欧州委員会の動きを中心に―
著者
立川 雅司
雑誌名
農林水産政策研究
号
8
ページ
53-81
発行年
2005-03-25
URL
http://doi.org/10.34444/00000096
Copyright (C) 農林水産省 農林水産政策研究所1
欧州における遺伝子組換え政策の動向
一英国および欧州委員会の動きを中心に
立 川 雅 司
はじめに 要 旨 調査・資料 欧州においては, 1999年に遺伝子組換え体 (GMO)の認可を凍結するとの決定が環境大臣会 合で下されてから, GMOに関する認可は事実上 停止状態となっており(デファクト・モラトリア ムと呼ばれる),その間, GMOをめぐる政策過程 を抜本的に見直す作業が続けられてきた。これら の作業は,結果的に5年以上に及ぶものとなった が, GMOの環境放出指令の改正(2001/18/ECとし て成立),食品・飼料としての安全性審査規制,表 示規制,トレーサビリティ規制(EU Regulation No.1829/2003およびEU Regulation No.1830/2003と して成立)という形で,近年ようやく結実するに 原稿受理日2005年1月21日. 1998年より欧州では遺伝子組換え体(GMO)の事実上のモラトリアムが続いていたが,ax〕1年 に環境放出指令が改定されると共に, 2003年7月には新たな規制(食品・飼料規則および表示・ト レーサビリティ規則)が成立したことで,欧州におけるGMO認可のための制度的な環境の見直しが 最終的な局面を迎えつつある。こうした欧州レペルでの政策策定過程と並行して,加盟国において も,それぞれの農業事情や社会経済事情に応じて,GMOを国内政策上どのように位置づけるかにつ いて,様々な検討が続けられている。なかでも注目されるのは,英国政府の動きであり, 2003年に 国を挙げてGMOについての公開討論等を行うと共に,これと並行して政府レベルでも科学的観点お よび経済的観点からGMOを評価する作業が行われた。また4年越しの大規模農場実験の結果も同 年秋に公表され,GMOの生態系への影響に関して一定の見通しが示された。このように2003年は, ここ数年遅々とした動きしか見せなかった欧州において,GMO政策をめぐって様々な画期となる政 策導入や政策論争が行われた年となり,ある意味では,今後のGMO政策の分水嶺を形作る年となっ たともいえる。本稿では, 2003年12月に行った欧州での現地調査で得られた知見を踏まえ,この GMO政策における分水嶺ともいうべき2003年における英国および欧州委員会の動きについて,そ の概要を述べる。 至った。とはいえ,さらにこれらの規則を補完す るための関連規制や指令,ガイドライン等につい て,現在(2004年3月)もなお精力的に検討が続 けられているところである。また2003年5月か ら実質的に活動を開始した欧州食品安全機関も, GMOに関するリスク評価結果を出し始めている。 こうした欧州レペルでの政策策定過程と並行し て,EU加盟国においても,各国の農業事情や社会 経済事情に応じて, GMOを国内政策的にどのよ うに位置づけるかについて,様々な検討が続けら れている。なかでも注目されるのは,英国政府の 動きである。英国では, 2003年に国を挙げて GMOについての公開討論等を行うと共に,これ と並行して政府レベルでも科学的観点および経済 的観点からGMOを評価する作業を行った。また3年前から実施されていた大規模農場実験の結果 が2003年秋に公表され, GMOをめぐる生態系へ の影響に関しても一定の見通しが示された。 このように2003年は,ここ数年遅々とした動き しか見せなかった欧州において, GMO政策をめ ぐって様々な画期となる政策導入や政策論争が行 われた年となり,ある意味では,今後のGMO政策 の分水嶺を形作る年となったともいえる。本稿で は, 2003年12月に行った欧州での現地調査(1)で 得られた知見を踏まえて,このGMO政策におけ る分水嶺ともいうべき2003年における英国およ び欧州委員会の動きについて,その概要を述べる こととする。まず英国の動向を,次いで欧州委員 会の動きを中心として2003年のGMO関連政策の 動向を概観する中で,今後のGMO政策について の展望,関係各国に与える政策的含意などについ て順次述べていくこととする。 なお,本橋は,執筆時点である2004年3月時点 までの情報を盛り込んでいるが,それ以降の重要 な展開に関しては,初校段階で末尾の「付記」に おいて一部補足することで,可能なアップデート を行った。
2。英国におけるGMO関連規制の動向
2003年は英国政府のGMOに対する政策形成に 関して,画期的な年であった。 2003年10月には, 3年間かけて行った農場規模実験(Farm Scale Evaluation, FSE)の結果が公表された。また2003 年5月31日,環境・食料・農村問題省(Departmentof Environment Food and Rural Affairs, DEFRA) 大臣(Margaret Beckett)は, GMOの将来的利用 を検討するために,以下の3つの柱で, GMO評価 を政府レベルで実施することを明らかにした。す なわち,①科学的レビュー(DEFRAのChief ScientificAdvisersが担当),②コスト・ペネフィッ ト分析(内閣官房(Cabinet Office)の戦略ユニッ ト(Strategy Unit)が担当),③パブリック・ディ ベートの3本柱であり,いずれもその結果は, 2003年秋までに公表された。 以下では, 2003年12月に行った現地調査での ヒアリング結果も交えながら, FSEの結果概要, および上記①∼③の概要について述べる。そして, その上で英国が現在どのような方向性を取りつつ あるのか,そのGM政策の今後の展開方向につい て述べる。 (1)農場規模実験 英国政府は,EUの環境放出指令がGMOの環境 に与える間接的影響をも視野に入れたことや,英 国における環境保護団体(王立野鳥保護協会
(Royal Society for Protection of Birds, RSPB)等) からの要請に対応すべく, GMOの農場規模での 実験を1998年から企画し, 1999年のパイロット 研究を行い, 2000∼02年にかけて実施した(研 究費:3年間で500万ポンド)。 試験対象作物は,除草剤耐性のビート,ナタネ (春播きと冬播き),トウモロコシの3作物であ り,これらGM作物と, Non-GM作物との間でどの ような農場生態系における相違が発生するかを検 討するものである(第1表参照)。その大部分の研 第1表 農場規模実験に供試されたGMOの概要 作物名 商品名(Event名);開発企業名 認可手続き上の状況 申請上の用途 ナタネ Libery-Link, ms 8 x rf 3; Bayer Bioscience
(C/BE/96/01)
保留中。ベルギーより欧州委員
会へ申請(2003年2月7日) 商業栽培認可を申請中
砂糖用ビート
Roundup Ready; Monsanto and Syngenta Seeds (C/BE/9/01)
ベルギーより欧州委員会へ申請
(2003年2月7日) 商業栽培認可を申請中
Roundup Ready; Monsanto (C/DE/00/8) ドイツより欧州委員会へ申請
(2003年2月14日) 商業栽培認可を申請中 飼料用ビート Roundup Ready; DLF Trifolium A/S, Monsanto,
Danisco Seed (C/DK/回/01)
デンマークより欧州委員会へ申
請(2003年3月3日) 商業栽培認可を申請中
トウモロコシ Liberty-Link, T25; AgrEvo (Bayer)
(C/F/95/12/07)
PartC (上市)認可済み,フラン
スより申請(1998年4月) 商業栽培認可
