一137一
利得償還請求権 の消滅時効期間
斉 藤 武
・一 は じ め に 二 判例お よび学 説
三 利 得償 還請求権 の性質論か らの考察 1序
2時 効制度 との関連 3残 存物説 の再検 討 四 消滅時 効 の起算 点
1利 得償 還請求 権 の発生時 点 そ の一(原 因関係上 の当事者 と利 得償還上 の当事者 とが同 じ場合)
2利 得償 還請 求権 の発生時 点 そ の二(原 因関係上 の当事者 と利 得償還上 の当事者 とが違 う場 合)
五 む す び
一 は じ め に
最 近,手 形 法 第85条 に い う利 得 償還 請求 権 の 消 滅 時効 期 間 につ い て,最 高 裁 判 所 と しては 初 め て の判 断 が 示 され た 。 そ れ は利 得償還 請 求 権 の消 滅 時 効 期 間 は5年 で あ る とす る上 告 理 由 に 対 し,「 利 得償 還 請 求 権 は,手 形 上 の 権 利 が手 続 の 欠 鉄 あ る いは短 期 の 消滅 時 効 に よ って 消滅 す るた め,手 形 上 の 権利 を 失 な った 手 形 債 権 者 と利 益 を 得 た手 形 債務 者 の 公平 をは か るた め に 認 め られ た もので あ るか ら,手 形 上 の権 利 自体 で は ない が,既 存 の法 律 関 係 が 形 式 的 に変 更 され るだけ で,手 形 上 の権 利 の変 形 と見 るべ きで あ り,手 形 上 の 権 利 が 実質 的 に変 更 され て既 存 の 法律 関 係 とは ま った く別 個 な権 利 た る性 質 を 有す るに 至 る もの とい うべ きで は な い。 した が って,利 得 償還 請 求権 は 商 法 五〇 一条 四 号 に い う 『手 形 二関 ス ル行 為 』 に よって生 じた債 権 に 準 じて
一一138一 商 学 討 究 第18巻 第3号
考 うべ く,こ れ が 消 滅 時効 期 間 につ い ては,同 法 五二 二 条 が類 推 適 用 され, 五 年 と解 す るの が 相 当 で あ る」(最 高判昭和42年3月31日 民集21巻2号483頁)
と判 示 した もの で あ る。 この判 決 は,利 得 償還 請 求 権 の 消滅 時 効 期 間 は10 年(民167条1項)で あ る,と す る 従 来 の大 審院 判 例 を変 更 した とい う意 味 に お い て,注 目す べ き もので あ る。
この判 決 とは 直接 の 関 係 を持 た な いが,最 高 裁 判 所 は,白 地 小切 手 の補 充 権 の消 滅 時 効期 間 に つ い て,「 補 充 権 授 与 の 行 為 は 本 来 の手 形行 為 では な い け れ ど も商 法 五〇 一 条 四号 所 定 の 「手 形 に 関す る行 為 』 に 準 ず る もの と解 し
て妨 げ な く,ま た 白地 小切 手 の補 充 は,小 切 手 金 請 求 の債 権 発 生 の要 件 を な す もの であ り,さ らに 小切 手 法 が 小 切 手上 の権 利 に関 し特 に 短 期 時効 の制 度 を 設 け てい る こ と等 を勘 案 す れ ぽ,白 地小 切 手 の補 充 権 の 消 滅 時効 につ い て は 商 法 五 二二 条 の 『商 行 為 二因 リテ生 シ タル債 権 』 の規 定 を 準 用 す るの が相 当 で あ る」(最 高判 昭和36年11月24日 民集15巻2号536頁)と 判 示 し,白 地 手 形 補 充権 の 消滅 時 効 期 間 は20年(民167条2項)で あ る,と す る従 来 の 大 審 院 判 例 を変 更 して い る。 これ ら二 つ の 判 決 をみ る と,そ こに な に か最 高 裁 判 所 の 一連 の態 度 とい った よ うな もの を窺 え る よ うで あ る。
二 判例 お よび 学説
先 ず,10年 説 を 採 用 した 最 初 の 大 審 院 判 決(明 治45年4月17日 民録18輯 397頁)は,そ の 理 由 と し て 次 の よ うに の べ て い る。
「商 法 第 四 百 四 十 四 条(現 手形法85条)ノ 償 還 請 求 権 ハ 手 形 ヨ リ生 シ タル 債 権 力 時 効 叉 ハ 手 続 ノ欠 敏 二因 リテ 消 滅 シ タ ル トキ 発 生 ス ル モ ノ ナ レハ,其 債 権 ハ 手 形 行 為 二因 リ テ 生 ス ル モ ノ ニ非 サ ル ハ 勿 論 其 他 何 等 ノ商 行 為 二因 リテ 生 ス ル 債 権 ニモ 非 サ ル ヤ 明 ナ リ。 抑 モ 債 権 力 商 行 為 特 二手 形 行 為 二因 リテ 生 シ タ ル トキ ハ 商 法 第 二 百 八 十 五 条(現522条)第 四 百 四 十 三 条(現 手形 法70条) ノ規 定 二依 リ,一 般 ノ商 行 為 二付 テ ハ 五 年 ノ時 効 二因 リテ 消 滅 シ,手 形 行 為 二付 テ ハ 三 年 等 ノ時 効 二因 リテ 消 滅 シ,引 受 人 又 ハ 約 束 手 形 ノ振 出 人 二対 ス
利得償還請求権の消滅時効期間(斉 藤) 一 一139一
ル 債 権 二付 テ ハ 満 期 日 ヨ リ起 算 ス ヘ キ モ ノ ナ リ ト錐 モ,如 上 ノ 償 還 請 求 権 ハ 手 形 債 権 力既 二其 特 別 時 効 又 ハ 手 続 ノ欠 鉄 二 因 リ消 滅 シ タル 後 始 メ テ発 生 ス ル モ ノ ナ ル 以 上 ハ,一 般 ノ商 事 時 効 ヲ適 用 ス ヘ キ モ ノ ニ非 ス シ テ普 通 債 権 二 対 ス ル 時 効 ヲ適 用 シ其 権 利 ヲ行 使 シ得 ヘ キ 時 ヨ リ十 年 ヲ経 過 ス ル ニ因 リテ 消 滅 ス ル モ ノ ト謂 ハ サ ル可 カ ラ ス 」
この 大 審 院 判 決 以 後,10年 説 が 判 例 と な っ て い た 。 最 近,下 級 審 で5年 説 を と く もの が 一 件(名 古屋 高金沢支部判 昭和39年7月3日 高裁民 集17巻5号292 頁)あ っ た だ け で あ る。 そ れ が 今 度 の 最 高 裁 判 決 に よ り5年 説 が 採 用 され, 判 例 は 最 近 の 多 数 説 に した が い 変 更 さ れ た か た ち とな った わ け で あ る。
(1)(2)(3)
一・方 ,学 説 は ま ち ま ち に わ か れ,10年 説,5年 説,3年 説,手 形 の 短 期 時
り
効 が そ の ま ま準 用 され る とす る説,な どが あ る。
10年 説 の論 拠は,従 来 の判 例 の 説 くとこ ろ とお な じ く,利 得 償還 請 求権 は手 形 法上 の権 利 で は あ るが,手 形 上 の権 利 で は な いか ら,手 形 の短 期 時効 (手70条)の 適 用 を うけず,ま た,こ の 請 求 権 は 商 行 為 た る手形 行 為 に よ っ て生 じた もの で は な いか ら,5年 の商事 時 効(商522条)の 適 用 を も うけ な い ので あ って,結 局,こ の請 求 権 は手 形 法 に よっ て認 め られ た特 別 の請 求 権 で あ り,そ の性 質 は一 種 の指 名債 権 で あ るか ら,一 般 債 権 に 対 す る時効 の適 用 を うけ,そ の 消滅 時 効 期 間 は10年 で あ る(民167条1項)と す る もので あ る。
