24-1 本研究では、2014 年 11 月時点で筑後地域において DIY を活用して、まちづくりをすでに行っていた久留 米市の「H&A brothers」、八女市の「NPO 法人 八女空 き家再生スイッチ(以下八女空き家再生スイッチと略 す)」、大牟田市の「大牟田ビンテージのまち株式会社 (以下大牟田ビンテージのまちと略す)」の 3 団体及び、 その後の実践事例として柳川市の「柳川つなぐ人プロ ジェクト」の合計 4 団体を研究対象とした。 1.3. 調査方法 基礎情報として各地域の人口や空き家の現況を、統 計情報をもとに分析を行った。「H&A brothers」、「八 女空き家再生スイッチ」、「大牟田ビンテージのまち」 については、各団体へのヒヤリング調査、ホームペー ジ等の情報、プロジェクトに参加して直接見聞きした ことをもとに調査・分析を行った。また、「柳川つな ぐ人プロジェクト」は立ち上げ段階から参加し、実践 したことをもとに分析を行った。 1.4. 用語の定義 2. 各地域の基礎情報4)5) 今回の事例の拠点である 4 市はすべて「消滅可能性 都市」リストに記載されている。人口は近年、久留 米市の微増を除いて、5 年で 3 〜 6% ずつ減少してい 1. はじめに 1.1. 研究の背景と目的 近年、空き家が全国的に増加している。これに歯 止 め を か け よ う と、 既 存 賃 貸 物 件 の 改 修 に お い て DIY(Do-It-Yourself) を導入する方法が注目されてい る。国も 2014 年に「個人住宅の賃貸流通の促進に関 する検討会」の最終報告1)として「借主負担 DIY の 賃貸借」という新たな指針を公表した。DIY について の既往研究は、リノベーションの実施事例についての もので、空間構成の変化や住みこなしについて考察す るなどの研究が大半であり、同時に、DIY による愛着 が空き家の防止力になることが述べられてきた。他に は、ホームセンターやワークショップでの DIY の技術 的支援方法についての考察の研究もみられる。 他方、同年の「消滅可能性都市」の発表註 1)を受け て当該リストに載った都市では、より一層地方創生が 叫ばれるようになった。今後、如何に自律的で持続的 な魅力あふれる地方のあり方を築くかが急務となって いる。管見の限りでは、DIY をまちづくりに利用した 事例としての調査報告は、これまでに千葉県の高洲・ 高浜団地2)と香川県高松市中心市街地3)のプロジェ クトについてのみである。前者は、居住者がいる住宅 へのリフォーム・住宅修理サービスについて述べられ、 空き家対策の側面については述べられていない。また 後者の場合、空き家活用について述べられてはいるが、 活動の中心となる団体が無く、物件完成後の活動や継 続性については述べられていない。 今回、福岡県南部の筑後地域註 2)において、単に空 き物件に DIY を導入してリノベーションするのみ、も しくは一過性のイベントとして終わらせてしまうので はなく、DIY による空き家のリノベーションを行い、 継続的に活動することでまちづくりにつなげている複 数の事例が認められた。 本稿では、筑後地域にて DIY を利用したまちづくり を行っている団体の活動状況を捉えることで活動の継 続性に関して重要な要素と、空き家活用に有効な手段 について考察することを目的とする。 1.2. 研究の対象
DIY によるリノベーションを利用したまちづくりに関する研究
筑後地域における空き家活用を事例として
-前田 清貴 表 1 各地域の状況4) 図 1 各地域における空き家の種類別内訳 売却用の住宅 [賃貸用住宅]一戸建 その他の住宅 [その他の住宅]一戸建 [その他の住宅]長屋建・共同住宅・その他 [賃貸用住宅]長屋建・共同住宅・その他 二次的住宅 賃貸用の住宅 2% 13% 6% 33% 39% 57% 2% 44% 久留米市 空き家総数 16,970 戸 八女市 空き家総数 2,790 戸 大牟田市 空き家総数 9,510 戸 柳川市 空き家総数 2,970 戸 2% 8% 4% 60% 3% 23% 64% 31% 3% 2% 3% 28% 67% 25% 58% 1% 4% 2% 17% 19% 78% 2% 74% 9%24-2 る状況である。空き家は各地域増加傾向だが、図 1 の 通り、その種類は地域によって違いが見られる。2013 年現在、4 市の中で市場流通していない空き家の割合 が、全国平均 38%5)より低いのは久留米市の 31% のみ である。八女市・柳川市はその他の住宅(市場化され ていない住宅)の一戸建の割合がそれぞれ 74%・58% と高い状況である。一方で、久留米市は賃貸用住宅の 長屋建・共同住宅・その他の割合が 60% と高めである。 