東アジアの垂直分業構造と国・地域グループの特性
藤 田 渉
Abstract:
The structures of international vertical specializations are chains of the inter- mediate goods import caused by export, and to be a subject of the input-output analysis. From this idea, Hummels et al.(1999,2001)showed an index named ver- tical specialization share(VSorVSS)by using non-competitive import type input- output tables of OECD countries. That model was single-stage because it had used the country-by-country input-output tables.
On the other hand, Fujita(2006,2007)showed thatVS-model was able to be en- hanced to multi-stage by using international input-output tables and analyzed the cyclical connected structures of the intermediate goods trade in ASEAN and east Asia by measuring multi-stageVS. The purpose of this thesis is to expand applied field of multi-stageVSwith an international input-output table. The technique for measuring the grouping strength is examined for countries that closely import in- termediate goods each other. In addition, the attempt of making of these informa- tion visible is shown.
Keywords: trade, vertical specialization share, input-output analysis
1 はじめに
近年の貿易額の対GDP比率の伸張,特に中間財貿易の増大は,fragmentation(Jones and Kierzkowski(1990,2001)),economics of modurarity(Baldwin and Clark(2000)), outsourcing(Feenstra and Hanson(1995,1997),etc.),virtical specialization(Balassa (1967))などの諸概念による議論において中心的なものである。これを輸出と,それによっ て誘発される中間財輸入のchainととらえ直したときには,国際的な垂直分業構造は産業連 関分析の対象となることから,Hummels et al.(1999,2001)はOECD主要国の非競争型 産業連関表を用い,vertical specialization share(VS,またはVSS)なる指標の導出を提示 した。
それは国別の産業連関表を用いたものであったため,single-stageのモデルであったが,
藤田(2006,2007)は,アジア国際産業連関表(アジア経済研究所(1998,2001,2006))
を用いることにより,Hummels et al.(1999,2001)によるvertical specialization share(以 下,VSと表記する)をmulti-stage化できることを示し,同時に拡張された中間財のmulti-
stage VSを計測することによりASEAN・東アジアにおける中間財貿易の循環的連結構造
を分析した。また行列の要素総和であったVSについて,要素に還元することにより,輸入 国部門別・当該国部門別・輸出国部門別VSへ拡張した。
本稿ではさらに国際産業連関表をもとにしたmulti-stage VSの応用として,相互に緊密 な中間財輸入依存関係にある国・地域のグルーピングの強度を計測する手法を検討するとと もに,それらの情報を可視化する試みを行った。
2 理 論
2.1 国際産業連関表を用いたHummels-VSの拡張:藤田(2006,2007)まで (1) Hummelsの原型VS
Hummelsの原モデルにおいてはまず,k国の第j財あるいは第j部門の輸出額Ekjのうち,
輸入による投入分,すなわち輸出額中の外国由来の価値に相当する部分を表す指標として,
以下の変量VSkjを定義する(注1)。 VSkj=輸入分の中間投入比率kj×Ekj
=中間財輸入額kj
産出額kj ×Ekj= Ekj
産出額kj×中間財輸入額kj (1) 上式の第1段より,VSkj
Ekj =(輸入分の中間財投入比率)kjは明らかである。この(輸入分の 中間財投入比率)kjは,k国の非競争輸入型産業連関表においては,輸入分の投入係数行列 AMの第j列の列和aMjで表すことができる。
ここで,総輸出額Ek=
Σ
j Ekjに占めるVSkjの総和,VSk=Σ
j VSkjの比率であるVSkをvertical specialization shareと名付け,以下のように定義して,式変形を行う。
VSk=VSk
Ek =ΣjVSkj Ek =
Σj
(
VSEkjkj・Ekj)
Ek =
Σ
j(
VSEkjkj・EkjEk
)
(2)このVSkは,(輸入分の中間財投入比率)kjと等しいVSkj
Ekj を,輸出全体に占める割合Ekj Ek で加重平均した形になっている。したがって,このVSkは,総産出における輸入中間財投 入の比率よりも大きい値になる。
以上を,要素の総和をとるために単位行ベクトルeを用いて行列表示すれば,
(注1)本稿では原論文中の変数,添字は産業連関分析における常用的なものに置き換えてある。
VSk=VSk
Ek =eAME
Ek (式(2)の行列表示) (3)
さらにこれは輸出により誘発される産出全体に輸入中間財が投入されることを含んでいな
いので,Hummelsは後に以下のように修正を行った。すなわち,式(3)の定式化において
は,輸入された中間財はすべて一過性で輸出財に含まれていることになり,国内の産出のた めに何度も使用される輸入中間財を考慮していないので,過小評価になる可能性があるから である。
