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独銀の国際業務 と金融市場
大 矢 繁 夫 ( 西南学院大学)
1.は じめに
第 1 次大戦前における ドイツの銀行の国際業務は,次の 3 つ に分類 しうる。
第 1 は貿易金融,第 2 は外国証券の発行 と ドイツ国内での売捌 き, そ して第 3 紘,r E ]じく外国証券の発行 K : 関わ りつつ も,外国での支店や現地法人の設立ま で至 って現地の産業関与まで踏み出す もの,である 。 この うち後 2 者は,全体 として, ドイ ツの対外的政治動向や銀行の個別的 コネ クシ ョンを背景 に もっ 良, どちらか といえば偶発性 を有す る展開だった, といい うる 1 ) 。 これ と比べ るとき,第 1 の貿易金融業務の方は, ドイツP銀行がよ り意識的 ・組識的 に追 求 した, とみ ることがで きるO またこの業務 は,間接的なが らも, ドイツの金 融市場 に連係 してその動向に深 く関わってゆ く一要因を形成 した, と考 えられ るのである。そ こで,本報告ではまず, ドイツの銀行の貿易金融が どのような 構造をもっていたかを明 らかに し, そ してそれの, ドイツの国内金融市場‑の 連係 を探 ってゆ くことか ら始める。
1
) 拙稿 「第1
次大赦前における ドイツの銀行の国際業務」『商学論集』第35巻第4号,西南学院
大学
, 1989年,参照。
2. 第 1 次大戦前における独銀の貿易金融 と金融市場
ドイツの銀行の貿易金融 を問題 とす る場合, い くつかの代表的ケースに分類
す ることがで きる。それ は, まず,海外か ら ドイツ‑の輸入に際 Lて,独銀宛
マル ク建引受手形が利用 され る場合, そ して,大陸 ヨー ロッパ諸国 と ドイツと
の輸出入取引に際 Lて,同 じく,独銀苑マル ク建引受手形が利用 され る場合,
独銀の国際業務と金融市場 1 03 最後 に,海外‑の ドイツの輸出に際 して,独銀 ロン ドン支店宛 ポ ン ド建引受手 形が利用 され る場合である。
こ こで注 目したいのは,第 1に挙げたケース,すなわち,独銀宛マル ク建引 受手形が ドイツの輸入金融 に用 いられ る場合である。簡単 にこのケースのポイ
ン トだけを追 ってみ ると次の ようになる。
( 丑海外の輸出商は独銀宛マル ク建手形 を振 り出 し,船積書類 を添 えて外銀へ 売却 (この外銀の業務は引受 けでな く割引で あ り,収入 は利子) 。輸出商 は輸 出代金 を取得す る。( 参外銀は独銀 に手形 と船積書類 を送付 し,独銀の引受 けを 得 る ( 独銀バ ランス ・シー トの貸方の 「引受」項 目に債務形成, これ は独銀の 引受業務であ り収入 は手数料O同時 に独銀バ ランス ・シー トの借方の 「商品お よび商品船積への前貸」項 目に資産形成, いわゆる 「 商品担保前貸」) 0⑨独銀 は船積書類 を独輸入商‑貸渡すO( 彰引受 けを与 えられた手形 は ドイツの割引市 場で割 引かれ,外銀 の手形債権 は現金化 し, ドイ ツ国内 にマル ク建預金 を形 成O他方,手形 は満期 日まで流通す るO( 9独輸入商は,手形の満期 まで に,輸 入代金 を独銀 に支払 う ( 独銀は 「 商品担保前賃」 を回収 ) 0⑥独銀 は満期 とな った手形 に対 して支払 う ( 引受債務 を 「 返済」) .
