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サービスのブランド価値が 従業員に及ぼす影響に関する考察

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(1)

サービスのブランド価値が 従業員に及ぼす影響に関する考察

〜ブランド価値を駆動因として形成される 市場と組織を結ぶ好循環の可能性について〜

藤 村 和 宏

は じ め に

製品(モノおよびサービス)の顧客価値!は価値源泉の創造過程と価値実現過 程という2つの過程を経て生み出される(藤村,20)。価値源泉の創造過程 とは,顧客が選択・消費する以前に提供を意図する価値の基本型をデザイン し,それを効果的かつ効率的に生み出す能力を備えたハードおよび/あるいは ソフトとして構築することである。モノの場合には,消費によって享受するこ とが期待される顧客価値を物的特性として内蔵する過程が価値源泉の創造過程 であり,消費者がそのモノを使用することで価値を享受する過程が価値の実現 過程である。サービスの場合には,顧客がデリバリー・プロセスに参加するた めに,顧客とサービス組織(特に,フロント・ステージの従業員)が協働して サービスを生成しながら同時に消費する過程が価値の実現過程であり,デリバ リー・プロセスが開始される以前に,提供を意図する価値の基本型をデザイン し,それを実現させるための機能や能力をサービス・デリバリー・システムの 構成要素に組み込む過程が価値源泉の創造過程である。なお,サービス・デリ

(1) 顧客価値の定義は研究者によって異なっているが,一般的には,知覚便益(品質)と 知覚コスト(犠牲)から構成される概念として捉えられている。また,その定式化につ いても2つの異なる見解,すなわち「顧客価値=知覚便益−知覚コスト」という引き算 型の定式化と「顧客価値=知覚便益/知覚コスト」という分数型の定式化が存在してい る。

香 川 大 学 経 済 論 叢 第83巻 第4号 21年3月 29−9

(2)

バリー・プロセスに参加する従業員にサービスやそのデリバリー・プロセスに 関する知識や技能を習得させる人材育成も,価値源泉の創造過程の一部分であ る。

顧客価値の提供をこのような2つの過程に区分して考える必要があるのは,

各過程において重要な役割を果たす主体が異なるからである。すなわち,モノ の場合には,価値源泉の創造過程において中心的な役割を果たすのは製造企業 であるが,価値の実現過程では顧客自身が中心的な役割を果たす。サービスの 場合には,価値源泉の創造過程ではサービス組織が中心的な役割を果たすが,

価値の実現過程では従業員と顧客の協働が重要な役割を果たす(藤村,20) そして,このように顧客価値の提供が行われると捉えるならば,顧客に提供さ れる価値は製造企業やサービス組織の展開する価値源泉の創造活動に依存する だけでなく,顧客自身の保有する消費資源!やそれらを用いての価値の実現過程 への参加の仕方にも大きく依存していることになる。つまり,製造企業やサー ビス組織が同じ価値源泉の創造過程および価値の実現過程を展開したとして も,顧客の保有する消費資源やその利用の仕方が異なれば,顧客によって享受 できる価値は異なったものになるということである。このようなことから,価 値の実現過程において顧客が期待する価値を享受できるようにするには,顧客 の中にそれを可能にする能力,およびその能力を積極的かつ適切に活用しよう とする意欲の向上,すなわち「顧客力」の向上が必要とされることになる(藤 村,29)

顧客力の向上と同時に,製造企業やサービス組織では「従業員力」の向上も 必要とされる。従業員力とは,製造企業の場合には,価値源泉の創造過程にお いて新たな差別的価値を創造したり,消費においてその実現を可能にする機能 を物理的特性としてモノに内蔵したり,あるいは消費によって顧客自身が望む 価値を享受できるように顧客力を育成したりする能力,およびその能力を積極

(2) 消費資源とは,顧客がモノやサービスを消費するために投入しなければならない資源 であり,金銭,時間,肉体的エネルギー(労力),精神的エネルギー,知識・技能,補 完物,空間などが含まれる(藤村,25)

−30− 香川大学経済論叢

(3)

的かつ適切に活用しようとする職務意欲から構成される概念である。また,サ ービス組織の場合には,価値源泉の創造過程において新たな差別的価値を創造 したり,それを効果的かつ効率的に生み出す能力を備えたハードおよび/ある いはソフトを構築したり,サービス・デリバリー・プロセスにおける顧客と協 働する過程で顧客が望む価値を実現できるように支援したり,あるいは顧客力 の向上を促すことを可能にしたりする能力,およびその能力を積極的かつ適切 に活用しようとする職務意欲から構成される概念である。なお,このように顧 客力および従業員力を能力と意欲という2つの概念で捉えるのは,Porter and Lawler(18)が「成果=f(能力×モチベーション)」と記述しているように,

どれほど能力のある人であっても,やる気がなければ良い成果は期待できない し,逆に,能力はそれほど高くなくとも強く動機づけられていれば,予想以上 の成果を上げるかもしれないからである。

