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視覚誘発感情の競合的処理過程 [ PDF

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Academic year: 2021

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はじめに 私たちは日常生活においてさまざまな感覚情報に基づ いて感情を喚起されることが多い。私たちはこのような 情報に対して素早く検出や弁別を行ったり,評価判断を 下したり,時には感情情報への反応を抑制しなくてはな らない。本研究の実験 1・2 では,恐怖感情刺激として 甲殻類を用いてGo/ No-go 課題を行い,刺激と反応の間 に競合が生じた場合の視覚処理の個人差を検討した。さ らに,実験 3・4 ではさまざまな種類の感情画像を用い て評定課題を行い,感情刺激と感情判断の間に競合が生 じる場合の視覚処理を検討した。 実験1 実験1 では,個人差が大きいと考えられる甲殻類に対 する恐怖を取り上げ,このような恐怖対象と反応の間に 競合が生じるのかを弁別課題を用いて検討した。もし競 合が生じるならば,甲殻類恐怖群では甲殻類に反応しな いことが求められる試行において甲殻類呈示の影響が見 られると予測される。 方法 参加者 弁別課題に先立って行われた質問紙調査によ って恐怖群・統制群が割り当てられ,恐怖群11 名,統 制群12 名が実験に参加した。 装置 刺激の呈示にはパーソナルコンピュータ

(EPSON Endeavor MR4300E)とディスプレイ(EIZO CG223w)を用いた。実験は Matlab と Psychophysics Toolbox を使って制御された。 刺激 視覚刺激は4 種類の甲殻類(エビ,カニ,フジツ ボ,ヤドカリ)の模型を撮影した画像160 枚と,4 種類 の乗り物(車,電車,バイク,飛行機)の模型を撮影し た画像160 枚の合計 320 枚のカラー画像であった。各模 型は10 種類の自然場面(草,石など)または 10 種類の 人工場面(本棚,机など)に設置され撮影された。 手続き 参加者の課題は,あらかじめ指定されたターゲ ットを画像中に見つけたら,なるべく早く反応を行うと いうGo/No-go 判断(e.g., Thorpe et al., 1996;

Wichmann et al., 2010)であった。1 試行の流れを図 1 に示す。 ターゲットは甲殻類か乗り物のどちらかのカテゴリー であることがブロック開始前に参加者に告げられた。タ ーゲットのカテゴリーはブロック内で固定されていた。 各参加者はどちらかのターゲットについてまず160 試行 を行い,その後もう片方をターゲットとして160 試行を 行った。 分析 正答反応時間,誤答率,検出感度(d')を甲殻類 と乗り物ターゲットごとに計算した。これに加えて競合 過程を詳細に検討するため,EZ 拡散モデル (Wagenmakers et al., 2007)を用いて分析を行った。 正答反応時間,平均誤答率,d'に加えて,EZ 拡散モデ ルの3 つのパラメータそれぞれについて群間比較の両側 t検定を行った。 図1. 各試行の模式図。図は甲殻類ターゲットあり試行 で正答した例である。 結果と考察 乗り物であるバイクをターゲットまたはディストラクタ として呈示した試行は平均誤答率が20%と高く,全て分 析から除外した。誤答試行と外れ値(全体の3.7%)を 分析から除外した。各ターゲットに対する非決定時間・ 境界間距離を図2A・B に示す。 非決定時間についてt検定を行ったところ,ターゲッ トが乗り物の時,恐怖群は統制群よりも有意に大きな値