この10年 説 に対 し,S年 説,3年 説 及 び 手形 の短 期 時 効 が そ の ま ま準 用 さ れ る とす る説 の三 説 の 論拠 は,利 得 償 還 請 求権 は,こ れ を 形 式 的 にみ れ ぽ手 形 法 に よ りみ とめ られ た 一 種 特別 の請 求 権 で あ り指 名債 権 た る性 質 を 有す る が,こ れ を実 質 的に 考 察 してみ る と手 形 上 の権利 の残 存 物 な い し変 形 物 で あ る と考 え られ るので あ っ て,そ の 消滅 時 効 期 間 に つ い て も,手 形 上 の権 利 と 無 関 係 に 解 釈す べ き もので は な い とい うと ころに あ る。10年 説 は 利 得 償還 請 求 権 の 形 式 的 な法 的性 質 を 重視 して解 釈 し,他 の 三説 は利 得 償 還 請 求権 の 経 済 的 ・実質 的 な性 格 を 重視 して解 釈 して い るわ け で あ る。 要 す るに 重 点 の お き場 所 の相 違 に よ る解 釈 の ちが い の よ うであ る。 これ ら三 説 はそ して いか
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商 学 討 究 第18巻 第3号
な る程 度 に利 得 償 還 請 求 権 を手 形 上 の権 利 の 残存 物 な い し変 形 物 で あ る と考 え るか の差 に よ り,そ の消 滅 時 効 期 間 を,あ るいは5年 と し,あ るいは3年 と し,あ るいは手 形 の短 期 時 効 が そ の ま ま準 用 され る と して い る。
した が って,利 得 償 還 請 求権 が実 質 的 に は手 形 上 の権 利 の残 存物 な い し変 形 物 で あ る,と い うこ とを重 視 して解 釈 す る とい う意 味 で は,利 得償 還 請 求 権 は商 行為 に よ って 生 じた る債 権 に 準 じて5年 の時 効 に よ り消 滅す る,と 説 く5年 説 は 徹 底 しな い。 そ の点,利 得償 還 請 求 権 に は手 形 の短 期 時 効 が そ の ま ま準 用 され る とす る説 の方 が,よ り徹底 して い る といえ よ う。 そ れ に,商 法501条4号 の存 在 が疑 問視 され て い る今 日,法 形 式 論 理 か らは まちが いで は ない と して も,利 得 償 還 請 求 権 の 消 滅 時効 期 間に つ き商事 時効 に 関す る商 法522条 を 準用 す る とい うこ とに は 大 きな疑 問が そ んす る。一 方 に お いて利 得 償 還 請 求権 が 手 形 上 の権利 の残 存物 な い し変 形 物 で あ る とい うこ とを強 調 しな が ら,そ の 消 滅 時効 期 間 に つ き,手 形 上 の短 期 時効 を準 用 す る こ とを 避 け,商 法522条 を 準 用 す る との解 釈 論 は一 つ の妥 協 の産 物 とい え よ う。
5年 説 の根 底 に は,利 得償 還 請求 権 の 法 的 な い し経 済 的 性 質 論 議 もさ る こ とな が ら,そ の 消 滅 時効 期 間 を10年 とす るのは あ ま りに も 長す ぎ る とい う 感 覚 的 な ものが 強 く働 い て い る よ うに お もわ れ る。つ ま りそ れ は 次 の よ うな 理 解 を 前提 と して い る。仮 りに10年 の 消 滅 時効 に 罹 るべ き一 般 債権 を 目的 と して約 束 手 形 が 振 出 され た場 合 に,原 因 債権 は 弁 済期 か ら10年 の 消滅 時 効 に かか るが,他 方,手 形 法 上 の権 利 は とい え ば,手 形 債 権 が 満 期 か ら3年 の時 効 完 成 後,利 得 償 還 請 求権 が発 生 し,こ の請 求 権 の 消滅 時効 期 間 を10 年 で あ る と解 す る と,通 常,原 因債 権 の弁 済期 と手 形 の満 期 とは 同 じで あ ろ
うか ら,そ こに3年 間 の 差 が生 じる こ とに な る。 ま してや,商 品 売却 代 価 の 債 権 は2年 の 時効 に 罹 る(民137条1項)等,商 法 上,民 法 上,短 期 消滅 時効 に か か る と され て い る債 権 は多 々そ ん し,そ れ らを 目的 と して 手 形 が振 出 さ れ た場 合 に は,そ の 差を 一 層 ひ ろげ る。 この感 覚 的理 解 は,5年 説 に 限 らず
3年 説 及 び手 形 の短 期 時 効 が そ の ま ま準 用 され る とす る説 につ いて も,同 じ
利得償還請求権の消滅時効期間(斉 藤) 一141一
こ とカミい え よ うo
な お,ド イ ツ法 に あ っ て は,条 文 上,そ の 消 滅 時 効 期 間 に つ き,手 形 法 上 は3年,小 切 手 法 上 は1年 と 明 定 され て い る の で 問 題 を 生 じ な い(ド イ ツ手形 法89条1項,小 切手法98条2項)。
(1)松 本 ・手 形 法95頁,等 々。
(2)田 中(耕)・ 手 形 法 小 切 手 法 概 論195頁,伊 沢 ・手 形 法 小 切 手 法233頁,鈴 木 ・ 手 形 法 小 切 手 法311頁,服 部 ・手 形 小 切 手 法163頁,等 々 。
(3)明 確 に 利 得 償 還 請 求 権 の 消 滅 時 効 期 間 は3年 で あ る と した も の は 見 当 た ら な い 。 大 隅=河 本 。手 形 法 小 切 手 法412頁,浜 田 「利 得 償 還 」 講 座5巻163頁,等 参 照 。 な お,立 法 論 と し て3年 説 を 主 張 され る も の と し て,鴻 「手 形 法 上 の 利 得 償 還 請 求 権 」 商 法 研 究 ノ ー ト 皿181頁 が あ る。
(4)喜 多 川 「手 形 時 効 」 講 座5巻119頁 以 下 。
三 利 得償 還 請 求 権 の性 質 論 か らの考 察
1序
利 得 償還 請求 権 の 消滅 時 効 期 間 を いか に考 え るべ きか は,究 極,利 得償 還 の制 度,つ ま り,法 律 上,利 得 償 還 請求 権 が認 め られ て い る こ との趣 旨を ど
う把 握 す るか に 連 な る問題 で あ る。 利 得償 還 請求 権 を手 形 の残 存 物 な い し変 形 物 で あ る とい って も,な ん ら問題 を 解 決 した こ とに な らない 。
り
利 得 償還 の制 度 を手 形 法 体 系 の 中に い か に位 置 づ け るべ きか を 考 え るに あ た り,各 国の 立 法 例 を み てみ る と,手 形 法 上 の利 得償 還 制 度 を 設 け て い るか 否 か は,各 国 の 法制 度 に よ りまち ま ちで あ る。 ジ ュネ ー ブに お け る手 形 法 統 一 条 約(1930年)第2附 属 書 第15条 また 小切 手 法 統 一 条 約(1931年)第2
附 属 書 第25条 に,そ れ ぞ れ利 得償 還 請求 権 を 認 め るか 否 か は 各 締 約 国 の 自
(2)
由で あ る旨が 規定 され た。 しか も,英 米 法系 諸 国 は統 一 条 約 に調 印 して お ら ず,フ ラ ソス 法系 は 資金 理 論 に よ り問題 の 解 決 を 図 って い る し(資 金 関 係 を いか に解 す るか も各 締 約 国 の 自由 と し,統 一 条 約 の 留 保 事 項 と さ れ て い る),ま た,利 得 の償 還 を 認 め る ドイ ツ法 系 に あ って も,利 得償 還 請 求権 の