究結果が, 2003年10月に公表された(なお,冬 播きナタネに関しては,まだデータ分析段階であ り,結果公表は2004年夏以降と見込まれる)。以 下,その結果の概要について,主として公表され た資料(Firbank, et a1。2003)に依拠しつつ述べる。 春播きの3作物におけるGMOとNon.GMOとの 比較実験の結果では,ビートとナタネにおいて Non-GMOの方が農場の生物的多様性が大きいこ と,また反対にトウモロコシにおいてはGMOの 方が生物的多榛匪が大きいという結果が示された。 この結果は,より高い雑草防除効果をもつ体系(2) において,生物多楡匪が低くなることを示すもの であり, GMOとNon.GMOとの比較というよりも, 除草剤の使用体系の相違を示すものと,研究代表 者のFirbank教授は指摘している胴教授へのイン タビュー)。 DEFRAに対して行った2003年12月の調査にお いて,このFSEの評価と今後の規制に及ぼす影響 についてヒアリングしたところ,実験結果に対し ては高い評価を示しているが,今後,同様の試験 を行う可能性は,費用負担の面などを考慮すると ははありえないこと,また規制への影響は,年末 に提出される環境放出諮問委員会(AdviSory
Committee on Release to the Environment, ACRE) の評価を待って決定されるものの,恐らく大きな 影響はないであろう(ケース・バイ・ケースでの 審査が基本)との見解が示された。 1 ) ACREによる政府に対する助言 2003年10月に, FSEの結果が公表されたことを 受けて,政府に対する助言機関であるACREは, FSEの結果に対する評価プロセスを開始した。ま ずACREはFSEに対する評価や問題点について, 市民や関係団体から書面での意見提出(written evidence)を求めた。その結果,68の意見が提出 され, ACREで検討された。その上で,書面で意 見を提出した個人・団体の中から14の意見につい て,公開検討会を2回開催した(2003年n月25 日と12月4日)。 提出された意見の中で主な論点としては,①作 物収量がデータとして取られていなかったこと (収量データがないことで,経営上の含意を得る ことができない。さらには,実験農場での栽培管 理が収益を無視して,生態系に負荷を与えないよ うな農法を行っていたのではないかとの疑念が提 起された),②除草剤使用量に関する疑問,③すで にEUで禁止される方向となっているアトラジン を使用した除草剤体系評価への疑問(アトラジン を使用しない場合の比較が必要であるとの批判), ④人間への影響やライフサイクルアセスメントな どの広い観点からの評価が欠如していること,⑤ 有機農業との比較視点が欠如していること,⑥鳥 類やミミズ等土壌生物の評価がなされていないこ と,⑥(対象区画間の距離を空けず)分割された 1農場(split field)にGMOとNon.GMOを作付けし て比較したことの是非,といった観点が挙げられ る。 以上の公開討論の場での議論を踏まえて, ACREは最終的に以下のような結論に達し,助言 を政府に対して提出した(20(M年1月13日)。 (a)トウモロコシ:2003年10月に公表された FSEの結果で明らかになった知見を基にすれ ば,もし除草剤耐性トウモロコシがFSEと同 様の仕方で栽培されるならば,慣行栽培され ているトウモロコシと比べ,指令 2001/18/ECで規定された基準に照らして, 悪い影響をもたらすことはないであろう。 (b)ビート:2003年10月に公表されたFSEの 結果で明らかになった知見を基にすれば,も し除草剤耐性ビートがFSEと同様の仕方で栽 培されるならば,慣行栽培されているビート と比べ,指令2001/18/ECで規定された基準 に照らして,雑草密度の点で悪影響をもたら すであろう。雑草密度に対する影響は,慣行 農法のビート栽培と比較して,食物連鎖上 (trophic levels)のより上位の生物に悪影響 をもたらすであろう。 (c)春播きナタネ:2003年10月に公表された FSEの結果で明らかになった知見を基にすれ ば,もし除草剤耐性ナタネがFSEと同様の仕 方で栽培されるならば,慣行栽培されている ナタネと比べ,環境放出指令2001/18/ECで規 定された基準に照らして,雑草密度(arable weed population)の点で悪影響をもたらすで あろう。雑草密度に対する影響は,慣行農法 のナタネ栽培と比較して,食物連鎖上のより 上位の生物に悪影響をもたらすであろう。
なお,以上の結論は, FSEで取られたものと同 様の栽培管理がなされた場合にのみ適用でき,異 なった栽培管理がなされる場合には,異なった影 響がもたらされるであろうと注記されている。 2)組換え作物流通調査会によるGMO作付 けガイドライン FSEは農場規模での大規模なGMO栽培がもた らす農場生態系への影響を検討するものであった が, GMO栽培の方法に対してはあらかじめ交雑 防止などのルールを課した上で,その影響が評価 された。 GMOによる生態系への影響もこのよう なルールをおいた上での影響であること,また後 に述べる共存方策に対する産業側の考え方がここ に窺えると考えられるので, FSEにおいて課せら れたGMO栽培のルールについて言及しておく。 具体的にはこのルールは,組換え作物流通調査
会(Supply Chain Initiative on Modified Agricultural
Crops, SCIMAC)という組織によって策定された。
SCIMACは,植物育成者団体,投入資材開発メー
カー,生産者団体等(具体的には, British Society
of Plant Breeders, National Farmers Union, British
Agrochemicals Association, United Kingdom
Agri-cultural Supply Trade Association, British Sugar Beet
Seed Producers Associationの5団体)で構成された
団体で, GMO生産流通を円滑化するためにガイ ドライン(SCIMAC, 1999a, 1999b)を策定してい る(1999年5月公表)。今回のFSEにおいても,こ のSCIMACガイドラインが作付けにおいて遵守す るべき指針とされた。また本ガイドラインと同時 に, GMOを導入するに当たって,ガイドラインの 大枠として関連産業全体の行動基準(Code of
Practice on the Introduction of Genetically Modified Crops)を併せて定めており,そこではGMOに関す る情報が川上から川下まで適切に伝達する上で留 意すべき事項が述べられている。 上記ガイドラインが策定されたのは,除草剤耐 性作物(なお,Bt作物については英国の気象特性 から考慮されていない)に関して,以下のような 点について万全を期すためである。すなわち,① 後作において,除草剤耐性を有した前作作物 (volunteers)が発生しないこと,②他作物あるい は野生近縁種との交雑を防ぐこと,③複合耐性 (genestacking)を防止すること,という問題を 回避するための指針として,本ガイドラインは策 定された。 ガイドラインにおいては,生産の各ステップ毎 (共通留意事項,作付計画,作付準備,作付,栽 培管理,収穫,収穫後管理,農場段階でのモニタ リング・記録管理,供給チェーン段階でのモニタ リング・記録管理)にチェックリストを用意して おり,生産者および集荷・流通業者が遵守すべき 内容が示されている。 内容面で特徴的な点としては,7年間は最低モ ニタリング記録を取るべきこと, GMOの連作を 禁じること(ただし,種子が越冬できないトウモ ロコシは除く),具体的な隔離距離を定めている こと(第2表参照),GMOを他の従来作物と混入 させてはならず, GMOはGMOで分別管理すべき こと(アメリカでは,こうした考え方は見られな い)などが挙げられる。また本ガイドラインは, SCIMACによって,更新すべき点がないかどうか, 毎年再検討されることになっている。 (2)パブリック・ディベート:GM Nation? 1)実施のプロセス aD3年6月から7月にかけて,英国では全国的 にGMOに関するパブリック・ディベートが組織さ れ,実施された。このパブリック・ディベートは, 第2表 SCIMACガイドライン(隔離距離) 採種用作物 (同一品種) (同一品種)認証有機作物 (同一品種)Non-GM作物 ナタネ 砂糖用ビート 飼料用ビート トウモロコシ 200m 600m 600m 200m 200m 印om 印om 200m 50m 6m 6m スイートコーン は200m,飼料 用は50m 資料:SCIMAC (1999b).