顧客力および従業員力における能力の側面については,情報提供や様々な教 育によって向上が期待されるが,意欲の側面については,顧客と従業員とでは 異なる施策が必要とされるであろう。従業員力に限れば,職務意欲を向上させ る要因としては,報酬!,職務満足,組織コミットメント,および職務関与など が重要な役割を果たすことが指摘されている。このような要因の向上にはイン ターナル・マーケティングが大きく関わっているが,エクスターナル・マーケ ティングもブランド価値の向上を通じて,インターナル・マーケティングを補 完するかたちで職務意欲の向上に貢献することが考えられる。すなわちエクス ターナル・マーケティングの展開によって構築されるブランド価値は市場にお ける顧客の選択・消費行動に影響を及ぼすだけでなく,従業員の組織コミット メントに影響を及ぼすことを通じて職務意欲の向上に貢献する,あるいは直接 的に職務意欲の向上に貢献することが考えられる。そして,職務意欲の向上が 職務成果の向上を導き,さらにこれがブランド価値の向上を導くことになるこ

(3) 報酬には「外的報酬」と「内的報酬」があり,前者は昇給や昇進などの目に見える,

与えられタイプの報酬であり,後者は達成感や自己成長感などの自ら見いだす,精神的 報酬である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

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とから,ブランド価値を駆動因とした市場と組織を結ぶ好循環が形成されるこ とが期待される。

そこで本稿では,サービス組織におけるブランド価値の従業員に対する影響 を理論的および実証的に明らかにしたい。そのために,まず第!章では,イン ターナル・マーケティングが直接的に目標とする職務意欲の向上に関わる組織 コミットメントと職務関与という2つの概念について概説し,第"章では,サ ービスのブランド価値概念について検討するとともに,ブランド価値の組織コ ミットメントおよび職務意欲の向上に対する効果について考察したい。そし て,第#章では,3つのホテル・グループの従業員を対象として実施した量的 調査の結果を用いて,従業員の所属するホテルのブランド価値に対する知覚が 彼らの組織コミットメントや職務意欲に及ぼす影響を実証的に考察したい。

!

.インターナル・マーケティングによる 従業員の職務意欲の向上

1.インターナル・マーケティングの概要

どのような組織も組織人,すなわち組織の枠組みに自らの考えや行動を準拠 させ,組織のために働く人たちによって成り立っており,彼らが最高の努力を 行うことによって組織は高い成果を得ることができる。サービス組織において は特に,従業員のパフォーマンス自体がサービスの品質あるいは価値の重要な 部分を構成していることが多いために,彼らのパフォーマンス水準が組織の成 果に大きくかかわっている。しかし,彼らはどれだけの努力をするのかについ てかなりの自由裁量が認められている自発的な労働者であるために,最高の努 力を行わせるようなモチベーションの提供が必要とされる。そのため,サービ ス組織は従業員を有能な組織人として育成するとともに,彼らの職務意欲を高 めるようにモチベーション管理

$

を行う必要がある。

この従業員のモチベーション管理をマーケティングの視点から行うものにイ ンターナル・マーケティングがある。インターナル・マーケティングはサービ ス・マーケティングの中で生まれた概念であり,従業員という組織の内部市場

−32− 香川大学経済論叢

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に対して,顧客という外部市場のために構築されてきたエクスターナル・マー ケティングの知識や技術を適用するものである。この背景には,サービス品質 や顧客満足,さらには生産性の向上において従業員が重大な役割を果たすこと から,彼らの組織や職務に対するコミットメントを維持・向上しなければなら ないということがあった。

インターナル・マーケティングは,2つの目的達成を通じて組織の内部基盤 を確立し,エクスターナル・マーケティングの効果的かつ効率的な展開を支援 するものである(藤村,24)。その第1の目的は,職務を内部サービス,従 業員を組織の市場活動に必要な職務の内部顧客と見なし,外部顧客を満足させ るという組織目標と取り組みながら,内部顧客のニーズやウォンツを満足させ ることである(Berry,14)。これは,従業員が彼らの内部サービスに満足し ていなければ,顧客に対して満足できるサービスを提供することはできないと いう認識に基づくものである。第2の目的は,組織のミッション,目標,中核 的価値,エクスターナル・マーケティングを通じて外部顧客に提供を約束する もの,その実現に必要な役割および方法,などに関する情報を組織のすべての 階層の従業員に伝え,理解と共有を促すことである。このような情報の共有が 行われていなければ,外部顧客に対して約束したことを従業員が実現すること はできないからである。したがって,インターナル・マーケティングとは,従 業員の組織および職務に対するコミットメントを向上させることを通じて職務 意欲を高めるとともに,組織のミッション,目標,中核的価値などの共有を図 ることでその職務意欲を発揮させる方向の適切化および調和を図ることで,エ

(4) モチベーションに関する理論は,焦点の向け方によって大きく2つに分けることがで きる。一つは,人は何によって働くことを動機づけられるのかに関心を向けるもので,

欲求説(あるいは内容説)と呼ばれている。この代表的なものは,Maslow(1,4)

の自己実現モデル,Alderfer(19)のMaslowの欲求階層モデルを修正したERGモデ ル,Herzberg, Mausner, and Snyderman(19)の二要因説,Mclleland(11)の達成動 機説などである。もう一つは,人はどのように動機づけられるのか,というその過程に 関心を向けるもので,過程説(あるいは文脈説,選択説)と呼ばれている。この代表的 なものは,Goodman and Friedman(11)の衡平説,Vroom(14)やLawer(11)の 期待説である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

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(6)