一 一142‑一 商 学 討 究 第18巻 第3号
内 容 に つ い て各 国 お な じわ け で は な い。 利 得 償 還 請 求権 の 内 容 につ い ては 統 一 条 約成 立 以前 か ら,そ の 発 生要 件 や時 効 期 間,利 得償 還 義 務 者 の範 囲等 に
ゆ つ き,各 国 の 規 定 が 区 々に わ か れ て い た も の で あ る 。
め
統 一 条約 第2附 属 書に お いて,裏 書 人 を利 得償 還 義務 者 に 加 え うるか否 か につ いて も,か か る者 が利 得 す る とい うば あ い が実 際 に は あ る のか ど うか と い うこ とに 関 連 して議 論 のわ かれ た と ころで あ る。 これ は結 局 ス カ ソジ ナ ヴ ィア諸 国 の 主張 が入 れ られ て,裏 書 人 を も利 得償 還 義 務 者 中 に 加 え うる こ と に した とい う経 過 が あ る。
上 述 の こ とか ら も,わ が 国 手形 法 第85条 に 規 定 され て い る利 得償 還 請 求 権 は,そ れ の内 容 が手 形 法 体 系 か ら論 理 必 然 的 に 一義 的に あ らわ れ て くる も の で な い こ とを窺 うこ とが で き る。 利 得償 還 請 求権 の 法 的性 質 を論 じて み て も,そ の こ とか らた だ ち に この請 求 権 の内 容 に つ き結 論 を 抽 出 で き る とい う 性 格 の もので は な い 。
2時 効 制 度 との関 連
① ドイ ツ法 系 に お け る手 形 法 体系 に あ っ ては 無 因 理 論(こ れ は手 形 所 持 人 に 有利 に機 能 す る)を 採 用 して,手 形 の転 蝦 流 通 性 を 強 度 に 保 護 し支 払 を 確 実 に して い る。 す なわ ち,権 利 の 外 観 に対 す る取 引界 の信 頼 を 保 護 して い るわ け で,こ れ を手 形 債 務 者 の側 か らみれ ば そ の責 任 は 厳 格 な もの に な って い る といえ よ う。他 方,そ の規 定 の 仕 方 が 立 法 論 と して 妥 当 で あ るか い な か は別 と して,金 銭 取 引 の手 段 た る手形 の,短 期 決済 とい う目的 の た め,法 は 特 別 の短 期 消 滅 時効 を み とめ,か つ,遡 求 権 保 全手 続 の要 件 を 厳 格 に して い
る(こ れ は手 形所 持 人 に不 利 に機 能 す る)。
手 形 債 務 者 の責 任 が 厳格 な の で,短 期 消 滅 時 効 を 認 め,か つ,手 形 権 利 者
らラ
の 遡求 権 保 全 手 続 を 厳 格 に して い るの で あ る,と い った 説 明に は 賛 成 しな い 。手 形 債 務 者 の保 護 に とって 必要 な こ とは,い か な る者 に 支払 えば 責 任 を まぬ がれ るか とい う基 準 を 明確 にす る こ とで あ ろ う。手 形 債 務 者 の責 任 が い か に厳 格 な もので あ れ(こ の厳 格 とは'あ る行 為 に つ い ては 責 任 を と らせ る
利得償還請求権 の消滅時効期間(斉 藤) 一143一 とい う意 味で しか な い),少 な くと も手 形 上 の 権利 に つ い て,他 の債 権 に つ い て と異 な る特 別 の短 期 消滅 時 効 をみ とめ る こ とに よ って,手 形債 務 者 を保 護 す る必 要は な い。
手 形 上 の権 利 につ き短 期 消滅 時効 を認 め,か つ,遡 求権 保全 手 続 を 厳 格 な らしめ て い る趣 旨は,「 手 形 債 務 者 の責 任 が 厳 格 なた め,手 形 権 利 者 に もそ の権 利 の 行使 につ き厳 格 な制 限 を 加 え る」 とい った 喧 嘩両 成 敗 式 の 恩恵 的 措 置 で は な く,迅 速 な る取 引 決 済 とい う要請 に もとつ く,手 形 の短 期 決 済 とい う目的 に で て い るの で あ る。 そ れ が 機能 面 で手 形 債務 者 を保 護 す る結 果 とな っ て い るに す ぎな い 。一 方 に お いて,取 引 の 安全 ・手 形 の流 通 の促 進 とい う
目的 か ら無 因 理 論 が採 用 され,他 方 に お い て,手 形 の短 期 決 済 とい う目的か ら,手 形 の短 期 消 滅 時効 ・遡 求 権 保 全 手続 の 厳格 な 遵守 負 担 が規 定 され て い るの で あ る。 前 者 が 手 形債 務 者 に とっ て不 利 に 機 能 し,後 者 が手 形 権利 者 に
とっ て不利 に機 能 す る とい うにす ぎな い。
手 形 の この短 期 決済 の 目的 か ら,遡 求 権 保 全 手 続 の 欠鉄 また は時 効 に よ り 手 形 上 の権 利 が 消滅 し,そ れ で す べ て につ きけ りを つ け て しま うこ とは,法
律 感 覚(価 値 観)に 合 わ な い とい うところか ら,利 得償 還 請 求 権 をみ とむ べ き必 要 性 が 説 か れ て い る とい え よ う。 法律 感 覚 に あわ な いか あ うか は,実 質 関 係上 の権 利 と手 形 上 の権 利 との取 扱 いに つ き,こ れ ら権 利 の消 滅 の 面 で, あ ま りに も相 異 した 結果 に な るか な らな い か に よ って い る。
た とえば,一 般債 権 の 支払 に代 えて 約 束手 形 が 振 出 され た場 合,も し手 形 が振 出 され なけ れ ば弁 済期 か ら10年 の 消 滅 時 効 で あ るが,手 形 が 振 出 され た が た めに満 期 か ら三年 で時 効 完 成(時 効 の 中断 が な い と して)し,そ の間
(6)(7)
に7年 の差 が 生 じる。 これ は お か しい とい う法 律 感 覚 で あ る。 仮 りに 一 般 債 権 が時 効 にか か り消 滅 して も,な ん ら債 権 者 に対 す る救済 方 法 を法 は 考 え な い 。 それ は法 が 時 効制 度 を み とめ た結 果 で あ っ て,静 的,権 利 義 務 関 係 の 終 結 に つ き妥当 な解 決 を な して い る もので あ る と是 認す るか らで あ る。 手 形 債 権 の時効 制 度 に つ い て法 が そ れ と同 様 に考 え な い のは,手 形 の手 段 的 性 格 を
■
一一一144一 商 学 討 究 第18巻 第3号
考 慮 した もの で あ る。 つ ま り,手 形 債 権 自体 の時 効 消 滅 に つ い て は容 認 す る が,手 形 債権 の時 効 消滅 と同時 に,原 因債 権 債 務 関 係 もす べ て 終 了す る とな す のは 不 都 合 で あ る とす る ので あ る。 手 形 の 短 期 消 滅 時 効 期 間 はす べ て の 権 利 義 務 関 係 の 終 了 の た め,妥 当 な期 間 で あ る と して 定 め られ た もので は な く,手 段 的 性 格 を有 す る手 形 の,動 的,短 期 決済 とい う他 の 要 請 か ら定 め ら れ た時 効 期 間 にす ぎな いか らで あ る。
この法 律 感 覚 を 称 して衡 平 の 観 念 とい って い る もので あ る。 これ が利 得償 還 請 求 権 を 認 む べ き と説 く場 合 の,利 得償 還 制 度 の趣 旨で あ る。 す な わ ち,