農業・環境へのバイオテクノロジーの影響に関す る政府への助言機関である農業・環境ハイテク委
員会(Agriculture and Environment Biotechnology
CommiSSion,AEBC)のもとで組織された運営委 員会(Steering Board, 様々なステイクホルダーから 参加)が組織した。このパブリック・ディベート では,様々なチャネルを通じて,国民の意見を集 約するという方式が取られた。公開討議に関して も,第1階層(全国レベル,2回開催)から,第 2階層(地域レベル,40回開催),第3階層(自 治体レベル,合計629回開催)と,参集する範域 を変えながら討議がなされたほか,それ以外に, 調査票を用いたアンケート調査,電子メールでの 意見聴取,無作為抽出集団による集団討議など, 6種類のチャネルを通じて意見交換・収集がなさ れた。こうしたプロセスを取ることで,英国全体 で延べ3万7千人以上がこのパブリック・ディ ベートに参加したと推定されている。これに要し た費用は,50万ポンドと見積もられている。そし てその最終報告書は,『GM Nation?』としてとりま とめられた。 これだけの大規模のパブリック・ディベートが 行われたのは,他国ではあまり例がなく興味深い ものの,最近の傾向としては,小林信一(20(M) も指摘するように,近年はコンセンサス会議とい う単発的な活動から,このように様々な手法を組 み合わせたパブリック・ディベート方式を実施す るというように新たな流れが向かっているという こともできよう。実際,こうしたパブリック・ ディベート方式を試みている国としては,他にオ ランダ(2001年6月, Parliamentary Commission on Bio-technology and FOodが主催)やニュージーラン ド(2000年5月∼2001年7月, Royal Commission on Genetic Modificationが主催)が挙げられる。な お,こうした英国におけるパブリック・ディベー トに類する取り組みとしては,すでに1994年に実 施された「植物バイオテクノロジーに関するコン センサス会議」が先行事例として挙げられる。主 催は,サイエンス・ミュージアムであり,その結 果の概要と評価の詳細については,小林傅司 (20(M)を参照されたい。 2)パブリック・ディベートより得られた知 見 パブリック・ディベートから引き出された主な メッセージは次のように要約されている。 ① 概して人々は, GMOに対して不安 (unease)を抱いている。 ② GMO問題に深く関われば関わるほど。 人々の態度は硬くなり,不安は増大する。 ③ 早期の商業化に対しては,支持が少ない。 ④ 政府および多国籍企業に対する広範な不 信(mistrust)が存在する。 ⑤ さらに知りたいという強い要望や,さら なる研究が必要であるという認識がある。 ⑥ 途上国は,特別な利害をGMOに対して 有する。 ⑦ 討論を行う機会は歓迎され,また高く評 価されている。 パブリック・ディベートに対する評価は様々で ある。オープン・ディベートに関しては,すでに 特定の見解をもっている人々が参加しただけであ るとの批判もある。しかし,この公開議論の過程 で注目すべき点のひとつは,自発的に参加した 人々からだけではなく,運営委員会が年齢や社会 経済的地位を考慮して無作為に抽出された77名 の人々にも意見聴取を行い(10グループに分かれ て議論),他での意見と比較している点である。 こうした抽出グループヘの意見聴取は, Narrow-BuしDeep (特定の人々に対してより集中的に意見 聴取を行うという意。 NBDと略称。)グループと 呼ばれて,他の公開議論での結果と比較対照され ている。 他で見られた意見との共通点としては,政府へ の不信感(公開討論を行うこと自体がカモフラー ジュであって,討議結果がどのように出ても無視 されるのではないかという疑念)や,多国籍企業 の力に対する不信や怒り(GMO開発には企業利益 追求が優先され,市民の利益が無視されるのでは ないか,そのためGMOがもたらすメリットも結 局は実現されないのではないかという不信),情 報が欠けており意思決定のためにはさらに多くの 情報が必要であるとの認識などが挙げられる。 また相違点としてNBDにおいて特徴的に見ら れた点は, GMOの潜在的メリットをよりオープ ンに認めようとする姿勢があるという点である。 NBDにおいては,より安価な食料供給,農業者へ
のメリット,農薬や化石燃料依存の軽減,医療面 でのメリットなどが評価されており,これらは公 開討議の場では強く否定されていた論点である。 3)政府の反応
英国議会に属する科学技術局(Parliamentary Office of Science and Technology, POST)において このパブリック・ディベートについてヒアリング した際,政府の反応や評価についても質問した。 その際(2003年12月),明らかになった点は, DEFRAとしても,ディベート結果について,いか に判断すべきか決断できない状況にあり, DEFRAからの公式的な反応はないという状況で あった。恐らく,政府としては, 2003年に実施し た様々な検討全体を踏まえ,さらにFSEに対する ACREからの助言や,科学レビューの第2レポー トなどを待って,最終的な判断は下されるであろ うとの回答であった。 (3)GM科学レビュー GM科学レビューは, 2002年5月にDEFRAが GMOに関する国民的な対話を行うことを明らか にした際,対話を進めるための3つの柱のひとつ として位置づけられたものである。2002年12月 から2m3年12月まで11回にわたって委員会の会 合(公開)がもたれ, 2003年7月に第1レポート が, 2004年に第2レポートが公表された。なお, 委員会は,26名の委員で構成され(委員長:政府
のChief Scientific AdviserであるSir David King教 授),大多数が自然科学者であるが,その他に開発 メーカー(Syngenta社, Monsanto社)や環境保全 団体(王立野鳥保護協会等)の関係者も含まれて いる。 1)第1レポート 第1レポートは, 2003年7月に,『GM科学レ ビュー:第1レポート(GM Science Review: First Report)』として取りまとめられて公表された。 この第1レポートでは,特に国民の関心が高い 領域を中心として,17の課題領域が設定され,既 存の科学的知見がレビューされた。レビューされ たのは,査読つきの科学論文を中心として,その 内容が精査されたが,各課題をレビューする際の 留意点は,①科学者間でどの程度の合意が見られ ているのか,②当該の問題が遺伝子組換え固有の 問題なのか,それとも一般の作物にも同様に見ら れる問題なのか,③当該課題をめぐって,重要な 科学的不確実性が存在するのかどうか,という点 である。 設定された課題領域は以下の通りである。 (a)食品関連 ・GM食品における栄養学的・毒性学的な差異 の可能性 ・GM作物による食品アレルギー ・摂取された組換えDNAの体内での経過 ・食物連鎖の中でのGM飼料の影響 (b)環境影響関連 ・GM植物の侵人性・定着可能性 ・野生生物に対する毒性 ・抵抗性の発達 ・GM除草剤耐性作物による新たな雑草管理戦 略の影響 ・除草剤耐性以外の特性の開発状況とその環境 への影響 ・農法における変化とその影響 ・科学による予測能力の限界性 (c)遺伝子拡散,検知,GM作物の影響 ・品種間での遺伝子拡散 ・GM作物から農業上の雑草や近縁種への遺伝 子拡散 ・GM作物から土壌微生物への遺伝子転移の可 能性 ・GM植物からウィルスヘの遺伝物質の転移の 可能性 上記の諸点について,既存の研究動向について 評価がなされたが,その結果として,明確な結論 が出されたわけではない。結論として述べられて いる点としては,①食品に関してはこれまで開発 されたGMOに関して,明確な危険性が証明され たわけではない。②むしろより大きな不確実性と なるのは,生態系に対する長期的な影響であり, これらに関する知見は不足しており,今後の研究 が必要である。③組換え技術は,多様な技術を含 むものであり,また生態系への影響も複雑である 以上,ケース・バイ・ケースで評価することが適切 な態度であろう。④英国における理想的な農業は, 野生生物にとってやさしく,かつ多様な農業形態 (GMOとNon.GMO)とが共存できる農業であろ
