土壌汚染対策法と環境財務会計の展開 : 企業の土壌汚染対策の実態調査に基づいて
19
0
0
全文
(2) 130. (322). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). 点,課題,展望を考察し,それら環境会計情報. を経て投棄された化学物質が漏出し,地下水や. が財務会計に及ぼす影響について考える.. 土壌汚染の問題が表面化した.地域住民の健康 調査でも流産や死産の発生率が高いことが確認. 2.土壌汚染対策の国際的動向. され社会問題となった.小学校は一次閉鎖,住. 土壌汚染とは,人の活動によって排出された. 民の一部は強制疎開,一帯は立入禁止となり,. 有害物質により土壌が汚染された状態である.. 国家緊急災害区域に指定された1).. 工場などから排出された有害物質が地下に浸透. この事件を契機に1980年,米国環境保 Protection 護庁(Environmental. し土壌を汚染すれば,排出を停止した後も長期 間にわたり汚染が継続する.さらに汚染が地下. 水に及べば,地下水流に乗って広頓に広がる可 能性がある.土壌汚染は見えない場所で気付か. EPA)は「包括的環境対処・補償・責任法」 Environmental (Comprehensive Compensation,. and. Liability. Act:. Agency:. Response,. CERCLA. ぬうちに拡大してしまう特徴があり,人の健康. を制定した.その巨額な浄化費用に充てるた. を損なう可能性だけでなく土地の資産価値を下. めに信託基金が設立され,通称スーパーファ. 落させ,企業イメージを低下させるリスクも ある.このような土壌汚染に対して世界各国で. ンド法と呼ばれるようになった.その後1981 年の「シリコンバレー地下水汚染事件」を経. はどのような法規制が布かれ,それに対してど. て,. のような会計的な対応がなされてきたのだろう. 1986年にスーパーファンド法が修正・強 化されるとともに,世界に先駆けて「特定化. か.. 学物質の環境への排出量の把握等,及び管理 の改善の促進に関する法律」. 2.1米国におけるスーパーファンド法の制定 と環境負債認識の発展 アメリカ証券取引委員会(Securitiesand Exchange. Commission:. Release. and. Transfer. PRTR. (Pollutant. Register)法(米国では. 「有害化学物質排出目録」. TRI. (Toxics. Release. lnventory)法)が成立した.スーパーファン. SEC)は, 1971年に公 害問題の社会的関心の高まりから環境に対する. 際の信託基金の蔑模は16億ドル(約1800億. ルールを初めて採択し,その後局地的な公害問 題からグローバルな環境問題-と関心が広がる. 円), 1986年法では85億ドル(約9800億)に 増額された. 1991年以降更新されていないが,. とともに環境法を背景とした規制を強化し,環. 現在も存続している.米国のラブキヤナル事件. 境情報の開示規制が発展した.. と同時期,日本でも六価クロム事件が発生した. ド法は5年間の時限立法であり,. 1980年法の. ・この間,土壌 汚染対策に対する法規制も非常な発展を遂げ. が,地域的な対策にとどまり,国としての法律. た.土壌汚染対策及びその開示要求を強めた. 制定には至らなかった.日本では2002年に漸. 事件として「ラブキヤナル事件」がある.これ. く土壌汚染対策法が制定されたことから考える. は1978年にニューヨーク州ナイアガラ滝近く. と,米国よりも20年以上取り組みが遅れてい ると言える. (表1参照). のラブキヤナル運河で起きた有害化学物質によ る汚染事件で,化学合成会社が同運河に投棄し た農薬・除草剤などの廃棄物が原因物質であっ た.同社の廃棄物の中には,. BHC. (ベンゼン. ヘキサクロライド),ダイオキシン,トリクロ. ). スーパーファンド法の主な目的は有害物質 を投棄した場所の汚染除去であり,連邦政府 が有害物質投棄場所の分別を行い投棄の責任 者に対して汚染除去及び原状回復の費用を負. ロエチレン等の猛毒物質も含まれていた.その 後運河は埋め立てられ,土地は売却され,小学. 担する責任を問う.この法律はすべての除去. 校や住宅などが建設されたが,埋立後約30年. し, EPAは法令規則の採択や環境汚染が及ぼ. 費用に対して厳格責任(Strict. Liability)を課.
(3) 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田). (323). 131. 表1米国・日本の土壌汚染関連年表 米国. 六価クロム事件. 1975年. 1978年. 日本. ラブキヤナル事件 lLi==:垂与::::蔓音=芸. 1980年 1981年. シリコンバレー地下水汚染事件 修正スーパーファンド法制定. 1986年. 有害化学物質排出目録TRⅠ(PRTR)法制定 1991年. スーパーファンド法延長. 1996年. 経済協力会開発棟構(OECD),PRTR制度導入の勧告 環境汚染物質排出移動登録PRTR法制定. 1999年 2001年. 土壌環境基準を設定. 土壌汚染調査項目を含むⅠSO14015(環境サイトアセスメント)スタート. 2002年 環境省,土壌汚染対策法施行. 2003年. す影響の調査を行い,違反者に対して行政命令. 認会計士協会(American. や民事上の罰則を科すことにより環境保護法 (Environmental Protection Laws)の遵守を強. Public. 制する. EPAは各汚染サイトの浄化コストを 平均2,500万ドルと見積もっているが,最も深. Accountants:. lnstitute. of Certi丘ed. AICPA)は,環境負債. に関連した実務指針Statement (sop)4) 96-1 「環境改善負債」. of. Position. (1996年)を公. 刻な問題を抱えるサイトでは1億ドル以上に及. 表した. SOP96-1は,主に過去の活動から発 生した環境汚染に対する環境改善負債のための. ぶとみている2).. 会計指針を規定したものであり,これらの負債. このような環境コスト・環境負債に関する数 値は財務会計にも重要な影響を及ぼす.特に土 壌汚染浄化義務としての環境負債に対する会計 上の認識・測定・開示が重要な問題となり,企. はスーパーファンド法を始めとする環境法規制 に起因している.. 財務会計領域における環境会計に関して,ア. 業の財務会計制度もこれに対応しなければなら. メリカでは部分的にではあるが環境会計情報に 対する財務会計基準が制定され,企業の財政状. なくなった.つまり財務諸表の利用者が,期間. 態,経営成績,キャッシュフローに与える影響. にわたって企業の環境上のインパクトと財政. が反映されてきている.元来財務会計は外部利. 状態・経営成績・キャッシュフローとの関係を. 害関係者を対象とした概念フレームワークの中. 認識できる首尾一貫した基準の制定が必要とな. で行われてきたため,環境情報を取り込むため. り,環境財務会計基準の整備と制定が求めら. には既存のフレームワークの拡張が必要になる. れるようになったのである.このような状況の. かもしれない.しかし財務会計は正しい経済実 態を反映するための会計システムの基盤であ. 中,土壌汚染等に対処するための財務会計基準 として,. 1990年代にFASB緊急問題専門委員. 会(Emerdnglssues. Ta並Force:. 汚染処理費用の資本化」. EITF)3)は「環境 (1990年), 「環境負債. の会計」 (1993年)を公表,その後アメリカ公. り,環境会計情報を取り込む柔軟性を持ってい ると考える.このような財務会計領域における 環境会計の進展を見る上で,アメリカの動向は 注目される..