(8)
不 公 平 な 利 得(ungerechtfertigterBereicherung)を 認 め な い と い う こ と で あ る 。
② 上 の 理 解 が 判 例 理 論 の 底 流 と な っ て い る こ と が う か が え る 。 そ れ を 次 に 図 で 示 し な が ら 考 察 し て み る 。
○○▲
1‑●
手形上の権利の時効消滅点 原因債権 の時効消滅点
利得償還請求権が発生 した と仮定 して,そ れ の時効期間満了点
轟 一 〇
この間 は他 に救済方 法つ ま り原 因債権 が あ るか ら利得 償還請 求権は発 生 しない
○ 一一 一 一一
一●
▲ 一一→ 以 後は利得償 還請求権 を認め ない
この間は手 形上 の権利 が存 在 す るか らそ もそ も利得償 還請求権は 問題に な らない
▲一 → 以 後はそ の発 生要 件を形式 的に満 た して も利得償還 請求権 を認め な
し ・
した が って 少 な くと も,た とえ ば約 束手 形 が既 存 債務 の 支 払 の た めに 振 出 され た ば あ い に,約 束 手 形 の振 出 人(利 得 償還 義務 者 た るべ き者)と そ の受 取 人 との 間 に お い ては 形 式 的 に は 原 因債 権 の 時効 期 間 と手 形 法 上 の権 利 の 時 効 期 間 との 間 に差 を 生 ぜ しめ る よ うな ば あ いで も,実 質 的 には 差 を 生 じな い こ とに な る。 そ のか ぎ りに お いて は,判 例 が10年 説 か ら5年 説 に変 更 した こ とに は,実 益 が な い こ とに な る。 そ の他 の当 事 者 関 係の ば あ い に つ い て述 べ る まえに,判 例 の説 くと ころを概 略 掲 げ て お くこ とに した い 。
色
利得償還請求権の消滅時効期間(斉 藤) 一 一145一
イ 利 得 償還 請求 権 を認 め な い場 合 そ の一(1図)
先 ず,手 形 上 の権 利 の 消滅 後 に 原 因債 権 が 時効 消 滅 した ば あ い には,利 得 償 還 請 求 権 を み とめ な い とす る判 決 は つ ぎの ご とき もの で あ る。
④ 東 京 地 判 昭 和13年7月7日 新 聞4457号16頁 〔事 実 〕 貸金 債 権 の 支 払 方 法 と して約 束手 形 がX宛 に 振 出 され た 。そ の 後,手 形 債 権 は 昭 和9年
9月 末 日に,ま た,貸 金 債 権 は 昭 和11年9月26日 に,そ れ ぞれ 時 効 が完 成 した 。 〔判 文 〕 「約 束手 形 ヨ リ生 シ タル権 利 力時効 ニ ヨ リテ消 滅 シ タル場 合 所 持 人 二法 律 上許 サ ル ル振 出 人 二対 ス ル利 得償 還 二於 テ振 出人 力受 ケ タル利 益 トハ 振 出人 力手 形 ノ基 本 関係 二付 振 出 ノ対価 トシテ現 実 二受 ケ タル利 益 ヲ 指 称 ス ル モ ノナ ル トコ ロ手形 力債 務 ノ支 払 ノ為 メ振 出 サ レタル場 合 ニハ 其 ノ 既 存 債 務 ハ手形 ノ支 払 ア ラサ ル限 リ消 滅 セ サ ル ヤ 明 カ ナル ヲ以 テ手形 振 出人
ハ手 形 振 出 シ ョ リ何 等 現実 二利 得 シ タル モ ノニ ア ラサ レハ仮 二手 形 ヨ リ生 シ タル債 権 力時 効 ニ ヨ リテ消滅 ス ル モ所 持 人 ハ利 得 ノ償 還 ヲ請 求 ス ル コ ト能 ハ ス 尚又 此 理 ハ既 存債 務 力其 ノ後 時 効 ニ ヨ リテ消滅 ス ル モ這 ハ手 形 振 出 ノ際 ノ 基 本 関 係 ト何 等 因 縁 ナ キ別箇 ノ原 因 ニ ヨ リテ消 滅 シ タル モ ノ ニ係 リ之 ヲ以 テ 前 示約 束 手形 ノ基 本 関 係 二付 振 出 ノ対 価 トシテ現 実 二受 ケ タル利 益 ト称 ス ル ヲ得 サ ル モ ノ トス … …右 手 形 ノ消 滅 時 効 完 成 当 時 ニハ右 貸金 債 権 ハ未 タ消 滅 シ居 ラサ リシモ ノ ト謂 フヘ キ ヲ以 テXハ 本件 手 形 取 得当 時 ハ 元 ヨ リ其 ノ主 張 ノ手 形 債 権 ノ消滅 時 効 完 成 当 時 尚基 本 ノ貸 金債 権 二基 キ其 ノ権 利 ヲ行 使 シ得 ヘ カ リシモ ノナ レハ 其 ノ後 右 貸 金債 権 二付 消滅 時 効 完 成 シ タル コ トヲ捉 ヘ テ 遡 リテ現 実 二利 得 シ タル モ ノ ト主 張 ス ル能 ハス 」
⑬ 大 判 昭 和16年6月20日 民 集20巻14号900頁 〔事 実 〕Y等 はX銀 行 か ら金 銭 を 借 受 け,そ の 支 払 方 法 と して約 束 手 形 を振 出 した 。 そ の後,手 形 債 権 は 昭 和3年4月17日 に,ま た,貸 金債 権 は 昭和5年4月17日,そ れ ぞれ 時 効 が完 成 した。
◎ 最 高 判 昭 和38年5.月21日 民 集17巻4号487頁 〔事 実 〕YはXか ら金 銭 を借 受 け,そ の支 払 方 法 と して 約 束 手形 を振 出 した。 そ の後,手 形 債
一146一 商 学 討 究 第18巻 第3号
権 が時 効 消 滅 した 後 に 貸 金債 権 に つ い て も時効 が 完成 した 。 ロ 利 得償 還 請 求 権 を 認 め な い 場合 そ の二(H図)
原 因債 権 の時 効 消滅 後 に手形 上 の 権利 が 消滅 した 場 合 に は,利 得償 還 請 求 権 を認 め な い とす る判 決 は次 の ご と き もので あ る。
④ 名 古屋 高 判 昭和36年3月28日 高 裁 民 集14巻3号210頁 〔事 実 〕 Y等 はXに 対 し商 品 買 受代 金 の 支払 方 法 と して 約 束 手形 を 振 出 した 。 そ の 後,売 掛債 権 も手 形 債 権 も と もに 時効 消滅 した。
⑧ 名古屋 高 金沢 支部 判 昭和39年7月3日 高 裁 民 集17巻5号292頁
〔事 実 〕Yは 訴 外ABに 対 し商 品 買受 代 金 の支 払 方 法 と して約 束手形 を 振 出 した 。 売 掛 債権 は弁 済 期(手 形の満期 と同日と認定 された)か ら2年 の 消滅 時効 が,ま た,手 形 債 権 は 満期 か ら3年 の 消滅 時 効 が,そ れ ぞ れ 完成 した 。Xは 手 形 債 権 の時 効 消 滅 後ABか ら手 形 を譲 り受 け た 。 〔判 文 〕 「本件 各 約 束 手 形 の振 出 しの原 因 とな ったYに 対 す る売 買代 金 債 権 が,い ず れ も本 件 各 約 束 手形 の手 形 金 債 権 の時 効 消 滅 前 に 時効 に よ り消滅 した こ とは前 述 の とお りで あ るが,Yが 売 買代 金 の支 払 いを免 れ る ことに よ って利 得 した のは,売 買代 金債 権 の 時効 消滅 とい う本 件 約 束 手形 の振 出 し とは 別個 の法 律 上 の原 因 に よ る もので あ り,右 の利 得 を もっ て本 件 各 約 束 手形 の振 出 しに よ る利 得 とい う こ とは で きな い か ら,Aお よびBは 本 件 各 約 束手 形 の手 形 金債 権 が時 効 消 滅 した こ とに よって は,Yに 対 す る手 形 法上 の利 得償 還 請 求 権 を取 得 しなか っ た もの とい わ なけれ ば な らな い。」