クスターナル・マーケティングの展開によるサービス品質や顧客満足の向上,

さらにはブランド構築を組織内部から支援しようとするものである。

では,インターナル・マーケティングの展開によって向上させようとする従 業員の組織および職務に対するコミットメントはどのような概念であり,それ はどのような要因によって高められ,さらにどのような効果をサービス組織に もたらすことが期待されるのであろうか。以下では,モチベーション理論の観 点でこれらについて概観することで,ブランド価値が従業員に及ぶ影響を考察 するための基礎としたい。

2.組織コミットメントの向上と効果

! 組織コミットメント概念

サービス組織はその事業の目的と方向性の観点から公式に目標を設定し,組 織内でその共有を図ろうとするが,従業員も私的(個人的)な目標を持ってお り,それらが一致しないこともある。このようなサービス組織と従業員間にお ける目標の不一致は組織内に混乱を生み出すだけでなく,短期的にはサービス 品質や顧客満足の低下を招き,長期的にはブランド価値の低下を導くことにな る。この公式の組織目標と私的な目標の相違を少なくするもの,あるいは溝と も言えるものを埋めるものが組織コミットメント(organizational commitment)

であり,従業員が「組織に自我を関与させ,組織のために一生懸命働こうとす ること」!と捉えられている。したがって,従業員が所属するサービス組織の目 標や価値に関与するほど,公式の組織目標と私的な目標の相違が少なくなり,

組織に対するロイヤルティが強く,一生懸命に働こうとするので,サービス品 質や顧客満足,生産性などが向上することが期待される。ただし,組織コミッ トメント概念に関しては議論も多く,必ずしも一致した見解が得られていない ので,以下ではこれまでの代表的な捉え方を概観しておきたい。

(5) 田尾雅夫編著(17)『会社人間の研究』,京都大学学術出版会,9頁。

また,田尾(17)は,組織コミットメントは「組織と個人の,いわば心理的な距離 を測るために非常に使い勝手の良い概念」であると指摘している(5頁)

−34− 香川大学経済論叢

(7)

初期の研究において最も代表的な定義は,Mowday, Steers and Porter(19)

の「特定の組織に対する同一化(identification)と関与(involvement)

!

という もので,「組織の目標や価値に対する信頼」「組織のために努力しようとする 意欲」,および「組織の一員として留まりたいとする願望」という3つの要素 から構成されている。この概念の特徴は,組織に所属する個人の組織に対する 情緒的な側面が強調されている点にある。

Mowday, Steers and Porter(19)のように,初期の組織コミットメント研 究においては,組織コミットメントは組織に対して愛着をもつことという情緒 的側面によって捉えられる傾向があったが,Becker(10)は,組織コミット メントを交換的な立場から捉え,組織コミットメントの功利的側面を取り上げ ている。彼によれば,組織コミットメントは,サイドベット理論によって説明 される心理的メカニズムであるとされる。サイドベット理論にしたがえば,組 織コミットメントは,組織から個人が離脱するとそれまで蓄積した価値が大き な損失を被ることから,組織から離脱せずに組織に残るという理由から生まれ る心理的側面であるということになる。つまり,個人が組織に貢献を続けると いう,いわば投資(サイドベット)の蓄積が,組織を離脱するときにコストと して知覚されるようになり,回収不能のコストが大きくなるほどコミットメン トは高まることになることから,このコミットメントは受動的意味合いの強い ものである。なお,サイドベットには,給与や年金といった金銭的報酬以外 に,組織内での人間関係や役職,組織特有のスキルなども含まれるとされてい

る。またWallace(17)は,サイドベット理論では,転職の機会が限られる

場合には,コミットメントは高まると指摘している。

このBecker(10)のサイドベット理論はその後の組織コミットメント研

究に大きな影響を及ぼし,多くの研究者は組織コミットメントを情緒的側面と

(6) Mowday, R. T., Steers, R. M., and Porter, L. W.(19)The measurement of Organiza- tional Commitment, Journal of Vocational Behavior, Vol.1, p.2.

また,彼らはこの定義に基づきOCQ(Organizational Commitment Questionnaire)と呼 ばれる組織コミットメントの測定尺度を開発しており,この尺度の信頼性および妥当性 は高いものであることから,広く利用されている。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

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(8)

功利的側面の2次元で捉えるようになっており,前者は情緒的コミットメン ト,後者は存続的コミットメントと呼ばれている。

その後の組織コミットメントに関する研究の中で,Allen and Meyer(1, 6)は,3つの次元,すなわち「情緒的コミットメント(affective commit- ment)「存続的コミットメント(continuance commitment),および「規範的 コミットメント(normative commitment)」の3つの次元から組織コミットメン トのあり方を捉え直すべきである,と論じている。これは,Becker(10)の 指摘した功利的側面とMowday, Steers and Porter(19)が提唱した情緒的側 面に付加するかたちで,規範的側面を組織コミットメントの構成次元として取 り入れたものである。規範的コミットメントは,組織へのコミットメントを義 務的なものとして捉えた概念であり,Allen and Meyer(10)は「組織に留ま り,適応しなければならないという義務感」!と定義している。つまり,「理屈 抜きに組織にはコミットすべきであるといった,忠誠心(loyalty)を意味して いる。そこでは愛着,損得等とは無関係に,とにかくコミットメントすべきだ からコミットするという発想」

"