大牟田市の場合はどちらの傾向もみられ、賃貸用住宅 の長屋建・共同住宅・その他の割合が 33%、その他の 住宅の一戸建の割合が 44% と、共に高くなっている。 3. 筑後地域における事例の研究と分析 3.1.H&A brothers 3.1.1 プロジェクトの概要 「半田ビル」と「アベニール櫛原」の隣接する 2 棟 を中心としたプロジェクトである。(表 2)メンバー は所有者の息子兄弟・2 人。2009 年より、すでに老朽 物件であった半田ビルの外壁塗装を DIY にて開始し、 翌 2010 年には 2 棟に隣接した空き地に、レンタル菜 園スペース(現在の「エキニワ」)の整備も始めた。 経費削減と他物件との差別化のため、2013 年より入 居希望者の要望に応じた内装の DIY を行っている。 3.1.2.DIY 実施のプロセスとまちづくりへのつなげ方 通常は、壁や床などの一部仕上げ作業を残した状態 までの原状回復工事を業者委託で行った状態で口コミ にて入居者を募集し、入居者決定後に残りの仕上げを DIY にて実施している。註 3)DIY にかかる費用は、原状 回復の経費を使用しており、工事段階で入居希望者の 金銭的な負担はない。註 4)入居後も入居者が希望すれ ば、棚製作などの DIY を行っている。専有部内で DIY を行う際には入居者の希望に合わせ、入居者のみで行 うほかに、H&A brothers が手伝う、またはさらに外 部の人が手伝うなど幅を持たせている。(図 2・写真 1) 半田ビル 1 階の管理人室兼コミュニティスペースの 「くしわら COMMON」は、電気等の専門工事を除き、床・ 壁・天井や棚等すべてを DIY にて整備している。「エ キニワ」の菜園は入居者だけでなく地域住民にも貸出 しており、こちらの整備も DIY で行っている。また、 「エキニワ」の広場でも様々なイベントを行っている。 (写真 2)これら、DIY やマルシェなどのイベント告知 は SNS を中心に行うが、インターネットを利用しない 入居者や近隣住民にはチラシを配布している。 表 2 各団体の活動方法・物件の比較 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 15人 COMMON」 102・202・301 号室改修費: 約55万円
24-3 3.2. 八女空き家再生スイッチ 3.2.1. プロジェクト概要 八女福島の重要伝統的建造物群保存地区(以下重伝 建地区と略す)のプロジェクトである。町並み保存の ためのまちづくり団体・NPO 等が複数存在するが、町 家再生を市民参加の DIY で行う際の活動主体が、「八 女空き家再生スイッチ」である。註 5)1998 年より総合 の時間を利用し、近隣の小学校の児童とともに毎年 1 軒ずつ土壁塗りなどのワークショップ(写真 3)を開 始した。2012 年からは一般市民の参加によるベンガ ラ柿渋塗り(写真 4)、土壁塗り、木製ばんこづくり などの DIY を行っている。(表 2) 3.2.2.DIY 実施のプロセスとまちづくりへのつなげ方 県内外を問わず移住者を獲得しているが、広告等を 利用した入居者募集は行っていない。入居希望者の情 報は、市役所窓口と各 NPO 法人に寄せられたものをも とに共有管理している。活動地域が重伝建地区で規制 があるが、ベンガラ柿渋塗りによるメンテナンスや、 内装に関しては余地があり、DIY を取り入れた活動を 進めている。(図 2)DIY のイベントにかかる経費は、 まちづくり関連事業費の補助金や自己資金により捻出 される。イベントの告知は、SNS、新聞などの他、時 にはチラシを近隣住民に全戸配布している。 3.3. 大牟田ビンテージのまち 3.3.1. プロジェクト概要 現在のところ、「光ビル」「グリーンハイツ」「第三 カンカンビル」の各1室および「第一カンカンビル」 の屋上を DIY にて整備したプロジェクトである。(表 2) 当初より、まちづくりを意識した運営方法をとってお り入居者が自分の物件以降の DIY や、その他まちづく り活動に参加することを条件に、近隣に比べて低い家 賃で契約を結んでいる。(図 2)代表の 1 人・M 氏は施 工技術を持った建築士であり、各 DIY の講師も務める。 3.3.2.DIY 実施のプロセスとまちづくりへのつなげ方 入居者は、口コミや SNS で募集を行っている。現在 のところ、市内の入居希望者だけでなく他県からの移 住者獲得にも至っている。工事は、入居者を決定して から、大牟田ビンテージのまちと入居希望者間での話 し合いで完成形を決め、それに従って作業を、解体・ 天井 / 壁仕上げ・床仕上げ・家具作りなど 4 回に振り 分け、一般市民も含めたイベントとして DIY を行って いる。