(4) 132. (324). 横浜国際社会科学研究 表2. 第11巻第2号(2006年8月). 海外における主な土壌汚染対策法. アメリカ. ・「包括的環境対処.補償.責任法」 (ComprehensiveEnvironmentalResponse,. ドイツ 「連邦土壌保護法」. 「新土壌保護法」. 「1995年環境保護法」. (TheEnVironmenta1. Compensation&Liab批yAc亡CERCLA). ・規制法. イギリス. オランダ. protectionAct1995). ・「スーパーファンド法修正.再授権法」. (SuperfundAmendmentsand革eauthorizationAct:SARA) ・CERCLA:1980年. 制定年次. 1999年. 1994年. 1995年. ・sARA:1986年 有害物質により汚染された土壌を浄化して. 10年近い議論の末,. 土壌線化について. 従来,大気,水,土壌. 人の健康と環境を保護する. 制定され,従来各. 規定した暫定土壌. を別々に鋭利していた. 州で行われてきた. 浄化法(1982年). ものを統一的.に規制. 土壌汚染対策が統. を改正し,汚染防. し,どの程度まで汚染. -化された(従来. 止の枠組を決めた. 物質の排出を容認しう. は「土壌保護法」. 土壌保護法(1986 年)と一本化した. るかを現実的視点に. もの. 年環境保護法」(汚染. 目的.経緯等. (州)と「循環経済 廃棄物法」(連邦). 立つて決定する「1990. 土地及び特定施設の登. で規制). 録の義務付け等を規. 定)を基本に新しい制 度を創設 【. ・汚染されたサイトの現在の所有者または 使用者. 責任当事者の 範囲(浄化義 務者). ・汚染原因物質がサイトに処分された当時 の所有者または使用者 ・汚染の原因となつた有害物質の排出者 ・当該サイトで\の汚染原因物質の輸送を手. 醍.した者(汚染発生企業に融資した金融 機関も責任当事者となつた判例もあり). その他. ・汚染者. ・汚染者. ・土地所有者.管. ・土地所有者.管. を引き起こした者と. 理者(披令を遵. 理者(浅令を. 知りながら許可を与. ・汚染者(実際に汚染. 守しなかつた. 遵守しなかつた. えた者を含む). 輸送業者も責任 当事者となりう. 輸送業者も責任. ・土地所有者,占有者. る). る). ・遡及責任が適用される(法制定以前の行 為による汚染発生にも効力が及ぶ). ・浄イヒに関して連. ・連帯責任. ・ス∴パーフアン. 当事者となりう. 帯責任を負う ド法との差は遡 及責任が適用さ れない点. (東京海上火災保険株式会社編『環境リスクと環境法:米国編,欧州・国際編』 を参考にして作成). (有斐圃),及び住友信託銀行CAFE_NEWBUSINESS. このようにアメリカにおいて環境財務会計が 発展してきた背景には,スーパーファンド法の. のか,次章以降で考察する.. 制定とそれに伴う企業の多額の負債認識があ. 2.2. り,アメリカの多くの企業が財務諸表上に土壌. 欧州における土壌汚染対策. 土壌汚染対策では,米国が世界の最先端と言. 汚染に関する環境修復負債を計上している.こ. えるが,ドイツ,オランダ,イタリア,イギリ. れらを踏まえた上で,日本の土壌汚染対策法の 制定と,その後の実態はどのようになっている. スなど欧州でも早くから研究開発が進められて きた.ヨーロッパでは地理的に面積が狭く工業.
(5) 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田). (325). 133. 密度が高いため,何らかの処理をせざるを待な. と,明らかな健康被害を生じさせにくいこと等. 1980年代に入り,ヨーロッ. パの先進国からの廃棄物がアフリカの開発途. から,判明することは少なかった.長く地中に 蓄積し潜在する問題であるため,土地開発で発. 上国に放置され,環境汚染問題が発生した.経. 覚するか井戸で検出されない限り,その存在は. 済協力開発機構(OECD)及び国連環境計画. わからなかった.. い状況にあった.. (UNEP)で検討が行われ,. 日本の土壌汚染の歴史をたどると,明治10. 1989年スイスのバー ゼルにおいて一定の廃棄物の国境を越える移動. 年ごろ,渡良瀬川流域の足尾銅山から銅によ. 等の規制に対して国際的な枠組み及び手続等を. る水田の汚染である鉱毒事件が発生し,その. 規定した「有害廃棄物の国境を越える移動及び. 後1967年に神通川流域のカドミウムによる米. その処分の規制に関するバーゼル条約」が作成. の汚染(イタイイタイ病)が発生した.これら 1960年代までの土壌汚染は,主として重金属. された5).. 1990年代半ばからはドイツ,オランダ,イ ギリスなどの各国においても,土壌汚染対策の. による農用地の汚染であり,収穫量の低下や農 作物の摂取による健康被害が問題となった.こ. ための土壌保護法等が制定された.. れらの経緯から1970年に「農用地の土壌汚染. (表2参照). ヨーロッパの土壌汚染対策はアメリカのような 埋め立てを主とするのではなく,何らかの浄化. 等に関する法律」が制定された.しかし近年問. 処理をするものであり,それを導くために強力. る土壌汚染であり,これに関しては前章でも触. な法制度をつくっている.これはアメリカ型の,. れたように1975年に東京の江東区と江戸川区. 経済活動の中でバランスよく吸収しようと考え. で,鉱淳の六価クロム事件が発生し土壌汚染が. るのではなく,あるべき形に法制度をつくって. 社会問題化したが,国として法律を制定するに. 強引に引っ張っていくやり方である.. は至らなかった.. 題化してきたのは農用地ではなく市街地におけ. 日本は,戦後一貫してアメリカ型の経済シス 2.3. 日本における土壌汚染対策. テムを導入してきたが,国土の狭さなど地理的. 日本では1970年代,公害対策として大気汚. な状況はヨーロッパに似ている.したがって有. 染・水質汚染に関しては技術革新と共に法規制. 害廃棄物処理の体制はヨーロッパ型が適してい. が行われたが,土壌・地下水汚染に関しては,. るように思える.しかし日本では農用地を除い. 対策を講じるだけで法規制には至らなかった. 公害として扱われてきた環境媒体の大気・水は. て,土壌保護のための法整備はされてこなかっ た.欧州のバーゼル条約批准による有害項目増. 公共財であるが,同じく環境媒体である土壌は,. 加は処理体制の確立より先に行われた経緯があ. 土地として使用する場合には値段のつく私財で. るが,日本では法規制の前に有害廃棄物の処理. もある.公害は公法で規定できるが,私有地の. 方法を確立しておかねばならないと考えた.日. 汚染は民法上の解釈も加味した上で制度を確立. 本には高度な化学技術やプラントカがあり,そ. しなければならない6).従って日本における典. れらを生かした廃棄物処理のあり方を多方面か. 型7公害-一大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,. ら考え,策を講ずるべきである.これらの現状. 騒音,振動,地盤沈下,悪臭--は1960年代. を踏まえ,次章では日本における土壌汚染対策. より問題にされていたが,このうち土壌汚染だ. 法の制定と,その現状について考察する.. けは具体的な法規制が行われてこなかった.土 3.日本の土壌汚染対策法の制定. 壌汚染は,高度経済成長期を中心に比較的古く から発生していたものと考えられるが,局所的 に発生すること,外観からは発見が困難なこ. 3.. 1土壌汚染対策法制定の背景 2章で述べたように,アメリカでは日本の.