である。なお,情緒的コミットメントについて は「情緒的コミットメントの強い従業員は彼らがそうしたいから組織に残る」# と指摘しており,組織への感情的な愛着や同一化であり,組織に対する積極的 な関わりを望んでいることを表す概念とされている。したがって,情緒的コ ミットメントは組織に残りたいから残るという積極的な関与を示すのに対し て,存続的コミットメントは残る必要があるから残るという受動的な態度$を表 すものである。また,存続的コミットメントは前述のBecker(10)のサイ ドベット理論を基盤とするもので,組織を離脱することに結びついて知覚され たコストとしてのコミットメントを表す概念とされている。

(7) Allen, N. J, and Meyer, J. P.(10), The Measurement and Antecedents of Affective, Continuance and Normative Commitment to the Organization, Journal of Occupational Psychology, Vol.6, p.1.

(8) 田尾雅夫編著(17),前掲書,26頁。

(9) Allen, N. J, and Meyer, J. P.(10), op. cit., p.3.

(10) 存続的コミットメントについて,高木(23)は,組織に対するポジティブな影響は 期待しにくく,その抑制策の探求が重要であると指摘している。

−36− 香川大学経済論叢

(9)

現在の組織コミットメント研究の多くでは,組織コミットメントはMeyer

and Allenが提案したこの3つの次元,すなわち情緒的コミットメント,存続

的コミットメント,および規範的コミットメントの3次元から構成される概念 として捉えられ,実証的にその効果や先行要因に関する考察が行われている。

! 組織コミットメントの効果

組織コミットメントの効果については,逃避的行動,役割外行動,および職 務成果への影響として研究されており,Aranya, Kushnir, and Valency(16)

は,組織コミットメントは従業員の業績や離転職などを予測する有力な指標で あると指摘している。

逃避的行動とは遅刻や欠勤,離職のような行動であり,サービス組織にとっ ては,逃避的行動の増加はサービス品質や顧客満足の低下,さらには生産性の 低下をもたらすために,抑制すべき行動である。これまでの実証的研究では,

組織コミットメントは逃避行動を減少させることが明らかにされている。具体 的には,組織コミットメントは遅刻を減少させることに貢献することが明らか にされているが(Angle and Perry,1; Mathieu and Zajac,0a),その影 響度については異なる結果となっている。欠勤については,組織コミットメン トは主要な原因とならない(他の多くの要因の中の一つにすぎない)という研 究結果が多く(Farrell and Stamm,8; Steers and Rhodes,8),関係が見 られる場合でも,関係は弱くなっている。また,離職に対して組織コミットメ ントはネガティブな影響を及ぼす,すなわち組織コミットメントが高くなるほ ど離職は少なくなる,あるいは組織コミットメントが低下すると離職しやすく なることが明らかにされている(Porter, Steers, Mowday, and Boulian,4;

Porter, Crampon, and Smith,6; Krackhardt, McKenna, Porter, and Steers, 1; Mathieu and Zajac,0a)

役割外行動に対しても組織コミットは影響を及ぼすことが明らかにされてい る。役割外行動とは,職務上の正式な役割ではないが,自分の職場の人を援助 する,協働する,好意的に接する,そして仕事をできるだけ無駄なく進めると

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いった行動などであり,「組織市民行動(organizational citizenship behavior) とも呼ばれている。従業員によるこのような行動の遂行は組織の潤滑油として 機能し,サービス品質や顧客満足,さらには生産性の向上をもたらすと考えら れる。組織コミットメントはこのような役割外行動(組織市民行動)に対して ポジティブな影響を及ぼす,すなわち,このような行動を促すことが明らかに されている(Katz and Kahn,6; O’Reilly and Chatman,6; Gregersen, 3; Morrison,4)

また,職務成果に対する組織コミットメントの影響については,多くの研究 で弱い関係しか見いだされていない(Steers,7; Wiener and Vardi,0;

Mathieu and Zajac,0a)。研究者を対象とした研究でも,組織コミットメン トは業績にはほとんど影響を及ぼさないという結果が得られているが(守島,

6;石川,18),一方で,やはり研究者を対象とする研究では,組織コ ミットメントの低い基礎研究者ほど,多様な研究業績をあげているという結果 も得られている(義村,19)。ただし,両者の間に有意な関係が認められる 場合には,組織コミットメントが高いほど職務成果も高くなるという結果が得 られている(Lee,1; Mowday, Porter, and Dubin,4; Mowday, Steers, and Porter,9)。たとえばMeyer, Paunone, Gellatly, Goffin, and Jackson(19)

は,食品会社の管理職の組織コミットメントと人事評価の間の関係について分 析し,情緒的コミットメントの高い管理職は人事評価の結果も高いが,反対 に,存続的コミットメントの高い管理職は人事評価の結果が低いことを明らか にしている。このことは,組織との間の情緒的つながりは管理職の職務成果を 向上させるが,損得勘定によるつながりは,反対に職務成果を阻害してしまう ことを示していると考えられる(金井・高橋,24)。また八代(18)は,

日本における終身雇用・年功賃金・年功序列等に代表される,いわゆる日本的 経営システムは従業員の中に極めて強力な組織コミットメントの形成を促し,

これが日本経済の高度成長を支えてきたと指摘している。

なお,組織コミットメントと成果との間に明確で有意な関係が見られない理 由としては,職務成果の測定が困難であるということもあるが(田尾,17)