判 例 は か か る理 論 を採 用 して い るた め,約 束手 形 が既 存債 務 の 支払 の ため に(取 立 のた めに,支 払 方 法 と して。 以下 特 に こ とわ らな い限 り,担 保 のた め に を含 め た広 い 意 味 に用 い る。)振 出 され た 場 合,振 出 人 と 受 取 人 との間 の 法 律 関 係 に つ い ては,10年 説 を採 ろ うと5年 説 を 採 ろ うと,実 質 的 に差 異 が な いわ け で あ る。 図1皿 と もに,原 因債 権 の時 効 消 滅(完 成)の 時 点 に 力 点 が 置 かれ て い る。 図IIの 場 合 に お い て も,原 因債 権 の時効 消 滅 後 に あ っ て は,手 形 上 の権 利 が存 在 して いて も,原 因債 権 の 消滅 とい う抗 弁 の 対 抗 を
利得償還請求権の消滅時効期間(斉 藤) 一 一一147‑一
うけ る こ とに な る。
いず れ に して も,上 述 の 例 の ご と き場 合 に お いて,原 因債 権 時 効 消 滅 後 は 受 取 人 に法 的救 済 方 法 が な くな るわ けで あ る。 判 例 が 以上 の よ うな理 論 を 採 用 して い るた め,上 述 の ば あ い受 取 人 が利 得償 還 請 求権 を取 得す る余 地 の な い こ とに な るが,か か る帰 結 は 不 合 理 で あ る と して 判 例 理論 を 非難 す る主 張 もそ ん す る。 しか し,後 述 の ご と くかか る主 張 は 本 末 顛倒 で あ る。 上 述 の よ うなぽ あい に は,受 取 人 に 利 得償 還 請 求権 が発 生す る とす る こ と こそ が不 合 理 で あ る とい うべ きで あ る。(も っ と も,利 得償 還 請 求 権 が 発 生す る と解 し て も,振 出人 受取 人 間 に おい て は,原 因債 権 の時 効 消 滅 は抗 弁事 由に な るか
ら,結 果 は お な じこ とに な ろ う。)
だ が,手 形 は本 来 輯 転 流 通 す る こ とを予 定 して い るか ら,手 形 関 係 は 上述 の例 の ば あ いの ご と く単純 な もの ば か りで は な い た め,し か く簡 単 に は い か な い。 手 形 が 支 払 に代 え て(支 払 と して)振 出 され た ば あ い には,原 因債 権 の 消滅 時効 が 初 め か ら問題 に な らな いわ け で あ る。 また,た とえば 甲振 出人 乙 受取 人 丙被 裏 書 人 の場 合,丙 の原 因 債 権 は 乙 に対 す る もので 主 た る債 務 者 甲に 対 す る もの で は な く,甲 乙 間 の原 因 関 係 は,丙 に とって は,悪 意 の抗 弁 の対抗 を うけ るば あ い を の ぞ き原 則 と して 無 関 係 で あ る。 また,甲 為 替手 形 の振 出人 一 乙 引 受 人 丙 受取 人 のば あ い,丙 の 原 因債 権 は 甲 に た い す る もので 主 た る債務 者 乙 に た いす る もので は な く,甲 乙 間 の 資 金 関 係 は 丙 に 関 係 が な い。 この よ うな場 合 に は,10年 説 を 採 るか5年 説 を採 るか に よ り,実 質 的差 異 を生 じる結 果 とな る。
と もあれ,判 例 理 論 を検 討 してみ る と,そ の 底流 に,手 形 債 権 の消 滅 後 は 実 質 関 係 に 立 ち も どろ うと し,利 得償 還 請求 権 に つい て も 実 質 関 係 に な る べ く近 づ か しめ よ うとの うご きが存 す る よ うに か ん じ られ る。 つ ま り,判 例 は,手 形 関 係 の 消滅 後 は,実 質 関 係 に 近 づ か しめ て解 決 す る こ とを衡 平 で あ
る と考 え てい るの で は なか ろ うか 。
③ 手 形行 為 が 支 払 の た め に な され た ば あ いに つ き考 え てみ る と,手 形 上
一148‑一 商 学 討 究 第18巻 第3号
の権 利 が 時 効 に か か り消滅 した ときに は,そ の手 形 は手形 と して の生 命 を 失 った ので あ るか ら,後 は実 質 関 係 で 解 法 す る こ とに して も よ さそ うで あ る が,当 事 者 が 複 数 な る こ とを予 定 す る手形 小 切手 に あ って は,し か く簡 単 に は いか な い。
た とえ ば,2年 の短 期 消滅 時 効 に か か るべ き債 務 の 支払 の た め に振 出 され た 約 束 手形 が,10年 の時 効 に か か るべ き 債 務 の 支 払 の た め に 裏 書譲 渡 され た とき,所 持 人(利 得 償 還 請 求 権 者 た るべ き者)の 原 因債 権 は受 取 人 に 対 す る もの で あ って,ド イ ツ法 系 に あ っ ては,所 持 人 と振 出人(利 得 償 還 義務 者 た るべ き者)と の 間 に は実 質 関 係 が そ ん しな い。 した が っ て,振 出人 ・所 持 人 間 の 法 律 関 係 は,振 出 人 ・受 取 人 間 の法 律 関 係 とは 同視 しえ な い。 手形 が 既 存 債務 の 支払 に代 え て授 受 され た ときに は,実 質 関 係 に 立 ち も ど るす べ も
な い。 手形 が既 存 債 務 の支 払 に 代 え て 授 受 され た ときに も,利 得 償 還 請 求 の 考 察 の場 に お い て は,手 形 授 受 後 もな お 既 存 債 務 が 存 続 す る もの と仮 定 し て,問 題 の解 決 を は か ろ うとして も,手 形 が 支 払 の た め に 授 受 され た 時 と同 様 の 困難 に逢 着 す る こ と とな る。 い ず れ にせ よ,利 得償 還 請求 権 な る概 念 を 設 定 し,事 案 に た い し妥当 な解 決 が え られ る よ うに しな けれ ば な らな い。 結 局,経 済 取 引社 会 の通 念 を して不 公 平 と思 わ しめ て い る前 述 の基 礎 的事 実 を 認 識 し,そ の認 識 に 立 脚 して手 形 関 係 と実 質 関 係 との 双 方 を考 慮 し,こ の二 つ を収 敏 す る よ うな 方 向 へ 妥当 な解 決 点 を 見 いだ す よ うに す る とい うほか は な い。具 体 的 問題 の解 決 の場 に おい ては,あ る面 で は手 形 関 係か らの影 響 力 の ほ うを 強 く認 め る こ とが公 平 と考 え られ,あ る面 で は実 質 関 係 か らの影 響 力 のほ うを 強 く認 め る こ とが 公 平 で あ る と考 え られ よ う。
3残 存物 税 の再 検 討
利 得償 還 の制 度 を 以上 の よ うな もの と理 解 す る とき,こ の こ とを別 の面 か ら表 現 して,利 得 償還 請求 権 は,こ れ を 法 律 的 ・形 式 的 に 観 察す れ ば,手 形 法 ・小切 手 法 の認 め た特 別 の請 求 権(手 形 上 の権 利 で は な く手 形 法 上 の権 利)で あ って,そ れ は指 名債 権 の一種 に属 し,ま た,こ れ を経 済 的 ・実 質 的
利得 償還請 求権 の消滅時 効期間(斉 藤)‑149‑
(9)
に 観 察す れ ば,手 形 上 の権 利 の残 存物 な い し変 形 物 で あ る とい うの で あ る。