VSk=eAM(I−AD)−1E
Ek (4)
上式群において,Iは単位行列,AD,AM は,非競争輸入型産業連関表の国産分と輸入 分の投入構造であり,またE=[Ekj]は,k国の輸出ベクトルと,その要素表示(j:sector) である。
本稿では以下,特に断らない限り,VSと表記する場合はこの修正された(産業構造を通 じて投入される輸入中間財を考慮した)式(4)から発展したモデルをさすことにする。また 式(3)型のモデルについては「修正前」(unmodified)と明記することにする。両者の比は産 業構造を通じた誘発度になる。
この原モデルは,各国別の非競争輸入型の産業連関表を対象にしていたため,中間財に着 目した垂直的な貿易構造の分析では,中間財の輸入元,および財の輸出先,また輸出財の中 間財・最終財は区別されないsingle-stage的なモデルにとどまっている。
(2) 藤田(2006)における多国間VSへの拡張
これに対して,藤田(2006)は,同じく非競争型の構造を持つ国際産業連関表を用いれば VSは拡張され,中間財の輸入元,および財の輸出先が分別可能で,かつ輸出についても中 間財と最終財輸出が分離可能なmulti-stage的なモデルを作成可能であることを示した(注2)。 次式は,あるk国について,p国からの中間財輸入,およびq国に対する輸出における,
その拡張されたvertical specialization shareを示すものである。
VSpkq=eAMpk(I−ADk)−1Ekq
Ek (5)
ここで,各行列・ベクトルは国際産業連関表から抽出されたブロックであり,ADkはk国 の国産分の中間投入構造,Ekqはk国からq国への輸出,そしてAMpkはp国からk国への輸 入による中間投入構造である。
(注2)環太平洋産業連関分析学会,第17回(2006年度)大会(沖縄国際大学)において報告
(3) 藤田(2007)における輸入国部門別・当該国部門別・輸出国部門別VSへの拡張 以上までの研究においては,最終的にVSは行列の要素総和をとってスカラーとして算出 されているが,行列の要素群はより多くの情報を含んでいる。そこで,藤田(2007)では,
スカラー化される前のVSの構造から,輸入国部門別・当該国部門別・輸出国部門別VSへ の拡張をはかった。
域内の国数をL+1(当該分析対象国以外の国数がL),産業部門数をN,最終需要部門数 をNFとすれば,あるk国のスカラー化前のVS(行列として太字表記すればVSであるが,
文中では特に区別しない)は以下のようになる。
VSk=AMk(I−ADk)−1Ek Ek
= 1 Ek
]^
^^
^^
^^ _
AM1kBkEk1
⁝ AMpkBkEk1
⁝ AMLkBkEk1
…
…
…
AM1kBkEkq
⁝
(AMpkBkEkq)N×(N+NF)
⁝ AMLkBkEkq
…
…
…
AM1kBkEkL
⁝ AMpkBkEkL
⁝ AMLkBkEkL
`a aa aa aa
bLN×L(N+NF) (6)
ただし,k=1,...,L+1,Bk=(I−ADk)−1N×Nである。なお,輸出ベクトルEkは,分析目 的に応じて,中間財輸出部分と最終財輸出部分を分離できる。
この,AMpkBkEkqの要素についてさらに分解することにより,以下のモデルを得た。
VSpn・km・ql= 1 Ek
( Σ
j=1NaMpk(nj)bk(jm)
)
Ekq(ml) (7)これは,[p国n部門]→k国の産業構造(直接・間接)→[k国m部門]→[q国l部門]の 一連のchainを示す,さらに拡張されたVSである。
ここで,aMpk(n j)は国際産業連関表のp国からk国への投入ブロックの第nj要素,bk(jm)は
第k国の国内投入ブロック逆行列(I−ADk)−1の第jm要素,そしてEkq(ml)は中間財輸出ベク トルのk国m部門からq国l部門への要素である。
使用したデータは藤田(2007)と同じく,アジア国際産業連関表(アジア経済研究所 (1998,2001,2006))を用い,原データに従い,域内は,I(インドネシア),M(マレーシ ア),P(フィリピン),S(シンガポール),T(タイ),C(中国),N(台湾),K(韓国), J(日本),U(米国)の10カ国とし,域外をH(香港),O(EU),W(ROW:Rest of the world)としている。これを1990‑1995‑2000年通期の分析のために64部門に統合し,域外は 香港(H)とその他(W:EUとROW)を新たにROWとして統合している。
算出されたVSpn・km・qlの要素数は1カ国1期につき約2700万個という膨大な数になり,ま た個々の値も微小であるが,各国各期とも,上位10,000 要素累積でVSkの約80〜90%,ま た約1,000要素以内で累積50%に達しており,上位のデータを用いた中間財貿易パターンの
分析が可能であることが示された。(注3)
2.2 chainの分析とcombinationの分析
藤田(2007)における輸入国部門別・当該国部門別・輸出国部門別VSへの拡張により,
VSを微視的に追求することについてはほぼつきつめた形になった。またこれはchainを分 析する方向性を追求したものである。これに対し,拡張のもととなった藤田(2006)におい てはもう一つの方向性である,複数の国をグループ化した場合,統合化されたVSはどのよ うな性質を持つのかについても予備的な検討を行っている。国と国とを結びつけるVSを分 解して行くchainの分析に対して,国・地域の組合せ(combination)によってVSの特性 を分析する試みである。
比較の方法は,1)機械工業,2)電気・電子工業,3)自動車工業として統合化した各 産業部門,および4)製造業全体と5)全産業に集約したものを対象に,グループ化された VSと,各国別のVS値の総和で行った。このような分析を試みた理由は,VSは輸出額中 の外国由来の付加価値に相当する部分を表す指標であり,もしグループ内部に緊密な中間財 貿易が存在すれば,グループ外から流入する付加価値は減少し,VSの値も小さくなるので はと考えたためである。
分析の結果,グループ化することにより,自動車部門を除いてVSの値はグループ化前の 各国VSの総和よりかなり小さな値になっていた。自動車部門の場合は逆に見かけ上の誘発 により過大に計算された可能性がある。これは当時の状況では中間財も国産比率が高いため であると考えられる。(注4)
注目すべきことは,1990年でも比率が低めであった電気・電子産業が1995年には明らかに 他の部門よりも低い値をとっていることである。これは各国モデルでは急増する中間財の輸 出入に対して,そのフローのかなりの部分がアジア域内での取引になっているということで ある。すなわち,全体ではまだ(日本→アジア諸国→米国)という中間財フローがあるもの の,1990年に比較して域内での取引が増加して,(日本@アジア諸国@アジア諸国→米国)