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組織コミットメントは直接的に職務成果を高めるのではなく,職務意欲やその 意欲を発揮する方向性に影響を及ぼすことで,それらを通じて間接的に職務成 果に影響を及ぼすにすぎないということも考えられる。さらに,職務成果は従 業員の職務意欲だけでなく,職務遂行能力にも影響されることから,組織コ ミットメントの職務成果に対する効果を評価することが困難になっていると考 えられる。

! 組織コミットメントの先行要因

組織コミットメントの先行要因として重要な役割を果たすものとして,職務 満足を挙げることができる。March and Simon(18)は,人が他者や集団と 自己とを同一視することでその目標を内在化し,なんらの外的報酬なしにその 達成を強く動機づけられるという現象は組織においてしばしば生ずることを指 摘しているが,西田(16)は,職務満足が職務意欲を引き出すシステムとし てこの内在化や同一化(組織コミットメント)過程の重要性を主張している。

組織目標の内在化は自分にとって有意義な所属集団と自己とを同一視し,その 目標を取り入れることによって生じ,さらに内在化された目標はアイデンティ ティの主要な構成要素となり,その達成自体が自己評価や自尊心に対し直接に 関係してくるため,特別な報酬を伴わずとも強い動機づけが行われるようにな る。つまり,組織が成員の個人的な欲求の充足をもたらす度合いが強く(すな わち組織が成員の満足を高めることができ),成員間の相互作用が密で,集団 活動そのものに興味があるほど,成員の内在化や同一化(組織コミットメント)

は強まるということである。したがって,職務満足は成員の組織目標の内在化 をもたらし,組織への同一化(組織コミットメント)を通じて強い職務意欲を 引き出す効果をもつと考えられる。

城戸(10)や境(11)は,職務満足を外的満足,対人的満足,および内 的満足といった3次元で捉え,いずれの次元(特に内的満足)も組織同一化(組 織コミットメント)を強めることを明らかにしている。Decotiis and Summers

(17)も,職務満足は組織や職務に対する心理的コミットメントを引き起こ サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

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し,いっそうの努力や自発的貢献を促す効果があることを明らかにしている。

このように職務満足の各次元と組織コミットメントとの間に関係が存在して いることは明らかにされているが,Meyer and Allen(11)は,前述のように 組織コミットメントを3次元に分類した場合に両者の関係はどのようになるか については不透明な部分もあることを指摘している。このことに関して,高橋

(22)は,情緒的コミットメントと規範的コミットメントについては職務満 足との間で中程度の相関が見られるが,存続的コミットメントと職務満足との 間には統計的に有意な関係は見られないという結果を得ている。また開本

(26)も,情緒的コミットメントを田尾等(17)の考察に基づいて「愛着 的要素」と「内在化要素」という2次元から構成されるものと捉え,また職務 満足は「全体的職務満足」と「個別的職務満足」という2つの側面から構成さ れ,さらに個別的職務満足は「キャリアへの満足」「対人関係への満足」,お よび「能力発揮への満足」という3次元から構成されるものとして捉えること で,組織コミットメントの愛着的要素に対しては全体的職務満足と対人関係へ の満足が,内在的要素に対しては全体的職務満足のみが統計的に有意なポジ ティブな影響を及ぼすことを明らかにしている。

職務満足以外の組織コミットメントの先行要因については,Mathieu and

Zajac(10b)は個人特性,組織特性,役割の状態などに分類している。たと

えばMeyer, Stanley, Herscovitch and Topolnysky(22)は,年齢,性別,教育 といった人口統計的な変数は一般的に組織コミットメントとの相関は低いが,

北米以外では存続的コミットメントと年齢には強い相関が見られることを明ら かにしている。また,先行要因の中で強い影響力をもっているのは組織からの 支援,リーダーシップ,公正な扱いなどであり,これらは組織コミットメン ト,特に情緒的コミットメントとの間に強い相関関係があることを明らかにし ている。また,義村(19)の基礎研究者および開発研究者を対象とする研究 では,組織コミットメントと職務関与の間にはポジティブな相関関係があるこ とを明らかにしている。すなわち,職務関与が高いほど組織コミットメントも 高くなり,さらに,基礎研究者よりも開発研究者の方がこの傾向が強いことを

−40− 香川大学経済論叢

(13)

明らかにしている。

3.職務関与の向上と効果

! 職務関与概念

組織コミットメントが高くても,従業員が彼らの担当している職務を面白い と感じ,その職務を自分で責任を持って考え,なんとかやり遂げることに価値 を見いださなければ,サービス組織はサービス品質や顧客満足,さらに生産性 の向上などを期待することはできない。このような従業員の現在の職務や仕事 に対する関与の程度は職務関与(job involvement)として概念化されている

(Kanungo,2a ; Blau,5)

職 務 関 与 の 構 造 に つ い て は,単 一 の 構 成 概 念 と 捉 え る 研 究 者 も い れ ば

(Kanungo,2b),多次元の構成概念と捉える研究もいる(Lodahl and kejner, 5; Saleh and Hosek,6; 片柳,2; 義村,6a)。たとえば義村(1

a)は,職務関与を職務と個人と心理的距離を表す概念として捉え,さらに「情 緒的職務関与(職務への興味や愛着)「認知的職務関与(職務の重要さと参 加意欲),および「行動的職務関与(自発的な職務行動志向)」の3次元で捉 えている。