(6) 134. 横浜国際社会科学研究. (326). 第11巻第2号(2006年8月). 六価クロム事件直後あたりから土壌汚染対策. 米国のスーパーファンド法の最大の特徴は,. が進められスーパーファンド法が制定された. 有害・危険物質問題に対する政府の迅速かつ責. が,日本はアメリカに比べて20年以上遅れて. 任ある対応及び厳しい責任追及主義にあり,責. しまった. て,. (表1参照)法制定以前の経緯とし. 1991年に人の健康を保護し,生活環境を. 任当事者には製造業者や融資金融機関なども含 まれる.またスーパーファンド法の浄化費用は. 保全する目的で土壌汚染環境基準が設定され,. 1件2,000万ドルから3,000万ドルと巨額であ. これにより評価基準ができた.さらに1994年. るため,リスク回避の支払い保険料が経営を圧 迫し,結果として汚染可能性の高い土地の再開. に調査・対策に関する指針を策定し,. 1999年. に指針の改正を行った.しかしこれは調査・対 策時のガイドライン的なものであり,法的拘束. 発が滞る等の弊害を生み出した.日本の土壌汚. 力を持つものではない.土壌汚染は法律にする. 土地利用状況に応じた浄化の発動要件及び個々. には難しい問題があるため,そのような指導の 形で対策が進められてきたのである.しかしこ. に設定された対策目標に基づいた浄化発動基準. 染対策法の制定においてはこの教訓を生かし,. となっている.. の頃から土壌汚染判明事例数が増加の一途をた どり,社会問題としてクローズアップされるよ. 3. 2. うになった.その背景には企業の工場跡地の再. 3.2.1. 開発による住宅地への売却,工場周辺の都市化. 土壌汚染対策法の概要 目. 的. 土壌汚染対策法の目的は,汚染土壊の把握と. 工場の増改築や閉鎖等により,重金属・揮発性. 措置による人の健康被害の防止である.土壌汚. 有機化合物等による土壌汚染が顕在化したこと. 染には人の健康に対する影響や生活環境-の影. などがある.これらの有機化合物による土壌汚. 響などいろいろな側面があり,実際に汚染が見. 染は放置すれば人の健康被害への影響が懸念さ. つかって対策を講ずる際,健康被害だけでは済 まないことが多いが,法律上の義務としての範. れる他,土地取引のトラブルや土地活用を阻害 する恐れもあり,指導指針だけではなく統一し. 囲は人の健康被害の防止に限定している.つま. た明確なルールの必要性が認識され,土壌汚染. り土壌汚染の状況の把握及びその汚染による人. 対策法の確立-の社会的要請が高まった.また. の健康被害の防止に関する措置を定めることに より土壌汚染対策の実施を図り,国民の健康を. 国際的な動向としても1996年,. OECDが加盟. 国に対してPRTR制度の導入を勧告した.こ れを受けて日本では1999年にPRTR法が制定 され, 2001年に施行された.また2001年6月. には環境国際規格ISO14015. (環境サイトアセ. 保護するものである. また土壌汚染対策は,汚染の未然防止と,既 に発生した汚染の浄化対策に大別されるが,本 法は既に発生した汚染について,その状況の把. スメント)が始まり,土地売買などに関連して 汚染の有無を調査する企画が導入され,土壌汚. 握・除去等の措置を行う事後的な対策を講ずる. 染の修復は内外の環境変化から要請される課題. 場が土壌汚染の有無が不明のまま放置され,住. となった.こうした状況を踏まえ,環境省では. 宅・公園など不特定多数の人が立ち入る土地と. 国民の安全と安心の確保を図るため,土壌汚染. して利用されるような場合に懸念される人の健. の状況の把捉,及び土壌汚染による人の健康被 害の防止に関する措置等の対策を実施すること. 康への悪影響を防ぐことを目的としている.そ. ものである.例えば,有害物質を扱っていた工. を内容とした日本版スーパーファンド法である. のような有害物質を取り扱う施設など汚染の可 能性の高い土地について調査を実施し,その結. 「土壌汚染対策法」を2002年5月に成立・公布,. 果土壌汚染が判明し人の健康被害が生ずる恐れ. 2003年2月に施行した.. のある場合には,必要な措置を講ずること等を.
(7) 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田) 表3. (327). 135. 土壌汚染対策による特定有害物質の基準 土壌汚染対策法指定基準 土壌ガス 土壌含有量基準. 区分. 特定有害物質. 土壌溶出量基準. (直接摂取によるリスク) mg/1. mg/kg. ジクロロメタン. 揮発性有機化合物. 四塩化炭素. 0.002. 0.1. 1,2-ジタロロエタン. 0.004. 0.1. 1,1-ジクロロエチレン. 0.02. 0.1. cis-1,2-ジクロロエチレン. 0.04. 0.1. 1. 0.1. 1,1,2-トリクロロエタン. 0.006. 0.1. トリクロロエチレン. 0.03. 0.1. テトラクロロエチレン. 0.01. 0ユ. 0.01. 0.05. 0.002. 0.1. 1,3-ジクロ占プロペン カドミウム. (第2種特定有害物質). 150. 0.01. 鉛. 150. 0.01. 六価クロム. 250. 0.05. 批素. 150. 0.01. 15. 0.0005. 籍水銀. アルキル水銀. 検出されないこと. セレン. 150. 0.01. フッ素. 4000. 0.8. ホウ素. 4000. ■】. シアン. 50(遊離シアンとして). 検出されないこと. チラウム. 虞薬等. Vo1/ppm 0.1. ベンゼン. 重金属類. 検出下限. 0.02. 1,1,1-トリクロロエタン. (第1種特定有害物質). (地下水の摂取によるリスク). 検出されないこと. シマジン. 0.006. チオペンカルブ. 0.003. (_第3種特定有害物質) 有機リン. 0.02. PCB. 検出されないこと. (「環境研究センター環境事業部土壌・地下水汚染にかかわる特定有害物質の調査・対策」. www.erc-net.com/kankyou/06.血tmlを. 参考に作成). 定めている. 3.2.2. 特定有害物質. 本法は健康被害を対象としており,本法の対. スク(直接摂取によるリスク), (2)特定有害物 質が含まれる汚染土壌からの溶出に起因する汚 染地下水等の摂取によるリスク(地下水等の摂. 象となる物質(特定有害物質)は,土壌に含ま. 取によるリスク)の2種類のリスクから選定さ. れることに起因して健康被害を生ずるおそれが あるものとして,表3のように26項目が政令. れている.. で定められている.これらは, (1)特定有害物 質を含む汚染土壌を直接摂取することによるリ. 属類であり,表3の土壌含有量基準項目を対象. (1)は人が直接摂取する可能性のあ. る土壌の表層に高濃度の状態で蓄積し得る重金 物質としている.この被害例としては,粉塵と.
(8) 136. (328). 横浜国際社会科学研究 表4. 第11巻第2号(2006年8月). 特定有害物質ごとに行うべき調査. 壬岩=二王一言至整雲璽:堅塁嚢:rp,xr!ー:′.弓=書芸i::塁墾喜璽:萱TH%T3:蔓璽′喜 lこ琴∼=.:≡:こ≡三言lミ空<:塁写ノ塁塁ヒ .:歪歪宅:歪;壷;墓蓋i=y{毒f,+i;;{壬. 1:p宕 :i.{<lL萱(1:.. 賢歪,..港. :i::{1:さ≡;:■L}). ○. 揮発性有機化合物. 特定有害物 (土壌ガス室調壷で. (第1種特定有害物質). ○. 質が検出さ れた 場合). 重金属類 ○.. ○. (第2種特定有害物質) 虞薬等. ○. (第3種特定有害物質) (出所:大原研材株式会社土壌汚染状況調査の計画・実施土壌汚染調査状況). して舞い上がってくるもの,手について手から. 調査は調査依頼者と利害関係のない環境省指. 口に入るもの,皮膚について皮膚から入るもの などがある. (2)は地下水等の摂取の観点から. 定の「指定調査機関」が実施する必要がある.. 定められた土壌溶出基準項目を対象物質として. のようになる.. 表3の特定有害物質ごとに行うべき調査は表4. おり,表3の26項目すべてについて基準が定 められている.この被害例としては,地下水を. 3. 4. 指定区域の指定及びリスク低減措置. 土壌汚染調査の結果,特定有害物質が基準値. 飲用に供している場合等がある.. を超過して認められた場合,都道府県などが環 3. 3. 境基準に適合しない土地を指定区域に登録し,. 土壌汚染状況の調査. 基本的に土壌汚染は地下の汚染であり調査を. 台帳を作成し公開する.指定区域台帳には,指. しないと存在がわからないので,まず調査から (図1参照)土壌汚染の状況を スタートする.. 定区域の所在地,特定有害物質の含有量・溶出. 把握するため,汚染の可能性のある土地につい. の実施状況等が記載される.. 量などの土壌汚染の状態,汚染の除去等の措置. て,一定の契機を捉えて調査を行う.調査の契. 汚染のリスク低減措置としては,土壌汚染の. 機は, (1)特定有害物質を使用していた施設・. 浄化措置に限らず,土壌汚染から人への特定有. 工場・事業所等を廃止する場合,. (2)工場跡地. 害物質の経路の遮断による措置を認めている.. などで土壌汚染の恐れが高く人の健康に被害を. (図1参照)具体的には土壌の直接摂取に係る. 及ぼす可能性があり,都道府県知事の調査命令. 措置として,立入禁止,盛土,舗装,浄化等,. による場合がある.調査の実施主体は土地の状 態に責任があり,土地の掘削等の調査を行う権. また地下水経由の健康影響に係る措置として, 地下水汚染がある場合には封じ込め・浄化等,. 限を有する土地所有者(借地人,管財人もあり. 地下水汚染がない場合には地下水モニタリング. うる)である.つまり原則その土地の所有者が. 等を行うことになる.なお,汚染除去等を行っ. 汚染の状況を調査し,その結果を都道府県知事. て完全に汚染がなくなれば指定区域解除となる. に報告をするという義務が生じる.ただし汚 染除去は汚染原因者が行うのが原則となってい. が,除去以外の措置(封じ込め,盛土・舗装等). る.措置命令を受けて土地所有者が汚染除去等. る特定有害物質が存在していることに変わりは. の措置を講じたときは,これに要した費用を汚 染原因者に対して請求できる.. ないので,指定区域の指定は解除されない.. が行われた場合は,土壌中に一定の基準を超え. 土壌汚染対策法制定以前,土壌汚染対策が進.
