条約の承継に関する第2次大戦前の日本の実行
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(2) . (182). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). Ⅱ 19 世紀後半における条約の承継に関する 学説と実行 1.国家併合 国家の領域全体が他国に併合されるとき,当 該国家はそれにより消滅する. 併合された国 (被 併合国)が併合前に締結した条約は併合により 被併合国の消滅とともに消滅するのか,それと も,その消滅にもかかわらず併合した国(併合 国)に移転もしくは継続されるのかということ が問題となる.また,併合後は併合国の条約が 併合した領域(併合地)に当然に拡大・適用さ れるのかどうかということが議論されてきた. それは国家消滅あるいは国家併合の効果の問題 として古くから論じられてきた問題であり,今 日では「条約に関する国家承継」の問題として 取り扱われているものである7).ここではまず, 19 世紀半ばごろから 20 世紀初めにいたる時期 において,条約の承継に関する国際法の内容が どのようなものであったかをみるために当時の 学説を検討することにする.併合の被併合国の 条約に及ぼす効果に関する当時の学説には,被 併合国の条約は被併合国の消滅にもかかわらず 原則として継続し併合国に移転する,換言すれ ば,併合国は被併合国の条約を原則として承継 するという「包括的承継説」から,被併合国の 締結した条約は併合によって消滅する,あるい は,併合国は被併合国の条約を承継する義務は ないという「承継否定説」に至るまで様々な学 説が存在する.このように,原則としては,正 反対の見解が唱えられていたのであるが,それ を歴史的観点から見るならば,それまでの支配 説であった包括的承継説から 20 世紀に入って 支配説となる承継否定説へと大きく転換する移 行期であったと捉えることができる.ここでは この時期をそのような条約承継理論の転換期と してとらえ,包括的承継説から承継否定説へと 全く反対の原則に転換していったプロセスを学 説と国の実行を検討することによって少し詳し くみていきたい.. ⑴ 包括的承継説 被併合国の条約は消滅することなく併合国に 移転するという包括的承継説には,被併合国と 併合国との間に何らかのつながり,継続性が存 在することを根拠にして条約の継続が主張され る.被併合国と併合国との間に存在するそのよ うな継続性の根拠とされているものには,「国 家の同一性」,国家の「人格」の継続性あるい は国家の「土地・人民」の継続性といったもの がある. 併合の条約に及ぼす効果の問題を「国家の同 一性(identity of a state)」の 観点 か ら 議論 す るものは,政府の変更と国家併合(国家消滅) とを明確に区別しないまま併合の効果の問題に アプローチしている.当時,政府の形態が変更 しても国家は同一の国家のままであり当該国家 の他国に対する権利義務も影響を受けることな く継続することはすでに学説及び国家実行から 認められていたことから8),このアプローチに したがえば,併合の場合においても条約上の権 利義務の継続を認める可能性は当然のことなが ら大きくなるであろう.このアプローチは,19 世紀前半 1818 年 8 月 10 日の米国国務長官アダ ムズの訓令の中で示されている見解の中にその 例を見出すことができる.すなわち,「ある国 ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. の他国に対する権利および義務はその国の政府 の国内革命から独立しているという原則以上に 明確に確認することのできる国際法原則はな い.それは征服のケースにまでも及ぶ.ある国 を自国の支配下におく征服国はその国の他国に 対するあらゆる約束および義務に従うことを条 件にその国を受け取り,その約束および義務の 履行が征服国自身の義務となる9).」このよう に,政府の変更の場合の原則を征服の場合にも 適用するというアプローチはその後の米国の学 説に大きな影響を与えてきたように思われる. Wheaton は併合の条約に及ぼす効果の問題 を独立の問題として詳細に議論しているわけで はなく,国家の同一性と条約の終了の箇所で部 分的に言及しているにすぎない.まず,国家の.
(3) 条約の承継に関する第 2 次大戦前の日本の実行(森川). (183). . 同一性は革命あるいは内戦による政府の変更に. 条約二分論14)を 用 い て,消滅 す る 条約 は 国王. よってどの程度影響を受けるかという文脈の中. の 個人的 な 同盟条約 の よ う な 一身専属的条約. で,征服や国家結合によって国家の同一性はど. で あって,物的条約 は「い か な る 主権 の 変更. の程度影響を受けるかという問題が設定され,. (change of sovereignty)ま た は 国家 の 支配者. そのような枠組みの中で征服や結合の効果が断. の変更とは関わりなく」(傍点─筆者)締約国. 片的に論じられている.そこでは,国家の存在. を拘束するとしている15).それによれば,主権. に影響を及ぼす変更が征服によってもたらされ. の変更あるいは国家の消滅の場合であっても,. たとき,その存在に及ぼす征服の効果は平和条. 君主のためにではなく国家のために締結された. 約によって決定される.国家の領域の一部が征. 条約は継続するというのが彼の見解であったよ. 服された場合にはその国家は継続するが,国家. うに思われる.. 全体が他国に征服されるときは消滅する.いず. ところがその後に出版された第 4 版において. れの場合にも,征服地が征服国の一地域とされ. は,併合の条約に及ぼす効果に関連する事例が. る場合と主権的権利を有する対等な国家として. 「国家の主権者の人格又は国内憲法の変更の国. 結合することがあるとしている.そこでは,消. 際的効果」の問題の中で取り扱われている.そ. 滅した被征服国の条約の地位については何も. れはいわゆる政府の変更の問題であるが,そこ. 10). ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. 言及していない .また,二つの国家が結合し. では前述の条約二分論を否定して次のようにの. て(incorporate)一 つ の 新国家 を 形成 す る と. べる.「一方の締約国の国内憲法における変更. き,旧二国家は完全に消滅するが他国に対する. であれ締約国の主権者の人格における変化で. 当該二国家の権利義務は新国家設立条約に特段. あれ,そのような変更が既存の条約をそれぞれ. の規定がない限り継続するとしている11).これ. の政府の間において取り消す効果をもつことが. らの記述から国家の消滅(併合)の際に条約が. あることは認められなければならない.条約上. 継続するか否かの原則を見出すことは難しいけ. の義務は,条約がどのような名称によってよば. れども,征服などによる国家の消滅にもさまざ. れようと,合意 contract それ自体に基づいて. まな態様があることを示すことにより,消滅国. いるのみならず二国家の間の相互的な関係に基. の条約の地位もそれによって影響を受けること. 礎づけられているのであって,そのような関係. を示唆しているようにみえる.他方,全く別の. の存在によって両国は一定の合意を締結するに. 問題である条約の終了を論じている個所に関連. 至ったのであろう」と.そして,一身専属的条. する議論がある.そこでは,条約を通常の条. 約あるいは物的条約であるとに関わりなく,そ. 約 と 処分的条約(transitory conventions)と. のような関係が両国の間に存在する限り条約は. 12). に分け ,通常の条約については, 「1. 締約国. 継続するし,条約締約国の一方の社会構造の変. のいずれかが独立国としての存在を喪失する場. 化によってそれが存在しなくなれば,条約は他. 合,2. いずれかの国家政府の国内憲法が根本的. 方の締約国を拘束しなくなるとしているのであ. に変更し,条約が締結された事情とは異なる事. る16).ここで注意すべきことは,このような文. 情の下でそれを適用することは不可能となる. 脈において,ベルギーの分離のみならずテキサ. 場合」には終了するとしている13).しかしなが. スの併合,アルジェの征服,ナッサウ,ハノー. ら,条約締約国のいずれかの消滅によりその条. バーの併合,イタリアの統一の事例をとりあげ. 約も終了するとしているけれども,その意味に. て条約の継続または消滅の例として論じている. 関しては,Vattel 等により政府変更の問題にお. ことである.そのことは,依然として政府の変. いて唱えられてきた一身専属的条約(personal. 更の問題と併合の問題(主権の変更の問題)と. treaties)と 物 的 条 約( real treaties)と い う. が明確に区別されることなく議論されている一.
