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自己卑下的・高揚的人物に対する好意度評価に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)自己卑下的・高揚的人物に対する好意度評価に関する研究 キーワード:自己卑下的人物,自己高揚的人物,好意度評価,卑下度−高揚度 行動システム専攻 稲富 健. 問. 題. など) ,両者に対する好意度の二対比較を実施してきた.. 近年,自己呈示研究の領域では自己卑下的人物,自己. その背景には,刺激人物の発話が自己卑下か自己高揚か. 高揚的人物に対する好意度評価について活発な議論がな. という二分法的判断によって,評価者が好意を形成して. されている.本研究の目的は,従来の研究によって看過. いるという暗黙の前提があった.. されてきた,自己卑下と自己高揚を連続量として捉える. しかし,この前提は妥当であろうか.中村(1986)は. 「卑下度−高揚度」の視点を導入し,好意度形成プロセ. 自己開示者の開示内容に含まれる自己高揚的情報,自己. スについて検討することである.. 卑下的情報の割合を5水準に操作した研究を行った.そ. 1.研究の背景. の結果,割合の変化に伴って好意度が大きく変動するこ. 他者に対する好意度評価に関して,当該他者の能力情. とを示した.この知見は,評価者が上述した二分法的判. 報が不明確な場合,西洋人は自己卑下的人物(ある評価. 断によって好意度を形成しないことを示す,間接的証拠. 次元に関して自らが劣っていると言及する人物)より自. と見なすことができる.. 己高揚的人物(自らが優秀であると言及する人物)を好. そこで本研究では自己卑下,自己高揚を二分法で捉え. 意的に評価する(Schlenker & Leary, 1982 study 1) .. るのではなく連続量として捉える「卑下度−高揚度」の. これとは対照的に,日本人は自己高揚的人物より自己卑. 視点を導入する.この概念は以下の操作に依拠する.ま. 下的人物を好意的に評価することが示されている(e.g.,. ず自己卑下,自己高揚を一直線上に捉え,且つ,両者の. 吉田・古城・加来, 1982) .この違いは,対人行動におけ. 中間にニュートラル・ポイントを仮定する.そして,そ. る文化的規範の差異(西洋文化:自らの有能性の主張を. のポイントからのズレを段階的に増減する.具体的には. 重視,日本文化: “謙遜の美徳”を重視)によって生じる. 「何らかの評価次元に関して,平均的な普通の人々の能. と解釈されてきた.以下,この解釈を文化的規範説と呼. 力を 50 点とした場合,自らの能力は何点に相当するレ. ぶ.. ベルにあるか」について,刺激人物に発話させる.この. しかし日常的な経験を顧みたとき,日本人は常に自己. 自己評価点数を平均 50 点から5点刻みで増減すること. 卑下的人物を好意的に評価するわけではない(Inadomi. で,卑下度−高揚度は操作可能となる.この操作は中村. & Yamaguchi, 2004) .また評価状況によっては,西洋人. (1986)が行なった情報量の割合に基づく操作とは異な. でも自己高揚的人物より自己卑下的人物を好意的に評価. り,1つの発話の卑下度−高揚度を直接的に操作する方. す る こ と が 示 さ れ て い る ( e.g., Wosinska, Dabul,. 法である.. Whetstone-Dion, & Cialdini, 1996).. 上述の操作に基づいて卑下度−高揚度を段階的に操. このように文化的規範説は,個々の状況における我々. 作した場合,刺激人物に対する好意度評価はどのように. の好意度評価を十全に予測・解釈するものとは言いがた. 変化するであろうか.中村(1986)は開示内容中に含ま. い.好意度評価に影響を及ぼす要因について精緻な検討. れる自己卑下的情報の割合を横軸,好意度評価を縦軸に. が要請されるが,こうした研究は数少なく(e.g., 高木,. とった場合,あるポイントを頂点とする逆U字曲線が得. 2001; Vonk, 1999),未解明な部分が多い.. られることを示している.この知見に基づくと,卑下度. そこで本研究では, このような取り組みの 1 つとして,. −高揚度においても同様に「適切な卑下度−高揚度」の. 従来看過されてきた自己卑下と自己高揚を連続量として. 範囲が見出され,ある点を頂点とする逆U字の曲線が得. 捉える視点,すなわち「卑下度−高揚度」の視点を提起. られると予測される(仮説1) .. する.. 3.評価状況からみた“適切な卑下度−高揚度”. 2.卑下度−高揚度 ほとんどの先行研究では,刺激人物の発話を自己卑下, 及び自己高揚に質的に操作し(たとえば「苦手」 「得意」. ただし,ある状況における適切な対人行動は目下の社 会的文脈に大きく影響を受ける(e.g., Holtgraves & Srull, 1989).そのため,適切な卑下度−高揚度は評価.