(9) (329). 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田). (出所:飛鳥建設. 土壌環境ソリューション. 137. www・.tobisbima.co.jp/solution/soil/soiし02.btml). 図1土壌汚染対策法の概要. んでこなかった理由は,土壌汚染の実態がわか らず,水面下に潜っていた事例が多かったため. 4.土壌汚染対策法に対する各企業の対応. である.しかし法の制定によって土壌汚染対策 に対するルールが明確になり,調査・浄化の推. 土壌汚染対策法が施行されて約3年が経過す るが,それに対する企業の対応は着実に推進さ. 進と土壌汚染に対する社会的な認識が深まり,. れてきているのだろうか.土壌汚染調査・対策. 近来非常に多くの事例が顕在化してきた.この. 事業で構成される社団法人土壌環境センター. ように法の制定・施行によって土壌汚染対策に. は,土壌汚染対策法施行前の2002年と同法施. 対する認識が高まり推進されるようになってき. 行後の2003年及び2004年における土壌汚染. たが,それによって会計的な認識・測定・開示. 調査・対策事業の受注件数,受注高等の実績. という課題も起こってくる.次章では,土壌汚. について統計をまとめた.. 染対策法に対する企業の対応を調査し,その結 果を分・析すると共に,その会計的な対応の実態. よると,法施行前2002年の受注件数3A24件, 受注高553億円,法施行後2003年の受注件数. と今後の課題・方向性を考察する.. 5J78件,受注高Z星虹匿円, 2004年の受注件数. (図2参照)それに. 8349件,受注高935億円となっており,法施 行後,受注件数,受注高とも顕著に増加してい.
(10) 138. (330). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). 受注高の推移. 受注件数の推移 (H16年度受注件数8,. 349件). (H16年鹿受注高935億円). 〔契機別受注件数〕 (出所:社団法人土壌環境センター土壌環境ニュース43号「土壌汚染状況調査・対策」に関する ) 実態調査結果(平成16年度). 図2. 土壌汚染調査・対策に関する実態調査結果. る.. また日本経済新聞(2005年7月5日付朝刊). 数の3年間の推移を見ると, 2000年塾造型,. 2001年堕基盤,. 「PRTR」は2000年4;坦_盟,. 「法規制遵守」は 2002年94ヱ艶,. では,企業が環境汚染対策を急ぎ始めたことを 報じている.新日本石油など石油大手が給油所. 2002年zzi圭旦(ただし製造業のみでは里⊇旦艶). の土壌汚染調査に着手したほか,土壌汚染隠蔽. と顕著に増加している8).この結果により,各. で社長交代に追い込まれた三菱地所はコンプラ. 種環境法に対する企業の取組みが推進され,さ. イアンス(注令順守)体制の再構築を表明し,. らにそれを開示することの必要性が認識され. 出光興産は1200店の土地履歴や地下水経路の. てきていることがわかる.この流れを受けて,. 調査を終了した.また同新聞(2005年8月1. 2003年の土壌汚染対策法施行に伴い,土壌汚 染対策情報も徐々に開示されるようになってき. 日付朝刊)では,清水建設が土壌汚染対策事業. 2001年壁遇_盟,. を強化し,約10億円を投資し重金属や抽で汚. ている.そこで,その開示内容及び会計的な認. れた土壌を浄化するプラントを増設することを. 識の現状についての調査を試みた.. 報じている.このように土壌汚染対策法施行に より,各企業はその対応を行うようになってき たが,その実態はどのようなものなのか,また. 4.. 1土壌汚染対策情報開示に関する調査 (1)調査日的・・・本調査は,土壌汚染対策法施行. それに対する情報を環境報告書7)などに適切に. に伴う各企業の対応の実態と開示状況,さら. 開示し,さらに会計的な認識はされているのだ. に会計的な認識の状況を把握し,その結果を. ろうか.. 明らかにするものである.. 企業が環境法規制に対応し,環境報告書等. (2)調査対象・範囲-日経産業新聞が2005年. に開示するという動きは,近年急速に発展して 2000 きた.横浜国立大学生態会計研究室では,. 8月から11月に実施した第9回「企業の環 境経営度調査」の上位にランキングし土壌汚. 年度から3年間にわたって環境報告書の内容の. 染にも対応している企業を業種ごとにピック. 調査を行ったが,その調査項目の中に「法規. アップし,各企業の2005年の環境報告書, 財務諸表(貸借対照表,損益計算書,及び注. 制遵守」 「pRTR」がある.それらの開示企業.
(11) 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田) 表5. 開示項目区分 業種. 大成建設. A土壌汚染対. B汚染調査結. 策方針. 莱.対策. C会計数値. <E<壬/I. 建設. アイカ工業. 化学. エスエス製薬. 化学. 重言古≡こ芳.. ・.ip=醤蓋葱遠謀輩整笹召塗叢整蛋塁. L-一当量一三警-_\委、.A,.墾,盲.-≡.a.,-... 化学. ユニチャーム. 化学. 新日本石油. 石油. 1.虫壷>\. y、雲.蛋LL-J'1(L''..-.1墜;.>f' :LY. 濫:t>". 壬■. 小t>:i. `.y'/. ー\;し=整<ー■p.1. 覆審一心、、一=rー<JJt,;望三一審葺.'宰1. ・■盈弓:I ::x<. Lt>;虫. フW.. 宇 <. 石油. ≡.こL.蛋. .i.容蓄≡. 電気機器. :¢ーV/.. ミ漂1. p象L∃1.≒粟三.__.-I_<p冠i_.L',王き=__. ・.J竃_蓋_._.窪≧妄萱霧m_. ・■.m. 童謡聾 塁:W'. 七尾一浩-A. q/ 、m .琵′1..髭三J. キヤノン. 寺ヾーl:′、.ーJ丁髪:x<Lー悪棄岩?\露悪慧歪. H<>. ・■ 藍モ整≡.". 鷲3' 璽喜■ー1' ■P、享重賓塁:1′lr喜:I-A;.1■P■警董葦 'ー#ン卓..,,l菅き寸々.L;.讃至芸∃;害磁y{_A.L'. A/^わ__仏^≡卓_.人こ/.._令_/i. 電気機器. ソニー. 挺. #1=〉.醤...... +. 富士フイルム. 松下電器産業. E保険商品. A.竜三.蛋.:. ・撃 ◆亘L. <∃≡】}jn'JJ:.茄】卜.冒. 清水建設. D土壌浄化事業. 主pX'*≡普L. 建設. 出光興産. 139. 環境報告書による土壌汚染対策情幸剛こ関する開示内容の分類. 調査対象企業 企業名. (331). ・三春. 電気機器. 竃 .1塁、〉 ー t1<侶.. リコー. ・/.冒.蛮Wy./}d_..L. ..x盗. 電気機器. 毒等J■J■L. 蟹蓋 ・1■馨:雲霞墓萱. 輸送用機器. ・H産 トヨタ. 輸送用機器. i,:㌔.響,.ー<.J奄1還. ;I.p尖._.取さー_≠/._衣_.i._;、芸:?^if≡曳.≡葉栗塁:蔭_.i_≡惑_._. 凸版印刷. その他製造. 西友. 商業. 損保ジャパン. 保険. 三菱地所. 不動産. NTTドコモ. 情報.通信 合計. 19社】. ・y;J、./#∃JPy>. +ン:. ■L<卜-..蛋.<買.a:≡... a;#. ・㌻<\.要一;蕃ゝ... # 義.. 普. ・ー、.昏ー.l還塁l..箸. ・tLp===:;架窪雲,<;\≡粟塵巨-mL.,&S萎 窯蟹蛋∃1i-.;ー〇. #. 1.′≡窒 雷.害Ji.毒.琵 _.1護■.a:雷雲′+.桜審三 ′霧こ責l1. l10社.I. I. 13 社. 3社l. 3社l. 1社. 嚢雲要は開示項目を示す. 記)を対象にその開示内容を調査した.土壌. 査の対象となる土壌汚染対策情報を内容別に. 汚染対策法では有害物質を取り扱っている工. 分・類して各企業の開示内容を分析し,さらに. 場等が調査対象であるが,土壌汚染はそれ以. 環境報告書における会計的な数値の公表状況. 外にもさまざまな業種に対して直接的,間接 的に影響を及ぼす.製造業は汚染原因者にな. の考察と,他の調査結果も参考にして財務諸 表における土壌汚染対策情報の計上・開示状. る可能性,不動産業はマンション用地が汚染. 況の調査・分析-と展開した.. されている可能性,金融業は不動産担保に影 響がある可能性,保険業は土壌汚染リスクに. 4.2. 対する保険商品の提供,など広範囲の影響が. 4.2.. 考えられる.従って製造業のみならず,さま ざまな業種の環境報告書を調査対象とした. (3)調査方法-環境報告書において土壌汚染対. 調査結果 1環境報告書における調査結果. 表5は,今回の調査対象企業が環境報告書に おいて開示している土壌汚染対策情報を,内容 別に分類したものである.調査対象企業は比較. 策情報の項目内容について調査し,土壌汚染. 的土壌汚染対策が行われ,環境報告書において. 対策及びその関連項目を抜き出した.内容に. も適切に公表している企業である.しかしこれ. ついて不明な点・疑問点は直接または電話で 聞き取り調査を行い確認を取った.そして調. らの条件を満たす企業自体現時点ではまだ少数 であり,土壌汚染対策に関する開示及びその内.