視覚誘発感情の競合的処理過程

キーワード:感情,恐怖,ディストラクタ,競合 行動システム専攻 小代 裕子

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を示した(t(21) = 2.41, p = .03, d = 1.0)。境界間距離に ついてt検定を行ったところ,ターゲットが乗り物の時, 恐怖群よりも統制群の方が有意に大きな値を示した (t(21) = 3.001, p = .007, d = 1.25)。 これらの結果から,甲殻類恐怖群では恐怖対象に対し て反応を行わない試行において恐怖の影響が見られるこ とが明らかになった。 図2. 実験 1 における各ターゲットに対する(A)非決定 時間,(B)境界間距離(n = 23)。エラーバーは SE を示 す。 実験2 実験1 の結果から,甲殻類恐怖においては恐怖対象が ターゲットではない試行で恐怖対象と反応の間の競合が 生じ,ニュートラルなターゲット処理の遅延が見られる ことが明らかになった。しかし,乗り物ターゲットの形 態的特徴が反応に影響した可能性がある。そこで実験2 では,ターゲットなし試行でディストラクタの模型を呈 示しない条件で実験を行った。 方法 参加者 検出課題に先立って行われた質問紙調査によ って恐怖群・統制群が割り当てられ,恐怖群13 名,統 制群14 名が実験に参加した。恐怖群のうち 3 名は実験 1 にも参加した。 装置と刺激 実験に用いた装置は実験1 と同じあった。 実験の制御も実験1 と同様に行った。刺激に関しては, 以下の点を除き実験1 と同じであった。ターゲットあり 試行では,甲殻類(エビ,カニ,フジツボ,ヤドカリ) の模型を写した画像80 枚,乗り物(車,電車,飛行機) の模型を写した画像80 枚,計 160 枚のカラー画像を用 いた。実験2 ではバイクの模型画像は用いなかった。タ ーゲットなし試行では,上記の画像と同じ風景で模型を 設置していない画像40 枚をそれぞれ 4 回呈示した。 手続きと分析 実験1 と同じであった。 結果と考察 誤答試行と外れ値(全体の9.4%)を分析から除外し た。各ターゲットに対する非決定時間・境界間距離を図 3A・B に示す。 非決定時間についてt検定を行ったところ,甲殻類・ 乗り物ターゲットいずれの場合でも両群の間に有意差は 見られなかった(それぞれt(25) = 0.14, p = .89, d = 0.05; t(25) = 0.62, p = .54, d = 0.24)。境界間距離につい てt検定を行ったところ,ターゲットが甲殻類・乗り物 いずれの場合でも両群の間に有意差はなかった(それぞ れt(25) = 1.28, p = .21, d = 0.49; t(25) = 1.48, p = .15, d = 0.57)。 これらの結果から,実験2 においては実験 1 とは異な り恐怖特性はターゲットの検出に影響を及ぼさないこと が明らかになった。したがって,実験1 で見られた甲殻 類ディストラクタによる反応の遅延はターゲットの形態 的特徴によるものではないと考えられる。したがって実 験1・2 の結果から,甲殻類恐怖のように個人差が大き な恐怖対象に関しても,感情刺激と反応の間に競合が生 じることが明らかになった。 図3. 実験 2 における各ターゲットに対する(A)非決 定時間,(B)境界間距離(n = 27)。エラーバーは SE を 示す。 実験3 感情評定項目をネガティブ・ポジティブより詳しく設 定した場合に,感情刺激と感情判断の間で競合が見られ るかは分かっていない。そこで実験3 ではさまざまな感 情をもたらす刺激を継時的に呈示し,感情刺激と感情判 断の間に競合が生じるかを検討した。 方法 参加者 15 名の大学生・大学院生が実験に参加した。 実験3 に参加した 15 名のうち 2 名が実験 2 にも参加し た。 刺激と装置 刺激の呈示と実験の制御は実験1・2 と同