う。⑤いずれにしても研究課題は多く,社会の広 範なニーズを考慮に入れた適切なGM作物を開発 していくことが企業にも求められるだろう,と いった点である。
公表時に,本レポートの検討委員会の委員長を 務めたSir David King教授(政府の首席科学顧問 Chief ScientificAdvisor)は, BBCのインタビュー に答えて,「本レポートはGM作物そのものに対す る赤信号でも青信号でもない」と述べており(2003 年7月21日, BBC News),科学レビュー自体は, GM作物に対する知見の不足や不確実性を強調す る結果となり,政府の判断をむしろ留保する方向 に働いたともいえる。しかし,第1レポートで指 摘されていた生態学的な知見の不足という点は, この後に公表されたFSEによって,大きな前進が 見られたといえる。そして,実際,このFSEの示 した知見が重要な論拠として,政府の対応方向に 大きな影響を及ぼしていくこととなった。 なお,この第1レポートが公表されるタイミン グの問題として,パブリック・ディベートへのイ ンプットとして,このレポートが十分活用できな かったという点が指摘できる。本来であれば,パ ブリック・ディベートの早い段階で公表され,国 民討議の素材として利用されることが望ましかっ たといえよう。 2)第2レポート 第2レポートは,当初予定されていた通り, 2004年1月22日に公表された。 第2レポートの内容は,①FSEなどの結果を踏 まえた新たな科学的知見への見解,②パブリッ ク・ディベートで提起された論点に対する見解, ③第1レポートに対するコメントとそれへのレス ポンス,を主な内容としており,第1レポートよ りも,分量としては少ないものとなっている。以 下に,その内容を要約的に紹介する。 ① 第1レポートが公表されて以降,第1レ ポートで得られた科学的結論を大きく左右す るような科学的知見は得られていない。 ② FSEは,科学的に非常に貴重な知見を含ん でいる。もしもFSEと同様の除草剤体系が採 用された場合は,除草剤耐性ビートと除草剤 耐性ナタネに関しては,雑草密度が有意に減 少すると共に,トウモロコシにおいては反対 に非GMOのトウモロコシの方で雑草密度が 減少することが予測されると,科学レビュー パネルは結論づけた。なお,この結果は GMOの使用そのものに由来するというより も,除草剤使用の如何に左右されている。こ うした結論は,第1レポートですでに得られ ていた結論,すなわちGM作物は,無条件で 認可されるべきものではなく,ケース・バイ・ ケースで評価されなければならないという結 論を強化するものである。 ③ パブリック・ディベートで議論された諸問 題や懸念事項に関しては,すでに第1レポー トでカバーされていると共に,議論の枠組み に関してはパブリック・ディベートにおける 予備的段階でなされたワークショップ
(Foundation Discussion Workshop; 2m2 年11 月に8会場で実施)の結果得られた整理が科 学レビューにおいても有効であった。具体的 には, GMO問題を環境,経済,消費者,健康, 倫理など13(後に17)の分野に大きく分類し て,科学レビュー・パネルの中で議論された。 このように科学レビューは,既存の研究の精査 を行うことで,現段階で共有されている知識を再 度チェックし,諸論点としては包括的にカバーす ることができたものの,具体的な認可という観点 では, FSEの結果からも示唆されるように,ケー ス・バイ・ケースでの対応という慎重な姿勢を科 学的にも求めるというレポートとなった。 (4)コスト・ベネフィット分析(内閣官房の 戦略ユニットが担当) コスト・ペネフィット分析も, 2002年5月に政 府が定めた3本柱のひとつであり,内閣の戦略ユ ニット(Cabinet Office,Strategy Unit)が担当した。 本分析の目的は,英国においてGM作物(主とし て除草剤耐性GMOを想定)が商業栽培された場合 のコスト・ペネフィットについて,包括的かつバ ランスの取れた分析を行うことである。分析に当 たってば,現在利用可能なGMOだけでなく,今後 10∼15年のうちに開発されるであろうGMOも想 定しつつ,将来の可能性について5通りのシナリ オ(消費者の受容と規制の厳しさという2軸をク ロスさせてシナリオを位置づけた)を策定し評価
した。なお,コスト・ペネフィットは,貨幣換算で きないものも含めて広くとらえて評価を行ってい る。 その主要な結論は以下の通りである。 ① どのようなシナリオにおいても,コストと ペネフィットとのトレード・オフが見られる。 結果に対する望ましさも,人々がどのような 価値観を抱くかによって異なってくる。 ② どのようなシナリオにおいても,政策, 人々の態度,国際的な展開のそれぞれが,相 互に関連しつつ動き,これらの動態的な相互 作用自体も予測が困難である。したがって, 全体としての方向性も予測がつかない。 ③ 環境や健康面でのリスクに対応する上では, 規制システムがどのようなものになるかが大 きく関わってくる。規制のあり方は有機農業 や慣行農業との共存問題にも大きな影響を及 ばす。 ④ GM作物がもたらす社会経済的影響をもっ とも左右するのは市民の態度である。 ⑤ 短期的には,消費者の否定的な態度によっ て,GM食品の需要は制約されるであろうし, したがって現在のGM作物のもつ経済的価値 も限られたものとなると期待される。 ⑥ ただし,GM作物については,今後研究開 発することで,大きなメリットも期待される。 ⑦ 国際的な含意を考慮することも重要である。 たとえば, GMO栽培を認める国とそうでな い国との間で国際摩擦が生まれるなどの点に 注意すべきである。 以上のように,経済的なコスト・ペネフィット 分析は,現在の消費者の慎重な態度を前提とすれ ば,短期的な経済的価値は非常に限られたものと ならざるを得ないこと。また長期的なメリットも 期待されているものの,これらも単に研究開発の 成果だけではなく,規制のあり方,国際的なGMO の普及動向,人々の態度によって影響を受けるも のであり,予測が困難であることが指摘されてお り,明確な結論が出されているとはいい難い。 (5)その他の関連レポート 以下では, 2003年から2004年3月までに公表 されたレポートのうち,主なものについて触れる。 この時期は,英国政府がGMO政策に関してどの ような決定を下すのかという点に広く注目が集 まっていたという状況もあり,政府機関以外から も各種のレポートが公表されている。 1)食品基準庁(FSA)による調査 食品基準庁は,その業務の一環として,定期的 に消費者に対して様々なアンケート調査を実施し ているが,今回の市民との対話(public dialogue) プロセスに対する貢献のひとつとして,GM食品 に対するこれまで行った世論調査(2000年, 2001 年, 2002年)に関して比較分析を行うと共に, フォーカス・グループや市民法廷などでの結果も 含めて, GMOに対する意識分析を行った。アン ケート調査については,延べ3,000人に対して行 うと共に,全体でa)回にわたる会議形式の意見集 約の機会をもった。この分析結果に関する報告書 は, 2003年7月に公表された。 