(4) . (184). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 方,政府の変更の場合のみならず併合の場合に. た通商条約およびその他の国際協定によって拘. おいても,条約に及ぼす効果の問題に関して条. 束されるとみなされなければならない21)」とし. 約の性質による条約二分論(一身専属的条約と. ていることから,政治的性質の条約─その範囲. 物的条約)の適用を否定するとともに,関係国. は明らかでないけれども─を除く他の広い範囲. の相互的な関係という共通の解決基準を提起し. の条約が併合国によって承継されるとするのが. ているとも考えられる.そうであるとすれば,. Martens の見解であった.しかしながら,この. 被併合国の条約が継続するかどうかは条約の性. 時期にあっては,同じ包括的承継説に立つ学説. 質によってではなく,併合国と被併合国との関. においても,そのような広範囲の条約の継続を. 係や併合国と被併合国の条約相手国との相互的. 認めるのではなくて継続する条約の範囲をより. な関係という関係当事国の個別的な事情によっ. 制限する学説は少なくない.. て決定されるという規則が適用されることを提. たとえば,Bluntschli は,公法上の国家相続. 示していると解することもできよう.いずれに. は人格の継続性ではなく国家の実体としての. せよ,Wheaton は併合の条約に及ぼす効果の問. 「人民および土地」の継続性に基づくものであ. 題を国家の同一性の枠組みのなかで議論してい. るとして22),国際的権利義務の包括的承継を原. 17). る一方 ,国家の消滅の場合にも様々な態様が. 則として認めているが,Martens よりも広い範. あること,および,関係国相互の関係といった. 囲の制限を加えている.「既存の国家が他国に. 個別の事情を考慮することによって具体的問題. 併合されるときその国家は消滅するが,当該国. 18). の解決の必要性を指摘しているようにみえる .. 家の消滅は必然的にその国際的権利および義務. 次 に,国家 の「人格」の 継続性 に 基 づ く 包. の消滅を生じさせるものではない.人民および. 括的承継説 の 代表的 な 学説 と し て Martens を. 土地は存続し新しい国家組織に移転するにすぎ. あげることができる.彼は政府の変更と領域の. ないからである.これらの権利および義務は,. 変更とを区別して論じている一方,国家は領. その継続が可能でありかつ新しい事態において. 域全体の喪失により消滅するとする.国家併. 効力を有するとみえる限りにおいて,人民およ. 合の法的効果は私人間において相続の際に生. び土地とともに承継国に移転する23).」そこで. じる関係を想起させるとして, 「他国の領域を. は,国家の消滅によってもたらされた新しい事. 併合した国は『消滅国(défunt) 』の地位につ. 態においても条約の継続が可能でありかつそれ. き,消滅国を法人格として完全に承継する.そ. と両立可能な限りにおいて条約の継続が認めら. れは消滅国の権利および義務を承継する」と一. れるとしている.しかし,包括的承継が原則で. 般的な見解を示した後,国際的な権利義務の承. あるといっても,条約の継続可能性や「新しい. 継について次のように述べている. 「消滅した. 事態との両立可能性」という基準によってその. 国家のすべての国際的な権利および義務は原則. 範囲は相当制限される可能性を認めているとい. として無制限に『承継国(héritier) 』に移転す. うことができる.. る.…併合の事実それ自体によって消滅する性. Despagnet も同様に被併合国の権利義務の併. 質の権利および義務について例外が存在するに. 合国による包括的承継を支持するが,条約の性. すぎない 19). 」そして,併合の事実それ自体に. 質の観点から継続される条約の範囲を一層明確. よって消滅する性質を有する条約として,宗主. に制限している.彼によれば,併合された領域. 関係を設定した条約の例が挙げられていること. に特別の国際的地位を設定している条約は併合. から,高度に政治的な性質の条約が併合によっ. 国によって尊重されなければならないこと24),. て例外的に消滅すると考えていたように思われ. および,政治的性質の条約は併合国に承継され. 20). る .他方, 「承継国は被併合国を拘束してい. ないことについては見解が一致しているが,そ.
(5) 条約の承継に関する第 2 次大戦前の日本の実行(森川). (185). . れ以外の条約に関して学説は対立しているとし. 国の「個別的事情」といった理由によって,継. て次のような見解を提示している.原則とし. 続する条約の範囲が次第に制限されるように. て, 「併合国 は,被併合国の権利義務の包括的. なってきた.さらに,19 世紀後半特に末にか. 相続人(successeur universel)と い う 地位 の. けて,原則として,被併合国の条約は併合によ. 結果,被併合国によって締結された条約を援用. り消滅するという「承継否定説」が提唱されて. することができる」としているけれども,それ. きた.. には 「 それら (被併合国の締結した条約─筆者). Rivier は国家が併合,合併,分裂,分割によ. が取得した領域に適用可能である限りにおいて. り消滅するときにその国の権利義務は存続し承. 25). 」という留保が付されている.条約を援用す. 継国に移転するかどうかという問題を,「国家. ることができるために必要な条件としての条約. 承継(la succession des États)」の問題として. の「適用可能性」の具体的基準に関しては,「. 私法関係と公法関係とに分けて議論する27).私. 私人間において,契約当事者の人格を考慮して. 法関係に関しては個人間の包括的承継の類推に. 締結された契約から生じる権利および義務は積. したがって解決されるとして,「承継国は消滅. 極的にまたは消極的に相続人に移転する効果を. 国の経済的かつ財政的人格を,その利益および. 発生させるものではないと同様,締約国の個別. 負担特に公的債務の負担とともに継続する」と. 的 な 事情(la condition particulière)に よって. する28).他方,公法関係である条約関係に関し. 結ばれた条約は被併合国から併合国に移転不可. ては,国家の消滅によりその国際法人格も消滅. 能とみなされなければならない. 26). 」 とのべて,. するとして29),そのような「消滅した国に属人. 締約国の「個別的な事情」という基準が示され. 的なあるいは専属する (personnelles) 条約関係. ている.そのような条約の例として,同盟条約. および国際法主体である独立国としての存在を. のような政治的性質の条約はいうまでもなく,. 必然的 に 前提 と し て い る 条約関係」は 併合 の. 締約国の法律の特別規定から締結された条約あ. 事実それ自体によって消滅するとする30).そし. るいは締約国それぞれの経済的事情を考慮して. て,併合によって消滅する条約の範囲として同. 締結された条約たとえば締約国に相互的な利益. 盟条約,友好通商航海条約,犯罪人引渡条約. を付与している通商条約や関税条約が挙げられ. といった協力条約(traités d’association)を挙. ている.それは,被併合国の特別の事情,利益. げている31).Rivier においては,協力条約は国. もしくは法律を考慮して締結された条約は併合. 家の消滅後も継続する処分的条約32)(traités de. 国の事情,利益もしくは法律と両立しえないと. disposition)と対比して用いられており,処分. いう理由からである.いずれにせよ,彼によれ. 的条約を除く条約一般が消滅するとされてい. ば,原則として包括的承継説に依拠しながら,. る.このように Rivier によれば,併合により. 締約国の個別的な事情という条件を付すること. 消滅した被併合国の「国際」人格は消滅すると. によって,実質的には広範囲の条約の承継を否. さ れ ─経済的・財政的人格 は 継続 さ れ る と し. 定しているということができる.. て部分的な人格の継続を認めているけれども. ⑵ 承継否定説. ─,そして,処分的条約を除く条約は国家の存. 上述の学説はいずれも,被併合国の条約は併. 在を前提としているあるいは国家と結合・付着. 合という事実にも関わらず継続するという包括. しているとされる.これらの考えが結びつい. 的承継を「原則として」認めるものであるけれ. て,併合による国家の消滅により被併合国に. ども,そのような原則の例外としての「政治的. 専属 す る 条約関係(relations conventionnelle. 性質の条約」によって,あるいは,原則の条件. personnelles)も消滅するとして,条約の承継. として「新しい事態との両立性」あるいは締約. が「原則として」否定されている33)..
