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計量的な実証研究を巡る研究基盤の整備と新しい課題(PDF:127KB)

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Academic year: 2021

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地域における個人を対象とした訪問面接調査や 企業に対する郵送調査の回収率の大幅な低下など, 計量的な実証研究のための調査実施が非常に難し くなってきている。 前者には, プライバシー保護 への関心の高まりやオートロック・マンションの 増加などが, 後者には郵送調査が増加し企業が対 応できないことや調査対象となることが多い人事 部などの要員不足や多忙化などが背景にある。 他方で, 計量的な実証研究を支える研究基盤の 整備も進みつつある。 第 1 は, 社会科学研究の共 有財産として公開を前提とした汎用的な調査デー タの創出である。 これらは個人を対象とした調査 が主となるが, 大阪商業大学と東京大学社会科学 研究所による 日本版総合社会調査 (JGSS) が その代表例である。 さらに, 日本においてはデー タの蓄積が遅れていたパネル調査も複数実施され るようになり, それらのデータも研究者に公開さ れている。 家計経済研究所の 消費生活に関する パネル調査 が日本におけるパネル調査の先駆で あり, 労働研究の分野でもこのパネルデータに基 づいた研究論文が多数公刊されている。 また最近 では, 慶應義塾大学の 慶應義塾家計パネル や 日本家計パネル調査 が, また社会科学研究所 の社研パネル調査である 働き方とライフスタイ ルの変化に関する全国調査 も開始されている。 今後, こうしたパネル調査を利用した労働研究が さらに増加しよう。 第 2 は, 研究機関が実施した調査や官庁の委託 調査, さらに大型科研費による調査などによる個 票データを収集, 整理, 保存し, 2 次分析を希望 する研究者にデータを提供する東京大学社会科学 研究所の SSJ データアーカイブの設立 (労働関係 の調査を中心に 1300 以上のデータセットを保有し, 毎年 100 程度のデータセットが増加) や, 調査研究 機関が自ら実施した調査データを公開しはじめた ことなどである。 最近における労働政策研究・研 修機構の 「JILPT データアーカイブ」 の設置や, 家計経済研究所によるパネルデータの公開がこう した取り組みである。 第 3 に, 個人調査については, マーケッティン グの分野で普及定着した登録モニターを利用した ネット調査を研究者が活用することで, 大規模調 査であっても容易に短期間にかつ安価で実施する ことが可能となったことがある。 こうした研究基盤の整備は, 計量的な実証研究 の発展にとって望ましいものであるが, 同時につ ぎのような新しい課題をもたらしている。 第 1 は, 実証研究の目的が 「現実」 の理解にあ るにもかかわらず, 入手した個票データを現実と 誤解した 「現実との対話」 を欠いた研究の出現で ある。 第 2 は, 分析対象とするデータセットの創 出過程に関する知識を欠いているため, データが 「作られたもの」 であることを考慮せずに分析す る研究である。 第 3 は, 登録モニターを利用した 調査では, 母集団が確定できないにもかかわらず, あたかも登録モニターが日本国民を代表している かのように, データ分析の結果を解釈するものや, 登録モニターの構築方法やその特徴さらにはネッ ト調査の仕組みを十分に理解せずに安易に調査を 依頼し, データを分析することなどである。 第 1 の課題に対しては事例研究への参加など現 実と対話する経験を持つことが重要であり, 第 2 の課題に関しては自ら調査を実施し, 仮説構築, 調査票の設計, 調査対象の設計, データの収集, データのコーディングなどデータの創出過程のす べてを経験することが不可欠となる。 つまり, 事 例研究と計量的な研究の相互交流が求められる。 第 3 の課題に関しては, 登録モニターを利用した ネット調査を利用する際の留意点やその可能性に 関する研究の蓄積が求められよう (佐藤博樹ほか 信頼できるインターネット調査法の確立に向けて SSJ データアーカイブ Research Paper Series No. 42, 2009)。 (さとう・ひろき 東京大学社会科学研究所教授) 日本労働研究雑誌 1

計量的な実証研究を巡る研究基盤の整備と新しい課題

佐藤 博樹

参照

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