報告書に示されている主な知見は,以下の通り である(報告書の要約より抜粋)。 ① 多くの消費者は,賛否どちらについても, 固定的な見解を有しているわけではないが, GMOに対する疑念は抱いている。また容易 に理解できる情報も不足している。 ② 2000年から2002年までの各データを比較 すると, GMOに対する不安はこの3年間で 減少している(2000年:43%→2001年:38% →2002年:36%)。しかし,GM食品の消費 者メリットは,依然として多くの人々にとっ て不明のままである。 ③ 食品安全性に対する懸念以上に,GM作物 が環境に及ぼす影響に対する懸念が高まって いる。とはいえ,食品安全性への懸念が消え たわけではない。 ④ 消費者は,食品がGMOなのか,それとも Non-GMOなのかに関して,適切な情報が与 えられ選択できることを求めている (informed choiceへの要望)。そのためには, GMOに対して明確な表示がなされるべきと 考えている。 ⑤ GMOが栄養や品質,価格についてメリッ トをもたらすと考える人々もある。しかし, すでに選択肢が十分あることを考えて,こう したメリットに疑念をさしはさむ人々もいる。
また,もし他の国がGMOを開発していくと, 技術開発面で英国が立ち遅れる恐れを指摘す る人々もいる。 ⑥ GMOに対する一般の理解はまだ十分なさ れておらず,基本的な事実や情報が正しく提 供されることが非常に重要であると考えられ ている。 ⑦ また規制についても,どのように安全性評 価などが実施されているかなどの情報を知り たいと考えている。 ⑧ 不確実性が存在している場合,誰を信頼す べきかという問題が依然として存在している。 BSE危機以降,政府や科学者への信頼が失墜 し,回復されていない。 ⑨ GM動物の開発や,動物の遺伝子が植物に 導入されるなどについての懸念が存在してい る。 ⑩ EU外ではGM食品が消費され,これまで何 の問題点も生じていないことは認識されつつ あるものの,長期的な健康への影響について の懸念は依然存在する。 ⑩ 環境や生物多榛陛への影響が最大の懸念で あり,一旦, GMOを導入した場合,引き返す ことができないばかりか,交雑が避けられな いことで,選択肢に制約が課されることに対 する懸念が存在する。 ⑩ 発展途上国に対する影響に関しても,その 経済面や持続性に対する影響についての懸念 が表明された。 2)農業・環境ハイテク委員会による共存レ ポート 英国に限らず,欧州においてはGMOと慣行農 業(Non-GMO),さらにはGMOと有機農業との共 存がどのようにできるのかどうかについて,昨今 重要な検討課題となっている。これは, GMOに 関わるEUの関違法や安全性審査体制が整備され, 政治的な最終判断をもってGMO栽培が可能と なった場合に備えての現実的な対応が議論されて いる証左とも理解できる。 英国では,市民との対話プロセスの諸報告が公 表されてまもなく,農業・環境ハイテク委員会 (AEBC)によって共存に関する報告書が公表さ れた(AEBC, 2003)。報告書の中では,9点にわ たって提言をまとめている。その内容は,次の通 りである。 提言1:政府が共存方策を検討する上で目的と すべきは,生産者に対しては現在・未来 における国内外の市場に対応できるよう にしつつ,消費者に対しては,最大限の 選択可能性を提供することにある。 提言2:もしもGMOが商業栽培されるならば, GMOの生産者は09%の意図せざる混入 率を達成するために,法的に強制力を もった栽培管理方法(protoc01)を遵守す べきである。 提言3:もしもGMOが商業栽培されるならば, その導入段階において,モニタリングや 監査を重点的に行うことで,共存方策が どの程度実際に効果を挙げているかにつ いて検証を行うべきである。 提言4:導入段階でのモニタリングの結果,不 具合が明らかになった場合には,共存方 策を改訂したり,適切な方策が確立され るまで, GMO栽培を一時的に禁止する ような措置を政府は講じるべきである。 提言5:生産者が適正な措置を講じたにもかか わらず, 0.9%以上の混入が見つかったこ とで経済的な損失を被った場合には,こ れを補償する何らかの方策が求められる。 (具体的には,保険制度が見込めない以 上,政府やGMO開発企業などからの拠 出金による補償基金などが必要との見解 が示されている。) 提言6 :EUで検討されている環境責任に関する 指令(Environmental LiabilityDirective) のアプローチを参考にしつつ,英国にお いても環境へのGMO放出に伴って発生 した損害に対する賠償責任制度を確立す るべきである。 提言7 :GMO放出に伴う環境悪化が発生した場 合,責任ある官庁が環境修復に関する命 令を出すことができるよう,英国の1990 年環境保護法(Environmental Protection Act 1990)は,改正されるべきである。 提言8 :EUで検討中の指令に対応して, GMO がもたらす多様な環境影響に関しても,
規制当局が責任主体となり,適切な対応 方策を行うことができるよう, 1990年環 境保護法をさらに改訂すべきである。 提言9:共存方策の検討と共に, GMOも含めて 作物が環境にプラスの影響をもたらすよ うな管理方法について積極的に検討する べきである。 以上の各提言に見られるように, GMOは商業 栽培を開始したとしても,共存方策が確立・定着 するまでは,環境保護法などを根拠とする厳しい 管理のもとに置かれ,混入による経済的損失に対 する補償に関しても, GMO生産者や開発企業の 負担が求められる可能性がある。こうした様々な 負担を上回るメリットが生産者に生まれない限り, 商業栽培が認められたとしても,その定着にはな お時間がかかることが想定されよう。 3)下院による英国ハイテク生命科学研究会 議のレビュー報告 2004年2月に下院科学技術委員会(HouSe of Commons, Science and Technology Committee)よ
り,英国ハイテク生命科学研究会議
(Biotechnology and Biological Sciences Research Council, BBSRC)に対するレビュー報告書が公表
された。下院科学技術委員会では,各科学分野の 研究会議(Research Councils)について,適宜レ ビューを行っているが, 2003年9月に, BBSRCレ ビューを実施することが決定され,その最終報告
が本レポート(HouSe of Commons, Science and Technolo-gy Committee, 2004)である。この報告 書が公表された2004年2月時点は,政府がGMO の商業栽培に関してどのような決定を下すかに注 目が集まっていたこともあり,本レポートの内容 は,特にパブリック・ディベートに果たした BBSRCの役割に関連して,メディア等でも取り上 げられた。本レポートでは,生命科学の研究およ び教育に果たしてきたBBSRCについて,予算配分, 予算管理,成果,関連分野との調整等がおおむね 適切に実施されてきたと評価されている。とはい え,市民と科学者とのコミュニケーションなど, 科学研究の成果の需要サイドヘの対応不足から GMOに対する信頼を構築することができなかっ た点に対し批判的評価も盛り込まれている。 4)下院環境監査委員会による報告 政府見解が表明される直前に,下院環境監査委 員会(Environmental Audit Committee)は, GM トウモロコシの環境影響に関して残された課題が 存在し,さらなる研究を行わなければ栽培を認可 すべきではないという主旨の報告書を公表した。 本報告は,いわばギリギリのタイミングで,栽培 禁止に向けた政治的アピールとも理解できる。