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棚田の担い手に着目した山村集落の持続可能性の検討ー福岡県うきは市の内ヶ原集落を対象に [ PDF

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Academic year: 2021

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2-1 1.はじめに 1-1.研究の背景と目的  近年,日本で今後予測される急速な人口減少は多数 の自治体の消滅を招くといわれ問題となった*1 。山村 集落では,以前から深刻な過疎化や少子高齢化が進行 しており,人口が限界に達した集落の消滅が危惧され てきた。一方でその消滅論を批判する意見として,現 代では人々の行動範囲の拡大によって山村集落は近隣 都市と一体的な生活圏を形成しており,集落住民の子 孫は近隣都市に居住して親を支え,将来的には後継者 となる可能性もあるため,山村集落は消滅しないとい う見解*2 (以下,持続論)も示されている。  本研究では人口減少による集落消滅論を疑問視し, 持続論の視点に基づいた集落の持続可能性の検討を行 う。山村集落の営みにおいて重要な要素である,棚田 の耕作に注目し,特にその担い手について考察するこ とを目的とする。 1-2.分析の視点と研究の方法  本研究では「人」および「棚田」を分析の対象とす る。2 章では,研究対象集落における住民および棚田 の現状を把握する。続く 3 章では持続論に基づく集落 の近隣都市の子孫の分析,4 章では集落の棚田保全に 関わる棚田オーナーの分析を行い,それらが集落の棚 田の営みに貢献し得る可能性を検討する。その結果を ふまえ,5 章では山村集落の持続モデルの考察を行う。  研究方法は集落住民や子孫へのヒアリング調査を中 心にしており,加えて現地調査や農地に関する資料分 析を行った。 1-3.研究対象集落の概要  内ヶ原集落は福岡県南部のうきは市浮羽町新川地区 に位置し(図 1),耳納連山の山あいに独立した集落 空間を形成している。山間部の集落の中では吉井町の 市街地に近く,利便性はやや高い。地区内において人 口は比較的多いが,深刻な過疎高齢化が進んでおり, 衰退の著しい現代の山村集落の典型である。 2.集落の危機的現状 2-1.減少を続ける集落住民 2-1-1.人口・世帯数の推移  内ヶ原集落では,現在 28 世帯 53 人が暮らしている。 人口は昭和 54 年に最大となり,その後は縮小を続け ている。一方で世帯数は,昭和 54 年に急減した後に 大きな変化はなく,平成 19 年ごろまでは一定数が維 持されてきた。これは,集落住民の主要な生業であっ た林業が木材輸入の自由化による国産材の価格下落に より急速に衰退し,若い世代の都市部への流出が進行 して人口が減少する一方で,親世代は集落にとどまり 世帯数を維持してきたことによるものである。しか し,近年はその親世代の死亡または介護施設等への転 居が増えはじめ,世帯数も再び減少傾向にある(図 2)。 2-1-2.人口構成  集落住民の高齢化率は 64.2%,平均年齢は 68.9 歳 である。特に 80 代に集中しており,超高齢化してい る。世帯構成は単身世帯が最も多く半数以上を占めて おり,さらにそのうちの半数以上が 80 代である。今 後の 10 年間でこの年齢層の多くが集落を去り,人口・ 世帯数ともに減少が加速することが予想される。ま た,40 代以下の世代はわずか 4 名であるため,住民 は明らかに存続の危機にある(図 3)。 2-2.限界に近づく棚田の耕作 2-2-1.棚田の規模と生産力

棚田の担い手に着目した山村集落の持続可能性の検討

-福岡県うきは市の内ヶ原集落を対象に-

佐々木 悠理 図 2 内ヶ原集落の人口・世帯数の推移 0 10km 大分県 佐賀県 福岡市 朝倉市 日田市 久留米市 内ヶ原集落 うきは市 筑紫野市 八女市 図 1 内ヶ原集落と近隣都市の位置 100 ( 世帯 ) 80 60 40 20 0 200 ( 人 ) 160 120 80 40 0 H19 H22 H15 H10 H5 H1 S59 S54 H27 世帯数 ( 年 ) 人口