また,職務関与と組織コミットメントの概念上の違いについては,組織コ ミットメントと職務関与はともにそれぞれの準拠対象と個人との関係を多面的 に捉えようとする点では共通しているが,組織コミットメントの準拠対象は所 属する組織であるのに対して,職務関与の準拠対象は仕事そのものである,と いう明確な違いが存在していることが指摘されている(Mowday, Steers and Porter,9: Blau,6)。実証研究でも,因子分析によって組織コミットメ ントと職務関与は異なる因子として抽出されている(Blau and Boal,9; 柳・守島,1)。Blau and Boal(19)は,組織コミットメントと職務関与 の強さの程度により従業員を4つのタイプに分類し,組織コミットメントと職 務関与は独立した概念であり,両立可能であると主張している。また,Gouldner

(17)はコミットメントの対象により職業人をローカルとコスモポリタンに サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

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(14)

分類し,ローカルは所属組織へのロイヤルティは強いが専門的技術へのコミッ トメントは弱く,所属組織に対してより強く一体化する職業人であるが,コス モポリタンは逆に専門的技術へのコミットメントは強いが所属組織へのロイヤ ルティは低く,自分の専門に対して一体化する職業人であると指摘している。

そしてローカルとコスモポリタンの比較研究の結果,組織コミットメントと職 務関与は対立概念であると主張している。このことに関係して,太田(14)

は,今日における従業員の態度や行動,意識の中では,組織よりも仕事に一体 化するプロフェッショナル的な傾向が強まっており,個人の価値意識の変化の 中で,これまでの組織コミットメントから職務関与を重視すべきであると主張 している。

しかしながら,組織コミットメントと職務関与の間に統計的に有意な高い相 関関係が存在することを明らかにした研究(Blue and Boal,7; Brooke, Russell, and Price,8; Blau and Boal,9; Rabinowitz and Hall,1;

Brown,6)もあることから,両者は関連した概念であることも指摘されて

いる。

このように組織コミットメントと職務関与の関係については議論もあるが,

本稿では両者は概念的に異なるものとして捉えたい。なぜならば,本稿での実 証的考察において調査対象としたホテル・サービスの場合,その従業員はホテ ルでの接客サービスに魅力を感じて就職した人が多く,また離職したとしても 再び他のホテルで勤務する人が多いことから,所属組織(ホテル)よりも職務 のほうにコミットメントする傾向があると考えられるからである。

! 職務関与の効果

職務関与の効果としては職務成果に対する影響が考察されており,両者の間 に明確な関係を確認できなかった研究もあるが(Lawler and Hall,0; Siegel and Ruh,3; Brown,6),関連性を見いだしている研究もある。たとえ ば,エンジニアや製薬の基礎研究者などの理系専門職を対象とした研究では,

職務関与と業績(職務成果)の間にポジティブな相関関係が見られているが(石

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(15)

,,; Keller,; 義村,9),職種を限定しない分析では関連性 は明らかにされていない(Brown,6)

このように職務関与と職務成果との間に明確な関連性が見いだされていない 理由としては,職務関与の定義が研究者によって異なり,また職務関与や職務 成果の測定が困難であるということも考えられるが(義村,27),前述の組 織コミットメントと職務成果との間の関係と同様に,職務関与が直接的に職務 成果を高めるのではなく,職務意欲やその意欲を発揮する方向性に影響を及ぼ すことで,それらを通じて職務成果に間接的に影響を及ぼすにすぎないという ことも考えられる。さらに,職務成果は従業員の職務意欲だけでなく,職務遂 行能力にも影響され,また組織コミットメントの影響も受けることから,職務 関与の職務成果に対する効果だけを評価することが困難になっていると考えら れる。

! 職務関与の先行要因

職務関与に影響を及ぼす要因としては様々なものが明らかにされているが,

それらは大きく個人的要因と組織的要因に分けることができる。個人要因とし ては,個人のパーソナリティや価値観,年齢,学歴,性別,婚姻状態などが影 響を及ぼし,組織要因としては個人キャリア,職務特性(専門性,自立性,意 思決定の参加,職種),職場での人間関係,人的資源管理施策,職務満足,組 織コミットメントなどが影響を及ぼすことが明らかにされている(Rabinowitz and Hall,7; Morrow,3; 義村,7)

本稿での実証分析と関係のあるものは職種,職務特性,職場での人間関係,

および職務満足であることから,これらの要因と職務関与の関連性について概 観しておきたい。

職種については,Mannheim(15)は7職種の従業者の職務関与を比較す ることで,職務関与が最も高いのは科学者などの専門職従事者であり,次いで 高いのはホワイトカラーおよびブルーカラーなどの従業者であり,最も低いの はサービスや娯楽産業の職務従事者であるという結果を得ている。前述の義村

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

−43−

(16)

(16a)は基礎研究者と他の4職種の従業者を比較し,営業職や事務職に比 べて基礎研究者は職務への情緒的職務関与が著しく高く,行動的職務関与も高 いことを明らかにしている。このような研究結果に基づくならば,実証的考察 において調査対象としたホテル・サービスの従業員の職務関与は相対的に低い とも考えられるが,一方で,前述のようにホテルの従業員はホテルでの接客サ ービスに魅力を感じて就職した人が多く,また離職したとしても再び他のホテ ルで勤務する人が多いことから,職務関与は比較的高いことが予想される。