(12) 140. (332). 横浜国際社会科学研究. 表6. ソニーの土壌汚染調査結果・対策. 確認時期. サイト名. 2005年4月. ソニー㈱. 横浜リサーチセンター(日本). ソニー羽田㈱(日本). 第11巻第2号(2006年8月). (土壌汚染対策法に もとづく調査). 2004年9月 (土壌汚染対策法お よび東京都条例に. もとづく調査). 検出物質. 対策. 原因. フッ素 鉛 セレン. 一部埋設配管からの 漏洩. 汚染拡散防止計画の策定後, 対策実施予定. 過去に物質を使用し. 2005年7月より地下水の汲み. ていた場所での漏洩. 上げを実施予定. ヒ素 フッ素. ホウ素 鉛. トリクロロエチレン. ・排水系統に漏洩検出セン ソニーイ-エムシーエス㈱. 2001年6月. 稲沢テック(日本). (自主調査). 排水系競セの亀裂に. フッ素. よる漏洩. サー付き二軍配管を設置 ・地下水浄化とモニタ_リング を継続中.汚染濃度は最大 時58mg/1-から2mg/1以下 まで改善. ・土壌改良を完了 ソニー.マグネティツク. プロダクツ. ド-サン工場(アメ リカ). (出所:ソニー株式会社CSR. 1990年 (自主調査). 過去に物質を使用し 有機溶剤. ていた場所での汚染. (特定できず). ・地下水を汲み上げ,曝気処 理後ド-サン市の汚水処理 施設へ搬送,汚染濃度はモ. ニタリングを要しないレベ ルにまで改善. (企業の社会的責任)レポート2005年3月期70頁). 容については途上段階にあると言える.本調査. まり当期のみの費用なのか債務なのか,また. でB自社の土壌汚染に対する調査結果・対策. 債務に対してはアメリカのように負債計上する. を公表している企業は,製造業の化学,電気機. のか引当金計上するのか,将来発生する可能性. 器などPRTR法や土壌汚染対策法の影響を受 けやすく,土壌汚染対策のために投入された経. のあるものを偶発債務として開示するのか,な どの点については今後の検討課題になるであろ. 済的資源が大きく,今後も増加が予想される企. う.このように環境報告書における土壌汚染対. 業と言える.またB自社の土壌汚染の調査結. 策の開示内容は,. 果・対策を公表している企業の中でも開示内容. B汚染状況の調査結果・対策が主流であるが,. は様々であり,ユニ・チャーム(化学)のよう. 清水建設(建設),新日本石油,出光興産(以. に"土壌汚染は発生していません''と1行だけ. 上石油)ではその業種柄,. のものから,ソニー,キヤノン,リコー(以上 電気機器)のように土壌汚染調査結果・対策な. 業を詳細に述べており,損保ジャパン(保険). どの状況を表にして詳細に述べているものまで. いての記述内容になっている.また不動産など 土壌汚染が土地取引や価格のリスクに影響する. ある.. (表6参照)このように開示企業であっ. では,. A企業の土壌汚染対策方針,. D自社の土壌汚染事. E土壌汚染対策費に対する保険商品につ. ても,開示レベルには大きな差がある.さら. 業種では,調査の実施については記載している. に注目すべきは,リコー(電気機器),新日本. が,三菱地所の聞き取り調査によると"製造業. 石油,出光興産(以上石油)は,. C土壌汚染調 査・浄化に対する会計数値までを公表している. 等と違って直接の汚染者ではないので,調査費. ことである.これらの数値は企業の財務諸表の 中にも入り込み,今後企業の財政状態,経営成. にはいたらない"ということであった.ただし 三菱地所に限って言えば,大阪アメニティパー. 績・キャッシュフローを判断する上でも影響を. ク(OAP)の土壌・地下水問題の発生に伴い,. 及ぼしうる.従ってその会計的な認識方法,つ. その経緯を公表し対策を記載している.. 用のみで浄化費用は発生せず,会計数億の公表.
(13) 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田). 2003年の土壌汚染対策法施行以降,. 2004年,. 2005年と土壌汚染対策情報に関する開示企業. ・. 果・対策を記述している企業であっても,. C会 計数値まで公表している企業は,本調査では新 日本石油,出光興産(以上石油)tリコー(電 気機器)の3社のみである.その理由として重. 141. (9)不動産取引における粧症担保責任について. 数は徐々に増加しているが,全体から見るとま だ少数である.またB土壌汚染対策の調査結. (333). ・. ・(略)・. ・. ・当社では,平成14年3月にマンショ. ン用地として売却した土地について,買主によるマン ション建設工事の過程で当該土地の一部に地中埋設物が. 存在し土壌が汚染されている事実が判明し,前連結会計 年度に当該土地売買契約を解約するとともに,土地改良. 費,損害賠償等を特別損失として計上しております.. -. 要性の原則が挙げられる.キヤノンでの聞き取 り調査によると,. ``SEC基準(米国基準)では 売上高の10%未満の場合は独立した項目とし て開示することを要求していないので,この基. (出所: 2004年東急電鉄有価証券報告書第2事業の状況 4.事業のリスク20頁). 図3. 準を適用し土壌汚染に関する金額の公表はして. 東急電鉄有価証券報告書における土壌汚染 対策費の記述. いない''ということであった9).この場合,財 務諸表においても独立した勘定科目としては計 上せず,いくつかの項目を給合した勘定科目の. 費用,浄化費用,損害賠償などが考えられる.. 中に含めていると考えられる.そこで次に,土. 東京・大阪・名古屋証券取引所第1部上場. 壌汚染対策関連費の財務諸表における開示状況 についての調査を行った. 財務諸表における調査結果. 4.2.2. 財務諸表において,多くの企業は土壌汚染対. 1,645社の2005年財務諸表における土壌汚染 対策に関連する項目の開示企業数の調査結果10) によると,財務諸表上の勘定科目名として土壌 汚染対策費関連とわかるものを使用している企. 策費として独立した勘定科目は使用せず,特. 業は9社であった.表8は貸借対照表及び損益. 別損失等の勘定科目の中に包含して計上してい. 計算書に計上されている勘定科目名を示したも. る.例えば,東急電鉄の2005年3月期の有価. のである.. 証券報告書第2事業の状況の記述を抜き出す と図3のようになっており,財務諸表では特別. 2001年の同様の調査では,財務諸 表の勘定科目名として「土壌汚染」を使用して. 損失という勘定科目の中に他の項目と総合して. いる企業はなかったが, 2003年に土壌汚染対 策法が施行されたことにより各企業の土壌汚染. 計上していることがわかる.この場合,注記に. 対策が推進され,財務諸表にもその影響が表れ. 記述がない限り土壌汚染対策費独自の金額は認 識できない.これも重要性の観点から,特別損. てきたと考えられる.法を遵守するために土壌 汚染対策に取り組み,その結果それに対する会. 失全体の10%未満なので独立計上が要求され. 計数億が発生し,新たな環境会計情報の勘定科. ていないためと思われる.しかし一部の企業で. 目として財務諸表に計上されてきた.しかし財. は,財務諸表上の勘定科目として土壌汚染対策 費を計上しているものも見受けられる.表7は. 務諸表において,独立した勘定科目として土壌. 凸版印刷の2005年3月期連結損益計算書の抜. のは,今のところまだ金額の割合が低く,重要 性の原則に合致しないためと考えられる11),. 粋である.特別損失の内訳の項目の1つに「4 土壌汚染対策費用」があり,. 2004年3月期まで. は計上されていなかったが,. 2005年3月期に新. たに1,276百万円の計上がなされた事がわかる. この土壌汚染対策費用の具体的な内容は,調査. 汚染対策関連費を計上している企業数が少ない. 4.3. 調査結果の考察. 本章では,土壌汚染対策法施行後の日本企業 の対応とその開示状況の実態調査を行ったが,. ・.