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2-2  集落の棚田は過疎高齢化の進行とともに大幅に縮 小 し, 分 散 的 に 残 る( 図 4)。 現 在 耕 作 さ れ て い る 棚田は 71 枚,総面積は約 4ha である。1 枚当たりの 面積は 10a 以下の小規模なものが多く(図 5),生産 効率は低い。棚田の総面積に対する米の想定収量は 14,760 ㎏で,これをすべて農協に出荷した際の収入 は約 300 万円である。また,総面積に対する農作業労 働を賃金に換算すると 175 万円となる*3 。耕作にかか る諸費用を考慮すると,集落内の全ての棚田を耕作し ても 1 世帯を賄う年収ほどの金額にも満たず,条件が 厳しく労力のかかる棚田耕作の実態に見合わない低額 である。これより,現代において山村集落の棚田の米 生産では農業経営が成立しないことは明らかである。 2-2-2.住民の担い手  現在,集落で棚田を耕作するのは 11 世帯 13 人であ り,半数以上の世帯がすでにやめている。1 軒当たり の耕作面積は大半が 50a 以下と小規模である(図 6)。 耕作者のうち 4 人は 80 代以上のため近年中のリタイ アが予想されるが,9 人は 60 代以下のため,当面は 彼らが耕作を担うことが予想される(図 3)。しかし, たとえ後継者のいる世帯であっても,今後の棚田の維 持に不安や諦めを感じている状況である。今後棚田を 維持していくためには,住民のみが耕作を担う現状か らの転換を図る必要がある。 2-3.集落持続のための住民の取り組み  このような厳しい状況の中でも,内ヶ原集落では持 続に向けた住民の努力がみられる。住民有志のグルー プが,耕作が困難となった集落内の田を無償で借り受 けて代理耕作を行っている。現在は約 60a を請け負い (図 4),さらにその一部を棚田オーナー制度に活用し ている。内ヶ原集落では,これらの集落の持続に向け た新たな取り組みを,行政の支援を受けずに全ての運 営を住民のみで行っている。このように,集落の営み を持続する意志を持ち自立的に活動する住民の存在 は,集落の持続を考える上で特に重要である。 3.集落外に在住する子孫の検討 3-1.集落の近隣都市に住む子孫の把握  内ヶ原集落では,住民の子孫で現在集落外に在住す る子どもが 67 人,孫は 106 人が確認された。子ども の年齢層は 40 ~ 60 代が大半を占め,中でも 50 代に 集中している。子どもは就職を機に集落を離れて都市 部に移動した人が大半であり,近年中に定年退職等で 生活の転換期を迎える人が増えていくことが予想され る。孫はすべて 30 代以下で,20 代に集中している。 孫はほとんどが集落で生まれ育った経験を持たない 図 5 棚田 1 枚当たりの面積の分布 図 6 集落住民の耕作面積の分布 150 200 250 300 350 400 0 10 0 2 4 6 8 12 14 16 18 20 ・・・ (m) (a) ( 標 高 ) 図 4 内ヶ原集落の現在の棚田の分布 0 100 200 m 畑・果樹園 宅地 谷川 a c b a 0 1km 集落全図 ※ c は居住域から離れた  山中にある農地 放棄地 は住民有志の 代理耕作田 田 ※ b c 図 3 集落住民の人口構成と棚田の耕作者 0 2 4 6(人) 55~59 60~64 65~69 70~74 75~79 80~84 85~89 90~ 45~49 50~54 6 4 2 0 女性 男性 棚田の耕作者 リタイア想定 30~34 35~39 40~44 ( 年齢 ) 25~29 15~19 20~24 0~4 5~9 10~14 0 1 2 3 0~9 10~19 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 (人) (a) 4