註6)(写真 6)2014 年 9 月の光ビルの三回目よ り、グリーンバード大牟田チーム註 7)の活動(写真 5) と連続させたイベントを開催している。DIY の経費 は、基本はオーナー負担の原状回復費用を使用するた 写真 5 グリーンバードの活動 写真 6 床貼りワークショップ 写真 1 壁塗りワークショップ 写真 2 エキニワでのイベントの様子 写真 3 小学生の土壁塗り 写真 4 一般市民参加のベンガラ塗り 八女福島地区における活動 大牟田ビンテージのまちにおける活動 図 2 各団体活動の仕組み 専門工事業者 管理委託・運営費 賃貸 家賃 資材・DIY 技術 H&A brothers 入居者利用者 一般市民 手伝い 発注・支払い 参加者 募集 施工 商店街 振興会 柳川つなぐ人 プロジェクト 〈一般市民+学生〉 施工 補助金 市・行政 管理委託 運営費 運営・資材 DIY 技術 貸出 利用料 賃貸 家賃 手伝い 利用者 一般市民 参加者募集 発注・支払い 専門工事業者 オーナー 融資 返済 施工 補助金 市・行政 一般市民金融機関 手伝い 一般市民 参加者募集 発注 支払い 専門工事業者 賃貸 資材・DIY 技術 家賃 管理委託 入居者 利用者 まちづくり団体 NPO 法人等 オーナー 施工 発注 支払い 専門工事業者 賃貸 家賃 まちづくり団体 NPO 法人等 参加者 募集 補助金 支援・DIY 技術 入居希望者紹介 手伝い 入居者 一般市民 物件紹介 市・行政 オーナー オーナー 参加者 募集 賃貸 資材・DIY 技術 他物件の DIY の参加 家賃 賃貸 家賃 手伝い 施工 発注・支払い 入居者 一般市民 大牟田 ビンテージのまち 専門工事業者 地域 貢献 オーナー H&A brothers 八女福島地区のまちづくり団体・NPO 等② 八女福島地区のまちづくり団体・NPO 等① 柳川つなぐ人プロジェクト 大牟田ビンテージのまち 【代行方式】 【斡旋方式】 H&A brothers における活動
24-4 め、入居希望者の金銭的な事前負担はない。DIY やパー ティなどのイベントは SNS などで告知を行っている。 3.4. 柳川つなぐ人プロジェクト 3.4.1. プロジェクト概要 柳川市の京町商店街にある商家の建物を、DIY に よりリノベーションをして、起業支援施設「KATARO base 32」を整備したプロジェクトである。(表 2)主 要メンバーは、地域おこし協力隊、DIY 経験が豊富な 地元の飲食店オーナー K 氏、九州大学大学院生の 3 名 である。元々、柳川商店街振興会がオーナーから倉庫 などとして借り受けていた物件を、「柳川つなぐ人プ ロジェクト」が委託を受けて改修し、完成後の運営も 行っている。(図 2)2015 年 10 月より、K 氏とその会 社の社員 1 名、大学院生の 3 名を基本メンバーとし、 入れ替わりで口コミにて集めた学生や一般参加者と ともに、解体・塗装・天井 / 壁張り・家具製作などの DIY を行った。そして、同年 12 月には第一期となる 工事を完了し、オープンした。リノベーション費用は 起業支援関連の市の補助金を利用している。 3.4.2.DIY 実施のプロセスとまちづくりへのつなげ方 免許を必要とする工事以外はすべて DIY により整備 しているため、必要な人員はその都度口コミにより大 学生や、K 氏の直接の知り合いを中心に募集を行って いる。ただし、第一期工事のリノベーションにおいて は、内容として DIY にある程度慣れた人間でなければ できない作業が多くあり、継続して広く一般市民に募 集をかけて、DIY を行うことは難しい状況であった。 4. 比較考察 各団体活動の仕組みを比較すると、図 2 に示した通 り、オーナーの管理のままで、まちづくり団体などが そのサポートを行う【斡旋方式】と、オーナーとして 必要な管理を各団体に委託する【代行方式】に分ける ことができる。市場流通していない空き家の割合が増 加していることを考慮にいれると、今後、賃貸を行う ことに慣れていないオーナーの空き家を活用するに は、【代行方式】の方が効果的であると考えられる。 DIY の作業内容の決定要因については、図 3 のよう に、地域による規制及び講師等の有無が関連している。 ただし作業範囲が限定的な場合に必ず DIY で扱える規 模自体も小さくなるのではなく、自己資金だけでなく 補助金も活用できると、活動規模も大きくできる。 DIY の講師となる人物が居ない場合は、比較的軽作 業のみを DIY で行うため、結果として、DIY だけでは 連続するプロジェクトにはなりにくい場合がある。