だ か ら手 形 関 係 か らの影響 力 の 方 を強 く認 め るの が公 平 で あ る と考 え られ る ば あ いに は,当 該 問 題 の解 決 の理 由 づけ を 説 明 して,<利 得償 還 請求 権 は手 形 の変 形 物 で あ るか ら〉 との理 由づ け を す るの で あ る。 この 論理 を逆 に し, す べ て の 問題 の 解 決 に あ た り,<利 得償 還 請 求権 は手 形 の 変 形 物 で あ るか
(10)
ら〉 云 々 と解 す べ きで あ る,と す る解 釈態 度 に は 賛成 す る こ とが で きな い。
④ た とえ ば,利 得償 還 額 は 原 則 と して実 質 関 係 に お い て現 実 に得 た利 益 の 額 で あ って,利 得償 還 請 求 権 が手 形 の残 存 物 な い し変 形 物 で あ る こ とを主 張 す る説 も,利 得償 還 額 は手 形 金 額 と必 ず 同額 で あ る とは いわ な い。 した が っ て,利 得 額 が手 形 金 額 よ り少 額 で あれ ば,も ち ろん,実 際 の利 得額 だけ を 償 還 す れ ば た りる ので あ る(手 形 法85条 「其 ノ受 ケ タル 利 益 ノ限度 二於 テ 償 還 」 と規定 した の は,こ の趣 旨 を 明 示 した もの で あ る)。 手 形 金 額 と同 額
く も
の利 得 を な して い る との推定 は は た らかず,利 得 額 の立 証 責 任 は利 得 償 還 請
ロの
求権 者 が 負担 す るの で あ る。 利 得 償 還 請 求権 が手 形 の残 存 物 な い し変 形 物 た る こ とを もっ て,す べ てを わ りき ろ うとす れ ば,本 来,手 形 金 額 がす なわ ち 利 得 償 還 額で あ る とい うべ き筋 合 で あ ろ う。
利 得 額 が手 形 金 額 よ り多 額 の と きには,償 還 額 に つ い て は手 形 金 額 が 上 限 を 画す る こ とに な ろ う。 債 務 負 担 額 を手形 金 額 に しよ うとの 合意 で,既 存 債 務 の代 物 弁 済 と して 手形 が 授 受 され る こ と もあ ろ うし,ま た,甲(約 手振出 人)一 乙(受 取人)一 丙(所 持人)の ば あ い を 考 え てみ る と,丙 が 乙 に与 え る 対 価 が手 形 金 額 に相 当す る もので あ る とき,甲 の償 還 す べ き額 が手 形 金 額 よ り多 額 で あ る とす る と,丙 は 不 当 に利 得す る こ ととな る。 か か る考 察 を ふ ま え て,利 得 償 還 額 に つ き手形 金 額 が上 限 をか くす べ きで あ る とす る こ との説 明 と して,利 得 償還 請 求 権 は手 形 の残 存 物 な い し変形 物 で あ るか らと述 べ て い るの で あ っ て,〈 利 得 償還 請 求 権 は手 形 の残 存 物 ない し変 形 物 であ る〉 と い うこ とか ら,か か る結 論 を み ち び き出 して い るので は な い 。
⑧ 利 得償 還 義 務 者 は請 求 を 待 っ て履行 遅滞 に お ち い る(義 務 者 と して は
一一150一 商 学 討 究 第18巻 第3号
請 求 され ざ る限 り誰 が権 利 者 な の かわ か らな い)が,そ の さい の遅 延利 息 に つ い ては,利 得 償還 請 求権 は民 事 上 の債 権 で あ るか ら年5分(民404条)まく ヨ た
ユの
は 商事 債 権 に準 じて年6分(商514条)と い うふ うに 一 律 に 論 じえ な い。 金 銭 取 引 の 手 段 た る 手 形 の 法律 関 係 が 消滅 す る こ とに よ り,実 質 関 係 を も含 め す べ て の 法 律 関 係 を 終結 させ て しま うの は,不 都 合 で あ る とい うとこ ろか ら 利 得 償還 請 求権 がみ とめ られ た こ とを考 えれ ば,遅 延利 息 に つ い て は本 来 の 基 本債 務 に立 ちか え っ て,あ るい は年5分 と しあ るい は年6分 とす べ きで あ る。 利 得 の 立証 の段 階 で,基 本債 務 が 民事 か 商事 か は お のず か ら明 らか と さ れ るで あ ろ う。
◎ 履 行 場 所 につ い て は,当 事 者 が 多 数 な る を予定 す る手形 関 係 を 考 慮 し,取 立 債 務 で あ る と解す べ きで あ る。 義 務 者 と しては 誰 に ど こへ 償還 す れ
く め
ぽ よい か 判 然 と しな い で あ ろ うか らで あ る。 この限 りで は手 形 関 係 か らの影 響 を 受 け る とい うべ き こ とに な る。
⑪ 請 求 当 時 に利 益 が現 存 しな くと も(費 消,遺 失 ・粉 失,窃 盗 に よ る と 自己 が費 消 した と,他 人 た とえぽ 会 社 役 員 が 費 消 した とを 問 わ な い)利 得 の 償 還 義 務 を 負 う。利 得 償還 請 求 権 は実 質 関 係 上 の 債権 で は な い が,償 還 義 務 者 の 立場 か らみれ ぽ,償 還 義 務 の 内容 は,も し手形 の 授 受 な か りせ ば依 然 と
して負 っ てい るで あ ろ う実 質関 係 上 の義 務 と近 似 の もの で あ るか ら,一 度 得 た 利 益 を の ち に費 消 して も償 還 義 務 を負 うべ きは 当 然 で あ る(た とえぽ,買 主 が 物 品 を 受領 した の ち,代 金 支払前 に そ の 品 物 を費 消 して しま ったか らと
て,代 金 支 払債 務 を 免 れ る もので は な い)。 この 点 で も,利 得 償還 請 求 権 は 民 法 上 の 不 当利 得返 還 請 求 権 と相 異す る(民703条 参照)。
⑭ 利 得 償 還 義 務 の 内容 は,実 質 的 に は,(手 形 上 の権 利 義 務 以 外 の)実
(星6)
質 関 係 上 の義 務 をい うか ら,融 通手 形 の振 出 人に は 利 得 が あ る とい えず,書
くの
替 手形 に あ って は,旧 手 形 債 務 を免 れ た こ とが 利 得 に あ た るの で は な く,旧
ダ
手 形 につ い て の 原 因関 係 上 で え た 対価 が利 得 とな る。
⑭ 手 形 が贈 与 され た ば あい を 考 え てみ る と,
利得償還請求権の消滅時効期間(斉 藤) 一151‑一
(例)甲(約 手振出人)購 乙(受 取人)一響 を得誕 丙(所 持人)
甲 は手 形 債 務 を まぬ がれ て も利 得 償還 義 務 を 負 わ な い。 現 実贈 与 で 甲が贈 与 した もの(ま た は贈 与 契 約 に よ り無 因 の債 務 を 負担 しそ の履 行 と して給付 した もの)は,短 期 消 滅 時 効 に か か るべ き,金 銭 債 権 を表 彰 す る手形 とい う 客観 的価 値 物 な ので あ るか ら,そ の給付 に よ り甲 は完 全 な給 付 を お えた の で あ っ て(そ の手 形 債 務 の支 払 が な され た か い なか は,贈 与 契 約 とは 無 関 係 な こ とで あ り,そ れ は 一 人,手 形 上 の権 利 義 務 の関 係 で あ る),丙 が 勝 手 に そ の価 値 物 を 消滅 せ しめ た とて,そ れ は 甲 とは な ん ら 関 係 の な い こ とで あ る