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2-3 が,親の帰省に同伴して集落を訪れている。  さらに,集落外に在住する子孫は約 9 割が集落の近 隣都市に在住していた(図 7)。うきは市内,筑後地域, 福岡市周辺にそれぞれ 20 人程度が在住しており,関 東・関西圏等の遠方在住者はわずか 1 割であった。多 くの子どもは,集落を離れた後も親の住む集落へ自動 車で通える範囲内に住んでいることがわかった。 3-2.子どもの帰省頻度  集落の近隣都市に在住する 6 割の子どもは盆正月以 外にも定期的に集落へ帰省しており,3 割の子どもは さらに頻繁に月 1 回以上の帰省をしている。子ども の帰省頻度は居住地が集落に近いほど高い傾向にあ り(図 8),性別や生まれ順による傾向は特にみられ なかった(図 9)。帰省目的は棚田の手伝いをはじめ, 高齢となった親の世話や介護,家や農地の管理等であ る。ヒアリングでは,親の高齢化が進むほど子どもの 帰省頻度が高くなる傾向も確認された。 3-3.棚田の営みを支える子ども  棚田の耕作を手伝う子どもは 6 世帯 7 人が確認され た(図 9)。息子に加え,娘婿が手伝う例もみられた。 高齢の親に代わって子どもが耕作の主体を担っている 場合,子どもはうきは市内在住で帰省頻度は高い。親 の補助の場合,子どもはうきは市内~福岡市周辺に在 住しており,田植えと稲刈り時に帰省する人が多い。 またヒアリングでは,以前子どもが親に代わって耕作 を担っていたが,福岡市在住のため継続が難しく断念 したというケースもあった。これらより,集落外在住 の子どもが棚田の耕作を支援する場合,その貢献度は 居住地と集落の距離に影響すると考えられる。 3-4.まとめ  前章より集落住民は少子高齢化が極限まで進行し, 今後もさらなる人口減少が見込まれるため,住民の存 続は危ぶまれる。しかし,集落を離れていても住民の 子孫はその多くが集落の近隣都市に在住し,定期的に 集落へ帰省している。棚田の耕作を手伝う子どももみ られ,その貢献度は居住地に関わる。しかし,一方で 子どもの帰省はあくまで親の支援に限定されている側 面もある。実際,将来的に集落に U ターンして後を継 ぐ予定の子どもは確認されておらず,将来親が集落を 去った後に子どもが棚田を継ぐ目途は立っていない。  以上より,集落の近隣都市に在住する集落住民の子 孫は,現在集落の棚田の営みを支えており,今後の持 続に対してもポテンシャルを持つと考えられる。しか し,将来的に親から引き継ぎ,営みを担っていく可能 図 7 集落住民 + 近隣都市在住の子孫の人口構成 図 8 集落外在住の子どもの居住地と帰省頻度の関係 図 9 各世帯における集落外在住の子どもの特性と帰省頻度 月 1 回以上 数ヶ月に 1 回 盆・正月 年 1 回未満(頻度) 0 10 30 50

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(km) … うきは市内 ~ 筑後地域 ~ 福岡市周辺 ~ 九州他 ~ 九州外 1 1 1 2 2 2 2 2 2 高 低 ※〇内の数字は人数 0 4 8 12 0~9 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 10~19 70~79 80~89 90~ 16 20 24 28 32 36 (人) (歳) 住民 子ども 40孫 78,74 50 53 78 54 50 85 56 61 54 58 n : 住民の年齢 月1回以上 数ヶ月に 1 回 盆・正月 89, 57,57 30 31 82 50 53 m : 子の年齢 男 女 年齢 10 30 50 (km) 0 ℓ: 子の居住地と集落の距離 63,63 40 38 30 84, 59 57 55 71,68 42 45 84 62 60 57 72 48 44 46 86 62 57 68 47 45 帰省頻度 91, 64,63 39 37 34 83 52 51 主 補 85 85 55 58 52 主 補 補 補 補 補 主 親に代わる 耕作の主体 親の耕作の 補助 … … a. ~ f.: g. ~ t.: 集落外在住の 子どもが棚田 の耕作を手伝 う世帯 それ以外の 世帯 n m 高 低 ℓ a. b. c. d. e. i. j. k. l. m o. p. q. r. s. 86,83 62 57 t. 72,67 46 42 n. f. 68,67, 37,37, 1 4746 g. h. 83 63 58 60

