波が確実に押し寄せていると強調し,イノヴェーションに よって新しい時代に適応しなければ,アメリカはこれまで培った競争力の基盤を失っ
てしまうと危機感を訴えていた56)。 『パルミサーノ・レポート』は,イノヴェーションを「インヴェンション(発明) とインサイト(洞察)の融合」であると定義し,イノヴェーションが単なる技術革新 に留まるコンセプトではなく,社会構造や経済システムのパラダイムを変革するもの であると捉えている。それは,ビジネス・モデル,社会機能,政策効果などの幅広い コンセプトを包含するものであり,未来社会を見据えたアイデアやインサイトが社会 システムのパラダイム・シフトをもたらすからである57)。 すでに『パルミサーノ・レポート』では,このような21世紀のイノヴェーションと して,「オープン」,「協調的」,「分野横断型」,「グローバル」という4つの特徴をあ げ,民間企業を含む「オープン・イノヴェーション」の推進を,政府が支援すること を強調している58)。 この『パルミサーノ・レポート』を始めとして,研究機関,産業界,連邦議会など 各方面から,21世紀におけるアメリカの技術革新と競争力強化をめぐる議論がさかん になった59)。 第3図:競争力評議会の活動内容 [資料]http://www.compete.org/ 競争力とセキュリティに関するイニシアティヴ (安全保障と競争力確保に関する提言) 技術とイノヴェーションに関する議会フォーラム (重要問題のブリーフィング) ベンチマーキング(競争力把握のためのデータ収集) 地域イノヴェーション・センター(政策フォーラムやワークショップ) 世界との対話イニシアティヴ(産業界や政界トップの意見交換) Getsmarter.org 活動(初等教育における科学技術理解の推進) 工学・科学人材育成(科学技術の人材と参画支援) 全米イノヴェーション・イニシアティヴ(各種作業部会の活動)
全米科学アカデミー(NAS)は,2005年10月に『強まる嵐よりも高く』(Rising
above the Gathering Storm)と題する報告書,いわゆる『オーガスティン・レポート』 (Augustin Report)を発表した。この報告書は,ロッキード・マーチン社(Lockheed
Marin Corp.)の元会長兼CEOで,大統領科学技術諮問委員会(PCAST)のノーマ ン・オーガスティン(Norman R. Augustin)が中心となってまとめたものであった。
『オーガスティン・レポート』は,基礎研究の重要性を強調しつつ,ハイリスクの 研究も考慮して,国立科学財団(NSF)の全米科学審議会(National Science Board: NSB)などを中心とした連邦政府の支援が,技術革新と競争力強化のために不可欠で あるとする提言を行った。そこでは,かつての原爆製造の「マンハッタン計画」や 1957年の“スプートニク・ショック”なども引き合いだされ,技術革新がもたらす21 世紀の宇宙開発や,テロ対策に関係する国防・安全保障までもが論議されている60)。
また,アメリカ大学協会(Association of American Universities:AAU)は2006年 1月に報告書を発表し,国防・安全保障教育を充実させて技術革新を推進するため, 研究費の増額や人材育成の面で政府の支援を強く求めた。さらに全米科学審議会 (NSB)も,2007年5月に技術革新を推進するための報告書を提出し,国立科学財団 (NSF)の研究開発を促進させ,インフラや社会システムの転換を図るべきであると訴 えた61)。 第6表:「アメリカ競争力イニシアティヴ研究」予算 このような多方面からの基礎研究と技術革新を求める要望は,当然のことながら競 争力強化の論議と密接不可分であった。そのため2006年2月,ホワイトハウスの内政 委員会(Domestic Policy Council)と科学技術政策局(OSTP)は,2007年度予算教書 の提出にあわせて,『アメリカ競争力・イニシアティヴ』(America Competitiveness Initiative)を発表した。このなかで,アメリカが経済成長のために科学技術の基盤を 強化し,イノヴェーションにおいて世界をリードする方針が強く押し出された。その ため,「競争力イニシアティヴ研究」を推進するとともに,第6表のように研究費の [資料]http://www.ostp.gov/html/ACIBooklet.pdf 2006年度予算額 2007年度予算 2016年度予算 (単位:10億ドル) 単位10億ドル % 単位10億ドル % 国立科学財団 5.58 6.02 7.8 11.16 100 エネルギー省科学室 3.60 4.10 14.0 7.19 100 国立標準技術研究所 0.57 0.54 −5.8 1.14 100 研究・建設予算 (イヤーマーク予算含む) 合 計 9.75 10.66 9.3 19.49 100
配分を決め,10年かけて予算を倍増する方向性も示された62)。
こうした技術革新・競争力論議の高まりから,2007年8月に「アメリカ競争力法」
(America Competes Act)が成立した。「アメリカ競争力法」は,人材育成と基礎研究 の推進を目標に掲げ,国立科学財団(NSF)の資金配分や評価基準に関する方針も示 された。しかも,エネルギー高等研究計画庁(ARPA−E)の設立,エネルギー資源の 輸入削減などに関して,21世紀の包括的な目標が設定された63)。 しかし,2008年の大統領選挙で共和党は敗北し,民主党が8年ぶりに政権を握り, 2009年1月にオバマ政権が発足した。 すでに政権移行チームが動き出していた2008年12月,エネルギー省(DOE)の基 礎エネルギー科学諮問委員会(Basic Energy Science Advisory Committee)には,「確 実で持続可能な未来エネルギーのための新しい科学」(New Science for a Secure and Sustainable Energy Future)と題する報告書が提出されていた。そしてオバマ大統領 は,就任当初の2009年3月,「科学的公正性に関する大統領の覚書」(Presidential Me-morandum on Scientific Integrity)を出し,科学技術の革新に対して積極的な姿勢を 示した。また,2009年9月には「アメリカのイノヴェーションのための戦略―持続可 能な成長と高度職業の推進」(A Strategy for American Innovation: Driving towards Sustainable Growth and Quality Jobs)が発表され,研究開発と経済成長,さらには雇 用の確保が連動しており,そのためのイノヴェーションが不可欠であると強調した64)。