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様に行った。視覚刺激にはIAPS(Lang et al., 2008)の 画像を用いた。刺激画像の選択にあたり,感情価が4 よ り下のものからネガティブ画像64 枚,感情価が 5 以上 6 より下のものからニュートラル画像128 枚,感情価が 7 以上のものからポジティブ画像64 枚,合計 256 枚の画 像を選んだ。この256 枚の画像を 4 つのセットに分け, 1 セットにつきネガティブ画像 16 枚,ポジティブ画像 16 枚,ニュートラル画像 32 枚とした。 手続き 参加者の課題は,ディストラクタ画像を無視し, ターゲット画像の幸福・恐怖・嫌悪・不安の度合いを7 段階で評価するという評定課題であった。1 試行中に計 2 枚の画像が継時的に呈示されるが,このうち 1 枚の画 像をターゲット画像として指定した。刺激の呈示順序は 4 種類あり統制を行った。分析に用いたのはターゲット がニュートラルであった試行のみであった。 実験計画 実験は,ディストラクタの感情価(2: ポジ ティブ・ネガティブ) ディストラクタの呈示順序(2: デ ィストラクタが先に呈示されるか・後に呈示されるか) の2 要因参加者内計画で行われた。 平均評定値を幸福・恐怖・嫌悪・不安の評定項目ごと に計算した。評定項目ごとの平均評定値について感情価 順序の2 要因参加者内分散分析を行った。 図3. 実験 3 における (A) 幸福評定の平均値,(B) 恐怖 評定の平均値, (C) 嫌悪評定の平均値,(D) 不安評定の 平均値(n = 15)。エラーバーは SE を示す。 結果と考察 各参加者の評定項目ごとの平均評定値を図3A-D に示 す。分散分析の結果,全ての評定項目において感情価の 主効果が有意であった。この結果から,幸福・恐怖・嫌 悪・恐怖すべての評定課題において,感情刺激と感情判 断の間に競合が生じ,感情平均化が生じることが分かっ た。これは,幸福評定ではポジティブ画像とニュートラ ル画像の処理が競合し,感情平均化が生じたこと,恐怖・ 嫌悪・不安評定ではネガティブ画像とニュートラル画像 の処理が競合し,感情平均化が生じたことを意味する。 実験4 実験4 ではニュートラル画像と同時に呈示された感情 画像の処理が競合し,感情平均化が生じるかを検討した。 方法 参加者 実験1,実験 2,実験 3 のいずれにも参加して いない15 名の大学生・大学院生が実験に参加した。 刺激と装置 画像の大きさを除いて実験3 と同じであ った。 手続き 参加者の課題は実験3 と同様に,ディストラク タ画像を無視し,ターゲット画像の幸福・恐怖・嫌悪・ 不安の度合いを7 段階で評価することであった。1 試行 中に計2 枚の画像が同時に上下に呈示されたが,このう ち1 枚の画像をターゲット画像として指定した。刺激の 呈示位置は4 種類あり統制を行った。分析に用いたのは ターゲットがニュートラルであった試行のみであった。 実験計画 実験は,ディストラクタの感情価(2: ポジ ティブ・ネガティブ) ディストラクタの呈示位置(2: デ ィストラクタが上に呈示されるか・下に呈示されるか) の2 要因参加者内計画で行われた。 平均評定値を幸福・恐怖・嫌悪・不安の評定項目ごと に計算した。評定項目ごとの平均評定値について感情価 位置の2 要因参加者内分散分析を行った。 結果と考察 各参加者の評定項目ごとの平均評定値を図4A-D に示 す。分散分析の結果,恐怖と嫌悪の評定においてのみ感 情価の主効果が有意であった。この結果から,同時呈示 では恐怖と嫌悪の評定においてのみ感情刺激と感情判断 の間に競合が生じ,感情平均化が見られることが分かっ た。これは,恐怖と嫌悪の評定ではネガティブ画像とニ ュートラル画像の処理が競合し,感情平均化が生じたこ とを意味する。