(6) . 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). (186). 同様 に 条約 の 承継 を 原則 と し て 否定 す る. 条約の承継を否定する学説においては一方に. Hall は,条約上 の 権利 お よ び 義務 を 属人的 な. おいて,被併合国の条約は消滅するとするとと. (personal)ものと属地的な(local)ものとに分. もに,他方において,併合国の条約が併合地に. けて,領域全体の併合の場合であれ領域の一部. 適用されるとする説が一般的となる36).これは. の割譲の場合であれ,属地的権利および義務だ. 被併合国の条約の消滅によって生じる併合地の. 34). けが併合国あるいは譲受国に承継されるが ,. 条約関係の空白を埋める方式の一つと考えるこ. 属人的権利義務は承継国を拘束しないとする.. とができる.しかし,併合国の条約が当然に(de. 国家の一部の分離を扱っている個所で,旧国家. plein droit)適用されるかどうかについては見. の権利義務が新国家を拘束しない理由を次のよ. 解が分かれる37).. うに論じている.先ず,この問題に対しては. これまで,19 世紀半ばごろから 20 世紀初め. 「国家の人格の事実が解答に対する鍵である.. における時期において,包括的承継説から承継. 属人的権利 お よ び 義務(personal rights and. 否定説にいたる代表的な学説を取り上げて併. obligations)として旧国家が取得した権利およ. 合に関する条約承継理論の変容をみてきた.19. び負担した義務とは新国家はなんの関係もな. 世紀後半特に末にかけて提唱された承継否定説. い.旧国家は消滅していない.その契約の義務. はその後の条約承継理論の基礎をなすものと考. を履行しかつ契約の権利を享有するのは依然と. えることができるであろう.しかしここでは,. して旧国家である.他方,新国家は全く新しい. 承継説あるいは否定説を問わず,条約承継理論. 存在である.それは,他国が契約を結んだ人格. は二つの基本的要素から構成されていることを. ではないし, またそれを代表するものでもない.. 指摘しておく必要がある.一つは,被併合国と. 契約が結ばれた人格に付与された利益を新国家. 併合国との間における何らかのつながり,継続. に与える理由は他国にはないし,また,新国家. 性の存否の問題であり,他の一つは,条約の性. が自国のためであったならば受諾することはな. 質あるいは条約上の権利および義務の性質の問. かったような責任を引き受けることは不公正と. 題である.条約承継理論はこれらの二つの問題. 35). なるであろう . 」そして,同盟条約,保障条 約または通商条約は新国家を拘束するものでは. あるいは要素の組み合わせによって構成されて. ないとしている.そこでは,属地的権利義務を. の継続,土地および人民の継続は前者に含まれ. 除く条約上の権利および義務はそれを締結した. る要素であり,被併合国と併合国との間にその. 国家の人格と密接に結び付いたもの(personal). ような継続性の存在を認めることは条約の継続. であるという観念とともに,条約を締結する新. の根拠を与えるものであるが,理論的には,そ. 国家の人格と旧本国の人格は全く別個のもので. のような継続性は次第に制限されそして完全に. あるという観念が極めて明確に示されている.. 否定されることになる.しかし,実際には,国. それらの観念が結合して,旧本国の締結した条. 家の消滅の場合であってもその具体的態様に. 約または条約上の権利および義務は新国家とは. よっては継続性が存在する場合もあると思われ. 全く関係のないものであり (res inter alios acta),. るが,そのような可能性については Wheaton. 新国家はそれに拘束されることはないとされ. 等の若干の学説によって指摘されているにすぎ. る. このような考え方が分離の場合のみならず,. ない.. 割譲や併合の場合にも適用されるとされ,併合. 後者の条約の性質の問題に関しては条約を二. 国・譲受国は被併合国・譲渡国とは別個の人格. 種類の条約に分類するのが一般的であるが,そ. であり,被併合国・譲渡国の条約に拘束される. の内容は一身専属的な条約と物的条約 , 属人的. ことはないとされるのである.. 権利義務 と 属地的権利義務 あ る い は 通常 の 条. いるということができる.国家の同一性,人格.
(7) 条約の承継に関する第 2 次大戦前の日本の実行(森川). (187). . 約と処分的条約などさまざまである.属地的. て,以前に自国と締結した条約は併合以前と同. 権利義務や処分的条約については後述するが,. 様に有効なままでありかつ遵守されなければ. personal な条約または権利義務の意味につい. ならない旨の通告を行った41).しかしながら,. ては, 「君主」または「王家」の一身に専属す. Fiore によれば,イギリス政府もフランス政府. る 条約(Wheaton)か ら 国家 そ れ 自体 の 人格. も米国に対して,テキサスと締結した条約の適. と結合している条約・権利義務(Rivier, Hall). 用を要求するいかなる請求も行わなかったとさ. まで,論者によってさまざまな意味が与えられ. れる42).②また,フランスによるチュニスの占. 38). てきた .しかし,personal な条約・権利義務. 領の際にもイギリスはテキサスに対する通告と. に含まれるものの範囲は次第に拡大され,それ. 同様の通告をフランスに行った43).. は通常の条約一般を含むまでになったが,この. 他方,被併合国の条約は消滅し併合国の条約. ような意味の変化は包括的承継説から承継否定. が適用されるとした事例としては以下のものが. 説への流れに対応するものでもある.こうし. ある.①米国は,フランスによるアルジェの併. て,同盟条約のような政治的性質の条約のみな. 合(1831 年),プロシャによるナッサウおよび. らず通商条約,航海条約,関税条約あるいは犯. ハノーバーの併合(1866 年),イタリアによる. 罪人引渡条約といった広範囲の条約までもが,. 両 シ シ リーの 併合(1860 年)の 際 に,被併合. personal な条約として,併合それ自体によって. 国との条約は併合により終了したものとみなし. 消滅するとされるようになってきたのである.. ている44).②サルジニアによる併合によってイ. しかしながら,この時期に,通商条約等の非政. タリアの統一が行われた際に,サルジニア外. 治的な条約が併合によって当然に消滅するとい. 務省は 1862 年に公表した報告書の中で次のよ. う見解がすでに確立していたということは適当. うな見解を示している.「イタリア王国の設立. ではないであろう.それらの条約については,. 後,様々なイタリア諸国の旧政府によって締結. 併合国は被併合国の締結した条約によって拘束. された条約および通商協定は効力を喪失し,王. されるとする説,被併合国のそれらの条約は同. 国のあらゆる地域において,イタリア国民が再. 盟条約や政治的友好条約と同様消滅するとする. 統合されたサヴォイ王家によって外国列強と締. 説,一定の原則に基づく一般的な解決は不可能. 結された諸条約の規定によって取って代わられ. であって,条約の性質や個別ケースの具体的な. た 45).」③併合国の条約は併合地に拡大される. 事情によって決定されるとする説といった様々. とした国内裁判所の判決がある.ナポリのイタ. な見解が唱えられていた状況であったからであ. リア王国への併合の後,イタリア裁判所もフ. 39). る .しかしながら,19 世紀後半から 20 世紀初. ランス裁判所も,一方の締約国の領域におけ. めにかけての時代は,次第に承継否定説が支配. る他方の締約国の裁判所の判決の執行に関す. 的になってきたということはできるであろう40).. る 1760 年のフランスとサルジニアとの間の条. 日本の実行として後に詳しく述べる台湾および. 約は,イタリア国家全体に適用されると判示し. 澎湖列島の割譲(1895 年) , ハワイの併合(1898. た 46).④プロシア国王は 1866 年の宣言によっ. 年)および韓国の併合(1910 年)が問題となっ. て,ハノーバー,ヘッセン選挙公国,ナッサウ. たのはこのような時代であったのである.. 公国,フランクフルト・アン・マインを併合し. ⑶ 諸国の実行. たが,ハノーバーの友好条約,通商条約,航海. 学説において被併合国の条約の継続の事例と. 条約,犯罪人引渡条約並びに著作権保護条約は. して挙げられているものは以下のものである.. 消滅し,それらの条約に代わって当該問題を規. ①米国によるテキサスの併合のとき(1845 年) ,. 定するプロシャの条約が適用されるとした47).. イギリスおよびフランスはテキサス政府に対し.