さて
,ここで とくに注 目したい点 は,最終的 に,独銀 に新たな預金が形成 さ れ る, とい う点である。 この預金形成 は, ドイツに送 られた独銀宛手形が ドイ ツの割引市場で割引かれ ・現金化す ることによって生 じるが, その際,外銀 と 取引関係 にある独銀 に預入 され るのが通常 といえよう。 なお
,この預金の所有 者はい うまで もな く外銀であるo この資金の出自をた どれば,割引市場‑ 紘 銀の引受債務支払‑ 独輸入商の支払‑ と行 き着 くのであ り, したが って この 資金は,本来,海外輸出商 ・外銀‑ と向か うものである。つま り,外銀の得べ き資金が ドイツ国内に とどまって独銀 に預入 された, とい う事態なのである。
なお, この預金 は,マル ク建 の当座預金で あ り,独銀 のバ ランス ・シー トで
は,貸方の 「 債権者勘定 」( Kr e di t or e n) の小項 目 「手数料不用勘定」 にその
他の預金 とともに区別な く記入 され ることになる。独銀 に とっては,短期外資
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の流入 とい うことで もあ るQ
さて問題 は, この当座預金の底溜 ま り分 を銀行 は自由に用 いることがで きる であろ うが, どの ような資産運用が最 も合理的 と考えられ る九 とい うことで ある。 この点 につ いて,短期的 ・流動的な資産運用が妥当 とい うことになるで あろ うが,短期的 ・流動的 な資産 とは,現金準備 を別 とすれば , 「手形等」,
「ノス トロ債権」 , 「ルポール ・ロンパー ト」である。 なお , 「商品担保前賃」 も 短期的 ・流動的 な資産で はあ るが
,これは除外 され るべ きであ る。 とい うの 紘,すで に明 らかなように, この資産項 目払 実際の資金貸付 を表す ものでな く,銀行が引受手形額の債務 を負 うのに対応 して,輸入商品 を担保 に とった貸 付 け として自動的 に生 じる債権 だか らであるQ
この ような , 「 手形等」 , 「ノス トロ債権」 , 「ルポール ・ロンバ ー ト」 とい う 短期的資産の中で,問題の預金の もっ とも合理的な運用対象は,結論 をいえば
「ルポール ・ロンバー ト」であると考 え られ る。なぜ ならば,問題の預金 は, ドイツの銀行が 「商品担保前貸」の債権 を回収 して引受手形 に対す る支払 をな す ことによって生 じるか らであ り, そ して この 「 商品担保前貸」は 「ルポール
・ロンパー ト」 と同 じ第 2 線準備 に属す るものだか らである。すなわち,新た に形成 された問題の預金が 「ルポール ・ロンバー ト」へ運用 された場令,迂回 的に 「商品担保前賃」が 「ルポール ・ロンバー ト」へ資産転換 した とみ ること がで きるので あ り, そ して この資産転換 は同 じ第 2 線準備の枠 内の事柄で あ
り, よ り合理的な成行 きといえるか らである。
諸関連 をバ ランス ・シー トに即 Lて要約 してお くと次の ようになるO ドイツ の銀行の貿易金融業務 は,当該銀行のバ ランス ・シー トの借方 と貸方 にそれぞ れ 「商品担保前貸」 と 「引受」を生ぜ しめ る。引受手形の満期到来 とともに, この銀行 は 「 商品担保前賃」の債権回収 をもって, この手形への支払 をなす。
この時点で,借方 と貸方の上記項 目の金額 は消 えるが,取引相手の外銀の手形 債権はすで に現金化 し,新たな預金 として預入 されている。結局,バ ランス ・
シー トの項 目で は, この新たな預金だけが残 るのである。そ して この預金 は,
独銀の国際業務 と金融市場 1 0 5 すで にみたように , 「ルポール ・ロンバ ー ト」‑ と運用 され る, とす るのが合 理的であろうとい うのである。
さてそれで は , 「ルポール ・ロンバー ト」 とは どの よ うな ものか, とい う点 であるが, それは結論だけをい うと,銀行 による短期の証券信用であ り, その 意義 は何 よ りも株式投機 を支 える, とい うことになる。 よ り具体的 には , この 信用 C i,株の定期取引 ( 月末限取引)の清算繰延べに用 いられ るものなのであ
る。
この点 について簡単 に説明を加 えてお くと次 の よ うになる ( 図 1 参照 ) O① まず,相場の上昇 を見込んで株の先物買いを行 う。強気投機であるO⑧思惑 ど お りの相場 上昇が生 じれば,月末の清算 日以前 に先物売 りを行 い,清算 日に 紘 ,2 0 0‑1 0 0‑1 0 0 の差額 を取得で きる。 これは,点線で示 され たケースで あ るD⑨ しか し,思惑 どお りの相場上昇が生 じなV , 場合,投機は先物売 りを見合 わせ,月末の清算 を繰延べ ようとす る。だが,月末の清算期 日には,先物買い の 1 0 0 の支払は履行 されねばならない。 そのため,引 き取 った株の差入れ と引 換 えに 1 0 0 を銀行から調達 し ( 繰延べ資金の調達) ,月末の支払 を履行す る, と い う成行 きとなるoその際,次の月末 には 1 0 0 +繰延料 ( Re por t ) で銀行か ら 株 を買い戻す ことがあらか じめ約束 されているO④次の月末 には,か くLて,
図 1 定期取引の清算繰延べ
先物 次 月末
売 り 清算 日
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この投機 は,先物売 りによる 2 0 0 を入手 し ,1 0 0+ 繰延料の支払 によって株 を買 い戻 L, これ らを清算 Lて 2 0 0 ‑ ( 1 0 0+ 繰延料)の差額 を取得す るので あ るQ