職種ではなく,職務特性が職務関与に影響を及ぼすという指摘もある。

March and Simon(18)は,意思決定への参加度が職務関与を高める可能性 を示唆しているが,White and Ruh(13)やSiegel and Ruh(13)は,両者 の間にポジティブな相関関係があることを実証的に明らかにしている。また,

本人が自覚している職務特性が職務関与に影響を及ぼすという指摘もある。義 村(27)は,職務関与の3つの次元(情緒的職務関与,認知的職務関与,お よび行動的職務関与)それぞれに影響を及ぼす要因を分析し,職務の専門性は 情緒的職務関与と行動的職務関与に対してポジティブな影響を及ぼし,アイデ アの必要性は3次元のいずれの職務関与に対してもポジティブな影響を及ぼす ことを明らかにしている。

職場での人間関係では,上司のリーダーシップが部下の職務関与に影響を及 ぼすことが明らかにされている。たとえば,Brown(16)は,上司の部下へ の配慮と職務関与の間に有意な関係があることを明らかにしている。ただし,

上司と部下とのコミュニケーションと職務関与の間には有意な関係は見られて いない。また,義村(16b)は職務関与の3つの次元(情緒的職務関与,認 知的職務関与,および行動的職務関与)について上司などが及ぼす影響を考察 し,上司への信頼感が情緒的職務関与および認知的職務関与を高める方向に作 用することを明らかにしている。

また,職務満足と職務関与についても,両者の間には相関関係が存在するこ とが明らかにされている(Lodahl and Kejner,5; Brown,6)

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(17)

!

.サービス・ブランド構築による

従業員の組織コミットメント・職務意欲の向上

1.サービス・ブランドの価値次元

ブランド概念は時代とともに変遷しているが(青木,19)Aaker(11)

などによって,それまでバラバラに議論されていたブランドの諸概念が『ブラ ンド・エクイティ』という総合的な概念に集約されることで,エクスターナ ル・マーケティングの結果として市場に形成された資産として認識されるよう になっている。ブランド・エクイティ論の登場によって,ブランドを総合的・

統合的に捉えていくことが重要であり,エクスターナル・マーケティングの展 開の仕方によってブランドの資産的価値は増減する,という認識に変わってい る。このようにブランドをエクスターナル・マーケティングの結果として市場 で形成される資産と捉えるならば,エクスターナル・マーケティングの課題は その資産的価値を高める,すなわち高い顧客価値を継続的に提供することでブ ランドという器の中に評判や名声などを蓄積し,信頼を形成するとともに,ブ ランドの有する意味や価値を積極的に発信することで 共感できる顧客"を吸 引・維持し,さらにその積み重ねによって資産的価値を高めていくことである

(11) あえて 共感できる顧客 としたのは,ブランドは信頼の印として機能することで顧 客を吸引・維持することが強調されるが,ブランドの本質的機能はむしろ 望ましくな い顧客 の排除にあると考えられるからである。前述のように顧客価値の実現において は顧客が重要な役割を果たすために,製造企業やサービス組織が高い顧客価値を提供す ることが可能な価値源泉を構築したとしても,顧客がそこから価値を実現させるのに必 要な役割を十分に果たすことができなければ潜在的に可能な顧客価値は実現されない。

あるいは価値実現のための活動が不適切に行われることによって,その顧客自身だけで なく社会も何らかの損害を被る危険性もある(藤村,23,20)。さらに,ブランド の利用者の属性や利用の方法(マナー)は市場資産的価値に影響を及ぼすだけでなく,

サービス消費の場合には,サービス・デリバリー・プロセスに参加する従業員の職務満 足や職務意欲にも重大な影響を及ぼす。

このように,ブランドの価値や意味に共感し,それに適合した役割を果たすことので きない顧客の吸引・維持はブランドの市場資産的価値を低下させるとともに,その本来 の意味や価値の発信も妨げることになるので,ブランドの機能はそれが保有する意味や 価値の観点から望ましい顧客を積極的に吸引・維持するとともに,一方で,望ましくな い顧客を積極的に排除することにあると考えられる。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

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(18)

と言える。

このような資産的価値を高めることにおいて従業員は重要な役割を果たす が,前述のような理由から,その重要性は製造企業よりもサービス組織におい てのほうが高いと考えられる。したがって,サービス組織においてのほうが,

従業員の組織や職務に対するコミットメントを高めることによる職務意欲の向 上を図る重要性は高い,と言えるであろう。

では,エクスターナル・マーケティングの結果として形成されるどのような ブランド価値が顧客の吸引・維持だけでなく,従業員の組織や職務に対するコ ミットメントの向上,さらには職務意欲や職務成果の向上に影響を及ぼすので あろうか。前述のように,ブランド価値は市場ベースにおける資産的価値(以 下では,市場資産価値)として捉えられるようになっているが,従業員への影 響の観点から捉えるならば,ブランドの価値次元として個客資産価値および労 働市場価値も加える必要があると考えられる。