くゆ
(民551条1項 本文参照)。 甲が 引受 人 の ば あ い も同様 で あ る。
裏 書 人 乙 も利 得 償還 義 務 を 負わ な い。 なぜ な ら,乙 の財 産 的 増 加 は贈 与 に よっ て生 じた もの で あ って,丙 が手 形 上 の権 利 を 失 権せ しめ た こ とに よ って
く
生 じた もの で は な い か らで あ る。
◎ 手 形 債 務 に 対 す る民 商 法上 の保 証 の効 力 が 利 得 償還 請 求権 に及 ぶ か ど うか の問 題 は,利 得 償還 義 務 者 の問 題 で は な く,保 証 人 の 問題 で あ る。 した が って,保 証 人 の 意 思 が い か な る もので あ った か を まず 判 断 し,そ れ が不 明 のぽ あ い に,保 証 人 の意 思 は,経 済 取 引上,通 常 い か な る もの で あ るか を客 観 的 に 判 断 して解 決 しな けれ ば な らな い。 原 因 債 務 に つ い て 保証 を な した者 は,そ の 後,そ の 原 因債 務 の 支払 に 代 え て約 束 手形 が振 出 され たぽ あい な ど に お い て は,利 得償 還 請 求 権 に つ い て も保 証 をす べ きで あ ろ うが,か か る事 情 の そ ん しな い手 形 債 務 に つ い て の 保 証 人 は,手 形 債 務 に つ い て のみ 保 証 す る意思 しか な く,利 得 償 還 請 求 権 に つ い て まで保 証 す る意 思 は存 しない とい
ゆ り
うべ きで あ ろ う。
手 形 保 証 の ば あ い に も,手 形 保 証 人 は 利 得 償還 請求 権 につ い て まで も保 証 す る との 意思 を 有 しない と考 え られ よ う。
⑪ 手形 の共 同振 出 人 に つ い ては,共 同振 出 人 が連 帯 責 任 を お うと解 し よ うとあ るいは 合 同責 任(手47条1項)を お うと 解 しよ うと,利 得 償還 請 求 権
一152一 商 学 討 究 第18巻 第3号
者 は共 同振 出人 の誰 に た い してで も利 得 の 償還 を 請求 で き(自 己 に 対す る手 形 債 権 が未 だ 消滅 時 効 にか か って い ない 振 出人 は,手 形 債 務 を お って い るか ら利 得 償還 義 務 を お わ な い),責 を 免 れ よ うとす る振 出 人 は,自 分 が な ん ら 利 得 を して い な い こ と,た とえぽ 他 の振 出人 を 保 証 す る 目的 で手 形 行 為 を な
した に す ぎな い こ とを 立証 す べ きで あ る。権 利 者 が,現 実 に共 同振 出人 の う ち で だ れ が い か ほ ど利 得 を え てい るか を,立 証 す る こ とは実 際 上 で きない で あ ろ う。 そ の か ぎ りで は,利 得 償 還 請 求権 は手 形 関 係か らの影 響 を うけ る と 解 せ ざ るを え な い。 これ を説 明 して利 得 償還 請 求 権 は手 形 上 の権 利 の残 存 物 な い し変 形 物 で あ るか らとのべ るので あ る。
以 上 の ご と く,利 得 償 還 請 求権 は 不 公 平(前 述参照)を と りの ぞ くべ く衡 平 の 観 念 に よ って み とめ られ た 権 利 で あ って,そ の 内 容 は上 述 の ご とき もの で あ る。利 得償 還 請求 権 とは なに か とい う質 問 に た い して 答 え る さいに,利 得 償 還 請求 権 とは か くか くのば あ い に は か くか くの 法律 効 果 を生 ず る とい う個 別 的 解 決 の総 体 で あ る,と い うこ とが そ の 一義 的性 質論 を 云 々す る よ りも重 要 で あ る。利 得 償 還 請 求 権 が 衡 平 の 観 念 に に よ り法 律 上 認 め られ た 権利 で あ る とい うこ と以上 に,一 般 的 定 義 づ け を しよ うとす る こ とは あ ま り価 値 が な い とい うべ きで あ ろ う。
も っ と も,利 得 償 還 の制 度 に は 衡 平 の観 念 を 認 め る こ とは で きず,手 形 法 に定 め られ た期 間 内に 権 利 を行 使 す る こ とは 容 易 な ので あ るか ら,適 時 に 取 立 を なす こ とを癬 怠 した 手形 所 掛 人 に,手 形 上 の権 利 の残 存 物 た る利 得 償還 請 求 権 をみ とめ そ の 者 を 保 護す るの は,所 持 人 に たい す る寵 遇 とい うほ か は
(22)
な い,と い う趣 旨を のべ られ てい る学 説 も存 す る。 この説 の根 底 にあ る もの は,手 形 が既 存 債 務 の支 払 のた め に 授 受 され た場 合,原 因債 権 と手形 債 権 と は 同 一 の 目的 を め ざ して い る ので あ るか ら,手 形 の譲 受 人 が 自己 の過 失 に よ って手 形 上 の権 利 を権 利 を消 滅 せ しめ た ときに は,原 因 債 権 も消 滅 す る とい うべ きで あ って,そ の ほか に 手形 上 の権利 が 消滅 した の ち にそ れ が形 を か え て利 得 償 還 請 求 権 と して存 続 す る とい うこ とに は,衡 平 の観 念 を認 め る こ と
利得償還請求権の消滅時効期間(斉 藤) 一一153‑一.一 は で きな い とい うこ との よ うで あ る。
お も うに,被 裏 書 人 が手形 債 権 を 消滅 せ しめ た場 合 に,裏 書 人 に対 す る原 因 債権 も消 滅 す る とい うこ とは 手形 授 受 に よる影 響 の効 果 で あ って,手 形 が 授 受 され な か った 場 合 の,既 存 債権 の本 来 のす がた で は な い 。 そ して,ド イ ツ法 系 に あ って は不 合 理 な 結 果 を 是正 す るた めに,手 形 上 の権 利 とは そ の 法 的 性 質 の ちが う利 得 償還 請 求権 を み とめ てい る もの で,か か る る理 由に よ り み とめ られ た権 利 で あ る と ころか ら,そ れ は 衡 平 の観 念 に も とつ くもので あ
る と称 して い るので あ る。 した が って,か か る事態 を不 公 平 と考 え るか い な か の 価値 観 の相 異 に よ り,事 案 の 解 決 の 方 向づ けが ち が うわ け で,利 得 償還 請 求権 が,あ るいは 衡 平 の 観念 に も とつ くと し,あ るい は衡 平 の観 念 とは 相 容れ な い とす る こ とは,そ の価 値 観 の相 異 に 帰 す る とい え よ う。 ・
(1)説 明 の 便 宜 上,正 確 に は 「手 形 お よび 小 切 手 」 と の べ る べ き 場 合 に つ い て も, 手 形 に 代 表 させ て 説 く と い う意 味 で,た ん に 「手 形 」 と して 表 現 す る。
(2)立 法 経 過 に つ い て は,大 橋 ・新 統 一・手 形 法 論787頁 以 下 参 照 。 (3)VgLFelixMeyer,DasWechselrechtII.S.98,1.S.161ff.