継 続性を高めるには、物件数を増やす、講師となる人材 入れる、または DIY の活動の他に不特定多数が参加可 能なイベントも合わせて運営することが重要である。 イベント等の告知は、近隣住民にはチラシの配布も 必要であるが、新たな人材や入居者確保には SNS など の新たなツールの活用が重要になってきている。 5. 結論 空き家活用も考慮した、一般市民参加との DIY を利 用したまちづくりを行うには、当然ながら、まずは持 続性の高い資金調達の仕組みの構築が不可欠である。 さらに、各団体、ボランティアの参加者が重要な人手 となっており、彼らに飽きられないために、専門業者 の講師化、DIY とその他のイベントの運営の連携、ま たは、まちのまだ流通していない空き家を【代行方式】 を利用して扱う数を増やすなどが考えられなどが考え られる。また、イベント等の告知には、従来の方法に 加えて SNS などの新たなツールの活用も重要である。 6. 今後の展望 今回、筑後地域の各団体の DIY を利用したまちづく り活動の違いを比較して、活動の継続性や空き家活用 の方法を考察することができた。今後、各団体が現在 不足している部分を独自に解決、または相互に補完し 合うことで、地方都市における DIY を利用したまちづ くりのよりよい事例になり得るのではないだろうか。 謝辞:情報提供、及びヒアリングに快くご協力して頂きました、H&A brothers、NPO 法人 八女空き家再生スイッチ、大牟田ビンテージのまち株式会社の方々に感謝致しま す。また、実践事例を進めるにあたり、貴重なご助言とご協力を頂きました皆様に深 くお礼申し上げます。 【註釈】 註 1)2014 年 5 月に発表された、日本創生会議・人口減少問題検討分科会により発表 された少子化と人口減少が止まらず、存続が危ぶまれると指摘された 896 市区町村。 註 2)福岡県南部の小郡市・大刀洗町・久留米市・うきは市・大川市・大木町・筑後市・ 広川町・八女市・柳川市・みやま市・大牟田市の合計 12 市町からなる地域。 註 3)過去には、業者委託の整備が終わる前に入居者が決定し、仕上げの希望を聞い てから整備した例もある。 註 4)想定以上のランクの仕上げを入居者が希望する場合は、入居者の手出しとなる。 註 5) 関連団体として、「NPO 法人 八女町家再生応援団」と「NPO 法人 八女町並みデザ イン研究会」があり、これら 3 団体が連携して活動する場合は、「八女町家ねっと」と いう呼称で実施主体になることもある。また、サブリースを行う際は、通常、「八女福 島町家保存機構」や「八女福島丸林本家保存機構」などが管理委託の受託者となる。 註 6)免許等の専門技術が必要な工事、あるいは各回で収まらなかった工事などは各 イベントの間を利用し M 氏や専門業者により完成させている。 註 7) 主に街のゴミ拾い清掃活動を行いまちづくりを考える全国的なボランティア団体 「グリーンバード」の1つ。2014 年 4 月より月 3,4 回のペースで活動している。 【参考資料・文献】 1) 個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会最終報告書 , 国土交通省 ,2014/03 2) 鈴木 雅之 , 陶守 奈津子 , 服部 岑生 :NPO と住民の協働による団地再生のためのリ フォーム・高齢者支援コミュニティビジネス , 日本建築学会技術報告集 , 第 23 号 , 385-388, 2006/06 3) 見立 竜之輔 , 松村 秀一 , 江口 亨 : 地方都市における草の根型コンバージョン / リノベーションに関する研究 , 目本建築学会大会学術講演梗概集 ,633-634,2006/09 4) 各市ホームページ 5) 平成 25 年住宅・土地統計調査 , 総務省統計局 6)「H&A Apartment」https://www.facebook.com/yame.machiya/ 7)「八女町家ねっと」http://yame-machiya.net
8)「八女空き家再生スイッチ YAME Akiya Saisei Switch」 https://www.facebook.com/yameakiyaswitch/ 9)「大牟田ビンテージのまち株式会社」https://www.facebook.com/omutavintagenomachi/ 地域による規制 金額 自己資金のみ (家賃ベース ) 小 大 補助金あり 改修規模 専門技術者 経験者 (改修要素の限定)DIY の内容 図 3 DIY の内容 ( 改修要素の限定 ) の要因 図 4 改修規模の要因 あり なし 久留米 八女 大牟田 柳川 あり なし あり なし あり・・・ なし・・・