主 要な論点は, ACREで行われた議論とも重複する が,①FSEにおけるGMトウモロコシの生態系へ の影響評価の観点は非常に狭いものであり,さら なる試験が不可欠である,②また商業栽培が認め られる前に賠償責任について明確なルールが確立 されるべきである,③過去50年間の農業生産に よって生物的多榛匪が大きく失われてきたという 反省に立って,政府はこれを回復する措置を講じ るべきである,④政府の意思決定においては透明 性が十分確保されるべきである,といった点など が挙げられている。 (6)その後の推移(2004年3月現在) DEFRAは,上記に述べたFSE,パブリック・ ディベート,科学レビュー,コスト・ペネフィッ ト分析の結果を踏まえて,政府としてGMOの商 業栽培を認めるかどうかの最終的な判断を2004 年3月9日に示すこととなった。 端的に述べればその結論は, FSEの結果に沿っ たものとなった。すなわち,除草剤耐性GMトウ モロコシに関しては,条件つきで栽培を認可した (すなわち,今回の認可は, 2006年10月に失効。 認可継続のためには,栽培過程でさらなる科学的 評価の実施が必要)。その他のGMナタネとGM ビートに関しては禁止という結論を出した。ただ し,GMトウモロコシに関しても,慣行農法のト ウモロコシヘの影響など補足的な検討を行う必要 があり,栽培開始はもっとも早くとも2005年春か らであるとDEFRA大臣(Margaret Beckett)は述 べている。またGMOの商業栽培認可については, ケース・バイ・ケースとの立場を基本的に今後も 踏襲し,無条件の認可を認めるものではないとも 述べている(Reuters, 2004/3/9)。 この政府の決定方針は,その検討プロセスで事 前にリーグされたことで,環境団体などからも反 発や抗議を招いていた(3)。また英国内でも地域に
よっては,政府の決定に従おうとしない動きも見 られ(たとえば,ウェールズやスコットランド), 実際に20(石年春にGM栽培が行われるかどうかは, 依然として事態は流動的で,不透明である。こう した状況下で, 2004年3月末に,問題となってい る除草剤耐性トウモロコシ(Event名:T25,商品 名:Chardon LL)をその発売元であるBayer社が 販売を見合わせるという決定を発表した。政府か らの条件が余りにも過大であり,市場的にも大き くない英国でのトウモロコシ販売からは経済的な メリットが得られないと判断したためである。こ うした開発企業の決定は,3月9日の政府決定を 宙に浮かせるものともいえ,早ければ2005年春か らのGMO作付け開始という政府の予期していた シナリオは,これで再び白紙に戻ったといえる。 このBayer社の判断の背景には,GM混大問題が 発生した場合の補償基金の支出を,開発企業に求 めるという動きが政府内で生まれていたという事 情も存在する。混入が発生した場合の経済的損失 負担が企業に求められることになると,企業は大 きなリスクを抱え込むことになる。 Bayer社の判 断は,こうしたリスクを回避するためのものでも あったといえよう。 また共存ガイドラインの中には, GMO作付け を開始する生産者は,周辺生産者に事前了解を行 うという考え方が示されているが, GMO作付け 反対グループの中には,こうした方策を逆手にと り,有機トウモロコシの種子を周辺農家や住民に 広く配布し,栽培を呼びかけることで,実質的に GMO作付けを地域として拒否しようという運動 も発生している(4)。
3。欧州におけるGMO関連規制の動向
(1)全般的状況 1)関連2法の成立・施行までの手続き 本論文冒頭においても述べたように, 1998年以 降,デファクト・モラトリアムを続けているEUに おいては, 2003年7月に新たに2つの規則,すな わち食品・飼料規則(EU Regulation No.1829/2003) と表示・トレーサビリティ規則(EU Regulation No.1830/2003)を成立させると共に,本規則が施行 される2004年4月18日までに,補足的な関連 ルール(施行規則,指導書等を含む)を早急に成 立させるべく作業が続けられている。 aD3年7月に成立した食品・飼料規則は,食品 ないし飼料として利用されるGMOの認可手続き を定めるものであり,また表示義務対象の品目, 表示の例外規程等を定める。従来は, GMO食品 に関しては「新規食品規則(Regulation on Novel Foods and Novel Food gredients of 27January 1997, Regulation 258/97)」によって規制されてき たものの, GMO飼料に関しては特別の規制が用 意されていなかった。しかし,食品と飼料とは フードチェーンにおいて相互に明確に分離できな いことを示すアメリカのスターリンク事件などの 教訓に照らして,両者に関する規制を1本化し, 共通の認可手続きを定めたものである。また認可 に関しては10年間の期限が設定され,認可延長の ためには,再申請が必要とされている。新規則に おいては,最終製品にDNAを含むか否かに関わら ず, GMOから製造された食品・飼料に表示義務が 課されている。表示が免除されるのは,非意図的 な混入率が0.9%未満の場合である。なお,この 0.9%という数値は,当初の1%を基準とする案か ら改訂されたものであるが,この変更は政治的な 背景によるものであり,そこに科学的な根拠を求 めることは意味がない(欧州委員会ヒアリング)。 また欧州食品安全機関が安全性を評価したもので あれば,欧州委員会で未認可であっても, 0.5%ま での混入率は許容される(ただし,本条項は当面 3年間適用され,その後見直しされることになっ ている)。また表示・トレーサビリティ規則により, 事業者は, GMOの種別についての記録をフード チェーンのすべての段階で5年間保持することが 求められる。トレーサビリティによるGMO種別 の表示システムは,0ECDで開発されたユニーク・ コードを準用することとなっている。なお,ト レーサビリティ・システムに代わるような,製品 特定を可能とするロット・ナンバリング・システ ムを事業者が有している場合には,トレーサビリ ティ・システムの導入は免除される。 このような内容を有する規則について,その施 行に当たっては,以下のような関連ルールが策定 されつつある。すなわち。 ・サンプリング・検知手法に関する指導書・トレーサビリティ規則実施のための識別記号 (unique identifier)に関する指導書 ・種子指令の改正(特に,種子へのGMO混入許 容水準) また, GMOのリスク評価を担当する欧州食品 安全機関でも, NK603(除草剤耐性トウモロコシ, 輸入・加工の認可申請中)をはじめとしてGMOの 安全欧評価の勧告を出し始めており,認可再開は, 高度の政治的判断を待つだけの状況となっている。 デファクト・モラトリアム下においては,EU諸 国のGMO研究も低迷を余儀なくされ,環境放出 実験について見れば,EU全体で2003年にはわず か82件しか行われていないという状況となって いる(5)。第3表は,過去]4年間の開放系実験件数 の推移について,欧州共同研究センターのデータ によって整理したものであるが,デファクト・モ ラトリアムとなる前の田年代半ばには,年間250 件前後の開放系実験が行われていたものが,その 後急速にGMO研究が後退していく状況が観察で きる。 なお,こうした研究の低迷状況を少しでも改善 するべく,欧州加盟国横断的にGMOをめぐる 様々な問題(食品安全,環境安全から,検出技術 開発,政策,流通までも含む)を解明しようとす る研究プロジェクトが欧州研究総局の予算で実施 された(第5次フレームワークプログラムとして 採択。プロジェクト名:ENTRANSFood Project。 総予算:1,200万ユーロ。詳細は,プロジェクトの ホームページを参照:http://www.entransfood.n1/)。 このプロジェクトには, GMO安全性研究に関し て加盟国の研究者間のネットワークを強化すると いう意味も込められていた。なお,本プロジェク トのリーダーには,欧州食品安全機関のGMOパ ネルの委員長であるHarry Kuiper博士が務めた。 2)認可再開をめぐる動き ここでは,関連法整備と平行して進められてき た,具体的な認可再開に向けた最近までの動向に ついて述べる(2004年3月まで)。まず,リスク評 価のシステムとその現状として欧州食品安全機関 の動きを,次いでリスク管理を行う欧州委員会の 動きについて述べる。 i)欧州食品安全機関によるリスク評価