のような構造に変容していることが定量的に確認された。ただしこの時点では2000年表は発 表されておらずその後の変化についての分析は行われていない。また電気・電子産業ではす でにアジア域内での密接な中間財取引がうかがわれていたことから,それを対象に藤田
(2007)の分析に方向を絞った。
(注3)環太平洋産業連関分析学会,第18回(2007年度)大会(中京大学)において報告
(注4)修正前VSモデル(3)をモデル(4)に修正しても国全体として輸入中間財の投入量は変わらないが,国 をグループ化すると,内部での中間財のやり取りが多く,グループ外からの輸入が少ない場合は,相対 的にVSは小さくなる。これに対して,もともと国内だけで生産されている(中間財も国産を使用する)
最終財の場合,モデル(4)では誘発効果によりVSの値は過大に評価される可能性がある。この後者の バイアスについては藤田(2006),Hummels et al.(1999,2001)で議論されている。
2.3 グループ化VSモデルへの拡張 (1) グループ化VS
以下グループ化VSをgVSと表す。まず(5)のモデルに戻り,再構成する。たとえば,こ れをある国・地域のグループ(G)について,その域外(G)すべてとの貿易を対象にした場合,
モデルはスカラー化する前のベクトル状態では,同様に以下のように表現される。
gVSG=AMG(I−ADG)−1EG
EG (8)
国・地域数をL,産業部門数をNとし,Lカ国からGカ国を抜き出してグループを構成 するとする。グループ外の国地域は(L−G)カ国プラスROWの数,これをRとおけば,L
−G+Rカ国になる。
グループを構成する国を,k=1,...,G,グループ域外の国をk=G+1,...,L−G+Rと おき,それぞれに関係する行列,ベクトルの添字はその番号を用いることすれば,各行列は 以下のようにブロック行列で表記できる。
ADG= ]^
^^
^^
^^
^^ _
AD1 AM21
⁝ AMi1
⁝ AMG1
AM12 AD2
⁝ AMi2
⁝ AMG2
…
…
…
…
…
… AM1i AM2i
⁝ ADi
⁝ AMGi
…
…
…
…
…
… AM1G AM2G
⁝ AMiG
⁝ ADG
`a aa aa aa aa bGN×GN
AMG= ]^
^^
^^ _
AMG+1,1 AMG+2,1
⁝ AML‑G+R,1
AMG+1,2 AMG+2,2
⁝ AML‑G+R,2
…
…
…
…
AMG+1,i AMG+2,i
⁝ AML‑G+R,i
…
…
…
…
AMG+1,G AMG+2,G
⁝ AML‑G+R,G
`a aa aa
b(L‑G+R)N×GN
EG= ]^
^^
^^ _
E1,G+1 E2,G+1
⁝ EG,G+1
E1,G+2 E2,G+2
⁝ EG,G+2
…
…
…
…
E1,L‑G+R E2,L‑G+R
⁝ EG,L‑G+R
`a aa aa
bGN×(L‑G+R)
Ekp= ]^
^^
^^ _
Ek1,p Ek2,p
⁝ EkN,p
`a aa aa bN×1
ここで,ADkはk国の国産分の中間投入構造を意味するN×N投入係数行列(k=1,..., G),AMpkはp国からk国への輸入による中間投入構造を意味するN×N投入係数行列(p
=G+1,...,L−G+R),そしてEGの要素であるEkpはk国からp国への輸出額合計ベク トルである。本稿の分析で必要なのは他地域への中間財と最終財に分別された輸出額合計情 報のみで,輸出先産業別の情報は必要としていないので,表記上はEkpはN×1 ベクトルと
している。
グループ内部での中間投入構造を意味する投入係数行列ADGでは,対角要素はADk,非 対角要素はAMpkのブロック行列で構成されている。またグループ内からグループ外への輸 出は,中間財輸出と最終財輸出(注5)を分離できるものと,一括になるROW向けに分かれて おり,
EG=[EGI EGF EGROW]
のようになっているが,必要に応じて行ブロックを抜き出して使うことになるので,簡略の ため上記EGの表記に止めておく。この結果,gVSGは(L−G+R)N×(L−G+R)行列と して得られる。
本稿の分析に必要な情報は,グループ化された地域G全体の,産業部門別のgVSGm,(m
=1,...,N)であり,必要な要素を抜き出して総和すれば事足りる。このため以下のように スカラー化して用いる。
gVSGm=eT1AMG(I−ADG)−1VmEGe2
EG (9)
ここで,行列Vmは分析目的の産業部門mを抜き出すための対角行列であり,その形は 以下のようになる。
V=diag(V1m … Vpm … V(L‑G+R)・m) Vpm=diag(0 … 0 1m 0 … 0)
e1およびe2は,両側から挟んで列和・行和をとって全要素の合計を出すための単位ベクト ルである。(注6)
なお,アジア国際産業連関表を用いた場合,グループ化の対象となる国・地域数は10カ国 であり,グループの組合せ数は,
Σ
G 10CG=10C2+10C3+10C4+10C5+10C6+10C7+10C8+10C9+10C10=45+120+210+252+210+120+45+10+1=1013
であり,1995‑2000年通期分析のための統合部門数は64,輸出ベクトルは3種類,期間は2,
VSは修正済と修正前の2種類を計算すれば,発生するgVSGmの個数は単純計算でも8万 個弱と,かなりの数になり,検討の手段が問題になってくる。このため本稿では可視化の手 段も検討する。
(注5)最終財輸出はさらに消費財と生産財に分けることができるが,本稿では合計値を用いている。
(注6)これは定式化のためであり,実際の処理においてはMatlabのようなアプリケーションソフトには要 素和命令(sum)があるので,このような単位ベクトル操作は行わない。行列Vmについても必要な要素 のみ行和をとるので同様である。
(2) グループ化VS(gVS)の性質
緊密な分業関係にある国・地域をグループ化しgVSを計測した場合,多くの中間財取引 がグループ内に含まれ,グループ外からの中間財輸入合計が見かけ上減少するため,グルー プ構成各国・地域それぞれのVSk値より小さく評価される可能性がある。またこのことか ら逆に緊密な分業関係にある国・地域をグループ化できると考えられる。さらに,これら緊 密な分業関係にある国・地域グループの統合された産業構造を通じて,分析対象の産業部門 だけでなく,他の産業部門からも輸入される中間財の影響から,投入係数表を表面的に見た 場合と異なるグループが検出される可能性もある(モデルに対象地域の産業構造を含まない 修正前VSモデル(3)から拡張されたモデルとの関係に相当する)。このことはVSの応用分 野として極めて有用であると考えられる。