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2-4 性は現時点で予測できないため,彼らの存在のみで棚 田の担い手の課題は解決には至らない。 4.棚田オーナーの検討 4-1.稲作の担い手としての不適  棚田オーナー制度は,過疎化で棚田の担い手が不足 する農村において,オーナー契約を結んだ都市住民が 稲作に参加する都市農村交流事業であり,棚田保全の 手段として全国的に広く取り組まれている。内ヶ原集 落では現在 10 組の棚田オーナーが在籍している。オー ナーは年会費 4 万円を支払うことで年 4 ~ 5 回の農作 業体験や交流イベントに参加し,60 ㎏の保証米を受 け取る仕組みである。  当初はオーナーの稲作への貢献が期待されたが,実 際はオーナーが農作業に参加する面積は小さく,人数 に対して不十分である。また,作業回数は年 2 回にと どまり,技術を修得する機会も設けられていない。さ らに,集落住民は交流イベントでオーナーをもてなす ために多大な労力を費やしており,彼らの農作業の負 担にもなりかねない。これらより,内ヶ原集落の棚田 オーナー制度ではオーナーの稲作への貢献度は低く, 将来的にオーナーが集落の棚田の担い手となることは 見込めないと考えられる。 4-2.米生産を安定的に支える新たな役割  一方で,米の取引に着目すると,オーナーには保証 米に追加して集落住民から米を購入する人が多くみら れた。概算すると,集落はオーナーに年間約 1500 ㎏ の米を直売し,約 70 万円の収入を得ていることにな る(図 10)。これは,一般的な米の出荷額に比べると 2 倍に近い金額である。また,オーナーは入会時から 10 年以上継続している人が多く,長年にわたる交流 を通して集落住民との信頼関係が築かれている。前章 より棚田の米生産は市場経済において厳しい状況にあ る中,棚田オーナーは,生産者の顔がみえる価値を理 解し,信頼関係の上で適切な価格で米の取引ができる 顧客である。また,不安定な市場において,生産米に 対する安定的な販路の確保は重要である。これより, 棚田オーナーは消費者として集落住民の棚田の営みを 支えていると言える。 5.山村集落の持続モデルの考察  本章では,これまでの検討に基づいた山村集落の持 続モデルの考察を行う(図 11)。前提として,住民が 集落持続の意志を持ち,彼らの自立性を尊重した上 で,住民の継続性を最大限保持することとする。棚田 の担い手については,住民に加えて外部人材が必要で ある。外部人材は集落の近隣都市の子孫が望ましい が,子孫だけでは人数を確保できないため,第 3 者の 参入を受容れる必要がある。近年高まる農業や自給的 な暮らしへの関心から,近隣都市在住の棚田耕作希望 者が見込まれる。外部人材は①責任生産タイプ,②作 業支援タイプを設ける。①は住民が担いきれない農地 を受け持ち,自立を目標として主体的な耕作を担う。 住民および①で組織化し,経験値の高い住民が統括を 担う。農地を受託して一括管理を行い,各人に割り当 てる。①は農地の管理のために高頻度で集落へ通うこ とが求められるため,距離の近いふもとの都市在住者 が想定される。住民の減少に伴って人数が拡充される ことが望ましく,将来的に住民となることも期待される。  次に,②は特定の農地を受け持たず,農作業時に必 要に応じて住民および①の支援を行う。②で構成した 組織から住民および①へ人材を派遣する。②は①より も負担が少なく頻度は低くてもよいため,周辺の大都 市圏在住者が想定される。②で経験を積んだ後に①に 移行することも期待される。  両組織ともに,個別事情に適合した農地や人材の配 置が重要である。また,住民が主導権を取り両組織を 一体的に運営することで,住民主体の持続モデルが構 築され得ると考える。  山村集落の持続においては,集落の住民が彼らの将 来について議論し,近隣都市の人々との関係性を主体 的に築いていくことが重要である。 注 ) *1 増田寛也「地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 -」中央公論新社 ,2014 *2 徳野貞雄 他「暮らしの視点からの地方再生」九州大学出版会 ,2015 *3 平成 27 年度標準農作業賃金表 , うきは市農業委員会 図 10 内ヶ原集落と棚田オーナーの関係 図 11 山村集落の持続モデル 棚田オーナー 内ヶ原集落 現金:700,000 円 会費 (40,000 円 × 10 組 = 400,000 円) +追加購入代金 (10,000 円 × 30 袋 = 300,000 円) 米:1500kg 保証米 (60 ㎏ × 10 組 = 600 ㎏) + 追 加 購 入 米 (30 ㎏ × 30 袋 = 900 ㎏) 安定した需給関係 A:責任生産グループ B:作業支援グループ 連携 ⅰ 耕作モデル ⅱ 居住地モデル 周辺の 大都市圏 オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ 集落の住民 ①責任生産タイプ ②作業支援タイプ 棚田オーナー 農地 帰農希望者,農業愛好者, アクティブシニア など ボランティア愛好者, 会社員,学生 など 50 km 10 km ふもとの 都市圏 集落 ※追加の米は 10,000 円 /30kg で販売

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