! 顧客との間に個別的に形成されるブランド価値の側面

前述のようにブランドは市場資産的な価値を有するものとして捉えられ,エ クスターナル・マーケティングを通じてその価値を高める対象であるととも に,その価値を通じて顧客との関係性を構築・維持する手段と位置づけられて いる。すなわち,ブランドは顕在的および潜在的顧客集合としての市場,ある いは競争の場としての市場の中に存在し,その中においてその提供組織にはブ ランドの有する意味や価値に共感できる顧客の吸引や彼らとの関係構築といっ た効果を,顧客には使用価値だけでなく記号的価値といった効用をもたらすも のとして捉えられている。

しかしながら,サービス組織の場合には,狭いエリアを対象とした地域密着 型や限られた層を対象とした顧客密着型が多いために,モノのブランドのよう に市場を広く,あるいは抽象的に捉えることができない。つまり,地理的に広 く(全国的あるいは世界的に)評判や名声が形成されていなくても,特定の狭 い地域や特定の狭い層に受け入れられているサービスは多い。また,モノのブ

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(19)

ランドの場合には,顧客価値が高く,かつ均一なものを長期的に提供すること で市場において信頼が形成されるが,サービスのブランドの場合には,サービ ス・デリバリー・プロセスへの顧客の参加が必要不可欠であるために,個客化 対応によるニーズ充足(あるいは問題解決)によって個々の顧客の中に信頼が 形成される。当然,モノのブランドでも,それを反復的に選択・消費するごと に満足を享受できれば,その利用者である個々の顧客の中に信頼が形成される が,そのようなミクロ的な信頼よりも,顕在的および潜在的顧客集合としての 市場,あるいは競争の場としての市場の中で共有されるマクロ的な信頼のほう が顧客およびその製造企業にとってはより効用が大きいであろう。一方,サー ビスのブランドの場合には,個客化対応によってより高い顧客価値を提供する ことを可能にする能力こそがブランドの価値であり,信頼の源泉となってお り,個々の顧客との間で形成されるミクロ的な信頼がサービス組織に顧客の吸 引や彼らとの関係構築といった効用をもたらしている。また,サービス組織は その経営資源の限界のために,地理的に広い,あるいはニーズの異なる広い顧 客層のすべてに高い顧客価値を提供できないだけでなく,提供できたとして も,顧客によってニーズやサービス・デリバリー・プロセスへの参加の仕方が 異なるために,すべての顧客が高い顧客価値を享受できるわけではない。その 結果,顕在的および潜在的顧客集合としての市場,あるいは競争の場としての 市場の中で共有されるようなマクロ的な信頼は形成されにくく,個々の顧客と の間にミクロ的な信頼(あるいは信頼関係)が形成されるにすぎないことが多 いであろう。

このようなことからサービスのブランド価値には,サービス組織の規模と事 業展開エリアの拡大によって形成されるマクロ的信頼に基づく市場資産価値だ けでなく,多くの地域密着型あるいは顧客密着型のサービス組織が限定された 顧客を対象として個客化されたサービスを提供し,高い顧客満足を達成するこ とで個々の顧客との間で形成されるミクロ的信頼に基づく価値,すなわち 客資産価値 も重要な次元として存在していると考えられる。従来のブランド 論で展開されているブランドは,顧客集合あるいは競争の場という抽象的な市

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

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(20)

場で形成されるマクロ的資産価値であるが,サービス組織のブランドの場合に は,個客化対応によって個々の顧客との間に信頼が形成されていることから,

これも資産価値として捉える必要があるであろう。したがって,サービスのブ ランド価値は,組織の規模と事業展開エリアの拡大に伴って形成される顧客集 合としての市場あるいは競争の場としての市場において形成されるマクロ的信 頼に基づく市場資産価値の側面からだけでなく,個客化対応と高い顧客満足に よって個々の顧客との間で形成されるミクロ的信頼に基づく個客資産価値の側 面からも捉える必要があると考えられる。

! 労働市場におけるブランド価値の側面

サービスのブランドは,労働市場においても重要な役割を果たすと考えられ る。従来のブランド論では,ブランド価値は市場を構成する顕在的および潜在 的顧客をベースとして捉えられているが,それらの顧客が就職先としてその提 供サービス組織を選択するという可能性を考慮すれば,労働市場を構成する顕 在的および潜在的労働者をベースとして捉える必要もあるであろう。

サービス・デリバリーには顧客の参加が必要とされ,多くのサービス・デリ バリー・プロセスでは顧客と従業員の間でサービス・エンカウンターが展開さ れるために,従業員の特性(性別,年齢,人種など),身なり,行動,態度な どもサービス品質を構成する重要な要因となっている。さらに,従業員の特性 や身なり,行動,態度などは顧客のサービス・デリバリー・プロセスへの参加 と協働のあり方に影響を及ぼし,これらはサービスの結果品質および過程品質 の形成に重大な影響を及ぼすことから,従業員は顧客のサービスに対する知覚 品質や満足/不満足の形成だけでなく,ブランドの意味や価値の形成において 重要な役割を果たしている。このようなことからサービス組織では,顧客の知 覚品質や満足の向上によって彼らとの間に良好で長期的な関係性を構築するだ けでなく,ブランドの意味や価値の形成の観点から質の高い従業員を吸引し,

さらに彼らの知識・技能を育成しながら良好で長期的な関係性を構築していく ことも必要とされる。

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