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図4. 実験 4 における (A) 幸福評定の平均値,(B) 恐怖 評定の平均値, (C) 嫌悪評定の平均値,(D) 不安評定の 平均値(n = 15)。エラーバーは SE を示す。 総合考察 実験1~4 の結果から,個人差の大きな甲殻類恐怖にお いても恐怖対象と反応の間に競合が生じること,感情刺 激と感情判断の間に競合が生じ感情平均化が起こること が明らかになった。 実験1・2 の両方において,甲殻類恐怖による恐怖対 象の検出処理の促進は見られなかった。この結果は,イ ヌ恐怖における処理の促進を報告したTaffou et al. (2013) とは一致しない。この異なる結果には,甲殻類恐 怖が引き起こすネガティブ感情の種類の違いが関わって いるのかもしれない。より具体的には,甲殻類に対する 恐怖は,感染症などと同様に嫌悪の感情を伴うという可 能性が考えられる。恐怖と嫌悪刺激の処理過程は異なり, 課題成績に与える影響も異なる(Xu et al., 2015)と仮 定するならば,甲殻類恐怖において恐怖対象のターゲッ トに対する処理の促進が見られなかったことを説明でき る。 実験3 の結果から,継時呈示の場合は,感情刺激と感 情判断の間に競合が生じ感情平均化が起こったことが明 らかになった。ただし同時呈示実験を行った実験4 では, 恐怖と嫌悪の評定においてのみ感情刺激と感情判断の間 に競合が生じ感情平均化が起こった。この理由として恐 怖・嫌悪感情の特異性が挙げられる恐怖を感じることは 人や動物にとって不可欠であり,Bar-Haim et al. (2007) は環境に潜む危険の検出を促進し,脅威となる状況に対 して効率的に反応するために恐怖感情生起メカニズムが 備わっているとしている。嫌悪も生存のために悪臭や異 常な味によって不適当な食物を見分けたり感染症を避け るための反応と結び付いた感情であると言われている (Rozin & Fallon, 1987)。恐怖・嫌悪感情は人にとって進 化の過程で備わった重要な情動であるため,恐怖・嫌悪 の評定においてのみネガティブ画像と感情判断の間に競 合が生じやすかった可能性が考えられる。

引用文献 Bar-Haim, Y., Lamy, D., Pergamin, L.,

Bakermans-Kranenburg, M. J., & van IJzendoorn, M. H. (2007). Threat-related attentional bias in anxious and nonanxious individuals: A

meta-analysis study. Psychological Bulletin, 133, 1-24.

Lang, P. J., Bradley, M. M., & Cuthbert, B. N. (2008). International affective picture system (IAPS): Instruction manual and affective ratings [Technical Report A-6]. The Center for Research in

Psychophysiology, University of Florida, Gainesville, FL.

Rozin, P., & Fallon, A. E. (1987). A perspective on disgust. Psychological Review, 94, 23-41. Taffou, M., Guerchouche, R., Drettakis, G., &

Viaud-Delmon, I. (2013). Auditory-visual aversive stimuli modulate the conscious experience of fear. Multisensory Research, 26, 347-370.

Thorpe, S. J., Fize, D. & Marlot, C. (1996). Speed of processing in the human visual system. Nature, 381, 520-522.

Wagenmakers, E.-J., van der Maas, H. L. & Grasman, R. P. (2007). An EZ-diffusion model for response time and accuracy. Psychonomic Bulletin & Review, 14, 3-22.

Wichman,F. A., Drewes, J., Rosas, P., & Gegenfurtner, K. R. (2010). Animal detection in natural scenes: Critical features revisited. Journal of Vision, 10, 1-27.

Xu, M. S., Li, Z. A., Ding, C., Zhang, J. H., Fan, L. X., Diao, L. T., & Yang, D. (2015). The divergent effects of fear and disgust on inhibitory control: An ERP study.PLos ONE, 10, e012932. doi: 10.1371/journal. pone.0128932.

図 4.  実験 4 における  (A)  幸福評定の平均値,(B)  恐怖 評定の平均値,   (C)  嫌悪評定の平均値,(D)  不安評定の 平均値(n = 15)。エラーバーは SE を示す。  総合考察 	
  実験 1~4 の結果から,個人差の大きな甲殻類恐怖にお いても恐怖対象と反応の間に競合が生じること,感情刺  激と感情判断の間に競合が生じ感情平均化が起こること が明らかになった。  実験 1・2 の両方において,甲殻類恐怖による恐怖対 象の検出処理の促進は見られなかった。この結果は,イ

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