(2) 状況によって変動すると予想される(仮説2) .. ように,あなたは大学院生(自己高揚適切状況では人事. 4.各評価者からみた“適切な卑下度−高揚度”. 担当の人)から“何点とれるか予想してみてください”. 人は種々の対人認知活動において,自らの知識や信念. と尋ねられました. あなたは何点取れると答えますか?』. をデフォルトな基準として活用している(for review. ④評価状況の操作チェック:提示したシナリオが,自己. Nickerson, 1999) .したがって適切な卑下度−高揚度は. 卑下適切状況,自己高揚適切状況に操作されているか確. 社会的文脈の影響を受けながら,最終的には各評価者の. 認するため, 『今回提示したストーリーのような状況は,. 認知活動によって決定されると予測される.つまり,評. 「自分をよく見せたほうがいい」状況だと思いますか,. 価者はある評価状況において「自分だったらどのように. それとも「控えめに振舞ったほうがいい」状況だと思い. 振舞うか」という,自分なりの適切な卑下度−高揚度(以. ますか』という設問が用意し,7件法により測定した.. 下,自己基準)を定位していると想定される.そして,. ⑤刺激人物の予想点数の提示:以下の文章を提示した.. 評価者は評価状況に関わらず,最終的には自己基準から. 『さて,ストーリーの中で A さんは,大学院生(シナリ. みて刺激人物の卑下度−高揚度がどれだけ乖離している. オ2では人事担当の人)からの質問に対し“○○点だと. かに依拠しながら好意度を形成していると予測される. 思います”と答えました』 .文章中の○○に相当する部分. (仮説3) .. を5点間隔で 30 点∼70 点まで9段階に変更した.これ. 以上の点について,他者評価状況として自己卑下的な. は刺激人物の卑下度−高揚度(-20,-15,-10,-5,0,5,. 振る舞いが望ましいと認知されやすい状況と,自己高揚. 10,15,20)を操作するために行なわれた.. 的な振る舞いが望ましいと認知されやすい状況の2つの. 「好感が持てる−好感が ⑥刺激人物に対する好意度評価:. 評価状況を設定し,検討を行った.. 持てない」 「親しみやすい−親しみにくい」 「友達になり たい−友達になりたくない」 などの6形容詞対を用いて, 刺激人物に対する好意度を7件法により測定した.なお. 方. 法. 両極尺度であることを考慮し,分析の際には得点を-3∼ +3 に変換したものを使用した.. 調査対象者:福岡県内の大学生・大学院生 698 名(女性 367 名,男性 331 名) .年齢は 18∼28 歳(M=20.40, SD= 1.60)であった.. 結. 果. 要因計画:卑下度−高揚度(-20,-15,-10,-5,0,5, 10,15,20:9水準)×他者評価状況(自己卑下適切状 況,自己高揚適切状況:2水準)の2要因計画(共に被. 1.好意度評価尺度の検討 好意度評価尺度の6つの形容詞対に対し主成分分析. 験者間要因) .. を行い,1因子性を確認した.α係数は.86 であり,高. 質問紙構成:. い内的整合性を確認した.以降の分析では,これら6つ. ①フェイスシート. の形容詞対の単純合計値を好意度得点として使用した.. ②シナリオの提示:シナリオを2種類用意した.どちら. 2.状況操作のチェック. のシナリオも,Aさんが架空のテストである「論理的思. 提示したシナリオが自己卑下適切状況,自己高揚適切. 考テスト」に取り組む前に,自らの成績を予想する状況. 状況に操作されているか確認するため,各条件の状況特. を描写したものである.ただし自己卑下適切状況では,. 性得点を t 検定により比較した.その結果,両シナリオ. 大学院生の依頼を受けて心理実験室にて取り組む状況で. 間に有意差がみられた(t (1, 696)=10.63, p <.001) .シナリ. あり,一方自己高揚適切状況では,塾講師アルバイトの. ,シナリオ2は M =3.74(SD オ1は M =4.69(SD =0.98). 採用試験状況である.なお調査対象者には,シナリオの. =1.34)であった.. 中でAさんが自らの成績を予想することになる「論理的. 3.刺激人物の卑下度−高揚度と評価状況が好意度評価. 思考テスト」の問題の一部を提示した.これは2つのシ ナリオ間で,A さんが何について自己成績を予想してい. に与える影響(仮説1および2の検討) 好意度得点に対して,卑下度−高揚度と評価状況の2. るのかを統一するための作業である.. 要因分散分析を行った.その結果,卑下度−高揚度の主. ③自己基準の測定:調査対象者の自己基準を測定するた. ,評価状況の主効果(F (1,680) 効果(F (8,680) = 3.24, p <.01). め,次のような設問が用意された. 『あなたが A さんの. = 13.39, p <.001)が有意であった.また,2つの要因の. 立場に置かれた状況を想像してください.A さんと同じ. . 交互作用に有意傾向が見られた(F (8,680) = 1.82, p <.10).