ただし,グループ化は順列組合せ的に行われるため,グループを構成する国・地域の数も 異なる,また構成する国・地域も異なるgVS間の比較をどう行うかが問題となる。構成国・
地域の数を一定にした中でより密接な国・地域の組合せが出現するとき,また最初の構成 国・地域を固定して逐次的に国・地域を追加させたとき,ともにグループ化されたgVSの 値は小さくなる。いずれも個別の国の場合の中間財輸入がグループでの内部投入構造に繰り 込まれることによるが,前者は統合された内部投入構造に理由があり,後者は輸入元の国が 単純に減少することにある。しかし両者のgVSを相互に比較することはできない。
また後者に関係する問題点であるが,グループの構成国数が増加すると,それは次第に国 際産業連関表の対象地域全域に接近し,究極10カ国でグループを構成すると,ROWからの 輸入,輸出だけになる(注7)。また9カ国以下のグルーピングであっても,グループ外に米国
(U)や日本(J)が含まれる場合と,インドネシア(I)などである場合は経済規模の水準 上,ずいぶん様相が異なることになるだろう。これがgVSの値にどのような影響を及ぼす かについては実際の算出結果を見た上で判断が必要になる。具体的には分析に耐える国・地 域数の上限があるであろう。
さらにグルーピングの階層性の問題がある。それは10カ国の中からnカ国を抜き出して gnVSを比較して,どの組合せが最も緊密な分業関係にあるかが計測されたとしても,その 組合せとは別に10カ国の中からmカ国(m≠n)を抜き出して同様に検出した結果のgmVS との関係は明確ではないことはすでに述べたが,もしm>nとした場合,最初のnカ国のグ ループから,順に最も緊密な関係があるように国・地域を逐次追加してして行った果てにそ のmカ国のグループgmVSに達するかどうかは全く不明であるということである。
このことは,n=2,...,10の国・地域の組合せそれぞれから得られた,9個の各段階の gnVS(n=2,...,10)の最小値は,全く独立に選ばれたものであり,計算手続的あるいは探 索手法としては階層性が無いということであり,その上で前述のように,そのgnVS同士は
(注7)アジア国際産業連関表ではROWへの輸出については中間財と最終財は分離されておらず,合計値の みの分析しかできなくなる。
比較可能なものであるのかも保証されていないということである。
密接な分業体制にある重要な2国間関係を核として,その周りに順次密接な国・地域が集 まってグループが形成される,という直感的な状況が観測されるか否かは明確ではない。
これらの問題点を整理すると以下になる。
1)同数の国・地域による組合せグループ間だけではなく,異なる構成国・地域数のグルー プとの間の比較可能性を確認する必要がある。大小関係とは何かという基準,あるいは比 較可能にするためのgVSの変換や正規化が必要である。
2)グループ化される国・地域数の上限(域内10カ国)があり,グループ内とグループ外の 経済規模が分析に影響を与える可能性があるので,グループ構成国・地域数の上限につい ての検討が必要になる。
3)密接な分業体制にある2国間関係を核として,その初期ペアから逐次国・地域数を増加 していく階層的な探索手法によるgVSと,順列組合せ的に構成国・地域を選んで独立的 に測定されるgVSの比較が必要である。
利用可能なグループ構成国・地域数の上限については実際の計算結果を見て判断すること とし,他の2点については以下にその考え方を述べる。
2.4 gVS=minVSk(gVSの正規化のアイデア)
グループ化VS(gVS)が「小さい」,「大きい」とはどのような基準を設けるべきであろ うか。比較の基準としては,グループ内の国・地域別VSの合計値,あるいは平均値との比 較,グループ内の国・地域別VS中間値との比較,グループ内の国・地域別VSの最小値と の比較,などが考えられる。本稿ではグループ構成国・地域の個別のVSよりも明らかにグ ループ化されたVSの値が小さくなる場合に緊密な分業関係の存在=構造が存在する,と考 えることにし,グループ内の国別VSの最小値との比較を行うことにした。
そこで,gVSと国別VSの最小値,min
k VSkとの比(gVS=minVSk)を求めることで一種 の正規化を行い,国・地域の組合せが異なったり,構成する国・地域の数の相違があっても gVSを比較可能にする。
2.5 指標としての(gVS=minVSk)の性質と階層化のアイデア (1) 階層化のアルゴリズム
最も緊密な分業関係にあるグループの検出は,構成国・地域数別にgVS/minVSkが最小 になるまで国・地域の組合せを尽くせば可能である。前述したように組合せの数は1期1部 門の分析当たり千個程度であり,機械計算では問題にならない規模である。しかし,相対的 に少ない構成国・地域数のグループがその上位グループに包含されるかどうかは全く独立な 探索であるので保証されない。階層性の無い結果であり,構成国・地域数によって登場する メンバーが全く異なった場合,経済学的なインプリケーションは難しくなろう。
これに対してグループ構成国・地域数(g=2,...,10)別にgVS/minVSkを用いることに より,グループ構成国・地域数が異なるグループの間でも比較できるとした場合(正規化が 成功した場合),階層化を検討することができる。このgVS/minVSkなる指標を用いてグルー プ構成国・地域数を増やしながら,階層的な構造を検出できる可能性について議論したい。
階層化を検出するアルゴリズムとしては,gVS/minVSkの値が1.0以下(注8)になり,なお かつ他のペア(2国・地域の組)よりも値が小さくなるような国・地域のペア(最小値のペ ア,初期ペア,優先ペア,などと表記)を検出し,次にこのペアを一つの地域と再定義し,
ペアにならず残存した単一の国・地域と混在させ,同じくgVS/minVSkを1.0以下にするよ うなペアを検出する。これを国・地域が尽きるまで繰り返せば階層的なグルーピングが可能 になるはずである。
これを模式化したのが表1のアルゴリズムである。ここではまず例としてA,B,C,D の4者から(A,B)のペアが緊密として抜出し,次に(A,B)を一つのものとして(AB), C,Dの三者を比較し((AB),C)のペアを採用する。この模式ではここでただ一つのペア
((ABC),D)を残す形で終了する。
このアルゴリズムは階層的クラスタリングの入門的な考え方とほぼ同一であるが,決定的 な相違点は階層的クラスタリングでは擬似的な距離を扱い,たとえば((AB),C),((A, (BC)),((AC),B)を異なるものとするが,gVS/minVSkでは組合せが同じならば同じ値
組合せによる gVS/minVSk
表1 グルーピングのアルゴリズム例
(注8)目安的な値であり,誘発効果によるバイアスにより値は大きくなる可能性もある。