(14) 142. (334). 横浜国際社会科学研究 表7. 第11巻第2号(2006年8月). 凸版印刷. 連結損益計算書の抜粋. 前連結会計年度. 当連結会計年軍. (自平成15年4月1日 至平成16年3月31日) 区分. (自平成16年4月1日 至平成17年3月31日). 金額. 百分比. 金額. 百分比. (百万円). (%). (百万円). (%). (途中省略). Ⅶ特別損失 3,024. 1固定資産除売却損. 4,097 8,439. 2減損損失 3,259. L3投資有価証券評価損 i1:方:::司:「:i<「弓l:::応l>i{l:有hT,メ元丁:衣.:px.>LppX./}:.:pヨ.:ph,:{<,,:.lpX.ンFx.i.:示..○.p^.方「{<.「pH.冗,<ン:、.".I.、.′. 5会員権等評価損 6投資有価証券売却損. 墨壷≡ 129. 693. 24. 77. 7関係会社事業整理損失. 864. 8事業拠点統合費用. 450. 9特別退職金. 531. (出所:凸版印刷株式会社 55頁). 表8. 貸借対照表. 2005年3月期. 1,505. 8,286. 有価証券報告書. 第5. 0.7. 16,090. 【経理の状況】1 【連結財務諸表等】② 【連結損益計算書】. 財務諸表における土壌汚染対策関連項目の計上実態(2005年調査). 固定負債. 土壌汚染処理損失引当金. 2. 土壌調査費用. 1. 土壌浄化費用. 1. 土壌汚染処理損失引当金戻入額. 1. 土壌汚染処理損失. 1. 土壌汚染処理損失引当金繰入額. 1. 土壌処理費用. 1. 土壌汚染処理対策費. 1. 営業外費用. 特別利益. 損益計算書. 特別損失. (出所二小川智彦「財務報告書における環境会計情報の開示」. 1.1. 『環境会計A-Z』. 64-65頁を基に作成).
(15) 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田). (335). 143. 開示企業数,開示情報の質・量などはまだ途上 (略). 段階にある.今後さらに環境報告書の有効性を. 米国のスーパーファンド法により,. IBMは過去に廃棄. 高めるためには,特定企業の時系列比較及び企. 処分を委託した取引先の処分場の浄化活動にも関わって. 業間比較が可能なことが要求され,そのために. います,スーパーファンド法とは,たとえ当時は技術的. はある程度統一された公表のフレームワークを. にも法的にも容認されていた行為であっても当時に遡っ. 工夫する必要がある.これらを踏まえた上で, 今後より有効な情報を開示するために必要と思 われる方向性と課題を見出すために,土壌汚 染対策に関して先駆的な米国に本社を置きスー パーファンド法も適用しているIBMの環境報 告書の,土壌汚染に関する開示を分析してみた いと思う. アメリカ企業にとって環境報告書の公表は 1990年代初めから法律によって強制されるよ うになってきたが,その中で開示されている環 境コスト関連の情報の多くは土壌汚染の修復 コストに関する記述である.. 「IBMコーポレー. ト・.レスポンシビリティー・レポート2005」 の``our. world持続可能な地球環境へのコミッ 1ペー トメンドの浄化というセクションで,. ジにわたってスーパーファンド法に基づく土壌 汚染の数や浄化の状況,土壌汚染の浄化活動の 概要,修復費用の会計処理などについて述べて. て責任を追及し,そうした処分場に廃棄物を委託した企 業に対して浄化費用の分担を義務付けるものです.. 2003年末現在,. IBMは104カ所で浄化責任の可能性の. ある旨の通知を連邦政府,州,あるいは民間当事者から 受けています.これらのうち55カ所は,米国の「国家優 先リスト(National. Priority. その104カ所のほとんどは,. List)」に掲げられています. IBMに全く責任がないと判. 断しているか,あるいはすでに解決済みです,結果とし て,. IBMとして今後の対策が必要であると考えているの. は,現在,わずか14カ所のみとなっています.. (略) IBMの事業所や事業所外の施設で調査や浄化が確実と なり,その費用を合理的に見積もることが可能になった. 時点で,環境引当金として計上しています.化学物質貯 蔵施設の撤去や修復などの閉鎖活動に関する費用の見積 もりは,施設閉鎖の決定がなされた時点で引当計上され ます. IBM全体のこの引当計上金額は,. 2003年12月31. 日の時点で2億4,300万ドル(約255億円)です.. (出所:IBMコーポレート・レスポンシビリティー・レポー ト200575頁より抜粋). 図4. いる.図4はその一部抜粋である.スーパーファ. 1BMのスーパーファンド法の適用及び それに対する会計認識の記述. ンド法の適用による調査・浄化の状況のみなら ず,会計的な計上金額及びその会計処理方法ま でが具体的に記載されている.これは財務諸表. の費用なのか負債または引当金として計上すべ きなのか等,会計的な認識方法を示すことも重. に計上されている金額であり,財務諸表と関連 づけて考えることができる.このように米国で. 要である.今回の調査において(表5参照),. はスーパーファンド法の制定が会計的な認識に. 開示項目D土壌浄化事業,. 発展し,財務会計の中にも土壌汚染対策を始め. E保険商品,は特 殊な業種にのみ当てはまるものであるが,通常. とする環境会計情報が入り込んでいる.そして. A土壌汚染対策の方針,. その適切な計上のために環境財務会計基準が制. 対策, c土壌汚染に関する会計数値の開示と,. 定されるに至っている.. さらにCの項目については会計数倍に対する. これに対して現在の日本の開示形式は,主に. B土壌汚染調査結果・. 会計処理方法まで記載されることが望ましいと. 企業が土壌汚染の調査・対策を実施している事. 考える.. 実を公表しているに過ぎず,今後はプロジェク. ているのは,自社で土壌汚染事業を行っている. ト単位,物質単位などのより詳細な各企業統一. 石油業社を除けばリコー1社のみであった.た. された開示が望まれると同時に,それに要する. だしリコーにおいてもCにおける会計処理方. コストに関する開示,さらにコストが当期のみ. 法の記載はなく,財務諸表との関連が明確では. A,. B,. Cの3項目すべての開示を行っ.