(3) 下位検定の結果,卑下度−高揚度の-15 条件(F ,-10 条件(F 3.54, p <.10) 件(F. (1,680). (1,680). (1,680). =. = 8.83, p <.01) ,-5 条. = 4.04, p <.05) ,0 条件(F. (1,680). 5. 好. = 8.54, p. <.01)において評価状況の単純主効果が有意であった. 続いて評価状況の各条件における卑下度−高揚度の要因 の単純主効果を検定したところ,自己卑下適切状況(F (8,680). 3. 度. 2. 得. 1. 点. = 2.75, p <.01) ,自己高揚適切状況(F (8,680) = 2.29,. 4. 意. 0 -20 -15 -10. -1. p <.05)ともに有意であった.多重比較を行なった結果. -5. 0. 5. 10. 15. 20. -2. (Bonferroni 法) ,自己卑下適切状況における-10 条件と. Figure 1 自己卑下適切状況における. 20 条件,0 条件と 15 条件,-10 条件と 15 条件の間に有. 卑下度−高揚度と好意度得点の関係. 意差がみられた(Figure 1) .また自己高揚適切状況では, -20 条件と 5 条件,-15 条件と 5 条件の間に有意差がみ られた(Figure 2).. 5. 好. さらに,卑下度−高揚度と好意度得点の間に2次関数 関係があるか調べるため傾向検定を行なった.結果,そ れぞれ2次関数により最も効果的に説明されることが示 された(自己卑下適切状況:F(1,680)=7.12, p<001,自己. 3. 度. 2. 得. 1. 点. 卑下適切状況:F(1,680)=4.01, p<.05).. 4. 意. 0 -20 -15 -10. -1. 4.自己基準からの乖離と評価状況が好意度評価に与え. -5. 0. 5. 10. 15. 20. -2. る影響(仮説3の検討). Figure 2 自己高揚適切状況における. 自己基準と刺激人物の卑下度−高揚度との乖離を算. 卑下度−高揚度と好意度得点の関係. 出するため,刺激人物の自己評価得点から各調査対象者 の自己基準の差を算出した(M = -2.80,SD = 20.58,最 大値=50,最小値=-60) .次に,各条件に該当する調査対. 自己高揚適切状況. 象者数を考慮しつつ,自己基準との乖離を 10 点間隔で. 6. 分割し8条件作成した(-31 以下,-30∼-21,-20∼-11,. 5. と-20∼-11 条件,-31 以下条件と-10∼-1 条件,-31 以下. -2. 条件と 0 条件,-31 以下条件と 1∼10 条件,-31 以下条. -3. 21 以 上. 10. 20 11 ∼. -1. 0. 0 1∼. なかった.HSD 法による多重比較の結果,-31 以下条件. 点. -1. p <.001).交互作用は有意では. -1 0∼. (1,682) =11.32,. 1. 得. -1 1. あった(F. p <.001),および評価状況の主効果が有意で. 2. 度. -2 1. (7,682) =9.04,. 3. 意. -2 0∼. 要因分散分析を実施した.結果,自己基準からの乖離(F. 4. -3 0∼. 基準との乖離(8水準) 」×「評価状況(2水準) 」の2. 好. -3 1以 下. -10∼-1,0,1∼10,11∼20,21 以上) .続いて「自己. 自己卑下適切状況. 件と 11∼20 条件,-31 以下条件と 21 以上条件,-30∼-21. Figure 3 自己基準との乖離と評価状況が. 条件と-10∼-1 条件,-30∼-21 条件と 0 条件,-30∼-21. 好意度評価に与える影響. 条件と 1∼10 条件,-20∼-11 条件と 0 条件,0 条件と 11 ∼20 条件,0 条件と 21 以上条件の間に有意な差がみら れた.. 考. 続いて自己基準からの乖離と好意度得点の間に2次. 察. 関数関係があるか調べるため,傾向検定を行なった.そ の結果,2次関数により最も効果的に説明されることが 示された(F (1,682) =5.03, p <.01:Figure 3).. 仮説1・2の検討 評価状況別に卑下度−高揚度の効果を見ると,両状況 ともに予測のとおり,逆 U 字形の曲線が描かれている. また,好意度得点との間に2次関数関係が示されたこと.