欧州食品安全機関(European Food Safety Authority, EFSA)は,欧州レベルにおける食品に 第3表 欧州におけるGMO開放系実験件数の推移 1991 1田2
1皿
1匹
1995 19961匹
1998 19田 2000 2001 2002 2003 J(M 合計 オーストリア 2 1 3 ベルギー 函 16 17 11 7 7 6 8 16 5 8 1 1 13 デンマーク 5 1 5 4 5 10 4 5 1 40 フィンランド 1 3 6 3 3 3 1 1 21 フランス 1 35 57 69 91 72 70 64 34 17 3 17 5a) ドイツ 3 1 8 12 17 20 18 23 7 8 7 9 5 138 ギリシア 1 5 7 6 19 アイルランド 2 2 1 5 イタリア 5 19 43 a) 46 43 51 18 5 9 2 291 オランダ 4 15 9 25 16 10 14 19 5 19 4 4 4 148 ノルウェー 1 1 ポルトガル 2 2 1 3 3 1 12 スペイン 3 10 11 16 44 39 39 19 19 17 40 9皿
スウェーデン 8 10 9 8 19 6 2 2 1 3 68 英 国 16 17 23 J7 Z7 25 Z2 13 25 12 5 8 2a) 合 計 4 函 89 166 213 239 函4 244 238 13 88 56 82 23 1,901 資料:欧州共同研究センター(http://biotech.jrcit/deliberate/dbcountries.asp). 注.オーストリア,フィンランドのデータに関しては,EU加盟以前のため, 1995年以前の数字がない関連するリスク評価を行う機関として理事会規則 (No.178/2002 of 28 January 2002)で法的に設立さ れた。実際にその活動が開始されたのは, 2003年 5月以降である。現在は,ブラッセル郊外に立地 しているが,数年後にはイタリアのパルマに移転 することが決定されている。 もともとGMOの安全性評価は,従来は,欧州委 員会内の植物科学委員会(Scientific Committee for Plants)が実施していたが, EFSA設立と共に,そ のGMOパネルに移管された(2003年5月活動開 始)。 GMOについては,このGMOパネルで食品安 全欧および環境安全性の双方の観点から審査がな される。 GMOパネルは,21名の委員で構成され(委員 長:Harry Kuiper博士),パネルでの審査において は,審議の過程でワーキンググループを関連分野 に応じて複数設置する方式が取られている。たと えば, NK603の検討においては,①食品・飼料グ ループ(毒性,アレルギー性などを検討),②分子・ DNAグループ,③環境グループ(環境への影響を 検討)の3つのワーキング・グループが設けられ, 必要に応じてGMOパネル・メンバー以外も議論に 参画した。またひとつのグループで議論しても結 論が出せないときには,他のグループとも共同検 討会を設けて議論した。このような方式がうまく 機能したことで,今後も同様のスタイルが取られ るとの見解がEFSA担当者より示された。 2004年3月までの時点で, GMOパネルが公表 した判断は4件のみである。最初は,北オースト リア(Upper Austria)のGMフリー宣言に対する 科学的見解(2003年7月)。第2は,NK印3につ いて,従来のトウモロコシと安全欧の面で相違は ないという結論を公表した(2003年11月)こと で,これがEFSAによるGMO安全性評価の最初の ケースとなった。第3は,遺伝子組換え徹生物の 閉鎖系利用について(2003年12月),そして第4 は,除草剤耐性ナタネ(GT73)に対する安全性の 判断(2004年2月)である。 現在検討に上がっているGMOは,GMトウモロ コシ(MON810XNK603)であるが,これ以降も 次々とEFSAに対して審査が求められていくもの と考えられる。 EFSAに対して審査を求められる のは,各国間でGMOの安全性評価をめぐって意 見の対立が生じた場合のみであるが,現実的には, いくつかの少数の国が必ず反対を唱えるため,す べてのGMOの審査に関与せざるを得ない状況に ある(EFSAへのヒアリング結果)。 このようにEFSAでは,次々と審査がなされて おり,そしてそのリスク評価結果では,安全性判 断を重ねて示してきたというのが最近の動きであ る。したがって, GMOの認可再開に関しては,リ スク管理部門(欧州委員会)にその政治的判断が 委ねられるという状況となっている。 ii)欧州委員会等の動き (a) BtllとNK603の認可動向 そもそもEUにおける認可が事実上凍結される こととなったのは,当時議論されていた新環境放 出指令の検討過程においてであり,具体的には 1999年6月環境相理事会において,多数の加盟国 がGMOに対する表示・トレーサビリティに関する ルールが採択されるまで,新規のGMO認可を凍 結すべきであると宣言した時に遡る(6)。 その後,環境放出指令の改定(2001/18/EC, 2001年3月),食品・飼料規則の制定(2003年7月) を踏まえて,現在(2004年3月)の状況は,これ までに申請されていた品目について,認可プロセ スを前進させることが重要課題となっている。 認可再開の動向に関しては, 2003年から2004 年にかけて,モラトリアム解除に向けた動きが明 確になってきたといえるものの,まだスムーズに 進行するという状態ではない。この点をBtlK耐 虫性スウィートコーン, Syngenta社)とNK603(除 草剤耐性トウモロコシ, Monsanto社)について述 べる。 Btllは新規食品規則のもとで輸入認可申請が 出され,これがペンディングになっている。科学 的なリスク評価に関しては,すでに2002年3月に
食品科学委員会(Scientific Committee ofFood)か ら安全性についての評価報告書が出され,リスク 評価は終了している。これに関しては, 2003年12 月8日に,欧州委員会のフードチェーン・家畜衛 生常設委員会で, Btllの輸入認可についての認可 案が検討されたものの,不採択(賛成6力国,反 対6力国,棄権3力国)に終わった。本来であれ ば,この後,農相理事会に判断が付託されること になるのであるが,欧州委員会としては異例なこ