(8) . (188). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 2.割 譲. が,主なものだけでも以下のようなものがある.. ⑴ 国家の同一性. 売買による割譲の例として,ルイジアナ(1803. 国家は領域の縮小であれ拡大であれそのよう. 年 4 月 30 日の仏米のパリ条約)およびアラス. な変更にもかかわらず同一の国際人格を保持し. カ(1878 年の露米条約)の割譲があり,また,. たままである.他国に領域全体を併合された被. イタリア統一の過程におけるオーストリアによ. 併合国は併合により消滅するのに対し,領域の. る ロ ン バ ル ディ地方(1859 年 の チューリッヒ. 一部を他国に譲渡した国はその領域の縮小にも. 条約)およびベニス(1866 年)のサルジニア,. かかわらず国家としての存在を喪失するわけで. イタリアへの割譲がある.さらに,1871 年の. はなく,譲渡国は縮小した領域の範囲内におい. アルザス・ロレーヌ地方のフランスによるドイ. て当該領域の譲渡の前に他国と締結した条約に. ツへの割譲,1878 年のベルリン条約によるト. よって 引 き 続 き 拘束される(国家の同一性) .. ルコの領土の割譲等の例がある.それらのケー. これについては包括的承継説も否定説も認めて. スの中で,割譲の条約に及ぼす効果に関する事. いる48).問題は譲渡国の条約が割譲地において. 例として学説で挙げられているものは,譲受国. も適用されるかどうかおよびその範囲の問題で. の条約の拡大適用と属地的権利義務に関するも. ある.. のである.前者に関しては,1859 年のオース. ⑵ 割譲の条約に及ぼす効果. トリア,フランス,サルジニアとの間のチュー. この割譲の譲渡国の条約に及ぼす効果の問. リッヒ 条約第 2 条 は,1859 年 4 月 1 日 の 前 に. 題について,包括的承継説をとるものは基本. 効力を有していた「条約および協定はサルジニ. 的に併合の場合と同様の原則が適用されると. ア国王が新たに取得した領域に拡大される」と. するが49),このことは政治的条約を除く譲渡. 規定している54).. 国の条約がどこまで割譲地においても適用さ れることを意味するのか必ずしも明らかでは 50). 3.属地的権利義務または処分的条約. ない .. 包括的承継説においても承継否定説において. 他方,承継否定説によれば,譲渡国の条約少. も,被併合国または譲渡国の締結した条約に関. なくともその personal な条約は譲渡国と結び. して,併合または割譲後も併合地または割譲地. 付いており譲受国とは全く関係のないものであ. において引き続き適用されることが認められて. るから譲受国を拘束するものではない.たとえ. いる特別のカテゴリーの条約あるいは条約上の. 割譲後であっても,譲受国は割譲地に付着して. 権利義務がある.それらは学説では,「属地的. いる属地的権利義務もしくは処分的条約以外の. 権利および義務」あるいは「処分的条約」とよ. ものによって拘束されることはない. こうして,. ばれる.. 割譲地には譲渡国の条約は適用されないとされ. ⑴ 属地的権利および義務. るとともに,他方で譲受国の条約が割譲地に拡. Martens や Bluntschli は 割譲 の 場合 に 特定. 大され適用されることが明確に指摘される51).. の土地に付着している権利義務である「属地的. 譲受国の条約の割譲地への拡大・適用の問題に. 権利義務」および特定の人または団体に付着し. ついては,譲受国の条約が自動的に適用される. ている権利義務である「属人的権利義務」は割. 52). のか ,それとも当該条約の相手国の同意を必. 譲地とともに譲受国に移転するとする.彼らは. 要とするのか53),について学説は分かれる.. 属人的権利義務として特定の人または団体に対 する信教の自由や病院,社会福祉施設,教育施. ⑶ 国家実行. 設等の利用の保障に関するものを例示している. 19 世紀だけでも領土割譲の事例は多数ある. が55),属人的権利義務をかかる意味および機能.