(16) 144. 横浜国際社会科学研究. (336). ない.これに対してIBMの報告書では会計処 理方法まで記載されており,財務諸表における 環境会計数値との関連が明確になっている.こ のような情報開示により,環境報告書と財務報 告書との情報が,相互補完的に有効なものにな るであろう.. 第11巻第2号(2006年8月) える.. 5.土壌汚染対策の財務会計制度における認識・ 測定・開示の課題と展望 5.1土壌汚染による環境リスク 土壌汚染対策法の制定を背景に,土壌汚染が 企業にとって大きな環境リスクになってきてい. 4. 4. 環境報告書と財務諸表との相互関連につ. いての考察 環境報告書は,企業の環境管理システム,環 境負荷の改善状況など環境に係わる内外のパ. る.土壌汚染により想定されるリスクには次の ようなものがある. ①土壌汚染調査・対策費用 ②土地の資産 の負担,巨額な浄化債務の発生, 価値の下落一不動産価格は従来の価格から地質. フォーマンスを貨幣額,物量,叙述によって開 示したものである.今日企業は積極的に環境報. 汚染の調査・浄化費用を差し引き,さらに汚染. 告書を公表し企業情報の一環としているが,多. トを差し引くことが予想され,不動産の担保価. くはこの中に「環境会計」というセクションを. 値が減少し金融機関の不良債権処理にインパク. 設けている.前出の「IBMコーポレート・レ. トを与えることが懸念される,. が発覚した場合のステイグマ(風評被害)コス. ③企業イメージ. スポンシビリティー・レポート2005」にも環 境会計のセクションがあり,環境保全活動の資. の低下一環境に対する関心の高まりにより,土 壌汚染の対処の仕方によって企業イメージが大. 本投資と経費の金額,環境対策関連費用の内訳,. きく影響されることが考えられる.土壌汚染対. 環境関連引当金の計上金額,経営における環境. 策法制定の目的は人の健康被害の防止であった. 会計の役割等,詳細に記載している.. が,土壌汚染の影響は環境的側面だけでなく,. 会計は, ASOBAT. 1966年にアメリカ会計学会が (A. Statement. of Basic. Accounting. 経済的側面から見ても重大な問題である.投資 家は土壌汚染が企業の財政状態や経営成績に及. Theory)を公表して以来情報の有用性が強調. ぼす影響に関心を持ち,債権者は土地を担保と. され,外部利害関係者の意思決定に有用な情報. した融資の回収可能性について関心を持つ.こ. を提供するという役割を担ってきた.しかし環. のように土壌汚染は企業にとって重大なリスク. 境報告書に含まれている環境会計は企業の任意. であるにも拘らず会計的な対応が遅れ,財務諸 表にその影響が反映されず,企業の正しい経済. であり,既存の財務会計との整合性や比較性が 乏しいのが現状である.今後環境会計をより有 効なもの-と発展させるためにはアカウンタビ. 実態を示していないという問題が生じている.. リティ概念のみではなく,既存の財務会計のフ. その理由は,土壌汚染対策に対するコストや負 債,また土壌汚染による資産価値の下落等に対. レームワークの中に環境会計数億を入れ込み,. する会計基準が存在しないため,それらが発生. 制度化していくことが必要であると考える.つ. していても多くはオフバランスとなっているた. まり環境会計の数値を現行の財務会計の枠内に. めである.そこで土壌汚染に対するリスクを分. おける環境費用,環境資産,環境負債等に分類. 析し,その会計認識・測定・開示について考察. し,財務諸表との関係を明確にすべきである.. する.. 環境報告書の中の環境会計を体系化しディスク 土壌汚染に対する負債認識. ロージャー制度の中に確立していくために財務 会計制度との整合性を持たせ,その情報価値を. 5. 2. 高めていくことが,これからの課題であると考. のは負債認識であろう.アメリカではスーパー. 土壌汚染に関する会計認識で最も問題となる.
(17) 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田). (337). ファンド法制定後,土壌汚染対策に対する環境. は,企業の決済方法に関係なく客観的に評価さ. コスト認識の必要性が高まり,環境コストを正 確に認識・測定・開示する努力が続けられてき. れた固有のものであり,それは当初認識におい. た.そしてそれを財務会計において制度化する. すると考えるからである.従って今後も負債. ために,. の測定は, SFAC7の期待キャッシュフロー・. 145. て測定された債務の公正価値が適切な属性を有. 10年以上かけて会計基準制定が進め. られ,特に環境負債の認識に関する財務会計 基準が発展してきた.. (具体的な基準について. アプローチによる見積りが主流になると思わ れる13).また土壌汚染に対する負債は個々の. は本稿2章に記載)これに対して日本の土壌汚. ケースによってその性質が異なり,類似の負債. 染対策法は施行後わずか3年であるが,今後の. が存在しない.このような複雑な測定上の問題. 環境負債認識の課題・展望について考えてみた. を有する事項に伝統的な負債認識アプローチは. い.土壌の浄化・修復作業は通常長期間に及ぶ ため,将来の支出時期や金額に不確実性を伴う. 有効ではなく,個々の事例ごとに将来キャッ. ことが多く,また浄化方法や浄化活動期間の変. シュフローを発生可能性割合を用いて測定する 期待キャッシュフロー・アプローチを適用する. 更,浄化技術の進歩によっても影響を受ける.. ことによって可能となるのではないか.この方. そのため,負債金額の合理的な見積りが可能か. 法によって土壌汚染に対する環境負債を測定す. どうかが論点となる.. るには,まず環境負債の金額に影響を及ぼす諸 「環. 96-1. AICPAフうミ公表した実務指針SOP 境改善負債」 (前出)は環境負債の認識・測. 要素を明らかにし,すべての起こりうる結果 をそれぞれの確率によって加重平均して見積も. 定・開示について包括的に扱った会計基準で. る.土壌汚染に関する将来支出は現在の債務で. あるが,そこでは負債の認識要件を(1)発生. あるにもかかわらず,不確実性のために最善の. の可能性(probable)及び(2)金額の合理的な 見積り(reasonableestimate)とした.しか. 見積りができないという測定上の問題から認識 されないものが多かったが,期待キャッシュフ. しその後2000年代に入ってから公表された会 計基準,例えば財務会計基準書(SFAS) i. "Accounting. for. Asset. Retirement. (AROs)''「資産除去債務の会計」 同146号``Accountingfor. Costs. 143. ロー・アプローチを適用することによって環境 負債の測定が改善されるであろう.. Obligations. (2001年)や Associated. with. Exit. orDisposalActivities''「退出・処分活動 (2002年)では, に関するコストの会計」 "usingCash (SFAC) FASB#%% 7%. Flow. Information and Present Value in Accounting 「会計測定におけるキャッシュ Measurements". 5.3. 土壌汚染に対する減損. 土壌汚染に対する負債を計上する際注意を要 する点は,減損との二重計上を回避することで ある.土壌汚染が発覚した場合,当該土地の資 産価値は一般的に下落すると考えられる.これ について減損を適用すると,資産の簿価が回収 可能価額14)まで減額してしまい,当該土地を. (2000年)を適 フロー情報と現在価値の利用」 用することにより負債の測定に重点をおいた.. 浄化・修復する義務がなくなってしまう.基本. ここでは期待キャッシュフロー・アプローチに. 計上する場合には,資産簿価を直接減額させる. よって負債支払のために必要な将来キャッシュ. のではなく,資産と負債とを相殺した後の純額. フローを算出し,リスクフリー・レートで現在 価値に割り引いて債務の公正価値を見積る12).. の減少によって汚染土壌の資産価値の下落を認 識すべきである.ただし売却によって自らの浄. そしてこの債務の公正価値の見積りが可能であ. 化または修復義務がなくなる場合には減損を適. れば財務諸表に計上する.なぜならば負債金額. 用することになるが,この際,他の資産の減損. 的に土壌汚染浄化・修復義務という債務を負債.