第4図:アメリカのイノヴェーション戦略
[出所] A Strategy for American Innovation: Driving towards Sustainable Growth and Quality Jobs (September 2009). アメリカ・イノヴェーションの構成要素への投資 ・基礎研究でアメリカのリーダーシップの回復 ・世界レベルの労働力を生む、21世紀の知識・技術の次世代教育 ・世界有数な物的インフラの構築・先端情報技術エコシステムの展開 持続的発展および質の高い仕事のためのイノヴェーション 国家優先 のためのブレ イクスルーの触発 生産に結びつく企業家精神 を刺激する競争的市場の促進
さらにオバマは,2010年8月に「再生法―イノヴェーションを通したアメリカ経済 の革新」(The Recovery Act: Transforming the American Economy through Innova-tion)を発表し,政権発足直後の2月に成立した「アメリカ再生・再投資法」(ARRA) を具体化させるため,科学技術やインフラの革新を経済回復の牽引力とする方向性を 打ち出した6 5 )。このような方針が,「グリーン・ニューディール」のヴィジョンを強 く意識したものであったことは言うまでもない。 さらに,全米科学アカデミーもこのようなオバマ政権の姿勢を後押しし,2010年に は,かつての『オーガスティン・レポート』をフォローアップした提言書,「強まる 嵐よりも高く:再版」(Rising above the Gathering Storm, Revisited)を発表した。 ここでは,教育の充実,人材育成,研究支援など,幅広い分野から基礎研究と技術革 新の重要性が強調された66)。 そして,オバマ政権が発足して初めての2010年連邦政府研究開発予算案では6 7 ), 「アメリカの繁栄のための科学への投資」,「次世代クリーン・エネルギー」,「すべて のアメリカ人の健康生活」68),「安全で安心なアメリカ」という4分野に,重点的な投 資を行うことが盛り込まれた。これは,民間企業と連携した「オープン・イノヴェー ション」の方針を強く打ち出したものであり,科学技術政策局(OSTP)も,各省庁 の予算要求のなかに「オープン・イノヴェーション」の方針を取り入れるように要請 した。 また,2010年連邦政府研究開発予算案には,研究投資や人材育成についてもオバマ 政権の強い姿勢が示されている。 第7表:2010年度大統領予算教書の研究開発予算案(分野別)
[資料] Office of Science and Technology Policy, Federal R&D, Technology, and STEM education in the 2010 Budget, 2009. (単位:100万ドル) 分 野 2009年再生 2010年度予算 2009年度からの増減 ・再投資法 金 額 割合% 軍事研究 300 83,760 −1,666 −2.0 非軍事研究 18,035 63,860 2,221 3.6 基礎研究 11,365 30,884 1,003 3.4 応用研究 1,920 28,139 −627 −2.2 開発 1,408 84,054 167 0.2 研究開発施設・装備 3,642 4,543 12 0.3 政府負担研究開発費 18,335 147,620 555 0.4
第8表:2010年度大統領予算教書の研究開発予算案(組織別) 国立科学財団(NSF),エネルギー省(DOE)科学局,国立標準技術研究所(NIST) などの予算を10年間に倍増する方向性が示され,「アメリカ再生・再投資法」(ARRA) の追加投資により,風力発電設備などを2012年に倍増する計画が打ち出された。その ため人材育成の面でも,オバマ政権はブッシュ前政権とは対照的な姿勢を見せている。 ブッシュ前政権が民間技術者を重用して短期的な企業利益を追求したのに対して,オ バマ政権は,長期的な社会インフラや経済システムを見据え,研究者や科学者の知見 を集積しつつ,いかに有効活用を図るかという方向へと転換したのである。 しかもオバマ政権が,技術革新や社会インフラの再構築に市民参加を強く求めてい (単位:100万ドル) 省 庁 2009年再生 2010年度予算 2009年度からの増減 ・再投資法 金 額 割合% 国防総省(DOD) 300 79,687 −1,929 −2.4 厚生省(HHS) 11,103 30,936 521 1.7 国立衛生研究所 10,400 30,184 436 1.5 その他 703 752 85 12.7 アメリカ航空宇宙局(NASA) 925 11,439 1,038 10.0 エネルギー省(DOE) 2,446 10,740 119 1.1 国立科学財団(NSF) 2,900 5,312 445 9.4 農務省(USDA) 176 2,272 −149 −6.2 商務省(DOC) 411 1,330 38 2.9 海洋大気圏局 1 644 −56 −8.0 国立標準技術研究所 410 637 87 15.8 退役軍人省(VA) 0 1,160 140 13.7 国土安全保障省(DHS) 0 1,125 29 2.6 運輸省(DOT) 0 939 26 2.8 内務省(DOI) 74 730 38 5.5 アメリカ地質調査所 74 649 38 6.2 環境保護庁(EPA) 0 619 39 6.7 教育省(ED) 0 384 61 18.9 その他 0 947 129 15.8 政府負担研究開発費 18,335 147,620 555 0.4
[資料] Office of Science and Technology Policy, Federal R&D, Technology, and STEMe ducation in the 2010 Budget, 2009.