以上の ように Lて,「ルポール ・ロンバー ト」 とは,銀行 による短期の証券 信用であ り, その意義 は,何 よ りも株式投機 を支 える, とい う点 にあ る。 さら にいえば,投機が支 えられ ることに よって, それ だけ株式取引は活発 な もの と
といえ るであろ うOルポール ・ロンバー ト貸付 は, か くLて,株価動 向‑支配 的影響 を もち うるものなので あ るO こ こで は省略せ ざるをえないが,第 1 次大 戦前におけ るルポール ・ロンバー ト貸付 と株価 の動 きを追 ってみ ると,両者の 間 には相関関係 がみて とれ るので あ るD
以上で述べて きた ことは,要す るに, ドイ ツの銀行のマル ク建貿 易金融 が外 銀の預金 を吸収せ しめ るとい うこと, そ して それが, ル ボール ・ロンバー ト貸 付 とい う短期信用 を通 して, ドイツ国内の金融 市場 ・資本市場 ‑ も大き尉 乍用 を もった, とい うこ とをので あ る。戦前期 には この よ うな構造 が存在 して い た, とい うことなのであ る。
3.1 9 2 0 年代 ・3 0 年代 における変化 ・展開
1 9 2 0 年代, と りわけ, イ ンフレが終息 し新 たな体制が整 う 1 9 2 4 年以降の 「相 対的安定期」 には,既述 の構造 は大 きな変化 を余儀 な くされ るC まず. ルポー ノ し・ロンバー ト貸付 と株価 の動 き との関係であ るが, これは,安定期 も戦 前期 と同様 に一一 定の相関 を示 Lて いたO この点,戦前 期 にみ られ た金融 市場 の機 構,す なわ ち,銀行の短期の証券信用が資本市場へ強 い影響 を及ぼす とい う機 構 は, なお働 いていた とす ることがで きる。
しか しなが ら問題は, このル ポール ・ロンバー ト貸付 を支 え る資金的基盤が
人 きく変化 Lた. とい う点 なのであ る。第 1 次 大戦後 は,戦前期 にみ られ たよ
うな , 拙銀宛 マル ク建引受手形の貿 易金融での利用 は全 くな くなった。 そ Lて
その結 果は , 既 述 の ような ドイツの銀行内‑の外銀の償金形成が/ もじな くな っ
独銀の国際業務と金融市場 1 0 7 た, とい うことなのである。
ところで, ドイツの銀行への外国か らの短資流入には,通常 2つの形態があ る。外国現金信用 ( Aus 】 a nds bar kr e di t e) と手形保証信用 ( Tr a t t e nkr e di t e) であ る.前者は, さらに,マル ク建当座預金 ( t a gl i c he f i i l l i gen Rei e hs mar k一 gut ha be ni nl a uf enderRe c hnung) と期限付資金 ( Ge l derauHes t eTer mi ne) とに分けられ る。マル ク建当座預金 は,外銀の ドイツ国内での手形現金化など によって生 じるものであ り,他方で期限付資金は, ドイツの銀行が外貨で取 り 入れ るものであ り,浮動的性格が よ り強 い といわれ るO手形保証信用の方 は,
ドイツの銀行のバ ランス ・シー トでは 「 顧客のための第 3 者か らの借入」 とい う負債項 目で表示 され るが, これは,
ここで は説明を省 くが,実際の短資流入 となるものではない。
さて, 2 で問題 とした, ドイツの銀行‑の外銀の預金 は,上記外国現金信用 の うちのマル ク建当座預金であることはい うまで もない。そ して 1 920 年代の安 定期 には, この短期外資の流人が きわめて低 くなった, とい うことなので あ る。それは何 よ りも, ドイツの銀行の引受手形が貿易金融 に用 いられな くなっ たためなのであった。他方で, この こととは対称的に,上 にみた外国現金信用 の もう 1つの形態,つま り外貨での期限付資金の取入れはかな りの額 にのぼっ 良, といわれている。ただ し, この 2 つの短期外資の構成比 は明 らか とはなら ない。 ドイツの銀行のバ ランス ・シー トで は , 「 債権者勘定」の小項 目 「手数 料不用勘定」 と 「その他債権者勘定」 に,問題 とす る短期外資は国内資金 と無 亘別に記入 され るからであ る.だが,安定期 における ドイツの銀行への短期外 資流入は,外資でのそれが きわめて優勢であった, という指摘 はつ とにされて いる
2)0
以上で述べたことは要す るに次の ことになる。戟前期にみ られ たような,マ
・ t ,ク建引受手形で貿易金融 を行えるような, いわゆる 「マル ク決済圏」が崩壊
した とき,通貨 ・金融面における 1 つの大 きな変化は, ドイツの銀行への安定
拘な短期外資流入が杜絶 えるとい う形で表れた, とい うのであ るoか くLて ド
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イソの銀行は
,この資金の代 わ りに, よ り浮動的な外貨建短期外資の取入れ を 図 らざるをえなかった, とい うことなのである。 そ して, この ことは, ドイツ 国内金融市場 との関連で いえば,貨幣市場 と資本市場 を連結 して後者 を動か し てゆ くルポール ・ロンパー ト貸付の, その資金的基盤が戦前期 に比べて脆弱化 した, とい うことを意味す るので ある。
次 に,1 93 0 年代の状況 を簡単 に追 ってお く 。3 0 年代 は,何 よ りもまず,短期 外資の流出によって特徴づけられ る。 この流出は,主 として、独鎌か らの短期 外資の引揚げであった, といわれ る。 この点, ドイツの銀行への短期外資流入 を示す外国現金信用残高は,1 931 年か ら急減 して いる3 )(この時期の短期外資 は,すで に述べ たよ うに,浮動的 な外貨建の期限付資金が主で あ った) O ま た, ライ ヒスバ ンクの金 ・外貨準備高 をみ ると,やは り 1 931 年か ら急減 す る
表 1 ライヒスバンク保有金 ・外貨準備高
(百 万