になる。また終端までのgVSの最小値は階層的クラスタリングと異なり別途計算済みであ ることがあげられる。
(2) 出現しうるグルーピング・パターン
グループ化されたVS値を小さくする,経済規模が大きい密接な国のペアがあった場合,
分析結果はその効果から図1のようになるはずである。このような場合は,他のどのような ペアでgVS/minVSkを計算しても,(AB)のgVS/minVSkを下回ることは無く,緊密度に したがって外周に付加されていくことになる。最後はG国が輸出入の相手となってグルー プ外に残存することになる。米国(U),日本(J)そして中国(C)などが関係する場合,
多くの産業部門でこのような構造が発現している可能性があるが,これも一つの構造である。
これに対して複数の密接なペアがあった場合,図2のような構造が検出される可能性があ る。
ここで注意しなければならないこととして,図1も図2も同心円的な構造,すなわち階層 的な構造の存在を前提として描かれているが,まず構成国・地域数別に独立してgVS/min VSkを最小化するグルーピングは階層的な関係を前提としていないので上記の概念図のよう な同心円構造になることは保証されていない。
初期のペアから探索を開始して,ある構成国・地域数のグループに階層的に達したときに,
次の比較でより小さなグループに負けた場合,場合によっては別な初期ペアに負けた場合,
それまでの結果は一つの構造として記録した上で,別な初期値から再び探索が開始され,別
図1 特に密接なペアが存在する場合の構造(概念図)
図2 複数の密接なペアが存在する場合の構造(概念図)
な階層構造が出現する可能性は高い。
このため同心円構造=ツリー構造ではなく,交差や逆転が生じ,ツリー化できない可能性 は非常に高い。図3では重複,交差,逆転が存在している。
図3 同心円構造にならない場合の構造(概念図)
もし,2国ペアで(A,B),(C,D),(D,E)が選ばれ,3カ国グループで(A,B,F),(C, D,G)が選ばれ,さらに4カ国グループで(A,B,F,G)が選ばれれば図3のようになる。
B,Dはそれぞれ2つのグループに重複し,B,Gは交差し,(C,D,G)に対しBは優先ペ アであるが下位に逆転している。さらにすべての検索が最大グループ(中間財輸出の場合は 9カ国,合計の場合は10カ国)に達しなければ,1本のみのツリーは完成しない。
図4 無理にツリー化した図3(概念図)
図3(またはそれをツリー化した図4)のようなケースは階層的クラスタリング(クラス ター分析)のようなグルーピングでは許されない(ただし,複数本のツリーになることはク ラスタリングの目的上許される)が,本稿の分析では構造の一種として認識可能である。ひ とつの同心円に着目した場合,他の交差する同心円は無視して,一つの階層的構造としてと らえる。他の同心円についても同様である。これは先に述べたように,例えばA,B,Cの 各国の属性について,階層的クラスタリングではその擬似的な距離,d((AB),C)とd(A, (BC))は等しいとは限らないが,グループ化VSではgVS/minVSk(A,B,C)=gVS/minVSk ((AB),C)=gVS/minVSk(A,(BC))=gVS/minVSk(ABC)であるからである(gVS/
minVSkは密接な国同士では小さな値になるが,「距離」ではない)。
このため,制約無くクラスタリング可能であるが,そのかわり既存の階層的クラスタリン グのソフトやアルゴリズムは,使用できない(注9)。
なお,これまでの議論は初期ペアから探索が開始可能であることを前提としている。これ は密接な分業体制になる2国間関係を核に,グループが成立していることを仮定している。
これに対して突如あるサイズから密接なグループが出現し,それまでその構成国が探索され ていなければ,そこに探索パスは至ることができない。
3 分析の方法
3.1 部門分類と統合
使用したデータは藤田(2007)と同じく,アジア国際産業連関表(アジア経済研究所
(2001,2006))を用い,原データに従い,域内は,I(インドネシア),M(マレーシア), P(フィリピン),S(シンガポール),T(タイ),C(中国),N(台湾),K(韓国),J(日 本),U(米国)の10カ国とし,域外をH(香港),O(EU),W(ROW:Rest of the world) としている。域外は香港(H)とその他(W:EUとROW)を新たにROWとして統合し ている。なお,1995年表は1990年表と同じ78部門分類,2000年表は76部門分類である。ただ し,2000年表になって新たに部門を組み替えているので,部門対応と部門統合が必要になる。
この結果,分析のために64部門に統合している(表2)(注10)。
なお,分析対象の部門は工業部門(12.Milled grain and flourから,53.Other manufac- turing productsまで)に絞った。また比較期間は1995年と2000年とする。
3.2 gVS値の計算およびグルーピング
gVSの種類は,以下の4種類を計算している。
É10カ国地域内向け,中間財輸出
É10カ国+ROW向け,中間財および最終財輸出の合計値 Éそれらの修正前VS
グルーピングについては,
Éグループ構成国・地域数別に独立してgVS/minVSkの値を最小にする組合せの探索 É階層的グルーピング・アルゴリズムによる探索
(注9)クラスター分析はツリー化される階層的クラスタリングと,グループに凝集させるのみの非階層的ク ラスタリングに大別できるが,本稿の分析ではどちらの理論,方法も無関係である。実態は交差を許す
「階層的」な「クラスタリング」を行うのであるが,誤解を防ぐために,特に「グルーピング」と表現 している。
(注10)2000年表ではマレーシアの国産分の投入構造ADにおいてI−ADがfull rankでない問題が生じてい る。この回避策については稿末の補論を参照のこと。
を併用して行う。
4 分析結果
4.1 主要なVS値と特性
計算されたVSの特徴を検討するため,特に2000年の 1)10カ国地域内向け,中間財輸出VS
2)10カ国地域+ROW向け,中間財および最終財輸出合計のVS 3)10カ国地域内向け,中間財輸出の修正前VS
の3データについて,全産業部門計の計算結果を集約図(グラフ)で示す。それぞれ,図5,
図6,図7に示す。
これらのグラフの様式は共通であり,縦軸にVS値,横軸に2カ国グループから9カ国グ ループまで,VS値を小さい順に並べてある。実線がグループでのgVS,点線がそれに対応 するグループ内でのVS最小値minVSkである。指標gVS/minVSkは,この2つのデータ の比である。
4.2 各VSの特徴とグループ構成国・地域数の上限について