とに,プローディ欧州委員会委員長および関係6 総局の欧州委員が出席したオリエンテーション・ ディベートが開かれ,その会合においてBtllと NKeO3の取扱いについて検討されることとなっ た(7)。そして, 2004年1月2S日に開催されたこ のオリエンテーション・ディベートでは, GMO認 可に関しては,次の2点が確認された。 ① BtlK新規食品規則のもとで申請されてい る)に関しては,欧州委員会として,輸入お よび食品飼料使用についての認可案を採択す る。[この認可案に関しては,田日以内に農 相理事会により否決に向けた合意が成立しな ければ,自動的に欧州委員会の認可案が成立 することとなり,6年ぶりにGMO認可(ただ し,この場合には輸入・加工に限定され,商 業栽培認可ではない)がなされることにな る。] ② NK603に関しては,認可を進めるためのス テップとして,環境放出指令(2001/18/EC) にもとづいて,認可決定案を2004年2月に開 催される法制委員会(Regulatory Committee) に提出して検討する。 このNKeO3については,すでに2003年12月に EFSAが安全性評価の報告を提出しており,欧州 委員会での認可を待つという状態になっていた。 Btllの場合と同様,このNK603についても,認可 がなされるかどうか注目されていたところであっ たが, 2004年2月18日に開催された欧州委員会 法制委員会では,その輸入および食品飼料使用に ついての認可案が不採択(賛成9力国,反対5カ 国,棄権1力国)となった。認可案の採否は,閣 僚理事会に付託され,3ヵ月間の間に合意に至ら ない場合,再度,欧州委員会に委ねられることに なる。NKeO3の認可については,まだ時間がかか る状況にある。なお,こうした認可に関わる法制 委員会等を含めた欧州委員会の意思決定手続きに 関しては,巻末の[付記2]の委員会手続き (comit010gy)の項を参照されたい。 なお,欧州レベルの認可とは次元を異にするが, ここでベルギー政府によるGMナタネ(Bayer社) に対する商業栽培申請却下についても触れておく。 EUレベルでペンディングとされている2つの GMO (Btll, NK603)がいずれも,食品・飼料と しての輸入認可を求めたものであるのに対して, 商業栽培を求めた申請として注目すべき例でもあ る。環境放出指令(a)01/18/EC)および新食品・ 飼料規則においては,各国にまずGMO認可申請 が提出されることになっている。 1997年1月, Bayer社はベルギー政府に対し,GMナタネ(Event 名:ms8 xrf3)の輸入と商業栽培についての認 可申請を提出した。もしもベルギー政府がこれを 認可すれば,欧州委員会に通知され,欧州委員会 より各国に通知されることになる。もしもこの時 点で他国からの異議が出なければ,欧州委員会と して認可するという手順となる。しかし,もしも 異議が出た場合には,安全性評価に関してEFSA の審査がなされ,その結果を受けて欧州委員会と して認可について最終判断がなされ,認可されれ ば欧州全土での栽培が可能となる。 しかし, 2004年2月2日,ペルギー政府は,申 請に対して栽培不許可という判断を下した(なお, 輸入に関しては,ベルギー政府として認可すると いう判断を示している)。このような判断が下さ れた背景には,英国において実施された農場規模 実験において,GMナタネの環境影響が否定的な 影響を及ぼすとの知見(詳しくは本稿の英国の章 を参照)が示されたためと考えられている。ベル ギー以外の国から再度Bayer社が申請を提出する 可能性もあるが,恐らくその場合においても認可 手続きを進めることは非常に困難なものとなると 考えられる。 (b)今後の欧州委員会で対応すべき課題 前記オリエンテーション・ディベートでは,認 可関係以外でも,次のような関連課題が指摘され, 今後の対応が待たれている。以下,その概略につ いて述べておく。 ① 国レベルのセーフガード措置に関する懸案 新規食品規則(イタリア)と環境放出指令けー ストリア[3件],フランス[2件],ドイツ,ル クセンブルク,ギリシア)を根拠として提起され たセーフガード措置の撤回を求めた決定について は,加盟国の反対がなければ,早急に最終結論を 得るべく評決にかける必要がある。法制委員会に おいて,否定的見解が示された場合には,問題は 理事会に付託され,適切な委員会手続きにした がって,処理されるべきである。
なお,セーフガード措置とは,EUレペルでの決 定に関して,加盟国すべてが当該決定に従うべき であるものの,加盟国によっては,何らかの正当 な根拠がある場合に限って,緊急避難的にEUレ ベルの決定を留保し,対応措置を取ることを許す ものであり,その措置をセーフガード措置と呼ぶ。 セーフガードに関しては川口環境放出指令第16条 および新規食品規則第12条で規定され,新環境放 出指令にも継承されている(第23条)。 ② 国レベルの共存方策に関する懸案 欧州委員会は,環境放出指令に規定されている ように,各加盟国が共存戦略を円滑に策定できる よう手立てを講じるべきである。その際,各加盟 国は,共存方策を欧州委員会に通告する法的義務 を負っていることを十分認識すべきである。欧州 委員会は,加盟国間の情報交換を促さなければな らない。 ③ 種子におけるGM混入許容水準の確定 技術的に避けられない,慣行種子への認可 GMOの混入許容水準について,環境法の観点か ら早急に最終案を策定し,法制委員会の評決にか けるべきである。これが成立したならば,同一の 混入許容水準を種子規制のもとで採択しなければ ならない(管理委員会Management Committeeの 所管事項)。 ④ 有機農業規則におけるGM混入許容水準の 確定 有機農業規制におけるGM混入許容水準の設定 については,適切な場を設けて早急に検討し,欧 州委員会へ提案しなければならない。 3)新規則のもとでのGMO認可のプロセス 新たに成立した食品・飼料規則におけるGMOの 認可に至るまでのプロセスについて,簡単に述べ るが,その前に,まず,環境放出指令(2001/18/ EC)と 食 品 飼 料 規 則(EU Regulation No.1829/2003)との関連について述べておく。 環境放出指令は,各国で対応法を策定(2002年 12月時点で対応国内法を整備しているのは,ス ウェーデン,デンマーク,英国,ポルトガル,イ タリア,アイルランドの6力国に留まる),環境放 出に関わる安全性審査が求められているが,食品 や医薬品などといった適用分野を特定せず, GMOに対する横断的(horizontal)な規制を行う点 に特徴がある。他方, 2003年7月に成立した食品 ・飼料規則は,垂直的な(=特定部門のみを対象と する)規制であり,食品・飼料に関する安全性審 査は本規則が適用されることになる。 次に,食品・飼料規則の条文に基づき, GMO使 用の申請から認可までの手続きの流れを概観して おく(第1図)。 i)認可の申請(第5条1, 2) ・申請者は,いずれかの加盟国の所管当局に対 して,申請書を提出。 ・国内所管当局は,申請者に受理通知を14日 以内に送付すると共に,欧州食品安全機関に も通知する。 ii)申請書の内容(第5条3) ・生産・製造方法,分析報告書,上市(place on the market)の条件,関連研究情報,サンプ リング・検知方法,市販後モニタリング計画, 基準材料の入手先,等。 iii)食品安全機関による見解の表明(第6条) ・申請受領から6ヵ月以内に見解を表明する。 そのために, EFSAは当該加盟国の担当部局 に対して環境リスク評価を実施するよう要求 できる(ただし,種子等生殖素材として使用 される場合には,必須条件)。 EFSAより要請 を受けた担当部局は,3ヵ月以内に見解を表 明しなければならない。 ・サンプリング・検知方法に関しては,EUのレ ファレンス・ラボ[実際には,共同研究セン
ター(EC Joint Research Center, JRC)内の「バ
イオテクノロジーおよびGMOユニット」が対 応]に回付し,検証する。 ・食品の特性が,従来の等価物と異ならないこ とを証明するために,提出されたデータを検 討する。 ・EFSAの見解は,欧州委員会,加盟国,申請者 に回付される。また見解は,機密事項を削除 した後に,市民に公開されなければならない。 iv)認可(第7条) ・EFSAの見解を受領して,3ヵ月以内に,欧州 委員会は,得られた情報を考慮して決定草案 を「フードチェーン・家畜衛生常設委員会」 (以下,コミッティー)に提出しなければな らない。決定草案とEFSAの見解との間に相