(9) 条約の承継に関する第 2 次大戦前の日本の実行(森川). をもつものとして用いている学説は例外的であ 56). (189). . に移転する58).」. る .他方,属地的権利義務 な い し は 属地的条. かかる属地的権利義務と同様の考えを示すも. 約は割譲地(併合地)とともに譲受国(併合国). のとして,「領域に特別の国際的地位を設定し. に移転するとしてその後も学説において用いら. て い る 条約」や「領域 に 特別 の 利益 を 付与 し. れている概念である.それについて Bluntschli. 例外的な負担を課している条約59)」,あるいは, 「領域に特別に関連している条約60)」といった. は次のように述べる. 「これらの権利および義務が特定の土地に付. 概念が学説で提唱されている.このような権利. 着 し て い る 場合,属地的(örtliche)と,そ れ. 義務を規定する条約として学説で共通にあげら. らが特定の一族または特定の階級の人々に付着. れているものは,割譲条約,国境画定条約,河. している場合,属人的(persönliche)とよぶこ. 川の築堤や航行に関する条約,鉄道に関する条. とができる.属地的権利および義務は場所と,. 約あるいは国際地役を設定している条約等であ. 属人的権利および義務は人と結び付いており,. る.か か る 関係,権利 お よ び 義務 は「物的性. かつ,その政治的運命に従う.確かに,個々の. 質」を有するとする Rivier によれば,領域は. 場合に,属地的および属人的関連または関係が. たとえ他国の支配下に置かれることになっても. 国家に対して本質的なものとして現れるかどう. 存続するので,領域に関係する権利および義務. かという疑問が生じる.境界の表示のために両. は国家の消滅という事実によってその根拠を喪. 隣接国の指示で設置された境界石は,その境界. 失するわけではなく,存続することができる. 領土が他国に併合されたとき,当然同様に当該. しまた存続しなければならないとする61).そし. 境界領土に対して継続的に効力を有する.次の. て,そのように存続する権利義務を併合国(譲. ような二国家の協定についてもまったく同様で. 受国)は尊重しなければならないとする見解に. ある.堤防の保護,堤防の構築と保存,特定河. 対して,Rivier は「地役を設定している条約. 川の航行,波止場,鉄道等に関する協定.それ. は,処分的条約であるので,事情変更原則にし. らは特定の場所(Oertlichkeit)に関係しており,. たがって(rebus sic stantibus)同意されたもの. 後に当該地域に対する主権を新たに取得した国. とみなされる条約の中に数えられなければなら. に対しても効力を継続する.取得国がこの法律. ないがゆえに,承継国は地役を廃棄することが. 関係の創設に参加していなかったとしても,当. できる」としている62).. 該国家は現存の法的状態において,すなわち. ⑵ 処分的条約. そこ に 存在 す る 属地的権利および 属地的義務. Wheaton は 条 約 を 処 分 的 条 約( transitory. (Ortsrechten und Ortspflichten)とともに新たな. conventions)と 通常 の 条約 と に わ け,前者 に. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. ・. 57). 領域を取得することができるにすぎない . 」. ついて次のようにのべる.それは「その性質に. Hall も 属 地 的 権 利 義 務( local rights and. おいて永続的であるので,一度実施されると,. obligations)は領域の一部の分離の場合のみな. 締約国の主権および政府の形態の変更とは関係. らず割譲の場合や併合の場合にも譲受国や併合. なく存続する.その運用は戦争の間場合によっ. 国に移転するとして次のように述べる. 「領域. ては停止されることがあるけれども,平和に復. の割譲および国境の確定に関する条約に基づく. 帰すれば明示的な規定なしに効力を回復する.. 権利を含む喪失した領域に関して有する権利,. 領域の割譲,境界画定もしくは交換条約または. 単に領域に関して負った義務,ならびに領域内. 一方の国の領域において他方の国民のために恒. にある財産であってそれゆえ属地的性質を有す. 久的な地役を設定する条約がそのようなもので. るもの,または領域内にはないけれどもその地. ある63). 」この見解は併合や割譲の効果に関す. 域にある国家機関に属する財産は新国家の人格. る問題としてではなく条約の終了の問題のコン.
(10) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 10 (190). テクストにおいてのべられているものである. ができる.この場合,処分的条約の概念には,. が,かかる条約は永続的性質をもち主権の変更. 領域に関係していること,すなわち,併合地・. 後も存続することを指摘している.. 割譲地の一定の土地に特別の負担または利益を. Rivier は 処分的条約 を traités transitoires で 64). 賦与している,あるいは,特別の国際的地位を. はなく traités de disposition とよんでいるが ,. 設定していること(物的・属地的性質),およ. Wheaton と同様に,条約を通常の条約(traités. び,条約の定める一度の行為の実施により領域. d’association)と処分的条約とに分け,併合の処. に設定された事態は確定的・最終的なものとな. 分的条約に及ぼす効果の問題を次のように述べ. り,当該条約を締結した国の消滅または領域の. ている. 「処分的条約によって創設された事態. 変更とは関わりなく存続するという永続的性質. ・ ・. (l’état de choses)は一般にそれを締結した国の. とが含まれているということができる.. 存続または消滅とは無関係である.したがって,. かかる物的・属地的性質および /または永続. それは他の国または国々による併合あるいは分. 的性質を有する条約の例として示されているの. 割後も存続する.これらの条約はしばしば私法. は,北部サヴォイの中立化およびヒューニンゲ. 関係を対象にしている.あるいは領域に関係し. ンの非武装化(要塞建造の禁止)である.前者は,. ているものであり,領域に関係しているとして. ニースおよびサヴォイのイタリアによる仏への. 65). その効果が存続しなければならない . 」 (傍点. 譲渡を定める 1860 年 3 月 24 日のチュラン条約. ―筆者)そして,かかる効果を有する処分的条. 第 3 条が,1815 年にスイスとともに中立化さ. 約の概念を次のように説いている.それは「強. れた北部サヴォイ地域の地位はフランスによっ. 制力 を 有 す る 規定,最終的約定,権利,譲渡,. て尊重されなければならないことを規定したも. 事態に関する決定を含む条約」であって, 「そ. のである68).後者は,1871 年アルザス・ロレー. れ は,一般 に,権利 の 譲与 ま た は 確定,権利. ヌ地方が仏によりドイツに譲渡されたとき,ド. の放棄,事物の給付といった唯一度の行為 (un. イツは 1815 年 11 月 20 日のパリ条約 3 条によ. acte unique) を対象としている.それはこの行. り仏の負っていたヒューニンゲンの非武装化の. 為の履行によって実施され,こうして創設され. 義務(バーセルの入り口にあるヒューニンゲン. ・. ・. 66). た事態は最終的なものとなる . 」 (傍点―筆者). の要塞を廃棄し再構築しない義務)を─プロシ. それによれば,処分的条約の特徴は,条約の定. アは同条約の締約国であったが─負うかどうか. める一度の行為を履行することによって創設さ. ということが学説で議論されている69).. れた「事態」は確定的・最終的なものとなり永 続的性質を有するということにある.そのよう. Ⅲ 日本の実行. な条約の例として, (ⅰ)領域に関わる条約で. 『國際法先例彙輯』の「併合」および「領土割讓」. あって売買,交換,贈与による領域の割譲,地. で取り上げられている事例のうち,条約の承継. 役等の設定,境界の画定を含む条約, (ⅱ)コ. の問題に関連する記述が含まれているものは,. ンプロミー,取引,放棄(ⅲ)国家を創設また. 併合では琉球併合,ハワイ併合,韓国併合であ. は承認する条約,保護関係等を設定する条約,. り,割譲では台湾・澎湖列島の割譲の事例だけ. 永世中立を設定する条約,そして(ⅳ)平和条. である.「併合」では上記の併合の事例のほか. 67). 約を挙げている .したがって,彼によれば,. に,外国の行った併合の事例としてベルギーに. 処分的条約は領域に関係する条約を含むもので. よるコンゴーの併合に対する帝国政府の措置が. あるがそれに限定されるものではない. しかし,. 掲載されている.しかしそこでは,1907 年の. 領域に関係する属地性または物的性質を含むも. ベルギーとコンゴー独立国との間の併合条約を. のが最も典型的な処分的条約であるということ. 承認する法律の公布およびコンゴー独立国の主.