10カ国地域内向け,中間財輸出VS(図5)では,構成国・地域数が7カ国を超えるとg VSの値が急速に減少している。10カ国地域+ROW向け,中間財および最終財輸出合計の VS(図6)では,gVSは6カ国で一旦増加し,5カ国以下とでは大きくその性質を異にし ていることがわかる。
これはグループ外の国・地域数が減少することによるバイアスが生じていることを示して いるものであり,前者の10カ国地域内向け,中間財輸出VS(図5)では中間財の輸出入が グループ内に繰り込まれることにより減少のバイアスを生じさせ,また後者の10カ国地域+
ROW向け,中間財および最終財輸出合計のVS(図6)では最終財輸出による輸入財の誘 発効果が大きく測定されることによる。また図5においてはminVSk<gVSである部分が視 認できるが,図6においてはgVSの実線カーブはおおよそminVSkの点線カーブの上方に あり,指標gVS/minVSkは1.0よりも大きくなることがうかがわれる。これも上記のバイア スによると考えられる。
なお,10カ国地域内向け,中間財輸出の修正前VS(図7)では,同じく中間財輸出を対 象にしているので図5と形状は酷似するが,誘発分だけ低い値になっている。また7カ国ま でそれほど性質に変化はないようである。ただし,gVSのカーブが図5と相似するのに対
して,minVSkのカーブについては図7ではほぼ階段状になっているのと比較すると,かな
り錯綜している。これはグループの構成状況が修正済VSとかなり異なっていることを示す ものである。すなわち,他の産業部門からも輸入される中間財の影響から,投入係数表を表
表2 国際産業連関表の部門対応および統合
図5 10カ国地域内向け,中間財輸出VS(2000年,全産業部門計)
図6 10カ国+ROW向け,中間財および最終財輸出合計のVS(2000年,全産業部門計)
図7 10カ国地域内向け,中間財輸出の修正前VS(2000年,全産業部門計)
面的に見た場合と異なるグループ化がされていることを示している。
以上から厳しく見積もっても5カ国,すなわち域内の国・地域数の半分まではグループ化 しても過大評価・過小評価のバイアスの影響は少ないと考えられる。
また,修正済VSを用いた10カ国地域内向け,中間財輸出VS(図5)では,グループ構 成国・地域数別にgVS基準でソーティングしてあるが,gVS(実線)とminVSk(点線)の 関係は安定している。すなわち連続して昇順に整理されたgVSに対し,minVSkは階段状 になっており,指標gVS/minVSkは1.0の近傍で非常に安定したものとして利用出来ること がわかる。すなわちグループ構成国の核が安定している。
これに対して最終財輸出を含む図6および修正前VSを用いた図7ではグループ構成国の 核が不安定になる部分がある。このため本稿では修正済VSを用いた10カ国地域内向け,中 間財輸出VS(図5)を中心に議論し,他は比較のために用いることにする。
4.3 グルーピングの実際(全産業計,域内中間財輸出,修正済VS) (1) 独立的なグループ探索
修正済の域内中間財輸出VSについて,まず全部門計のデータをもとにグルーピングの内 容を説明する。最初に,階層化を考えずに単純にグループを構成する国・地域数別に,gVS
/minVSkを独立に最小化した組合せを表3に示す。表においては,構成国・地域を,1995
年は□,2000年は■で表示している。
表の右端には,gVS/minVSk値と,10カ国グループの域外輸出総額に対する,各グルー プの外部への輸出額比率を示すgE/g10Eの値が付加されている。
域内全体(10カ国)については,その輸出は対ROWのみになり,輸出データは中間財 と最終財に分離されていないのでgVSは計算されていない。なおこの表ではgV/minVSが 0.9以下,gE/g10Eが0.1以上の場合のみ表示している(この表において特にこの条件で除去 されたデータは無い)。
両期の国・地域の構成は全く同じになっているが,gVS/minVSkの値がやや上昇したこ と,また輸出について1995年には中国(C),日本(J),米国(U)の3カ国でほとんどを占 めていたが,2000年には韓国(K)を入れた4カ国にまで後退していることが異なっている。
この方法によるグルーピングでは,gE/g10Eが急速に増加するあたり(2000年では4カ国
表3 グループ化gVS(全部門合計,中間財,修正済みVS,1995年‑2000年の比較)
グループ前後)が特に重要な緊密性を持っていると考えられる。ただしこの方法では,組合 せの順序やグループ内での重要性は不明である。またgVS/minVSkの減少傾向が逆転する 6カ国グループになるときにグループの性質が変化したことがうかがわれる。これは域内で タイ(T)が中間財輸出先からグループ内に編入されたときに生じているが,そのことより も域内の国・地域数が半数を超えたことに関係しているようである。
(2) 階層的なグループ探索と可視化
次に,先に議論したアルゴリズムを用いてグルーピングを行った結果の一部を以下に示す。
上位6カ国グループまで1995年,2000年ともに表3と一致する。比較のために,10カ国地域 内向け,中間財輸出,修正済VSについて,全産業部門計の2000年の結果をグラフ化したも の,および1995年のグラフを併記する(図8,図9)。さらにグラフの解釈についても検討 を行う。
これらのグラフはグルーピング(あるいはクラスタリング)を可視化するため,ツリー図
(樹状図,デンドログラム:dendrogram)に類似した形状で描かれている(注11)。またアルゴ リズムのトレースを行ったものが表4である。先に述べた図1のようなケースでは,8ステ ップで終了するが,構造が複数ある場合はステップ数は増加することになる。
図中,最下段のノードにある国・地域の記号は本稿を通して共通であり,I(インドネシ ア),M(マレーシア),P(フィリピン),S(シンガポール),T(タイ),C(中国),N
(台湾),K(韓国),J(日本),U(米国)である。グラフの結節にあるノードの数値は,
その位置からグラフにそって下に位置する国・地域で構成されるグループのgVSから計算 されたgVS/minVSkの値である。
二重線で囲まれた国・地域のノードは,優先的に検出された密接なペアを意味する。実線 のグラフは組合せとして最初に検出されたパスを,点線は後から検出された場合,および参 考的なパス(gVS/minVSkが1.0を大きく超過しているケースなど)を意味している。なお,
以下に説明するが,10カ国の内,半数を超える(6カ国以上)グループについても,計算の 過程を示す意味で,点線でノードを結節している。
2000年の図8を導出したアルゴリズムのトレースを行うと,最も強く検出されたペアであ る(MS)が先に出現している。ただし,もしM,Sについても別のペア(JC)の構成する グループの周囲にある国と解釈した場合は,点線のグラフを採用することになる。しかし,