(4)東 京 地 判 昭 和33年1月13日 下 級 民 集9巻1号9頁 参 照 。
わ が 国 旧 商 法 第444条 は 利 得 償 還 義 務 者 中 に 裏 書 人 を 入 れ て い な か っ た が,改 正 に よ り新 し く加 え られ た も の で あ る。
(5)野 津 ・民 商8巻5号882頁,等 々 。
(6)こ こ に7年 の 差 が 生 じ る と した の は,通 常 の 場 合 を 想 定 し て の 立 言 で あ る 。 通 常 は 既 存 債 務 の 弁 済 期 と 同 日 に,手 形 の 満 期 日が き め られ る こ と が 多 い で あ ろ
う。
既 存 債 務 の 弁 済 期 と手 形 の 満 期 日 とが 同 日 で な い 場 合 に お い て,手 形 が 既 存 債
ロ
権 の支払 担保 のためない し支払 確保 のために振 出 され た ときには,債 権 者は既存 債権 と手形債権 とのいずれ を さきに行使 す る ことも自由であ る と解 され てい るか ら,既 存 債権 の消滅時効は既存 債務 の弁済 期か ら進行 し,ま た手形債権 の消滅時 効 は手形 の満期 日か ら進行 し,し たが って時効期間 の差 が7年 ではな くなる。
コ
手形 が既存債務 の支払方法 と してない し支払 のため(狭 義)に 振 出 され た場合 には,ま ず手形債権 を行使 し,し か るのちに既存債権 を行 使 し うる ものと解 され てい るか ら,手 形 の満期が既存 債権 の弁済 期 よ りも早 くて も遅 くて も,時 効期間 に7年(以 上)の 差 が生 じるこ とに な る。既 存債務 の弁済 期 よ りも手形 の満期が
一154一 商 学 討 究 第18巻 第3号
後 の場 合には,既 存債 権 の消滅時 効 の進行 の面では,既 存債 務 の弁 済期は手形 の 満期 よ りも後 日と解 され なけれ ば な らないであ ろ うか らで ある(既 存債 権 を行使 し うるまでは,既 存 債権につ いて の時効 の進行 は休 眠 し,あ るいは停止 レ,ま た は連続的 に中断 され るとの説明 も,こ れ と趣 旨 を 同 じ くす る ものであ ろ う)。手
形 が 支 払 に 代 え て 振 出 され た 場 合 に は,手 形 の 交 付 が 代 物 弁 済 と し て 既 存 債 務 は 消 滅 し て し ま うの で 比 較 す べ く も な い が,こ の 場 合 も,も し既 存 債 務 が 消 滅 し な か っ た と仮 定 して 考 え れ ば,手 形 が 支 払 の た め に 振 出 さ れ た 場 合 に つ き な した と 同 様 な る 考 察 を し う る 。 も っ と も,手 形 当 事 者 が3名 以 上 の 場 合 に は,満 期 前 の 遡 求 とい う こ と も あ っ て,上 述 の ご と く一 律 に は い か な い で あ ろ うが 。
(7)英 米 法 が 手 形 の 時 効 制 度 に つ き,い か に 規 定 して い る か を み て み る と.そ こ で は,手 形 小 切 手 上 の 権 利 に つ き 特 別 の 短 期 時 効 制 度 を 認 め て は お らず,ひ と し く 出 訴 期 限 法(LimitationAct,1939)の 適 用 を うけ,,通 常 の 一 般 債 権 に つ い て と 同 一 の6年 の 時 効 に か か る と さ れ て い る。 た と え ば,引 受 人 ま た は 約 束 手 形 の 振 出 人 に 対 す る 手 形 上 の 権 利 は 満 期 か ら,ま た,一 一覧 払 手 形 に あ っ て は,引 受 人 に つ い て は 支 払 の 呈 示 が あ っ た と き か ら,振 出 人 に つ い て は 振 出 日 か ら,そ れ ぞ れ6年 の 時 効 に か か る。 裏 書 人 ま た は 為 替 手 形 の 振 出 人 に 対 す る 手 形 上 の 権 利 は,こ れ ら の 者 が 引 受 拒 絶 ま た は 支 払 拒 絶 の 通 知 を 受 取 っ た と き か ら6年 の 時 効 に か か る。(SeeD.A.L,Smout,ChalmersonBillsofExchange,13thed.,
pp・322‑328)。 した が っ て,わ が 国 の よ うに は,既 存 債 権 と手 形 債 権 と の 時 効 期 間 の 長 さ の 間 に 差 を 生 じ な い 。
(8)v.JosefHupka,DaseinheitlichewechselrechtederGenfervertrtige (1934),S.147.
(9)利 得 償 還 請 求 権 は 不 法 行 為 ま た は 債 務 不 履 行 に 基 づ く損 害 賠 償 請 求 権 で は な い し(債 務 者 に 故 意,過 失 が あ っ て 権 利 者 に 損 害 を 生 ぜ しめ る 場 合 に あ た ら な い か ら),民 法 上 の 不 当 利 得 返 還 請 求 で も な い(民 法 第703条 の,法 律 上 ノ原 因 ナ ク シ テ,に 該 当 しな い か ら)こ と は 一 般 に 説 明 さ れ て い る と こ ろ で あ る。
ドイ ツ学 説 に お け る 利 得 償 還 請 求 権 の 法 的 性 質 論 の 分 類 は,水 口 ・手 形 法 論 691頁 以 下 に 詳 しい 。
利 得 償 還 請 求 権 を 法 の 認 め た 特 別 の 権 利 と す る 説 と,手 形 の 残 存 物 な い し変 形 物 と す る 説 と に,対 立 し て い る が ご と く解 す る の は 正 当 で は な く,両 老 は 互 い に 次 元 を 異 に す る 。 利 得 償 還 請 求 権 が 手 形 の 残 存 物 な い し変 形 物 で あ る こ と を 強 調 す る 立 場 か ら も,そ れ は 究 極 い か な る権 利 か と 問 わ れ れ ば,手 形 法 の 認 め た 特 別 の 権 利 で あ る と い わ ざ る を え な い で あ ろ う。
法 が 認 め た 特 別 の 請 求 権 で あ る,と い う こ と に つ い て は,竹 田 「利 得 償 還 請 求 権 の 時 効 」 法 学 論 叢10巻1号87〜88頁 参 照 。
利得償還請求権の消滅時効期間(斉 藤) 一155一
⑩ 石 井 ・ジ ュ リス ト229号73頁 参 照 。
(11)大 判 明 治38年10月28日 ・民 録11輯1392頁 。 (1X大 判 大 正6年7月5日 ・民 録23輯1282頁 。
⑯ 京 都 地 判 年 月 日不 明 新 聞961号16頁,福 山 区 判 昭 和2年4月7日 新 聞2691号 9頁,仙 台 地 判 昭 和6年6月4日 新 聞3304号12頁,東 京 地 判 昭 和10年1月31 日評 論24巻 商 法588頁 。
⑳ 鴻 ・前 掲 論 文189頁 。
㈲ 浜 田 ・前 掲 論 文159頁 参 照 。
(16)東 京 控 判 年 月 日不 明 新 聞37号7頁 。
⑳ 大 判 明 治40年1月26日 民 録13輯20頁 。
㈱ 大 判 大 正4年10月26日 民 録21輯1775頁,大 判 大 正5年1月31日 民 録22輯 99頁 。
(19)納 富 「手 形 の 利 得 償 還 請 求 権 」 法 学 論 叢35巻1142頁 註16,及 び 大 浜 ・前 掲 145頁 参 照 。
(eo)鴻 ・前 掲173頁,浜 田 ・前 掲146頁 。
⑳ か か る 意 味 で,東 京 地 八 王 子 支 部 判 昭 和33年3月28日 下 級 民 集9巻3号533 頁 の 所 論 に は 賛 成 しな い 。 山 村 「保 証 債 務 の 範 囲 と 利 得 償 還 請 求 権 」 手 形 研 究 46号13頁 参 照 。
㈱Wieland,DerWechselu,seinezivilrech七lichenGrundlagen,S.44ff.
四 消滅 時 効 の起 算 点
利 得 償 還 請 求権 の 消滅 時効 期 間 が,そ の法 的 性 質 論 か ら直接 には み ち び き えず,制 度 論 か らお して 妥 当 な解 釈 をす るほ か ない とすれ ば,こ こに 時 効 の 起 算 点が 重 要 な問 題 に な る。 これ は利 得 償 還 請 求 権 が い つ いか な るば あ い に 発 生 す るか にか か る問 題 で あ る。
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払 の た め に 払 に代 え て