(11) 条約の承継に関する第 2 次大戦前の日本の実行(森川). (191). 11. 権の移転と同国の行政のベルギーによる引受け. 1854 年 7 月 11 日米国 と,1855 年 10 月 15 日 フ. に関する通告並びにそれを了承する帝国政府の. ランスと,1859 年 6 月 7 日オランダとそれぞれ. 70). 回答が記されているにすぎない .また, 「領. 和親航海条約と称すべき条約を締結していた.. 土割讓」には台湾の割譲の事例以外にも千島樺. フランス,オランダとの間にはいかなる文書の. 71). 太の交換,奉天省南部の割譲および還附 ,樺. 往復もなかったが,米国からは,1854 年の琉球. 太南部の割譲の事例が含まれている.しかし,. との条約の規定が併合の後も旧琉球国版図内に. それらの事例において条約に関係するものとし. おいて適用されることを認めるか否かについて. ては,千島樺太の交換のケースでは,帝国政府. の照会があった78).これに対して,帝国政府は. が交換条約の公布とその写しを日本と条約関係. 明治 5 年 10 月 5 日外務卿文書 に お い て,琉球. にある国に送付した際に若干の国からそれにつ. は久しく帝国の附庸国であったものを内藩に改. いて了承する旨の公文があったことが記されて. めたにすぎないとの見地から「琉球島ノ儀…ハ. 72). いるにすぎない .また,樺太南部の割譲のケー. 數百年前ヨリ我邦ノ附庸ニ有之此度改テ内藩ニ. スでも,日露講和条約が効力発生したことを帝. 定メル迄ニ候…我帝國ノ一部ニ候故79)」 ,上記. 国駐在各国公使に通知したにすぎず,樺太南部. 条約を維持尊重すべき旨の回答を行った80).. の割譲に関して宣言その他の特別の措置をとら なかった.各国からはいずれも了承する旨の回. 2.台湾および澎湖列島の割譲81). 答があったことが記されているにすぎない .. ⑴ 日清講和条約と台湾に関する宣言. 従って,ここでは上記 4 つの事例を年代順にと. 日清戦争講話会議において日本は奉天省南部. りあげて, 『彙輯』における併合および割譲の. の土地(遼東半島)とともに台湾および澎湖列. 効果に関する記述の中から条約の承継に関する. 島 の 割譲 を 要求 し,日清講和條約(明治 28 年. 実行を取り出して以下に要約して示すことにす. (1895 年)4 月 17 日調印)第 2 条にそれが規定. 73). る.. された.政府は台湾および澎湖列島の受渡を完 了し(6 月 2 日)同島を平定した後 , 関係列国. 1.琉球併合74). に対して「臺灣ニ關スル宣言」を発して,台湾. ⑴ 琉球に対する帝国政府の措置. および澎湖列島に関する対外方針を明らかにし. 明治維新後,琉球 を 中央政府 の 管轄 の 下 に. た.. 置くために帝國政府は明治 5 年(1872 年)9 月. ア 台湾平定に至る迄の一時的措置. 14 日の詔勅により琉球を琉球藩と改めて,こ. 台湾および澎湖列島の受渡手続完了後も台湾. 75). れを帝国の一地方行政区画に編入した .そし. 各地に騒擾が発生したため,「帝國ト諸外國ト. て,琉球藩 に 外務省 の 官吏 を 派遣 し(9 月 27. ノ間ニ締結セラレタル通商航海條約ハ當然同地. 日の太政官達) ,琉球が各国と締結した条約関. ニモ行ハルヘキ次第ナルモ・・・直チニ日本. 係及び外交(交際)事務を外務省の管轄の下に. 内地同様ノ取扱ヲ爲シ難キ事情在リタル82)」こ. おいた76)(9 月 28 日の太政官達)77).. とから,帝国政府は台湾鎮定に至るまでの一時. ⑵ 対外関係. 的措置として以下のような方針を決定して,明. 帝国政府は,明治 5 年に,琉球を琉球藩とし. 治 28 年 10 月 3 日大蔵大臣から各税関に布達し. これを中央政府の管轄の下に置くに際して,対. た.. 外宣言を発してまたは文書等によりこのことを. 「一,内地ノ一港ヨリ帝國税關ノ設アル臺灣. 諸外国に通知する等の措置をとることはなかっ. 島諸港ヘ輸送シ又ハ帝國税關ノ設アル臺灣島諸. た.しかしながら,琉球と条約を締結していた. 港ヨリ内地ノ一港ニ輸送シ來ル貨物ニシテ其ノ. 諸国からは以下のような照会があった.琉球は. 貨主外國人ナルトキハ日墺條約第十一條ノ規定.
(12) 12 (192). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). ニ照準シ總テ内地海港間貨物囘漕同樣取扱フコ. ⑵ 諸外国政府の対応. ト. この宣言に対してイタリア,ハワイ,メキシ. 二,帝國税關ノ設アラサル臺灣島諸港ヨリ内地. コ,ペルー各国政府からはこれを了承する旨の. ノ一港ニ輸送シ来ル貨物ハ税關長ニ對シ臺灣諸. 回答があった.米国政府は同宣言を受諾するが. 港ヨリ輸送セシモノナルコトヲ證明シタルモノ. 米国の人民及び船舶が「以前に取得した条約上. 83). ニ限リ前項同樣ニ取扱フコト 」. 又はその他の権利を侵害するものではない」と. な お,同年 10 月 9 日米国政府 よ り,米国 か. いう留保を示している87).. ら台湾島に輸入される貨物に対してはいかなる. ドイツおよびイギリス両国政府はそれぞれ駐. 輸入税を課するかについて質問があった際に,. 日公使からの書簡において,①台湾におけるそ. 帝國政府は「當分ノ中從來同島ニ於テ賦課シ來. れぞれの国民の既得権は尊重されること,②自. リタル輸入税ヲ賦課シ同島全ク鎭定ノ上ハ帝國. 国船舶による台湾における開港間及び台湾の開. 84). 内地同樣ノ輸入税ヲ賦課ス 」旨の方針である. 港と日本内地の開港との間の通商航海は何等の. ことを明らかにした. . 制限を受けないこと,③台湾に居住する自国民. イ 台湾に関する宣言. を拘束する法令は現行條約に従い日本内地に在. 帝国政府は台湾島を平定した後の明治 29 年. 住する自国民を拘束する範囲に限るべきことの. 1 月から 2 月初旬にかけて在外帝国使臣に対し. 3 点について確認を求めてきた88).. て「臺灣ニ關スル宣言」を帝国と条約関係にあ. かかる申入れに対して帝国政府はつぎのよう. る英仏米独支等 18 カ国に通達せしめるととも. な回答を行った.①について, 「該島ニ於テ外國. に,2 月 22 日 の 外務省告示第 1 号 に よって そ. 人カ合法ニ得タル財産權ノ性質及其程度ニ關シ. の趣旨を公示したが,その内容は以下の通りで. テハ尚未タ充分ナル調査ヲ遂ケ了ラサル所有候. ある.. ニ付テハ帝國政府ハ斯ル權利ニ對シ決シテ不正. 「一 日本帝國ト通商及航海ノ條約ヲ締有スル. 當若クハ任意ノ處置ヲ爲スヘキ意思ナキコトヲ. 各國ノ臣民及人民ハ淡水,基隆,安平,臺南府. 言明スルノ外無…帝國政府ハ實際問題ノ起ル毎. 及打狗ニ於テ居住シ且商業ヲ營ムコトヲ得又右. ニ其問題ニ應シ常ニ調和ノ精神ヲ以テ之ヲ措置. 等諸國ノ船舶ハ淡水,基隆,安平及打狗ノ諸港. スヘキコトヲ茲ニ證言」し,②については「帝. ヘ寄港シ且積荷ヲ輸入スルコトヲ得. 國政府ハ現行條約ノ規定ヲ締盟各國ノ臣民人民. 二 臺灣ハ其情形上特殊ナル所アリト雖日本帝. 及船舶ニ擴及スコト至當ナルヘシト思考致居候. 國ト各締盟國トノ間ニ現存スル通商及航海條約. ニ付…該宣言ノ趣旨ヲ御了解」されることを希. 税則及其他ノ諸取極ハ出来得ヘキ限臺灣ニ居住. 望する旨回答した.また,③については, 「該島. シ又ハ同地ニ往來スル各締盟國ノ臣民人民及船. ニ於ケル政制及状態ヲ日本本部ニ於ケル旣定ノ. 舶ニモ之ヲ適用スヘシ但前記ノ特典便益ヲ享受. 有樣ト一致セシムルコトヲ得ルニ至ル迄ノ間ハ. スル者ニ於テハ常ニ臺灣ニ於テ施行セラルル所. 特別ノ法令規則を施行スルコトハ事實上必須89)」. ノ法令ヲ遵守スヘキモノトス85)」. のことであるとして理解を求めている.. なお,外務大臣は在外帝国使臣に対して上記. また,フランス政府からは次のような質問が. 宣言通達する旨の訓令にあわせて, 「宣言中通. あった.①台南府には外国人の居住及び営業を. 商航海條約税則其他ノ諸取極ハ出來得ヘキ限適. 許しながら 1858 年 6 月 27 日の天津条約によっ. 用スヘシトアルハ其區域漠然タルヲ以テ之カ實. て清国が外国船舶に認めた寄港(積上げ積卸). 施ニ際シ種々問題紛起シ實際措辧シ難キ事項生. を日本政府が認めないのはなぜか.②宣言に「前. スヘキ虞アルモ斯ル事項ハ實際問題トシテ臨機. 記ノ特典便益ヲ享受スル者ニ於テハ常ニ臺灣ニ. 86). 處置スヘキ見込ナル」旨附言していた .. 於テ施行セラルル所ノ法令ヲ遵守スヘキ」とあ.