(18) 146. (338). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). 会計処理15)と整合性を持って行われるべきで. 務会計制度の中で考え,環境会計情報を財務会. ある.. 計制度において基準化している.その背景には. 土壌汚染問題は企業の財務状況に多大な影響 をもたらす可能性があり,その浄化・修復のた めの環境負債を財務諸表に計上することが求め られる.しかし日本では,環境負債認識におい. スーパーファンド法の制定に伴う巨額な土壌汚 染調査・対策費用や損害賠償費用などの環境リ スクがあり,企業の財務状況に大きな影響を与 えたためと思われる.このようなアメリカの動. て特に問題となる不確実性が会計基準において 考慮されていないため,環境負債の計上が推進. 向は特に注目されるが,この動きは世界的な方. されない現状であり,企業の環境リスクの実態. る国際会計基準でも``財務的側面に影響を及ぼ. が財務諸表に適切に反映されていない.企業が. す環境会計情報は,既存の財務会計制度の中で. 直面している環境リスクをより適切に認識・測. 検討する''というスタンスを取っており,国連. 定・開示するために,環境コスト,環境負債お よび環境問題から生じた減損等を扱う首尾一貫. の実務指針も同様である. 地球環境問題は全世界における経済的・社会. した包括的な会計基準が必要であると考える.. 的・政治的な問題となっており,環境会計に関. 向性でもある.. 2005年からEUが適用してい. 連した事項は企業の主たるビジネスに深く関 6.おわりに. わってきている.本稿で取り上げた土壌汚染対. 1章でも述べたように,これまで企業は自然. 策においても,その経済実態を正しく財務諸表. 資源の使用・廃棄を考慮せずに事業活動を行っ てきたが,今後は環境上のインパクトを考え, 外部不経済を内部化しながら活動を行うことが. に反映させるために環境財務会計基準の検討を 行い,国際的な会計処理方法で対応していくべ きである.. 要求される.そのような企業行動を誘引する要 注. 因の一つに,環境法による規制がある.今後も 環境法規制は年々強化されていくことが予想さ れ,それに伴い環境コストも益々増加していく であろう.本稿では2003年施行の土壌汚染対 策法に対する各企業の対応と会計認識の現状に ついての調査を行い,調査結果の分析・考察を 試みた.現在の環境報告書の内容は定性的・記 述的・部分的であるため企業間比較をすること は困難であり,目標値,コスト金額,経済効果 及び環境保全効果の間の関連性が少ない.環境 保全活動の財務的影響を適切に認識・評価する ためには環境情報を財務諸表の中に取り込み, 環境コスト・環境負債等をオンバランスするこ とを検討し,必要に応じて環境財務会計基準を 制定すべきである.もしも環境会計の迅速な開 発を行わなければ,財務会計は企業の環境活動 の実態を正しく反映することができず,差異が 生じてしまう. アメリカでは既に環境コストや環境負債を財. 1). Environmental. CommunlCation. Information. &. Network環境用語集より and War field (2004) p.. 638, 2)Kieso, Weygandt, Emerging lssues Task 3) FASB Forceは GAAPの階層において,カテゴリーCに分類. される. AICPA Statement of PositionはGAAPの階 層において,カテゴリーBに分類される. 5) 2006年3月現在締約国数は167か国, 1機関 (EU).外務省ホームページ外交政策地球環 境参照. 「土壌汚染対策法の制定に 6)村岡浩爾(2002) 向けて」社団法人土壌環境センター土壌環境. 4). ニュース22号 7)環境報告書の名称としてはこの他にも,レス ボンシプル・ケア報告書,サステナビリティレ ポートなど各社様々なものを使用しているが, ここではそれらを総称して環境報告書と呼ぶこ ととする. 8)詳細は,朴(2004) 152-168頁 9) SEC基準の「重要な影響を与える事実」の中 には,財政状態及び経営成績に一定以上の影響 を与えるものであり,当該事実による連結売上.
(19) (339). 土壌汚染対策法と環境財務会計の展開(植田) 高の増加又は減少見込み額が,最近に終了した 連結会計年度の売上高の10%以上という規定 がある. 10)小川(2005) 60-65頁 ll)同上書64-65頁参照 12)具体的な算定方法等の詳細は,植田(2005b) 13) Foster and Upton (2002)邦訳120-124頁参 照 14)ただしSFAS 144号(2001) 「長期保有資産 の減損又は処分の会計」では回収可能価額で はなく, SFAC7期待キャッシュフロー・アプ ローチによる公正価値を使用することを求めて いる.. 15)減損会計については現在のところ,米国基 準SFAS 「長期保有資産の減損 144号(2001) 又は処分の会計」と国際会計基準(IAS) 36号 (1998) Impairment 「資産の減損」 of Assets とで,減損認識の仕方に違いがある. ". ". 勝山進(2004) 『環境会計の理論と実態』中央経 済社 「環境報告書の現状と課題」 河野正男(2001) 『横 浜経営研究』第21巻第4号 河野正男・朴錘敏(2002) 「環境報告書の動向と 特徴」 『横浜国際社会科学研究』第7巻第2 号 黒揮懐胎・後藤敏彦・西川正義(2000) 『戦略的 環境マネジメントシステム』日科技連 小川智彦(2002) 「有価証券報告書における環境 会計情報の開示について一財務諸表調査を中 心に-」 『横浜経営研究』第23巻第1号 小川智彦(2005) 「財務報告書における環境会計 情報の開示」 『環境会計A-Z』信山社 朴錘敏(2004) 「環境報告書の展開の課題と方向性」 『横浜国際社会科学研究』第8巻第6号 Rob Gray, Jan Bebbington (2001) Accounting for Roger. the Environment, W. Findley, Environmental. (1996). statement. "Environmental Donald. E.. Warfield. 『会計公準論』中央経済社 Terry Jerry J. Weygandt,. (2004). Intermediate. and Present. (2001a). statement No.143,. Retirement. D.. eleventh. Inc.. ofFinancial Cash. Flow. Value in Accounting. Standards. Accounting. InjTormation. MeasurlementS". ofFinancial "Accounting. Accounting. for. Asset. Obligations". (2001b). statement. Standards. No.144,. lmpairment. FASB. Accounting. Sons,. No. 7, "Using. Concepts. FASB. 96-1,. Liabilities". Kieso,. & edition, John Wiley FASB (2000) statement. FASB. Position. of. Remediation. 新井清光(1969). Disposal. or. statement. (2002) Standards. No.. 146,. ofFinancial "Accounting Long-Lived. of ofFinancial "Accounting. Accounting. for. the. Assets" Accounting. for. Costs. with Exit or Disposal Activities" Givens Accounting (1966) "Basic. Associated Horace. R.. Postulates", IASB. (1998) No1 36,. The Accounting. International. "Impairment. Publications. SAGE Daniel Law. in. a. A.. Farber. (1988). West nutshell, 2nd ed.,. Co. (稲田仁士訳(1995) 『アメリカ 環境法』木鐸社) 阪智香(2001) 「土壌汚染が財務会計に与える影 響-環境負債と減損-」 『産業と会計』第30 巻第12号 東京海上火災保険株式会社編(1993) 『環境リスク と環境法(米国編)』有斐閣 東京海上火災保険株式会社編(1996) 『環境リスク と環境法(欧州・国際編)』有斐閣 植田敦紀(2005a) 「財務諸表における環境会計情 報一米国財務会計基準に基づく環境会計の構 築と展開-」 『横浜国際社会科学研究』第9 巻第6号 植田敦紀(2005b) 「米国財務会計基準に基づく 環境会計情報一財務会計基準書143号資産 除去債務の会計-」 『横浜国際社会科学研究』 第10巻第2号 山上達人(1999) 「社会関連会計から環境会計へ」 『産業と経済』奈良産業大学,第13巻第4号 山上達人・向山敦夫・国分克彦(2005) 『環境会 計の新しい展開』白桃書房 日本経済新聞2005年7月5日付朝刊 日本経済新聞2005年8月1日付朝刊 日経産業新聞2005年12月2日付朝刊 日経産業新聞2005年12月5日付朝刊 調査対象各企業の環境報告書及び有価証券報告書 Publisbing. 参考文献 AICPA. 147. ReviewI. Accounting. Standards. ofAssets" S. Uptoll,揮悦男・ John. M. (Neel) Foster, Wayne 佐藤真良訳(2002) 「公正価値による負債の 当初測定」 『企業会計』第54巻第8号 環境省『土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)』 勝山進(1999) 「環境会計の現状と課題」 『JICPA ジャーナル』. [うえだ あつき 横浜国立大学大学院国際社会 科学研究科博士課程後期].
(20)
関連したドキュメント
3000㎡以上(現に有害物 質特定施設が設置されてい る工場等の敷地にあっては 900㎡以上)の土地の形質 の変更をしようとする時..
1. 東京都における土壌汚染対策の課題と取組み 2. 東京都土壌汚染対策アドバイザー派遣制度 3.
土壌溶出量基準値を超える土壌が見つかった場合.. 「Sustainable Remediation WhitePaper
●大気汚染防止対策の推 進、大気汚染状況の監視測 定 ●悪臭、騒音・振動防止対 策の推進 ●土壌・地下水汚染防止対 策の推進
3R・適正処理の促進と「持続可能な資源利用」の推進 自然豊かで多様な生きものと 共生できる都市環境の継承 快適な大気環境、良質な土壌と 水循環の確保 環 境 施 策 の 横 断 的 ・ 総
3R・適正処理の促進と「持続可能な資源利用」の推進 自然豊かで多様な生きものと 共生できる都市環境の継承 快適な大気環境、良質な土壌と 水循環の確保 環 境 施 策 の 横 断 的 ・ 総
3R・適正処理の促進と「持続可能な資源利用」の推進 自然豊かで多様な生きものと 共生できる都市環境の継承 快適な大気環境、良質な土壌と 水循環の確保 環 境 施 策 の 横 断 的 ・ 総
40m 土地の形質の変更をしようとす る場所の位置を明確にするた め、必要に応じて距離を記入し