(4) から,仮説1は支持されたといえる.また,自己卑下適. 必ずしも等価である保証はなく,何らかの質的な差異が. 切状況では頂点が 0∼-15 付近に存在する一方で,自己. 存在するかもしれない.今後,被験者内要因計画を用い. 高揚適切状況では+5 が頂点となっており,状況間による. て検討する必要があるだろう.. 頂点の違いが確認された.この点から仮説2も支持され る.これらの結果をまとめると,1)ある状況において 適切な卑下度−高揚度が存在し,その卑下度−高揚度か ら逸脱した刺激人物に対して低い好意度評価がなされる,. 主要引用文献. 2)適切な卑下度−高揚度は,評価状況に影響を受け変 動することが明らかとなった. 卑下度−高揚度と好意度の関係が非線形関係という ことは,仮に自己卑下的人物,自己高揚的人物の二対比 較を行なったとしても,両者の卑下度−高揚度をどのレ. 中村雅彦. 1986. 自己開示の対人魅力に及ぼす効果. (2)−開示内容の望ましさの要因に関する検討− 実 験社会心理学研究, 25, 107-114 沼崎 誠・工藤恵理子 2003 自己高揚的呈示と自己卑. ベルに設定するかによって全く異なる結論を導く可能性. 下的呈示が呈示者の能力の推定に及ぼす効果. を示唆する.従来行なわれてきた自己卑下,自己高揚の. 験室実験とシナリオ実験との相違−. 二対比較の限界が改めて示されたといえる.. 学研究, 43, 36-51. 仮説3の検討 自己基準との乖離が好意度評価に与える影響につい. Schlenker, B. R., & Leary, M. R. 1982. 実験社会心理 Audiences’. reactions to self-enhancing, self-denigrating, and. ては,乖離が小さいほど好意的な評価が形成されるとい. accurate. う傾向が頑健に見出され,またその傾向は評価状況を問. Experimental Social Psychology, 18, 89-104. わず一貫していた.したがって仮説3も支持されたとい. −実. 高木. 彩. self-presentations. 2001. Journal. of. 結果依存が自己宣伝する女性の魅力. える.この結果は,自己基準を対人魅力研究において言. に及ぼす効果 日本社会心理学会第 42 回大会発表論. 及される「態度」に相当する内的表象と見なした場合,. 文集, 520-521. 解釈可能である.かつて対人魅力研究では,自己と他者. Wosinska, W., Dabul, A. J., Whetstone-Dion, R., &. の態度の類似性が好意度評価に正の効果を及ぼすという,. Cialdini,. いわゆる類似性効果を実証してきた(e.g., Byrne, 1971;. responses to success in the organization: The costs. Newcomb, 1961) .自己基準との乖離が小さい刺激人物. and benefits of modesty. Basic and Applied Social. は,評価者に類似した態度を持つ他者と見なすことがで. Psychology, 18, 229-242. きる.この類似性効果が,今回のような評価状況におい ても影響したと解釈できよう. Figure 3 に端的に示されるように,自己基準との乖離 と好意度の関係は,評価状況間で極めて類似している. この点から,人の好意度形成プロセスは社会的文脈や文 化など様々な要因から影響を受けるが,最終的には,1) 自己基準を定位し,2)刺激人物が自己基準からどの程 度乖離しているか算出し,3)好意を形成する,という 3つのプロセスによって記述できる可能性がある. 今後, このプロセスの妥当性を様々な状況,文化において検討 する必要があるだろう.また,各評価者が定位する自己 基準の個人差は如何なる要因の影響を受けるのかについ ても検討する必要がある. 最後に,本研究の方法上の問題点を挙げておく.自己 基準との乖離が好意度評価に与える影響を検討する際, たとえば刺激人物の卑下度−高揚度 50,自己基準 70 の 場合も,刺激人物の卑下度−高揚度 40,自己基準 60 の 場合も同じ乖離-20 として等価と見なしている.しかし,. R.. B.. 1996. Self-presentational. 吉田寿夫・古城和敬・加来秀俊 1982 児童の自己呈示 の発達に関する研究 教育心理学研究, 30, 120-127.

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