(13) 条約の承継に関する第 2 次大戦前の日本の実行(森川). (193). 13. るが,その法令とは何か,またそこに含まれる. すべての条約は失効するが,日本・ハワイ移民. 規定は 1858 年 10 月 9 日の日仏条約に抵触しな. 条約に基づいて現在ハワイに在留する日本労働. 90). いかどうかというものであった .帝国政府は. 者の有する契約上の権利については合衆国政府. 駐仏公使を介して次のような回答を行ってい. は之を尊重する旨の回答があった.しかし,第. る. 「第一,臺南府ハ…外國船舶ノ寄港スヘキ. 1 次併合条約は,共和党大統領とは意見を異に. 港津ニハ非ス外國船舶ノ積上積卸ヲ爲スト言フ. する民主党大統領が就任するとともに,上院に. 港ハ臺南府ニ接近シ僅ニ數分時ニシテ往來スル. おいて撤回された95).. ヲ得ル所ノ安平港ニ外ナラサルヘシ…第二,帝. ⑵ 第 2 次アメリカ・ハワイ併合条約に対す. 國政府ノ行為ハ成ル可ク一八五八年十月九日ノ. る帝国政府の抗議とアメリカ政府の回答. 條約ニ適合セシムヘキコト勿論ナレトモ新領地. 1897 年 3 月共和党大統領就任とともにハワイ. 人民ノ風俗状態ト懸隔スル事甚シキヲ以テ日本. の併合運動が再燃した際,帝国政府はハワイに. ノ現行行政法令ヲ悉ク同地ニ適用スルヲ得ルニ. おいて有する重大な利害関係を考慮して,1897. 至ル迄ハ彼等ノ風俗状態ニ適應シタル或命令規. 年 6 月 15 日 の 在米帝国公使 に よ る 国務長官宛. 91). 則ヲ施行セサルヲ得サルナリ 」 .これに対し. 書簡の中でハワイの現状維持を希望することを. てフランス政府はさらに第 2 の点につき既得権. 申し入れた96).しかしながら,翌 16 日第 2 次ハ. の尊重を力説する回答を伝えてきた92).. ワイ併合条約は調印され,同日の国務長官から. 明治 30 年 6 月 24 日帝国外務大臣に対して駐. 在米帝国公使宛書簡において,ハワイ併合条約. 日スペイン国公使から口頭による質問があっ. が調印されたこと,並びに,合衆国政府はハワ. た.台湾在住の同国宣教師は従来清仏條約によ. イ国政府が他国政府と締結した条約から生じる. りフランス人宣教師が台湾内地において享有す. ハワイ国政府の義務を負担するものではないこ. る特権を清西條約の最恵国條款に基づいて享有. と,かつ,条約中に日本の権利に有害なるもの. していたが,帝国政府はこの特権を認めるか否. はないと信ずるとする旨の回答があった97).. かというものであった.帝国外務大臣は同公使. 在米帝国公使は帝国政府の電訓に基づき国務. に対し文書でもって,スペインの宣教師が台湾. 長官宛書簡において次のような理由で併合に抗. 割譲以前に「清國トノ條約ニ依リテ臺灣島ニ於. 議した.すなわち,「第 1 に,ハワイ国の現状. テ享有セシ所ノ特權ハ帝國政府ニ於テモ右特權. 維持は太平洋に利害関係を有する諸国の協調. ノ存在ヲ認ムヘシ」も,割譲以後に関しては台. (good understanding)のために是非とも必要. 湾に関する「宣言ノ旨意ニ依リ帝國ト西班牙國. である.第 2 に,併合はハワイにおいて帝国臣. トノ間ニ存スル現行條約ノ規定ニ準拠スルノ外. 民が条約及び該国の憲法及び法律にしたがって. 93). ナシ 」と回答した.. 取得した住居,商業及び工業上の権利を危うく する虞があるであろう.第 3 に,併合は条約上 94). 3.アメリカのハワイ併合. 帝国の利益に帰するハワイ国の責任問題の終結. ⑴ 第 1 次アメリカ・ハワイ併合条約に対す. を遅延させる虞があるであろう98)」と.. る帝国政府の質疑. か か る 帝国政府 の 抗議 に 対 し て,米国国務. 1893 年 2 月 14 日に第 1 次アメリカ・ハワイ. 長官(John Sherman)は 6 月 25 日に在米帝国. 併合条約が調印されたとき,在米帝国公使は同. 公使宛書簡 に お い て,併合前 に ハ ワ イ に よっ. 月 20 日,米国によるハワイ併合の日本・ハワ. て締結された条約及びそれに基づいて取得され. イ条約特に移民条約に及ぼす効果の問題ついて. た権利の問題に関して米国政府の見解を詳細に. 国務長官に問い合わせた.国務長官からは,併. 敷衍する以下のような回答をしてきた.「抗議. 合の結果として従来ハワイが諸外国と締結した. の根拠をここに詳述したのは,…関係する条約.