図8,9においてはM,Sに繋がる点線は6カ国以上の上部で結節しているために意味は 薄いと考えられるが,図9のNに繋がる点線は(JC)の構成するグループ5カ国以内で結
(注11)AT&T Researchによるグラフ可視化ソフトであるGraphvizを用いた半手動で描画している。多変 量 解 析 パ ッ ケ ー ジ に 付 属 す る デ ン ド ロ グ ラ ム ・ ル ー チ ン は 本 稿 の 分 析 に は 不 適 合 で あ る 。 ま た
Microsoft Office Visioのような全手動あるいはテンプレートに依存するツリー図アプリケーションで
は,ノードが10を超えるケースを大量に効率的に処理することは困難である。
図8 10カ国地域内向け,中間財輸出,修正済VS(2000年,全産業部門計)
図9 10カ国地域内向け,中間財輸出,修正済VS(1995年,全産業部門計)
節しており,2つのグループに両属すると解釈した場合には実線に変更しても良いと考えら れる。
両期とも優先ペア,(MS),(JU),(JC)より3カ国グループ(CJU)のgVS/minVSkが 小さくなっている。またJを含む優先ペアは1995年の(JU)から2000年には(JC)に移行 している。
1995年の図9は2000年の図8と大きく異なるように見えるが,Nのサブグループ所属の 重複のために,Tが左側に退避させられたためであり(描画ソフトの内部処理による),タ イプとしては同様である。I,Pはどちらが最後に残るかは不安定なようである。もっとも 10カ国のうち過半を超えた国・地域数のグループについては参考程度に考えるべきである。
1995‑2000年の変化としては,特に最初に強く検出されたペアの近傍グループについて着 目すれば,以下のことがあげられよう。ただしこれはあくまで探索的に得られた情報である。
表4 図8,図9の導出過程のトレース
É大別して2つの緊密なグループが存在する。組合せの中に順序も含めて表記すれば,
1995年は((JU)CKN,(MS)N),2000年は((JC)UKN,(MS)P)。また,構造には重 複がある(N)。これらは日米+東アジア,およびASEANに相当する。
É(M,S)のペアが強く検出されたことは変わりがないが,Jと組むペアが(J,U)から
(C,J)に入れ替わった。中国(C)の重要性が高まった。
É1995年には(M,S)寄りであったNが,2000年には(J,C,U,K)を中心に構成される グループ寄りに移行している。
(3) その他の可視化策
なお,可視化の方法は上記のデンドログラム(dendrogram)的なレイアウト以外にもい ろいろ存在する。本来ツリー的に表現する方法は,何らかの決定にかかわる方向を重視する
「有向性」が背景にある。本稿ではグルーピング(疑似クラスタリング)の検出過程を明確 に表現するためにこのレイアウトを用いている。
しかしグルーピングのみが問題とすれば他にも可視化手段としては有名なベン図(Venn
diagram)も捨てがたい。集合の関係として把握するときににはこちらの可視化も有効であ
ろう。
参考的に平面の同心円状の図に落としてみたものが,図10である。
また相互の繋がりの状況の可視化を重視する場合はバネ図(rigid-body spring model)的 なレイアウトが応用できる。これを図11,図12に示す。このレイアウトは互いにバネで引き 合って釣り合っているようにノードが等間隔になるように配置されるので,関係の遠近(こ こではgVS/minVSkで測ったもの)を見る場合は便利であると考えられる。このときgVS/
minVSkの数値が書かれたノードがグループを表すノードになっている。
バネ図はバネで相互に結ばれた多数の剛体による振動系を図示するために考えらたレイア ウトであるが,今日では大規模なネットワーク構造の可視化に応用される(注12)。図11,図12
図10 ツリー図:図8(2000年)・図9(1995年)の平面化
図11 10カ国地域内向け,中間財輸出,修正済VS(2000年,全産業部門計)
を比較すると,UとCの位置交換が明瞭である。またNのレイアウト的な位置づけは実は それほど変化していなかったことが分かる。
以上の作業内容は,1図あたり
Σ
i10Ci=1014本のベクトルをじっと見つめて,暗算して抽 出できれば,すでに計算結果としては含まれているはずなのであるが,やはり系統的なアル ゴリズム,および可視化手段は有用であると考えられる。4.4 修正前VSとの比較(全産業計,域内中間財輸出) (1) 独立的なグループ探索
次に同じく域内中間財輸出VSであるが,修正前,すなわち式(3)型から拡張されたVS について,全部門計のデータをもとにグルーピングを行い,前節で導出した修正済のVSと
(注12)本稿で用いたGraphvizは本来そのような用途向けに開発されたものである。
図12 10カ国地域内向け,中間財輸出,修正済VS(1995年,全産業部門計)
の比較を行う。
先に論じたように,このタイプのVSは,輸出により誘発される産出全体に輸入中間財が 投入されることを含んでいないので,輸入された中間財はすべて一過性で輸出財に含まれて いることになる。
ここでも最初に,階層化を考えずに単純にグループを構成する国・地域数別にgVS/min VSkを最小化した組合せを表5に示す。基本的な表記は表3と同じであるが,構成国・地域 を,修正前VSは※,すでに前節で扱った修正済VSは■で表示している。
表5 グループ化gVS(2000年,全部門合計,中間財,修正前VSとの比較)
表5ではグループを構成する国・地域が過半になった6カ国グループでタイ(T)とフィ リッピン(P)が逆転しているがほぼ同じである。ただし修正前のVSは,国内の産出のた めに何度も使用される輸入中間財を考慮していないので,図7のように修正済のVSより小 さくなるが,それだけでなく表5右欄においてgVS/minVSkの推移を見ると,国・地域数 が2から増加すると修正済VSでは6カ国のところで減少傾向に逆転が生じているが修正前 VSではそのまま単調に減少している。
すなわちグループ内産業構造による輸入誘発効果を無視した修正前VSではタイ(T)よ りもフィリッピン(P)をグループに入れたほうがgVS/minVSkの値が小さくなっている。
このグループにおいてはminVSは国内で生産される付加価値の多い日本(J)あるいは米 国(U)であるので,修正前と修正済でgVSの値が変化したのが理由である。グループ域 内からの輸入依存性の高い国・地域がグループに繰り込まれたほうがgVS=minVSkの値は 小さくなる。グループ内の産業構造を介した輸入の多い国が繰り込まれたほうが修正された gVSは小さくなるし,修正前のgVSではより単純な構造の国が繰り込まれたほうが小さく なる。2つのgVSの比較にはそういった情報が含まれる。
(2) 階層的探索と可視化
次に,先の節と同様に先に議論したアルゴリズムを用いて,2000年の全産業部門合計での グルーピングを行った結果の一部を以下に示す(図13)。タイ(T)の位置づけが後退した ことを除外すれば同じ期の図8とほぼ同様の結果が得られている。
図13 10カ国地域内向け,中間財輸出,修正前VS(2000年,全産業部門計)
4.5 輸出合計VSとの比較(全産業計) (1) 独立的なグループ探索
中間財と最終財輸出の合計については,10カ国域内だけではなくROW向けまで含むの で,これまでの分析に用いたデータとは異なっている。ここでも同じくVSについて,全部 門計のデータをもとにグルーピングを行い,域内での中間財輸出VSとの比較を行う。
表6の表記はこれまでの類似の表と同じであり,中間財輸出のVSの結果を○,中間財と 最終財輸出の合計の結果は●で表している。
域内全体(10カ国グループ)については,その輸出は対ROWのみであるがgVSは計算 される。なお最終財輸出のグループ化されたVSは図6に示されるように過大に評価されて
いるのでgV/minVSが,0.9以下という制限を作図に課すと一つも出現しないことになる。
したがってここではg10V/minVS<1.1 に制約を緩めた。gE/g10Eが1.0以上の場合のみ表示 するのは同じである。
この1.1という数値のために図14ではグループを構成する国・地域数が6カ国と9カ国で
●が出現しないギャップが現れている。ギャップで分かれた2〜5,6〜9,10の各グルー プは性質が異なるものとして考えるべきである。
(2) 階層的探索と可視化
ま階層化のアルゴリズムでの結果を描画したグラフを図14に示す。
さらに図14の導出にあたって,アルゴリズムに沿って計算をトレースしたものが表7であ る。
中間財と最終財輸出の合計についてのgVSは中間財輸出の場合と異なり,国・地域数を 増やしても減少速度が遅いので,最初はペアの探索が続いてしまうため,これまでよりペア の検出が多くなってしまっているのが分かる。したがってその後3カ国以上のグループに結 びつかないペアは優先性を落としても良いのではないかと考えられる。さらにこの結果をバ ネ図に直したものが図15である。
特にバネ図で表現した理由は以下の通りである。中間財と最終財輸出の合計についてのg VSでは最初に検出される優先ペアが多数に及ぶため,交差・重複を許すツリー図では見に くくなることがある。また中間財輸出のgVSでは利用できるデータの制約上,10カ国域
表6 グループ化VS(全部門合計,中間財ー中間財・最終財合計)
図14 10カ国+ROW向け,中間財および最終財輸出合計のVS(2000年,全産業部門計)
内に限定され,グループを構成する国・地域数が増えていくと途中で意味の薄いグルーピン グになってしまうが,中間財と最終財輸出の合計についてのgVSでは10カ国近くなっても ROWに対する輸出が残っているため,ノードを結ぶグラフは無意味という訳ではなくなる。
このため,図中にgV/minVSの数値の書き込まれているノードはグループ化された国・地 域であり,これを方向性を持った計算過程とは考えずに,単一の国によるノードと平等なも のとすれば,ツリー上部のグラフを残したままバネ図のレイアウトを行うと,密接な関係の ある国々はグラフの長さを等間隔に保つことにより,より近いところに凝集することになる。
したがって視覚的にグループが把握しやすくなる効果があると考えるためである。ただしあ くまで視認性のためであり,レイアウトが分析そのものではない。
ただし,時間推移や進行方向という意味での動的な方向性ではなく,組合せ可能性につい ては静的な方向性を持つので,図は有向線分グラフで記入してある。
表7 図14の導出過程のトレース
図15 10カ国+ROW向け,中間財および最終財輸出合計のVS(2000年,全産業部門計)
この結果,図15の右端部の米国(U)から同心円上に見ていけばグループ及び構成国の密 接さについてイメージできるのではないかと考えられる(ASEANに着目するときは左端か ら)。
いずれの方法でも,ICKJUのグループが際立って残る結果となっている。
5 部門別の詳細検討とグルーピングの特性
5.1 工業部門,各部門での初期ペアの比較(1995‑2000年)
以上は全産業部門合計での分析であるが,同様の分析を工業部門の各部門に対しても行っ た。以下,修正済VSを用いた10カ国・地域内向け,中間財輸出について詳細な分析結果を 示す。
グルーピングの状況は最初に検出される国・地域のペアによって大きく変動する。このた め特にこの優先ペアがどのように1995年から2000年にかけて変化したかに注目して結果を整 理したものが表8である。
表8 10カ国地域内向け,中間財輸出,修正済VSによるグルーピング(1995年‑2000年比較)
表8では両期を通じて優先ペアが変化していないものに◎,複数ペアのうち一部が共通し ているものに○,優先ペアは異なるが,その中に共通の国・地域が含まれている場合には△
を,全く共通せずに大きく変化した場合には▲をつけている。参考のため,△の場合には右 欄に共通する国・地域を記載している。なお,階層的探索においてgVS/minVS>1.0にな ったものは除外してある。
優先ペアが大きく変化した部門は,Sec.30:Basic industrial chemicals,Sec.33:Other chemical products,Sec.43:Metal products,Sec.45:General machinery,Sec.48:Other electric machinery and appliance,Sec.49:Motor vehicles,Sec.53:Other manufacturing productsである。
次に表8の内容をさらに詳細に見てみよう。グルーピングはこの初期ペアの緊密さによっ て大きく左右される。国・地域を統合したことによるgVS/minVSの減少バイアスの影響を 厳しく評価するため,gVS/minVS[0.75である初期ペアのみを抜き出し,再整理したもの が表9である。このため,比較記号は多少変化している。
これによる比較から,1995年と比較して2000年において,
1)同じペアで緊密化した部門 2)同じペアで粗になった部門
3)中核となる国・地域があって緊密化した部門 4)中核となる国・地域があって粗になった部門 5)新しいペアが出現して緊密化した部門 6)緊密なペアが消滅して粗になった部門 を検出することができる。
表9 特に緊密な初期ペア(10カ国地域内向け,中間財輸出,修正済VS,1995年‑2000年比較)