(14) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 14 (194). 問題について,形式的な条約の諸規定と一国の. 条約上 の 権利 の す べ て の も の に 対 す る 保障. 臣民が他国において条約もしくは国内法に基. が 確実 と な り か つ 継続 す る た め に,当然 に. づいて取得した既得権(vested rights)との間. (necessarily)消滅するハワイの条約に代わっ. における混同を強く指摘することである.国. て合衆国の条約が併合地に拡大することであ. 家の現行諸条約は他の国家への併合により消滅. る.このために,ハワイの現行諸条約の終了は. するという公法原則はハレックにより明確にさ. 先行条件として詳しく述べられているのであ. れている. 『条約上の義務は,その規定のある. る.併合条約がそれらの条約文書を廃棄するわ. ものが期間につき永続的なものである場合で. けではなく,それらを消滅させるのは,ハワイ. あっても,締約国のいずれかが独立国家として. が独立の締約国としては消滅するという事実で. の存在を失う場合,あるいは,国内憲法が根本. ある.. 的に変更し条約を新しい事態に適用することが. 既得権に関して,もしハワイにおける日本も. 不可能になる場合には消滅する. 』 (Halleck’s. しくは日本臣民のための権利が確立されている. International Law. Ch. 18, Sec. 3599))ま た,. のであれば,事情は異なる.私が 16 日附の覚書. Wheaton, Elements of International Law の 第. のなかで述べたこと ,『提案されている条約の中. 275 節参照100).述べられている条件の双方が一. に日本の権利に不利益となるものは何もない』. 国のまたはその領域の他国への併合には備わっ. ということを繰り返す.条約はさまざまな方法. ている.…問題は,一国が消滅して他の国家に. で終了可能である.貴国の抗議が関連している. 併合されるという二国家の完全な結合(union). と思われる日本とハワイとの間の 1886 年の条約. に関するものである.ヨーロッパ,アメリカ,. はいずれかの当事国による 6 ヶ月の通告に基づ. 全世界の歴史には遠い過去から現在にいたるま. いて廃棄可能である.しかし,国内法の廃止は. で,独立国が他国の強制的もしくは任意的な併. その規定に基づいて取得された財産権に影響を. 合によって独立国でなくなり,それにともなっ. 及ぼすものではないと同様,1886 年の条約の消. て独立国の他の国家との条約が消滅した多くの. 滅はその規定に基づいて以前に取得されたいか. 実例がある.この結果を生じさせるために,正. なる既得権を消滅させるものではない . 」 ⑶ アメリカによるハワイ併合の反対の撤回と. 式の併合条約における規定が必要となるわけで ・. ・. ・. ・. は な い.事実上 の(de facto)併合 に そ れ が 伴. 101). 帝国臣民の利益保証要求. うからである.ハノーバーのプロシア王国への. 在米帝国公使は 12 月 22 日に国務長官宛の口. 強制併合は直ちにハノーバーの以前の条約を失. 上書において,帝国政府はあくまでも併合に反. 効させた.合同決議によるテキサスのわが連合. 対するものではないけれども,併合の際には,. (Union)の州への加入はテキサス独立共和国. 他国の通商航海および人民に適用しない差別待. の諸条約を消滅させた.マダガスカルをフラン. 遇は日本の通商航海および臣民に対しても均し. スの植民地である旨宣言する最近のフランス法. く之を設定又は維持しないこと,また,ハワイ. はその王国の旧諸条約を終了させた.条約を決. における日本移民の拒絶および日本酒に対する. 定するのは併合の事実であって,併合の態様で. 差別的課税問題に関する日本ハワイ間の懸案が. はない.併合国の現行諸条約が取得した領域に. 満足なる解決を得る前に併合成立した場合に. 拡大されることになるわけではない.ドイツ帝. は,米国はハワイが日本に対し有する責務を負. 国の諸条約はフランスから譲渡されたアルザス. い日本の要求を満足させるや否やにつき確答を. およびロレーヌ地域へ適用されると考えられて. 得たい旨の申し入れを行った102).. いるわけではない.. そ れ に 対 し て,国務長官 は 明治 31 年 1 月 8. ハ ワ イ の 併合条約 が 提案 し て い る こ と は,. 日附の口上書でもって以下のような回答を行っ.
(15) 条約の承継に関する第 2 次大戦前の日本の実行(森川). (195). 15. た.すなわち,米国政府は,日本が実際の損害. 恵国待遇を受けている国,すなわち,ドイツ,. に対する正当な要求を有する場合,併合により. ア メ リ カ,オース ト リ ア・ハ ン ガ リー,ベ ル. 当該要求に対するすべての責任が消滅するとす. ギー,清国,デンマーク,フランス,イギリス,. れば, 日本にとって不当なこととなるであろう.. イタリアおよびロシアの各政府に対して,韓国. しかしながら,米国政府はあらかじめ日本の抗. 併合を通告するとともに「宣言」を行い,以下. 議に理由があることを認めることはできない.. の方針に従って外国人および外国貿易に関する. 米国政府は併合成立するにいたれば,行政部が. 事項を処理することを表明した.. 国際交渉について有する憲法上の権限を行使し て日本政府と本問題に関する商議を開始し,商 品輸入に関し有する権利侵害に対し構成する損. 「一 韓國 ト 列國 ト ノ 條約 ハ 當然無効 ニ 帰 シ, 日本國ト列國トノ現行條約ハ其ノ適用シ得 ウル限朝鮮ニ適用セラルヘシ. 害賠償またはハワイ政府の日本移民拒絶に対す. 朝鮮ニ在留スル諸外國人ハ日本法權ノ下. る権利主張につき,もし以上の権利主張が正当. ニ於テ事情ノ許ス限日本内地ニ於ケルト同. な理由に基づくときは公平無視の精神でもって. 一ノ權利及特典ヲ享有シ且其ノ適法ナル旣. 交渉案件に接するはずであるから,かならずや. 得權ノ保護ヲ受クヘシ. 平和的解決に達するであろう.日本政府の抗議. 日本帝國政府ハ併合條約施行ノ際現ニ朝. の主要論点である第一の件に関しては,本件は. 鮮ニ於ケル外國領事裁判所ニ繫屬スル事件. 併合の際には立法部たる議会の行為を必要とす. ハ最終ノ決定ニ至ル迄其ノ裁判ヲ續行セシ. る問題であるから米国政府は自己の意見もしく. ムルコトヲ承諾スヘシ. は政策を表明することにより立法部を制限する. ニ 日本帝國国政府ハ從來ノ條約ニ關係ナク. 権限はないと103).. 今後十年間朝鮮ヨリ外國ニ輸出シ又ハ外國. 1897 年のアメリカ・ハワイ併合条約は上院. ヨリ朝鮮ニ輸入スル貨物及朝鮮開港ニ入ル. を通過する見込みが立たないため撤回された.. 外國船舶ニ對シ現在ト同率ノ輸出税及噸税. 併合条約に代わって,ハワイ併合に関する両院. ヲ課スヘシ. 共同決議案が 1898 年 5 月 4 日に下院に提出さ. 朝鮮ヨリ日本ニ移出シ又ハ日本ヨリ朝鮮. れ,7 月 6 日上院 を 通過 し,7 月 7 日大統領 の. ニ移入スル貨物及朝鮮開港ニ入ル日本船舶. 裁可をえた.合衆国代表者は上記決議をハワイ. モ亦今後十年間前項ノ貨物及船舶ニ對スル. 共和国大統領に交付し,それに対して大統領は ハワイ諸島の主権を合衆国に譲与した104).. ト同率ノ課税ヲ受クルモノトス 三 日本帝國政府 ハ 今後十年間日本國 ト ノ 條 約國ノ船舶ニ對シ朝鮮開港間及朝鮮開港ト. 105). 4.韓国併合. 日本開港間ノ沿岸貿易ニ從事スルヲ許スヘ. ⑴ 韓国併合の通告と宣言. シ. 帝国は韓国に対し明治 38 年(1905 年)以来. 四 從來ノ開港場ハ馬山浦ヲ除クノ外舊ニ依. 保護関係を設定し同国の外交関係および事務を. リ之ヲ開港トナシ更ニ新義州ヲモ開港トシ. 監理指揮 し て き た が,明治 43 年(1910 年)8. 内外船舶ノ出入及之ニ依ル貨物ノ輸出入ヲ. 月 22 日日韓両国間に「韓国併合に関する条約」. 許スヘシ106)」. が成立し,韓国の統治権は完全且永久に帝国に. 2)上記併合通告および宣言とともにこれら諸. 譲与された(第 1 条) .同条約は両国元首の裁. 国駐在帝国使臣をして任国政府に対し在韓各国. 可を経て 8 月 29 日に公布実施された.. 居留地及び清国専管居留地の行政については当. 1)帝国政府 は 日韓併合条約 の 公布 に 先立 ち,. 分の内警察を除く外現状を維持することを申し. 韓国との間に条約を有しまたは韓国において最. 入れさせた.これとは別に,米国政府に対して.
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